※この作品はR-18です。

幻影の魔族   作:オーク初心者

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予約投稿。


凜花という女

 リヴァイスの許可を受けた後、一括で借り上げているフロアの一角にある小さな炊事場で、凜子は手早く何品か仕上げて、凜花との女子会と知れこんでいた。短い時間で作るレパートリーが増えたのも、不知火の薫陶を受けたことの一つである。

 

「うぅ、凜子ちゃんが操られてないってのは信じようと思うけど、本当に別人みたいなんだからね?」

 

「仕事中と意識すればそこまで難しいものでもないぞ? 誰だって外と内で見せる顔は違うものだ。そういう部分を意識して動くだけのことだからな」

 

 凜子は素の顔に戻りつつも、リヴァイスに本気で惚れたからこそ、他のライバルの女性達に無い強みを持ちたいと願い、また、彼のために尽くすことそのものに、強く充足感を感じていることを伝えていく。

 

「胃が動いてないだろうからゆっくり食べてくれ。時間はあるから、気にすることはない」

 

「おいし……凜子ちゃん、料理まで腕上がってる……」

 

「ふふ、私よりご主人様の方が上手だけどな。不知火さんと一緒にキッチンに立つ時は、ご主人様のパートナーや私もゆきかぜも心躍らせながら、料理が出てくるのを待っているよ。彩りとか食器にも気を払っていてな、小料理屋に行っているような感じになるんだ」

 

「え? 和食を普通に作れる魔族って、え?」

 

「うむ。変わり者と呼ばれるのは確かだ。まあ、だからこそ私も種族を超えて惹かれたのだからな」

 

 自分より強いのは相手の男に求める最低限の要素であったが、虜囚生活や救出後の療養生活の中で、自分でも自覚していなかったことではあるが、他にも自分の恋人に求める要素がいくつもあることに凜子は気づかされたのだ。

 

「傲慢で強引なのは嫌だと分かったし、どこか可愛らしいところが無いと駄目なんだな、私は。普段はしっかりしているものの、何かに集中しだすと他のことが急に疎かになったりと、私がお世話出来る相手じゃないといけなかったんだ」

 

「……凜子ちゃん、結構わがままだったのね?」

 

「強くて紳士的で、でもどこか可愛らしさがあって、夜も逞しいのに欲望のままに振舞ったりしない。私はご主人様に出逢えたことが本当に運が良かったのだと感じているよ」

 

 凜花もこうして二人だけで話すことで、凜子は自分の意思でしっかりと彼を選んだのだと分かってきた。

 

 魔族であるものの、殺戮と破壊、混沌を求めることもなく、むしろ平穏を重んじる気質。また、自分を高めることに余念がなく、勤勉で鍛錬を厭わない。西洋系の整った顔立ちであるつり目の彼が自宅の庭で畑の手入れや土いじりを楽しそうにやっている様子を聞かされて、思わず噴き出してしまうほどに。

 ともあれ、これだけだと聖人君子のようで胡散臭さが漂うのだが、弱点もしっかりあり、それが親しみやすさにも繋がっているように聞こえてきた。聞かされた彼の悪癖というのが、何にしても凝り性であるため没頭し出すと時間を完全に忘れてしまうことだという。料理についてもそうだし、強くなるために鍛錬にも打ち込むのはいいのだが、今度は食事を忘れてしまったりする。倒れかけて気づくなんてことも良くある話と言われると、残念さが透けて見えてくる。

 

「凜子ちゃん、認めた相手にはほんと世話好きさんだもんね。その範囲が狭過ぎて気づかれないだけで」

 

 相手を駄目人間にする典型的女みたいな感じとも言われ、ガクリと肩を落とす凜子に、凜花からすれば凜子の本質は変わらず歪められてもいないのだと安堵する。となるとここまで彼女を惹きつける男のことは気になるもので。

 

「水城さんのお母さんって、あの有名だった幻影の対魔忍……だよね。それに凜子ちゃんにあと二人、あの魔族さんの女になってるんでしょ? 不満とか、出ないの?」

 

「いや、ちゃんと手を抜くことなく全員の相手をしてくれるし、夜となればむしろ私達が先に白旗を上げるのが多い。不知火さんでやっといい勝負になるぐらいだからなぁ……」

 

「は? ぱっと見た感じ、全然ガツガツしてるように見えないのに!?」

 

「うむ。基本は受け身なんだ、ご主人様は。自分から強く求めてくる時は余程、心の内に抱えるものがある時だから、むしろ喜んでお応えするんだが。ただ、精力も回復技能も並外れたものをお持ちでな、皆の相手をしても翌日はたいていケロッとされている。あと、ものすごく……上手だからな。簡単にイカされてしまうから、体力を奪われるのも早いというか」

 

「オークみたいに、媚薬とか強制的に発情させるみたいな力を使うんじゃなくて?」

 

「雰囲気は大事にする方だからな、魔の力でさっさと相手を絶頂させて終わらせるのは風情が無さ過ぎて論外なんだそうだ」

 

 そういえば、自分の拘束中に何度か様子を見に来た時に、慣れた手つきで湯呑を手に熱いお茶を口にしていたことをふと思い出す。日本の文化に詳しいというし、風流を解すると考えればそう変でもないのかと凜花は思い直した。

 

「むしろ、強すぎる発情を抑えるのに使ったりしているか。あ、後は集団相手の戦闘時に動きを一気に止める時とかには使ったりすると仰っていたが」

 

 リヴァイス曰く人型相手であれば、男性女性問わず強制的に耐え難い性衝動を引き出すことで、最低でも行動を鈍らせることが可能で、女性と男性の混成相手だとそのまま戦闘終了になることもあるという。ただし、その場をさっさと去るか、止めを刺す必要が精神衛生上必要になるらしいが……。

 

「うわ、なにその対魔忍殺し。こっちの前線ってたいてい女の子がやるんだから、天敵よねそれ」

 

「うむ、敵対しないのが一番だな。ご主人様の性格を考えれば、案件によっては共闘すら可能だろう」

 

「でも、一緒に任務とかやったら、なんか手篭めにされちゃいそうな感じ」

 

「自分から積極的に手を出す方ではないぞ?」

 

「ううん、違うわよ。取り込めるとか勘違いしたこちら側が調子に乗って、屈服するパターン」

 

「確かに! ちなみに按摩とかも上手だからな。子供の頃にメイア殿相手にいつもやらされてる内に上達したらしくてな、ほぐされてる内に心のガードも甘くなるというか……」

 

 その後も女同士の秘め事トークにも花が咲き、盛り上がっていく二人はどこか羽目を外してしまっていたのだろう。トークにひと段落がつき、客室への訪問を受けたリヴァイスはまた困惑することになる羽目になるのであった。

 

「なあ、凜子。疲れてしまったのか? 熱でもあるのか?」

 

「その御言葉は酷くありませんか、ご主人様?」

 

 ヘッドドレスをふわりと揺らしながら首を傾げる凜子の姿は格好も合わさって愛らしさを醸し出しているのだが、凜花と共に客室へやってきた凜子の発言があまりにぶっ飛んでいたから、その仕草の可憐さを気に留める余裕もない。ちゃっかりリヴァイスと同室となっている不知火は、凜子のなりふり構わない攻勢に女として逞しくなってきたと別の評価を与えているのだが。

 

「親友に自分のセックスを見てもらいたいって言われたら、こうもなるだろ?」

 

 頭を抱えたリヴァイスに、凜花は『あ、この男性倫理観は常識枠かも』と頭の中で評価を一段階上げていたりするわけだが、その彼から個人的な懸念がさらに告げられる。ゆきかぜと達郎が目を覚ましたとのことで、着替えたらそちらに向かうと連絡があったという。

 

「……達郎に私の乱れる姿を……見て、もらえる?」

 

「なんで頬を真っ赤にしながら唾を飲み込んでるんだ、凜子ぉ!」

 

「え゛っ、凜子ちゃん、そこまで業が深かったの……?」

 

「凜子ちゃんも拗らせてるから仕方ないわよ、リィズ?」

 

 周りにいる女性陣が性行為に奔放すぎるのだと凜花は察してしまう。思わず、哀れみの視線を彼に向けてしまうが、逆に疑問も覚えてしまう。複数の女を侍らせる男なのだから、自分の意向に従えと強く出ればいいのではないかと。

 

「お兄ちゃん、お待たせ~。ってあれ? 凜子先輩だけじゃなくて、紫藤先輩まで」

 

「グレイさん、御邪魔します。皆さん勢ぞろいみたいで」

 

 これ幸いとリヴァイスは凜子を止めるためにゆきかぜや達郎の力を借りようとするが、その希望もゆきかぜにばっさりと切り捨てられてしまう。

 

「あー、無理だよお兄ちゃん。凜子先輩は見せつけたいんだもの、紫藤先輩にさ」

 

「……見せつけ、る?」

 

「こんなに身体も心も蕩けさせてくれる相手が私の男だって自慢したいんだよ。実際、私も達郎とずっと望んでいた関係になれて、とても幸せなんだけど……気持ち良さの比較でいったら、お兄ちゃんとはほんといい勝負なんだよね」

 

 長年の恋心のブースト効果を足したとしても、快楽の度合いでいうならば似たようなものなのだと、ゆきかぜは突きつける。

 

「お兄ちゃんのベッドヤクザぶりは、ずっと一つになりたいと願っていた相手とのセックスと変わらないレベルなんだから。むしろもっと自覚してちょうだいって感じ。ま、これに関してはお母さんも悪いんだけどね」

 

 不知火は悪いと思うどころか、誇りに思ってすらいそうなあたりが性質が悪いとゆきかぜは感じている。生娘や経験の少ない女であれば一夜で心からの隷属を誓わせるだろう、今の義兄ならば。だが、その技量を自分の欲望を満たすためだけに使わないからこそ、ゆきかぜは共に暮らす短い月日で彼を兄として認めたのだ。

 

「だから、私も似たようなことお願いしようと思ったの。お兄ちゃんの力の使い方を、私と達郎の身体を通して体感できないかなって。は、恥ずかしいのはもちろんなんだけど、お兄ちゃんなら変な風にしないって分かってるし」

 

「魔族の力ではあるので、そのままは無理だと思うんですけど……房中術を身に着けるのに近い感覚を知っていれば、上達も早いかもと思って。その、グレイさんになら一時の恥を飲んででもお願いするべきだと、ゆきかぜとも話して、同じ結論になりました」

 

「うん、それは屋敷に帰ってから、俺の魔力を流してみたりとか試さないかと提案しようとは思っていたけどな! お前達が提案してることは、君達のセックスを露骨に俺に見られるってことだからな!?」

 

 手を繋いだ状態でもなく、身体を寄り添い合った状態でもなく、セックスの真っ最中に手ほどきしてくれと言われてしまったリヴァイスは憔悴の極みにある。ゆきかぜや達郎が羞恥心を飲み込んででも、必要なことだと判断して真面目に言い出している辺りが余計に洒落になっていない。

 ゆきかぜは義兄のことを強く慕っているが、思考は明後日の方向にぶっ飛んでいる猛進系少女であり、その相手が務まる達郎も変におおらかな部分があり過ぎた。

 

「ねえ。あの、なんで怒らないの? 俺の指示に従えって命令すれば済むことじゃない。貴方はこの集団の中で、一番強くて決定権もあるんでしょう?」

 

 思わず、凜花は話に割り込んでしまっていた。自分よりも強い不知火や凜子が信を置き、従う男。圧倒的強者の立場にある者が力を行使せず周りの自由な発言を許しているのが、どうにも自分が思う強き男の像とずれている。

 

「そうだね、確かに俺にはこの集団の行動決定権があるのは確かだ。でもさ、圧倒的な力で支配して、自分を押し殺した、主人に傅くばかりの『人形』をいくら周りに侍らせたとして──それのどこが楽しいのか聞きたいね」

 

 ゆきかぜの快活さを、凜子の一本気なところを、不知火の母性の強さやどこか子供のような茶目っ気を、どうして押さえつけないといけないのか。それのどこに面白さがあるのか。人形を愛でるのなら、そいつのオナニーと変わらないとまでリヴァイスは言い切る。

 

「力で圧倒する悦楽を否定はしないし、出来はしないよ。そんな一面が自分の中にあるのは確かだ。ただ、それは敵対者に対して十二分に示してやればいいことだろう? そのために自分を鍛えている部分だってあるんだから」

 

「あら、そうだったの? リィズにそんな一面があるだなんて」

 

「不知火、茶化さないの。強さを誇示する自分に悦を感じることだってあるさ」

 

「ふふ、ごめんなさい。そうね。鍛錬を繰り返して以前の強さへ近づき、さらにそれを越えて強くなっていく自分に楽しさや喜びを感じないかといえば、それは嘘だもの。模擬戦で貴方をうまく追い込むことが出来た時なんて、思わず口元が緩んでしまうわ」

 

「悪い顔してるよ、不知火。ま、俺は負けてやるつもりはないけどな」

 

「それはそうよ。追い込んだといっても、リィズは手札を制限してのことだもの。もっと貴方の本気を引き出せるようになるから、期待しててちょうだい」

 

 この不知火とのやり取りとてそうだ。魔族に転じたと聞かされたが、つい最近まで『対魔忍』だった彼女と、魔族である彼の軽妙な言葉の掛け合いは、会話の内容はいささか物騒なものではあるけれども、紫藤家ではありえなかった『普通の家庭』の仲睦まじい夫婦のようではないか。

 

「むー! 私だってお兄ちゃんに肉薄できるようになってやるんだからっ! 達郎、死ぬ気で鍛えるわよ!」

 

「ああ、ゆきかぜの背中は俺が守れるぐらいになってやるさ」

 

 そして、そんな二人に絡んでいくゆきかぜと達郎が、二人の息子と娘に見えて……。

 

「……紫藤さん。俺も叱るべき時は叱るし、逆に謝るべき時はすぐに謝る。俺はね、家族に飢えていた。そんな俺に不知火は夫婦になりたいと、家族になりたいと言ってくれたんだ。ゆきかぜだってそうだ。この歳の近い義理の親父を兄として認めてくれた」

 

 形は歪に見えるだろうし、人の世界でよくある形でもない。それでも、家族になろうと、家族でありたいと言ってくれる人達と一緒に家族になっていきたいし、全てを賭けて守るのだと思っているのだと──。

 

「凜子。改めて言っておくけど、お前は俺の家族だと思っているし、すぐに魔族になるなと言ってはいるが、いずれは共に長い年月を過ごして欲しいと思っているよ?」

 

 凜子にもリヴァイスは再度告げる。魔族に変わるということは、今までの居場所、人間関係、そういうものを全て置いてくることになってしまう。凜子の意思が固いのは分かっている。だから、せめて、例えば紫藤さんのような大切な友達と、このまま途切れるようなやり方はして欲しくなかったのだと。

 

「だからといえ、彼女を巻き込んでこちら側になし崩し的に引き込もうというのは感心しないな。不知火あたりの入れ知恵だろう? 紫藤さんも久し振りの再会で気分が盛り上がったままに、凜子に引きずられるのは危険だよ。もっと自分を大事にしなきゃ」

 

 さて、紫藤凜花という少女は、凜子の親友でありライバルと自負している。同世代の中で飛び抜けた実力と合わせて、プライドについても人一倍高く、結果として高飛車な物言いが常であった。悲しいかな、友人となれば凜子を含めて、本当に片手の指で数えられる程度のもの。まして、対等に物を言い合えるとなれば、凜子は本当に希少な存在だった。幸か不幸か自信を折られる経験が殆ど無く、そんな彼女を強く諌める者もいなかった。

 

 そんな彼女は自分の自覚以上に凜子の存在に寄りかかっているところがあるのだ。凜子の誘いに乗ってしまったのも、彼女との繋がりを切らすまいと強く無意識に求めてしまうがゆえ。

 

「私は、私にとって大事なのは、凜子ちゃんの存在よ。大切な親友だし、ずっと競っていくライバル。だから、彼女には何においても負けたくないの」

 

 この場に教師である高坂静流がいれば、彼女を止めただろう。だが、彼女はこの三日間の拘束から解かれ、不知火とリヴァイスの手による、消化が良く、栄養価と味にも優れた料理に舌鼓を打ち、ぐっすりと夢の世界で安眠中だった。熟睡状態のため、自分に危機でも迫らない限り翌朝まで目を覚ましはしない。

 

「それにね、対魔忍という仕事柄、いつ『初めて』を散らすかだなんて分からない。今回だって貴方がそのつもりなら、私はとっくに強引に犯されていてもおかしくなかった。それに、あげてもいいって男にも今まで会うこともなかったしね。まぁ、親は色々考えてるみたいだけど、それは別の話だし」

 

 だから……凜子ちゃんの愛され方を見物するんじゃなくて、自慢するぐらいの貴方に、あげるわよ。私の初めて。こんな綺麗な女の子の初夜をもらえるのよ。忘れられない、素敵な夜にしてもらいますからね?

 

 自分が勢いのまま、強引に押し付ける形になっているのを自覚しつつも、リヴァイスの唖然とした表情を引き出せたことで、やっと一撃を返せたという思いが凜花の内にはあった。




R18なんだからエロを書かなきゃどうするんだってことで、強引に導入へ持っていきました。
対魔忍の二凜が、魔族の二凜へと堕ちていく──。

凜子「堕ちるという感覚ではないし、解き放されたといった感じなのだが」
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