この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
「デストロイヤーと戦うなんて無謀過ぎます」
機動要塞デストロイヤー。
ギルドの酔っ払い達やら街の子供達からよく聞くその名前に、魔王軍幹部相手にですら噛みつく、頭のおかしいを通り名とする喧嘩っぱやい事この上ないめぐみんが、珍しく深刻そうな顔つきで反対してきた。
水色に関しては論議する間もなく荷造りを始め、ダクネスも何やら大急ぎで部屋に走っていってしまうそんな状況。いつもより不穏な何かを感じていたが、よもやめぐみんがそんな事言うとは思わなかったので、正直びっくり。
俺は防具を取り付ける手を止め、心配そうにこちらを見つめるめぐみんに視線を返した。
「カナデ、ギルドに行くなんて本気ですか?」
「うん?まぁ、呼ばれたし」
「カナデは知らないかもしれませんが、機動要塞デストロイヤーは本当に凄い兵器なのです━━━━」
めぐみんによれば機動要塞デストロイヤーはかつてとある魔導国が造り上げた対魔王軍決戦兵器らしい。クモを模した超大型のゴーレムであるデストロイヤーは魔法金属がふんだんに使われており、見掛けの重厚感とは裏腹にかなり軽く造られていて、馬より速く駆ける事が出来るそうだ。軽いといってもそれは見掛けに比べてというだけで、その驚異的な速度と質量からなる突進は大型モンスターを容易く挽肉にする程だとか。
その上デストロイヤーの巨体には常時強力な魔力結界が張られていて、魔法攻撃のその殆どを無力化してしまうらしい。
弱点がないのか?と言われれば物理攻撃が比較的有効ではあるらしいのだが・・・先にめぐみんが教えてくれた通り近づけば挽肉の刑に処されてしまうのでそれも難しく、遠距離攻撃も個人が扱うような弓や投石武器では魔法金属の装甲に弾かれてしまうのだと。攻城用武器ならまだ成果を見込めるらしいが、その機動性が故に命中させるのが至難らしい。
仮に何とかして乗り込み内部から破壊を試みたとしても、デストロイヤー内部には防衛用の自立機動するゴーレムが多数存在していて、それも難しいのだとか。
「・・・・ふぅん。てか、やけに詳しいな。なんか因縁とかあったりするのか?」
何とはなしに聞いてみると、めぐみんが顔を曇らせた。
「・・・・そうですね。カナデには教えてませんでしたが・・・私の故郷である紅魔の里は、ヤツに滅ぼされたのです。私の家族も・・・・」
「滅ぼされた・・・・」
「はい、この右目にはその時犠牲になった里の者の意思が、膨大な魔力と共に込められているのです。魔力は多くの意思が混ざりあった結果その形をかえ魔獣となりました。普段眼帯をしているのは、その強大過ぎる魔力を、魔獣を封印する為。天才たる我でさえ、日に一度十秒解放するのでやっとという代物━━━━ふぁっ!?」
物憂げな表情で語るめぐみんに思わず体が動いて、気がつけばその小さな体を強く抱き締めていた。急にそうしたせいで驚いたのか、めぐみんが戸惑いの声を漏らす。
普段からちゃらんぽらんな事ばかり言うから、家出同然でアクセルの街にやってきた破天荒娘だと勝手に思っていた。それが、そんな重い過去があるなんて━━━━。
「かなっ、カナデ?あの、あのですね・・・その」
夜にやってくるのも、妙に甘えてくるもの。
やっとその理由が分かった。
少しでも邪険に思っていた事、情けなく思う。
「俺で良かったら、幾らでも甘えてきて良いからな。本当の家族だと思って遠慮なんてするな。大丈夫、ちゃんと受け止めてやるから。約束する。━━━だから一人で頑張ろうとしちゃ絶対駄目だぞ」
抱き締めためぐみんの体温が伝わってくる。
ドキドキと脈うつ鼓動の音も。
故郷を滅ぼされた事なんてないけど、家族を失う悲しさも、いない寂しさも少しだけなら分かる。あんな父親だったけど、いない方が良かったなんて思った事はなかったし。
「めぐみんの気持ち、ちゃんとは分かってあげられない。けどな、少しだけなら分かるよ。俺もさ、お母さんがいなかったから」
「えっ!?あのっ━━━」
「少しだけならなら覚えてるんだ。小さかったから、あんまり覚えてないんだけど・・・でも悲しかった事は覚えてる。沢山泣いて、それでも悲しくて━━━」
抱き締めためぐみんを撫でていると、少しだけ思い出した。昔のこと。お母さんのこと。撫でられたこと。いなくなってしまったこと。
冷たくなったお母さんの前で、父さんが手を握りしめてくれたこと。
「━━━もう大丈夫だからな。よく一人で頑張ったな。めぐみん」
ぎゅっと抱き締める。
あの時、最後にお母さんがしてくれたみたいに。
「━━━━かかかかっ、カナデっ!!ごごご、ごめんなさいっ!嘘なのです!!ちょっと格好つけたくて、その、ごめんなさい!!そんな顔しないで欲しいのです!!」
「━━━おう?」
思っていた反応とあまりに違い、しかもいきなり謝ってきたので不思議に思って事情を聞いたら大体嘘だった。故郷に被害が出た事はあったものの何十年も前の話な上、当時大した被害もなかったらしい。あと右目には何も封印されてないのだとか。
妙にデストロイヤーに詳しかった理由を聞けば「紅魔の里の人間なら割と常識です。それにあんなカッコいい兵器、調べない方がどうかしていると思いますが・・・」らしい。
何がともあれ、何もないならそれに越した事はない。
嘘をついた代償としてめぐみんにはデコピンの刑に処して、俺は準備を急いだ。
「地味に痛いのですが・・・・ カナデ、本当にいくのですか?故郷うんぬんは嘘ですが、本当に滅ぼされた国も街もあるのですよ?私の爆裂魔法でも倒せない相手なのです」
「まぁ、何とかなるでしょ」
「何とかなるとは思えません。何を根拠に言っているのですか?」
何を根拠って・・・それは決まってる。
「あのサトウカズマがやる気になってるし、だから大丈夫でしょ」
迷いなく戦闘準備を始めたあいつの背中を思い出しながらそう笑ってみせると、めぐみんは深い溜息を吐いた後「カズマを説得するのが先のようですね」と小さく呟いた。
それからなんやかんや全員でギルドに行くと、思っていた以上の冒険者達が集まっていた。皆事態を重く見てるのか重装備が多く、覚悟を決めた険しい顔つきをしている。トンズラこいただろうなと思っていた
ある程度冒険者が集まったのを確認すると受付のルナさんから機動要塞デストロイヤーについて説明が始まった。概ねめぐみんから聞いた話と同じで倒すのは勿論、動きを封じたりも難しいようだ。
ルナさんの話を聞いて冒険者達が暗い雰囲気になるも、何とか打開策はないかと議論を始める。
そんな中、サトウカズマが水色に何か確認し始めた。「魔王軍がー」とかなんとか━━━━って、水色。話ガン無視で何してるのかと思えば、その水だけで机に描いてる絵はなんなん?こんな時に何新しいジャンル確立してるの?地味に凄いんだけど。
水色の芸術作品を眺めていると、「魔力結界を破るの?」という間の抜けた水色の声が聞こえてきた。
周りにいた冒険者達が一斉に水色へ振り向くが、水色はそれに気づかずウーンと唸り声をあげてから続けた。
「やってみないと分からないわよ?結界を破れる確約は出来ないわ。麗しくも気高いアークプリーストな私とはいえ、ここに来てから大分力が弱くなってしまってるし━━━━」
独り言のようなそれにルナさんがダッシュしてくる。
そして水色の手をがっつり掴むと息を荒らげながら「出来るんですか!?」と大声をあげた。
「だ、だから、やってみないと分からないわよ!?」
「それでもっ!可能性があるならお願いしますアクアさん!魔力結界さえなければ、遠距離からの魔法攻撃が仕掛けられます━━━━あ、いや、でも、駆け出しの街に、魔法金属を通す程の火力持ちなんて」
光明が見えてきたと思ったら、また暗くなってしまった。忙しいことだ。暗くなるにはまだ早いだろうに。
「な、めぐみん?」
「ええ!?私ですか!?はっ!?」
めぐみんの声に視線が集まってきた。
いつもの危険物をみるような視線ではなく、期待こもったその眼差しにめぐみんは顔を赤くしてモジモジする。ついでに口元がニヨニヨしだした。
「い、いえ、それは確かに、我が爆裂魔法は最強の魔法ですが・・・・さ、流石に一撃では仕留めきれない・・・・と、思われ・・・・うぅ、カナデぇ」
集まる視線に堪えきれなくなったのか、顔を真っ赤にさせためぐみんは俺の後ろに隠れてしまった。照れてるのか、グリグリと背中に顔を押し付けてくる。
もう一人。
もう一人、強力な魔法の使い手が入れば。
そんな空気が漂う中、ギルドの扉が元気に開かれた。
「すいません、遅くなりました・・・・!ウィズ魔道具店の店主です。一応冒険者の資格を持っているので、私もお手伝いに━━━━」
そこに現れたのは黒のローブの上にエプロンをつけた、以前録音機を売ってくれた、魔道具店の太っ腹な幸薄店主さんだった。
店主さんの登場は冒険者達にとって喜ばしい事のようで大歓声があがった。「これで勝てる!」とか「貧乏店主さぁぁぁん!」とか「夢でお世話になってます」とか、あがる声はそれぞれ内容が違うけど、歓迎してる事に変わりはないようだ。
しかし貧乏魔道具店の店主一人になぜ?
少しだけそんな疑問を抱いていると、サトウカズマも気になったのかその事をキースに尋ねていた。
俺もまぜてもらい話を聞くと、今でこそ引退しているものの、店主さんが元は高名な魔法使いだったらしい事が分かった。どうやらただの貧乏店主ではないらしい。
ぼやーっと眺めていると店主さんと目があった。
俺は久しぶりの再会に手を振ったのだが、店主さんは何故だかこちらを見て震え出してしまう。
「ひぃっ!!いつかのウェイトレスさん!!」
ずざぁぁっと、勢いよく避けられた。
解せなかったので近づいたのだが、もっと後ずさられた。
どうしようか悩んでいたらサトウカズマに肩ポンされてしまう。
「何してんだ、お前は」
「別に何もしてないけど・・・」
「何もしてなかったら、こうはならないだろ」
そう言われても困ってしまう。
別に大した事はしてないのだから。
「といってもなぁ・・・・ちょっと話し合いして、買いたかったヤツを定価の九割引で売って貰っただけで・・・・何もないぞ?」
「値切りに値切ってんじゃねぇか。思った以上にえげつないわ。鬼か」
「だって、いけるかなっ?って思ったらつい」
サトウカズマに促されごめんなさいする事になった。
ごめんね、店主さん。
今度は手加減して、五割引くらいを狙うから。
「ひぃぃっ!」
「また怯えさせてどうすんだ!」
「あたっ!」