この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
新年一発目がこれかぁ。
すまんな、エロくなくて(´・ω・`)
初心者殺しを上手くかわして暫く。
山道を進んだ俺達は討伐目標であるゴブリン達の元へと着いていた。ゴブリンというモンスターの中でも雑魚の部類に入る存在。駆け出し冒険者の多くにとって、それは糊口しのぐ糧でしかない奴等。
とはいえ、世の中とは何が起こるか分からないもの。
油断は禁物という事で、討伐は偵察する所から始まる。
目標地点近くで調子に乗りそうだったがキースとテイラーを一度締めた俺は、偵察に出掛けたサトウカズマと今度こそ慎重になったキースの帰りを大人しく待っていた。
「・・・・お、おい、リーン」
「分かってるって・・・・・ねぇ、カナデ」
「ん?どうした」
いきなり声を掛けられリーンへと視線をやれば、若干怯えたテイラーと困ったような顔をしたリーンがいた。
「足、止めない?」
言われて見下ろすと、足が地面をリズミカルに叩いている。タンタンタン、と。
「これ?」
「うん、それ。もうかれこれ10分以上それしてるでしょ。カズマの事でイライラしてるのは分かったから、もう止めよ?テイラーが怯えてるし」
「意味わからんし」
「カズマが帰ってきたら、私がバシッと言っとくからさ~!」
「必要ないし」
「・・・はぁ、もう」
別にイライラとかしてないし。
全然気にしてないし。
そもそも怒る理由ないし。
いみふだし。
何を言ってるのか、リーンは。
そもそもクエスト中にそういう集中をかくような事しない主義だからね。仕事は仕事でちゃんと割りきるしね。俺はね。
それからもう少し待つとサトウカズマ達が帰って来た。
サトウカズマは俺と目が合うと直ぐに目を剃らしテイラー達の方へと向かってしまう。
別になんとも思っていないが、本当に何も思っていないが、一言何かないのだろうかとは思う。
このヘタレ野郎は、と。
サトウカズマ達の報告により、ゴブリン達が予想以上に沢山いる事が分かった。それにより『戦士連中がさっと行って、パパッと片付ける作戦』は見送らなくてはいけなくなった。
それで別の作戦を考える事になり━━━━全員での話し合いの結果、最も成功確率が高くリスクが少ないサトウカズマの作戦が採用された。
本来ならサトウカズマが評価された事を仲間として喜ぶべきなのだろうが、どうにも癪に思ってしまう。したり顔がむかつく・・・いや、何とも思ってないし。別にぃ。んだよ、こっち見んなよ。
「なぁ、カナデちゃん。カズマと仲直りしようぜ?」
作戦の為に崖っぷちを摺り足で進んでいると、同じく摺り足で着いてくるテイラーが呟いた。
「別に喧嘩してないし」
「そりゃねぇよ。カナデちゃん分かり易すぎだから」
サトウカズマの出した作戦は地形を利用した二点攻めによる殲滅作戦だ。
サトウカズマとキース、リーンは高所に陣取り敵の陽動と遠距離攻撃により敵にダメージを与える。なるたけ敵の注目を集め、敵の動きを乱すのが目的だ。数を減らせればなおよし。
ある程度敵の数が減り隊列が乱れたら、サトウカズマ達の反対方向から近距離主体の俺達が切り込み、迅速に殲滅━━━といった具合だ。
サトウカズマのスキルにより、敵の数や状況がきちんと把握出来たからこその作戦。
はっきり言って文句はない。
ないのだが・・・。
「ちっ」
「あ、今舌打ちしたろ」
「してないし」
でも何か釈然としないものがあった。
予定位置に辿り着いた所でサトウカズマ達に合図を送ると、早速作戦が始まった。サトウカズマ達による遠距離攻撃が始まる。
サトウカズマ達に気づいたゴブリン達は、受ける攻撃に対抗するように矢や石を飛ばし返す。けれど、リーンの防御魔法により攻撃は通らない。
仲間達が落ちる矢に血を流し始めると、破れかぶれに特攻を始める。
しかし、それはサトウカズマがやらせない。
サトウカズマはゴブリン達が登ってくる足場に水を撒き散らし、すかさずそれをフリーズの魔法で凍らせた。
そう、あの幹部様ですら動きを鈍らせた氷の床である。
足を取られゴブリンが転び、立ち止まり、たじろぐ。
サトウカズマ達が陣取る高台に踏み込むのは容易ではなくなった。
そしてその光景を前に、ゴブリン達の動きは明らかに悪くなっていく。
「行くか、カナデちゃん」
「あいよ」
テイラーが駆け出すのと同時に、俺も武器を構え続く。
短く息を吐き振り払われたテイラーのショートソードは、豆腐でも切るかのようにゴブリンの首を撥ね飛ばす。
奇襲は成功したが、完璧とはいかなかった。
首を跳ねた瞬間、ゴブリンが短い悲鳴をあげたのだ。
仲間に起きた悲劇に気づくと、ゴブリン達は混乱しながらも武器や盾を構えた。
「関係はないけどっ━━━━」
ハルバードを構えたまま、全身をしならせるように一回転。重さ、遠心力、腕力、速度。全て乗せたハルバードの切っ先を、ゴブリン達目掛け振り抜く。
鋭い風切り音が響く。
振り抜かれた剛の一閃は、構えられた盾も棍棒も肉も関係なく両断した。赤い血飛沫がゴブリンの傷口から噴き上がる。
唖然とするゴブリン達に、振り抜いた勢いを殺さず回転。もう一度さっきと同じようにハルバードを振り抜き、その数を更に削り切る。
二振りもすれば流石に余裕が出てきたのか、ゴブリン達も襲ってきた。
ハルバードの石突きで目前まで迫っていたゴブリンの眉間を砕き、ふらついた所を体重込めて蹴飛ばす。
邪魔なゴブリンを退けると次のゴブリンが迫っていた。
けれど、まだ距離がある。
なのでハルバードを両手で握りしめ直し、渾身の力を込めて薪割りの斧のように振りかぶる。
弧を描くように落ちる銀の軌跡は、緑の小鬼の頭を叩き割り赤い噴水を作り出す。
「カナデちゃんって、冒険者なんだよな・・・・?」
不意にそんな声が聞こえてきた。
忙しいというのにだ。
「そうだけどっ!!」
ゴブリンの頭を切り飛ばしながら答えれば「うわぁ」っという声が聞こえてくる。
「・・・・本当は、噂に聞くバーサーカーとかって職だったりしない?俺の知ってる冒険者の動きじゃないんだけど」
「んな訳あるくうああぁ!!」
ゴブリン殲滅作戦開始から10分程。
沢山のゴブリンに溢れていたそこには、もう身動きしない緑の塊と鉄の臭いがする赤い液体しかなかった。
レベルでも上がったのか、なんか力が強くなった気がするけど・・・まぁ、それはおいておこう。今やる事ではない。
殲滅を確認した後は余韻に浸る事もなく、とっとと帰り仕度を進める。何故かと言えば初心者殺しが来る可能性があるからだ。
狩りに使用していた食いつかせるつもりのない撒き餌が殺された以上、その罠の仕掛け人ならぬ仕掛け獣が帰ってくる可能性は非常に高い。生活が掛かった狩人ほどしつこい連中もいないのだから、警戒は緩めない方が良いだろう。
━━━━とは言えだ。
最前線で戦っていたのだから一言くらい労ってくれても良いだろう。
そう思ってサトウカズマを見たけど、また目を逸らしてきた。
「なぁ、サトウカズマ。さっきからなんだよ。言いたい事があるならはっきり言え。なんか、こう、気持ち悪いんだよ」
「・・・別に、何でもないが?」
「なら、こっち見て言えよぉ」
そう言うとサトウカズマはこちらを向いた。
そしてゆっくり口を開く。
「ご立派な、ご活躍で。・・・まるでゴリラだな」
・・・むかぁ!誰がゴリラゴリラゴリラか!
流石に腹に据えかねる物があったので、思い切りボディブローかましてやった。のたうち回ってるが、まったく心が痛まない。ざまぁである。けっ。
「・・・・私ら何に巻き込まれてるんだろ。ねぇ、テイラー、キース」
「俺に聞くなよ。リーン。俺はな、自慢じゃないが生まれてこの方、彼女どころか女の子と手を繋いだ事もない男だぞ」
「そうだぞ、リーン。俺もテイラーも彼女のかの字もない青春を過ごした男だぞ。アクセルに来るまで、女体すら拝んだ事無かったんだぞ」
「気持ちわる」
「「うぐっ」」
◇◇◇
殴られたボディを擦りながら帰路を進んでいると、テイラーとキースに肩を叩かれた。
「悪い事は言わねぇ、仲直りしろ」
「そうだカズマ。仲直りしろ。あともげろ」
「・・・・分かってるよ。あともげねぇわ」
どうせそんな事言われるだろうと思っていたので驚きはない。それにそれは言われなくても俺自身が一番分かっている事だ。こんな不毛な事止めるべきなのは。
そっと背後に視線を向ければリーンに宥められるカナデの姿が見える。さっきはゴブリンの血飛沫を浴びてさながらバーサーカーだったが、リーンの魔法で汚れを落としたカナデは可愛い女の子に戻っていた。
怒りに頬を膨らませてなければ、もっとよかったと思う。
怒ってる理由は分かる。
だからさっさと謝れば済む話なのは分かる。
分かるが・・・・どうにも納得出来ないのだ。
『リーンとお近づきになりたかったら、格好つけるくらいじゃないと駄目だぞ。あれでいて、王子様待ってるタイプだから』
はぁ・・・・まさか俺が、ここまでカナデの眼中に入ってないとは思わなかった。あいつの言動から俺がそういう対象に見られてない事は分かっていたが・・・・リーンをお薦めされるとか流石に笑えない。
「なぁ、カズマ。やっぱお前らデキてる?」
「なにぃ!?デキてる!?」
テイラーの疑問符のついた言葉に、キースが目を見開く。キースは面倒臭いのでスルーし、テイラーに視線を向けた。
「・・・まぁ」
「男女のトラブルかぁ・・・面倒だなぁそりゃ。俺にはそういう経験がないんで、悪いが気持ちは分からん。だが、パーティーを率いるリーダーの先輩としてアドバイスしとくぞ?」
「・・・リーダーつったっけか?」
「舐めるなよ、見てりゃ分かる・・・っても、最初は頭脳担当かと思ったけどな━━━カズマ、引けなくなる前に謝っとけ」
「分かってる・・・」
そう返せばテイラーが大きく頷いた。
「分かってるなら良い。冒険者なんて、いつ死んでもおかしくねぇ仕事してんだ。実際お前みたいに仲間と仲違いして、そのまま死に別れた奴も俺は知ってる。そういう奴等がどうなったのかもな。あの時ああしてれば、なんて事言いながら朝から酒かっくらうような生活したくなきゃ、さっさと謝ってこい。理由は分かってんだろ?」
「まぁ・・・・」
「よし、ならいけ」
押し出すように背中を押され、仕方なしに振り向いた。
すると膨れ面のカナデと目が合う。
まだ機嫌は悪そうだが、何処か期待するような目に謝罪の余地は残されてそうに見えた。
流石にこれ以上テイラー達に迷惑を掛ける訳にもいかないので一言謝り終わりにしようと━━━━そう思い足を踏み出した時、敵感知スキルに反応があった。
視線をそこへと向ければ山道からこちらに向け、真っ直ぐ駆ける影が見える。
一瞬それが何か分からなかったが、覚えたての千里眼スキルを使い調べれば、直ぐにそれが何か理解した。
そして自然に、その言葉が口から飛び出していった。
「全員走れっ!!初心者殺しだ!!」
狩人がそこにいたのだ。
その顔に怒りを滲ませた、獣の狩人が。