コレデモカノジョデス 作:トクメイデス
その日はロトくじを外したが、別にいいことがあったので気にせず草津風銭湯へと向かっていた。
先日は要と一晩中いちゃついていたので、手ひどいしっぺ返しが来るかもと身構えていたのだが、今日も特に変わらない一日だった。後輩の三千院には昼飯をおごったがたいした痛手ではない。
「要のやつ、喜ぶかな……あと由崎夫妻」
まあ、ここは幸運のおすそ分けをするか、と歩いていると見慣れた背中が見えたので、声をかけたのがことの始まりだった。
「お~い、そこの由崎夫妻」
「ん? ……あ、雄一君」
「こんにちは~」
由崎とその嫁さんに手振りであいさつし、近寄ってから止まった。
「これから銭湯か?」
「うん、ちょっと今後のことを考えようかと」
「今後?」
見た感じ、旅行支度のままだが、家に帰らなかったのだろうか?
「実は、家が燃えちゃって……」
「ああ、そうなんだ。大変だったな……ゑ?」
思わず、変な声が出てしまった。
え、由崎の、家が……カジ?
「うん、それでこれからどうしようかと……って雄一君!?」
由崎が驚くのも無理はない。
「なんかいろいろとすまん!!」
「なんかいろいろってなに!?」
アスファルトに咲くなにかのように、いつのまにか俺はきれいな土下座をしていた。
「いや実はここ最近、いろいろといいことがあったから……そのしっぺ返しが間違って由崎の方に行ったのかと」
「そんなデタラメな因果関係、ないと思うよ……」
由崎に手を引かれて立ち上がる俺。
「しかし、本当か? 家が火事って……」
「うん。僕も司ちゃんもびっくりしちゃったよ……」
びっくりで済むのが、こいつのすごいところだよな。
俺ならたとえ事故でも、だれかれ構わずとっ捕まえて慰謝料をふんだくるが……
「あーとなるとこれ、かえって迷惑かな?」
「どうかしたの?」
先に要に見せようと思っていたが、あまりのできごとにそんなことを考える余裕なんてなかった。
俺は懐からあるものを取り出し、由崎達の前に広げて見せる。
「水蓮寺ルカのライブチケット。ペアチケット二つもらったから、一つやろうかと思って」
「下さい!!」
今度は頭を下げられてしまった。しかも由崎の嫁さんに。
ファンだったのか……要と話が合いそうだな。
「……というか、火事の後だけど、その辺り大丈夫なのか?」
「うん、火災保険はばっちりだから。ちょっと時間がかかるけど……」
「まあライブも明日、明後日の話じゃないからな……」
というか数ヶ月後だし。
「元々やるつもりだったからいいけど、これじゃあ完全に陣中見舞だな……意味あってる?」
「微妙だけど、一応あってるんじゃないかな?」
まあ、あっているということにしておこう。
「というわけで、ほれ」
「あ、うん。ありがとう……」
由崎にチケットを渡してから、俺達はそろって銭湯へと足を向けた。
「ということは、家どうするんだ?」
「それも含めて、ちょっと考えようかと思って……そういえば雄一君の家、マンションだったよね?」
「まあ悪くはないが……部屋空いてたっけ?」
そもそも、あそこ風呂狭いんだよな。部屋は結構広いけど。
「せっかくだし、もっといい部屋探せよ。俺の家相応で家賃が安いか、広い部屋探せばいいだけだし」
「そのつもりだけど、簡単に見つかるかな……」
悩む由崎をつれ、俺達は銭湯の暖簾をくぐった。
「はぁ……」
湯船につかりながら、俺はぼんやりと天井を眺めていた。
他に客もいない中、身体を広げて湯水につかるのは中々の開放感があっていいものだ。
そんなことを考えていると、由崎も浴場に足を踏み入れてきた。身体を洗い、湯船に入るとそのまま俺の横に腰掛けてきた。
「ああ、いいお湯だな……」
「やっぱり疲れたか?」
「まあね……」
そう言って由崎が掲げた左手の薬指には、結婚指輪がはまっていた。
「いい指輪だな……」
「うん、色々あったけど、いいのが見つかってよかったよ」
ものとしては悪くなさそうだな。やっぱり結婚指輪はシンプルなのに限るか。
「でもハニーウィンストン、って……高いよね?」
「しっかりしろよ。そんなのトニー・ス○ーククラスの金持ちでもない限り無理だって」
というか、俺でも無理だわ。
精々海外旅行出来るくらいに稼いで、ついでに宝石相場の安い国で買えるかどうか、というところだからな。
「そう言えばさ、雄一君」
「どうした?」
そんなことを考えていると、由崎がこちらの方を向いてきて、なにやら話しかけてきた。
「前から気になってたんだけど、雄一君はどういう感じで、要ちゃんに告白したの?」
「告白って……」
あれ、俺から要に告白したと思われているの?
「なにを勘違いしているのかは知らんが……最初に告って来たのは要の方だぞ?」
「えっ、そうなの!?」
驚く由崎をよそに、俺は湯船の縁にもたれかかってから、当時のことを話し始めた。
第1部のあらすじ
有栖川要は江崎雄一に恋をしていた。学校でも思い悩み、たまたま視線の先にいた数宮君に勘違いをさせてしまうほどに。私服を大人っぽくし、「敬意を払えない」と言い訳してタメ口名前呼びをしても、背伸びしたがる妹感がぬぐえずもんもんとする。そんな中、「人生ってね、失敗してもいいのよ……」と通りすがりの酔っ払いに諭された要は、一大決心のもと雄一の前に立ち、好きな人がいると宣言。それに雄一も答えた。「由崎だな。まかせろ、最高のシチュエーションで告白させてやる!」とサムズアップする彼に対し、要はステップを踏んだ。「この鈍感ロトくじ当てずっぽう野郎!」今、酔っ払い直伝奥義ボルテスキックが、雄一の身体に突き刺さる!
有栖川要
ぎゃあ!? なに私の黒歴史さらに悪化させたのを載せてるんスか!?
江崎雄一
いや間違ってはないだろう。少なくとも要の気持ちに気づいた時は、こんな状況だったし
由崎ナサ
これって僕が中学の時の話? 数宮君って、覚えがないんだけど……
由崎司
それよりこのあらすじ、本当は小説のネタバレじゃないの?
有栖川綾
こんなドタバタがあったのに、気づかなかった私って……
酔っ払いの妹
お姉ちゃん! よその人になんて技教えているのよ!?
酔っ払い
ゴッメーン! 酔拳のノリで教えちゃったわ!
「……ってあれ!? なんか今あらすじと人物紹介欄みたいなのが流れなかった!? おまけに知らない人も混じってた気がするし!?」
「気のせいだろう……まあ、そんなこんなで要に飛び蹴り喰らってからようやく、あいつの気持ちに気づいたってわけだ」
しかし、当時は要も由崎のことが好きなのかと思っていただけに、あれにはびっくりしたものだ。昔の一件もあり、むしろ嫌われていると思っていたからな。
「ちなみに当時の要がはいていたパンツの色は」
「いや、言わなくていいから……」
まあ、冗談だが。というか、言う気ないし。
「ということは、その時から付き合ってるの?」
「いや、付き合い始めたのはもっと後だな……」
微妙に、少し温くなった気がする。しかしその分、湯当たりにはならなくて済みそうだな。
「……そういう意味では、俺から告って付き合ったことになるのかな?」
「要ちゃんに改めて告白した、ってこと?」
「どちらかと言うと……告白の返事に自分の気持ちを伝えたんだよ。少なくともその時は付き合ってなかったからな」
とか言いつつ、ちゃっかりデートとかしていたんだよな、俺達。
「まあ、詳しいことは今度話すよ……気が向いたらな」
そして俺は先に風呂から出た。
今後どうなるかは知らないが、せめて仮住まい探しくらいは付き合ってやろう、と考えながら。
そして仮住まいは思いのほか、あっさり見つかった。
「まさか、離れがあるなんて……」
「前からあったよ。元々親父さんの部屋だったらしいし」
そして当人も駆け落ちして行方不明……ひょっこり帰って来てないよな?
要から出会い頭にぶん殴っといてくれ、って言われているんだが。
「でも、雄一君的にはいいの? 僕達がここに住んでも」
離れで由崎夫妻と一緒にくつろいでいると、ふとなにかに思い至ったのか、由崎がそう問いかけてきた。俺は畳の上に足を広げながら、どうでもよさげに手を振って返した。
「別にいいわ、要に手を出さなきゃ。そもそもお前の性格的にありえんだろう?」
「まあ、そんなつもりは一切ないけどね……司ちゃんに報復がいきそうだし」
さすがは由崎、俺の性格をよく理解している。
相手の弱点をえぐるのは喧嘩の基本だからな。
「というか、有栖川の方なら別にいいぞ。お前らが修羅場になっても俺関係ないし」
「だから出さないって!」
そんなこんなで由崎の嫁さんが眺める中軽口をたたきあっていると、離れの使用許可を聞きに行っていた要が帰って来た。
「センパイ、二人ともOKっス――!」
「ありがとー」
仮とはいえ無事に住む場所も決まったので、俺はそろそろおいとますることにした。縁側から靴を履き、由崎達に見守られながら立ち上がると、ふと昔のことを思い出してしまい、足を止めてしまった。
「しかしなつかしいな……」
「そんななつかしむほどでもないっスよ」
「なんの話?」
首をかしげる由崎に、俺はこの場所を指差して答えた。
「……俺と要、ここで仲直りしたんだよ」
「ああ、そういえば離れにいる、って聞いてあやまりに行ったんだよね?」
「そう、ケーキ片手にな」
まさか、そこから今の関係に発展するとは思っていなかったが。
「そっか、あの時話に出てた離れか……」
「……お前がいてくれてよかったよ」
俺は背を向け、軽く手を振りながら歩き出した。
「じゃなきゃ銭湯はないし、俺にも彼女ができていなかった。さすがはイカレ数学野郎だな」
「いや、別にたいしたことは……って言い方!」
というオチをつけてから、俺は離れを後にしたのであった。
「今回は第2部の導入なので、書き溜めていた分を改変しただけっス。エロ含めて続編は執筆中なので、もう少し待っててください。ちゃんと歯を磨くっスよ」
「要ちゃん、誰に言っているの?」