この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
でも、ずっとこうやん?
諦めてくれ( ・`д・´)キリリ!
「控えよろー控えよろー!このペンダントが目にはいらぬかぁー!」
「こちらにおわすお方を何方と心得ますか!王国の懐刀と噂される名門貴族ダスティネス家のご令嬢、ダスティネス・フォード・ララティーナ様その人であらせられるのですよ!!」
「冒険者風情がっ、頭が高い!!控えおろう!!」
水色・めぐみん・カズマによる三段式演説により、そこにいた調査隊の冒険者達・及び居合わせたギルド職員が一斉に片膝をつく。基本的に自由人な冒険者達も大貴族と呼ばれるダスティネスの名前は怖いのか実に従順である。まぁ、俺があれをやられる立場なら様子見の為にも一旦はこうしたと思うけど。
「あまりこういうのは、その、良くないと思うのだが・・・・」
「聞きましたか!ララティーナお嬢様は調査隊の指揮は自分直々にとると申されています!温泉に仇なす輩は自分の手で討ちとると!そう、おっしゃられています!」
「めぐみん!?いってないぞ!?」
酷く焦ったダクネスがめぐみんに叫ぶが、めぐみんは何処吹く風と膝をつく冒険者に当然とばかりに胸を張る。
そのめぐみんに続きカズマが一つ咳払いしてから口を開いた。
「今回の件について指揮官を任されている者は直ぐ様前に出よ!!そして指揮権のお引き継ぎをするのだ!!ダスティネス家に逆らえばどうなるか、分かっておるだろうなぁ!」
「カズマ止めろ!そういうのは本当に止めろ!家名を、権力を笠にして脅すのは駄目だといっただろう!」
「脅す?まさかまさか。自主的に指揮権をお嬢様へと引き継ぎするように、平和的にお願いしているだけですとも・・・・・」
チラッとカズマが視線を向けてきた。
なので元から決まっていた通りにハルバードの柄を地面に叩きつける。石畳を砕く鈍く重い音と石に打ち付けられた金属の甲高い音が響き渡る。耳に痛い音を聞いて見上げてくる全員へ冷笑を浮かべつつ見つめてやれば、大体の奴らがぶるりと震えて顔を下げた。文句はないそうだ。何人か恍惚としてるのが気になるけど・・・まぁ、それはそれでいいか。言うことは聞きそうだし。
「ね?」
「何処の暴君だ!?カナデもそういうのは止めろ!完全に脅しだろうそれは!!一番駄目なやつだ!!」
「はははっ、ご冗談を。わたくしめもカナデめも、何も言ってはおりませんではないですか」
「言葉はな!!でも、それ以上に伝わるものがあるからな!?」
カズマに食って掛かるダクネスをよそに、調査隊を集め始めた水色がアクシズ教のシンボルマークが入った紙をヒラヒラさせる。この街にきてから散々見てきたアクシズ教団への入信書だ。
「今日から調査隊の皆は全員アクシズ教に入信するのよ。アクシズ教徒じゃない子はこの紙を書いて提出しなさい。いい?今日から皆で神聖なる水の女神アクア様を信仰するの。毎日朝と晩に祈りを捧げるの。逆らったり、逃げたり、エリスなんか信仰したら駄目よ。その時はダスティネス・フォード・ララティーナ様が黙っていないんだから!」
「アクア!止めろ!私の家名を使って布教活動するな!しかもそれでは我が家がアクシズ教徒みたいになるだろ!!ダスティネス家は今も昔も敬虔なエリス教徒だ!!」
忙しいな、ダクネス。
遡ることちょっと前、俺達は調査隊と合流する為に冒険者ギルドへと行った。丁度出発前の一団に遭遇したまでは良かったのだが、この街での実績のない俺達パーティーは面白いくらい信用されておらず、調査隊への参加を断られる始末。仕方がないので手っ取り早く説得する為に、伝家の宝刀であるダスティネスの名前を使わせて貰う事にして━━━━で、こうなった。
「死にたい・・・・ぐすっ」
ざっ、ざっ、ざっ。
纏まった足音を背に、ダクネスは真っ赤になった顔を隠しながら歩く。その足取りは酷く重い。そんなダクネスの後には先程説得した調査隊のメンバーである冒険者達。殆んどの連中が固まった表情のまま絶賛行進中である。流石に一糸乱れぬとまではいかないが、中々の纏まり具合にダスティネス家の権力の高さに改めて怖さを感じる。今は借金まみれな筈だけど・・・・やはり腐っても鯛か。
「・・・ええぃ、いつまでメソメソしてんだ。ダクネス。ちょっと名前を借りただけだろ。いい加減機嫌直せよ」
「なっ、お前っ!カズマ!そのちょっとで、ダスティネス家へどれだけ悪い印象を持たれたか!そもそもちょっとだから良いとか、そういう物ではない!貴族とは民を守る盾であり剣だ!それがあのような名を笠にして命令するなど━━━━!」
「おわっ!?ちょっ!分かったから!落ち着け!」
「あわわわ、カズマさん、ダクネスさん落ち着いて下さい」
じゃれあいしてるダクネスとカズマは貧乏店主さんに任せ、俺とめぐみんは改めて調査隊の指揮について元調査隊の隊長と話し合いを始めた。調査対象となっている山にはモンスターも普通に出るそうなので、街を出るまでに役割を大体決めておきたい。迅速に物事を進めるには準備は大切だ。
「━━━━と、事前に決められるのはこの辺りか。しかし君達六人は編成なしで大丈夫なんだな?状況から考えて、源泉付近は何があるか分からんぞ」
「問題ありません。というか、寧ろ過剰戦力と言えるでしょう。このパーティーなら魔王軍幹部でも殲滅出来ますからね。もし調査中に非常事態が起きた場合は魔法で合図を出して下さい。援護に向かいます」
「魔王軍幹部か、それは大きく出たな。紅魔族のお嬢ちゃん。本当なら心強い」
「事実です。魔王軍幹部程度、何度も倒してますから」
本当の事ではあるんだけど、めぐみんが胸を張って言うと子供の強がりにしか見えない。お陰で隊長からは生暖かい視線を送られてる。火力だけなら本当に強いんだけどな。本当に。
「まぁ、おっかねぇ嬢ちゃん。そっちは頼んだぜ」
「大丈夫です、任せて下さい」
「なっ!?何故カナデだけに言うのですか!さては信じてませんね!ちょっ、こっち見て下さい!こっちを見ないと実力のほどを見せることになりますよ!」
キャンキャン吠えるめぐみんを慰めつつ歩く事暫く。
街の中央広場が見える所までくると、道を塞ぐように集まってる人だかりが視界に入ってきた。何事かと首を傾げてると、その人溜まりにいた一人がこちらを指差して大声をあげる。
「あっ、いたぞ!!昨日の演説してた青髪の嬢ちゃんだ!!」
その声を合図にそこに集まっていた人間が一斉にこちらへと走ってきた。よくよく見れば、そこにいたのは昨日水色を糾弾していたアクシズ教徒の連中だった。それに気づき怯える水色を背中に匿い、牽制の為ハルバードの切っ先をそいつらへ向ければ即座に足が止まる。脅しが効く程度、理性のある相手で少しほっとした。そうじゃなかったら見せしめに何人か叩きのめしてる所だ。
「何ですか?事と次第よると・・・」
「い、いや!違う!思わず叫んじまったが違う!敵意はねぇよ!頼むから武器下げてくれ!!」
どうするかカズマに視線で聞いてみれば、隊長達と二言程度交わしてからコクりと頷いてくる。冒険者達が自らの武器をそっと手にする姿を確認してから、俺は言われた通り構えていた武器を下げた。
その光景にみるからにホッとした先頭の男は、一度自分の後ろに並ぶ連中の顔を見渡した後、こちらに向き直り頭を下げた。
「昨日はすまなかった!特に青髪の嬢ちゃんには悪い事をした!よく知りもしねぇで疑っちまってよぉ!」
「ありがとうな青髪の嬢ちゃん!真水にはなっちまったけど、お陰で誰も病気も怪我もしねぇよ!助かった!」
「浄化する嬢ちゃんは女神様みてぇだったぞ!」
「昨日はごめんなさいねぇ!その目や髪色に相応しい力を見せて貰ったわ!!貴女にアクア様の祝福を!」
「うそつきっていってごめんなさい!おねぇちゃん!」
男の口から謝罪が溢れると、後ろにいた連中も次々に謝罪やら感謝を口にしてく。俺としてはあまりの掌返しに呆れたけど・・・・。
「どうもどうもー!そんなでもありますけどー!おほほほほ!花鳥風月ぅーー!」
肝心の本人が当然の如く受け入れてるので何も言えない。最初はキョトンとしてた癖に、状況を理解していくと共に段々と鼻が高くなっていって━━━オドオドしていたのが嘘のように上機嫌でいつもの水芸を披露し始める始末。どうもどうも、ではないぞ。お馬鹿。警戒したこっちの面子が何とも言えない顔になってるからな。隊長が本気で困ってるだろ。
そうこうしてる内に水色はアクシズ教徒達と意気投合。伊達に信仰対象にしてる訳ではないらしく、アクシズ教徒とは本質的な所で死ぬほど噛み合うらしい。終いには意気投合した水色と街の為に温泉調査隊へ参加するとまで言い始めた。今回のクエストの責任者である、敬虔なるエリス教信者の隊長はちょっと泣いた。なんやかんや、この人も責任とらされるから仕方ないけど。
隊長は流石にこの蛮行を止めにいったが、それで止まるなら多くの人々から頭おかしいとか、ゴキブリよりしぶといとか、ペンペン草すら負けるとか、悪魔より悪魔とか言われる訳がない。結束したアクシズ教団は正に狂気の軍団と化し、教義を口にしながら水色を筆頭に進行を開始した。
「アクシズ教、教義!アクシズ教徒はやればできる!できる子たちなのだから、上手くいかなくてもそれはあなたのせいじゃない!上手くいかないのは世間が悪い!」
「「「「アクシズ教徒はやればできる!できる子たちなのだから、上手くいかなくてもそれはあなたのせいじゃない!上手くいかないのは世間が悪い!」」」」
紡がれる言葉が、何十人もの足音が、昨日の騒ぎのせいで少し静かになった街へ響いてく。雑多な武器を手にしたアクシズ教徒の行進は新たなアクシズ教徒を呼び寄せて、人数は爆発的に増えていき数えられないレベルになっていく。集まった連中の中には目を血走らせながら聖戦と口にする者までいる。━━━━それに途中からお祭りと勘違いして観光客とかも交じってきて、いよいよ収拾つかない事態へと変わっていた。隊長は泣いた。奥さんの名前と子供の名前を呟き、謝りながら泣いた。
「カズマ、カズマ」
「はいはい、カズマですよ」
「いよいよ、とんでもない事になってきましたけど・・・・これ収拾つくんですよね?」
泣いてる隊長を眺めていると、不意にめぐみんがカズマへ問いかけた。めぐみんから問いかけられたカズマは、何処が遠くを見るような目で空を見上げる。
「なぁ、めぐみん。今日は良い天気だな」
「いや、曇ってますよ。がっつり曇りです」
そう指摘されると、カズマは泣きそうな顔でこっちを見てきた。俺に母性本能があるのか分からないけど、取り敢えずその顔には胸の所がキュンとする。かわいいな、もう。帰ったら一杯えっちしよ。
ムラムラする気持ちを胸の奥に隠しながら、俺は精一杯の笑顔を返しておく。
「もうな、なるようにしかならないから。腹を括れ」
「はい、終わりぃ!カナデが諦めてるじゃん!もう終わりだよ!めぐみん、分かったか!なるようになれだ!どうにもならなかったら即トンズラだからな!」
カズマの叫びにめぐみんが良い笑顔を浮かべた。
「やっぱりそうでよね。分かりました。気持ちよく、一発ぶちかまして帰りましょう」
諦めの境地に達しためぐみんの言葉に、今度はダクネスが血相を変える。
「えぇぇぇぇぇぇ!?待て!待ってくれ!めぐみん!カズマもカナデも!!あれを放置する気か!?本気で!?仮にも一度私の名前を使って集まった集団だぞ!?何か起きたらダスティネス家の名誉に傷がつくんだからな!許さん!放り投げて帰るなんて、そんな事絶対許さんからな!」
「うるせぇぇぇぇ!!そもそも俺は最初から反対してたろ!!カナデもだ!!でも、お前らがやるって聞かないからあれこれお膳立てしてやったんだろぉ!!寧ろ感謝しろこの野郎!つーかな、悪いのは先導してるあいつだから!俺じゃないから!!なにあの顔!なんであんな良い顔で笑えるの!?あいつ本当馬鹿だろ!!」
カズマの空しき叫びが空に吸い込まれていく。
されど返ってくるのは沢山の足音と、聞いてるだけで馬鹿になりそうなアホみたいな教義の復唱だけ。
「悪魔殺すべし!魔王しばくべし!はい!」
「「「「悪魔殺すべし!魔王しばくべし!!」」」」
「悪魔殺すべし!魔王しばくべし!」
「「「「悪魔殺すべし!魔王しばくべし!!」」」」
「悪魔殺すべしぃ!魔王しばくべしぃ!」
「「「「ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」」」」
なにこれ、怖い。
だから宗教関連って苦手。
そうして妙な集団と化した俺達は、そのまま源泉を求めアクシズ教団本部の裏手に存在する山へ向かった。途中、源泉への道を管理してる街の騎士団による厳重な警備に阻まれたものの、アクシズ教徒の説得によりダクネスの権力を執行するまでもなく突破。無事に山へと入る事が出来た。
突破する際、街の騎士団からこれ以上ないほどの侮蔑の視線を向けられたけども。
そして隊長は涙が枯れた。