この作品は、Team Salvato制作のビジュアルノベルゲーム、『DokiDokiLiteratureClub!(ドキドキ文芸部!)』を題材とした二次創作作品です。
この作品はお子様や精神を乱されやすい方には向いておりません。
『DokiDokiLiteratureClub!』本編とは一切関係はありません。
また、一部描写・設定が改変されています。
以上にご理解頂ける方のみ、ご覧くださいませ。
日が傾き出し、その日最後の授業が終わる。
そして、待ちに待った放課後がやってくる。
俺が荷物を整えていると、教室のドアがノックされる。
ドアの隙間から顔を覗かせているのはサヨリだ。
「サヨリ? 先に行ったかと思ってたよ」
「隣のクラスだし、ひとりで行くのもなんだかつまんないから待ってたの!」
「なんだそれ。三階なんてすぐじゃないか」
「わかってないなあ、もう」
サヨリはそう言うと、俺の側まで寄ってくると、早く行こうと言わんばかりに腕を引っ張る。
「ま、待てって。わかったから腕を引っ張るなよ!」
俺は為す術もなく、サヨリに連れられて文芸部へと足を運ぶ。
部室の中へ入ると、既にユリとナツキが居た。
ユリは、席について分厚い本に食らいつく様に目を通していたが、こちらに気が付いたのか会釈をしながら立ち上がる。
「こんにちは。今日もサヨリさんと一緒に来られたのですね」
「いや、腕を掴まれて護送される囚人が如く、半強制的に連行された」
「もうちょっと言い方ってものがあると、私思うな~」
サヨリは口を尖らせ、反論するようにこちらを見ている。
そんなサヨリの視線を受け止めつつ、俺はナツキのいる方へ視線を移す。
ナツキは、教室の奥にあるクローゼットの中でゴソゴソと音をたてながら何かをしている。
「ナツキは奥で何をやってるんだ?」
「ああ、あの中にはナツキさんが集めてる漫画が揃ってるんですよ」
「ナツキちゃんって凄い几帳面でね。なんだっけ、きっちり順番を揃えて並べないと、『美しくない』らしいよ?」
「あぁ……」
よく居る几帳面なオタクだ……。
必ず順番通りに整理整頓して、並べられているグッズの列を見てうっとりしちゃうタイプの……。
ナツキが漫画好きなのは本当らしいな……。
「おーい、ナツキ。俺も整理手伝おうか?」
「――な、何? 来てたの!? 早く言いなさいよね!」
俺はサヨリとユリに目をやり、やれやれとポーズをとる。
サヨリもユリも、ナツキの方へと目をやり、クスクスと笑う。
「ちょっと行ってくる。モニカが来たら、伝言よろしくな」
「分かりました。……そういえば、モニカさんはまだいらしてませんね」
「ホントだね。モニカちゃんが遅刻なんて珍しいなあ」
二人の会話を耳にしながら、俺はクローゼットの方へと向かう。
クローゼットの中では、ナツキが梯子に足を掛けながら蔵書の整理をしていた。
ラック毎に違う作品が納められているようで、その数は少なくはない。
ナツキはその中のひとつ、『パフェ・ガールズ』の納められているラックを、独り言を呟きながら整理をしていた。
「まったく、モニカのやつ。人の物くらい、ちゃんとした場所に返しなさいよね。あーもう、これも違う……」
「大丈夫か? ナツキ」
「――っ!?」
俺の声に驚いたのか、跳ね上がるように身体を揺らし、こちらに振り向く。
驚く様は、猫のように愛らしい姿でつい微笑んでしまう。
「だ、だから居るんだったら言いなさいよ! いきなり声をかけられたらびっくりするでしょ!?」
「ああ、だから今かけたんだが……」
ナツキはその言葉に口を尖らせ、梯子を降りてくる。
「しかし、沢山あるんだな。――これは?」
俺はたまたま近くにあったラックから、適当に漫画を引っ張る。
それは『パフェ・ガールズ』という題名の、見覚えのある漫画だった。
所謂『萌え』系の絵の漫画だが女子からの人気が高く、サヨリも昔は読んでいた覚えがある。
「『パフェ・ガールズ』か、懐かしいな。サヨリが小さい頃に読んでたんだ」
「知ってるわよ。サヨリに押し付けられたんだから、それ」
そう言いながら、ナツキは俺の手から『パフェ・ガールズ』をひったくり、ラックに納める。
どうやら俺が偶然手にとったものは、ナツキが探していた巻だったらしい。
「これでよしっと……ほんの一つでも欠けてたらどうも気になって仕方ないのよね」
「本当に漫画が好きなんだな。ここにあるのは全部ナツキのものか?」
「まあね、『パフェ・ガールズ』みたいに貰い物もあるけど。あんたも漫画好きなんでしょ?」
「ああ、好きだぞ。こいつは読んだことないけど。女の子の読む漫画だろ、これ」
ナツキはニヤリと笑う。
「まだまだひよっこね。これは文芸部の『先輩』として、レクチャーが必要かしら?」
「ほう……ナツキ先輩のドキドキ個人指導か」
俺の妙な言い回しに、ナツキは眉をひそめるが、コホンと咳払いをして気を取り直す。
「――良い? 表紙だけ見て女の子が読むものだと決めつけるなんて、安直すぎるにも程があるわ」
「まあ、確かにな。大きなお友達たちにも受けそうな絵柄はしてるし」
「それを安直って言ってるのよ? まあ、それはともかく……ほら」
ナツキはラックから『パフェ・ガールズ』の1巻を取り出し、俺に手渡してくる。
表紙にはアニメ調のカラフルな衣装を纏った女の子が4人と、真ん中には女の子たちに囲まれた1人の男の子が描かれている。
俺が最後にサヨリから『パフェ・ガールズ』の表紙を見せられたときに、男の子のキャラクターなんて居たっけかな……?
まあだいぶ古い記憶だから、抜けがあってもおかしくはないだろう。
「ほら、行くわよ」
「行くって、どこに――ちょちょちょ、待てって」
俺はナツキに腕を引っ張られ、クローゼットから引き抜かれる。
今日はなんだか他人に引っ張りだこにされっぱなしな気がする。
クローゼットの外に出ると、机の上に書き置きがしてあった。
『モニカさんがなかなか来ないので、サヨリさんと一緒に校内を捜してきます』
クローゼットに入ってからそれなりに時間は経っているはずだが……モニカは一体どうしたというのだろう?
ナツキも書き置きを覗き込んで、「珍しいわね」と眉をひそめる。
「これで俺たちも捜しに行ったら入れ違いになるかもしれないな。サヨリたちには悪いけど、任せるか」
「そうね。それに――」
ナツキは日の当たる窓際の壁を背に床に座り込み、隣の床をポンポンと叩く。
『座れ』という合図らしい。
「床に座るのか? 掃除してるとはいえ汚いし、椅子に座って見たほうが良くないか」
「いいから、先輩の指示には素直に従うものよ。それに、椅子に座ったら一緒に読めないじゃないの」
「そういうもんか。まあ確かにこうした方が、ナツキ先輩も近くて読みやすいな」
ナツキはカッと耳を紅潮させ、サッと距離をとる。
「なんだ、一緒に読まないのか? ナツキ先輩」
「う、うっさいわね! ちょっと忘れ物したから取ってくるだけよ!」
そう言って、ナツキはクローゼットの中に引っ込んでしまう。
仕方がない。せっかくのナツキ先輩イチオシの漫画だ。戻ってくるまで一人で読み耽るとしよう……。
俺は『パフェ・ガールズ』第1巻を開く。
『パフェ・ガールズ』とは、"ミノリ"という少女率いる女子学生4人組が主軸となって進むギャグ調の漫画らしい。
最初の頃は一話完結の短くてクスっとくる雰囲気だったが――。
「ここからが『パフェ・ガールズ』の本番よ」
いつの間にか隣に居たナツキが、丁度第1巻の終盤――7話に話が差し掛かった時、あるコマに指を指す。
そのコマは、表紙に描かれていた男の子が一番最初に登場するところだった。
女子学生4人は、瞬く間にその男の子に一目惚れしてしまう。
「な、なんだこの超展開は……」
「そう思うでしょ? でもこれには実は訳があってね――」
「おっと、何か裏設定があるんだったら内緒にしててくれ。ネタバレは滅茶苦茶気にするタイプなんだ。ナツキもだろ?」
ナツキはハッとした後、腕を組んで目を逸らす。
多分こいつも、俺と同じようにネタバレされたら萎えてしまう人種なのだろう。
「い、いい心掛けね。それに免じて、黙っといたげる」
また、『パフェ・ガールズ』を数ページ程めくる。
その間、すぐ隣でナツキは俺が読んでいる漫画を覗き込みながら、クスクス笑ったりしている。
普段はツンケンした難しそうな顔をしている癖に、こんな顔も出来るのかと思わず感心する。
「ここからすっごくドラマチックな展開になっていくの! ――って、なに?」
「ああ、いや。ナツキがほんとに楽しそうな顔してるから、つい」
「あ、ああああたしじゃなくて漫画を見なさいよ、漫画を!!」
「はいはい」
――そして、あっという間に第1巻を読み終える。
途中の超展開が引っ掛かるものの、意外と読み応えのある作品だった。
正直続きが気になって仕方がない。
「ふあー! 久々に1巻読んだけど、やっぱり面白いわねー!」
「ああ、俺も割と本気で手が止まらなかった。不思議な魅力があるな、この漫画」
ナツキは「ふふん」と得意げに鼻を鳴らす。
「あんたも分かってきたみたいじゃない」
「そいつはどうも。ナツキ先輩の個人指導の賜物かな。――それにしても、やっぱ集中して読むと腹が減るな」
「あー、それはわかるわ。でも、今日はお菓子作ってこなかったのよね……」
「…………」
お菓子といえば、『パフェ・ガールズ』は話の展開の中によくお菓子作りのシーンが組み込まれていたような気がするが……。
「なあ、そういえばこの作品、お菓子作りのシーンが結構多かったよな。カップケーキとか」
ナツキの頭上から、『ギクッ』と漫画の擬音表現のようなものが飛び出す。
というのは冗談だが、それくらい分かりやすく、ナツキは面白い反応を示した。
「そ、そうねえ。まあ女の子なんだしお菓子のひとつやふたつ作るんじゃない? 知らないけど」
「まあ、そうだなあ。で?」
「――何が言いたいのかしら? まさか私が? 漫画なんかに影響を受けて、お菓子作りを始めたとでも?」
「違うのか」
「……ぅ、あ、あたしがそ、そんな単純なわけないでしょ!! たまたま読み始めた時と同じ時期にお菓子作りにハマりだしただけで、漫画で見たからって真似するわけ無いでしょ!! そ、そんな可哀想な人が居たら同情しちゃうわ!」
「そうか? 別に悪いことじゃあないだろ。漫画がきっかけで、新しいことに挑戦する勇気が湧く。機会ができる。こんなに素晴らしいことはないだろ。何もしない奴なんかより、ずっとずっと凄い」
「そ、それは――」
ナツキは黙り込んでしまう。
後ろに手を組みながら顔を伏せ、モジモジと身動いでいる。
俺はナツキの頭に手を乗せる。
「美味しかったよ、昨日のカップケーキ。ナツキが良ければ、俺にもお菓子作りを教えて欲しい」
「ほ、ほんと!? ――あ」
ぱあっと笑顔で俺を見上げたナツキは、我に返ったように一瞬で普段通りの態度に戻り、俺の手を振り払う。
「チョーシにのるな! ……ま、まあ別に教えてあげなくもないけど」
「それは良かったよ。ナツキ先輩のドキドキ個人指導はまだまだ続きそうだな」
「ねえ、さっきからそのキモいのなんなの」
「キモいとは失礼だな。お互いの好きなものを共有する時間はいいものだろ」
ナツキは「はあ」とため息をつき、両手を腰にあてて、難しい顔を崩す。
――この顔が、自然体のナツキの顔なのだろう。
「なんか、もうあんたには敵わない気がしてきたわ。変な奴」
「よく言われるよ」
ナツキは苦笑いをしながら、まだ俺が持っている第1巻を催促する。
俺が漫画を手渡すと、ナツキはまたクローゼットの中に引っ込んでいく。
そして、『パフェ・ガールズ』の第2巻を俺に差し出してくる。
「次の巻もちゃんと読んで、感想聞かせてよね。待ってるから」
「ああ。これも文芸部の『宿題』だな」
ナツキは微笑んで、近くにあった机の上に腰掛ける。
そして、夕焼けに包まれた窓の外に目をやる。少しだけ悲しげな表情をしながら。
「……どうした? ナツキ」
「別に。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかなってだけ」
その後は特に言葉を交わすこともなく、二人で夕焼けを眺めていた。
黄昏の光にあてられた彼女の横顔はとても幻想的で、思わず俺は目を惹かれていた。