法国秘蔵の虎の子部隊──『六色聖典』。その名が示す通り、それぞれの分野に特色を持つ特殊部隊である。ゲリラ戦に優れた部隊、殲滅戦に優れた部隊、探知探索に優れた部隊など、『国』としてあらゆる局面に対応できることが強みだ。
その中でも特に、戦闘に特化した最強の部隊こそが『漆黒聖典』である。彼等は入隊と共に“席次”を振られ、その後は一般人と同じ生活を送る。しかしひとたび任務を命じられたならば、人類最高峰の実力をもって敵を殲滅する精鋭部隊だ。
隊長である第一席次などは、ユグドラシル換算で言えばレベル八十近くの実力を備え──そして神都の最奥で暇を持て余す『番外席次』に至っては、レベル百へと到達した超越者である。他の隊員達も、レベル帯にして三十から四十になる猛者たちが揃っている。
周辺諸国最強と持て囃される『ガゼフ・ストロノーフ』が、レベル三十に届くかどうかという事実を考えれば、漆黒聖典の異常性が理解できるだろう。しかしだからといって、法国がその強さに増長し、各国に戦争を仕掛けることはない。
彼等は人類そのものの守護者を標榜し、常に種族全体の利益を優先するのだ。法国の上層部などは、もし自らの死が人類に繁栄をもたらすとすれば、喜んで身を捧げるだろう。実際問題として、脆弱な人間種が現状である程度の勢力図を保つことが出来ているのは、法国の力によるところが大きい。
亜人種や異形種が侵略を企めばそれを察知し、迎え撃つ。他国家がビーストマンの餌場になりかければ、聖典の一つを差し向ける──もちろん国家として見返りは要求するが。もし人類にとって不吉な予言が詠まれたならば、たとえ国境を侵してでも確認に向かうこともある。
その過程で部隊が全滅の危機に瀕したとしても、彼等は
ナザリックが階層守護者『シャルティア・ブラッドフォールン』との不幸な遭遇戦は、漆黒聖典を壊滅寸前にまで追い込んだが──その一員たる『占星千里』の予言では、いまだ『破滅の竜王』の危機は去っていないと詠まれた。
あるいはその吸血鬼こそが竜王という可能性もあり、法国は最強にして最後の手段である『番外席次』投入を決断した。聖域に秘された例外の席次──なぜ彼女の存在をそこまでひた隠しにしていたかと言えば、それは『世界盟約』と呼ばれる、評議国との取り決めを破っているからに他ならない。
番外席次の存在そのものが約条を犯しており、それを評議国の竜王に知られたとなれば、国家単位での戦争が起こる可能性は極めて高い。しかし人類圏にヴァンパイア・ロードの血脈か──あるいはそれ以上の存在が放たれたとなれば、事態は急を要する。危険を推してでも吸血鬼の討伐は急務であった。
“化物”が野に放たれたというだけならば、彼等ももう少し静観の構えを見せただろう。しかしそれが吸血鬼ともなれば、放置は有り得ない。仲間を増やし、眷属を作ることができる存在を相手に、時間を与えるほど愚かなこともないからだ。
“中途半端な洗脳状態”が継続しているのならばともかく、討伐されたという情報もなければ、捕獲されたという話もない。忽然と消えてしまったのだ。早期に対象を討伐しなければ、国の一つや二つが滅んでもおかしくはないだろう。
かくして番外席次は、尋常ならざる知覚能力を持つ“真なる竜王”に存在を把握される前に、迅速に吸血鬼を討伐する任務を命ぜられた。そしてそれは彼女にとって──半世紀以上ぶりの外出であった。
「ふん、ふん、ふん~」
「遠足ではないのですから、あまり気を抜かれ過ぎぬよう」
「仕方ないじゃない。忙しくとも自由なあなたとは違って、聖域に閉じ込められっぱなしなんだもの」
「…気持ちはお察ししますが」
「心配しなくても、任務はちゃんと果たすわよ……対象を発見できれば、だけど」
「発見した段階で出陣していただくのが、もっとも望ましいのですがね…」
「発見した段階で全滅しないならね」
「ふ、耳が痛い」
破滅の兆しはトブの森にあり──その情報を元に、大森林を捜索する漆黒聖典達。番外席次を筆頭に、隊長である第一席次。第四席次“神聖呪歌”、第五席次“一人師団”、第十一席次“占星千里”、第十二席次“天上天下”。
総勢六名をもって、破滅をもたらす吸血鬼の捜索を行っていた。とはいえ戦力として期待されているのは、番外席次と隊長のみ。他の面子に関しては、能力の強化役、召喚した魔物による総ざらい、占いによる探知、技能による物理的な捜索を担う。
「…隊長」
「む、何か見つけたか?」
「…前方、かなり先だが……戦闘音だ。双方、かなりの実力と思われる」
「…ほう──クアイエッセ!」
「ええ。今クリムゾンオウルを向かわせました」
「総員、警戒たい──ちょっ! 勝手な行動は…!」
「ふぅぅーー!!」
「くっ……追うぞ!」
「は、はい!」
“天上天下”が何者かの存在を察知し、報告をした瞬間──隊長の指示を待たず、番外席次が飛び出した。元々人の指示を聞くようなタイプではないが、それにつけても現在の彼女は浮かれているのだろう。半世紀以上も外の世界にいなければ、それも当然の話だ。
「…! 隊長! 反対方向からも来ているぞ。四……いや、五人だ。おそらくあちらも気付いた」
「面倒な…!」
逼迫する状況ではあるものの、焦る隊員はいない。この程度のことで動揺していては、法国の暗部は務まらないということなのだろう。なぎ倒された木々を道しるべに、番外席次を追う面々。
──その先にいた存在は果たして、彼等にとって既知の人物であった。
「んー? どっちも吸血鬼じゃなさそう……あれ、なんか見たことある顔」
「──ぅげっ! な、なんでこんなとこに…!」
「戦いの最中によそ見とは、余裕でござるな。それとも増援でござるか?」
「追いついたか──勝手な行動は謹んでいただき……むっ、お前は……クレマンティーヌ? なぜこんなところに」
「うおっ…! あ、あの勇壮な姿…! 白銀の大魔獣…! 隊長、きっとあれは噂に聞く森の賢王──ぜひテイムさせてください!」
「クアイエッセ様、先に妹御のことを気にすべきでは?」
「…ん? はっ……クレマンティーヌ! なぜここに!」
「…ちっ! 相変わらず腹の立つ…!」
「さ、流石にこの人数を相手にするのは厳しいでござるな……戦略的撤退でござる!」
「──隊長、来てるぞ」
各々が思い思いに発言する、混沌とした状況──しかし場が静まる前に、さらなる闖入者が現れる。それはリ・エスティーゼ王国が誇る、五人からなる冒険者チーム『蒼の薔薇』であった。とある目的をもってこの森にやってきた彼女達は、『森の賢王』とクレマンティーヌの戦闘音を聞きつけてやってきたのだ。
「これは……どういう状況かしら」
「…ふむ。気をつけろよ、お前たち。あの風貌と、感じる強さ……おそらくエイが言っていた『漆黒聖典』だ」
「…これはこれは、随分と物知りのお嬢さんだ……お嬢さんでよかったかな? ところで、どこでそれを知ったかお聞かせ願いたい」
「隊長、おそらく『蒼の薔薇』です。ニグン殿が以前…」
「ああ、王国のアダマンタイト冒険者か。確かリーダーは王国の貴族……我らの存在を知っていてもおかしくはない──が、一目で看破する理由にはならんな。それに彼女を見られた以上、どちらにしても……ってうおいっ!? どこへ行くクアイエッセ!」
「森の賢王が逃げます!」
「捨て置け!」
「正気ですか!?」
「お前が正気なのか!?」
「おい、どうするラキュース。
「う、うーん……どうしよう。災厄の魔樹を放置するわけにはいかないし…」
「──っ! …その“災厄の魔樹”というのは?」
「トブの大森林の奥深くに眠る、太古の災厄よ。大魔神の一柱……封印が解けかかっているらしくて、私達はそれを止めにきたの」
脱兎のごとく逃げ出した森の賢王を、物欲しそうに見送るクアイエッセ。そんな彼を無視して、ラキュースと隊長が情報交換をし始めた。どちらも警戒は解いていないものの、双方ともに利があると見越してのことだ。
「…“占星千里”」
「ええ、おそらくは」
「では吸血鬼の方はまた違う……と。それはそれで厄介だな」
「…っ」
「…? どうかされたか」
「い、いや……なんでもない。その、きゅ、吸血鬼とはなんのことだ?」
「…先日、森の近くで人智を超える強力な吸血鬼が発生した。どこかに潜伏している可能性もある。あなた方は王都を拠点にしていた筈だな……何か知っていないだろうか」
秘匿すべき情報だらけの漆黒聖典ではあるが、件の吸血鬼に関しては、むしろ募るべき情報である。問いかけられたことにこれ幸いと、情報を開示する。そして“それ”に関して、『蒼の薔薇』の一人イビルアイが顕著に反応を示した。それはつい先日、記憶にも新しい“吸血鬼間違い”をされたことによるものだ。
「…! まさか、女の尻穴が大好きな変態吸血鬼のことか?」
「お前は何を言っているんだ?」
「い、いや……すまん。じゃなくて、そう、王都でそんな噂を聞いたんだ……少なくとも、難度にして二百五十は下らん……らしい。そうだな? ティア」
「そう言ってた」
「…! 変態かどうかはともかく、強さから考えて間違いないな……王都で間違いないのですね?」
「あ、ああ……いまいち信憑性に欠けるが」
情報の共有は終わり、二つのチームの間に、なんとも言えない沈黙が降り立つ。そんな状況を見て、静観していたクレマンティーヌがソロリソロリと後ずさった。幾度か逃げようとはしていたのだが、その度に番外席次に絡まれていたのだ。
「どこへ行くのですか? クレマンティーヌ。意地を張るのはやめて、そろそろ帰ってきなさい。額冠を返し、頭を下げれば神官長も命までは取らないでしょう……それほどに我等の実力は頭抜けているのです。今のあなたの行動は、人類という種族にとって多大な損失ですよ。兄として、私も一緒に頭を下げますから……ね?」
「どの口が言ってんだ…! …つーか額冠はもう取られちゃったし」
「えっ」
「えっ」
「…嘘でしょう?」
「いや、嘘じゃないし……ほら、エ・ランテルの騒動解決した奴。あれ『ぷれいやー』だったみたいでさー、殺されかけちゃった。額冠はあいつがポッケナイナイしたんじゃないかな」
「…クレマンティーヌ? 私はいまとても重大なことを聞いた気がするのですが」
「あ、法国の漆黒聖典として喧嘩売っといたから」
「クレマンティーヌゥゥーー! な、なんということを…!」
「いちいち狼狽えるなクアイエッセ。今なにもアクションがないと言うことは、そもそもクレマンティーヌの嘘か……ああ、『ぷれいやー』の方が信じていないという可能性もある。釈明の機会などいくらでもこよう──今は災厄の魔樹の方が重要だ」
「はっ……ったく、相変わらず憎たらしー。じゃあ──くひっ、『うんえい』って知ってる?」
「へっ?」
「ん? なに?」
「今、エイの名前を…」
「…エイ、『うんえい』……ああ、竜王国の英雄──『ウン=エイ』か。」
法国もまだ把握していないだろうと考え、運営の名を出すクレマンティーヌ。しかしそれに反応したのはラキュース達であり、予想していなかった方向からの返事に、彼女も疑問の声をあげる。そして第一席次の方はと言えば、こちらもクレマンティーヌの予想とは違い、その名前に反応を示していた。
浮浪者暮らしが続き、遂には森ガール(ガチ)にまで身をやつしたクレマンティーヌには、竜王国の近況など知る由もない。そして既に割と名を轟かせている英雄の名を、漆黒聖典が把握していない筈もない。勘違いは絡み合うが──全員が同時に言葉を発しようとした瞬間、地面の揺れと共に轟音が響き渡った。
──災厄の魔樹『ザイトルクワエ』が数百年の戒めを破り、遂には顕現したのだ。全長は百メートル以上にも及び、枝である触腕は広範囲への攻撃を可能とする。およそ人間に打倒できるような存在ではないだろう。しかし漆黒聖典最強の少女『番外席次』は、それを見て不敵に笑う。
「うわー……ふふ、すっごい。あれは私以外じゃ無理か……“番外席次が命ずる”──総員退避」
「──っ! 了解しました。全員撤退だ! …あなた達も逃げた方がいい。クレマンティーヌ、お前は我等と共にこい」
「へーへー」
「お気遣いありがとうございます──ですが、私達の目的はアレを討伐すること。お気になさらず」
「…失礼だが、もう少し身の程を知った方がいい。私一人でもあなた方全員を殺すことなど容易い……そしてあちらの彼女は、そんな私を一蹴するような存在です」
「素の実力が足りていないのは承知の上。でも──私達には勇者の力がある!」
「は、はぁ…?」
魔剣を握りながら、威風堂々と宣言するラキュース。イカれた人間を見てしまったと汗を流す第一席次であったが、その傍にいたクレマンティーヌは、何かに気付いたように眉を上げる。
「…あ、思い出した。蒼薔薇のリーダーって、あいつが『好きなタイプ』って言ってた奴か……となると……いまこの状況なら……くくっ……あいつ、
「なにをブツブツ言っている、クレマンティーヌ。まさか逃げられるとは思っていないだろうな」
「──試してみるのもありかなって、さ」
「なに? 貴様……私の実力を忘れたとでも言うつもりか」
「さあねー。くひゃっ……やれるもんなら──やってみなよ」
遠目にも巨大な災厄の魔樹──ザイトルクワエ。その存在に気付いた魔物や動物たちが一斉に逃走を始め、森がざわつく。そしてそんな状況の中、クレマンティーヌと漆黒聖典の間には極度の緊張が張り詰める。
腐っても人類トップクラスの強者であり、同格の隊員相手にやすやすと捕縛されるクレマンティーヌではない。もちろん、第一席次が動けばその限りではないが──それを知っているはずのクレマンティーヌは、目の前の元同僚たちを嘲笑った。
「まったく、余計な
「はっ」
「ふっ! ──……なっ!」
第一席次が動き始めた、その刹那。クレマンティーヌの体が光に包まれ、槍の柄による一撃を弾く。なんの痛痒も感じていないその様子に、第一席次は初めて動揺を露わにした。
「くくっ、どっかの神様がご加護でも与えてくれたのかしらー?」
「…ちっ、これ以上は時間をかけられん。撤退だ!」
「はっ! ──クレマンティーヌ! 帰ってくるのを待っていますよ!」
「誰が帰るかっての。バーカ」
現状の漆黒聖典にとって、クレマンティーヌはそれほど優先すべき対象ではない。得体の知れない力に手こずる可能性を見るや、早々に手を引く決断をした。先程の番外席次の命に従い、撤退を始める。
この場に残ったのは、番外席次とクレマンティーヌの二人のみ。無謀にも魔樹の方へ向かった『蒼の薔薇』を冷ややかに見ながら、番外席次は裏切り者へと声をかけた。
「ねぇ第九席次──お前は私が連れて帰るから、大人しくそこで待っときなさい」
「『元』だよ白黒馬鹿女。ろくに人の名前も覚えてられない、その小さな脳味噌に刻んどけ」
「…随分と調子に乗ってるじゃない。それに……どうせころころ変わる名前なんて、覚えていてもしょうがないでしょう? 私が聖域にいる間、どれだけ漆黒聖典の面子が代わったと思っているの?」
「あー……そっかそっか。くっ、ひひ……エルフが父親だから……寿命が永いものねぇ。ごめんなさーい、“強姦魔エルフ”の一人娘さまー」
「──」
クレマンティーヌの挑発に、番外席次は──静かにブチ切れた。ザイトルクワエから感じる威圧感よりも、更に濃密な殺気。それだけで死人が出かねない重圧が場を支配し、当事者達以外の一切の生命体が逃げ去った。
「もういい、死ね──なっ…!?」
「さっきの見てなかったのー? ほーんと、お馬鹿さん」
「…っ、くっ、この…! なんで攻撃が通らない!」
大鎌の一撃も、拳での殴打も、果ては頭突きまで試す番外席次。しかし衝撃すら通らない様子に歯を軋らせ、それでも意味のない攻撃を繰り返す。その強さはともかくとして、人生のほとんどを一人で過ごしてきた彼女は、まともな情操教育が行き届いているとは言い難い。感情面で未熟な部分が多々あるのだ。優先すべき敵を放置してまでも、クレマンティーヌを攻撃し続けているのがその証左だろう。
「このっ、この…!」
「効かないっつってんでしょー? レイプされて狂った母親に育てられただけあって、やっぱ頭おかしいんだー。神官長も嘆いてたよー? 『なぜあの母親の元に置いたのだ』って。くひゃっ、あははは!」
「──っ! うあ゛あぁぁぁ!! 死ね! 死ね! 死ねぇぇ!!」
「効・か・な・いっての。お馬鹿さ──ぶべらっ!?」
「あ、効いた……覚悟しろオラァァーー!!」
「うげ、ちょ、待っ──」
あまりに酷い罵詈雑言に、流石のご加護も匙を投げたのだろうか。馬乗りになってボコられるクレマンティーヌの悲鳴が、なんとなく哀愁を誘う。とはいえレベル百の拳打嵐を受け生きていられる筈もないのだから、何かしらの力は働いているのだろう。
「ふぅ、ふぅ……これくらいで勘弁してやる。私はあいつを倒してくるから、大人しく待ってろ……ん?」
ギャグ漫画のように腫れ上がったクレマンティーヌの顔を見て、ようやく溜飲を下げる番外席次。次は魔樹の番だと後方を振り返るが──彼女の視界に入ったのは、天を貫くほどの巨大樹が地に沈む瞬間であった。
「…え?」
それはもう──ラキュースが覚醒したり、その力が仲間に行き渡ったり、彼女自身が魔剣キリネイラムになったり、ネフィリムの秘紋が開放されたり、色々とあったようだが──その全てはクレマンティーヌがボコボコにされている間に終わってしまったようだ。決着がつき、天に剣をかざすラキュースの姿は、まさに勇者であった。
「うそぉ…」
「──リグリットが言っていた『蒼の薔薇』か……キーノも随分と強くなってるみたいだけど……何があったんだろう」
「…えっ? だ、誰…」
呆然とする番外席次の後ろに、いつのまにか現れていた白金の鎧。蒼の薔薇の勇姿を見届けた『彼』は、法国の裏切り
「君は完全に覚醒した神人だね? 随分と前から『世界盟約』は破られていたんだ……残念だよ」
「──っ! し、真なる竜王…!?」
白金の鎧──その操者である、真なる竜王の一人『ツァインドルクス=ヴァイシオン』。彼が発した言葉からその
──事態は加速していく。
■
何事も最初が肝心と言うけれど、僕もその言葉は至言だと思う。むしろ人生は“最初”に支配されてるまであるな。僕が世間一般的ではない嗜好になったのも、小学生の時に初めて見たエロ本がそっち系だったからに他ならない。今でもなんとなく覚えてる。ロリっぽい娘が赤鬼に追いかけられて、ぶっとい金棒で腹ボコされてるエロ漫画。
…よく考えたら父親も大概ってことだし、実は遺伝とかなのだろうか。まぁそんなことは置いといて、何が言いたいのかというと──レメディオスちゃんがキス大好きっ子になったという、喜ばしい事態について。
性体験の“最初”が濃厚なキスで始まったせいか、それが大好きになったようだ。いやね、僕もキスは好きだけど、レメディオスちゃんはそこから先に中々いかせてくれないので妙にもどかしい。昨日の晩に聖王国にきて、レメディオスちゃんとケラルトちゃんと致した訳だが、今日の朝から昼までの間に至るところでキスをした。本番は一発だけなので、色々ともどかしい。
「どうした? エイ」
「いや、なんでもないよ。ところでどこに向かってるんだい?」
「さっき言っただろう……修練場だ」
「いや、言ってない。絶対に言ってない」
「む……そうだったか? まあいい、とにかく付き合え。お前ほどの強者となら、きっといい鍛錬になる」
「うーん……ま、いいけどさ」
できれば二人きりでエロい鍛錬でもしたいもんだ。とはいえ無邪気に笑うレメディオスちゃんが可愛いので、言う通りにしてあげたい感が半端ない。本番オッケーでキスNGの風俗嬢がそれなりにいることから考えて、キスが愛情に及ぼす影響は結構あるんだろう。こっちにきて一番キスしてるのがこの娘だし、僕も割と影響されてるのかもしれない。
…あ、修練場って街の外なのね。まあ一定以上の実力になると周りに結構被害が出るだろうし、当然と言えば当然か。レメディオスちゃんの直属ともなると、かなり強い人ばかりだろうし。
僕達の姿をみとめた聖騎士達が、即座に集まって礼をとる。めっちゃバシバシ視線感じるわー。『こいつ誰?』感がすごい。新しい仲間だろうか、貴族のお偉いさんの視察だろうか、それとも……みたいな。
特に前へ出てる二人の聖騎士が、レメディオスちゃんへ微妙な視線を送っている。たぶん彼等が噂の『イサンドロ』と『グスターポ』さんだろうか。おつむがよろしくないレメディオスちゃんに代わって、色々と面倒事を背負っている副長さん達だ。『またアポもなく勝手に…!』みたいな感じなのかな。うん、頑張って。
「今日は教導官を連れてきた!」
「いや、聞いてないんだけど」
「いま決めた!」
「そ、そう…」
僕を含め、全員がレメディオスちゃんを胡乱げに見る。しかしこいつらよくこの隊長についていけるな。副長が倒れれば瓦解するんじゃないか? この部隊。まあとりあえず自己紹介でもするか。挨拶は人間関係の基本だし。
「えー……ご紹介にあずかりました──いや、紹介されてないな。とにかく『ウン=エイ』と……ん? あれ、ネイアちゃん?」
「あ、え、エ、エイさん…! お、お久しぶりです」
「ここにいるってことは、見習い卒業したんだ? うん、おめでとうネイアちゃん」
「は、はい…! …って、いえ、そうじゃなくて、その…」
「同期に相手がいなくなってねぇ、特別にこっちへこさせてるのさ。あんたが『ウン=エイ』さんか……ネイアが世話になったみたいだね」
おお、ネイアちゃんのお母さんか。にしては目が怖くないな……そういやあれって父親からの遺伝だっけ? 目以外はなんとなく似てるし、ネイアちゃんの可愛い部分はこの人からの遺伝なんだろう。レメディオスちゃんに次ぐ『くっ殺』が似合いそうな女傑って感じ。
さて、彼女が隊員に話した『娘の大成長』と、レメディオスちゃんが話した『自分が手も足も出なかった』という事実は、急に出てきた教導官への反発を零にした。おいおい、なんかこう解りやすい噛ませ犬とかいないのか? 『レメディオス隊長が認めたって、俺は認めねえぜ! 手合わせしろ!』って感じの奴とか。うーん……いないのか。まあエリート部隊にそんな馬鹿がいたら、既に死んでそうだしな。
「つーか教導とか言われてもなぁ……ネイアちゃんがちょっと特殊だっただけで、そこまで期待されても困るんだけど。純然たる技術だと、たぶんレメディオスちゃんの方が上だろうし」
「むっ……そんなことがあるのか? あの化物染みた強さで」
ネイアちゃんの場合はさ、職業と合ってない鍛練ばっかしてたから芽が出なかった訳さ。そこんとこをちょっと弄っただけだし……いやまあ経験値もちょっと上げたけど。まぁ今までの無駄な努力分と考えれば、相殺されてるんじゃないかな。
──とはいえそこんとこを上手く説明するのは、ゲーム脳を一切持たない彼等に対しては、少しばかり面倒だ。
「んー……じゃあ、ちょっとばかし講釈を。まず『強さ』には、大雑把にわけて二種類あります。はい、レメディオスちゃん」
「え? あー……け、剣と魔法か?」
「全然違います。というか槍とか拳とか全否定してない?」
「くっ…」
「さて、では強さとはなんぞやと。定義にもよるんだろうけど、これは『肉体』に依存した強さと『技術』に依存した強さにわかれます」
なんかみんなすっごい真面目に聞いてくれてる……レメディオスちゃんだけ難しい顔してるけど。運営チームの一人としてプレゼンしてる時みたいな感覚で、なんだか懐かしくなってくるな。
「基本的にこれは『肉体』の方が優位性を持ち、戦いにおいてアドバンテージを得ることができます。おおよそ百段階に分けられるんだけど……まあだいたい十近くも離れるとほぼ勝ち目がなくなるね」
「む、むぅ…」
「あー……わかりやすく言うと……そうだな。たとえばその辺の一般人とレメディオスちゃんが、中身だけ入れ替わったとするだろ? 当然、培った技術は圧倒的にレメディオスちゃんの方が上だろうけど──二人が戦ったとして、どっちが勝つ?」
「む……まあ流石に私の体を使っている奴だろう。いくらなんでも力と速度が違いすぎる」
「だね。とはいえ『肉体』のレベルがそう変わらないなら、重要になってくるのは『技術』の方だ。さっきの例を出すと……レメディオスちゃんの肉体をもった中身一般人と、肉体も中身も揃ったレメディオスちゃん。どっちが勝つ?」
「私だ。百回やって百回勝つ」
「うん、それも間違いないね」
ドヤってるレメディオスちゃんが中々可愛い。さて、言わんとすることはだいたい伝わっただろうか。副長ズは既に理解してくれてるようで、流石。というかこっちにも『レベル上げ』の概念自体はちゃんとあるみたいだしな。
「つまり技術を疎かにするのはいけないけど、重要度は肉体面の方が高いわけだね。理解できた? なら次はその『強さ』の上げ方について。『技術』の方については、君達がいつもやっていること……要は日々の鍛練がモノを言う」
「うむ」
「この辺は生まれ持ったセンスも結構重要だけどね。周辺国家で言うなら……帝国の『エルヤー・ウズルス』とか、王国の『ブレイン・アングラウス』なんかが、純然たる剣技では相当な腕前だ。まあどっちも犯罪者スレスレみたいな人だけど」
「…気にくわんな」
「強さと高潔さは比例しないんだぜ、レメディオスちゃん」
ちょっとアヒル口になったレメディオスちゃんも可愛いな。案外こういうところが人気の秘訣なのかもしれん。ちょっと和んでいると、イサンドロさんが話の続きを促してきた。間のとり方が上手くて、なんとも聞き上手だ。
「えーとそれで……そうそう、次は肉体面の方だね。まあこれもある程度は周知されてると思うけど、もっとも効率が良いのは──『殺害』だ」
ちょっと顔をしかめる人が多数。まあ嫌な言い方をした自覚はあるが、事実なんだからしょうがないだろう。モンスターだろうが亜人だろうが……もちろん人間だろうが、殺せば経験値が手に入る。これは検証済みだから間違いない。
「その『殺害』を前提にして、だ。『肉体』の強さを得る上で、もっとも効率の良い方法は? はい、ネイアちゃん」
「へっ!? あ、えと……数をこなす……でしょうか」
「惜しいところ突いてくるね。それも間違いじゃあないんだけど、もっと効率の良い方法がある。“格上殺し”──俗に言うジャイアントキリング」
ゴブリン千体殺すより、ギガントバジリスク一体殺す方がよっぽど効率が良い……とはいえ、それはゲーム脳寄りの考えでもある。蘇生が簡単にできない以上、格上にぽんぽん挑めるわけないしね。それはただの命知らずだろう。
そもそも強い存在がその辺に沸いて出るわけもないので、強くなればなるほど強くなりにくいという悪循環が発生するわけだ。
「この辺、ある程度は数値で表せるんだよね。さっき言った指標で言うと、同格からプラスマイナス五レベルくらいは『経験値効率が良い』相手ってことになる。それ以下だと得られる強さがガクッと下がるし、それ以上だと殺される危険の方が高い」
「なるほど……ちなみにその百段階で私を表すなら如何ほどでしょうか、エイ殿」
「十八、九ってとこかな。人類の中ではかなり強者の部類に入るから、誇っていいと思うよ」
「エイ、私はいくつだ?」
「レメディオスちゃんは三十前後ってとこだね。この辺になると、周辺諸国でもトップクラス……冒険者で言うならアダマンタイトかな。まあそれもピンキリだけど」
なるほど、と頷く聖騎士たち。まあ普段から立ち合ってる彼等だし、体感での強さとおおよそ合致してるんだろう。『流石は我々の隊長だ』という誇らしげな空気も感じる。
「エ、エイさんはどのくらいの強さなんですか?」
「僕? 僕は…」
ネイアちゃんが目を輝かせて問いかけてくる。セックスしたい。にしても、うーん……僕の強さって数値で表せないからな。だからって『最強無敵です』とか言ってもまるで荒唐無稽だ。小学生の妄想のがまだマシレベル。
「んー……百ってことでいいのかな。『肉体』の強さは、だけど」
「ひゃっ!?」
俺またなんかやっちゃいました? …じゃなかった。なんかネイアちゃんって都合のいいヒロインみたいな反応するから、なんか面白いな。つい虐めたくなっちゃうタイプってやつだろう。聖騎士たちがザワザワラッシュに突入しているが、なんとも居心地が悪い。
性技を褒められると嬉しいけど、強さを褒められてもなあ……所詮は大した努力もなく手に入れたチートだ。別に卑屈になるわけじゃないけど、僕の強さと彼等の強さって、物理的な側面では圧倒的に僕に軍配が上がるけど──どっちが尊いかって言われると間違いなく後者だ。
「んー……君らは百って数値に驚いてるけど、僕以外にもいるところにはいるもんだぜ。例えば法国の秘密部隊『漆黒聖典』なんかは、ほとんどの隊員が三十から四十近いレベルで構成されてる。中でもトップツーは八十前後と、後は僕と同じ百。世界に散らばる『真なる竜王』は大抵そのレベルだし、評議国の永久評議員『ツァインドルクス=ヴァイシオン』もそう」
「──にわかには信じられませんが……しかしエイ殿の仰ったことが真実ならば、彼等はどのようにしてその数字に至ったのですか? 同格以上の相手を倒したとしても、そう簡単に強くはなれますまい」
「あぁ……まあそこが人間種の脆弱たる由縁だよね。異形種ってのは
異形種は生き残りさえすれば、定められたところまで勝手にレベルが上がってく。対して人間種は、技能を会得しないとレベルが上がらない。そりゃあ淘汰されるわけだ。そのかわり、同レベル帯なら人間種がやや有利だけどね。
「…つまり漆黒聖典の者らは人間ではないと?」
「ああ、ごめんごめん。さっきの説明は竜王の方だよ。漆黒聖典がなぜ強いかってのは、国としてそういう政策をきっちり取ってるから。出生届、戸籍謄本、その辺りがちゃんと整備されてるから“才能”をしっかり掬い上げるんだよね。法国以外は『強くなれた筈』の人間がぽんぽん死んじゃうからさ……特にリ・エスティーゼ王国とかは」
「…なるほど。しかしその『トップツー』とやらの説明はつきませんな。カストディオ隊長の三倍以上もの数値を誇る御仁は、どう境地に至ったので?」
「ああ、それは『血』だね。この世界には偶に『プレイヤー』ってのが、別の世界からくるんだよ。六大神とか八欲王とか。そいつらの血を引いてて、かつそれを『覚醒』させたのが『神人』。生まれついての強者って奴だね」
「…失礼。少し理解が及ばなくなってきたのですが」
「話半分で聞きなよ。嫌な言い方するけど、君らが知ったところで大勢に影響はないし。彼等に敵対しないなら意味なし。敵対しても意味なし……言ってる意味わかるよね?」
ちょっと真剣な顔で《天地改変/ザ・クリエイション》を発動させる。街の方以外の、見渡す限りを溶岩地帯に変えてみた。その後、指パッチンで全てを元に戻す。上がった気温だけが、先程の奇跡を証明している。
「…とまあ、レベル百ってのは化物そのものだから。触らぬ神に祟りなしって言うだろ? そもそも真なる竜王は、一体を除いて世界に興味がないし……法国は基本的に『人類の守護者』ってスタンスだから。あれだけの強者が揃い踏みなのに、他の国を征服してない時点で証明されてる。だから君らは、今まで通り過ごせばそれが一番──ん?」
…なんか無力さに打ちひしがれてる人が多数。俺またなんかやっちゃいました? …いや、やっちゃってるやっちゃってる! ドラウ然り蒼の薔薇然り、問われれば答えるのが基本だったから、普通に言ってしまった。
そういえば彼女達は全然普通の人じゃなかったな。なんかそこまでどぎつい反応とか無かったから、それが普通だと思ってたわ。どうしよ。
…どうしよ。え? 僕が悪いのか? みんな心が折れたブレインさん状態になってない? レ、レメディオスちゃんは──寝てる! いつから!?
「あ、あー……えっと、そ、そんな無力さを嘆く人に朗報! 僕は『プレイヤー』を管理する側の人間でさ! ひ、人を強くするダンジョンの制作とかすっごい得意だから! 君らがよければこの修練場に一つ作るぜ! 目指せレベル百!」
聖騎士たちがガバッと起き上がった。うーん………ま、まあいいか。いや、むしろポジティブに考えよう。聖王国にエロダンジョンを造る許可を貰ったと!
ダンジョンマスター=エロ。これは確定的に明らか。みんながダンジョンの奥を目指す間、僕は聖騎士のオマンコを目指すとしよう。ダンジョンに出会いを求めるのは、なにも間違っていないとも。うん。
わお、アンケート機能とか実装されてますね。せっかくだから使ってみよう。暇な方はぜひお答えくだされ。
ストーリー8、エロ2くらいの割合にしてますがどうお思いですか?
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逆ゥー!
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丁度よい
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半々くらいが良い
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どちらともいえない
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エロはいらない