コレデモカノジョデス 作:トクメイデス
「は? 両親への挨拶?」
それは放課後のことだった。
大した金額ではないとはいえロトくじが当たった俺は、換金してからコンビニに寄り、唐揚げに換えて食べ歩きしていると、丁度帰宅途中の由崎夫妻と遭遇したのだ。
見慣れないカメラを持っていたので挨拶がてら聞いてみたら、奈良にいる両親に嫁さんを紹介しに行くとのことだった。
「というか由崎、結婚しといて両親に挨拶してなかったのか?」
「いやぁ、あの親に紹介するのは気が進まなくて……あと照れる」
「惚気るなご馳走様ブッ飛ばすぞこら」
とはいえ、結婚式すら挙げていないのだ。せめて両親への挨拶位、まともにしといて損はないだろうに。
「別に不仲なわけじゃないんだろう? さっさと行ってこいよ」
「うん、だから今週行ってくるよ」
適当に挨拶をしてから俺達は別れた。
しかし両親への挨拶か、俺はまだ結婚する気も甲斐性もないから特に考えていないが、覚悟ができたら要を連れていかないとな。
「一応母親には挨拶しているからいいんだが……あ」
いや、でも、まさか……しかし由崎の一件もあるし。
俺は唐揚げの入っていた袋をゴミ箱に放り、銭湯へと急いだ。
「は? 私達が付き合っていることを綾姉が知っているのか、って?」
「ああ。そういえば、有栖川に話してなかったんじゃないかと思って」
「いやさすがに……ありえそうっスね」
草津風銭湯に着き、入り口で掃き掃除をしていた要に声を掛けて、由崎達との会話から有栖川の認識について意識が向いたことを話した。それを聞いて、要も箒を片手に顎に手を当てて悩みだしていた。
「たしかに先輩達のことにすら気づいた様子がなかったですし、完全に気づいてない可能性も……」
「どうする? 話すか目の前でエロいキスをするか?」
「二択目はねえよ」
やっべ、ふざけすぎた。またグル白化させちまったよ……
「とにかく、有栖川が帰ってきたら一回話そう。俺達が付き合っていることを」
「え、付き合っているの?」
ふと、背後から聞き慣れた声がした。
俺の背後に目を向けた要が驚愕の表情をあらわにしている。それだけで、後ろにいる人物に見当がついた。ゆっくり振り返ると、案の定そこには件の女性が、要の姉貴がいやがった。
「よ、よぉ……有栖川」
軽く手を上げ、固い口調ながらも挨拶をするも、向こうからの返事はない。
「えっと、ごめん雄一君はちょっと待ってて」
「あ、はい……」
そして有栖川は俺をよけて(避じゃなくて除の方)から、要の前に立った。
「要ちゃん、雄一君と付き合ってるの?」
「あ――そうなんスよ。付き合ってるっス」
すると有栖川はガバッ、と要の両肩を掴んで叫びだした。
「本当なの!? 『あの脳筋ロトくじ外れクソ野郎!!』って要ちゃん前に雄一君のことそう言ってたのに!?」
「それ昔の話!! 雄一君嫌いだった頃の話!!」
「お前、そんなこと言ってたのかよ……」
昔、ちょっとやらかした時に要に見つかり、そのまま嫌われてたことがあったのだが、まさかそこまで言っていたとはな……
ちなみに以前、由崎の奴に付き合っていたことを話して驚かれたのは、俺と要が一時期不仲だったことを知っていたからだったりする。
「でもなんで……ああ、そっかそっか~」
「ん?」
ふと何かに気づいたのか、有栖川は平静を取り戻してから、軽く手を合わせて要の顔を覗き込んだ。
「そっかそっか、知っちゃったのか――雄一君が仕事で忙しい中でも、深夜にこっそりナサ君のお手伝いをしていたことを」
「え、あ――うん、まあ、そんなとこっス」
「それで愛しちゃったか――そっかそっか――」
要は有栖川から視線を外し、顔を伏せながら後ろに手をやっている。
そっかそっか、と有栖川が楽しそうに言う度に、要の顔が比例して沈んでいく。
「綾姉……ちょっとボイラー見てくるっス。店番とここの掃除しといて」
「え、あの、要ちゃん?」
持っていた箒を有栖川に押し付け、要はさっさと銭湯の中へと入って行った。
制止する間もなく去った妹に、有栖川は押し付けられた箒を持ったまま呆然と立ち尽くしていた。
「えっと……何か悪いこと言ったかな?」
「いや、どうだか……」
まあ、なんとなく見当はつくが……世話のかかる彼女だな。
「ちょっと様子見がてら、薪割り手伝ってくるわ」
「そう、じゃあお願いね」
要の後を追って、俺も銭湯の中へと入っていった。
「あ、その後ここの掃除もお願いね」
「ふざけんな由崎に『有栖川がお前に抱かれたがってる』ってばらすぞコラ」
「そんなこと考えてないわよ!! いいじゃないちょっとくらい!!」
などとほざく有栖川を放置し、俺はボイラー室へと若干急ぎ気味に向かった。
……あ、ドサクサ紛れに由崎が結婚したことをバラせば良かった。
そしてボイラー室についてみると、案の定要の奴は火の具合なんて見ちゃいなかった。
少し離れた所にある薪割り場で、鉈を木材にひたすら叩き込んでいた。
「落ち着け、危ないから没収な」
「雄一君……」
要から鉈を取り上げ、ひとまず近くにある休憩用の椅子に座らせた。その後叩き込んでいた木材を丸太台に乗せ、薪になるように切れ込みに沿って鉈を打ち込んでいく。
「……それで、なに拗ねてるんだ?」
「別に、拗ねてないっス……」
とてもそうは見えないがな。
手頃な長さにしてから、縦に立てて鉈を差し込み、軽く持ち上げてから刃の重量だけで木材を割る。スコン、と小気味良い音を立てると、後には薪と化した木片が転がっていた。
「ただ、あのことを知らずにいるのが腹立たしくて……」
「知らなくていいことだろうが。そもそも、」
スコン、と再度音を立てて薪を量産する。その間、俺は要の方を見てはいなかった。
「お前が知っている時点でおかしいんだよ。だから気にする必要自体」
「おかしいのは雄一君っス!!」
薪を割る音を遮るように、要は椅子から立ち上がって叫んだ。
「なんであのことを話さないんスか!? あのことを知れば綾姉達だって」
「……黙ってろ、って言ったよな?」
あ、しまった。ちょっと怒り気味に言ってしまったか。
フォローを入れようと、俺は鉈を丸太台に置いてから要の方を向いた。するといつもとは違う、泣こうとするのをこらえるような、力の入った表情をしていて、失敗したな、と感じてしまう。
「悪い……強く言い過ぎた」
「絶対におかしいのは、雄一君っス……」
泣きそうになりながらも、自分の非を認めたくないと強がる彼女を抱きしめ、軽く頭を撫でてやる。コレデモカノジョ、なんだよなぁ……
「かもしれないがな……だがそれを言っちまうと、俺のやったことは全部無意味になるんだぞ。それでもいいのか?」
「だからって……そんなの、って……」
ポンポン、と頭を軽く叩いて要をあやしてやる。強がってなかないだろうが、それでも、少しは気がまぎれるように、と。
「……まあ、お前が知っちまったのは仕方ないがな」
要を再び椅子に座らせてから、俺は離れて薪割りを再開した。
「頼むから気にしないでくれ。彼氏からのお願いだ」
「……デート」
「はいはい、時間ができたらな」
むくれる要を背に、俺はひたすら薪を割り続けたのであった。
しかしその時の俺達には知る由もなかった。
背後で黒髪の女性が、俺達の話を聞いていたことを。そして、作者が初の長編を試みることを。
「いやいや、私達関係ないっスよね、それ。単に作者の技量の問題ってだけで」
「というかこの小説って、メタ有りなわけ?」
その時の我々には、知る由もなかった。
「いや作者、メタ有りにするかどうかくらい自分で決めろよ。誰もなにも言わないって」
「まあ、読者は離れていくっスけどね……」
……作者が世界の滅亡を願う中、次回に続く。