この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
そんなおまけの二本立て。
所詮はおまけ。
期待するな(・д・)ノ
「同僚ーこっち手伝ってー」
ふいに聞こえた声に、私はテーブルを拭く手を止める。
声の方へと視線を向ければ、同僚の一人がニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。
「はぁ、まったく。ぞっとしないから変な呼び方止めて。ビンタくれるわよ」
「あはは、ごめんごめん。ていうか、そんなに怒らなくても・・・・でもさ、そういう割には元気ないじゃない?だからね?」
「まさか。せいせいしてるわ」
「そう~?」
疑うような眼差しを向けてくる同僚からテーブルへ視線を戻し、私は再び布巾を手に掃除を始めた。
あの子が初めて私の前に現れた、あの時を思い出しながら。
「今日だけですか?」
すっとんきょうな声をあげた私にルナ先輩は「そうなのよ」と申し訳なさそうに言った。
「田舎から冒険者になりたくてやってきた子がいるのだけど、登録料も持ってなくて・・・それでチーフに相談したら払えなかった分は働いて返せば良いって事になってね?面倒みて貰えないかしら?」
ルナ先輩には新人の頃お世話になっている。
だからそのお願いを聞くのは良かったのだけど、少しだけ気に入らなかった。
「追い返せば良くないですか?」
「まぁ、そうなんだけど・・・・」
言葉を濁したルナ先輩に嫌な物を感じた。
手招きされ耳を近づければ「ご隠居が気に入ったみたいなのよ」と小さな声で告げられた。
その言葉に思わず「うへぇ」と声が漏れる。
ご隠居と呼ばれる人はギルド職員の一人なのだが、少し微妙な立ち位置の老人だ。職員という事になっているが基本的に仕事はせず、いつも端っこの方でお茶を啜ってる。お給料は貰ってる様子はないし、特に何かしてくるような人でもないので基本無害なのだが、時たまこうして気に入った人物の肩を持ち何かしらの便宜をはかったりしてくるのだ。
老人の戯言だからと流せれば良いのだが、このご隠居権限だけはある。聞いた話によるとご隠居は元凄腕の冒険者で、当時一職員だったギルド長は返せないだけの恩があって頭があがらないのだとか。
まぁ、それもあくまで噂なので、本当の所は分からないが。
「何でも、生き別れた妹にそっくりだからって」
「私が聞いただけでも、妹十人くらいいるんですけど」
「お兄さんと弟さんもいっぱいいたものね」
それから直ぐルナ先輩はその子を連れてきた。
だぼつく男物の服を着こんだ、背は私より一回り小さい、目をくりくりさせた黒髪の可愛い女の子を。
ルナ先輩から私を紹介されたその子は笑顔を浮かべて頭を下げた。今日1日お願いしますと。
第一印象は良かった。
だって田舎者と聞いていたのに礼儀正しく敬語も使えるのだ。教養もありそうだし。それに顔も良いし、何より人当たりが良さそうに見えた。
だから思っていたより楽な仕事になりそうだなぁ━━━なんて思っていたのだが、実際仕事を始めるとこれがまた曲者だった。
いや、仕事は出来た。出来すぎたくらいだ。
ベテランと交ざっても違和感がないくらいなのだから。
人をいつまでも同僚呼ばわりするのも思う所はあったが、何よりの問題は別の所にあった。
『自慰の道具って、何処に売ってます?』
ようやく何かを尋ねてきたかと思えば、その子はそんな事を聞いてきた。真顔で。
思わず悪態をついた私は悪くないと思う。
その後も仕事中にも関わらず、その子はしつこく聞いてきた。何度も。切実に。どんだけ欲しいんだよ、こいつは何しにきたんだよ、と思わない人でツッコミしない人いたら教えて欲しい。ツッコミ疲れて先輩達に聞いたお店をついつい教えてしまうと、その子は満面の笑みを浮かべて買う道具に思いを馳せ始めた。そして今度は何を買おうかと相談されたので━━━遠慮なく頭ひっぱたいてやった。
けれど一日もそんな馬鹿の相手をしてると馴れてくるし、少しだけ情も湧いてしまった。
変態で馬鹿だけど、基本的に良い子だったからだ。
だから、あの時引き留めた。
アクセルの街は他の都市と比べて比較的平和だけど、だからと言って女の子一人で夜歩き出来るほど安全でもない。下手な宿に泊まれば犯罪に巻き込まれるし、道中おかしな奴等に悪戯されないとも限らないから。
事後承諾の形でチーフから許可を貰い、それからあの子はルームメイトで後輩になった。仕事の事では特に面倒をみなかったけど、他が酷くて毎日教える事だらけ。しんどい日々だった。下着の選び方は知らないし、スカートだっていうのに無防備に走り回るし、男みたいな話し方するし━━自分を俺というなと何度教えたか・・・結局直らなかったけど。
それにエッチな事に積極的過ぎる事もあれだった。
あの子は口だけでなく行動力も半端ではなく、仕事始めた翌日には全財産はたいて自慰の道具を購入しにいった程だった。下着より早く道具を買ったことには心底呆れたのは言うまでもない。
その晩、泣いてる声が聞こえて、早速買った事を後悔して泣いてるのかと思い心配して覗けば、買ったそれを股に押し当て「入らない」「いたい」と言ってる様は本物の馬鹿だと心の底から思った。
道具を使えるようになったらなったで毎晩毎晩馬鹿みたいにオナニーして私の安眠を著しく損なわせてきたり、隙あらば仕事中にオナニーしたり。
本当迷惑極まりない奴だった。
それだけだった、筈だった。
「━━━━ふ、これじゃあいつの言うとおりじゃない。焚き付けたのは、私なのになぁ」
朝起きた時、夜眠る時。
少しだけ空いたベッドを寂しく思ってしまっている。
あれだけ早く追い出したかったのに。
「上手くやってれば良いけど・・・ふふ」
いざとなったら貰い手くらいは用意してやろう。と言っても紹介出来るのなんて故郷の兄弟か親戚くらいだけど。でもまぁ、下手な奴に預けるくらいなら田舎のヘタレ達に預けた方がずっと良いだろう。あのヘタレ共なら可愛い女の子を無下には扱わないだろうし。
まぁ、恐らくそんな世話は焼かなくて済むだろうけど。
昨日あの子を見たから。
鬼畜だ何だと言われるヘタレと一緒に歩く、楽しそうに笑うあの子を。
「すいませーん、注文いいですか」
少しだけ遠いそこから聞こえる声に、私は振り返り返事をかえす。
そして掃除していた手を止めて、注文票を手にし声をあげた冒険者達の元に向かった。
少しだけ静かになったその場所で。
いつものように。
◇◇◇
「カエルの唐揚げ、それとネロイド二つですね」
そんなウェイトレスの言葉に頷くと、笑顔と一緒に「少々お待ち下さい」と元気な声が返ってきた。別に自分だけが特別ではないのだろうが、彼女の丁寧な対応に勝手に特別を感じてしまう俺は思わず顔がニヤケてしまう。
去っていく彼女の背中を眺めていると、正面の席に座る相棒から呪いのようなうめき声が聞こえてきた。
「何にやついてんだ、クソが。死ねよ」
呪いのようなじゃなくて、呪いだった。
「良いだろうが、別によ」
「はっ、そうやって現実から目を逸らして生きていくのか、お前は。お前は絶対に彼女とは付き合えない。所詮は客と店員でしかないんだよ。何ちょっと夢見てんだ寂しい奴め。死ねよ、本当死ねよ、一緒に死ねよ、頼むから一緒に死んでくれよ」
「どんだけショックだったんだよ。別にもう二度と会えない訳でも━━━」
「お前に、分かって、たまるかぁぁぁぁ!!死ねよぉぉぉ!!お願いだから、僕と死んで来世は上手くいくように願ってよぉ!!」
「お前の方が夢満載じゃねぇーか」
十年来の付き合いのこの相棒様は、普段はこんな狂人ではない。寧ろ大人しいタイプの人間で、ちょっと不器用だが心根の優しい良い奴だ。
こいつがこんな事になったのにはちょっとした理由がある。
「うっうううっ!!カナデちゃぁぁぁん!何で辞めちゃったんだぁぁ!うぁぁぁぁん!滅びろぉぉぉ━━━カナデちゃん以外━━━うわぁぁぁぁん!!」
つい最近まで働いていた新人のウェイトレス兼冒険者だったカナデちゃんの寿退社である。
いや、厳密に言うと冒険者稼業を優先するとかで住み込みのウェイトレスを止め、パーティーメンバーと同じ場所に移り住んだだけなのだが・・・知ってる奴は知ってる。これがほぼ寿退社と同義である事を。
彼女が最初に現れたのは数ヶ月前、夏も終わって少し経った頃だった。
ギルド職員は基本的に春にしか新人を入れない。その為季節外れに現れた彼女はそのルックスも相まって、かなり注目を集める存在だった。
当初はその注目も話題ありきの一過性の物だと思ったのだが━━━予想は大きく外れ彼女の人気は鰻登りに上がっていった。
その理由は直ぐに分かった。
彼女はウェイトレスとして優秀である以上に、真性の人たらしだったのだ。
ある者は男女分け隔てなく振り撒かれる笑顔に。
ある者は然り気無い気づかいに。
ある者は丁寧で親切な接客態度に。
ある者は不意にかけられた優しさに。
ある者は真摯な姿勢に。
ある者は似つかわしくない男前さに。
理由は人によって様々だが、兎に角、彼女は無自覚に人を落としまくっていたのだ。
それこそ老若男女問わず。
因みにウチの相棒様は破れた服を縫って貰って即撃沈した。俺の天使とかほざき始めたのがその頃だ。
俺が記憶する限りがっつり有料だった気がするが、相棒様の目には無償で修繕してくれる天使に見えていたらしい。
そんな訳でたった数ヶ月で人気ウェイトレスになったカナデちゃんだが、ちょっとした噂が流れていた。
それが、彼氏がいるという噂だ。
曰く、夜の街に男と二人きりだったとか。
曰く、飲み屋で男とキスしていたとか。
曰く、連れ込み宿に入ってく姿を見たとか。
あれだけ可愛ければ男の一人二人いても仕方ないだろ。
個人的にはそう思ったのだが、ファン連中はそうもいかなかった。相手を見つけ出し血祭りにあげると、武装した馬鹿連中が街に繰り出していったのは記憶に新しい。
あの時は大変だった。
相棒様まで行こうとするから、止めるのマジ大変だった。
だが結局、それが実行される事はなかった。
カナデちゃんの相手が一枚上手だったのか、全然尻尾がつかめなかったのだ。目撃されているにも関わらず、本当に全然情報が出てこないのだ。分かっているのは男という事だけ。ある盗賊が隠蔽系のスキルを使っているのではないかと憶測を立てたが、やっぱりはっきりしなかった。
それで正体が掴めなかった野郎共は皆都合の良いように解釈していき、結論そんな奴はいなかったという事になっていった。
「んなわけないが・・・」
色眼鏡なしで、ちゃんと見てた奴等は知ってる。
同じパーティーメンバーであるサトウカズマに対するカナデちゃんの態度が、あからさまなまでに好意的だった事。やけに世話を焼いていた事。笑顔が客に向けるものと全然違う事。二人が同じ匂いを漂わせている時がある事。
何よりたまに見せる熱っぽい視線が、全てを物語っていたという、その事を。
「くそぉぉぉ!!許せん、サトウカズマぁぁぁぁ!!カナデちゃんを独り占めなんてぇ!!鬼畜のクズマのくせにぃ!!なぁ!今から誘ったらカナデちゃん僕達のパーティーに入ってくれないかなぁ!!」
「合同でクエスト受けるとかならまだしも、うちらのパーティーには来ないんじゃないか?サトウカズマパーティーっつったら上級職が三人もいるパーティーだぞ?」
「上級職になれよぉ!!僕もなるから!!」
「せめて自分がなってから言ってくれ」
まぁ、仮に上級職になったとしても靡かないと思うのだが・・・・。
一人泣き喚く憐れな相棒様を見ながら思う。
相棒様はいつ気づくのだろうか、と。
今現在、抱いた恋心の叶う見込みが限りなく0である、その事に。
元気に歩んでる道がゴールのない茨の道である、その事に。
「まぁ、カナデちゃん冒険者として活動するみたいだし。たまにギルドの手伝いにも来るらしいから、まぁ、なんだ、頑張れ。程々に・・」
「な、なに!本当か!?まだ、チャンスが!!よしっ!!やるぞ、友よ!!僕は上級職になる!!」
「・・・・程々にな、程々に」
お前が気づいた時、ショックで死なない程度に。
というか、こいつが気づく前に子供とか出来てそうだな・・・・・。
エリス様。
どうか憐れなこいつに祝福を。