コレデモカノジョデス 作:トクメイデス
当時のデートなんて、精々映画を見るとか喫茶店でだべるとかといった、程度の低いものを想像していた。いくら手に職を持っているとはいえ、高校生が中学生とデートするとなると、色々と制約が多い。
「えっと……もしかして嫌だったっスか?」
「いや、意外だっただけだ」
だからデートの場所が美術館だと聞かされた時は、まだ相手のことを全部理解できていなかったんだな、と思い知らされた気分だった。
「美術部なのか?」
「あまりうまい方じゃないっスけどね」
だが絵自体は好きなのだろう。
少なくとも自分が興味を持たないのなら、美術館を選ぼうという発想すらわかないはずだ。
「それで、なんの絵を見るんだ?」
「分野的には近代美術っスね……」
入り口に置いてあるパンフレットを片手に、二人並んで展示された絵画を眺めていく。
「私もその辺りは勉強中なので、あまり解説とかはできないっスけど」
「別にいいよ。ゆっくり見て回ろうぜ」
どちらかというと、当時は絵よりも要のことを知ろうとしていたと思う。
まあ、当然だな。銭湯でのこいつしか知らないのだから。
「休憩スペースがあるっスね」
「ちょっとお茶していくか」
だからいい機会なのかもしれない。
「どうかしたんスか?」
「いや……来て良かったな、って思っただけだ」
どうとらえたかは知らないが、要の顔が赤らんでいる。まあ、相手を理解する上で言った言葉だから、たいした違いはないが一応説明しておくか。
「ただ、俺はなにも知らないんだな、と思ってさ」
「いや、絵だったら私も」
「違う……お前のことだ」
俺は目の前の小娘に告白されて、今ここにいる。
当時は『要』と呼ばず、ただ『妹』と呼び、そう見ていた頃の俺は、まだまだガキだったんだなと思う。
「普段と違う環境にいるだけで、見慣れない一面が見えてしまうのが、な。ちょっと考えさせられているんだよ」
「……私が嫌いになったっスか?」
「いや……ますます半端な返事ができなくなっただけだ」
コーヒーが苦い。多分味だけじゃなく、気分も関係しているのだろう。
「ただでさえ、恋愛自体が初めてなんだ。それなのにお前のことをよく知らないとなると、どう向き合えばいいのかが分からなくなってくる」
……って、暗く話しすぎたな。
俺は気分を変えようと、あえて明るめに話し掛けようとした。
「よし、そろそろ」
「……別に単純でいいっスよ」
しかし、俺の言葉は途中で切られてしまう。
「私だって、ただ好きだから振り向いて欲しくて、告白しただけなんスから」
「いや、でも」
「未来なんて、誰にも保証できないっス」
その時の要は、中学生だったにもかかわらず、どこか大人びた眼差しを俺に向けてきていた。
「前にある人に言われたんスよ。『人生は失敗してもいい』って。たしかにうまくいかないかもしれないし、一生傷つくこともあるかもしれないっス……それでも、」
要は立ち上がると、両手を伸ばして、俺の顔を手で覆ってきた。目をそらさず、ただじっと見つめてきている。
「たとえこの先なにが起こるとしても、私は雄一君が好き。だから、成功しても失敗してもいい。今この瞬間、雄一君がいてくれるのなら……」
「……考え方が刹那的すぎないか?」
「なにもしないよりずっといいっス」
俺は要の手を握り、立ち上がった。そのまま手をつなぎ、席を離れていく。
「そろそろ行くか」
「はいっス……」
若干不貞腐れた声を無視して、俺と要は残りの展示を見に行った。
多分、あのままじっとしていれば、要は俺にキスしていただろう。当時でもそれくらいのことは分かった。行動できるのはすごいとは思うが、あまり急いで欲しくなかった。
というか、正直恥ずかしかった。
「あの、雄一君。手……」
「ん? ああ、わるい……」
さっきから手をつないだままだった。セルフサービスだったので会計もなく、お茶だけなので片付けも片手で事足りる。だからそのまま展示室に出てしまっていたので、気づかなかった。
「……このまま、つないでていいっスか?」
「……好きにしてくれ」
ああ、恥ずかしい。
でも当時の俺は、この恥ずかしさを、どこか嬉しく思っていた。
「フンフフーン♪」
「楽しそうだな……」
手をつなぎながら歩いていると、なんとなく昔を思い出していた。
その間も要は俺の手を取って指を絡ませ、小さな歩幅をスキップで埋めながら横を歩いている。
「いや、初デートの時を思い出しちゃって……よく考えたら、不安込みで好きになってたな、って」
「……そうか」
こいつも思い出していたか。それを聞くだけなら、周囲はお似合いとかいうのだろうな。実際はうまくいくか不安で仕方ないっていうのに。
「でも雄一君……いきなりいなくなったりしない、っスよね?」
「突発的な事故でもない限りは、な」
そうだな、不安になっていても仕方がない。もしその瞬間まで一緒にいることができたなら、その時は言おう。
大丈夫、俺には由崎の実例があるから。……逆に不安になってきたから、なしで。
「少なくとも離れるかもしれない時は……真っ先に要に言う。それだけは約束する」
「まあ、それでいいっス……今は」
もうすぐ草津風銭湯が見えてくる。
さすがに手をつないだまま入るのは恥ずかしいから、途中で手を放そう。
しかしその直前まで、俺も要も手を放そうとはしなかった。
そしてしっかりと、バイトを早上がりしていた由崎に見られていたのが今日のオチである。
「……ねえ、雄一君」
「ん……どうした有栖川?」
風呂上がりのマッサージチェアの上。ふと気がつけば、有栖川が隣に立っていた。
「失恋した時って……どうやって立ち直ればいいと思う?」
「知らん」
そう言ったらなぜか軽く殴られた。解せん。
「いやだって、俺、要と付き合ったのが初めての恋愛なんだぞ。つまり失恋したことがない」
「そうよね。気がついたらあっさりと、人の妹手籠めにしちゃってたのよね……このロリコン」
「張っ倒すぞ天然」
しかしマッサージチェアの魔力が俺から暴力を吸い取ってしまい、反逆できずにいる。
「そうよね、ロリコン喧嘩魔さんは10ページで初恋が終わった人の気持ちなんて分からないわよね」
「そりゃそうだ。初恋する間もなく要と彼氏彼女やっているんだぞ。考える暇もなかったわ」
とりあえずハリセンはやめろ。
どこから取り出しやがったこのアマ。
「……ああ、いや違うわ」
「なにが?」
いぶかしむ有栖川だか、ハリセンの手を止めない。しかし、止まるものもある。
「いや、そう言えば要相手に初恋していたのかな、って思い出した」
「やっぱりただのロリコンかっ!?」
俺は有栖川からハリセンを取り上げて、そこらに投げ捨てた。
「まあ、初恋と言えるかどうかは知らんが……それよりも有栖川」
「な、なにかな……雄一君?」
変なかまえを見せる有栖川に対して、俺はマッサージチェアから立ち上がると、悠々と近づいて行った。
「もう拘束するものはない。そして……俺が要以外の女を大切にするタイプに見えるか?」
「……ふっ」
すると有栖川は一度笑うと即座に反転、俺に背中を見せて走り出した。全速力で。
「ハッハッハ、逃げてしまえばこっちの」
「銭湯内で走るなっ!!」
「へぶぅっ!?」
しかし逃げた先にいた要に、箒でブッ飛ばされていた。
さっきから見ないと思えば、どうやら更衣室の掃除をしていたらしい。
「要ちゃん助けて! あなたの彼氏が私の服を剥ごうと……」
「綾姉……さっきから聞いていたっスよ」
「……すみませんでした」
妹に見下され、有栖川は顔を青ざめながら、その場で正座していた。昔はけっこうなお姉ちゃん子だったと思っていたが、現在は立場が完全に逆転してるな。
昔、初めてここに来た時に要と出会ったのだが……
『……にぱぁ』
有栖川に隠れて俺を見てきたあいつが、無邪気に笑ったのが印象的だったと。それを思い出したのが好きだと自覚したきっかけだと、だれかに話すことはまずないだろう。
……完全にロリコンの所業だぞ、おい。
凪:まずいな……
颯:どうしたの?
凪:ん? ああ……
凪:ちょっとそこ見てみろ
颯:えっと……
颯:……あれ、『コレデモカノジョデス』の世界が崩壊しかけている!?
凪:作者のモチベーションが落ちてきてな……
凪:このままだと打ち切りになるかもしれん
颯:いやいやいやいや……
颯:更新ペース落とす話はどこ行ったんですかっ!?
凪:仕方ないだろう……
凪:作者、某小説投稿サイトで
凪:『読まれたポイントに応じてお金がもらえるっ!?』って
凪:オリジナル書くって張り切ってしまっているのだから
凪:しかも別名義で
颯:つまり、ここはもう……
凪:正確にはここ『も』だ
凪:あの作者の書きたがる話は題材がニッチ過ぎるから、
凪:多分読者数は二次創作と大差ないぞ
凪:『管理局贔屓の情報屋』がいい例だ
颯:『1room after illusion』も執筆しているのに
凪:あれは元々時折更新の予定だから、
凪:こっちよりもペースが遅いぞ
凪:まあ、それでもまずいんだよな……
凪:最近原作で要のやつがごぶさただし
颯:明らかにそれが原因だよね……
凪:おまけに見ているAVでも『どこがサイレントだしっかり啼いてんじゃねえか!』
凪:と場違いな舌打ちすらしている始末だ
颯:ちょっと!
颯:人の性事情ばらすのはまずいって!
颯:君作者が嫌いなの!?
凪:別にあんなやつはどうでもいい……
凪:ただ……
凪:続けてくれないと嫌なんだからねっ(釘ボイスレベルMAXで)!
颯:ぇぇ……
凪:……まあ、完結まで書き上げてくれればそれでいい
凪:オリジナルもどうせ書ききるまで公開しないんだから、
凪:こっちもさっさと書き上げて欲しいものだ
颯:無理だよ単行本が出てないんだから……
凪:でもいくらかは書けるだろうが
凪:とにかく、これからも真面目に書けという話だ
凪:その調子で仕事もがんばれ!
颯:あれっ、執筆の話はっ!?