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全身の血流が危機を訴えている。
記憶をなくしてから初めての劣情は、見目可愛らしいクラスメイトとの接触に収まりを見せず、裕太には生物の欠陥としか思えてならない。耳元で吐きかけられた息は背徳的で、下腹部をより流れる熱の卑しさは、自分の意思を離れたかのように高まっていく。自分の目は新条アカネの一挙一動を観測する機械で、足元を縫い付けられたかのような感覚はうだる夏の暑さのような不備を脳内にもたらし、いくらでも拒絶することはできた筈なのに、裕太は腰の高さに屈むアカネを額縁の向こうのように眺めていた。線の細い両肩が容易に押し倒せそうなほど間近と真下にはある。巨峰を支えるブラの隙間は艶美な谷間を描いていて、下の衣服を屹立した形に歪ませる裕太の威容を、彼女の爛々とした瞳が好奇心旺盛に見つめている。
白魚のような肌の指先が、試すように情欲の舳先を布越しに掻き撫でた。
「――っ」
それだけで、思わず声もなく呻いてしまう弱味を、裕太は隠すことが出来ない。その反応を受けても、アカネはたじろぐ素振りなく、ズボンのベルトに手をかけていく。呆けたように甘くかどわされる刹那から理性は立ち戻って、裕太は制止に振り切った。
「新条さん、これ、絶対駄目な奴だって!」
「んー? いけないことだよー?」
アカネはまるで意に介さず、幼子のように口端を吊り上げ、裕太を見上げる。そんな上目遣いすら本能を刺激するのだから、魔性と呼ぶ他ないだろう。膨らみを咥えるような口の角度で、彼女は楽しげに小首を傾ける。
「えー。ここまでおっきくして水臭いじゃんー。ほんとはかなり、期待してるんでしょ?」
彼女が一語一句を発する度に、唇が山なりを食むような錯覚に囚われる。
硬くなる陰茎に、裕太は自己嫌悪を覚えた。
「そんなこと言われたって……あっ⁉ ちょっと⁉」
問答無用とばかりに砦を弄られる裕太の心境は、まるで毛を剥かれる出荷前の鶏だ。アカネは手先が器用なのかベルトを緩めること自体は迅速に終えるも、身動きする裕太に「あー! もー! 往生際悪いよー⁉」などと理不尽な激昂を散らしている。そうして悶える都度に、裕太の奥を名状し難い苦しさが跳ねていた。
痺れを切らしたのか、アカネが甘い顔に怒りを帯立たせる。
「もう! じれったい! ……ねぇ響君、そこ座って?」
そう言って思い付いたようにアカネが指差したのは、窓際の最奥から二つ隣り、丁度裕太の席だった。
この状況では最早不自然にも見える営業的な笑顔の下に、如何な企みを抱えているのか、裕太は気が気でなかったが、実際このまま立っていられる自信もなかったので、渋々とその申し出に応じた。アカネもまた、裕太と並ぶように隣の椅子を引いて、余裕たっぷりに向かい合う。彼女の妖しい策謀にまた襲われる前にと、裕太は両の手を重ねてまたぐらを押さえようとして――それを実行に移す前に、ストッキングに包まれたアカネの足先が、テントのように張った裕太の欲望をまさぐった。
「ぁっ……!!」
動揺と裏腹に、血の集った頂点は喜悦の振動を否応なくその足裏に伝えてしまう。睥睨する少女は薄い微笑みを湛えて、はち切れそうな暴威を官能的に慰撫していく。影よりも濃い黒に覆われた彼女の足は橋のようにピンと伸びて獲物を捕らえ、ある種生肌よりもなめまかしいその光沢さえも視界の毒で、雄の理性を揺さぶってやまない。
「しんじょ……っさん……!!」
息を荒く身をよじる。絡む足は畳み掛けることを厭わず、五指を舐めるように操って執拗に押し付けてくる。握り潰すようなその所作は、か弱い女子の力加減でも、今の裕太には万力のように耐え難く、抗い難い衝動に誘われる。
全てを突っぱねるべきなのに、全てを委ねたくなるような。
思考が蕩けていく。
吐き出すことと終わらせることを同義にした責めは頭が真っ白になりかけた兆しを前に唐突に終わり、褒美を取り上げるような悪戯混じりの半目で、アカネは裕太に待ったをかける。依然、稜線を描く足の指先は弱所に添えられて、緩急の差から生殺しのような停滞が身体の深くを昂らせていく。
アカネは仄かに上気した頬を面白味に歪めながら、主導権は自分にあるとばかりに発する。
「駄目だよー、一人で善がっちゃー。足で興奮するなんて、響君は変態だね」
「新条さんに言われたく……ぁっ」
ぐっと足裏を擦り付け、裕太の反抗を塞ぎながら、アカネはクラスの女子に向けるのと全く同質の笑顔を形作る。仕事をしない左足を椅子の上に立てて、膝に腕を乗せ枕のようにしながら、彼女は期待を込めた眼差しで、裕太の一点を見つめ続けた。
「ここはこーんな正直なのに。……苦しいでしょ? ねぇ? 下脱いで? その方が絶対愉しいよ?」
エサをチラちかせながら、自分の思い通りの台本以外は認めないという無邪気さを隠そうともしない、脅しの体裁。
脂汗さえ滲む身体に鞭を打って、裕太は彼女の土俵には立とうとせず、ただ疑問だけを投げる。
「……なんで俺に、こんなこと。もしかして、こないだの」
脳裏を過るのは、川辺の一幕。
ぽつんと二人でクラスメイトを見守りながら、他愛なく交わしたやり取り。
自身の正体を掴まれたかのような、違和感を残した会話の幕切れを、裕太は思い出す。
『君が変身してるんでしょ?』
それはあたかも、響裕太という人間が、『グリッドマン』の半身であることを知っているかのような口振りで――
互いに秘した疑心の芽を、言葉として問おうとしたタイミングで、より強くアカネの足がぶつかった。
「――脱いでって、言ってるんだけど」
怜悧な瞳で、少女が裕太を睥睨する。
痛みともつかぬ甘い衝撃に耐えて、裕太は身じろいだ。
「――っ! ……新条さん、絶対おかしいって。こんなの誰かに見られたら――」
人気のない教室。
開け放たれたドア。
誰でも通りがかれそうな廊下からおおっぴらに見えるのは、せり上がった欲望を覆い隠した、半裸のような女子の後ろ姿。
日常を逸脱している。
なのに、新条アカネという少女は、常識という檻を忘れた獣のようで。
そんな存在の名前を、裕太は知っている気がした。
突き飛ばす暴力を振るってでも、事態を収めるべきだと、溶けかかっていた正常な思考が遅れに失して判断する。立ち上がることすら許さない原因を取り除こうと、裕太は手を動かして、その直前にあっさりと引き下がるアカネの足つきに、一瞬の気を取られて、
勢いよく、アカネが前のめりになる。
スカートが裕太のそそり立つズボンに被さる、膝を半分に折った姿勢。座る裕太の上を乱暴に占拠して、彼女はその両手を裕太の両頬に添え、予告もなく唇を奪った。
目を見開きながら、口内の侵入を受け入れる。
唾液の一滴足らずとも飲み干そうとしているみたいに、アカネの舌先が裕太の内面を蹂躙する。合わせた唇は貪るようで、倫理や思慕の念を一欠けらも持ち合わせず、瞼を閉じた彼女の顔が比喩でなく目と鼻の先にある。
小さな手は次第に裕太の頭を後ろから押さえて、侵略は舌を押しのけて永劫のように続く。歯茎の裏、上下の境なく舐めとり、搔き集める粘着質な成分が、彼女と自分の都合なく混ざっていく。心臓の高さで押し付けられている柔らかさはそれでも意識の隅を刺激して、今にもはち切れそうな一点に血を集めるのを手伝って、もどかしい布地越しに少女の秘所とせめぎ合う。異性の信じられないくらい甘い匂いとない交ぜに、五感の全てが相手を感じ取るよう機敏になっていく。理性はただの足枷で、踏みとどまるほどに、自分の中を暴発しそうな何かが駆け巡る。
考えるという人間らしさを剥奪されたのはきっと時間にして数秒足らずで、記憶という足場を失くした筈の裕太はそれでも、今この時が生涯に置ける快楽のピークだと痛感出来た。押しのけようと上げた掌は誤って少女の胸に触れ、不意の接触に瞬間彼女の身体が反応する。瞼を薄く開いた先に垣間見えたのは挑戦的な色合いで、彼女が自分を好きにしているのと同じくらいに、好きに〝される〟のを窺っているようだと、裕太の目には思えた。
「――ふぁ」
陶酔的な時間を終わらせるように唇が離れ、互いに絡めた唾液が線を引いて垂れ下がり、胸の谷間を流れ落ちていく。背後のカーテンを透く日差しにそれは煌めいて、情欲を掻き立ててやまない脂肪の果実を透明な絵の具のように塗りたてる。アカネの人差し指がそれを拭い、物足りなそうに口に咥える。指先を下唇に沈ませながら、最早馬乗りのような体勢で彼女は言葉を継ぐ。
「その気になった? ……響君だって、おかしくなりそうな癖に」
熱ぼったい息遣いと、目線のやり取り。唇に触れていた右手を、胸の下に潜らせて、裕太の塔を撫で下ろす。
耐えることはもう毒で、目の前の少女は全てを是としている。
その先はもう、普通のクラスメイト以上の関係だ。
「……俺、記憶喪失だけど……こういうのって、ちゃんと順序守らないと」
きっとここまで来て、これほど説得力のない言い分もないだろう。それでも裕太は、響裕太という形成し直した人格は、一度誰かを好きになる気持ちを覚えたことで、それを裏切る真似はしたくなかった。
喩えるなら、自分は生まれたばかりの人間だ。地続きの過去が見当たらない今、歩み直している短過ぎる人生の中で、手に入れたこの感情は杖のように確かな唯一のものだ。そこに横槍を入れられて、成り行きだけで欲を満たす。安易にその道を選んでしまえば、自分はこの先を歩けなくなる。そんな気がする。初めて好きになった少女に、この気持ちさえ、伝える勇気を持てなくなる。
身体は何度も善がって情けなくとも、裕太はアカネを強く睨み返す。
惚けるように首を傾げ、彼女は口をすぼめた。
「純情だねぇ、響君は。もしかして、今のが初キッス? 記憶喪失だから分かんないか。ちなみに私は初めてだよー。喜んで喜んでっ」
裕太の決意も知らず、アカネは膝の上で揺れる。その度擦れる苦悶に歯噛みして、裕太はひとまず彼女の両肩を押し留めた。
「俺が、昔どうだったかなんて、分かんないけど……少なくとも、好きでもない人と、こんなことするもんじゃないってのは、分かる」
真剣な話をしていると、受け取って貰えただろうか。
アカネは形式程度の関心を、一応とばかりに装った。
「ふーん。響君は、好きな人いるの?」
「……いる」
「響君は好きな人とじゃないと、えっちなこと出来ない?」
「……当たり前」
「そっかー。じゃあ簡単だね。響君、私のこと好きになっていいよ。私は君のこと、好きにならないと思うけど」
「無茶苦茶……」
裕太の後頭部に己が両指を交差して支えのようにしながら、跨った体勢を引き気味に白い肌を見せつけるアカネの、変わらない一方通行に辟易とする。目を落とせば相変わらずスカートの裾が隆起した裕太のソレに被さって、傍目には卑しくも挟まれているように見える。身体がねだる前にと真向いの彼女を睨み返せば、彼女は既に事の次第を決め込んだ笑顔の形成を終えていた。
「いいじゃない。勝負だよ、しょ・う・ぶ。実はね、私、君にすっごく勝ちたいんだよー」
「……それ、やっぱ説明するつもりないんだよね」
裕太のあずかり知らぬ、それは執着。
紅玉のように煌めく瞳の温度は、裕太の生殺与奪を握って昂っているかのようで、そうした感情の濃度が自身に差し向けられている所以に、裕太は一つしか思い当たりがない。それは今の自分のルーツとも言える秘め事だったし、その秘密を第一に嗅ぎ取った張本人が正しくこの新条アカネで、情事にもつれながら互いの疑心と秘密を牽制している。もう裕太はアカネをクラスの誰もに望まれるような美少女だとは思わないし、彼女もまたそれは織り込み済みだろう。化かし合うように見つめ合って、アカネは他愛ないお喋りのように続ける。
「勝ったら教えてあげる。私が響君を気持ちよくしてー、君が私を好きにならなければいいの。簡単でしょ? ……それとも、私で気持ちよくなって揺らぐほど、響君の好きって軽いものなの?」
全てを軽んじるかのような物言いに苛立った。
一つ一つ積み上げて、取り戻そうとしている自分の日常を、毛先の興味もなく虚仮にされたかのような。
新条アカネは、個人を個人として見ていない。
誰かが誰かを慕っているというような話題に疎いとか、そんな生易しいものでは断じてない。道で猫が跳ねられたら十人が十人不憫に思うところを、彼女は携帯の画面片手に猫が跳ねられたことにさえ気付かない、そうした冷淡さを抱えた人種に思える。常識の規格が違うのだ。今のこのやり取りだって、入念な計画性など取っ払った、突発的で思い付きな行動力の賜物で、自分の気まぐれ一つが世界を振り回す指針なら、そんな新条アカネと、裕太が好きになった少女はまるっきり正反対だ。あの良心の爪の垢一つ煎じて飲ませても、アカネが立ち直る可能性は皆無だろう。そんな彼女の物差しで、この気持ちを量られたくはない。
初めての、明確な怒りだったように思う。
灯った胸の火に従って、彼女の肩に指を食い込ませる。
彼女を〝敵〟と断定した上で、裕太はその挑戦を飲む。
「新条さんが隠してること、全部教えて、金輪際俺に付き纏わないって、約束して欲しい」
「うん。約束する。やっと言うこと聞いてくれたね」
アカネにとっては、予定調和の手順を踏んだに過ぎないのか。売り言葉に買い言葉で買ってしまった諍いの火種は目下のところ勢いで、性の知識が抜け落ちた裕太には彼女がこれから何をしようとしているかなど知る由もない。ただ、互いに熱に浮かされているのは確かで、裕太とは対照的に汗の流れないアカネの白い肌は幾らたっても見慣れた気にはなれない。次の段階に移行するように彼女は一際余裕たっぷりに笑んで、右の指をブラの肩紐にくぐらせた。
そうするのが自然のように、恥じらいもなく肩紐の役割が失われる。
支えを失くした片方の乳房が、呼吸を求めているかのように零れた。彼女の掌でも包み切れない異性の象徴は、若さに張りだして重力と相反した特有の垂れ方で裕太の視線を釘付けにする。未だ余人に踏破されたことのないであろう柔肌がなだらかに弧を描く線を目で拾えば、その先端に裕太の劣情と同じく突起した桃色の何かが脳裏の痺れるまでに存在を誇示している。息を呑む裕太を他所にアカネは秘していたもう一つの守りをも解いて、元よりセキュリティとしては心もとなかった布地は今や彼女の胸の下までズリ落ちただ胸を強調する道具で、奇妙にもジャージと制服と下着の三重にはだけた、衣服を意味しない少女が出来上がる。彼女は異性の視線が色香に惑わされる一部始終を愉しんでいるかのようにして、またも後ろ頭に手を伸ばし、裕太を唐突に抱き寄せた。
当然の理として、その谷間に顔が埋められる。
暴力的なまでに実った瑞々しい感触の妙は、呼吸を塞ぐ生命の危機にひたすら直結して、
「……んぐっ」
「鼻息荒っ……」
本当に、後先考えていないだけなのだろう。
不条理な力強さで身を離して、アカネは眉を寄せ如何にもな嫌悪感を露にする。
「……俺、新条さんみたいに裏表激しい人、絶対好きになれないと思う」
きっと理解不能という四字熟語を擬人化したら、彼女のようになるのだろうと裕太は思う。
言葉に価値を見なさない態度で、アカネは答える。
「別にいいよー。……私、勝つまでやる主義だから」
ねっとりとそう言って、やや沈ませた彼女の腰が、裕太の下半身に再び触れる。
燃えるような熱さの塔頂は僅かに震えて、勝ち誇るような少女の瞳を更に輝かせた。
●
あの巨人を手込めにしているという感覚が脳を眩ませた。
否応なしに自分という異性を意識している裕太の下部を、アカネは乱雑に引き下ろす。
〝勝負〟を受けた裕太は抵抗や躊躇いを態度に出すも、結局は期待に抗えないのか、アカネの準備になすがままだ。
やっぱり、男子なんて馬鹿ばかりだと思う。
ズボンに触れるだけで爆発したら、思いっきりお笑い種にしようと考えてたのに、少年は耐え難いくらいに耐えて、その下半身がアカネに晒される恥辱に更に耐えている。水着の時にも見た取り立てて筋肉質でもない足はさして興味を引かない。身体の構造なんて足が二本と手が二本もあれば機能としては十分で、その点アカネが愛する『怪獣』は破壊するという目的を遂行する機能美として満点だろう。それに反して人間は、肩の鍛錬か足の付け根に余計なものをぶら下げるかしないかの差異に五月蠅いくらいに悶着してて、よくもあれだけ熱くなれるものだと呆れて感心してまた呆れる。大体を言えば自分の性知識などそんな諍いが絶えないネット経由で、愉快なくらい掌で踊ってくれる裕太の反応が未経験の自分に余裕を持たせてくれていたに過ぎない。このまま彼を征服することに興奮がないと言えば嘘になるが、この自信も事を終えるまで保てるつもりでいた。
「うわ……。すっごい先走ってる……」
初めて見た赤黒い男性器に生唾を飲み込む。
下手に小さな女子の指先なら、纏めてやっと同じくらいだろうという大きさと、他者の奥に分け入るには余りにも物々しいその長さ。液に塗れているのは今までアカネが刺激してきた成果で、空気に触れて仄かに上気しているかのような錯覚すら、それだけこの仇敵に求められているという事実に何かが疼く。
ここまでの脈動をアカネは知らない。
生娘のような顔を晒して椅子に座りながら顔を逸らす裕太に安心すると同時、自分の胸部を垂れるこの邪魔臭い乳房の効果も実感する。座る裕太は最早俎板の鯉で、初等教育の一切すら危うい彼がこの先の作法など知る筈もないだろう。身体だけが機能として今か今かと待ち詫びていて、彼の肉棒を欲求の制御装置のように見立てればグロテスクな初印象も潮を引いて、アカネは前振りもなく指先でそれをつついた。
ビクン、と力強い押し返しと、掠れるような息遣い。
「……っ」
予想通りの、期待以上の反応を観測して、アカネは気を良くする。
「もう出さない方が大変だねー。……初めて生で見たけど、こんなにヒクついてると、ちょっと可愛いかも」
「もう、どうにかして……」
やはり男らしさの気概もなく、裕太は童顔を覆い隠す。
虐められる方にも理由があるという体現だった。
正義の味方の顔を持った少年の弱さを引き出したくなって、彼の肉棒を指で弾く。
瞬時ビクつく彼のことなど気にも留めず、吐息をかけるようアカネは身を近づける。
今のアカネは、膝を追って地に座り、裕太の股の間を塞ぐような格好だ。
両の手で胸を下から押し上げて、徐々にその身をねじ込んでいく。
「早く素直にならない、響君が悪いんだよー」
「――。それ……」
顔を隠した指の隙間から何かに気づいたのか、裕太の声が漏れ出る。
たわわに張り出した両の乳房が、欲に屹立した孤峰を飲むように挟み込む。揺蕩うような脂肪の塊は雄の形に変容して、その迸るような熱さをありありと感じさせてくれていた。
「響君の、先っちょしか見えなくなったね。わ……さっきよりビクビクしてる。これでも私のこと、好きじゃないって言い張るんだー」
煽るように責め立てて、口内に溜まった唾液を集める。
唇を這い出た舌先から、胸の斜面を塗るように温もりを滴らせて、潤滑油の用意をする。
唾液を垂らし終えたついでとばかりに、苦しみに悶えた頂点へと舌を伸ばす。
裕太は視界に入る情報全部に処理が追い付かないとでもいった動揺に、またその一物を硬くして、
「それとこれ、全然、違う感情、だか……あっ!」
堪えるように汗を噴く亀頭を舌先で侵す。
掬うように舐めとった分泌液は味わいも不明瞭で、身悶えする裕太の生きの良い反応だけがその行為の価値を意味付けする。上目を遣って甘い声で、アカネは吐息と言葉をかけ続けた。
「声、上がったね。敏感だねー。……扱いたらどうなるかなぁ」
「扱くって……っ」
全部の初めてに震える男性器を、乳房の形を歪めて押し潰す。
両の手で圧迫するようにして捉えたそれは火傷しそうなくらいの熱を帯びて、少年の動悸をダイレクトに伝える。そこからはまるで素人で、浅い知識で上下に擦りつけた乳房が雄の悦びに功を奏しているかなど始まりこそ不確かだったが、上手下手の関係なしに、奉仕的な献身は裕太にはそれだけで視覚的に余りあるものがあったらしい。いや増しに立ち上がっていく硬度は捕まえておくのも億劫で、もどかしいくらいに胸を寄せるアカネを見下ろす彼の動きが快楽に委ねるように聞き分けが良くなっていく。堪える彼を追い詰めるよう、唾液が落ちるのも構わず口を開いて、挟まれた乳房の湖面を浮かび上がるように突き立つソレを、甘く唇で食んだ。
咥えるようにして、口内の深く深くに迎え入れる。
「ん……」
瞼を閉じて舐る。
胸を駆使して少年の恥部を支配する。
室内の静寂を埋めるように、卑しい音を立てていく。
「それ、新条さん、汚いって……!!」
裕太の指がアカネの頭に沈む。その力に突き飛ばすほどの意思は残っていない。言葉はもう裏腹で、身体は口淫を受け入れていた。水音のように二人の耳を撫でるその音は、より背徳的に教室という日常を汚していく。
「はぁ……、ぁ……」
少年の乱れた息の一つ一つがアカネの推進力になっていく。彼の正常な倫理の柵を踏み越え荒らし壊す現在が手の内にあることが、彼という正義をまざまざと堕としているようで、甘美な喜悦に下腹部の奥が熱くなる。
口内で彼の限界を感じ取る。
決壊の前触れたる震えから即座に口を離し、唾液とカウパーの見分けもつかない肉棒を握り締める。
果てる寸前で留められた落胆からか、性の虜になった少年の声がか細く漏れる。
「え……」
期待を裏切られた眼差しにゾクゾクとした。
早々と開放するつもりなんて欠片もなかった。
わざとらしいまでの声を作って、アカネは素知らぬ笑顔を振りまく。
「初めてだから肩凝っちゃったー。ちょっと休憩。どうしたの、響君? 物足りなそうにしちゃって」
少年は口を半開きにして欲の玩具を恋しそうに見ている。
「……」
ソレが何を欲しているか知った今、裕太の右手が快楽の臨界点を押し上げようと、明確な意思と理性の煩悶した遅々とした動きで持ち上がる。全てを促したアカネからすれば、それは彼が敗北を認めた瞬間でもあったし、軽々と楽になる手段を、この期に及んで見逃す筈もない。
「あー、響君、それはルール違反だよ」
やんわりとその手を止めると、少年の熱ぼったい眼が『どうして』の色に染まる。
脳裏をまさぐられたような快感が、より身の内を燻らせていく。
彼を焦らすように、言葉をゆっくりと区切っていく。
「いいんだよ? たくさん切なくなって。その分気持ちよくなれるから。……響君が喘ぐから、私まで疼いてきちゃった」
裕太の真隣りで黙している机に、アカネは音を立てて臀部を下ろす。開けっ広げにした股は裕太の手が届く距離と高さで、さっきから彼を責め苛む都度に、湿り気を帯びて切なさに濡れた秘所へと、雄の液に塗れた指先を伸ばす。ストッキングを脱ぐ手間ももどかしく、乱暴に裂いた伝線が、切り込みを入れた桃の皮のように縦の筋を広げていく。現れたブラと同じ紫を基調色にした下着は、情欲の兆しに一部を滲ませていた。
「何、して」
戸惑う裕太に見せつけるように、下着をズラしていく。
擦れる感覚すら今の自分には危うくて、欲しがっているのは彼だけではないとアカネは知る。
「この方がエロいでしょ。響君のせいだよ、……こんなに溢れたの」
覗かせた秘部は割れた口からしめやかに蜜を垂らして、黒に包まれた足と腰にあって唯一、白く映えて心のやましさを助長する。指先を一撫でするだけで腰の震える悦楽は目の前の雄を昂らせる演出なのかただ自身が無意識に望んだのかも曖昧で、お互いの一線を越えるよう、乱れた台詞を選んでいく。
「響君も舐めて、私のこと気持ち良くしてよ。じゃないと、男の子って
仄めかせた行為の意味や、性別という括りが男女に分かれている訳を悟ったのか、裕太は良く知りもしない癖に、踏み止まる道を選ぶ。
「……俺と新条さんがそんなことする理由なんて、ないよ」
その葛藤した正義面を篭絡するのは容易い。
尤もな正論は屹立した牙城を見れば、崩れかけた壁一枚の倫理に過ぎない。
彼の理性が強情であればあるほどに、それを剥ぎ取る過程が味わいを深くする。
「じゃ、私が声を出したら君の勝ち。これならフェアでしょ」
刻一刻と過ぎる時間を前に、アカネはさも良案を思い付いたように持ち掛ける。
「人、絶対来るって」
「隣のクラスも、体育で合同だからへーきへーき」
「……」
裕太が押し黙るのはもう分り切っていて、普段なら苛つくところを、熱に浮かされた頭は感情を怒りに転化しない。彼が何時までも臆するなら、自分の求めるものに準じるまでだった。
「もう、じれったいなぁ。――じゃあ、勝手にやっとくね」
あんなに立派な物を前にしながら、及びもつかない自分の指を、アカネは陰部に彷徨わせる。
自分を慰めた記憶なんて知識が付き始めた頃に試した遥か彼方の思い出で、それよりもっと胸の空くものを自分は『作品』を操って知った筈なのに、今日だけはと経験もない二本の指を今にも爆ぜそうなワレメに差し入れる。「ン……ん……」と腰使いに身を任せれば、肉の奔流を突くように何かが届いてくる。すっぽりと飲み込まれた指は根元まで食われたようで、アカネは矢も楯も溜まらず上へ下へと手繰っていく。空いた左手は気を盛り上げるよう片方の乳房を揉みしだいて、手の形にうねる脂肪が踊るようして乳首を天井に向かせた。それを舐るように一度、今一度と食みながら、アカネは息を呑む裕太を尻目に嬌声を奏でた。
「ん……はぁ……ン……、あ……、見てる見てる……ん」
食い入るような目の少年が愉快で仕方なかった。
この指が何の代わりなのか、彼は既に知っている筈だった。
一人置いて行かれている裕太に憐れみすら覚えて、アカネはブレーキをかけ最後に誘う。
「……ねぇ響君、手伝ってぇ?」
自分でも思ってもないほどに、切なげな声が出た。
「……俺に、何しろって」
真っ先に断れなかった時点で、彼が揺らいでいるのが分かった。
舌なめずりをして、もうゴールまで見えた心地で、アカネは言う。
「キスしようよ。さっきまでの、嫌じゃなかったでしょ?」
「……」
迷うような間を置いて、裕太が緩慢に立ち上がる。
夏の暑さだけでは有り得ない汗の匂いが、鼻腔に立ち昇るように近付いてくる。
少年の目が『あえて』だとか『仕様がない』だとか、言い訳に苛まれているのが見て取れた。
机に座するアカネの頭より高い位置で、見下ろす裕太の視線をそよ風のようにいなす。
「素直だねー。その気になってきた?」
「……俺はこんなこと、早く終わらせたい、だけだから」
事を済ませる為前に屈む裕太の顔を、アカネは両腕で引き寄せ強引に受け入れた。
彼の不浄を淫乱に舐った舌が、衛生の観念もなくまた分け入る。呼吸を殺すようなやり取りはさっきよりもスムーズで、彼の従順な態度を確認して引き離し、また一度、もう一度と唇を啄んでいく。繰り返し繰り返し、発情期の発作のように息継ぎをして、その尊厳を奪っていく。
――それに耐えかねたのか、はたまた雄の本能か、
裕太の舌が、アカネの舌に絡んだ。
これ以上なく近付いた互いの眼が、求め合うようにピントを合わせる。
貶めた実感に酔いしれるように目を細めて、少女は口内の交渉を続けた。