■ヤンデレ・女装・鬼畜(腹黒/ゲス?)要素を含みます。
ヤンデレ(腹黒/ゲス(?))美形×強制女装
ふたりともに愛情を拗らせている
■攻め→受けの腹黒い(ゲスい)行動にご注意を
一部に緩い凌辱描写もあります
2018.11.16
一日の授業が終わりを告げた放課後、その空き教室には三人の男子学生がいた。ひとりの男がひとりの男に写真を見せたそのあと、「へー」と抑揚のない声を響かせる。
「
「は、はいっ!」
彼は秀麗な顔を歪ませた。今度は怒りを滲ませた声を吐き出して。
物陰からなかの様子を窺っていた
「早くしろ」
震えたまま床に手をついてドアから顔を覗かせた和季に向けられたのは、とても冷たい視線であった。蔑む瞳に射ぬかれ、震えは酷くなる。しかしそれもしかたがないことだと、和季はきゅっと唇を結んだ。
「自分の立場、忘れた? お前の足りない頭では解らない?」
「さ、さぁちゃん……」
恐怖で和季の喉はカラカラであるが、それでも絞り出した声に美しすぎる顔がふたたび歪む。
嫌われたと理解し、滲む視界とパニックが同時に押し寄せた和季の前、王子の動こうとした足が止まる。
「それで、
「そっちの二人は少し黙っててくれる?」
「はい!」
言われた通り黙る二人は、そのまま出入口に歩く智史を見ていた。類い稀な美貌とフェロモンを持ち合わせた彼に寄せられるのは、男女問わず熱を帯びた性的な目である。
小さな頃はそれはそれは可憐な容姿で大変可愛がられており、成長するにつれ可愛らしい部分は影を忍ばせたが、男とも女とも取れてしまう中性的な顔になった。体躯や声は完全に男であるが、すらりとした長身から放たれる心地のよい声で名前を呼ばれれば誰もが負ける。ものにできないと解っていても――だ。抱いた恋心を拗らせ、智史の忠犬と化す者が数多くいた。
お隣さんで長い付き合いがある和季でさえも、智史の全てにぐずぐずに溶かされている。普段から女の子の格好を強いられていても、文句など考え及ばないほどに。
「お前が説明できないなら、俺から言うよ。気づいてないとでも思ってたのか?」
「あ……っ」
「バ和季。――背中にキスマーク付けられて、なにがなんもないだ。何回突っ込まれた? 答えろ」
和季を引きずり入れた智史は馬乗りになり、ネクタイを引っ張る。きちんと結ぶタイプであるが故にギリギリと首が絞まっていく。
「く……っ!」
「和季」
「に……、に、かい、ずつ……っ」
「へー。四回もか」
口端を上げた智史はネクタイを掴む手を緩ませ、強く引っ張った。中腰の躯は恐怖に支配され、カチカチ歯がなる。
「お前は、他の男に喘ぎ狂ったわけね」
「あ、えぎ、狂って、なんかっ……」
「ないと言えるのか? お前に快楽を教えたのは俺だよ」
「っ……、さ、ちゃん」
「許してほしいなら――解るよね?」
「さぁ、ちゃん……」
瞬時に「ごめんなさい」とこぼれる嗚咽混じりの声は、唇を舐めた智史の舌に溶かされた。大粒の涙を流すその顔にも舌が這う。
「和季は誰のもの?」
「オ、レは……、さぁちゃんの、もの、です。さぁちゃんだけのっ、下僕、です」
「ちゃんと解ってるならいいよ。家に帰ろうか、和季。ああ、忘れてた。そこの二人は俺が戻るまで適当に時間潰して。呼び出しに応じなかったら、私刑だから」
和季を抱え上げた智史はにこりと笑った。天使の笑みと称される極上の笑みのその裏は、ゲスいことも平気でできるほどに歪んでいる。
■□■
「っひ……、あ、あっ」
ぱちゅぱちゅ聞こえる水音には耳を塞ぎたくなるが、いまの和季には無理な話だ。ぎゅっと目を瞑りながら背中に抱き縋り、快楽に溺れているのだから。
「和季、ダメだろ。ちゃんと目を開けて」
「さぁちゃ、や、あっ……む、りぃ」
無理だからと頭を振る和季に舌を打つ智史は、赤く色付く耳元に顔を近付ける。そうして一度柔く噛めば、和季の震える唇からは「ん、んっ」と色っぽい声が漏れた。
「俺を見ろ。言うことが聞けないなら――」
「ひゃうぅっ!」
一気に深くまで穿たれた熱に和季の目は驚きに開き、背は反り返る。と同時に吐き出した精液がスカートを汚した。正常位のなか、和季の視線はスカートに滑っていく。
「あ、あ……、や、ばいっ……スカートっ、汚れっ……、明日、着られない……」
「スカートはどうでもいい。早く俺を映せよ。誰に抱かれているのか、誰のものか脳裏に焼き付けろ」
「あ、や……だ! なか、やだぁ……、あ、あぅうぅっ!」
なかなか自分を見ないことに痺れを切らした智史は穿つスピードを速め、和季の顎を持ち上げた。ぶつかる瞳は涙に濡れ、こぼれる涙を目尻に這わせた舌で掬い取っていく。
「お前は一生俺のものだから。離さないよ、和季」
呪文のように繰り返されるこの言葉は、キスとともに。
蠢く舌と熱に翻弄される和季は二度果て、意識を手放した。
■□■
さきほどの空き教室に戻った智史は頬杖を付きながら不敵な笑みを浮かべる。組んだ足元に正座をする二人の男に向けて。
「――駄犬にしてはよくやったな。褒めてやろう。写真やデータはこれで全部か?」
「はい!」
頬杖を付いた傍には写真の束があり、方手にはタブレットが握られている。SDカードから読み上げて映される画像は卑猥としかいいようがない。組み敷かれる和季の姿を凝視する智史の口元は緩みっぱなしであった。
「あ、そ。なかなかいい画が撮れてるよ。ネットにはあげてないよね?」
「そ、そんなこと俺らがするとでも!? そもそもアップがバレたら、その瞬間に死を覚悟しなければなりませんが」
「死にたいからアップしたと結論するのは当たり前だろ。――っと、そんな話はどうでもいいか。俺の言いつけをちゃんと守ったようだから、褒美をやろう。明日の昼、ここに来い。お前らの望む、『一緒にランチタイム』してやるから」
「あ、ありがたき幸せですぅ」
ぶわりと涙を浮かべる男たちに眉を顰め、追い払うような手振りをする。
「泣くなウザい。用は済んだ。さっさと帰れ」
「瀬谷さん、明日!」
「楽しみにしてますからっ」
男たちの背中などに興味がない智史は次々画像を送り、一通り眺める。目隠しをされた和季の胸元、背中のキスマーク、アナルの画像。それらを眺める智史の目は細められていた。
犯して写せと命令したのは他でもない智史だ。自分以外に犯された和季は罪悪感に苛まれるだろう。それを狙うために。
電源を落としたタブレットと写真を無造作にカバンに入れ智史は、足早にその場をあとにする。
早く和季を抱きしめたい思いで。
■□■
和季が目を覚ますが、隣に智史はいない。どこかに行ってしまったと理解した和季は起き上がり着替え始めた。サイドテーブルに置かれた服に。
体躯の差があるためにだぼだぼであるが、こうして智史のシャツを着られるのは和季だけの特権だ。たとえこの下の下着が女性用だとしても。
「さぁちゃん」
どこに行ったのか。しかしそれを聞く権利は、いまの自分にはない。智史以外の人と肌を重ねてしまった自分には。たとえ智史に触れられたくなかったからだとしても、智史の想いを踏みにじってしまったのは事実で、嫌われてしまったも同然である。
この幸せを自分から壊してしまった。下僕のような扱い――事実、下僕であっても傍にいられればそれでよかったのだ。智史が隣に越してこなければ、傍にいることさえできなかっただろう。だから飽きられないように、和季は一生懸命智史の言うことを聞いている。――女装を強いられ、組み敷かれても。
初めて会ったその日から、和季は智史に惹かれっぱなしなのだから。
いまこの瞬間に、誰かが智史と一緒にいると考えるだけで気分が重くなる。
■□■
智史がそれに気が付いたのは、第二次性徴が始まった九歳頃である。――自分に向けられる視線はどうもおかしいと気が付いたのは。
そういう視線を浴び続けた智史がそれを利用しようと考えたのは、卒業式を終えたその日。和季が女の子に告白をされているところを目撃してしまったその瞬間。
『好きな人がいるから、ごめんね』と断る和季の声を聞いた。ほっとした智史にはその反面、どす黒い想いが湧いた。
――和季は自分のものだ。和季の瞳に映るのは、自分だけ。たった一年一緒にいただけの人物に渡すわけにはいかない。渡せない。
背を向けて走り去る女の子を睨み付けた矢先、『あ……、さぁちゃん』と智史に気付いた和季は目を丸め、顔を背ける。
『い、いまの話……、聞いてた?』
『話って、なんの? 俺はいま来たところだけど……?』
智史はきょとんとして微笑んだ。とぼけ方は熟知している。のらりくらりとかわさなければ、面倒なことになるかもしれないから。
知らないふりをした手前、気になったとしても『好きな子は誰?』と野暮なことをいまは聞かない。知りたければ自身で探ればいいだけなのだから。
その前に智史は、赤面する和季に見惚れていた。耳まで赤くさせながら目を伏せるその姿は昔から変わらない。可愛いと思う気持ちも。
それからすぐに和季の視線からその想いを理解した智史は、両親に心から感謝した。和季の家の隣に引っ越してくれたことに。成長するにつれ周りがうるさいが、それでも離れることなどできやしない。
和季を絶対手にいれると誓ったのは、中学に入学する前の春休みのことであった。
■□■
下を穿かずにシャツだけを着たその姿を忘れて智史の部屋から飛び出したのは、合わせる顔がないからだ。
肩で息をしながら玄関ドアを開ければ、智史が立っていた。「っえ……」とたたきで茫然と立ち尽くす和季に返るのは微笑みである。感知センサーで明かりが点られたそこに智史がにじり寄り、和季は反射的に後退した。
逃げ道を塞ぐように玄関先に凭れる智史の髪が風に靡く。その妖艶な姿に和季は顔を伏せた。
「それで、和季はどこかに行くの? ――その格好で」
「あ……、の、オレ、帰ろうと、思って……」
「もう一度言って」
「だからっ、帰るんだよ! 自分の家に――っ!?」
その言葉に智史の腕が肩に伸び、和季は玄関ホールに押し倒される。鈍い音が響いたあと、玄関ドアが静かに閉まった。覆い被さる智史は笑顔であるが、纏う空気は冷たい。
「誰が帰っていいなんて言ったよ」
「ご、ごめんなさ……っ」
醸し出される怒気に畏縮する和季はとうとう震え出してしまう。だぼつくシャツの胸倉を掴まれて反射的に身を引けば、顔の横に置かれた片手が拳になり床を叩く。じんと痺れる鼓膜に響くのは、智史の冷たい声だ。
「下僕が主人に逆らう気か? 和季は、俺から、逃げるの?」
「ち、違っ……! オレはっ……!」
「オレは?」
眉を顰める智史は、それでも先を促す。和季はぶつかる視線から逃れるかのように顔を逸らし、ポツリと紡いだ。
「っ……さぁちゃん以外と、ヤっちゃったから、さぁちゃんと一緒にいる資格、ない……」
「一緒にいるのに資格がいるなんて初めて聞いたな。どこに行けばその資格とれる?」
「っあ……! 嫌だっ……、離せってばっ」
首筋に顔を埋めた智史に躯を捩るが、「和季」と囁かれ抵抗力が削がれていく。
「き、たないから……。オレは、さぁちゃんに嫌われても、しかたがないこと、したのにっ……」
わんわん泣き出してしまった和季の額に唇を寄せ、頬を撫でる智史は小さく笑う。しかしその裏では、ほくそ笑んでいた。本当に和季は可愛すぎて困る。
「アホか。嫌いになんてなるわけないだろ。俺が襲われたら、和季は俺のことを嫌いになるの?」
否定するように左右に頭を振る和季の躯を起こして抱きしめてやれば、背中に腕が回った。智史は緩む口元を正して、胸元に顔を埋める和季の髪を払い耳朶に口付ける。
――そうして甘く囁いた。
「襲われても俺が上書きしてやるよ。何度だってな。だから傍にいてくれ。俺から逃げることは許さない」
「……さぁちゃん……」
艶やかな声に導かれるように恐る恐る上げられた和季の顔は涙に濡れ、それは変わらず舌に掬われる。くすぐったげに身を捩る和季をそのままに、智史はもう一度目元を舐めた。
「なにがあろうとも、和季から離れるわけがない。解ったなら頷け」
瞼に触れた唇に和季は小さく頷く。刹那、重なる唇は、ほのかにしょっぱい味がした。
深い口付けに区切りをつけたのは繋がるためだ。「いいよな?」と問う囁きなど不要であるのに、智史は律儀に「和季がほしい」と宣う。蕩ける思考では毒にしかならない。それを解っていて、なお。
部屋まで横抱きで運ばれた和季はベッドに下ろされ、覗く胸元にすぐさま唇が寄せられる。肌を貪るその間にバッグを床に置いた智史は和季を押し倒し、口内をも貪り始めた。
「ん……ん……」
不安でいっぱいだったであろう和季はいま、その瞳に智史を映す。美しく笑う彼を。
「さぁちゃん……、好き、大好き」
「もっと聞かせて」
「好き」
誰にも触れられたくなくて、躯を張って止めるくらいに。
和季の意思を汲んだ智史はといえば、小さく笑いながら横髪を梳いた。
「もう他の奴に抱かれるなよ。俺の方がどうにかなるから」
「うん……。迫られても、もうしない。約束、する。だから……、だからさぁちゃんも、他の人のところに行かないで。お願い」
お願いしますと首に回された手は震えている。頬に擦り寄せられる顔に智史は紅潮し、「和季以外に靡くわけがない」と小さく紡ぐ。
自身の服を着せたり涙を舐めとるのは、愛している和季だからこそだ。愛しているから、繋ぎ止めるために策を練る。
智史はなかを穿ちながら和季の首元に顔を埋め、痕を刻み付けていた。そこに噛み付き、歯形も残していく。
「いた、いぃ! さぁちゃ……さぁちゃっ、……噛んじゃダメ……っ、あ、あっ……! 嫌だ、も、これっ、以上はっ」
「四回狂ったなら、五回する。回数プラス一回だ。同じ回数だと上書きにならないからな。三回イったから、あと二回必要だ」
「上書きっ、ちゃんとしてるからぁ……! も、やめ……っ」
「誰がやめるか。俺が五回と言ったら五回なんだよ」
泣きじゃくる和季の唇を舐め、智史は顔を綻ばせた。目の前に和季がいるその喜びに対して。
「や、だぁ! さぁちゃっ……そ、なに、動いちゃ、ダメ! ダメっ……!」
快楽に飲まれながらも必死に頭を振るが、きっちり五回を貫かれる。そうしてどっと押し寄せた疲れに、和季は目を閉じた。――が。智史に頬を叩かれ、完全に眠る前にシャワーを浴びるようにと浴室まで運ばれてしまう。
服を脱がされてからの「ひとりでできる?」との問いに「大丈夫」だと答えれば、智史は頭を撫でて「着替え用意するから」と浴室のドアを閉めて脱衣場をあとにした。
「くっ……、後ろ姿も眩しいなんてズルい」
男としての敗北にだんだんと床を叩く和季はその実、とても幸せな気分に浸っている。
■□■
「さぁちゃん、シャワー終わったぞー。あれ……?」
変わらず智史のシャツを着る和季が戻った部屋はもぬけの殻だ。ということは隣の部屋かとスカートを翻してそこを覗けば、智史はディスクトップPCのモニターに向かっていた。カチカチマウスをクリックする音が響いている。
ここにはアルミ製のラックや斜め向かい同士に置かれたデスクがある。その上にはディスクトップ一台とノート二台という二種類の機械。そして複合機も二台持っている。ネットはこの部屋でしているようだが、三台もいるのかと和季は不思議だった。
一度探したときにはこの部屋にもリビングにも智史の姿はなかったので、自分の家に帰ろうとした。顔も見たくないほど嫌になり、出ていったのかと思って。
「なに見てるんだ?」
「忠犬のメールの確認。たまには可愛がってやらないと、駄犬になるからな。俺は面倒ごとはごめんだ」
「忠犬とか駄犬とか言ってると、いつか痛い目みるかもしれないぞ?」
「それで十分だろ。和季より甘やかす必要はない。病院送りにされたら見舞いに来いよ。ちょっと待ってろ」
背後に立つ和季を一瞥してメールを閉じた智史は、パソコンの電源を落として回転チェアごと振り返った。「和季」とぽんぽんと足の間を叩く智史に従い、そこに座る。女の子座りで向い合わせに。
髪を拭かれ始めた和季はちらりと智史を見た。美しいと形容するしかない顔が目の前にあることに安堵する。智史がいることに。
タオルに触れる手に手を重ねれば、細長い指がぴくりと跳ねた。袖を捲る和季の腕には鬱血痕が多々ある。
「さぁちゃんにとってのオレは、忠犬になるのか?」
「和季は忠犬でも駄犬でもないから」
「ならなんなの?」
「秘密」
「さぁちゃん!」
にこりと笑う智史に対してムッとする和季は、バカにするなとでも言うように声をあげた。
「知りたい。ちゃんと」
「前に言ったことがあるんだけどな」
「え、でもオレ覚えてないよ?」
「和季が寝落ちしそうなときだし、覚えてないのも無理はないけど」
「寝落ちしそうなときなんて、そんなの覚えてないのも当たり前だ!」
「知りたいなら、言わせるように仕向けろよ」
腰を撫でる智史に今度は和季の肩が跳ねた。「和季」と耳元に寄せられた唇からは喉で笑う音が漏れる。
「む、無理……、もう無理! 三回……、つか五回も連続したから無理っ」
「今日はもうしないから安心しろ。シーツは替え終わってるから、眠たいなら寝ていいぞ。あ、そうだ。スカートの替えも出しておいたから」
「じゃあ、一回寝る。晩飯できたら起こして」
「おやすみ、和季」
額に口付けてから和季を離し、智史はその背中がドアの向こうに消えるのを見た。
「本当にこの顔に生まれてよかったよ」
凭れていた回転チェアから立ち上がり、ノートパソコンが置かれた斜め向かいのデスクに座り直す。閉じた一台の前へと。その上に置いたヘッドホンを着け、パソコンを開いた。一通り眺めたあと適当な場所で停止していた動画を初めから再生し直す。
茜が射す教室が映し出された次に、男たちの笑い声が聞こえてきた。『おれらさ、一度でいいから瀬谷さんとしたいんだ。だからさ、頼んでくれない?』と、あくまでふざけながら。『ふざけるな!』との和季の怒声はすぐだ。
『さぁちゃんに触るな! さぁちゃんには指一本触れさせないからな! ヤるならオレをヤれ!』
嫌だ嫌だと頭を振った和季は一気にそう吐き出した。二人の男を前にして。
『頼むから、さぁちゃんのところに行かないでくれ』
『なら、お言葉に甘えるわ。考えてみれば、やっぱ瀬谷さんに手は出せねぇし』
『ほらこれ、アイマスク。そんな怒った顔だと萎えるからさぁ』
そこから始まる凌辱の間、和季は『さぁちゃん……さぁちゃん……』とこぼしていた。『ごめんなさい』とも。泣きながら後片付けをするシーンは智史の心を特に奮わせた。傷付いた和季を癒し、いまよりもっと自分に蕩けさせるその瞬間を思い。
穿つ男たちはきちんとゴムを着けていたことを、和季は解っていただろうか。生でしたらぶん殴ると笑顔で忠告したから、それもそのはずだが。
和季の痴態を流していた数分後、動画を止めてアプリケーションを閉じた。電源を落とした黒い画面に映し出されるのは、自身の顔だ。客観的に見ても悪くない。
「和季の可愛さは俺だけ知っていればいい」
自分の美しさがあるから、和季の可愛さが霞む。この顔に生まれなければ、もしかしたら和季は自分に惹かれなかったかも解らない。――そこまで考えて智史ははっとし、もしもなんて考えるだけ無駄だと、席を立つ。
和季は確かに自身が好きなのだから、もしかしたらなんて意味がない。何度も聞いている言葉を偽りだと思うものか。そして自分も和季を好きすぎてどうしようもないことを、和季も少しは理解したはずだ。
■□■
その日、母に呼ばれてリビングから玄関に走った和季は衝撃を受けた。
『うあ……』
『君が和季くん? うちの智史と仲良くしてくれたら嬉しいな。ほら智史、挨拶しなさい』
母が言うには、引っ越しの挨拶をしに来たらしい。同い年の息子がいると和季を呼んだようだ。
目の前にいる自分より小柄な可愛らしい少年――智史を直視できず、和季は母の後ろに隠れてしまった。
『――初めまして』
にこりと笑う智史におずおずと顔を出す和季だが、『は、初めまして!』と言ってすぐにまた隠れてしまう。智史は笑みを浮かべてそれを眺めていた。
『こら、和季! ちゃんとしなさい』
母にずいずいと前に出され、和季は智史を見るが俯いてしまう。『かずちゃん』と肩を叩く母は呆れているのか、声のトーンがやや固い。しかし頭を撫でて、今度は和季の背中を叩いた。
『ちゃんと目を見て話しなさい。恥ずかしがらないの!』
『だって、可愛いから、見れない!』
『見れないじゃなくて、見る。和季は少し人見知り直さないとダメよ? 保育園でもお友だちに挨拶し返さないときがあるんだから』
可愛いというのなら、耳まで赤くなる和季の方が可愛いのにと思いながら、智史はにこにこ顔で母の隣に立っている。
どうやら意気投合した母たちは玄関ではなんだからと、リビングでお茶の時間を開始してしまっていた。おとなしく傍のテレビを眺める和季に従い智史も隣に座っている。
初めは恥ずかしがって下ばかりを向いていた和季であるが、智史の歩み寄りにより顔を上げてくれるようになっていた。すぐに逸らされてしまうが、時間はたっぷりあるからと急かすことはない。
智史を見るのに慣れ始めた頃には、和季は「さぁちゃん」と呼んで従っており、智史は和季に落ちていた。
――その時と同じように、智史はにこにこ笑っている。
「さぁちゃん、なんでそんなに笑顔なんだ?」
「和季が可愛いから」
向かい合わせで夕食を食べるのは智史の希望である。隣でいいと最後まで抵抗した和季であるが、「和季」との威圧的な声に負けた。刷り込まれた恐怖には勝てない。
「か、可愛いのは、さぁちゃんだ! いや、いまはかっこいいけどさ!」
頬を染める和季に智史は「可愛い」と目を細めた。ますます赤面する和季は縮こまり、伏し目がちになる。蕩けそうなほどに甘い顔をした智史の目の前で。
「――和季は俺のものだよ」
確認するように紡がれる言葉に、和季は俯きながらも「……ん」と頷いた。