この作品は、Team Salvato制作のビジュアルノベルゲーム、『Doki Doki Literature Club!(ドキドキ文芸部!)』を題材とした二次創作作品です。
この作品はお子様や精神を乱されやすい方には向いておりません。
『Doki Doki Literature Club!』本編とは一切関係はありません。
また、一部描写・設定が改変されています。
以上にご理解頂ける方のみ、ご覧くださいませ。
「まさか、こんなトンチキがやってくるなんてね!」
椅子にもたれかかり、踏まれた足を両手で押さえながら、俺は悪態を吐く少女を睨みつける。
彼女はこちらの視線に気付くと、ふんっと鼻を鳴らしながらそっぽを向く。
全く……なんて暴れ馬を飼っているんだこの部活は。
「まるで怪獣だな」
「なんですってぇ!?」
「ち、ちょちょちょ!! 落ち着いてふたりとも〜!!」
保健室へ救急箱を借りに行っていたサヨリが戻ってきたようで、痛みも忘れて桃色髪の小悪魔と取っ組み合いをしている俺を制止する。
その様子を見て、ユリは慌てふためいているが、モニカは笑顔のままじっとこちらを見つめていた。
「ナツキちゃん、私の友達を虐めないで!」
「うっ……ふんっ!」
サヨリに叱られた"ナツキ"と呼ばれた少女は、腕を組みながらまたそっぽを向いてしまう。
どうやらナツキもサヨリと仲が良いようだ。サヨリの言う事には逆らえないらしい。
サヨリはこちらに向き直って、ナツキの代わりといわんばかりに頭を下げる。
「ご、ごめんね! 救急箱借りてきたから、私が診てあげるよ。ほら、座って?」
サヨリは俺に、近くの椅子に座るように促す。
俺はそれに従って、椅子に座って靴を脱いで足を上げる。
靴下をずらし足の甲を見ると、真っ赤に腫れ上がっていた。
やっぱり怪獣じゃないか、このパワー……。
サヨリは救急箱の中から湿布を取り出し、俺の足の甲に丁寧に貼り付ける。
「——っ」
「ごめんね、我慢してね。……もー、君も悪いんだからね? ナツキちゃん、気にしてるんだから」
「しょうがないだろ、真面目に気付かなかったんだから。いてっ」
湿布の上に少し強めにテーピングが巻かれていく。
俺の痛がる様子を見て、嘲笑うかのように「はっ」と鼻を鳴らすナツキ。
「大袈裟ね。見た目通りの軟弱者」
「なんだと? 見た目に反した馬鹿力しやがって。この怪獣」
「だーかーらー! 喧嘩しないの、もー!」
サユリは俺を窘め、一方ナツキはユリに窘められている。
「ナツキちゃん。せっかく来てくださったんですから、もう許してあげてください。彼も悪気があったわけではないと思います……」
確かめるように、ユリは俺の方を向く。
サヨリも、後片付けをしながらこちらを見やる。サヨリは珍しく割と本気で怒っているようだ。
確かに俺にも非はあったわけだ、謝らなければならないだろう。
少しふざけ過ぎたかな……。
「……わかった、謝るよ。悪かった、えっと——ナツキで、いいのか?」
「……分かればいいのよ、分かれば」
相変わらずナツキはふくれっ面でそっぽを向いている。
そんなナツキのもとへ、サヨリが歩み寄る。
まるで子供に躾けるかの如く、彼女はナツキを諭す。
「ナツキちゃんも。足踏んじゃったこと、謝らなきゃ。すっごく痛かったと思うよ?」
「うっ……」
ナツキが気まずそうにこちらに寄ってくる。
彼女はひとつ溜め息をついた後、俺に頭を下げる。
「……悪かったわ。足、踏んじゃって」
「いいよ別に。……これでおあいこな」
彼女は何を言うでもなくまたくるっと振り返り、先程まで座っていた席の方に戻ろうとする。
しかし、それをモニカが制止する。
「こらこら、何処へ行くの? 彼に自己紹介しないと。今のままだとあなた、彼からの第一印象最悪よ?」
「そ、それはモニカには関係なくない!? 変なこと言わないでよね!」
モニカはナツキの反応にくすくすと笑いながら、俺の方へとやってくる。
「今からみんなで集まって改めて自己紹介の時間を設けようと思うのだけど、どうかしら?」
「あ、ああ。いいんじゃないか?」
「よかった。じゃあ急いで準備するわね。待っててちょうだい」
彼女ははにかみ、くるりと振り返るとサヨリたちに机の準備をするように呼びかける。
彼女らしい、無駄のない的確な指示。
さっきから感心してばかりだが、やはり流石モニカと言わざるを得ない。
サヨリたちが机の準備をしている中、モニカはまたこちらに顔を向ける。
「そういえば——」
あなた、ここ最近で大分変わったのね。
見違えたようによく喋るようになったし、感情豊かになったって感じがするわ。
何か、あったのかしら?
「そうか? あんまり変わってないかと思うんだが。いつも通りだよ、俺は」
「……そう、なら私の勘違いかしら。変なこと言ってごめんなさいね」
モニカはそう言うと、また机を運ぶ作業に戻る。
何故か、俺の背中から冷や汗が垂れる。
なんの変哲も無い、ただのちょっとした質問だったはずだが……。
何故こんなにも、俺は焦り出しているんだろうか。
ざわつく心を落ち着かせる為にモニカから視線を外し、着々と準備を進める部員たちを見回す。
ユリは、備え付けられている棚から電気ケトルと人数分のカップを取り出す。
すごいな、そんなものまで完備されているのかこの部活……。
感心しながらユリを見つめていると、俺の視線に気づいたのか、おずおずと話し出す。
「大丈夫です。先生方には許可を頂いていますから」
「ああ、そうなのか。まあ確かに、ただ本読んでるだけじゃ、口が寂しくなったりしてくるしな」
俺の言葉に、ユリは少し驚くような素振りを見せるが、コクリと頷く。
そこまで驚くような事、俺言ったかな。
俺も漫画やラノベを読むときは、隣に菓子やらジュースやらを用意してからにしてるし。
「そ、そうなんです。え、えっと……よく御本を読まれるのですか?」
「え? あ、ああ、まあ、多少は……?」
俺は少し言葉を濁す。
しまった……ここが『文芸部』だという事をすっかり忘れてしまっていた。
ここで尻尾を掴まれてしまっては——!
「ど、どのようなものを読まれてるのですか?」
一番されたくない質問が、ユリの口から飛び出す。
ああ……終わった。きっと誤魔化せない。誤魔化したところできっとバレてしまうだろう。
相手は文学少女を絵に描いたような雰囲気の少女だ。
絶対に文学の世界の深淵に片足を突っ込んでるタイプに違いない。
そんな文学ガチ勢相手を誤魔化せるほど、俺は頭の回転はよくないし、知識も微塵もない。
白状するしかないだろう……。
「あー、えっとその……ま、漫画を少々……? あはは——」
俺とユリの間の空気が凍りつくのを感じる。
ユリの顔は、なんとも言い難い微妙なものだとた。
まあ妥当な反応だろう。
「そ、そうなんですね……えっと……」
「だ、だがこれから変化の余地があるかもしれない!」
何を言ってるんだ俺は。
焦りすぎて少し日本語おかしくなってるし。
何か上手い言い訳を考えようと思考を巡らせようとしたとき、ふと視界の端にナツキの姿が映る。
そちらに目を向けると、ナツキは慌てて視線を逸らし、準備に戻る。
なんであいつ、こっちを向いていたんだ……?
話を聞いて、また俺のこと馬鹿にして……という雰囲気でもなかったな。
どちらかというと、何処か期待のような眼差しを感じたような……?
いや、あいつに限ってそれはないか。
「——それなら、ナツキちゃんとはお話が合うかもしれませんね」
「え?」
ユリは微笑みながらナツキのいる方を向く。
ナツキと話が合うってことは、あいつも漫画が好きなのだろうか?
それなら見た目通り、可愛い奴じゃないか。
そうふと思ってしまった。
「そうだ、水を汲んでこようと思ってたんでした。すいません、少し失礼しますね」
「ん、ああ。気をつけてな」
ユリは俺に一礼してから、廊下へと出て行く。
彼女を見送った後、俺はナツキを目で追いかける。
ナツキは彼女の取り出した袋の中から、カップケーキを出し、サヨリと一緒に大きな皿の上に並べている。
カップケーキを作ってきてくれたのは、ナツキだったのか。
なんだか悪い事をしてしまったな。
そう思いながら2人の様子を眺めていると、サヨリは皿の中からカップケーキをひとつ取り、つまみ食いを始める。
「ん〜〜〜!! 今日のカップケーキはいつも以上にすっごく美味しいよ、ナツキちゃん!?」
「あ、あんたねえ。嬉しいけど、つまみ食いなんて行儀悪い事しないでよね!」
「え、あ! えへへ〜、つ、つい〜!」
先程とは打って変わって、サヨリとナツキの立場が逆転している。
側から見たら仲のいい姉妹みたいだ。
……まあ、あいつも悪い奴じゃないのかもしれないな。
スイーツ作りに漫画が趣味——女の子らしい趣味で大変よろしい。
可愛いところもあるじゃないか。
ユリが水の入ったケトルを持って戻ってくる。
そして湯を沸かし、それぞれのカップに紅茶のパックを入れていく。
その上から湯を注ぎ、人数分の紅茶をつくる。
カップケーキと紅茶のいい香りで、部室中が満たされる。
並べられた机の上に、カップケーキと紅茶が置かれていく。
そして、自己紹介の場は部員たちの手で整えられたのだった。
俺はサヨリの隣の席に座る。
サヨリの向かいにはユリが、そして俺の向かいにはナツキが座っている。
ナツキは、腕を組みながらそっぽを向いている。
意を決してナツキに何か話しかけてみようかとも思ったが、俺にはそんな勇気もなく。
俺が言葉に詰まっているうちに、モニカは俺たちに向かって言い放つ。
「さて、じゃあまずは改めて自己紹介から始めましょうか! まずは手本として私からね」
そう言ってモニカを筆頭に彼女たちは、各々の自己紹介をし始めた。
何故文芸部に所属しようとしたのか。どんな本が好みなのか。
他にも色々と、彼女たちは思うがままに自分の事を話す。
そうしてどんどん順番が回ってきて、ナツキの番になる。
「……こ、こほん。あたしの名前はナツキ。1年生よ」
そうかもとは思っていたがやっぱり年下かよ。
彼女は自己紹介というものに慣れていないのか、指を絡めてもじもじしながら話し続ける。
先程の威勢は何処へいったのだろうか。
「文芸部に入ったのはまあ、モニカに誘われたっていうのもあるけど、ここなら落ち着いて放課後を過ごせそうかなって思ったからって、それだけよ」
「なんだよ、友達いないのか?」
「い、居るわよ!! やっぱり失礼なやつね!!」
「悪かった悪かった。なあ、ところでナツキは漫画が好きなのか?」
「んにゃっ!?」
突然の切り込みに驚いたようで、ナツキはおかしな声をあげる。
少し踏み込みすぎたかと思ったが、反応が面白可笑しかったのでそのまま続けることにする。
「このカップケーキも、ナツキが作ってくれたんだろ? 俺も食べてもいいか?」
彼女の反応を待たず、俺はカップケーキに手を伸ばす。
「——べ」
「ん?」
手が止まる。彼女の顔を覗き込むと、ふるふると震えて口を魚のようにパクパクさせていた。
ま、まさかこの展開は——古のオタクなら誰しもが目にしたことのある『伝説』の!?
「べ、別にあんたの為に作ったわけじゃないんだからっ!! し、新入部員が来るって聞いてその、作っただけで!! その、そういうんじゃないんだから、バカっ!!」
ん"〜〜〜。
清々しい程の『ツンデレ文法』であった。
まさかこの時代にまだ、純正のツンデレ少女が生き残っていたとは……。
俺は口元に手を添え、涙を流す。
「え、だ、大丈夫!? まだ足が痛むの!?」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ、サヨリ。これは感動の涙なんだ」
「そ、そうなの?」
サヨリは訳もわからずといった様子で、俺の涙をハンカチで拭き取っている。
ユリも困惑していたが、何処か楽しそうだ。
モニカは、訝しげな顔で辺りを見回していた。
何か落としたのだろうか?
聞く前に両手の甲に顎を乗せて、俺たちの方に微笑えみながら向き直る。
改めてカップケーキを手に取る。
ナツキは、俺の様子をジッと見つめている。俺の感想でも待っているのだろうか。
なんだか彼女の事を愛らしく感じてくる。
って、俺は何を初対面の女子、しかも年下に感じているんだ!?
頭の雑念を振り払うように、俺はカップケーキを口に運ぶ。
「——美味い」
「でしょー? 私もナツキちゃんがたまに作ってくれるお菓子が大好きなの!!」
サヨリは誇らし気に、これまで食べてきたナツキのお菓子の思い出について語り出す。
カップケーキだけでなく、他にも色々なお菓子を作っているようだ。
ナツキは髪を弄り、顔を紅潮させながら「ま、まあこれくらいなんてことないわよ!」と、自慢げな口調で語る。
こんなに美味しいものを作ってきてくれたんだ。
彼女にはお礼を言わなければならないだろう。
俺は改めてナツキに向き直り、彼女の手を握る。
「ありがとう、ナツキ。俺こんな美味いカップケーキ食べたの初めてだ。本当に上手なんだな、お菓子作り」
刹那。バシィンと、大きな音が部室に響き渡る。
ナツキの手が、俺の右頰を思い切り引っ叩いた音だった。
「こ、こ、こ、このバカ!!!! 変態!! スケベ!! ロリコン!!!!」
全く。この世というのは本当に理不尽の塊だ、と改めて思い知らされながら、俺は衝撃で椅子から転げ落ちたのだった。