コレデモカノジョデス 作:トクメイデス
「ああ、遅くなったな……」
仕事で少し遠出していたので、帰った頃にはかなり暗くなっていた。
ハッキリ言って、もう何もやる気が起きない。夕飯だって、さっき吉○家で食ってきたばかりだ。要と一緒だと、ガッツリ系に入りづらいから丁度良かったのもあるが。
「後は風呂入って……銭湯でいいか」
ついでに会えたら、要の顔も見たいしな。
そう考えて歩いていると、前方にここ最近、見慣れた顔をした人物が立っていた。
「……由崎の嫁さん?」
「あ、どうも―」
手を上げて挨拶されたので、こちらも返してから手前で立ち止まった。
ここから銭湯まではすぐだが、なぜこんなところにいるのだろうか。
「旦那でも待っているのか?」
「そんなところだね。外の空気も吸いたかったし」
ボオオオ……
無駄に排気量の多そうな、旧式トラックが走り去っていった。
「……笑っていいか?」
「私のいないところで頼む……」
まあ、いたたまれないから笑わないが。
「遅くなりそうなら、先に戻った方がいいぞ。この辺りはまだましだが、一人だと結構物騒だしな」
「なら聞いてみたいこともあったし、ちょっと話さないか?」
「聞いてみたいこと?」
一体なにを言い出すかと思えば……
「地上げ屋相手に喧嘩したって本当?」
……最悪なんてレベルじゃねえ。
「……誰から聞いた」
「あまり怖い顔をしないでくれるか」
平気な顔してなに言ってやがるこのアマ。
「今朝銭湯の仕事を手伝った時に、要から聞いたんだよ。多分、誰かに聞いて欲しかったんじゃないかな?」
「嫌なら隠さなくてもいいって、言ったんだけどな……」
軽く呼吸し、適当な壁にもたれて頭を冷やした。気休めだが、幾分か冷静になれた。
「……たいした話じゃないさ。渋谷の広い土地、おまけに経営が傾いているとなれば、狙う連中がいても不思議じゃない」
まあ、狙っていたのはチンピラ上がりのヤクザ手前な連中だ。最後は本職に連れていかれたから、それからどうなったかは知らないが。
「……由崎がいるから経営はなんとかなった。それで真っ当な企業は手を引いてくれた。だが……ただ土地を手に入れれば金になると考える馬鹿が、まだ残っていた」
「そいつらと喧嘩したの?」
「ああ」
見上げるも、やっぱり星はほとんど見えない。
こんな夜空を、要はなんで好きなんだか。
「一度喧嘩を始めてみれば、馬鹿が多くてキリがなかった。一回要に見つかった時なんて、もうやめようかとも思ったが、結局続けちまった……」
「……それだけあの銭湯を、大事に思ってるんだね」
そう、意外なことに、俺はあの銭湯を気に入っちまってたんだよな。
……いや、どちらかと言うと、そこにいる人間達をだろうな。
「どうりで私を警戒していると思ったよ……」
「いや、人となりはもう信用しているよ」
最初はそれこそ、由崎や要達に危害を加えるんじゃないかと一歩引いていたが、騙すならこんなに長く居座る意味がない。
それに由崎はともかく、要が秘密をばらす程度に懐いているんだ。人柄は今更疑うべくもないんだが……
「……ただ、あんたの過去はどうなのか、って思ってな」
「イタイとこ突くな―……」
まあ、俺も半分カマ掛けただけなんだけどな。
人生経験濃ゆそうだな、とは思っていたが。歴史の宿題について聞こうと由崎の親父さんに電話した時に、由崎達の話になった途端、愕然としたよ。
「普通いないだろう……女子高生位の女が本物の刀の重さを知っているなんて」
「まあ、いろいろあってね」
「そこはいいんだよ。人の過去なんて無理に聞くもんじゃないし」
問題は、だ。
「保証が欲しいんだよ……あんたの過去が、要達を襲わないって保証が」
そう、保証だ。
もしかしたら、この女の関係者が強引な手段を取るかもしれない。
もしかしたら、この女か近くにいた者に敵意を向けているものがいるかもしれない。
もしかしたら、もしかしたら、と。考え出したら本当にきりがないのだ。
過去を無理に聞く必要はない。必要なのは一点だけ、その危険性だけだ。
「ふむ……」
そう言って、由崎の嫁さんはあごに手を当て考え出した。しかしすぐに手を離し、軽く肩を竦めただけで終わってしまう。
「詳しくは原作で」
「それずるくね?」
「まあ、冗談だけど……少なくとも、危なかったら旦那様を連れて逃げるから大丈夫よ」
「いや、危険だってことを否定してくれよ……」
なんかアホらしくなってくるな……
「とりあえずは大丈夫、でいいんだな?」
「詳しくは話せないけどね」
なら……まあ、いいか。
「……悪かったな、いままで」
「別にいいよ。気持ちはわかるし、過去を知っちゃったのはこっちも同じだしね」
できれば黙っててくれないかな。
由崎どころか有栖川も気づいているっぽいが、あんまり自慢できることでもないし。
「……と、結構話しこんでたんだな」
「みたいだね」
夜闇に紛れて、向こうから由崎がやってきた。すでにバイト上がりの時間になっていたらしい。
「……あれ、司ちゃんに雄一君?」
「お帰りなさい、旦那様」
「よう、由崎」
俺達の前に来ると、由崎は微妙に嫁さんをかばう位置で立ち止まった。
「……お前って、昔から独占欲強いよな」
「いや、ごめん。なんとなく……」
「私は嬉しいけどね」
こいつ昔も猫飼ってた時とか、あんまり触らせなかったんだよな。こっちが動物に関して不得意だった、ってのもあるけど。
とはいえ、待ち人来たりで立ち止まる理由もないので、並んで草津風銭湯へと向かうことに。
「ところで、なにを話してたの?」
「あ、えっと……」
「そうだ。お前も加われ」
ギョッとした顔を向けてくるが、俺は誤魔化しも兼ねて話題を変えることにした。丁度いい、ってのもあるけどな。
「さっき会った時にも話してたんだけどな、呼び方どうしようかと思ってな。ほら、『由崎の嫁さん』って、他人行儀だし長いだろ?」
「あ―まあ、たしかに……」
「それに旦那様も……そう言えば、なんであなただけ皆を名字呼びなの?」
……う―む、話していいものか。
「まあ、当時は名前呼びするのが恥ずかしかった、ってのもあるが……」
「昔、僕がクラスで自己紹介してクラスメイトがからかいだした時なんだけどね」
語るなよ。
「『良かったじゃねえか。名前で人間判断する奴なんて、付き合っても将来ろくなことねえぞ?』って。本当はもっと過激なことを言ったから若干学級崩壊起こしかけていたけど」
「……君達の昔話に興味が出てきたんだが」
「勘弁してくれ」
それ以来、なぜか俺、由崎、有栖川の三人でつるみだしたんだよな。それが今でも続くとは思わなかったが。
「というか、柳先生には会ったら謝った方がいいよ。担任だった時に、それで思いっきり泣かせたんだからさ」
「いや、実は卒業してから一回会ってんだわ……」
要への気持ちに迷っていた時に『俺はロリコンかもしれない!』とたまたま会った先生に相談しちまったんだよな。今思うと情けないことこの上ない。
……と、話がそれたな。
「というか、それなら今から名前呼びに変えたらどうだい?」
「ふむ……」
銭湯に着き、そう提案されて考えてみる。
「それこそいまさらな気もするが……お前はどう思うよ?」
「僕はいいと思うよ。特に気にしないし」
「つまりお前の嫁さんを名前呼びしても?」
……嫌そうな顔をするなよ。
「じゃあ、お前がナサって呼ばれてろ」
まあ、いい機会か。
別にどっちで呼んでも、いまさら関係が変わるとも思えないし。
「というわけで、『由崎』の称号をあなたに授けます」
「わ―い」
(二人共すっごい棒読み!)←由崎星空の心の声
という適当な流れの中、由崎の嫁さんを『由崎』呼びにすることに決まりました。
「というわけで、これからもよろしくな。ナサに由崎」
『よろしく~』
そして俺達は銭湯の暖簾をくぐった。
「あ、要が嫉妬するから、お前だけ『有栖川』呼びは変えないからな」
「……なんの話?」
いぶかる有栖川を放置し、俺はナサ達と別れて男湯に入った。
というわけでナサ、説明任せるわ。
要のグル白質問コーナー
Q:今回要ちゃんの出番は?
A:たまにはいいか、と私抜きの話になったっス。作者泣かす。
凪:ようやく原作の脇の話という、
凪:本来の調子に戻ったな
颯:うん、それはいいんだけど……
凪:ああ、エロが薄いな
颯:さらっと言わないでよ!
凪:言っても言わなくても、事実は変わらん
凪:ストレスで体調が微妙とはいえ、
凪:書けるんならさっさと書けというのだ
凪:エロが向いてないんじゃないか、この作者
凪:というか、この話でズ○セン扱いてる奴なんているのか?
颯:だからやめてって!
凪:エロ小説で無茶言うな……
凪:……まあいい、とにかくこれからはオリジナル展開だ
凪:要の過去話から先輩の未来へとつながり、
凪:そしてエンドと……原作の話も少しやりたいんだよな
凪:特にあの新キャラとの絡み
颯:さすがに無理だって……
颯:作者がお金儲けの新しい手段を見つけちゃったんだからさ
凪:まったく……だからさっさと完結させればよかったものを
凪:このままでは完結前に原作6巻が出てしまうぞ
颯:せっかくペースも少し上がってきたからね
颯:もっと早く続けて欲しいよ……
凪:というわけでもうすぐクライマックスだ
凪:全員歯を磨いて待て!!
凪:本当は先輩達が喧嘩している横で、
凪:私が銭湯の窮地を救う展開もやりたかったのだが
凪:結局没になってしまった
颯:え、お金で?
凪:いや、喧嘩で
凪:そのシーンを、たしかお前は隠れて見ているというオチだったな
颯:……本当、知らない間にたくましくなりましたよね
颯:お嬢様……
凪:だからそう呼ぶなと言うのに……