まあ流石に冗談だろうとは思いますけど。
あとすみません、今回はエロなしです。次の話はイビルアイメインのR18になる予定です。
エ・ランテル──冒険者御用達の安宿。駆け出しの冒険者がよく利用するこの宿屋だが、メインの客層はうだつの上がらない鉄級冒険者達である。新人であればすぐに死ぬか、あるいは駆け上がっていくか──そうでなければ彼等の仲間入りをするか。故にこの場所は常に底辺であり、中核をなすメンバーは古株が多い。
一階の酒場はもちろん自由席だが、こういった場所では大抵の場合において『定位置』が存在する。いわゆる『常連席』というものであり、新人が間違って座った際に絡むための決まりでもあった。
──当然、それなりに長く鉄級冒険者をやっているブリタにも定位置はある。そこが埋まっていたからといって因縁をつけるような彼女ではないが、他者からはそこが『彼女の席』という認識をされていた。
しかしその席には今、みすぼらしい花がボロボロの花瓶に活けられていた。明らかに死者を悼む目的で置かれたそれは、ブリタという女性が二度と帰ってこないであろうことを悲しく示していたのだ。そしてその机の前には──ぷるぷると体を震わせながら怒る本人が居た。
「…私は死んでなぁぁい! 誰よこれ置いたの!」
「やっべ、おい生きてたぜ」
「悪運の強い奴だぜ、まったく」
「乾杯だ乾杯! 強運のブリタに乾杯!」
「いやあ、寝覚めの悪さもこれで解消ってもんよ!」
「こ、こいつら…!」
死んだ筈のブリタが宿屋へ姿を現した瞬間、すわゾンビかと構えた冒険者達。アンデッドの大騒動は彼等の記憶にも新しく、彼女が化けて出たと考えてもおかしくはないだろう。そんな彼等にゲンコツをお見舞いしつつ、自らの生存を主張するブリタ。
なんだかんだで顔なじみの帰還が喜ばしいのか、昼間だというのに宴模様になる酒場。陽気に歌う彼らに大いなる憤慨と、少しばかりの感動を滲ませて彼女は口元をひくつかせた。そしてそんなブリタの肩に手を置き、宿屋の主人は帰還の祝いと重要な情報を伝える。
「なんにしても生きてて良かったな、ブリタ」
「へへ……あんがと」
「まあそれはともかくだ。お前さん、死亡認定されてるから早いとこ組合に顔出しといた方がいいぞ」
「ええぇっ!?」
「どう逃げ切ったかは知らんが、『クラルグラ』に会ったら礼でも言っておくんだな。あいつらがギガントバジリスクを討伐しなけりゃ、また出くわす可能性もあっただろうよ」
「…はあぁぁっ!?」
「ああ、俺もミスリル級があれを討伐したと聞いた時は驚いたが……よほど上手く戦略が嵌まったんだろうな。結成以来死人が出ていないチームだとも聞く。優秀な奴は上にあがっていくもんだ──今回の件でオリハルコンも近いって噂だぜ」
「いやそうじゃなくて……ギガントバジリスクは私の目の前で倒されたんだけど」
「…どういうことだ?」
「どういうこともなにも──ああもう! ちょっと行ってくる!」
「お、おい!?」
勢いよく駆け出したブリタを止められず、立ち尽くす宿屋の主人。そんな二人のやりとりを聞いていた冒険者達が、興味深そうに集まってくる。
「んん……なんだ、つまりクラルグラの奴らは他人の功績を掠め取ったっつーことか? おやっさん」
「…かもしれんな」
「だははは! そりゃいいや! 他のメンバーはともかく、リーダーのイグヴァルジってのはどうもいけ好かねえ奴だったからな……オリハルコンに昇格どころか、下手すりゃ白金に降格もあんじゃねえか?」
「うーむ…」
「なんだよ、歯切れ悪いな」
「いや、ブリタがそれを指摘したところで水掛け論になると思ってな。そうなれば後は発言力が物を言う……鉄級冒険者とミスリル冒険者の言い合いなんぞ、結果は見えてるだろう?」
「あー……そりゃそうか」
「あまり食い下がるようなら、立場がなくなる可能性もある。行ってやったらどうだ?」
「俺が? ミスリル級に物申しに行く馬鹿を止めろって? 冗談キツイぜ。それにそいつら目の前にしたら、アイツだって冷静になるだろ……だいたいメリットが何もねえじゃねえか。ブリタは損得勘定のできねえ馬鹿じゃねえよ」
「…それもそうか」
「そうそう! そんなことより酒追加だ!」
「先にツケを払え大馬鹿野郎!」
仮にクラルグラの悪事が明るみに出たところで、ブリタがギガントバジリスクを討伐したという訳でもない。ゆえにそれを指摘するメリットなどなに一つないだろう。偽証を叫んで組合での立場を悪くするか、あるいは証明されたところでクラルグラに恨まれるかの二択だ。
ブリタが正義感で動く類の人間ではないと彼等も知っている。だからこそ止める必要性は感じず、そのうち冷静になって帰ってくるだろうと考えていたのだ。
そう──彼女の三日間など知る由もない彼等は、そう考えた。しかしブリタは、師弟愛とまでは行かずともエイに恩を感じてはいた。その男の功績を掠め取ったチームへ憤慨するのは当然で──そしてその強気に相応しい力を得たことなど、現状では誰も知らない。
■
エ・ランテル冒険者組合。冒険者が依頼を探して賑わうこの場所も、現在は剣呑な雰囲気が漂う空間と化していた。それもこれも、宿屋の主人が危惧した通り──ブリタが冒険者チーム『クラルグラ』を糾弾したことに端を発する。
『たまたま死体を発見して持ち帰っただけだろう』『このホラ吹き男め』『これが上位冒険者のやることか』──などと組合で叫べば、騒ぎになるのは当然のことだ。加えてブリタの発言は、鉄級冒険者の嫉妬で済ませられるものではなかった。
なにせ他のメンバーが帰還した際、組合へ一通りの報告は済ませているのだ。その上でブリタという鉄級冒険者の生存は絶望視されており、組合としても強力な魔物が彷徨いている事態を放置できるわけもなく、早急な調査が望まれた──その矢先。クラルグラがギガントバジリスクの死体を持ち込んだのだ。
最後にギガントバジリスクを確認したのがブリタである以上、彼女の発言は無視できるものではないだろう。その諍いはギルド長『プルトン・アインザック』が出張る程の事態となり、冒険者組合は一時騒然としていた。
「なにがミスリルよ! 駆け出しからやり直した方がいいんじゃない!?」
「…っ! 言わせておけば…! 鉄級如きが調子に乗るなよ? …組合長も、このような妄言のために時間を費やす必要はないかと思いますが」
「それは我々の方で判断すべき事柄だ。生きたギガントバジリスクに対する最後の目撃証言は、彼女を追った際のそれだ。ならば一定の信用は置くべきだとも……無論、ミスリル級である君達を徒に疑うというわけではない。まずは詳細を問うべきだと言っているんだ」
ギガントバジリスクから逃れた後、どうしていたのか──そう問いただすアインザックに、ブリタは包み隠さず真実を話した。『ウン=エイ』と名乗る男が助けてくれたこと、弱さを嘆く自分に修行をつけてくれたこと、そして確かに自分は強くなったことを。
「ふむ……『ウン=エイ』……なるほど、噂通りの実力ならば確かに可能だろう。解体されて
「…! い、いや、それは…」
「もちろん罠を仕掛けた、あるいは奥の手を使用した可能性も十二分に残っている。このようなところで冒険者が手の内を明かす必要もない」
「あ、ああ……そうさ。だいたい竜王国の英雄が都合よく助けに現れて、修行をつけてくれただと? バカバカしい…! 妄想も大概にしておけ!」
「はぁ? 誰が妄想よ!」
ミスリル級ともなれば、その強さに相応しい“圧”というものが存在する。鉄級如きが耐えられるプレッシャーではないが──しかしブリタはそれを物ともせず、負けじと吼える。それを見たアインザックがどうしたものかと考え始めたその瞬間、組合の扉が開いた。
そこに現れたのは、エ・ランテルに存在する四組のミスリル級の一組──漆黒の英雄『モモン』であった。漆黒の鎧を纏い、二本の大剣を携える姿はまさに英雄。登録してから間をおかずミスリル級となり、その後なんの音沙汰もなかったことで様々な憶測が流れている人物だ。
「…む。なにか騒ぎですか? 組合長」
「…モモン君。色々と言いたいことはあるが──ひとまずは置いておこう。“野暮用”は終わったのか? …トブの大森林近くで凄まじい戦闘跡が確認できた。誰の独断専行かは知らんが、成した偉業を考えると……正式に手順を踏んでいればアダマンタイトは確実だっただろう」
「…奇特な人間もいるものですね。それより、これはいったい?」
「ふぅ……まったく、君は立場に執着しないな」
睨み合うブリタとイグヴァルジを見て、首をかしげるモモン。内密に吸血鬼を討ったであろうモモンと、オリハルコンへの昇格が危ぶまれる事態に取り乱すイグヴァルジとの差を見て、アインザックは二人の器の違いにため息をついた。そして諍いの経緯を軽く話し始める。
──もちろん、『ウン=エイに鍛えられた』というブリタのことも。
「…ほう。ならば話は簡単だ。彼女の言葉が真実かどうか──実力を見てみればわかるのでは? 鉄級を凌駕する強さを見せたのならば、その話の信憑性も高まるでしょう」
「…ふん、良い案だな。ブリタとか言ったか……裏の修練場で模擬戦だ。つまらねえ妄想ごと叩き潰してやるよ」
「上等よ!」
「待て、そんな安易な案を認める訳には……というより、ミスリル級と鉄級の模擬戦など──」
「ええ、そうですね。それに双方頭に血がのぼっているようですし、模擬戦で終わる保証もない。ですからここは、同じミスリル級の実力を持つ私が試してみるというのは? 部外者の私であれば、冷静に見極めることができる」
「い、いや、しかし…」
明らかにブリタの実力を知りたがっているモモンに、困惑を覚えるアインザック。イグヴァルジがモモンを煙たがっていることもあり、場の混迷具合は相当なものだ。早期的に事態を鎮静化するには、モモンの提案に乗るのもありだろうか──そう考え、アインザックは修練場の使用許可を出した。
そしてモモンの提案を静観していたイグヴァルジは、複雑そうな表情で腕を組んでいた。彼としても鉄級冒険者との戦闘に敗北する気はないが、それはそれとしてモモンの実力が己を超えているであろうことは気付いているのだ。どちらがより実力差の出る戦闘になるかは、わかりきっている。
一方モモン──もといアインズは、ブリタが本当に運営と接触したのか……そして接触したのならば接触したで、どれほど実力を得たのか気になっていた。彼にとってブリタという存在は『
折を見て記憶を操作する必要性のあった人物が、運営の関係者になったかもしれないとなれば、これはあまりよくない事態だろう。故に、本当に彼女が運営と接触したかどうか確認する意味合いも込めての、模擬戦の申込みであった。
──ちなみに彼の鎧の下はいまだにギンギンである。
「…確か君は先の吸血鬼戦での生き残りだったな。どこまで強くなったかは知らんが、今の実力なら──どうだ? 倒せる自信はあるか?」
ブリタの実力を推測する上での質問は、いくつか目的があった。要は運営がどの程度『考え無し』かという点だ。アインズも運営が各地で行動を起こしていることは認識している。そして明らかに
GMコールが『ただいま留守にしております。またのご連絡お待ちしております』などというふざけた文言になっている以上、それは確信犯だろう。運営が『どの程度まで好き勝手しているのか』『どの程度まで異世界に気を使っているのか』。これはアインズが異世界に存在し続ける以上、どうしても確認したい事柄だ。
弱い冒険者を気の向くままに強くしてやる──ああ、いかにも増上慢だ。絶対的な上から目線で、『良いことをしてやった』と自己に酔う行為だ。あるいはゲームキャラを強化するような遊びに近い感情かもしれない。
そして対象をどの程度まで強くしているのかで、運営の性格を多少は把握できるだろう。平均的な強さが異様に低い世界で、仮にレベル百付近まで強化したのだとすれば──運営はなにも考えていない、あるいは異世界への迷惑をなにも考えていない大馬鹿だ。
逆に既存の冒険者の枠に収まる範囲内だと言うならば、最低限ではあるにせよ、常識的な感性と考え方を持ち合わせている可能性はある。どちらにせよ見極める必要があると、アインズは《完全なる戦士/パーフェクト・ウォリアー》を発動して模擬戦に臨む。
「…たぶん、無理かな。夜に眠れなくなるほどじゃなくなったけど……まだ怖いもの。アレは何か……あり得ない存在だって、いまだに思ってる」
「…そうか」
戦士としての技術という点において、アインズのそれはいまだに未熟であった。技術のみをランク付けすれば、精々が銀級といったところだろう。しかしパーフェクト・ウォリアーによって百レベルの戦士と化した今であれば、その未熟さを見抜く者はいない。百レベル戦士の戦闘とは、正しく音速である。その力と速度は技量の低さを覆い隠し、見る者を畏怖させる。
──故に、目の前から一瞬にして消失したアインズをブリタが捉えたのは、彼が手加減をしたからに他ならない。しかし背後からの攻撃を長剣でいなした技術は、彼女の実力の確かさを、観戦している者達に一目で知らしめた。
オークとオーガに後頭部をかち割られること二十二回──実際に死んで得た体験というものは、しかと身につくものだ。脳漿をぶちまけた代償として手に入れた強さは、アインズの大剣を受け流す境地に達していた。
──言い換えれば、天賦の才能を持つ者が順当に手に入れる技術は、彼女にとって数十回死ななければ掴めない感覚であったとも言える。
「…ミスリル級、か。彼が自身をそう評価するならば、どの国のアダマンタイトも裸足で逃げ出すだろうな。そうは思わんか? イグヴァルジ君」
「ぐ…!」
「そして明らかに手加減はしているが……君はあの猛襲を捌き切ることができるか? ブリタ君のように」
「…くそ、ふざけやがって……鉄級が三日の修行であんな──ちくしょう、ありえねえだろうがよ…!」
剣戟はアインズによる一方的なものになっていたが、だからといってブリタを嗤う者は皆無だ。自分がそこにいれば、一合も持たず挽き肉になっているだろう──それが理解できたから。
戦いは佳境に入り、詰将棋のようにブリタは追い込まれていく。一手、足りなくなる。次の一撃でもう一手。更に次と──手詰まりとはこのことだろう。アインズが最後とばかりに二本の剣を交差させ、ブリタの長剣を弾き飛ばしながら首元で剣を止める。
誰が見ても決着はついた。アインザックが終了の声を発そうとし、周囲も高レベルな模擬戦に感嘆のため息をつく。が、ただ一人──ブリタだけは違った。エイによる素人考えな修行による弊害と言うべきか、彼女は
傷を負っても終わらない。体力が尽きても終わらない。死にかけても、そして死んでも終わらない。無数の敵がひたすらに襲いくる状況が三日も続けば、身につくのは防衛反応よりも攻撃本能である。
己がどうなろうと、敵の急所を攻撃し続ける──職業として『狂戦士』を手に入れた彼女は、首筋に剣を突きつけられた程度では止まらなかった。
「うおらぁぁーー!!」
「ぐおぉぉっ!?」
剣を弾き飛ばされたならば、手で、足で。戦いに狂った戦士は的確に急所を──男の急所を蹴り上げた。男の比率が多い冒険者という職業故に、観戦していたものもまたほとんどが男だ。残像が見えるほどの速度で股ぐらを蹴り上げられたアインズを見て、周囲の者も思わずゾッとした。
とはいえ、三十レベルにも届かない程度のブリタの攻撃がアインズに通る筈もない。人間だった頃の残照で悲鳴をあげはしたものの、ダメージが入ったのは精々が鎧までだ。頑強な骨の体は傷一つ付いていない。
「け、決着はついただろう!?」
「へっ? …あ、ご、ごめん……つい癖で」
「どういう癖なんだ…」
ブリタへ突っ込みはしても、攻撃自体にはまるで痛痒を感じていないアインズに、周囲の冒険者達から尊敬の目が向けられる。そしてアインザックが今度こそ制止の声をあげ、模擬戦は終わりを迎えた。
ブリタの強さは鉄級の枠に収まるようなものではなく、オリハルコンは確実……ともすればアダマンタイトにも届きうる水準だ。元高位冒険者として確かな選定眼を持ち合わせているアインザックは、彼女をそう評価した。
モモン共々エ・ランテルで囲い込めば、王都の組合すら凌駕する戦力となるだろう。既にクラルグラとの諍いの件など思考から追いやり、ブリタをどう昇格させていくか考え始めたアインザック。いくら多数が彼女の強さを目撃しているからといって、それだけで高位の級を認定する訳にはいかない。ミスリル級以上には、誰もが認める偉業が必要なのだ。
とりあえずモモンには無理やり吸血鬼の件を認めさせ、アダマンタイトになってもらおう──そう考えてにこやかに二人へ近付くアインザック。しかし事態は彼の思惑から外れ、盛大な
──アインズの尊厳と共に。
「…へっ?」
「…ん? ──はっ…?」
「で……でかい!」
「どっちの獲物もすげえな…!」
「つーかなんで勃ってんだ?」
「まさかブリタで…?」
「いや、戦闘に興奮するバトルジャンキーってやつじゃねーか?」
「なんにしてもでけえ…!」
──ひび割れた鎧の股間部分から、雄々しく屹立する巨大な肉棒。それを見た周囲の者達は、ゴクリとつばを飲んだ。男にも女にも、等しく畏敬の念を抱かせる存在感。まるで心臓のように脈打つ陰茎は、数少ない女性冒険者の下半身を疼かせる。
ブリタの蹴撃による衝撃は、アインズ自身に効果はなかったが──鎧にはしかと届いていた。もちろんアインズの魔法によって作製された以上、その堅固さは確かなものだ。しかし百レベルであるアインズ自身の肉棒が、常に内側から圧力をかけ続けていたのだ。ブリタの一撃は呼び水であり、雌穴を求めてやまない陰茎が、抑え込まれ続けたが故の復讐でもあったのだ。
「…エ、エイよりでか-い…」
「…」
「モ、モモン君? あー……そうだ、いい娼館があるのだが今晩にでも…」
「…」
「くそ…! なにもかも上をいってやがる…! 気に食わねえ…」
「…あ゛あ゛ぁぁぁ!!」
「モモン君!?」
アインザックによる娼館への誘いは、これで二度目だ。一度目は娼婦に排卵誘発剤まで飲ませ、モモンをエ・ランテルへ根付かせようと画策していた。そしてそれを覚えていたアインズは、あえてそれに乗り肉棒を治めようとこの街へ足を運んだのだ。
つまりアインザックの提案は渡りに船であったのだが──このような状況でそれに応じるほどの度胸を持ち合わせていれば、そもそも童貞など卒業しているだろう。まるで高位の大治癒でも食らったかのように苦しげな声をあげ、アインズは転移した。
「なっ…! 転移魔法!? あれほどの技量の戦士が、高位の魔法まで…!」
「う、嘘だろ…?」
最強の戦士。しかし高位の詠唱者。そして巨根。いまこの時より、アインズの二つ名は『漆黒の英雄』ではなく──『黒光りの英雄』となった。そして彼の“夜のお世話”をしているであろう『美姫』ナーベもまた、『ブラックホール』などと囁かれるのであった。
■
エロ──それは人によって見え方が異なるものだ。低俗であり、崇高である。浅くもあり深くもある。子作りではなく快楽を得るためだけの性交は、神に背く行為だと声高に叫ぶ者もいる。エロの在り方は千差万別、多種多様だ。
しかしあらゆるものに通ずる『飽き』という観念からは、エロも逃げられない。世の中にありとあらゆる性癖が溢れているのは、それに抗う先人たちの、飽くなき挑戦の結果なのだ。『好きなものが好きでなくなる』──これほど不幸なことがあるだろうか。
だからそれを避けるためには、努力が必要だ。『好き』に努力が必要なんて、それはもう好きではないのでは? と揶揄する人がいる。けれど、個人的な見解では間違っていると思う。肉が好きだからって、そればかり食べていては気持ち悪くなる。たとえ野菜が嫌いでも、それを付け合せるからこそ肉の旨味がより映えるのだ。
つまり何が言いたいかというならば、新しいシチュエーションの開拓である。セックスへの『飽き』とは、つまるところ心因性の勃起不全に繋がる。せっかく極上の女性達と繋がりをもてたんだから、いつまでもいつまでもそれを幸せだと感じてたいじゃん?
となれば、やはり必要なものは新しいなにかだ。同じ女性とセックスするにしても、場所や趣向を変えれば新鮮味が増し、当然ながら興奮も増す。マンネリを回避する努力は、常に怠るべからず。それがセックスへの──ひいては女性への敬意というものだ。
というわけで、新たなシチュエーションを切り拓くと同時に……イビルアイと仲良くなるためのイベントもこなしていきたい所存である。といっても──もうそれなりに仲が良いし、なんなら押せ押せでいけばセックスさせてくれそうな気がしなくもなくもないくらいではあるんだけど……やっぱり永い付き合いになるのなら、より親密な関係でいきたいものだ。
女の子には基本的に“素”で接しているけど、それでも多少なり被ってはいる。人間関係としては当たり前のことだし、なんなら誰とでも同じように接する人のほうが珍しいだろう。だから本当の本当に素で接してるのは、ドラウとかイビルアイとか──つまり寿命が長かったり、あるいは不老だったりする存在だけだ。恋人であると同時に良き友人でありたいというのは中々贅沢だろうが、彼女達も彼女達でそんな節を見せることがある。
人間としての短期的な視点と、人外としての長期的な視点の両方を持ち合わせた、長寿特有の精神性なのかもしれない。僕だって前世を考えればそれなりに長生きしてるし、あまり普通の感性とは言えないだろう。何かしら通ずるものがあるのかもね。
──さて、前置きが長くなってしまった。結局なにをするかっていうと、『記憶の操作』だ。誰もが一度は思ったことはないだろうか? 『記憶を消して、もう一度あの作品を見てみたい』……なんてことを。
伏線がうまいこと回収される作品や、思いもしない結末を迎える作品などに対して、特にそう思える。結末を知っているからこそ二度目三度目を堪能できるとはいえ、やはり初めての感動を二度と味わえないのは悲しいものだ。
しかし今の僕ならば、自身の記憶操作すら可能だ。それを利用して面白いイベントを開催したい。ぶっちゃけると、僕にとっても割とリスクとかありそうなイベントなんだけど──だからこそやってみたいってのはあるよね。
なんたって『運営』だ。自分自身で危ないことをしない限り、ハラハラドキドキなんて味わえるものじゃない。ちょっと危険なことをしてみたいなんて──それは僕だけじゃなく、どんな世界にもどんな人種にも共通する感性だろう。
死亡率三割超えの登山を敢行する人間も、少なからず墜落死する可能性があるのにスカイダイビングを趣味にする人間も──あるいはバンジージャンプで遊ぶような人間も、その大元は同じだ。
スリルなくしてカタルシスは得られない。立ち向かうハードルが高ければ高いほど、超えた時の快感は大きい。それは現実でも創作でも同じことで、楽しさとはヤマでありオチなのだ。だから僕もそれに倣って、多少の無茶をしてみようと思う。
このイベントにおいて一番重要なのは『どれだけ自分を理解しているか』だ。自分がこういった状況に陥れば、きっとそう行動するだろう──それをどれだけ理解しているかで、どういった方向に進むのかも決まる。
──ではでは、タイトルを決めてから随分経ってしまったけれど……『失われた記憶と偽りの恋慕』、始まります。
■
「…い! おい! ──大丈夫か? なにをやっているんだお前は…」
「…う……あ…?」
…視界がぐらぐらする。というか誰の声だ? 父さんでも母さんでも、お姉ちゃんでもないが──なんだか心配されているようだ。体の感覚が戻るにつれ、硬い床の感触が不快感を訴えてくる。ぼやけた目に入ってくるのは、知らない天井だ。
というかあの灯りはなんだ? モダンといえばいいのか、およそ近代的とはいえない不可思議な形だ。そもそも眠った記憶もないのになぜ“目覚めた”んだっけか……うーむ……むむ……ああ、思い出した。
大学へ行く途中、トラックに轢かれそうになったんだった。反射神経の申し子と言われた僕が華麗に左へ避けたら、あろうことか運転手も右にハンドルを切りやがったのだ。響く轟音、凄まじい衝撃……で、そこで記憶が途切れた。
生きてるんなら病院の筈だが、上体を起こしてみれば血色の悪い幼女が心配そうに覗き込んでくる。はい、異世界転生ですねわかります。なんか変なマントとか着てるし、これはもう確実に剣と魔法の世界だろう。そうか……あれが噂に聞く転生トラックだったのか。サイン貰っとけばよかったな。
「エイ、大丈夫か? まったく……雑に扱うからそうなるんだ。錬金術とは本来繊細なものなんだぞ? 適当に調合などするから爆発するんだ……当然のように無傷なのはアレだが」
「…」
「…エイ?」
…ん? ちょっと待て、これはもしや転生ではなく……誰かに魂が憑依したとか、そっち系なのか? オイオイオイ、やめてくれよ神様。つまり僕は間違いなく死んでて──その上で異世界の人物の体を乗っ取ったってことになるじゃないか。
「ちょっと、変な音がしたけど……大丈夫?」
「危ないお薬のにほい……どうせまた変なクスリでも作ってた」
「つーか宿屋で実験すんなよな。金で解決するつっても、限度あんぜ? おい……エイ?」
どやどやと部屋に入ってきたのは、金髪美女に双子の忍者にいかついおっさん。この体の持ち主の仲間だろうか? うーむ……どうすべきか。相手の立場にたって考えるならば、今の状況は非常に危険が危ない。仲間が見知らぬ他人に乗っ取られたとか、超お怒り案件だろう。
剣と魔法の世界であれば、悪霊に取り憑かれたとかそっち系の判断もあり得る。だったら事情を隠すべきか……うーん、それもどうかと思う。死にたくはないけど、もう死んでしまったのは確かっぽいのだ。他人の人生を破壊してまで生き延びるのは、ちょっと心苦しい。
僕は小市民なんだ。常に罪悪感を抱えてストレスだらけの人生を送るのは、勘弁願いたい。ここは正直に状況を申し出て、どうにかこの体を持ち主に返却したいところだ。ただ──もし同時に存在できるなら、たまに体を貸してくれる状況にもっていけたら万々歳だろう。
せっかく自我が消滅しなかったのだから、面白おかしく生きたいものだ。なにせまだ童貞だしな……ああ、使用できなかった我が息子よ、すまんこって。
「あー……『エイ』って僕のこと言ってる……よね?」
「はぁ? お前がエイじゃなかったら誰がエイだってんだ」
「いや──非常に申し訳ないんだけど、僕はその『エイ』じゃないんだ」
「…っ! ま……まさか…!」
「ん? なんか心当たりあんのか? リーダー」
「エイの内に眠る……ネフィリムの欠片が覚醒した…!?」
なに言ってんだコイツ……いや、待て待て。ここは明らかに現代日本ではないのだ。あちらでは痛い中二病発言だとしても、こっちではマジのガチという可能性はある。
「アホか。さっきの爆発でおかしくなっているだけだろう。それで? お前がエイじゃないならどこの誰だというんだ……どうせからかっているだけだろうがな」
明らかに僕の発言が信用されていない気がする。まったく、元の体の持ち主はろくな奴じゃないようだな。普通、仲間がそんなことを言い出したらまず心配するだろうに。
「…でも嘘は言ってない」
「同じく」
「…なに?」
ん? 双子の忍者ちゃんはちゃんと信じてくれたようだ。というか、なんだ嘘は言ってないって。嘘を見破る技能でも持っているのか? 本音と建前が殴り合っている現代日本じゃ、生きにくそうな能力だな。しかし今この時であれば非常に助かる。
しかしまあ……とりあえず、なんとなくの力関係は見えた。こう見えても人間観察は得意なのだ。リーダーと呼ばれた金髪美女は、そのままリーダーだろう。しかしもっとも態度がでかいのは、あの顔色の悪い幼女だ。お偉いさんの孫とかそんな感じ?
おっさんだと思っていた人は女性のようだが、見た目とは裏腹になんとなく気遣いができる雰囲気を感じる。パーティの調整役とかかもしれんな。双子の忍者は……綾波とかタバサ的な独特な喋り方をしてるけど、感情の起伏が薄いというわけではないようだ。というか異世界に忍者ってどういうことだよ。よくある『極東の島国』的なとこ出身なのか?
「や、やっぱり……これは私に与えられた試練…! 失われたネフィリムの秘紋が覚醒する兆し…! エイ、よく聞いて! …あなたは“失われた世界の管理者”。私のために、この世界にあまねく“最古の管理者”と敵対することになって…」
「う、うん…」
どういう運命背負ってんだよこの体。誰も突っ込まないということは、本当の本当にガチなのか? 一応よく聞いておくべきか……頭が痛くなってくる。しかしそんな超常の存在が関わっているからこそ、別世界の魂が入り込むという異常な事態が起こったとも考えられるな。
『ネフィリム』『管理者』……それに『太古の厄災』。絶え間なく喋り続ける金髪美女の話を、要点だけ記憶に留めて整理していく。うーむ……もしかして体の持ち主の魂はその『管理者』に囚われたとか? 空っぽになった体に、別世界の魂が入ったとか。どこの少年誌展開だ。
「…それで、私の中に眠る彼の魂が……“白亜の空間”での修行が……そして……」
とりあえず三十分は経過したと思う。これは本当に覚えておくべき情報なのだろうか? 記憶容量の無駄であると、僕の直感がひしひしと訴えてくるのだが。心なしか他のメンバーも面倒くさくなってきている感。
「そ、それでね……試練に打ち克った私と契約を……そ、その契約っていうのが…! そ、そして私は災厄の魔樹と…」
一時間くらい経ったかな? いかつい人は飽きてどっかに行ってしまった。幼女はベッドでゴロゴロし始めて、双子の忍者の片割れとよくわからない攻防を繰り広げている。あの忍者はレズでロリコンとかなのだろうか。救いようがないな。
「…それで……それから……うんたらかんたら…」
ダメだ、もう頭に入ってこない。もういいや、直感を信じよう。この娘の言ってることは覚えなくていい。このままじゃ更に数時間くらい続きそうだし、適当にはぐらかしておこう。たぶん中二病患者だし、意味深なこと言っとけば勝手に解釈してくれるだろう。頑張れ僕、エヴァ信者を前にした庵野になりきるんだ…!
「ラキュース」
「それでね……えっ? あ、う、うん…?」
「君の話を聞いて、僕もなんとなくそう思ったよ! ネフィリムを取り戻すために何をすればいいか──君にはもう解ってるね? さあ、早く! あまり時間はないようだ」
「──! わかったわ! 私は試練の間に行ってくる……あなたの契約者として、必ず記憶を取り戻すから……待ってて、エイ」
「ウン、ガンバッテ」
部屋の外へ飛び出していく美女を見送って、ようやく一息ついた。ベッドの上の攻防も決着がついたようで、頭に大きなたんこぶを作った忍者が、涙目で床に突っ伏している。片割れが慰めながら姉(妹?)を背負い、部屋を出ていく。え? ちょ、おいおい僕の処遇はどうなるんだ……みんな薄情すぎない? それとも別に仲間とかではなかったのだろうか。
「記憶がないのは本当みたいだけど」
「どうせまた何かの遊び」
「ずっと戻らなかったら手を貸す」
記憶を消す遊びってなに!? この体の持ち主ってどういう存在なの? まったく訳がわからんな……残された幼女は探るようにこちらをうかがってくるし、なんだよもう。自由に行動しちゃっていいのか? チュートリアルは? なんかチートとかないのか神様……いや、ネフィリム様。
「…本当に記憶がないのか?」
「いや、だから記憶喪失とかじゃなくて……別人なんだって。僕が僕である記憶はちゃんとあるよ」
「…」
疑るように僕を睨めつける幼女。ぐるぐると僕の周りを彷徨う様子は、警戒する子猫さながらだ。そして何かを思いついたように手をぽんと打ち、僕の膝の上に乗り出した。この歳で対面座位とか、中々レベルが高い幼女だ。
…と、なるべく動揺を表に出さないようにはしているのだが──いかんせん、僕はロリコンの童貞である。こんな美幼女にくっつかれたら、手が出る前に口から心臓が出そうだ。緊張すると勃たないってほんとなんだね。いま血圧を測ったら異常値を叩き出していることだろう。甘ったるい香りが鼻孔をくすぐってきて、心臓が早鐘を打っている。
「…ふむ」
「な、なんだよ?」
「いや……こんなことで赤面するとは思ってもみなかった。いつもならそっちから抱きついたり揉んだり触ったりと、変態そのものだったからな」
どんな変態だよ。というか──女の子にこんな密着されることはそうない。ドギマギするのは仕方ないだろう。努めて冷静を装っていたのだが、見透かされているようだ。つーか体が冷たいというか……体温感じないな。子供ってもっと暖かいイメージだけど。
「…別人なのか記憶がないのか、なぜ判断できる?」
「へっ?」
「ある一定までの記憶がすっぽぬけただけかもしれんだろう? 私達に見覚えがないからといって、別人だというのは──」
「いや、そもそも明らかに世界が違うし……体だってどう見ても僕じゃないし」
「お前は最近『こちらの世界』に来たと言っていた。姿も自由自在に変化できるだろう? ならば根拠とするには薄いな」
「それ人間やめてない?」
「力は神そのものだな」
なんだ別世界って……そういうのって認知されてるのか? しかし彼女の言葉を信用するならば、記憶が抜けただけの可能性も確かに否定はできないな。トラックで転生して、チートを手に入れて……好き勝手やった後に記憶が抜けたとか? だとするとどうなってんだチート、僕の記憶もちゃんと守れよチート。
「そもそも、別人にしては言動や雰囲気がそのまますぎるぞ。ティアの発言がなければ、単にからかわれているとしか思えん」
「うーん……そっか。ならどうすべきかな……あ、えっと名前は…」
「…イビルアイだ」
「イビルアイちゃん、ね。一応──うん、一応ヨロシク」
「ちゃん付けはやめろ」
「おっと、大人扱いしてほしいお年頃だったか。そりゃあ失礼」
「お前より年上だろうが! …ああ、忘れているんだったな…」
…ん? 幼女が僕より年上…? ははあ、これはもしやロリババアというやつだろうか。血色が悪いのは、もしかして吸血鬼だからとか? ロリババアと言えば狐娘か吸血鬼娘だと相場が決まってるしね。
「もしかして君って……人間じゃなかったり?」
「ん? ああ、そうか……そうだとも、私は吸血鬼だ……気味が悪いか?」
「じゃあ吸血行為がセックスに相当するってほんとなのかい? ──ぐふぅっ!?」
「いま確信したよ。お前はエイだ」
「もうちょっと感動的な場面で言ってほしかったな、そのセリフは……ん? あれ、痛くないな…」
いくら幼女とはいえ、かなり腰のはいった一撃だった筈だ。まったく痛くないというのは違和感だが……イビルアイが言うところによると、僕はちょっと反則的な存在であるらしい。やあ、やっぱりちゃんとチートしてるじゃないか。サンキューネフィリム。フォーエバー管理者。
「さて……まあ別人なのか記憶が抜けてるのかはわかんないけど、どうすればいいのかな。なんか良い案とかない?」
「そうは言ってもな。そもそもなんの薬を作っていたんだ?」
「いや、そう聞かれても。僕に対する僕の認識は、一般人でしかないし……どこにでもいる学生だし、家庭も一般的な中流家庭だよ」
「…! ふむ…」
ん? なにやら幼女が複雑な顔をしている。これはどういった感情だろう……うーむ……『興味』と、ちょっとばかしの罪悪感……かな? しかし見れば見るほど可愛い幼女だ。どのくらい生きてるんだろうか。ロリババアの定義は曖昧だが、個人的には百歳は超えていてほしいところだ。五十歳とか半端なところだと、生々しい年かさを感じるし。
「ああ……そうだ。お前が本当にエイなのか、簡単に判別する方法があったな、う、うむ」
「ほほう。どうやって?」
「ま、前に聞いた『昔話』を聞かせてくれれば──それが合致していたら、間違いないだろう? その、お前がまだ普通の人間だった頃のだ。つ、つまり今の記憶だ、うん」
キョドりすぎだろこの幼女。絶対知らないよね僕の過去。しかし……チートを手に入れたところで、過去バナを避けるような僕ではない。別に虐められてた記憶もなければ、知られて恥ずかしい経歴もない。ならなんで話さなかったのか……それはおそらく、トラックに轢かれてから今現在までのどこかで──何かしらを挟んでいるのではないだろうか?
それがどういったものかはわからないけど、話していないなら話していないなりの理由があるのだろう。記憶が戻るかどうかは不明だが、もし戻ったときに困った事態になるのは避けたいものだ。
嘘をついて人の過去を探ろうとする幼女へのお仕置きも兼ねて、ここは遥か昔に作成したブラックヒストリーの一部でも公開するとしよう。中学二年生の頃、ノート一杯に書き連ねた設定集。主人公にはこれでもかと悲惨な過去を詰め込んだ、中二心満載のノートである。
主人公の辛い過去を、仲間が知らされる展開って胸がくすぐられるよね。その点において某魔法先生の記憶(夢)覗き魔法は優秀である。数々のEMIYAさんやYOKOSIMAさんといったクロス主人公が、過去を暴露されてきたものだ。僕もそれにあやかって、辛い過去()でも話すとするか。
「…記憶の始まりはいつも雨だったかな。無数の死体と瓦礫の山の中で……黒い雲を見つめてた」
「…! あ、ああ…」
平々凡々だったという前置きをいきなり無視したが、幼女は突っ込んでこない。いや、突っ込めよ。むしろ僕が君に棒を突っ込みたいよ。ベッドで横並びに座るとか、もうこれオッケーサインじゃないの? それとも童貞の早とちりなのか? くそ、わからんちん……仕方ない、もう少しブラックヒストリーを語るとしよう。割と僕にも精神ダメージが入ってくるんだけど、ネタばらしのタイミングが掴めない。
「“ブラッド・チルドレン”……それが僕たちに付けられたただ一つの呼び方だった。個人を識別はされない。兵器でさえナンバーはあるってのに、酷いもんだったよ。まあ名前を付けられたところで、すぐ死ぬ運命……つける必要性は薄かったんだろうね」
「…、っ…」
「戦場を血で彩る子供たち……そんな中で偶然か必然か、僕は生き残り続けた。百回も帰ってきたころから、一つだけあだ名がついた。“
百回の戦場ってあたりがほんと草。激戦区でもあり得ないだろ常識的に考えて。しかし常識的に考えられないからこそ中二病患者であり、実際に中学二年生の頃に考えたのだから仕方ないだろう。なんか手をギュッと掴まれたが、押し倒していいのだろうか。
とりあえず話を続け、なんか色々と凄い活躍とか悲劇とかを並べ立てる。いやあ、意外と覚えてるもんだね。途中から宇宙人や地底人が出てきたり、魔界やら天界やらが出てきたりと、設定を書いている途中で何にハマっていたのか透けて見える。黒歴史って大抵の場合はパクリ要素の寄せ集めなことが多いけど、僕のこれもご多分に漏れずオマージュだらけだ。
最後は元気玉っぽい感じで力を集めてボスを倒して終わりだ。現代風の戦争モノから一転、異能バトルやらSF要素が入り乱れているが、まあよくあることだ。そして最後に放った一撃は一つの街を崩壊させて……うむ、要はあれだ。ラスボスを倒せずに世界の終わりを選ぶか、一つの街を犠牲にしてラスボスを倒すかの究極選択的なやつだ。
しかし『もっと犠牲を少なくできた筈だ』と声高に叫ぶ輩に糾弾されて、僕は夕日をバックに姿を消す。じゃじゃーん……はい、終わり。要所要所で突っ込んでほしかったのに、最後まで語るハメになってしまった。大丈夫か? この幼女。
…ん?
「わ……私も、同じなんだ…」
「え? あ、はい……ん?」
僕が話を終えたと思ったら、今度は涙混じりに自分の過去を話し始める幼女。僕にしがみつきながら話す姿は、いまさら『冗談でしたー』とは言えない雰囲気だ。というかやっぱり過去の話なんてしてなかったんじゃないか。
そして語られる幼女の歴史……ふむふむ、元は普通の幼女で……どこぞの竜が『プレイヤー』とやらに対抗するため人の魂を集め始めて…? ほほう、それで? タレントとかいう固有能力でその力をコピってしまった幼女が、図らずも吸血鬼になって…? ふむ、結果的に国を一つ滅ぼしてしまったと。それで『国堕とし』。
…重すぎない? ちょっと受け止められないんですけど。え? お前と同じ? あ、いや僕のはただの妄想というかなんというか……どうしたもんだろう。なんか妙な雰囲気だ。色気のある空間とでも言うのだろうか? 『女性のオッケーサイン』というものがあるならば、まさに今って感じ。
「…私はお前のように性に奔放な男を良く思っていなかった。むしろ毛嫌いしていたと言ってもいい……だがお前だけは、どうにも憎めなかった。私よりも強いから──だからなんだと思っていた。だけど違ったんだな……お前は私なんだ」
いや全然違いますけど。性格も過去も人種も、なんなら性別すら違うんですけど。ちょ、待って、幼女に迫られるのは嬉しいんだけど、勘違いさせたままというのは非常にアレだ。後々にこじれるやつじゃないか。イビルアイちゃん! 赤い顔で唇近付けないで!
「んっ…」
「──っ」
──唇が触れた瞬間、何かが輝いた。
…ん? あ、記憶戻った……早いなオイ! 少なくとも三日はかける予定だったんですけど。イビルアイとの粘膜接触で記憶が戻るようにしていただけに、長期間かかる可能性もあった。最悪の場合はNPCに頼んでいたけど、彼女のチョロインぶりを舐めていたぜ。
…っていうか過去重っ! そして僕の過去()も重っ! 恥ずかしい思い出が僕を苛む……やめて、ブラッド・チルドレンとかほんとやめて。大学生の僕は大丈夫だったようだが、今の僕はそれをネタにするのもちょっとキツい。
「エ、エイ…? その、嫌だったか…?」
「…ん、いや……記憶戻ったみたい」
「…! そ、そうか! 良かった……あ、その……騙すような形でお前の過去を聞いてしまって……すまん」
「あー…うん、気にしないで」
謝罪するイビルアイを抱きしめ、押し倒す。顔を赤くする彼女は非常に可愛いが、血が通っていないのに赤面するとはこれいかに。まあそれは気にせず、謝罪を受け入れる代わりに僕の謝罪も受け入れてもらおう。うん、まさにイーブンってやつだ。
「は、ん…」
「…イビルアイ」
「う、ん…? あっ、ひぅっ…」
「君のことを許す代わりに、僕のことも許してほしい。一つだけ……嘘をついていたんだ」
「ん、っ……ああ、なんでも言ってくれ。お前のことは……全て受け入れるつもりだ」
「ありがとう。それじゃ言うけど──さっきの話って全部ネタなんだ」
「うおらぁぁ!!」
「ぐふぅっ!?」
金玉を蹴り上げられた。おいおい、許すって言ったじゃないか。こらこら、腕を噛むんじゃありません。皮膚を突き破らないと吸血はできないでしょ? どうせなら腕じゃなくてチンポを口に含んでくれませんかね。
──しかしセックスするような雰囲気でもなくなってしまったし、数日はご機嫌とりに専念するとしよう。なんやかやで処女を喪失する相手として合格判断はされたのだ。あとは機会があればってところだろう。
プンスカ怒っているイビルアイを撫でながら、申し訳なさそうに笑う。彼女も本気で怒ってるって訳じゃないだろうし……これもイチャツキの一つと思えば可愛らしいものだ。
…ん? なにやら階段をドタドタとかけ上がる音が…
「──エイ! 戻ったわ! …え…? イビルアイ……あなたまさか、記憶がないのを良いことにエイを…!」
「ラ、ラキュース!? いや、これは違うんだ、その…」
半裸でベッドインしてイチャついてるとか、これは言い訳できませんねイビルアイさん。ここは一つ、ベル薔薇みたいな表情になっているラキュースちゃんに乗っかろうじゃありませんか。
「えっと……彼女と僕は恋人だって聞いたんですけど、違うんですか?」
「ちょ、おまっ」
「イ、イビルアイ、あなた…! ──ティナ達のこともあるし、普通にエイと関係する分には何も言わないけど……こんな卑怯なやり方を認める訳にはいかないわ!」
「イビルアイさん……残念です」
「エ、エイ、おまっ──どわぁっ!? 待てラキュース! これは罠だ! まずは落ち着いてだな──」
「問道無用ぉぉ!!」
「エイいぃぃ!!」
あっはっは、ラキュースちゃんもだいぶレベルアップしてるし……相性を考えればイビルアイでも結構キツいだろう。世界最高峰レベルの鬼ごっこは中々に見応えがある。鬼の方が追いかけられているのはご愛嬌といったところだろう。
──ま、どんな過去でも今が楽しければそれでいいんじゃないかな……僕はそう思うけどね、イビルアイ。
私は真面目にアンケートを取っているつもりです。だというのにあなた方は…! 今回はまったく同じ解答を用意します。ちゃんと答えて下さいね?
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アルベド
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アウラ
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ナーベラル
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ガゼフ