あゆみの子を産むと言い出した優季だったが、あゆみの説得に応じ、アフターピルを飲むことに。
あゆみもふたなりから元に戻る薬を飲んで、もとの女の子の身体に戻ったが……。
「なんじゃ、こりゃぁああああああ!!!」
翌朝目を覚ましたあゆみが、凄まじい絶叫を上げるが――防音室なので梓の寝室には届かない。
「なによ、これぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
あゆみの大音声に追わず目を覚ました優季も、しばらくして大声で叫ぶが――やっぱり防音室なので梓の寝室には届かない。
寝室で寝ていた梓は、ドタドタとけたたましい二人分の足音と共に、首根っこを揺さぶられ、強制的に起こされる羽目になった。
「うーん……なによーまだ寝かせてよー。時間あるでしょぅ……」
「相談に乗りなさい、同志アズーシャ!」
「こんな姿では学校に行けないわ、シベリアに送られちゃうでしょう!?」
「えー、プラウダプレイはハードコアすぎ……。はぁぁっ?」
眠い目をこすりこすり。
視界がはっきりしてくると、梓の目には信じられないものが飛び込んできた。
金髪碧眼になって一回り縮んだ優季と、
背が伸びてやはり瞳が青色になり、背がぐんと伸びて目つきの鋭くなったあゆみ。
声も、優季はずいぶんと甲高くなり、あゆみは逆に低くドスの効いた声になっていた。
「拉致された! 私プラウダに拉致されちゃった!」
「違います梓、私たちがこの姿になったのです」
「はいぃぃぃ? いったい、何が起きたのよーっっ!!!!」
とりあえず、優季とあゆみは今日体調不良で休み。
病院に連れて行くという名目で、梓も午前休みを取った。
9:00:00になった瞬間に、『ハエールX』の説明書の最後にある問い合わせ先に電話する。
『お電話ありがとうございます。こちらはプラウダ製薬でございます。購入前の商品についてのご相談は1を……」
梓は、躊躇なくオペレーターと直接会話ができるメニュー「999」をプッシュした。
『お電話ありがとうございますー、こづらはプラウダ製薬お客˝様担当、似井名でございま――』
「お宅の薬で、同級生二人がノンナとカチューシャになったんだけど、ど、どどどういうことですかっ!」
『はい?』
副作用の症状の説明は困難を極めた。
途中で、どう外見が変化したかを求められ、二人の姿をデジカメで撮って目線を入れて、サポートメールに送付した。
プラウダの何を買って何を飲んで、何をしたかを詳らかに説明し、途中、その他にどのようなものを飲んだかも、どうやって飲んだかも全部説明した。
途中であまりにも詳しすぎて、恥ずかしくなった優季とあゆみが制止したが、梓は言葉を止めない。
真実(プラウダ)を突き止めるには正しい証拠の積み上げが必要なのだ。
やがて保留音が聞こえ、長い間待たされて……上席の担当者、すこしロシア訛りのある少女が電話を代わった。
「状況と薬の飲み方、そして写真の状況から考えまするに、説明書の注意書きを無視して発生した不慮の事故と結論づけられます」
「はぁっ?」
「まず、男性器消去剤と事後避妊薬をジュースで溶かして飲むのは禁忌です。まして他人の唾液と混ぜて飲むと唾液に溶け込んだ薬物の成分や口中に残った精液・愛液等で想定外の効能をもたらす可能性があります。次に1名が『フイフイマリュートカX』を事前に服用したと申告がありましたが、本製品は発売前で市場に出回っておりません。おそらくそれは弊社製品を騙った偽物です。偽物を服用した場合の副作用は弊社では担保致しかねます。……さらに、これは発売後に追記の予定ですが『フイフイマリュートカX』と『ハエールX』の同時服用は大変危険な副作用をもたらす可能性があり絶対に行わないよう太文字で記載する予定でした。ああ、ちなみに……男性器を生やした者がアフターピルを口に含み、膣内射精を受けた者が『キエールX』を口に含んだと申告がありましたね。極めて危険な飲み合わせです。もう何が発生してもおかしくありません。率直に申し上げて……薬物のカクテルに次ぐカクテルで、生命に危険が及んでも不思議ではない状況ですね」
つまりは、色々な薬やジュースや体液をカクテルして飲んだため、想定外の事態が起きて身体が変化してしまったということか!
「……元に戻す方法はないんですか!?」
「治験例が無いので不明ですが、薬効上はしばらくすれば徐々に元の姿に戻ると考えられます。もし正確な薬物の影響と治癒期間が知りたい場合は、お二人ともプラウダ高校に短期転校頂ければ、責任をもって徹底的に検査致しますが……」
「け、結構ですっ!」
電話を切った梓が、肩で息をしながら二人の方を振り向き、鬼の形相で口を開いた。
「次の対策を、考えるっ!」
/////////
「はじめまして、プラウダ高校から転校してきました、ニンナです。よろしくお願いします」
「同じくプラウダ高校から来たニチューシャよ! よろしくね!」
1年のクラスは、一瞬水をうったように静かになった後、どよめきが一斉に沸き起こった。
突然、大洗の制服を着たカチューシャ(のそっくりさん)と、大洗の制服を着たノンナ(のそっくりさん)が現われ、どうリアクションを取っていいのか分からなかった
「えーと、代わりに宇津木さんと山郷さんの2名が、交換でプラウダ高校に短期転校しています、これは、えーと……文科省の定めた学園間交流プログラムの一環で――」
(だからと言って、よりによって戦車道隊長と副隊長の影武者を寄越すことは無いだろ!)
クラスメイトは、総突っ込みをしたいのを必死で我慢していた
「会長、ご協力ありがとうございました!」
「まー、干し芋半年分貰っちゃ嫌とも――」
「かぁいちょぉぉッ!!」
「あ、あははっ、えっと、うちの生徒が困ってるなら助けないとねー」
「でも、本当にそっくりですね」
「あゆみはちょっと癖っ毛があったからストパーをかけました。優季はあんまり弄る必要なかったけど」
生徒会室……の隣の会議室で、ニチューシャとニンナ……それと付き添いの梓が、形ばかりの歓迎とオリエンテーションを受けていた。
薬の影響かどうかは分からないが、二人ともほぼオリジナル……地吹雪とブリザードの言動や性格を保持できている。
「あゆ……ニンナちゃん、砲手の腕も、もしかして凄くなった?」
「試してみないと分かりません」
「優……ニチューシャさん、指揮、やってみます?」
「もちろんよ! このニチューシャにかかれば籠城戦から突撃までなんでもこなせるわ!」
「頼もしいねー……対外試合には出せないけど」
「随分呑気ですね、いいんですか会長? プラウダは各校にスパイを送り込んでると噂があるんですよ!?」
「かーしま、大洗にカチューシャとノンナの影武者がいたとして、プラウダが何をすると思う?」
「えっと……暗殺とか、拉致とか」
物騒な発言に、一瞬戸惑いの表情を見せて、身を寄せ合う優季とあゆみ……この時だけは、素の性格に戻っていた。
「怖いよぉ、あゆみちゃん」
「大丈夫、私がついてるから、ね」
「ニチューシャちゃん、ニンナちゃん、二人とも高級学生寮ね、澤ちゃんのフロアが開いてるから使って。部屋は1室でいい?」
「「ええっ?」」
「あそこ、防弾ガラスに監視カメラ、対人レーザーに自動赤外線暗視銃が付いてるし。それに農業科畜産専攻の狩猟部隊が交替で詰めてるから」
「……は?」
「ああそうそう、護身用拳銃もあるから貸してあげるね」
杏が柚子を見上げる。柚子は重たい金庫の扉を何度も開けて、マカロフを二丁取りだす。
黒い物騒な鉄の塊を、テーブル上にごとり、と置いた。
「あ、あは、あははははは」
「ニチューシャちゃんにはちょっと重いかなぁ……まぁいいや、射撃部に話をして練習時間確保しとこか……澤ちゃんも要る?」
「い、いりません、大丈夫です、結構ですっ!」
「かーしま、監視カメラや集合写真の修正は頼んだよ」
「はっ、両名は画像から自動的に消去されるようプログラムは修正済みです、パスワードも36桁のランダムな文字列で毎週更新します!」
「……忘れちゃだめだよー」
/////////
「1-2ヶ月の辛抱ですよ、同志ニチューシャ」
「それはそうだけど……ずっとこうしてないといけないの! 不便で窮屈だわ! やっぱりニンナの赤ちゃんを産んだ方が………」
帰り道、大洗の制服を着た黒髪の大女と金髪の幼女が、ごく小さな声で話しながら寮に向かう。
SS(シークレットサービス)を付けるかどうかは、費用と絵面の関係で議論が分かれたが、とりあえずはウサギさんチーム全員が取り囲む形で済ませることにした。
「ニチューシャ、それは言わない約束ですよ」
「でもぉ……」
「お家に帰ったら、いっぱい愛してあげますから」
「ええ~、やだぁ❤ まだお日様出てるのにぃ」
ひそひそ話を隣で聞いていたあやが、渋い顔をする。
なにせ、カチューシャの声に優季の蕩けたボイスが混じり、物凄く……卑猥な雰囲気を漂わせていたからだ。
(今の優季にドS音声とトロトロボイスを録音させたらすっごく儲かりそうなんだけどなー)
「何か言いましたか、大野さん」
「い、いいえ! 何もおっしゃっておりませんっ!」
「あやはバカね! 尊敬語と謙譲語が逆になってるわよ!」
隣では、梓が明後日の方角を向いていた紗希の視線に回り込み、何も見ていない焦げ茶の瞳をじっと見据える。
(なんか、変な事した?)
(こんなバカな世界線、ノンアルコールウォッカのバカ飲みでもしなきゃ思いつかない)
(そうか……そうだよね)
すこし砕けて、ちょっとだけあゆみと優季の地が見え隠れしはじめた、ニンナとニチューシャの会話を聞きながら……、
澤梓はこれから始まる騒動の数々をどう対処しようか、いや……どう楽しもうか。
そんな事をあれこれ考えながら、ふーっ、と、大きな息を吐いた。
おしまい