この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
もはや、切腹もの!是非もないよね!
カズマに連れ出されてから少し。
俺とカズマはアルカンレティアの市場を出歩いていた。
流石に観光地なだけあって人の賑わいは凄く、特別何か催し物をしている訳でもないのに人の往来が激しい。一応手を繋いでるけど、気を抜いてると直ぐにはぐれそう。
カズマの手をニギニギしながらぼやーっと市場を眺めてると、ファンタジーの定番であるエルフっぽいのとドワーフっぽいのを見掛けた。何が気に入らないのか、店員とおぼしき二人は商品片手に店先で口論してる様子。ゲームが趣味のカズマなら興味あるかと思って教えてやれば、興奮した様子でそこへと視線を向ける。キラキラと子供みたいな目が眩しい。
「マジじゃねぇーか!?・・・・おお、耳ながっ、髭すごっ。エルフとドワーフってやっぱ実在したのかぁ。はぁーーまじかーー。ゲームとかだと相性悪かったりするけど、あれもマジかーー。本当に仲悪いもんなんだな。すげぇ、マジかーー」
よっぽど嬉かったのか言葉が幼年期まで退化してる。どう見てもアホっぽい。マジ何回言うんだろうか。
いつものカズマならあの胡散臭い連中のちょっとした違和感にも気づいただろうけど、今はそのセンサーも碌に働いてないらしい。何気に勘がいいやつなんだけどな。普段は。
「・・・話し掛けてみれば?」
「えっ、いや、でもな・・・・いや、いい。あのファンタジー感を崩すのは気が引けるし」
「なんだそれ」
なんかカズマにはカズマの拘りがあるらしい。
無理強いするつもりはないし嫌なら別に構わないけど、その割に中々立ち去ろうとしないのはどうなんだろうか。なんだよ、めちゃ話し掛けたいんじゃないか。なに?ツンデレ?そのツンデレは別に可愛くないぞ。
「あの、すみません。ちょっと良いですか?」
「はうっ!?カナデさん?!」
取り敢えずカズマをスルーして声を掛けてみた。
すると思いの他二人はにこやかに「いらっしゃい」と反応を返してくれる。喧嘩していたのが嘘のように、それはそれはニッコリと。胡散臭い胡散臭いとは思ってたけど、もしかしたらあの喧嘩はカズマみたいな人向けのパフォーマンスだったのかも知れない。
少年のような目をしたカズマと観光名所のことやらなにやらを聞いてみれば、思い出したように喧嘩しながら色々と教えて貰えた。どうやら観光客に人気の水路を利用したゴンドラがあるらしい。最近お湯の不具合で駄目になった混浴の話も聞いたけど・・・まぁ、それは興味ないしな。えっ?うちの宿にもあるの?混浴?ふぅん・・・後でな。後で。
暫く話してるとこっちの懐事情を察したのか、元々持っていた饅頭を置いて工芸品をその手にした。目にはそれまで浮かべていた生温い雰囲気はなく、完全に商売モードである。
「お土産は是非うちのものを!ドワーフみたいな汗っ臭い下品な連中が作った、脂汗が染み込んだくっさい金属細工より、うちの衆が作った木工細工なんてオススメだよー!彼女さんの綺麗な髪に、こちらの櫛なんて如何かな?おっと、色が気に入らなければ相談して下さい。各種揃えてますので」
「なんだと、この耳長野郎!!てめぇらの作った貧弱な木工細工なんざ見た目だけのガラクタだろうが!!お客人!お土産を買うならうち金属細工にしときな!ほれ、このネックレスを見てくんなぁ!どうでぃ、この艶!この輝き!この細かな彫刻!綺麗だろう!?その上頗る頑丈ときてる!そう!派手な塗装なんざいらねぇやな。このシンプルな金属の色味こそ堪らんのよ!」
「いやいや、金属なんて今時普通過ぎて流行りませんよ。こちら我が故郷から取り寄せた樹齢百年の木を、名工が丹精込めて作ったものでして━━━━」
「良く言うわ、量産品だしおって!それよりこちらをっ!どうですこの花の彫り物。綺麗に彫れてるでしょう?こいつを作った従兄弟はまだ若造で、名前もまだ売れてやしませんが、半端もんだけは作らん奴なんですよ。品質だけは保証しますぜ。少量のアダマンタイトとプラチナ、それと━━━」
「アダマンタイトといっても、アダマンマイマイからとった混ざりものではなかったかな?違ったかな?あれれ、品質保証とは?」
「なっ、なんだと!?アダマンマイマイから取ろうと、アダマンタイトはアダマンタイトでぇい!ちゃんと分けりゃ問題ねぇ!!それを、てめぇこの野郎!人の足引っ張るんじゃねぇや!!」
「先にやったのは貴方でしょう!?前々から思ってましたけど、貴方は肝心な所で直ぐ・・・・!!」
欲に目が眩んだのか、割りと本気で喧嘩し始めてしまった。エルフもドワーフも、そこら辺はあんまり人と変わらないんだろう。
殴りあいの喧嘩が始まりそうになった辺りで、何やかんやとお人好しのカズマが仲裁に入っていった。お土産を買う羽目になったのは言うまでもない。
アクシズ教徒の勧誘包囲網を回避しながら市場を抜けて少し。教えて貰ったゴンドラに乗り込んだ俺達は、アルカンレティアの水路にて流れに揺らされていた。
「目線が違うと、やっぱり景色も変わるもんだな」
買って貰ったネックレスを指で弄ってると、隣にいたカズマが辺りを見渡しながらそう呟いた。
雰囲気に釣られて眺めて見れば、水路を囲むように並ぶレンガの建物と、太陽の光を反射してキラキラと光る水面が目に映る。耳を澄ませばチャプチャプと揺れる水の音や何処か遠い街の喧騒が聞こえてきた。
それらはなんだか心地よくて、アクシズ教徒絡みでささくれだった心を癒してくれる。
「そうだなぁ」
そう言ってカズマの肩に頭を乗せれば、労るように頭を撫でてきた。気持ちよくて細めているとカズマの顔が近づいてきて、頭にキスを落としてくる。
なんだかくすぐったい。
「━━━━カナデ」
「ん?どしたぁ?」
「・・・いや、何でもない」
放っておくとカズマは髪に顔を埋めてきた。
犬みたいに鼻息がスンスン煩い━━━というか、こいつ普通に臭い嗅いでる?旅の最中だったから仕方ないとはいえ、俺の頭って今はアレだと思うんだけど。
「・・・汗臭くないか?」
「まぁ、ちょっとムァってする」
「だろうな。体は一応拭いたけど、頭は寝癖直したくらしか弄ってないもん。臭いフェチだったっけ?」
「いや?別に・・・」
そう言うとカズマは髪を手を撫でながらクンクンを続けてくる。俺もカズマの臭い嗅ぐし、嗅がれるのも嫌でもないから好きにさせていたんだけど・・・・それにしても嗅ぐ時間が長過ぎた。だって景色も見ないで、ずっと俺の髪に顔を埋めているのだ。船頭さんの案内もどこ吹く風とずっとクンクンしてるのだ。
船頭さんの呆れた視線に晒されながら、熱のこもった吐息の感触や荒い呼吸音を聞いてると、なんかすごく無性に恥ずかしくなってくる。
「かっ、カズマ、その辺りで良いだろ?」
「んー、もう少しだけ」
「何でだよ、何がもう少しなんだよ」
「いやぁ、なんか、こう、汗臭いのは汗臭いんだけど、このムァってのが癖になるというか、いやでも、これはこれで、まぁ、良いというか・・・臭いフェチでも良いかなぁって、うん」
フェチに目覚めてるじゃねぇか、この変態野郎。
放っておくといつまでもやりそうなので、仕方なしに力で剥がしておいた。カズマが名残惜しそうにみるけど、無視だ。無視。駄目だ、こら。はぁ?お風呂入らない日を作らないか?作るかボケ。可能な限り、旅先だろうと洗いまくってやるわ。
「あーらあら!そこの!そこのお髭が素敵なそこの貴方!またお会いするなんて奇遇ねぇ!どうだったかしら、この間の石鹸は?素敵な石鹸だったでしょう?それも当然!同士が丹精こめて、司祭様が祝福を授けてくだり、アクア様のご加護が宿ってるような宿ってないようなアクシズ教謹製の石鹸ですもの!今入信すれば今度はこの洗剤もついてくるわ!勿論石鹸と同じで自然由来百パーセント!」
「やめろぉっ!いらんと言ってるだ━━━━押し付けてくるなぁ!!ポケットに突っ込むんじゃない!!なんなんだ、お前らのその洗剤への執着は!!」
カズマと肩を寄せあいながら揺られていると、通りの方からアクシズ教徒とおぼしき元気な声と被害者の悲鳴が響いてきた。水路は平和だけど、地上は相変わらずのようだ。
「酷いもんだ」
「本当だな。アクセルの街にもいるにはいたが、ここまでじゃなかったもんな」
カズマのぼやきに返事を返していると、船頭さんが苦笑いを浮かべた。
「すいやせんね、せっかくの所に水差しちまって。あいつらも以前はあそこまで酷くなかったんですがねぇ」
「そうなんですか?」
「へい、奥様。アクア様の教えを広める為ですから、そりゃぁ勧誘自体は以前からありやした。ですが、最近若者連中を中心に妙なもんが流行っちまいましてねぇ・・・」
聞けば最近の勧誘は以前よりしつこく、演技じみた━━━というより詐欺同然の悪質な勧誘が主流になってるらしい。ここに来る途中何度もカズマが追い払った、胡散臭い小芝居のことだろう。何でも旅の魔法使いから教団のお偉いさんにアドバイスがあったとか何とか。因みに船頭のおじさんもアクシズ教徒ではあるけど、商売優先で仕事中は勧誘しない主義だそうだ。
「特に影響された次期最高司祭のゼスタ様が中々の問題児でねぇ。アークプリーストですので腕っぷしだけは良いんですが、それ以外は本当にもう。昔っから女風呂覗くわ、美人なエリス教徒を狙ってセクハラしにいくわ、何かと碌なことしやがらねぇんですよ。ゼスタのボンも歳を喰えばちっとは大人しくなるかと思ったんですがねぇ・・・いやはや、勇者様のお言葉通り『三つ子の魂百までノーチェンジ』なんですかね」
「どこの勇者だ。馬鹿な言葉残したのは」
『勇者』がというか、『転生者』は本当碌なやついないな。送り出していたのがあの水色だと思うと、当然といえば当然だと思うけども。聞けばデストロイヤーも転生者が作ったらしいし・・・もうさ、魔王とかも実は転生者だったりしない?このノリでいくとさ。
それからも喧騒を耳にしながら、慣れた様子であれこれと説明してくれる船頭さんの声を聞きつつ、カズマとアルカンレティアを色々見て回っていく。観光地として有名なだけあって、水路から見える歴史の重みが漂う景色は中々に見物だった。途中、ゴンドラの利用客に向けた水上屋台に寄ったり、船頭さんのオススメの店でカフェでお茶したり・・・・なんかアクシズ教徒が多数生息してる割には、平和に普通なデートをしてしまった。ある程度覚悟してたので拍子抜けだ。
不思議に思って聞いてみると、ゴンドラの利用客はお金持ちや貴族が多いから━━━だそうだ。凄い現金な理由だけど納得はした。上手くやればアホみたいに稼がせてくれる相手だけど、それ以上に下手な対応が出来ない相手ばかり。必然的にそれが出来る店が残るのは当然だろう。
そうして観光する事暫く。
街の入り口からでも見えた湖についた。
湖のあちこちに湯気が昇っている所をみると、水脈は目に見える川だけではないのだろう。ちょっと手を伸ばして水面に触れてみれば、まだ冬だっていうのに少しだけ温かった。身を乗り出して覗いてみれば、元気よく魚が泳いでる姿が見えた。水温が高いお陰か冬だというのに生き生きしてるようだ。あっ、バナナも泳いでる。何度見ても慣れない光景だなぁ。
「奥様。あんまり身を乗り出すと危ないですよ。ここいら温泉が湧き出してる所があるんですが、稀に強く噴出したりして━━━━」
フラグみたいな言葉を聞いた直後、それに応えるようにゴンドラが大きく揺れた。
端に寄り掛かったせいもあって体勢が崩れる。
バランス感覚には自信があったけど、体が半分ゴンドラの外に出てしまってる。戻れそうにない。
だから諦めて身を任せたのだけど━━━急に腕が力強く引き寄せられて、気がついたらカズマに抱き締められていた。見掛けに寄らず男らしいガッシリとした腕と胸板にぎゅっとされる。
「━━━っぶね、大丈夫か?」
心配そうなカズマの顔が覗いてくる。
厭らしさの見えない真っ直ぐな瞳に胸が高鳴った。
鼓動を重ねる度、顔が体が一気に熱くなってく。
ポワポワした気持ちが頭の中を埋めて━━━。
「・・・だい、大丈夫か?聞いてる?カナデさん?」
「きいてる・・・・」
「聞いてないやつだ、これ」
困ったような顔のカズマは船頭さんへと視線を向けた。揺れた理由を聞いてるみたいだけど、俺はもうそんなことどうでも良くて、そのまま胸板に頬を擦り付けた。
理由は分からないけど、何となく、そうしたかったのだ。
「旦那様、良い休憩所知ってますけど・・・」
「変な気を使わないでくれます!?」
それから夕日が湖に差し込み始める頃までのんびり遊覧し、その景色を眺めながら一回だけ唇を交わした。
少しだけ長いそれを、一回だけ。