この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
私は一向に構わん(血涙)!!
「あんた、最近妙に艶々してるわね」
いつものようにウェイターとして働いていると、急に同僚がそんな事を言ってきた。
テーブルを拭く手を止めそちらへ視線を向ければ、訝しげむような同僚の顔が視界に入る。
「そう?自分だとよく分からないんだけど」
「最近夜も静かだし・・・・なに、男でも出来た?」
男か・・・・サトウカズマと最近ヤルようにはなったけど、別に彼氏とかでもないしなぁ。あれは・・・なんだろ、セフレ?んん?なんでも良いか。気持ちいいし。
でもまぁ、この間の凄かったなぁ。
もうオナニーなんか目じゃなかった。
「・・・・いや、まぁ、えへへ」
「ああ、良いわよ言わなくて。ごちそうさま。私も助かるから、精々捨てられないように上手くやんのよ」
同僚は呆れたように溜息をつくとテーブルの片付けを再開した。
暫くすると元気な声が聞こえてきた。
視線を向けるとサトウカズマパーティーが全員集合してる。眺めているとキョロキョロと辺りを窺ってためぐみんと目が合い手招きされた。
「ほら、呼んでるわよ。・・・あんたもそろそろウェイトレス引退かしらね」
「あはは、そんな事ないって。まだまだ稼がせて貰わないと。それに寮追い出されると困るし」
「どうせ言うなら、もう少し可愛いげのある理由言いなさいよ。いってらっしゃい」
同僚に見送られテーブルを行く。
軽く挨拶を交わし何を話していたのか聞けば、水色がクエストがしたいと騒いでいたのだという。幹部様のせいで閑古鳥がないてる、今この時に。
理由を聞けば、どうやら水色には今日の昼食も買う余裕がないらしい。
「お願いよ!手伝ってカナデぇ!!!貴女私の信者でしょ!お願いよぉ、手伝ってよぉ!もうバイト三昧の日々は嫌なの!コロッケが売れ残ると店長が怒るのぉ!」
そう言って泣きながらしがみついてくる水色。
少しだけ可哀想に思ったけど・・・手加減なしで振り払っておいた。勘違いされても困る。誰が信者だ、誰が。奢ってやるんじゃなかったな。
打ち捨てられた水色を見て、サトウカズマの瞳に呆れと憐れみの色が浮かぶ。
「さっきも聞いたぞ。天丼はどうなんだ、宴会芸の神様」
「うるさいわよ!黙ってなさいクソニート!!」
「んだと、こらぁ!!」
わちゃわちゃと喧嘩し出したサトウカズマ達を放って、依頼書を見る二人の所へ首を伸ばす。そこに書かれていたのは湖の浄化という、一見すると面倒臭そうなクエストだった。
「大丈夫なのか?浄化なんて」
そう聞くとめぐみんとダクネスは「むむむ」と呻いた。
「出来ないとは言いません。アークプリーストのアクアであれば、浄化魔法がありますからね。ですが、湖一つとなると時間も魔力も沢山必要ですし・・・結構大変です」
「ああ、だから私たちは反対したんだ。浄化中、棲みかを荒らされたブルータルアリゲーターが攻撃してくる事も考えられるしな・・・・いや、まぁ、襲撃されること事態は悪くないのだが。ああっ、浮かぶっ、浮かぶぞ!群れで迫るブルータルアリゲーター達の姿がっ!よってたかって、その獰猛な牙を私に突き立てて━━━━くぅ!」
めぐみんがダクネスを変な物を見る目で見た。
多分俺も似たような目だろう。
「まぁ、良いや。━━で、サトウカズマはなんて?」
「一応受けると言っていましたよ。カズマに考えがあるそうで」
「そっか、なら良いや。準備してくる」
そう思った俺はいつもの装備を取りに帰った。
そうして始まった湖の浄化クエスト。
十分な準備を済ませて挑んだ俺達の目の前では、惨劇と呼べる光景が広がっていた。
「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!いやぁぁぁぁ!オリがまた、変な音したぁぁぁ!!」
鋼鉄の檻の中から焦りが混じった水色の叫び声が響く。
その檻の周りには夥しいワニの群れ、群れ、群れ。
さっきから水色が口にする浄化魔法の力が気にくわないのか、水色を守る檻へ一様に牙を突き立てていく。
あまりの悲惨な光景に、サトウカズマとダクネスが檻から伸びる鎖付近でソワソワしてる。
檻がそれなりに丈夫だとはいえ、絵面が絵面だ。二人のその行動も仕方ない。
「それにしても、カズマの作戦がなければ危ない所でしたね。ですよね、カナデ━━━もぐっ」
意外と肝の座っためぐみんはお昼のサンドイッチを頬張りながら話し掛けてくる。
「そうだな━━━というか、よく食べられるな?」
「いざという時にお腹が減って動けない、なんて笑えませんからね。冒険者たるもの、食べられる時に食べておくものです。カナデも食べておくと良いですよ」
そういうとめぐみんはサンドイッチを差し出してきた。
"郷に入れば"とも言うので、めぐみんから差し出されたサンドイッチを大人しく受け取っておく。羊臭い。ラムサンドみたいだ。
口の中のサンドイッチを飲み込み、めぐみんは水色の方を眺め続ける。
「それに檻もまだ大丈夫そうですしね。取り敢えず、ギリギリまで様子を見てましょう。いざとなれば私の爆裂魔法で蹴散らしてやりますよ━━━まぁ、ばらついていますから、全部は無理でしょうが」
「・・・残りの数によっては、ダクネス囮にターゲット分散して、各個撃破するのも良いかもな。ま、尻尾巻いて逃げなきゃいけなくなる可能性のが高いけど」
もぐっとサンドイッチにかぶりつけば、甘辛いソースが口の中に広がっていった。
なにこれ、普通にラムサンドうまっ。豚肉が至高だと思ってたけど、羊もいけるなぁ。
「カズマにはその手の期待はしてませんが、カナデがブルータルアリゲーターを殴り殺してる姿は容易に浮かびますね」
「・・・んっ。俺をなんだと思ってんの?」
「ふふ、頼りにしてますよ」
まったく。
でも、こうしてめぐみんと食事しながら改めて思う。
本当にサトウカズマの言うとおりにして良かったと。
サトウカズマが出した策、水色を檻にいれて湖に沈めるという鬼畜染みた方法を。
流石に聞いた当初は鬼かと思った。幾ら水色に苦労させられ恨みがあるとはいえ、仕返しにしてもやり過ぎだと。
けど実際やってみるとこれが上手く嵌まった。現に精神的なダメージは仕方ないにしても、水色には身体的なダメージが殆んどない。浄化する為に水色が出した"水に触れる"という最低条件もクリアしてる。
もしサトウカズマの策がなければ、このクエストはかなりの無理ゲーだったろう。水色が浄化している間、あのワニの大群を相手にしなければいけないのだ。考えただけでもゾッとする。
「『ピュリフィケーション』ッ!」
水色の地獄はまだ峠を越えたばかり。
切に願うのは、このまま何もありませんようにだ。
「『ピュリフィケーション』!!うわぁぁぁぁん!!止めてぇえええ襲わないでえええ!!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッッッ━━━━━━」
地獄の門が開いてから数時間後。
湖を浄化しつくし無事目的を達した俺達は、水色を檻に仕舞ったままギルドに向かって帰っていた。
水が綺麗になった事でワニ達は何処かに消え、仕事も終わったのだから出してやれば良いのにと思うだろう。俺も思う。というか、皆そう思っている。だが当の本人が出ていきたがらないのだ。
なんでも、檻の外は怖いらしい。
殺気を纏った大量のワニに囲まれたまま数時間放置され、ご立派なトラウマを生産したようだ。恐らく一生物のトラウマだろう。
その代償が30万エリスという端金かと思うと泣けてくる。
街についた所で一度は諦めていたサトウカズマも再び出てくるよう説得を始める。馬車の荷台の檻に女の子を入れ、市中を引き回すのは気が引けるのだろう。あと単純に周りの視線が痛いようだ。
それでも頑なに出てこない水色は檻の中を聖域と呼び始めた。ついでに悲しそうに歌い出す始末。
そろそろ、こいつのこれからの生活が心配になってくる。
そんな時だった。
「女神様じゃないですか!!?」
驚愕するような男の声が聞こえたのは。
声に振り向くと檻の鉄格子にしがみつく男がいた。
大層立派な鎧をつけた如何にも"僕、勇者デス"みたいな格好をした男で、腰にはそれを主張するような大振りの剣が見える。格好つけすぎて、逆に滑ってる感が凄い装備だ。
その独特の趣味の悪さと、水色を見て女神と言った所から転生者の類いか?━━━━とか思ってたら、男が鋼鉄の鉄格子を腕力で抉じ開けた。ブルータルアリゲーターですら浅い傷しかつけられなかった、その頑丈な鉄格子をだ。それに対しサトウカズマが驚愕の声をあげた。恐らく二重の意味でだろう。
さて、檻の修理代は幾らだろうか。
その後の男の様子から水色を助けようとしているのは分かるのだが、当の本人は男から差し出された手は勿論、人が通れるくらい広げられた檻の鉄格子にすら、ぼんやりと視線を送るだけでピクリともしない。幾らか間をおいて少しだけ虚ろな目を男に向けたけど、やはり動こうとしない。
まぁ、そうだよな。
聖域だもんな。
ダクネスがその男を止めに入ると、サトウカズマは水色に声を掛けにいった。なので俺も便乗する。
「おい、アクア。あれお前の知り合いじゃないのか?女神とか呼んでたぞ?」
「水色、多分転生者の類いだぞ」
「マジか、カナデ」
「いや、マジかどうかは知らないぞ。でも、それっぽいじゃん?」
俺とカズマはそっと男を見た。
妙に正義感が強い言動や如何にもな鎧とマント。
俺達はお互いの目を合わせ「せやな」と頷く。
俺達に話し掛けられた水色はというと、女神という単語に眉を潜めていた。サトウカズマから「こいつ、まさか」と小さな呟きが聞こえる。
囁くような声が聞こえたので水色に視線を向ければ、ブツブツと何か言ってる。
「女神・・・・めが、女神・・・・・・ああっ!そう、そうよ!私は女神!!アクシズ教の御神体にして日本担当の超絶スーパーエリート、アクア様よ!」
凄い自信満々の瞳。
自分が神様だった事も忘却してたらしい。
どれだけさっきのショックだったんだろうか。
復活した水色は直ぐ様檻から這い出ると、胸を張り先程の様子が嘘のように高らかに叫んだ。
「さぁ、何かしら?カズマ、カナデ。この女神の私に何をして欲しいのかしら?しょうがないから、手伝ってあげるわ」
呆れるカズマに代わり、男を指差して「ゲットアウト」と伝える。水色は「ちょろいもんよ!」と腕捲りして向かった。お願いしといてなんだが、女神としてそれに簡単に返事をするのはどうなのだろうか━━━とか少し思ったけど黙っておく。
「アクア様っ・・・・!お元気になられて良かった!僕です!御剣響夜です!あなたに魔剣グラムを頂いた!」
「・・・・・?」
感動を全身で伝える男のリアクションとは裏腹に、水色は不思議そうに首を傾げた。
そして少し考えた後、拳に魔力を溜め始める。
一度カエルの時に見たので分かる。ゴッドブローの準備だろう。
「よく分からないけど・・・・カナデにお願いされたから、一回だけ殴るわね」
「ええ!!?なぐっ、あ、あれっ!?あの、僕です!貴女に勇者として選ばれ転生された、御剣響夜です!!あの日から僕は貴女に選らばれた事を誇りに━━━━━」
「ゴッドブロー!!」
「へぶっぅ!!?」
何かを言いかけていた自称勇者はうちのアホ女神の手によって殴り飛ばされた。思わずファーーと言いたくなる飛びっぷりであった。
「「きょ、キョウヤ!?」」
うわっ、またなんか来た。
今日は厄日だな。