この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
おれも泣かねぇからよ。
相も変わらず陰鬱とした雲が漂い、寒々とした風が吹きずさむ冬の日の今日この頃。
水色達に急かされ色々着込まされた俺は、皆に手を引かれとある屋敷の前に来ていた。
「ふふん!今日からここが、私達のお家よ!カナデ!」
そう言って屋敷を見せつけるように両手を拡げた水色は、ダクネスに何かを催促するような視線を送る。
ダクネスは頬を朱に染めながら「ジャジャーン・・・」とちっちゃな声で効果音をつけた。
「うん、意味が分からん」
「カナデ、ここからは私が説明します。実はですね、この間話していた仕事で━━━━」
めぐみんが言うことにゃ。
先日聞いていた仕事が色々トラブルもあったものの上手くいき、屋敷を安く借りられる事が決まったそうだ。
おかしな条件のオマケつきらしいが。
「ふぅん、成る程な。サトウカズマ、冬越えの心配してたもんな。良かったな」
「はい。・・・・って、良かったなではありません!なんで他人事なんですか?カナデも一緒に住むのですよ」
「そうなの?」
「そうですよ。カナデの部屋の掃除は済ませてありますよ。後は荷物を入れるだけです。・・・それとも、一緒に住むのは嫌なのですか?」
めぐみんが捨てられた子犬みたいな目で見てきた。
女の子に対して特別好意は抱かない俺だが、これには胸がキュンキュンしてしまう。可愛い。撫でたい。
「そうじゃないって。でもな、俺何もしてないし」
「何を言ってるんですか。水くさいですね、カナデは。こういうのは持ちつ持たれつですよ。仲間じゃないですか、寂しい事言わないで下さい」
むくれるめぐみんに水色が「そうよ」と続いた。
「そんな細かい事気にしちゃ駄目よ。寮のお部屋よりずっと良いお部屋を用意してあるんだから、遠慮なんてしないで引っ越しちゃいなさいな。それで今日は皆揃ってお引っ越し祝いの宴会するんだから!最高級のシュワシュワでパーっとやりましょう!」
「アクアの何処にそんな金があるんだ・・・・まぁ、そういう事だ。兎も角、部屋を一度見てきたらどうだ。それから決めても遅くはないだろ?」
別に悪い話ではない。
寮に留まりたい特別な理由もないし、同僚も常々出てけー出てけーと呪いの言葉を吐いてくるし。
でも、少しだけ気がかりな事があった。
まだ仲直り出来てないサトウカズマの事だ。
別に拒否されるとも思わないけど、もしかしたら良い顔されないかも知れない。
どう聞こうか迷っていると「大丈夫ですよ」とめぐみんが言ってきた。
「カズマの事を心配してるなら大丈夫です。さっ、部屋を見に行きますよ」
「あっ、ととっ!?押すな押すな、分かったから!━━━はぁ、まったく」
めぐみんに背中を押され屋敷の門を潜る。
元々貴族の屋敷だけあって庭から立派だった。
綺麗に並べられた石畳とそれを挟むよう左右に置かれた植木は、門から真っ直ぐ屋敷に伸びている。門と屋敷の丁度中央辺りには噴水があって、その近くには大層な花壇も。どれも手入れが行き届いていないのでちょっとあれだが、ちゃんとすればさぞ見栄えするだろう。
重厚感のある扉を開け屋敷の中へ入ると、石造りの屋敷らしい灰色が目に入ってきた。綺麗に重ねられた石の壁は安心感に満ちていて、飴色に染まる木の扉や柱は暖かみが漂っている。置かれた調度品もそれらに合わせるように落ち着いた色合いが揃っていて目に優しい。
めぐみんに引きずられるように屋敷内を見て回る。
暖炉のある部屋やら、台所やら、トイレやら、お風呂やら何やら沢山。
グルグルと色々見て回った後は、俺に用意した部屋だとある一室に案内された。大きめのベッドが置かれたその一室にはタンスや机など最低限の家具が揃っていて、それこそ荷物を持ち込んだらそのまま住めそうな状態にされていた。掃除したてらしくどこもピカピカに輝いてる。クモの巣の一つや二つくらいと探したが埃すら見当たらない。ついでにベッドもフカフカだった。
めぐみん達に聞くと掃除は大体水色がやったらしい。
素直に褒めてあげたら鼻が際限なく高くなっていった。
放っておくと面倒臭くなりそうだったので、頃合いを見計らって高くなったソレをへし折っておいたが。
それで結局断る理由が見つからず、俺は引っ越す事になった。
寮を出る旨を職場に伝えると、前に俺を引き留めた偉い人が出てきて「仕事も辞めちゃうのか!?」と涙目で迫られた。これを機に冒険者としての活動を優先しようと思っていたのだが、提示された時給がかなり良かったので暇な時は顔を出す事にした。
こんなテキトーな雇用形態で良いのか?と思わない事もないが、偉い人がそう言うならそれで良いのだろう。気にしない事にする。
同室だった同僚に出ていく旨を同じように伝えると「やっとか、おめでとう」とお腹を優しく撫でられた。
寿退社でもないし子供を身籠った訳でもない事を伝えれば「あのヘタレが」と呆れた顔で溜息を吐かれる。何の事かと尋ねたが教えてくれず、代わりに「何かあったら頼りにきな」と頭を撫でられた。
同僚には色々とお世話になったので、感謝の言葉と一緒にローション付きで相棒のタケシくんを譲っておいた。俺の宝物だからさぞ喜ぶ事だろう━━━とか思ってたけど、同僚からは本気ビンタしか貰えなかった。解せぬ。
それからめぐみん達に手伝って貰いお引っ越し。
荷物はそんなに無かったが、急な話だったのでバタバタしまくり━━━全部が終わったのは日が沈み出し頃だった。
「おーい、誰かいないかぁー」
片付けを済ませ汗でも流そうかと皆で話していると、サトウカズマの声が玄関の方から響いてきた。買い出しに行っていると聞いているので荷物運びを手伝うため顔を覗かせれば、大荷物を抱えるサトウカズマが玄関の所でへたり込んでる。
「おかえりなさい、カズマ。一杯買ってきましたね。はっ!お肉がこんなに!あわわわ!!」
「カズマ!これ凄い良いお酒じゃない!シュワシュワも一杯!おつまみまで!よっ、カズマ様のお大尽!私一生ついてくわ!ふふふふー」
「アクア、酒ばかり持っていくな!荷物は他にもあるんだぞ!まったく。台所には私達で運んでおくから、カズマは少し休んでいろ━━━━カナデ、カズマを頼む」
荷物を抱えた皆は俺とサトウカズマをおいて台所へと向かった。
ふとサトウカズマを見れば目が合う。
「・・・あっ、えっと、おかえり?」
「た、ただいま」
思わず出た言葉にサトウカズマが苦笑混じりに返事を返してくれる。嫌な顔されたり、無視されるかも知れないと思っていたから、いつものサトウカズマらしい反応が素直に嬉しい。
それから少しサトウカズマは黙っていたけど、「この間は悪かった」と小さく呟いてきた。
偉そうに許すと言う気にもなれず、なんて返そうか悩んだが取り敢えず頷いておくだけにする。
「見舞い、いかなくて悪かった」
「良いって、別に。忙しかったんだろ?」
「・・・・まぁ」
俺の言葉にサトウカズマはそっぽを向いて頬をかいた。
その横顔が少しだけ憎たらしく見え、悪戯に隙だらけの頬っぺにちゅーしてやる。
びっくりして振り向いたサトウカズマとまた目が合った。
「━━っ!?お、おい!!なにすんだ、いきなり!」
「うるさいわ、嘘つきめが。お前がそういう顔するのは誤魔化す時だけだって知ってるんだからな。・・・でもまぁ、そういう事にしといてやる。この間は心配かけてごめんな。それと運んでくれてありがと」
「お、おう・・・・あのな━━━」
サトウカズマが何か言いかけた所で「カズマーお風呂に入っちゃいなさいよー。アクア様が特別に用意してあげるわ!」と元気な水色の声が響いてきた。
お酒の件で機嫌が良いのだろう。声が楽しげだ。
「だって。取り敢えず入ってこいよ」
「そうする。━━━ったく、あの駄女神ほんと間が悪いな・・・・」
頭を乱暴にかいたサトウカズマは立ち上がり風呂場へと歩き出す━━━が、途中で立ち止まった。
どうしたのかと思えばこっちへ振り返ってくる。
「どうした?」
「いや、別に大した事じゃ・・・・その、おかえり」
「・・・あ、あぁ。ただいま」
風呂場へ向かうサトウカズマの背中を見ながら、俺の心臓は妙に高鳴っていた。いつものギャップ萌えかと思ったけど・・・・今胸の所にあるそれは、少しだけ違うような気もしてる。ドキドキというより、ポカポカしてる感じなのだ。
「ただいま、か」
随分と言って無かったその言葉が。
特別言いたかった訳でもないその言葉が。
何故だか今は、とても心地好かった。
「カナデー!手が空いたら準備手伝って下さい!」
「はいよー」
めぐみんの声に、俺は足を踏み出した。
いつもより軽い足取りで。
◇◇◇
シュルシュルシュル、と。
銀の輝きが淀みのない旋律を響かせながら、色とりどりの皮のベールを宙に舞わせる。
スタタタタンッ、と。
銀の軌跡がリズミカルな音を立てながら、均等に刻まれた瑞々しい野菜が転がっていく。
魔法のような銀の煌めきと、耳に楽しい音が奏でられるそこは音楽会場ではなく台所。行われているのは調理。
指揮者ばりに腕を振るうのは、ギルドのコックも泣き出すような鬼の如き包丁捌きを見せるご機嫌なカナデ。
そんな鼻歌混じりに料理を量産していくカナデを横目に、私とダクネスはほっと胸を撫で下ろしました。
「仲直り出来たようですね」
「だから言ったろう。二人なら大丈夫だと 」
カナデが怪我をしてから何処なくギクシャクしていた二人。様子を見ていればお互いがお互いを心配してるようなので、ちゃんと話す機会を作れば大丈夫だとは思っていました。けれど、やっぱり実際会わせるまで不安はあって・・・・・。
「~~~ん、よし♪・・・?どした?」
「いえ、何でもありません」
でもまぁ今となっては、それが杞憂だったのはよく分かりました。仲良し、大変結構です。
「それにしても、カナデは料理出来たんですね?」
何となしに尋ねるとダクネスも頷きます。
するとカナデから「まぁなぁ」と間延びした返事が返ってきました。
「ここに来る前はずっと自炊してたからな。バイトでも人足りない時とかたまに厨房入ってたりしてたから━━━それに、まあ、料理する事は好きだし、自然となぁ」
「そうなんですねぇ・・・・」
「ほ、ほぅ・・・・」
私とダクネスの視線は釣られるようにそこへと行きました。話しながらだと言うのに尚も高速で動く、野菜の下拵えを電光石火と済ませていくカナデの手を。もうそれは芸術の域に達してるといって良いほど見事な手つきで、見るなと言う方が無理というものでした。
「ダクネス、これは自然と身に付く物なのでしょうか」
「これが自然に身に付くなら、世の中に料理屋など存在しないさ。というか、あの口ぶりからするとスキルですらなさそうなんだが・・・・」
そっとダクネスに耳打ちすればどうやら私の意見に同意なようです。料理スキル無しでこれなら、料理スキルなんて取った日にどうなるのでしょうか。末恐ろしいものを感じます。
カナデは男みたいな話し方をしますが、存外女の子らしい技術を沢山持っています。以前服が破れてしまった時は継布までして綺麗に縫ってくれましたし、カエルの粘液まみれになった服を洗濯してくれた事もあります。ウェイトレスとして働いてる姿を見ると掃除もそつなくこなしてました。
だから正直引っ越しの時、色々指摘されるのではないかとヒヤヒヤしていたくらいなのです。
「時々思うのですが、カズマ達の故郷ってなんなんでしょうか。スキルを多用しない文化みたいですが、色んな事を出来たり知ってますし。聞くところによると、カズマは何十人もの冒険者を纏めあげていた経歴があるとか」
「それは私も思う。もしや、カズマ達の故郷、皆が皆こんな感じなのだろうか?」
二人でそっとカナデを見ると瞬く間に料理が増えていきます。いつの間にか私達が下拵えしていた食材すら切り分けられ香辛料を振り掛けられ火に掛けられてます。
というか、手伝う事が消失しました。
「・・・取り敢えず、運ぶか?」
「なんか今日は運んでばかりな気がします」
「そういう日もあるさ━━━」
料理の皿を手にした所でアクアの大声が響いてきました。
「皆ーー!!暇な人がいたらこっち来て手伝って欲しーんですけどー!!一人でお皿並べてると寂しーんですけどーー!!」
ここまではっきり寂しいと言われると、何とも言えないものがあります。ダクネスもそう思ったのか苦笑いです。
「それじゃ私は料理を運ぶとしよう。めぐみんは調理場の片付け━━━━は殆んど終わってるな。うん。アクアの手伝いでもしてくれ」
「分かりました。というか、どうしてあの調理速度で片付けまで平行して出来るんでしょうか・・・・」
「いちいち突っ込んでいると疲れるぞ。そういう物だと思うんだ」
ついに投げましたね、ダクネス。
まぁ、考えた所で徒労に終わりそうですし、それはそれで別に良いのですが。
それからカナデにアクアの元にいく事を一言伝えてから、私とダクネスは盛り付けられた料理を手にリビングへと向かいました。
途中鼻を擽る良い匂いに振り返ると、料理を味見するカナデの横顔が見えました。
本当に楽しそうな表情を浮かべる、その横顔が。