この作品は、Team Salvato制作のビジュアルノベルゲーム、『DokiDokiLiteratureClub!(ドキドキ文芸部!)』を題材とした二次創作作品です。
この作品はお子様や精神を乱されやすい方には向いておりません。
『DokiDokiLiteratureClub!』本編とは一切関係はありません。
また、一部描写・設定が改変されています。
以上にご理解頂ける方のみ、ご覧くださいませ。
「あれは君が悪いよ~! 急に女の子の手を握るなんて!」
既に日が落ちかけている帰り道。
今日の部活について、俺はサヨリと反省会をしながら帰路についていた。
「あれは俺なりの、こう、スキンシップの取り方というか。悪くない案だと思ったんだがなあ」
ぶたれた頰をさすりながら、俺は肩を落とす。
「仲良くしようとする気持ちはすっごく良いと思うよ~! これから一緒の時間を共有していく仲間なんだからね~。ただ、もうちょっと女の子の扱いを見直してみるといいかもしれないね?」
――そう。あの後、俺は紆余曲折あって、文芸部へと入部することとなった。
嫌々ではない、望んで入部したのだ。
だって、こんなに美味しい条件、他にないじゃないか。
部員は俺以外、美少女ばかりの天国のような部活だ。
上手くやれば、誰かと親密な関係にだって――。
「なんか、いやらしい顔してる」
「笑顔もイケメンだろ?」
「はいはい~、そだね~」
サヨリは所在なさげに返事をする。
サヨリとは長い付き合いだからこそ、こういった冗談も言える。
親密な関係といえば、こいつとの関係も似たようなものかもしれない。
いつも一緒に遊んでいたあの頃をふと思い返す。
まるで妹のような存在だったサヨリ。
今は歳のせいもあってか、俺の方から若干壁を作ってしまっているところもあるが……。
「――似てるな」
「ん? なんの話?」
「いや、ナツキがさ、小さい時のお前とそっくりだなあと思って。性格は全然違うけど、どこかこう、人懐っこさがあるというか」
ナツキの手を握ってしまったのも、昔のサヨリの面影と重ねてしまった部分があるからなのかもしれない。
「えへへ~。確かにナツキちゃんはいっつもツンツンしてるけど、素直に喜んだり、すっごく寂しがり屋さんになったりするときもあるねぇ! 君が惹かれる理由も分かるよ~、うんうん」
「惹かれ……!? お、おいサヨリ。お前何か勘違いしてないか?」
「さ~て、なんのことやら~」
サヨリは悪戯に笑って、俺の先を小走りする。
全く、おかしな事を言いだす奴だ。
俺がナツキに惹かれているだって……?
それはあり得ないだろう。
確かにナツキは見事なツンデレ属性を保有している。
それだけでも十分魅力的だと言えるだろう。
しかし、彼女はまだ原石に過ぎない。
ちゃんと女性として見るには、彼女は幾分か幼すぎる。
そしてもちろんだが、俺にはロリコンの気は全く無い。
但し二次元を除く。
以上の事から、今俺がナツキに抱いているこの想いは、『父性』だとかそういう感じのものだと思う。
ナツキの事を、どこか放ってはおけない存在だと思っているのは事実だしな。
そんな事を考えているうちに、俺たちはそれぞれの家の前まで辿り着く。
サヨリの家は俺の家の隣だ。
彼女と幼馴染なのは、ご近所付き合いもあってというのもある。
もちろんそれだけじゃないが。
サヨリは小さい頃、イジメに遭っていた。
物を隠されたりだとか、口にするのも憚られるような汚い言葉を浴びせられたりだとか。
俺はサヨリのそんな境遇に我慢出来ず、サヨリを自分の出来る範囲で守ろうとした。
――しかし、今となっては、サヨリもあの頃と比べて、気が抜けている所はまだあるものの、文芸部の副部長に選ばれる程のしっかり者になったし、俺が逆に助けられる事だってある。
……だからかもしれないな、俺がサヨリを何処か避けるようになってしまったのは。
「じゃね、また明日! 部活の『宿題』、忘れないでね!」
「あ……すっかり忘れてた。そういえばそんな話もしてたっけ。詩を書けば良いんだよな?」
モニカから自己紹介タイムの最後に、俺たちに『宿題』を与えられた。
ナツキが、普段から詩を書いているという話から発展したものなのだが、部員同士の親睦を深める為に、全員が次回の部活までに自作の『詩』を書いてきて、互いに見せ合うといった、如何にも文芸部らしいイベントを行おうと提案してきたのだ。
俺は詩など書いたことはないので、初っ端からハードルが高すぎると抗議したのだが、サヨリの手によって窘められ、結局参加することになったのだった。
「そだよ~。大切な事だから忘れないでね! もし忘れたら、モニカすっごく怒ると思うよ~?」
そう言いながら手を振って、サヨリは自分の家の門へ手を掛ける。
――モニカか。
そうだ。サヨリならモニカが言っていた事の意味が分かるかもしれない。
今の俺を一番近くで見ていてくれてる人間だしな。
俺は意を決して、サヨリを呼び止める。
「なあ、サヨリ」
「ん、どしたの? 部活のことで何か分からない事でもあった?」
「いや、その、あんまり大したことじゃないんだが」
俺の煮え切らない態度に、サヨリは首を傾げる。
「……何か悩み事?」
「いや、そうじゃない。その……俺って最近、変わったりしたかな? こう、雰囲気的なものが」
彼女は呆気にとられたような顔をしてから、ケラケラと笑う。
こっちは真面目に聞いてるんだが……少し傷付くな。
サヨリは一頻り笑い終わった後、目元を拭って口を開く。
「いや~ごめんごめん! そんなナイーブな質問をしてくるとは思わなかったから、つい!」
「お前は人をなんだと思ってるんだ」
「えへへ。……んー、変わったかあ。まあ確かに、前と比べて変わった所はあるかもしれないね」
「ん、例えば?」
「そだねえ……前に比べてすっごく大人しくなっちゃった! よく言えばクールになったって感じかな?」
クールになった、か。
そんなつもりは全然無かったんだが。
まあ、確かに人付き合いは控える方だし、付き合いの多いサヨリから見てみれば、そういう風に映るのかもしれないな。
「ふーん……ちなみに悪く言うと?」
「んー、無愛想! 全然構ってくれなくなっちゃったから私は悲しいよ~、ヨヨヨ~!」
「それ、いつの時代の嘘泣きだよ」
やれやれ、と俺は大きな溜め息を吐く。
しかし、サヨリの言う『変わった』と、モニカの言う『変わった』はどこか違うような気がする。
モニカは一体、俺のどこを見て『変わった』と言ったのだろうか?
「でも、今日の姿を見て何だか安心しちゃった」
サヨリが不意に口を開く。
「文芸部で楽しそうにしてる君を見て、心の底から『誘ってよかった』って思ったんだ、私」
「ん、そ、そうか? まあ、実際楽しかったよ。ありがとな、部活に誘ってくれて」
俺の感謝の言葉に、彼女は頰を紅潮させ、身動ぐ素振りを見せる。
「え……えへへ~! いやあ照れちゃうなあ! 明日の部活も、楽しみにしてるからね。じゃね!」
彼女はまた俺に手を振って、顔を伏せながら小走りで自分の家へと入っていく。
全く、忙しないやつだ。
ふわりと東の方角から、風が吹いてくる。
昼は暖かいが、夜の風はまだまだ冷たい。
これ以上外に居たら風邪を引いてしまうかもしれない。
「……さむ、家入ろ」
俺も小走りで自宅へと駆け込む。
太陽は沈み、仄かに青黒く染まった夜空には、微かに、だが確かに輝く一番星が、静かにこの街を見下ろしていた。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
その日の夜、俺は不気味な夢を見た。
真っ暗な空間の中に、俺は座り込んで佇んでいた。
辺りは『0』と『1』の数字が無数に漂い、現れては消え、現れては消えを繰り返していた。
目の前には奇妙な仮面を着け、黒いコートを纏った人物が立っている。
背丈から見て、俺より身長は低い。女性……または子供だろうか。
そいつは、視線こそ仮面に覆われて分からないものの、確実にこちらを見つめていた。
まるで品定めをするかのように。
「あんた――誰だ?」
そいつは俺が言葉を発したのに驚いたのか、咄嗟に身構えるが、俺が動かないでいると、ひとつ溜め息をついて、身構えるのをやめる。
そして、俺の目の前に右手を差し出す。
差し出した手の平が眩く光り、そこに一片の紙が現れる。
「これは……?」
俺は差し出された紙を受け取り、目を通す。
そこには、詩のようなものが記されていた。
――愚かなりし探求者よ。
――まずは、記憶へと辿り着け。
――これは、悲哀のはじまりに過ぎず。
――雨雲はすべてを洗い流す。
――愛を求めし者の、日没のときは近い。
――君たちの幸福を祈る、観測者から。
――サルバトの星より、遠いようで近いところに在る君たちへ。
いつの間にか、謎の人物は消えていた。
辺りを見回して捜しだそうとするが、徐々に視界がぼやけていき――。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
眩い光を感じて、俺は目を覚ます。
寝ぼけ眼をこすり、制服へと着替えた覚束ない足取りで階下へと向かう。
洗面所で顔を洗い、容姿を整えてから台所に向かう。
買い置きしてあった食パンと、冷蔵庫から適当な材料を取り出し、手早くサンドイッチを作る。
そして、ふと先ほどの夢を思い返す。
しかし、おかしな夢を見たものだ。
あんな夢を見たのは初めてだ。
薄暗く、不気味で――そしてどこか儚さのようなものを感じる世界。
仮面を被り、全身黒ずくめのコートを纏った人物。
そして、黒コートから渡された意味深な詩。
あの詩は、一体何だったんだろう。
まだ微かに、手の平の中に紙の感触が残っている感じがする。
「――もしかして」
握っていた包丁を放り出して、俺は二階へと駆け上がる。
そして、自室のドアを乱暴に開け放ち、ベッドに敷かれている毛布を放る。
そこには――何もなかった。
紙の一枚だって、落ちてやしない。
「……何やってんだろ、俺」
俺は頭をボリボリと掻いて、台所へと戻るために自室のドアに手を掛ける。
俺が見たものは所詮は夢であり、あの詩にもなんの意味もない、俺の脳が勝手に整理した何かの情報に過ぎない――。
そこまで考えた事で、ふと昨日の事を思い出す。
「あ――『宿題』、やってねえーーーっ!?」
あの夢の意味は、俺に『宿題』を思い出させる為のものだったらしい……。
俺は階段を一気に駆け下り、サンドイッチを急いで作り上げる。
形は少々歪だが、食えないことはない。
そんなことより、今は詩を早急に書きあげなければ。
しかし、全く題材が思いつかない。
サンドイッチを頬張りながら、真っ白な紙の前に座り尽くす。
「いや待てよ……昨日の夢の詩をそのまま丸パクリすれば良いんじゃないか? 俺の夢の中に出てきたものなんだし、実質著作権は俺にあるはずだ」
謎理論を展開しながら、俺は筆をとり、用紙へと昨日の夢の詩を書いていく。
書いていると、何故かナツキの顔が思い浮かんでくる。
なんとなくエモみもあるし、キュートな感じではないにしろ、ナツキが気に入ってくれそうな文章になったと思う。
そして書き終えてから、見慣れない単語に気が付く。
『サルバトの星』……聞いたこともない名前だ。
スマートフォンを取り出して、検索をしてみるがヒットするのは『すのこベッド』に付けられた『サルバト』という名前だ。
「……すのこで出来た星?」
なんかもうよくわからんので、深くは考えないようにした。
カッコいい名前だし、みんなそれっぽくスルーしてくれるだろう。
俺は用紙を鞄に突っ込む。
時計を見ると、既にいつもの登校時間を指していた。
俺は深呼吸をして、玄関の扉を開く。
――新しい一日の、幕が上がる。
[Guidance.inf]
愚かなりし探求者よ。
まずは、記憶へと辿り着け。
これは、悲哀のはじまりに過ぎず。
雨雲はすべてを洗い流す。
愛を求めし者の、日没のときは近い。
君たちの幸福を祈る、観測者から。
サルバトの星より、遠いようで近いところに在る君たちへ。
これは――記録ではない。