※この作品はR-18です。

アカネが裕太を食べる話   作:カーマミール

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接・続

 

 

 〇

 

 

 ――真夏の只中にいるのだと思った。

 

 整然と並ぶ机も、薄く消し跡の残った黒板も、全部が別世界のように遠くて、ただ、目の前の少女を浮かび上がらせている。輪郭が不確かになるくらいに顔は近くて、一度タガが外れて捻じ込んだ舌は生まれる前から知っていたかのような用途に悦んで、何もかも非現実的なのに、違えようもない火照った人肌の温度だけが、腕の内には確かにあった。

 

 きっと言葉よりも雄弁に相手を欲する儀式を、彼女と知り合ってから発した言葉よりも多く交わした。

 

 初めて通した叛意に、アカネもまた限界であったと、裕太は知る。

 

 「ン…………ちゅ…………ぁ」

 

 自分の意志で彼女を責める倒錯的な感覚と間隔が、次を催促するような吐息となって返ってくる。

 水を潜るよりも長く。瞼を切るよりも短く。二度。三度。数分前までキスも知らなかった癖に、唇は互いの形に柔いでく。

 数えるような冷静さは当の昔に追いやった。

 少女は片手を裕太の頬に添えたまま、空いた手で一度は引き下ろした筈の裕太の右手を取る。導かれるに任せれば、彼女の心臓を守るように指の沈み込む肉の厚さが待ち構えていて、彼女が先刻そうしたように、望みのまま揉みしだく。指の隙間挟み込むように触れた突き立った乳首を芯にして、ずっと裕太を惑わしていた乳房が手の形に波打つようにして暴れる。口を塞ぎながら彼女を手中にする道程は、それ自体が得も知れぬ快感となって倫理の梯子を外していく。体液に塗れた陰茎は足を投げ出して机に座るアカネの股に危ういほど触れかけ、蜜を垂らす下の大口に、かつて彼女の指がそうしたような淫らな真似を、実践したくなる衝動を裕太は必死に堪えている。

 どうしてこうなったのかという後悔と、それを霞ませる充足に取り憑かれていた。

 何時も教室の隅で神聖なくらいに陽の輝きを浴びた彼女が、乱れた髪と潤んだ瞳で、乳房を覆う裕太の手に手を重ね、短い接吻を引き離した。

 

 「ふぁ……響君がっついてる。私の身体は、好きなんだ?」

 

 「……新条さんは、自分のこと、安くし過ぎ」

 

 思う通り口にした。身体を取引の道具にしたこの行為に何の裏があるのだとしても、釣り合う報酬が裕太には想像できない。アカネは重ねた手を下ろして、やはり理屈にならない答えを紡ぐ。

 

 「ふふっ……。響君以外に、こんなことしないよ……。――ン」

 

 耳元で一度囁きかけて、彼女はまた飛びっきり深く、キスに舌を忍ばせた。

 新条アカネに本当に想いを寄せているであろう、気の良い親友の顔がイメージとして過る。

 『間違ってる』、と非難したいのに喋ることは許されず、アカネの手は追い討ちをかけるように、痛いくらいに勃った裕太の男根を、刺激の足りない加減で握り締めていた。

 反り返らせた舌を引き抜いて彼女は、膨張する手中の反応に破顔した。

 

 「またおっきくしてー。響君より、こっちの方がカワイーね」

 

 亀頭にほど近い位置を締める、輪にした指が上下のどちらかに振れるだけで、天に昇れる予感がある。

 それを察知しているかのように、アカネは無為な時間を弄んでいた。

 〝何もしない〟ことを苦に感じる程度には、自分はもう調教されているのだと、いっそ腰を動かしてしまいたいほどの知識にない欲求を、唇を結んで押し殺す。そこまで自分をかなぐり捨てることも出来ず、首輪を繋がれたような時間だけが過ぎていく。触れる指にその脈動を感じているのか、アカネはあらぬ想像を孕んだ目を見開いて、彼女自身も待ち侘びていたように仕上げの言葉を口にした。

 

 「……そろそろ、いいよね。響君も、もう限界?」

 

 『そろそろ』も、『もう』も、アカネが何を指しているのか、裕太には汲み取れない。

 分かっていて、その心を離そうとしている。

 きっと彼女が雄の証にずっと期待を秘めていたように、自分も〝ソレ〟を視界の隅に捉えていた。

 机に体重を預けるように後ろ手を回して、アカネが中の骨を感じさせないほど柔軟に開いた太腿はいやに眩しく、その付け根を追い沿う視線が蜜に爛れた彼女の秘所へと誘われる。

 本能を逆撫でするように二本の指でそれを広げて、胸の鼓動に乳房を浮き沈みさせながら、アカネは荒れる息を切るように言った。

 

 「……いいよ、挿れても。怖がらなくていいから、一緒に気持ちよくなろ?」

 

 彼女の穴倉と、自分の尖塔を見比べる。

 少女の指とは訳が違う、欲望の高鳴り。空腹に伸びる食指とは一線を画した引力は、自分を相手に捻じ込むという絵図を描いて脳を痺れさせる。辛うじて、言葉を介するという行為だけが、裕太が自分を保つ術だった。

 

 「こんなの、新条さんの中に入るわけ……」

 

 臆した裕太の声量に、アカネは嘲笑で応えた。

 

 「知らなくても、身体が欲しがってるでしょー。駄目なんだよー、そういうのー。ちゃんと吐き出さないと」

 

 「それ……新条さんが苦しくなるんじゃないの」

 

 兼ねてからの疑問を問い質せば、アカネは一つ瞬きをして、柔和に笑む。

 責任の所在などまるで知らない、稚気を帯びた笑顔だった。

 

 「んー、最初は痛いって聞くね。でも、響君は気にしなくていいんだよ。好きな人の前の予行演習だと思って、ね?」

 

 張り上げるような高い声で、彼女が堂々と放った宣言は、自ら〝代わり〟を買って出るという、やはり裕太の感情を軽んじたもの。

 

 「その人と、新条さんは全然違うよ。そういうの秤にかけるの、やめて欲しい」

 

 到底重ね合わせることなど出来ないのは容姿以上に内面で、裕太は剥き出しの怒気で反論する。

 アカネは小首を傾げ、次に騙し絵のような作り笑いを引かせ、最後に不機嫌を表出した真顔で瞼を半分下ろした。

 

 「……ふーん。ホントに好きなんだ」

 

 じとりと舐るような目線を受ける中、彼女の開いた足がしなやかに動く。

 

 どちらも向かい合って、手も足も触れない方が難しいくらいの近くに在る。

 

 裕太が退がることを許可しないように、腰に彼女の足が纏わりついた。

 

 「――じゃあ、その気が変わらないか、試してみよっか」

 

 瞬間、予期もしないことが起こった。

 

 少女の腕が、裕太の肩を包むようにして回される。

 

 腰を浮かせて彼女は、そのまま前のめりに裕太に全体重を預けた。

 

 体勢を崩し、臀部を打つ感触。体よく椅子に着地出来たかと思えば、非力な女子の全力を絞り出したような拘束が、裕太の自由を奪っている。長らく苦しんでいた男性器は、衝突の拍子にアカネの尻の下敷きで、その危うさに一切の思考が消し飛ぶ。彼女は覚悟を宿らせた瞳で下腹部を見据え、足を開き地に着ける。腰を上げたその下で鎌首をもたげるそれを一心に見つめ――息を殺すような間を置いて、彼女は自ら根を下ろした。

 恐々と照準を合わせる彼女の入り口が、狭苦しく道を開いていく。

 

 「――ん」

 

 ほんの舳先が触れただけで身を震わせ、緊張に瞼を閉じた彼女の声が、抑えようもなく零れる。

 仮初の笑顔を繕っていた少女が、切なさに表情を硬くして、裕太の肩に指を食い込ませている。

 互いの侵入を受け入れるという点で、その苦悶は裕太も同じで、

 

 「……はぁっ……ンッ」

 

 「新条、さん……っ、これ……っ」

 

 うねる肉の半分をも到達している雄の威容は、愛液とはまた別の滴り――僅かに噴出した血の筋に濡れている。

 心臓が止まりそうなほど驚く裕太の前で、アカネは懸命にその形を迎え入れようとしていた。

 

 終わらせる他ないと判断したのは、理性か、はたまた本能か。

 

 彼女の行為が成せるように身をよじった自分自身を、裕太は他人のように感じた。

 何かの破れる感覚が幻聴のように耳を伝って、少女は奥深くを貫いた達成感に悦びを上げる。

 

 「……は、ン……、挿入ったぁ……♡」

 

 互いに息を止めるようにして、次の行動には移れない。

 彼女の火照った頬を伝う涙は、同じゆとりのなさを示している。

 先程の血を一瞥して、裕太は問う。  

 

 「……痛く、ないの……?」

 

 息も切れ切れに、アカネは焦点の定まらない瞳を裕太に向ける。

 

 「……自分の心配、した方がいいよ? 偉いね、響君。挿れただけでイかなかったねー。……ご褒美」

 

 力なく裕太を引き寄せて、アカネがまた口付けをする。上も下も交わったままの高揚感は先の比ではなく、締め付けられるような肉の内でこれ以上はないだろうと信じていた硬直がより激しさを増す。

 その身の淵を荒らしたがるかのような官能を直に受け取って、彼女は恥じらいもなく感想を告げる。

 

 「あー、硬くなってる。すっごく熱いね……。ビクン、ビクンって。……これじゃ、全部筒抜けだねー」

 

 「……こんなの、絶対間違ってるって……」

 

 「今更遅いってば。――動くね?」

 

 正論は価値を失っているのだと、新条アカネは取り合わない。

 片手を裕太の肩に、空いた手で自分の口元を押さえながら、彼女は恐々と腰を浮かして、その身に咥えた肉棒をキツく擦り上げていく。それだけで興奮はいやに増して、赤黒い中腹まで垣間見えたその瞬間、彼女のストロークが狂おしいほどの未知を共有させた。

 

 「ん――♡」

 

 「――」

 

 再び腰を浮かせようとした彼女を、押さえつけるだけで精一杯だった。

 〝次〟を越せば止まれなくなる。アカネは、それをこそ望んでいる。

 感度の波が終息するのを待ってじっとする裕太の胸板に、彼女はぴったりと胸を寄せる。

 

 「んっ……もー、やっとノレてきたのに……。ここまで来たらいいっこなしだよ? ……それとも今度は、響君から動いてみる?」

 

 相手の顔が見えないよう抱き合って、耳を流れる言葉は全てが悪魔の取引のよう。

 彼女の中に囚われた欲望は、裕太が真に欲していることを当の昔に伝え、わなないている。

 耳たぶを食んで、舌先で舐ると、アカネは呪文のように唱えた。

 

 「――いいんだよ、響君は。私のこと好きになるまで、私のこと好きにして」

 

 ――真夏の只中にいるのだと思った。

 

 互いの体温が移って、溶けていく様が、夏の盛りを籠らせているのだと。

 これからすることが、白昼夢のように消えればいいと、裕太は自分を手放した。

 

 

 

 

 

 自分から抱え上げたのか、彼女から誘ったのか、その小柄を再び机に乗り上げさせて、一息に腰を引く過程を、裕太は覚えていない。

 

 「ふ……ッ……ぁっ……っ♡」

 

 彼女のヒダをめくる都度、小さな手で押さえた口から殺しきれない喘ぎが漏れる。それを奏でさせているのがこの突き立てている本性のせいだと思うと、より雄々しさは次をねだって同じ道を行き戻り、深く入るほど彼女の表情が眦を濡らして崩れていく。机に覆いかぶさるようにして僅かなスペースに両の手を預けながら、裕太の頬を伝う汗が彼女の胸に落ちる。仰向けの乳房は自重に引かれ離れるように真反対に垂れ下がって、彼女が何かを感じ取る度跳ねるように揺れ動いた。

 

 「――」

 

 先導なしに終えた最初のストロークで、アカネは瞼を閉じ、必死に声を出すのを堪えている。

 その顔を真下にして裕太は、自分も言われていたように、責めの句を絞り出す。

 

 「しんじょっ、さん、もっ……我慢……してるん、じゃ」

 

 慣れないピストンを続けながら目に焼き付ける彼女の面差しが、眉根を寄せて強気を被ったものに変わる。

 反論を紡ごうとする唇は、裕太の情欲を逆撫でする脆さを途切れ途切れに喘がせた。

 

 「どうてい……ン……すてた、からって、……ひびき、く……ンっ♡ なま、いき……♡」

 

 堪えようもなく漏れるその声が、彼女を辱めているという実感を強くする。一転攻勢の気鋭は律動を速め、少女のか弱い手では口を塞ぐことも難しくなっていく。その弱味を晒すまいと矜持が動いたのか、潤んだ瞳で彼女は言葉らしきものを懸命に発する。

 

 「ん……くち、ふさい、で……」

 

 その発言がもう少し遅ければ、彼女を乱れさせるこの運動は静止を取り戻せなかったかもしれない。意思で抑えつけ勢いを殺し、数分前まで自分を支配していた少女と被さるよう、裕太は唇を食む。舌は彼女との交渉を覚えていて、お互いを盛り上げるように押し合う。長く交わした口付けは彼女のペースを取り戻す一助になったのか、見合わせた目がこわばりをなくし緩んでいくのが分かる。無理矢理で始まったのに今は名残惜しいと感じながら唇を離すと、飾らぬ態度で彼女は言った。

 

 「上手になってきたね……」

 

 「新条さんはちょっと、余裕、なくなってきた……」

 

 飾らない気持ちで、裕太もそう返す。

 童女のようにむくれて、アカネは開いた足で裕太を背中から小突いた。

 

 「……繋がってるからって、ちょーし乗りすぎ。仕返しのつもり?」

 

 つんと半目でそっぽを向いて、彼女の足が苛立ちを乗せたリズムを立てている。

 この教室で起こった一切をなかったことにして、今の彼女の機微仕草だけをくり抜けば、とても微笑ましい反応だと、裕太は思う。事情抜きにして初めて、心からふっと笑えた瞬間だった。

 だから心根事、その感想は零れてしまう。

 

 「……その、自分でも、絶対変だって分かってるけど、さっきより、新条さんのこと、可愛いって思う」

 

 教室の隅で、友人に囲まれた見慣れた笑顔が、彼女の作り慣れた仮面だと知った今。

 今し方垣間見せたそれが彼女の素なら――無論暴力も策略もなしの話だが――この方がよっぽど魅力的だと、そう思ったのは本心で。

 振り乱れて半端に頬を隠した、彼女の髪を払う。

 

 「――」

 

 覗けた横顔は隙を突かれたように固まって、悪辣の限りを尽くしていた憎まれ口を叩かない。

 それに倣うように起きた変化は、繋がる彼女の内部が圧迫を強くしたこと。

 訪れた静寂は、裕太の勘違いでなければ、アカネが自身を落ち着けるまでに要したものだろう。

 何事もないように繕った半目の笑顔は、どこか強がりに赤らんでいて。

 

 「……ふうん、おちんちんこんなに硬くしてー、私のこと口説くんだー。それってもう、私のこと好きってこと?」

 

 「……違う」

  

 「じゃあ、穴があったら、誰でもいいんだ?」

 

 会話の優位を掴みたがっているように、アカネはせせら笑う。

 さっきの違和感を突き止めたくて、けれども半ば以上の本音で、交わる少女に裕太は言う。

 

 「……今はたぶん、新条さんのことしか、考えてない」

 

 他を考える余裕がないというだけの、場当たり的でしかない感情だけども。

 新条アカネが隠している歪んだ喜怒哀楽を暴きたいと考えてしまう自分は、快楽に思考の回路を焼かれているのだろう。痛みを伴うこの行為の果てを、彼女と知りたい、と。

 瞠目する彼女の瞳の奥を、自分の姿が映るほど真剣に見つめて、裕太は押し黙る。

 

 それに応えるように、彼女の奥が狭苦しく高鳴った。

 

 「――待って、今、ぜったい動かないで」

 

 焦りを散らす彼女の、恐らくは生理的な反応に、裕太は数舜呻く。それほどまでに彼女の身体が〝求めた〟収縮は、裕太の性器を強欲に咥え込んでいた。

 

 「膣内(なか)、締まってる……っ。新条さん、……感じてるの……?」

 

 全部が筒抜けの間で、アカネは紅潮した顔を腕で隠す。

 

 「そんな、わけっ」

 

 彼女の命令を聞く選択肢を端から度外視して、裕太は前振りもなく肉棒を引く。尋常でない太腿の震えと、卑しく垂れた愛液が床を落ちる音。ここにきて裕太には、ようやく気付けたことがある。

 

 偽りのない肯定に、今のアカネは感じ入る。

 

 全身が性感帯のように仕上がった今だから、言葉さえも価値を持つのか。それとも、彼女が根っこからは他者の肯定に飢えていたのか。その真相には至らずとも、責めるでなくもっと好意的な文言なら、裕太にも選べるような気がした。ゆっくりと差し込んで、近付く彼女の顔に甘言を呟く。

 

 「――新条さん、可愛い」

 

 ピクリと跳ねる肩。動揺にこわばる膣内。両の掌で鼻筋を覆うアカネの、色めきと負けん気を混ぜた声。

 

 「ハァ? ……そんなの、聞き、飽きて……っ ……ン……ッ♡」

 

 控えめな前後を繰り返すのが困難になっていく。甲高く極まった声を聴きたくて、オウムのように言葉を繰る。

 

 「滅茶苦茶、可愛い……ッ」

 

 「やめっ……♡」

 

 彼女の意思に反した一際強い締め付けに、憂慮の手綱が落ちていく。

 

 「ごめっ……! 抑え、つかない……!」

 

 柔らかく撓む尻に打ちつけるようにして、裕太は本能に律動を任せた。

 前後する身体の下で、涙ぐむアカネの口が、掌の下でだらしなく開いていくのが分かる。

 全てを秘して終えようとしていた営みは、廊下に響き渡りそうなほどの嬌声でルールを破った。

 

 「アッ……♡ や、だ。こ、え……ンッ、あ♡ ……はァァァッ♡」

 

 堰を切った鳴き声はピストンの度激しさを増して、アカネは口元を隠せず指の隙間で自分が侵されていく光景を目に焼き付けるようにしている。その手を邪魔だと思う程度には裕太も彼女を求めていて、腰の折れそうなほどの前傾で頭を近づける。

 

 「顔、見せて……っ」

 

 目と目で語り合う――そんなロマンチズムを掲げるつもりはないけれど、確かにその意図は通じ合った。彼女は裕太を奪うようにしてやや上体を起こし、形振りも構わず唇を食む。絡めた舌先は彼女の奥を目指す度に震え痺れ、唇を剥がす数だけ彼女の蕩けた顔を目にする。その小柄を抱き寄せて、正面の座位で腰を揺り動かす。

 

 「ン……♡ フチュ……♡ ふぁ……、あ♡ ……ア♡ あァ♡」

 

 みだりに彼女の膣内に形を刻んだ肉棒が、一際彼女の弱所を強く打つ。奥の部屋に届いた亀頭は痒みにも似た悦びを引き連れ、獣染みたノックを催促する。度重なる挿入はブレーキを踏み忘れたように勢いづいて、痛いくらいに汗ばんだ睾丸が作り上げた未知をせり上げる。悲鳴のように、裕太は告げる。

 

 「新条、さん。……出そう……!」

 

 裕太の知らないものをそれと知っているのか、引き千切りそうなくらいに裕太の服を掴んで、アカネが答える。

 

 「私、も♡ ……好きな、だけ……出して♡ びゅーびゅーって、いっぱい、流し、込んで……♡」

 

 彼女の両足が裕太を離すまいと絡む。腰から強く感じるその求愛に、欲望は益々歯止めを失っていく。火傷しそうな体温を腕に抱く。裕太の汗と自身の涙にふやけたアカネの顔が傍に在る。全部を受け入れようと首に回されたたおやかな手を、ほんの少し、愛おしいと思った。

 

 欲の脈動が頂点に達した。

 

 深々と根元から差し込んだ陰茎は全てを吐き出すためにその律動をやめる。

 

 「はぁ……ン……♡ キて、ひびき、クん……♡」

 

 「……ッッ! ――しんじょう、さん、出、る……‼」

 

 間欠泉のように飛び出る激流が、自分という筒から噴き上がる。

 

 小柄な体躯に全力で抱き締められながら、裕太は彼女の膣内(なか)を白く満たした。

 

 「――――ふぁあっっぁ♡ ハァッッ♡♡ アァンッ……♡♡♡ あついの、いっぱいきてるっ……ンッ♡」

 

 同期して絶頂を迎えた少女の奥を、体液が打ちつける。

 電流が奔ったように彼女は暫くビクついて、裕太にしがみ付いていた。

  

 「ハァ……ハァ……」

 

 互いに息を切らして、アカネの身体がしな垂れかかる。

 余韻に震える陰茎は、遅れた澱みを未だ断続的に放出していて、

 

 「フー……ふぅ……。……もぉ、まだ出してる……」

 

 裕太の肩に顎を乗せて、熱が途切れるのを感じてから、アカネは言う。

 

 「……好きなだけ、出したね。……あったかいね」

 

 脱力して全てを預けてくる彼女との情事がもたらしてくれたこの気持ちが何なのか、裕太には分からない。

 取り返しのつかないことをしてしまったという思いがある。

 自分をかき乱しながら、彼女を切に感じたかったというのも、本当で。

 行きずりの心で流されてしまわぬよう、気だるい頭を無理に動かす。

 

 「……その、さ。やっぱり、気持ちは変わらないから。……俺、新条さんのこと、好きになったりしないから」

 

 口では言い張れるのに、ぼやけたようなはっきりしたような脳内は、本当に裕太が想いを寄せていた人の実像を、しばらく描いてくれなかった。見透かすように、アカネが肩で笑った。

 

 「えぇ~。響君、そりゃないよぉ~。〝好き〟なだけ出したんだよぉ? ……だからほら、私の勝ちー」

 

 クラスで見せる普段のように、陽気に振舞うのも疲れたのか、やはりいつもの気勢はない。しかし言い分だけは尤もで、言い訳の余地もない彼女の結論に裕太の活路なんて見出しようもない。彼女に挿れた陰茎がまた息を吹き返さないことを、裕太は名前も知らない神様に祈った。

 

 「……こーんなにお腹に打ちつけて、言い訳できないよ? ……ねぇ、どんな気持ち? 私はまだ、響君のただのクラスメイトかな?」

 

 それが一番肝要なのだと、アカネは顔を見合わせ白旗が上がるのを待っている。

 その無邪気さに今は悪感情がないことを内に認めて、裕太は言語化に苦心する。

 

 「……好きとかじゃないし、ほんとは、嫌いになれた方が、楽なんだろうけど……自分でも、よく分からない。……変な気分」

 

 終始、彼女はムキになっていたように思う。

 その拘りが何と繋がっているのか、今はやはり考えられない。

 けれど、自分の存在意義として、手の届く限りを守り抜くと決めていた。彼女が敵意でぶつかってきたのだとして、自分はその腕の範囲から彼女を無視できるだろうかと、己に問う。

 

 自分の勝利を確信している、偽物の笑顔と相対する。

 

 これだけのことをした後でも、自分を隠すのが常になった彼女には、何か後ろ暗いものの気配がそこかしこに漂っている。きっと自分は、一欠けらも彼女を知り得ていない。生まれた感情は、純真な興味。

 『グリッドマン』という立場と照らし合わせて、裕太が答えられるのは、たった一つ。

 

 「――何かあったら、新条さんのことは、守りたいって、思うよ」 

 

 「……………………くっさ」

 

 言って、アカネは口を窄める。

 望む解答ではなかったかもしれないけど、機嫌を損ねたということは、ある意味で裕太の勝利と言えるのかもしれなかった。子供をあやすように空笑いして、何度も重ねたその唇を見る。視線を感じ取って、彼女がその形を開いたものに変える。待ち侘びるようなその機微は、裕太がそのようにしたいのだと、勝手に勘ぐったのか。

 

 たぶん、その通りだった。

 

 拙いアイコンタクトを交わして、裕太の方から唇を寄せる。

 

 舌を入れない触れ合いは、お互いを知る挨拶のような、初々しいキスだった。

 

 

 ●

 

 

 帰ったら『雰囲気』とか『ムード』とかいう言葉を、アレクシスに頼んでウイキ〇ディアから削除して貰おうと思った。

 

 きっとムキになっていた。

 

 自分が倒そうと躍起になっている巨人と同一的存在の少年が、思春期の片思いを後生大事に抱えていることが、知らず知らず癇に障った。その気持ちを裏切るまいとした抵抗が、最後までアカネをエスカレートさせた。

 

 だって自分はこんなに手こずってるのに。

 

 家でアカネが貧乏ゆすりしてる間、裕太は意中の誰かと明日は話せるだろうかなどと考えているのだ。

 

 ムカつく。

 

 けども、最後のは余計だった――ちょっぴりの後悔とたっぷりの愉快を胸に秘め、服を着直しながらアカネは会話を持ち掛ける。

 

 「ねぇ響君、さっき言ってた何かって、なぁに?」

 

 それが聞ければおさらばだ。

 

 疲れ切った今の裕太では、これから呼び出すアカネの刺客――ベストコンディションのアンチには敵わないだろう。

 

 まず、疲労しているというのが前提だが。

 

 絶対疲れてる。

 

 自分が疲れてるのだからそうに決まってる。

 

 じゃないとおかしい。

 

 〝アレ〟を引き抜く前にもう一戦されていたら、危うかったのは自分の方だっただろうと、アカネは心底から思っている。これだけ身を裂くような真似をしたのだから、破いたストッキング代くらいは元を取り返したい。

 すぐにでもシャワーを浴びに帰りたい気持ちを押さえながら、アカネは裕太とのお喋りを冥土の土産話として聞き流す腹積もりでいる。身を繕うまでの暇潰し。それ以上でも、以下でもない。

 裕太が口にした〝何か〟やら〝守る〟やらの真意は、本当はどうでも良かった。

 下を穿き直して彼は、アカネから離れるようにして、黒板を側にした辺りに立っている。

 性交を経て距離感を掴みかねてか、結局は諸々諦めたのか、迷いの空白を置いて彼は、

 

 「怪獣に、街が壊されたら、とか」

 

 本丸を突くように、アカネを見据えた。

 襟を結ぶ手を止める。

 友人の怪談に乗っかかるような気分で、アカネは自分を切り替える。

 

 「へー、それじゃ響君はヒーローだねぇ。かっこいいねー。他はどんな設定なの?」

 

 「……壊された街は、一晩で修復されるけど、いなくなった人は、過去に死んだことにされて、現実が変わってることに、誰も気づいてない。ウチのクラスメイトだって、もう何人も」

 

 悲しげに俯く彼の魂胆はずばりアカネが尻尾を見せることだろう。そんなボロを出しそうになったら、アンチを呼べばいい。携帯を取り出して、何時でも実行できるように火を噴く怪獣スタンプを押せるよう画面を開く。

 あとは気分次第ということにして、アカネはその話に付き合った。

 

 「しんどいねー。それでも戦うんだ。誰にも見て貰えないのに。正義の味方って疲れるでしょ? 何で頑張るの?」

 

 架空の出来事として語るにせよ、アカネの愛する『怪獣』と相反する『ヒーロー』の話題は、一家言物申したいものがある。

 誰しも抱く破壊の願望を具体化した『怪獣』が、街を壊す一大場面を掻っ攫うお邪魔虫。

 悪がいないと輝けもしない癖に、事が済めば報酬も求めず澄ました顔で帰ってしまって、怪獣を目当てにするちびっ子の気持ちなんて考えない。無償の献身を美徳とした誤った感性を植え付けて、潔癖の正義を押し付ける無頼の輩。

 見るだに疲れる。

 けれども、ヒーローが怪獣を倒さないと新しい怪獣を見れないのもまた事実で、舞台装置として痛し痒し、そんな憎しみともつかぬ思いでしか見れない相手。その役目を自分で背負う人間は、大抵ネジか外れているのがお約束だ。

 

 「俺が出来ることをすれば、少なくとも、守れる誰かがいる筈だから」

 

 響裕太も、そういう人種であったらしい。

 

 迷いのない顔つきで、彼はそう言い切った。

 

 「怪獣のこと、許せない?」

 

 「……うん」

 

 「怪獣が消してるのは、消えてもいい人かもしれないよ」

 

 「……そんな選別をしたら、俺はもう、誰も守れなくなる」

 

 「ヒーローが、でしょ? 響君?」

 

 嘘を下敷きにした会話は止め時を逸して、裕太の静かな怒りが肌を刺す。

 確信を秘めた面持で、彼は一歩を踏んだ。

 

 「いい加減、こんな探り合いやめにしよう。新条さん、何か知ってるんでしょ。俺とグリッドマンのこと」

 

 「なんのことかなー」

 

 「……」

 

 「……響君は、私が怪獣と関わってるって、思ってるの?」

 

 「じゃなきゃ、君が俺に近付いてくることに、説明がつかない」

 

 クラスの美少女に絡まれてラッキーぐらいの頭の軽さはないらしい。

 腹の出た眼鏡のご友人は素直だったのに――アカネは内心の苛立ちを殺意のポイントとして加点して、表面上は平静に茶番を続ける。

 

 「ふふっ、ほんとに響君に興味があっただけだよ? 記憶喪失って、なんか陰があるし、ラフティングでも皆に混じれてなかったし。そういうのって、構ってあげたくなるっていうかー。え~、どうしたら響君、私の疑い晴らしてくれるかな~」

 

 ぶりっ子風味に演出して、後ろ手に隠した携帯のスタンプを押す。

 

 打てば響く速度で、夜闇が景色を裂いたように、窓の向こうに怪獣が現れる。

 

 最初から鉤爪を出した臨戦態勢のオートインテリジェンス怪獣、アンチ。

 

 雄叫びを上げるように、彼は腕を広げ空を仰いだ。

 

 虚を突かれ放心した裕太に、アカネは見たまま伝える。

 

 「出たね、怪獣」

 

 「マジ……?」

 

 驚いて、そこからが早かった。

 

 裕太は即座に窓を開け放って、自殺志願の気があるのか飛び降りるように足を掛ける。

 

 勇ましく戦意に引き締まった表情で、アカネの方を振り向いた。

 

 「疑ってごめん! 新条さん! 俺行かなきゃ!」

 

 自分が策謀したことはいえ、ここまで即断即決な行動に踏み切れるとは想像もしてなくて、アカネは一般人染みた狼狽え方だとか男子受けの良い怯え方をつい忘れた。

 

 「ふぅん。ホントにヒーローなんだ。隠そうとしたりしないんだね」

 

 裕太は少し寂しそうに、弱く笑んだ。

 

 「新条さんは、明日には忘れる筈だから。――あ、あとさ、こんなことになったからっていうか、……それで埋め合わせ出来るものでもないんだけど」

 

 頭を掻きながら考えを纏めている暇があったら戦ってこいという本音をアカネは堪える。

 

 アンチは餌を待つ子犬のように大人しくしている。

 

 怪獣の出現でクラスメイトの帰ってくる気配がないということだけが、唯一の救いか。

 

 たっぷりとあった時間で自身を奮い立たせ、戦場に向かうお約束のように、裕太は言った。

 

 「……新条さん、明日さ。昼一緒に食べようよ。ほら、前に誘ってって言ってたし。スペシャルドッグ、今度は俺から奢るから。……俺、全然新条さんのこと知らないから。今はそれが、俺のやるべきこと、かな」

 

 アカネは目を丸くする。

 

 知らない宇宙の言語で口説かれたのかと思った。

 

 やけに青臭さが板についた彼に、アカネの疑問は募るばかりだった。

 

 「……それだけで、響君は、私のことも守ってくれるって言うの? 明日私が忘れていても?」

 

 青く澄んだ瞳で、少年は答える。

 

 「うん。守るよ。明日君が忘れていても」

 

 それが如何に的外れた発言なのか、彼は気付けもしないだろう。

 

 ちゃんちゃら可笑しい筈なのに、その向こう見ずな恰好付けが、不快でないのが不思議で。

 

 「好きな人にも、それくらい素直に言えたらいいのにね」

 

 名を知る気も湧かない彼の片思いに、捻った応援を送るのみとする。

 

 「……う。じゃ、じゃあっ、俺行くから!」

 

 狼狽えて裕太は、一も二もなく飛び降りた。

 

 のろのろと歩いて窓際に着き、彼の行く末を追う。

 

 見下ろせば大柄なスーツマスク男が裕太を受け止め、肩に担いで走り出している。

 

 グランドを走る姿はそれだけでなく、刀を束で腰にぶら下げた色白男がクラスメイトの宝田六花を抱え、金髪ツインテールとノッポの一組が内海将を斜めのアンバランスな神輿のようにして運んでいる。

 

 『グリッドマン』の一派なのだろう。

 

 あの巨人を呼び出す用意があるのかもしれない。

 

 アンチはもう暫く待ち惚けか。

 

 窓際に腕を預けて、アカネは先程の少年の蛮勇を思い返す。

 

 「身体許したからって馴れ馴れしくて、女の子の前だから張り切っちゃって、男子ってみんなああなのかなー。……単純」

 

 背中に女の子がいたら、それを守れる力があったら、誰でもああなるのだろうか。

 

 これでは自分は、物語のお姫様だ。

 

 そんなの柄じゃない、とアカネは思う。

 

 ヒロインなんて役不足。

 

 何故なら自分は、〝彼〟の敵対者だ。

 

 「あー、もー、全部上手くいってるのになー! ……なんなのぉ、これぇ」

 

 アンチの佇む、遠く青い空を背景にした、見慣れた街に向かって叫ぶ。

 

 最後に裕太と交わした、たぶん一番恥ずかしかったキスがふと思い起こされて、それを確かめるよう下唇に触れる。彼の熱は消え失せているようにも、仄かに残っているようにも思えた。

 そんな自分のいちいちが、乙女のようで腹が立つ。

 

 「………………おもしろくないんですけど」

 

 片足を上げ、コツリと床を小突く。

 

 アンチは餌を待つ子犬のように大人しくしている。

 

 もう長らく待ち惚けだ。

 

 景色に必要なもう片方を、今か今かと待ち侘びて、

 

 「――早く来ないかなぁ、〝響君〟」

 

 仇敵の呼び名が変わっていることに、アカネは気付けないでいる。

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