この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
後悔もなし。
冬の季節には珍しく、よく晴れたその日。
早々に洗濯物済ませた俺は、以前同僚から格安で譲って貰った厚手のカーディガンを肩に、太陽の光がよく差し込む窓の側で椅子に腰掛けていた。
僅かな生活音のみの静かな部屋の中。
俺は手元で編み込んでいるソレから目を逸らさず、窓の外へ向けそっと耳を傾けた。聞こえてくるのは小鳥の囀ずり。冷気をのせた空風と、そこに混じる僅かな街の喧騒。
いつもなら水色が馬鹿やったり、めぐみんが詠唱の練習を始めたり、ダクネス辺りが修練を始めてもう少し賑やかになるのだが・・・この様子だと今日はそれもなさそうだ。朝御飯を食べた後、水色は直ぐにバイトに出掛けていない。めぐみんはダクネスを爆裂散歩へ誘って出掛けたから、きっと今頃はアクセルの外へ。帰ってくるのもお昼過ぎ以降だろう。
あれからもう一週間。
領主の件はかなり根が深い問題だったらしく、未だに調査は続いていて終わりの目処はたっていない。カズマの件に関しては、裁判の翌々日にやってきたセナさんから、功績も考慮にいれた上で今後この件で罪に問うことはないと言われてはいるが・・・それでも全部が全部解決した訳ではない以上、油断は禁物だ。それは俺も重々承知してる。
━━━けれど、今日くらい、一息くらいついてもバチは当たらないだろう。神様もきっと許してくれる。
そう勝手な事を思いながら。
戻ってきた日常の空気を感じながら。
俺は手元にあるそれを、また一つ縫い込んだ━━━━。
「・・・・なぁ、カナデ」
不意に掛かった声に顔をあげれば、黙々と製図していたカズマが手を止めてこちらを見つめていた。
「どした?」
「いや、どしたって・・・・確認なんだけどさ、まだ出来てないよな?」
「ん?そりゃ、そうだろ。何言ってんだお前。そんなに早く出来るもんか」
赤ちゃんが出来るまでどれだけ時間掛かると思ってんだ。こいつは。俺はお腹を撫でながら、カズマに赤ちゃんが出来るまでを簡単に説明してやる。ついでに出来たかどうか確認出来るのも、次の生理がくる辺りである事も。
すると一通り俺の話を聞いたカズマは、俺の手元へ向け指差してきた。
「それ、何作ってんだ」
「何って・・・着ぐるみ?」
俺の手元には耳をつけるだけで完成する、赤ちゃん用のネコの着ぐるみだ。黄とらバージョン。
昨日作った前掛けは可愛すぎたので、今日はどっちでも大丈夫なように、黄色を基調とした物で作ってる。
それの何が問題なのか・・・?
「堪らなく不安になるんだよぉぉぉぉ!いやな、別にな、それが嫌とかいうんじゃないぞ!?何度も言ってるけど!!もうな、そこら辺は問題ない!!大丈夫だ!上等だ!責任は取る!ちゃんと取る!覚悟は出来た!━━━━と思う!」
「おう、ありがと」
「でもな、それはそれ、これはこれなのぉ!!不安になるんだよ!堪らなく!その、もう完全に出来た体であれこれしてる姿見てると、兎に角落ちつかねぇんだよ!俺ちまちま物作ってる場合じゃねぇんじゃね!?働きにいった方が良くね!?ギルドいかねぇと駄目なんじゃねとか!?ああぁぁぁっ、上手く言葉になんねぇぇぇぇ!!」
おっと、マリッジブルーならぬベイビーブルー。
知らん間にプレッシャーになってたのか。
ごめんな。
「いやぁ~あはは、もしかしたらと思うと・・・ねぇ?こう、いても立ってもいられないと言うか」
「・・・・はぁ、いやな、そもそもは、まぁ、堪え性のない俺が悪いんだけども・・・」
「お前だけ悪いって事はないだろ。俺もしたくてしてる訳だしな。そこはお互い様だ━━━それにな、もしそうなっても、悪い事なんて少しもないぞ。寧ろ、嬉しいくらいだからなぁ」
そう言って笑って見せると、カズマが顔を赤くしてそっぽを向いた。もうあれこれしてる間柄だってのに、何だってこいつはこうなんだか。可愛すぎか、こいつめ。
「それで、どうなんだ?出来そう?」
「ん?ああ、まぁ、図面は何とか起こしてみた所だ。後は必要な材料揃えて、組み立ててみない事にはな・・・・大丈夫だとは思うんだが」
ちょっと覗いて見たら、随分しっかり描かれてた。
そういう物に詳しくはないけど、それがちゃんとした知識の上で描かれてるのは見てれば分かる。
普通に凄いと思う。
前に自作のライターを見せて貰った事もあるけど、あれはしっかり出来ていた。カズマは知っていれば誰でも作れると謙遜してたけど、俺個人としてはそうは思わない。再現するのも技術と発想が必要な筈だ。実際、俺が作れるかと?と聞かれれば、間違いなく首を横に振る話だ。
こいつ本当に、なんでニートしてたんだろうか。
「ふぅん、ライターはよく出来てたからなぁ。ちょっと期待。出来ると良いな、コタツ」
「その上で売れてくれりゃ、もっと良いんだけどなー。ライターの売り込みの事とかも考えないとな・・・。それに本格的に売るとなったら量産の方法も考えないといけないし・・・つーか、そもそもどうやって売るかも考えないといけないし・・・はぁ、課題はまだまだ多いな」
「そこは焦っても仕方ないだろ?一つ一つやってけば良いんだよ」
「・・・・おう、ありがとうな」
それから暫く、カズマとまったりとした時間を過ごしていると「頼もーーーーう!」という大声が庭の方から響いてきた。
何事かと二人で覗けば、門の所に女の子が立っていた。
女の子の姿にカズマが感心するような声をあげ━━━直ぐにこっちを見て「違う」と言い訳してくる。女の子はおっぱいが零れ落ちそうなエロい服を着ていたので、多分それを見たことを謝っているのだろうけど・・・別に責めたりしないんだけどな。男の視線が自然とそういう所に向くのは理解出来るし、注意してどうにかなるものでもないと思うし。
まぁ、でも、悪いと思ってくれるのは・・・悪くない気がする。
「━━━それにしても、何処の誰なんだか」
「なーー。ん?でも何処かで見たような・・・なんだ、この感じ。服の感じとか、雰囲気とか」
「めぐみーーーん!!いるのは分かってるのよ!!出て来て、私と勝負しなさい!!」
続いた女の子の台詞に俺達は思わず顔を合わせる。
カズマの目には確信に似た何かが宿っていた。
そして多分、それは俺もだろう。
「めぐみんって呼んだな・・・そういう事か?」
「そういう事だろ?でも今いないからなぁー」
二人で門の方へ視線を向ければ、女の子は声をあげながら門の所を世話しなく動いてる。屋敷の中の様子を窺おうとしてるのか柵に顔を押し付けたり、壁の上から覗こうとしてるのかピョンピョン跳び跳ねる。
「めぐみーーーん!!ねぇ!いるでしょーー!いたら返事してよーーー!めーーぐーーーみーーーーん!!すみませーーーーん!!あのーーー!無視しないでーーー!い、いないのかなぁ?あのーーーちょっとすみませーーーーん!!」
そして必然おっぱいが揺れる揺れる。
当然カズマの視線も釣られる釣られる。
・・・・あーーー。
「・・・・はっ!?ち、違う!違うからな!これは、なっ、まぁ、ほら、お前も━━━」
「あーはいはい」
「━━━━あれっ、怒ってる?割と怒ってる!?怒ってるよな!?ちょ、こっち見てくんね?か、カナデさーん。あのー、カナデさーん。カナデさんの、可愛いお顔が見たいなぁーなんて」
怒ってる訳ないだろ、ぶっ飛ばすぞ。
鬱陶しいカズマを押し退けて、俺は縫いかけの着ぐるみを置いて玄関へと向かった・・・ええい、着いてくるな。お前はキリキリ働いてろ。何?怒ってないわ。怒ってないって。怒ってないっていってんだろぉ!!怒るぞ!!がああああ!!
「あ、あの、初めましてっ。私めぐみんのライバル・・・ライ・・・バル・・・くぅ・・・・!━━━━我が名はゆんゆん!!アークウィザードにして、上級魔法を操る者!めぐみんのライバルにして、やがては紅魔族の長のなる者!!」
めぐみんの知り合いらしい女の子を家に招いて少し。
お茶を差し出した俺に、少し挙動不審っぽかった女の子が大きな声で自己紹介してきた。どうやら女の子はゆんゆんというらしい。詳しく聞けば、やっぱりめぐみんの同郷だとか。ライバルとか自称しているが、恐らく普通の友達だろう。つい先程そう尋ねた時、全力で否定していた割に顔が嬉しそうににやけていたので間違いない。
それにしても相変わらず紅魔族の名前のセンスはいかんともし難いな。ゆんゆん、か。まるでパンダの名前みたいだな。
ん?カズマはどうしたって?知らん。
一回こっちに顔出したけど、諸々の事情で追い払ってやってから見てない。とぼとぼ階段登ってく所までは確認した。
後は知らん。
「ゆんゆんか、まぁ宜しくな。じゃぁ久しぶりにやるか━━我が名はカナデ!!冒険者を生業とし、ギルドのウェイトレスをたまにしながら、日々家事に勤しみつつエッチも忘れず嗜む者!!」
挨拶を返してやるとゆんゆんがキョトンとした。
「あの、それって・・・・」
「?紅魔族風の挨拶なんだろ?おかしかったか?」
「い、いえ、おかし・・・いや、自分で言っておいてあれですけど、おかしいとは思ってますけど。そうじゃなくて、その、笑ったりとかしないんですか?」
あー、言われて見ればこの挨拶はかなり白い目でみられるもんな。まともに返すのって俺くらいか。カズマも気分が乗った上で、パーティーメンバーだけの時とか、死ぬほど酔っぱらってる時はやるけど・・・それくらいだもんな。
「まぁ、そういう文化ってだけの話だからな。それにな、俺個人としては好きだぞ。だってカッコいいだろ?」
「か、カッコいいですか?」
「カッコいいぞー。自分が誰で、どんな奴で、どんな風になりたいのか。嘘つかないでちゃんと言えるって。俺は・・・ずっと出来なかったからな・・・・」
「・・・あの、カナデさん?」
いつの間にか下がっていた視線をあげると、心配そうにこちらを見つめるゆんゆんがいた。安心させてやりたくて笑顔を返せば、開きかけていた口が閉じた。
「ありがとうな、心配してくれて。でも、大丈夫だから。今は、な。・・・でまぁ、なんだ、だからな、そうやって言葉に出来る強さを、この先も大切にしてくれなって話。それだけ。━━━━はい、難しい話は終わりな。冷める前にそれ頂いちゃってくれ」
俺がそう言うと慌ててカップに口を着けたゆんゆんだったが、お茶はある程度熱さを残していたようで肩が大きく跳ね上がる。すげー熱そう。
「大丈夫か?」
「ひゃい、ひゃいひょうふひぇしゅ。おいひぃーひぇしゅ」
「そうかーそれは良かったよー」
どうみても味が分かってるようには見えないけど。
まぁ、満足して貰えてるなら良いか。
コーヒーならバイトでやってたから自信あるけど、紅茶はいまいち勝手が分からんからな。文句言われてもどうしようもないし。誰か紅茶の入れ方とか知らないだろうか。一度聞いてみたいんだよなぁ。
ゆんゆんが普通に紅茶の味が分かり始めた頃、ようやくまともな会話が始まった。
めぐみんと共に紅魔の里から上京したゆんゆんは、めぐみんと同様に冒険者となったらしい。しかしアクセルの街にてライバル(設定)の二人は共に行動する事を選ばず別々の道へ。めぐみんはアレなのでアレだったが・・・ゆんゆんは多種多様な魔法を操れる為に、特に苦もなく実績をバンバン詰んでいき、王都がらみの依頼を受ける程になれたのだと。
それで暫く活動の拠点を王都にしていたのだが、めぐみんのパーティーが領主と裁判したとの情報を聞きつけてしまい━━━それで心配になって理由をつけて会いにきたらしい。
ゆんゆんの回りくどい話を要約すると、そんな所だ。
「まぁ、めぐみんももうすぐ帰ってくると思うから、それまでゆっくりしててくれ。大したおもてなしは出来ないけどな」
「え、あ、あの、良いんですか?自分で言うのも、何ですけど、こんないきなり押し掛けた、怪しい私が・・・いても・・・その、お邪魔じゃ・・・」
怪しい・・・まぁ、怪しいっちゃ怪しいけど。
人ん家の前でピョンピョコピョンピョコ。
不審者以外の何者でもない。
でもな、俺には悪い子には見えないからなぁ。
冒険者なんて仕事してるのに、身なりはちゃんとしてるし、礼儀正しくて気も使える。めぐみんの事を話す目は真剣だし、何よりゆんゆんからは嫌な感じがしない。
これでもアホ父のおかげで色んな人を見てきた。
主に悪い輩の方が多いから自慢は出来ないが、そういう人を見る目はあるつもりだ。
俺は顔を伏せるゆんゆんを安心させる為に、そっと頭を撫でてやる。最初こそ肩を跳ねさせたけど、嫌そうな感じはないのでそのまま続けた。
「大丈夫、邪魔じゃないぞ。ゆっくりしていって良いからな。お茶おかわりいるか?」
「はっ、はい。いた、頂きます・・・」
顔を真っ赤にして頷くゆんゆんが可愛くてワシャワシャ撫でていると、「何をしているのですか、カナデ」と声が後ろから聞こえてきた。
振り返ってみれば所々濡れてる、ダクネスとそのダクネスに背負われためぐみんがいた。二人とも唇が少し青くなってる所から、大方雪でも被ったのだろう。
「二人ともお帰り。お客さん来てるぞー」
「ああ、ただいま。見ない顔だな?どちら様だ?」
「お客さん、ですか?うん?私にはそんな人は見えないのですが・・・誰ですか?初めて見る顔です」
ダクネスとは対照的に、床に下ろされためぐみんは首を傾げながら素っ気ない言葉を吐いた。
ゆんゆんが椅子を鳴らして立ち上がる。
「ちょっ!私よ!見れば分かるでしょぉ!ほら、紅魔の里の学園で同期だった!めぐみんが一番で、私が二番で!それで、私は上級魔法を使えるまで修行してくるって・・・・!!━━━━はっ!?ちがっ、違うんですよ!カナデさん!私本当にっ、めぐみんとはライバルで!!め、めぐみん!!めぐみんからも言ってよ!」
「随分と自己主張の強い妄想女ですね。私が?貴女と?学園の?ちょっと何を言ってるのか分かりません。大体さっきから『私』『私』と、名前を名乗らない辺り怪しさ満点です。カナデ、何を言われたか分かりませんが、関わってはいけませんよ。これ、前にカズマとカナデで教えてくれたオレオレ詐欺の類いですよ。きっと」
完全にからかってるめぐみんの言葉に、ゆんゆんが地団駄を踏みながらバッと構えた。
「何よー!!や、やれば良いんでしょ!やれば!見てなさいよ!我が名はゆんゆん━━━━━」
そうして二回目の自己紹介が始まり、二人はわちゃわちゃと話し始めた。どちらも素直じゃないのか大概な会話内容だったが、二人の表情を見れば悪い関係でないのは疑うまでもない。
俺とダクネスは楽しそうに話す二人を眺めた。
その二人と同じように笑顔を浮かべながら。
◇◇◇
「・・・・なんだろう、下の階から楽しそうな声が聞こえる・・・・駄目か、まだ行っちゃ駄目なのか!?」