なめらかな足の甲に、舌を這わす。
足首を、脛を、膝を。
少女のそれは白く、華奢ではあるが柔らかい。その肌を我の舌が潤す。
時折口づけを交え、優しくついばむように味わう。
太ももをその唇が越えたところで、腹の辺りを突き飛ばされた。少女が無造作に蹴飛ばしたのだ。
足は脇腹の辺りに当たって、体勢を崩す。
「手を使ってはだめだと言ったではないですか」
どうやらスカートの端を触ったことが、気に食わなかったらしい。
「……申し訳ない」
項垂れて許しを請う。
これもまた、悪くない。
セイバー。
彼女は、断罪の権利をその手に握り、支配する側の悦びを覚えた。
この我が、身をもってそれを教えたのだ。
「いい子にしていれば、また機会をあげます」
足下に寄り添うと、頭を撫でる小さなその手。支配に酔う細い指先が可愛らしい。
テーブルには、我が淹れた紅茶と、教会内の台所から持ってきた来客用の洋菓子。それと例のボードゲームが広げられていた。
「手を抜いたでしょう。もう一回です」
盤上に置かれていた駒やカードを手で払うように混ぜると、彼女は言った。
「本気でやったが。お前は今回カードの引きが良かったではないか」
返答はなく、不機嫌そうに睨み付けられる。
「……わかった。納得しないならば仕方が無い。もう一戦だな」
「わかれば良いのです」
カードが配り直されるのを、少女は一人用のソファの肘掛けにもたれて眺めていた。
彼女は女王のように振る舞った。
我は甲斐甲斐しくそれに従った。
気に入らなければ手を上げることもある。頬を張ったことをあんなにも気にしていた頃とは大違いだ。
「もう一回です」
ゲームが終わると、セイバーは手にしていたカードを卓上にぱらぱらと落とした。
今回は我の勝ちになったが、やはり気に入らないらしい。どっちにしたって駄目なのだ。勝っても負けても満足しない。
「時間は平気なのか」
「……もうこんな時間ですか」
壁に掛けられた時計は十七時を指していた。五時間程度はここに居たことになる。
「帰らないと」
「下まで送ろう」
連れ立って階段を下り、教会正面の入り口まで付き添う。
こうして出迎え、見送ることも、ここ数日は常態となっていた。
翌日。
セイバーが結界内に足を踏み入れる気配を感知したのは、午後になってからだ。最近にしては遅い到着だった。
訪れた彼女を迎えるため、階下に足を運ぶ。彼女を一目見て、異変を感じた。昨日までの尊大な態度とはまるで違う。不安げで、落ち着かない様子だった。
共に二階の部屋に上がる途中、それとなく事情を窺う。
「今日は少し遅いようだが」
「……引き留められたので」
彼女は上着を脱いでソファに座ると、温かい飲み物を催促した。
要求に従って紅茶の入ったカップを渡すと、そのカップを両手で包み、指先を温めながらぽつりぽつりと続きを話した。
「その……ギルガメッシュは大人しくしているし…………もう、様子を見に行く必要はないのではないかと」
「ああ、なるほど」
ここに来ることを咎められたのだ。
無理もない。
初めは数分だったのが、今や彼女は一日の数時間をこの部屋で過ごしていた。……流石に、まさか外出しているその全ての時間をここで過ごしているとは、言っていないだろうが。
我の存在は本来ならば、平穏な生活を脅かす不安要素だ。結界から出てこられないと判明したならば、態々出向いてつつく必要も無い。
むしろ早く忘れて幸せになってほしいというのに、戦いの爪痕に構っているのは足を引っ張ることになる。
当然の提案だろう。
セイバーは、不安を映した瞳で、上目遣いに我を見た。
「あなたは……私が来なくなったら、困りますよね?」
可愛いことを言う。
本当は、困るのは自分自身なのだ。
外界では求められるよう溌剌と振る舞って、その鬱憤を我にぶつけて帳尻を合わせている。それがなくなったら、彼女のバランスは破綻する。
「そうだな。それは困る」
セイバーは返答を得て、安堵したような表情を浮かべた。
彼女が求める答えを言う。甘やかして依存を深める。
目の前の者が、どれだけ自分を必要としているか、肯定しているか。その際限ない疑心は、危険なものだ。
「セイバー」
足下に跪いて促すと、少女はストッキングを脱いでそれを許した。
「手を使ってはだめですよ」
「わかっている」
最早これは、いつも通りのことだ。
自らの足に口付ける我を、今や何の緊張もなしに、彼女は見ていた。愛玩動物に餌を与えているのと、そう変わらない感覚で。
だが、その油断は命取りだ。
弱者は、弱者であるという立場は、それだけで傲慢な権利者になり得る時がある。
自分は弱いのだ。弱い者に惜しみない施しを与えるのは、強者の義務だ。……そう叫ぶ請求者たちを、いつの時代も目にしてきた。
無論、我はこういった輩は好きではない。
しかし、セイバーにとってはどうだろう。縋ってくる弱者に纏わり付かれ、ここまで自身の運命を狂わせた彼女ならば。
「セイバー」
屈んでいた身を起こし、ソファに膝をついて引き寄せると、その身体を抱きしめた。紅茶の入っているカップが床に落ちる音がしたが、その安否は、今はどうでも良い。
「……っ? ギル……?」
唐突な行動に驚いて、しかし彼女は撥ね付けはしなかった。
そうだろう。
彼女は今、自分を護ることが出来ない。
罪悪感によって精神をすり減らし、自尊心を失い、非常に無防備だ。
「更なる奉仕を許してほしい」
これが反逆ではないと。
耳元で、そう言い聞かせる。
「我がお前を恋慕していることは、知っているだろう」
敵意ではなく、悪意ではなく、あくまでも思慕の情であることを強調する。
そうすれば、今の彼女は拒めない。護れない。……自身に護るだけの価値を認められないのだ。
返答を促すように目を合わせると、困惑と不安に揺れていた瞳が、やがて伏せられた。
判断を放棄したようなそれを肯定と取って、もう一度肌に口を付ける。
膝から太もも、更に上へ。スカートがずり上がって、下着が露わになった。
下着と肌の間をなぞり、足の付け根の柔らかい部分を啄む。
「……っ」
全身が強ばって、筋肉が固く緊張するのがわかる。足が閉じられないよう、膝の間に自らの体を入れて押し留めた。唇で触れられている部分に意識が集中してしまっている彼女には、その行動は認識されていまい。
滑らかな質感の布の上をすべり、徐々に中心へと近づける。
「うあっ!」
身体が大きく跳ねた。それは、他人に許すことのない場所に触れられた、精神的な衝撃だろう。なんとも初々しい反応をする。
下着の上から形を探って、気持ちの良い所をなぞる。
「やっ、あっ……!」
上下に擦るように舌を動かしてやると、今度は快感によって、びくんと大きく身体を跳ねさせた。
舌先で割り開くと、薄い布が粘膜に押しつけられて、じんわりと染みが広がる。
「あ、あっ……、だめです、やっぱり……っ」
押しのけようとする手を無視して、肝心の部分に唇を押し当てた。
「ひゃ!」
背筋が仰け反る。
可愛らしい痴態に、笑みが零れた。快楽に慣れていない身体が何度も大きく震えて、許容出来ないその感覚を拒絶しようと足掻く。
もっと多くを与えてやろうと、両の内股に手をかけて足を開かせた。手を使うのはルール違反だが、そんなことはもう認識できないだろう。
「やぅ、やめ、そこ、っあ、やらぁっ」
つるつるとした薄布は何の障害にもならずに、それどころか熟れて隆起した感触が伝わる。口内に含んで嬲ってやれば、泣きじゃくって子供のように喚いた。
「あっ、あ、ひぁ、ああっ!」
やがてひときわ大きく、息を吐くような高い泣き声が上がった。
固定していた足を解放してやると、膝を摺り合わせるように閉じて椅子の上で小さくなる。
「セイバー……」
まだ荒い息を吐いている泣き顔に、キスを落とす。
朦朧としている彼女に、それが振り払われることはなかった。
どろどろになってしまった下腹部を簡単に処理すると、彼女はろくに言葉も交わさずこの部屋を後にした。
しかし、それに関して我が危機感を持つことはない。ここにセイバーはまた戻ってくる。彼女は自分の欲しているものに気がついた。
いつたどり着くかは兎も角として、帰結する場所はすでに確定している。
教会を出た私の中には奇妙な冷静さがあって。でもそれは、イレギュラーに遭って感情が付いてこなかっただけなのかもしれない。
歩いているうちに、動悸が乱れ、動揺がせり上がってくる。気付けば、足が震えていた。まずい。よくわからないけれど、ひどいことになっている。
やっと家にたどり着くと、走って部屋に駆け込んで、ふすまを閉めた。
布団を頭まで被った。
裏切られた失望、許してしまった自己嫌悪、あの男を支配していると思っていた自分の浅はかさ……思考がまとまらない。
まだ学校が終わる時間じゃない。家には私ひとりだ。
シロウたちが帰ってくるまでに、平静を取り戻さなければ。今は考えることをやめよう。
このままじっとしていれば、落ち着くはずだ。
しばらくして。玄関の引き戸が開く音で目が覚めた。いつもならば敷地内に人が立ち入った時点で気付くはずなのに。
いつの間にか、眠っていたのだろう。
「セイバー、いるのか?」
シロウが部屋の前まで様子を見に来る。
「あ、はい」
ふすまを開けて、布団に入っている私を見て、彼は心配そうに眉をひそめた。
「あれ、具合悪いのか?」
「ええと、ちょっとだけです。お昼を食べ過ぎたのかもしれません」
「そっか。……胃薬とかもあるから、つらかったら言ってくれよ」
「はい……」
戸が閉められて、軽く息を吐いた。
よかった。普通に会話することができた。
少し眠って、気分も落ち着いてきている。平静に戻ってきている自分を自覚して、安堵した。
ひどい記憶も、もうずっと、この先ずっと教会に行かなければ、薄れていくに決まっている。