この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
すまんな。
悪名高きアクシズ教徒達と行進を始めて暫く。
観光客と早々に別れた俺達は道中のモンスターを数と物理と暴力で押し退けながら難なく進み、目的地である山の中腹にある源泉その一へと辿り着いていた。
そこには俺達の予想通りというか、なんというか。
まぁ、それなりに怪しい奴はいた・・・いたんだけど。
「褐色の旦那じゃないか!おーい、褐色の旦那ぁ!今日こそ俺達と幸せになっちゃうじゃないか!」
「あらいやだよ!褐色のお兄さん!今日は朝から見掛けないと思ったらこんな所にいたんだねぇ!ほら、あんたの大好きな石鹸さね!今日も持っておいき!もっと欲しければこの紙にサインするだけで、教会いけばタダで貰えるようになるからね!!」
「これはこれは!褐色の旅人様!!この間の一万人目来訪記念サービスは健在ですぞ!!こちらにサインして頂ければ、アクシズ教秘蔵アクア様が穢れを落としたと言われたり言われてなかったりする泉の水から作ったありがたい聖水もお付けします!是非サインを!」
「ハンスさんですよね!ハンスさん!私です!ウィズですよ!あれ、なんでこっち見ないんですか?さっきから無視しないで下さい!私ですよ!ほら、昔同じ魔王軍か━━━━んん!えっ、と、ほら、ウィズです!昔同僚だった!」
魔王軍幹部なのか・・・あれ。
一応現役で魔王の城の結界係りやってる、借金幹部様が言うんだから間違いは無いんだろうな・・・無いんだろうけど、何だろう。この空気。やりづらい。
ぼーっと眺めてると水色がピョコピョコ動き出す。
嫌な予感がして止めようとしたけどアクシズ教徒に阻まれた。物理的に距離を作られたのと、そのアホみたいにデカイ入信を求める声にだ。怖い。
「なぁに、ウィズ?知り合いなの?それなら仕方ないわね!今回は特別に・・・私直々!そう、私が直々に!貴方の入信を受け付けてあげるわ!汝、憐れな迷い子ハンス、これまでの人生を悔い改め、麗しの水の女神アクア様に祈りを捧げなさい。さすれば宝クジ当たったり、彼女出来たり、健康になったりする━━━かも知れないでしょう。中々願いが叶わない時はお布施が足りなかったり、祈りが足りなかったりちゃんと原因があるから決して女神のせいにしてはいけません。誠心誠意尽くせば、女神アクアは必ず貴方に幸を与えます。迷わず祈るのです」
「褐色の人、ハンスっていうのか。ハンスっ、サイン!ここに!一緒にアクア様にお祈りしよう!な!」
「ハンスさんってどう書くの!?ここに書いて教えておじさん!」
「ハンスさん!」
「ハンス!」
褐色の謎男、改めて魔王軍幹部ハンス。
確実に何かを企んでいた暗躍せし者ハンスの周りには今、アクシズ教団員による無慈悲なまでのハンスコールが鳴り響いていた。怖い。思わずカズマのマントの端っこ掴んでしまうくらい怖い。
「カナデ、本当に苦手なんだな。こういうの。うんうん、好きなだけ掴んでろ。しかし、なんだ、ひでぇな・・・」
小さなカズマの呟きに、私とめぐみんも思わず頷いてしまう。せやな、と。
「・・・ダクネスは垂涎ものだろ?」
「馬鹿を言うなカズマ!私もあの手の言葉責めは好かん!なんでも興奮する尻軽女と思うな!」
「大体何でも興奮するど変態騎士が大きくでたな」
「どっ、ど変態っ、騎士だと・・・・っく!」
「早速喜んでんじゃねぇーよ!?なに!?お前のそのスイッチ何処にあるの!?ねぇ!?」
カズマが変態の相手をしてる間に、向こうの方はまた荒れ始めた。
「だぁぁぁぁぁぁ!!止めろ!!ハンス、ハンス、ハンスと糞人間共が馴れ馴れしいわ!!━━━というかなぁ!おい、ウィズてめぇ!!あのお方との約束じゃぁ、俺達には干渉しねぇ筈だぞ!!なに人間共と交ざって仲良くコールしてやがる!!氷の魔女様が随分とひよったなぁぁあ!?」
「やっ、やめて下さい!皆さんも見てますし、その話はまた今度ということに・・・・」
「うるせぇ!!こちとらてめぇのせいで名前までバレてんだよ!!計画もおじゃんだ、ぼけぇ!!てめぇに分かるか!!俺はぁ、これからこの腹立たしい糞信者共に、ことある事に名前を呼ばれる羽目になんだぞ!!その気持ちが分かるか!!分からねぇだろうなぁ!!くそっ、やっとっ!この糞共を殺せる下準備が出来たってのによ!!くそ、くそ!腹立たしいぃ!腹立たしいなぁ!!」
「「「「「ハンス!ハンス!ハンス!」」」」」
「無意味に呼ぶんじゃねぇ!!糞共!!なんのハンスコールだ!!止めろ!!鬱陶しい!!やめろ、本気で止めろぉぉぉぉ!!つーか、今の話聞いてたろ!なんでまだ入信させる気満々なんだよ!!お前らのそういう所が、俺は本当に嫌いだ!!常識的に考えろよてめぇら!!」
うわぁ・・・・・。
あまりの惨状に目を逸らすと丁度カズマと目が合った。
何とも言えない視線に気持ちを察する。
大体俺と一緒か、と。
「で、まぁ、カナデどうする・・・?」
「どうするって・・・・いや、それはリーダーが決めろよ」
「頼られるのは悪い気はしないんだけどな。こういう時のはズルいだろ。お前」
「なんだよ。じゃ、めぐみんで爆裂するか?」
そう言って隣の魔法使い方へ視線をやれば、鼻息荒く「爆裂ですね!」とやる気満々に瞳を赤く光らせる。バッチリスタンバってたみたい。カズマは「ステイ、めぐみん」と言いながら、振り翳されようとするめぐみんの杖を腕力を持って止める。
「な、何をするのですかカズマ!!先程チラッと魔王軍の幹部だとウィズが教えてくれましたし、爆裂しても何も問題ないじゃないですか!!」
「ええぃ、喧しい!何だってうちの連中は基本血の気が多いんだ!あの様子からすると敵なのは間違いないし、吹き飛ばすのは俺も賛成だが・・・お前、位置を考えろ。源泉まで吹き飛ばすつもりか!それにアクシズ教徒の人達もいる!少しは考えろ爆裂馬鹿!」
「あっ・・・・・」
爆裂魔法の攻撃範囲を考えると、カズマの言う通り確かに今のハンスの位置は悪い。直撃はせずとも何かしら影響を与えてしまう距離だ。源泉の事もあるし、温泉を麓に運ぶ設備もあるし、うろちょろしてるアクシズ教徒もいるし・・・ここで爆裂魔法を使う場合は損害無しには考えられないだろう。敵は倒せるかも知れないけど、失う物が多すぎる。━━━まぁ、個人的には源泉はともかく、どっちも吹き飛ばしてしまえば良いと思うが。
「・・・・それで、どうやって引き離すつもりだ」
「分かってる、ちょっと考えさせろ」
「それなら、取り敢えずは時間稼ぎでもしとくか?」
「いや、これ以上弄るな。下手に刺激して暴れられても困る。寧ろ、あの全力で煽ってる馬鹿達を止めるの手伝ってくれ。ダクネスは何かあった時、直ぐ対処出来るよう前の方で待機。めぐみんは辺りに爆裂魔法撃てそうな場所を探して━━━━━」
カズマが皆への指令を言い終わる、その時だった。
身も凍るような冷気が頬を撫でていったのは。
ゾクリと背中を震わせながらそこへと視線を向けると、いつもホンワカしてる貧乏店主が殺気と冷気を漂わせながら片腕を失ったハンスと相対していた。先程までの旧友との再会に気を抜いた、何処か間の抜けた雰囲気はない。
「っっ!て、てめぇ!ウィズ!約束はどうしたぁ!いきなりぶちかましやがって!!」
「約束を破ったのはそっちです。ハンスさん。私は確かに貴方がたのやる事に関わらないと言いました。けれどそれは、冒険者や戦う事に身をおいた方々への対処についてです。モンスターを倒す事、誰かを倒す事を生業とする者ならば、当然その牙や爪に、剣や魔法に、命を刈り取られる覚悟をするべきです。それが力を振るう者達が背負うモノだから━━━━━ですが、貴方の食べたという温泉を管理していた方は、何の関係もないじゃないですか!!」
怒号を飛ばし、貧乏店主が掌を前へと翳す。
漂っていた周囲の冷気がうねりをあげながら翳された掌へと収束していく。
「『カースド・クリスタルプリズン』ッッッ!!」
再びの怒号と共に貧乏店主の掌から銀の光がハンスへと飛ぶ。それは地面を凍らせ風を巻き起こしながら、悲鳴のようなけたたましい風切り音をついでに連れて。
「っちぃ!!」
咄嗟に横に飛び退きハンスはこれを回避する。
だが、反応が少しだけ遅かった。直撃こそしなかったものの、腕を失った側の半身が巨大な氷柱の中へと閉じ込められる。魔法で凍らされるのがどういう状態なのかわからないが、見たままに凍結されているのだとすれば、この時点で死んでないハンスは普通の人間ではないのだろう。・・・・身近に人類の耐久値を容易く凌駕する変態騎士がいるから断言は出来ないけど━━━━というか、ダクネスって人間で良いのか?ダクネスこそ人間ではないんじゃ・・・いや、人間か。いや、人間か?ん?
「━━━流石に俺様も、この貧弱な体のままじゃぁ、氷の魔女様の相手は難しいな」
そんな呟きと共にハンスが凍結された体を切り離す。
これは流石にダクネスも出来ない。良かった、うちのダクネスはちゃんと人間らしい。
「スライムはスライムらしく・・・・本能のまま、喰らうとしよう」
どろっ、とハンスの体が溶けるように崩れる。
そして人の面影など欠片も残っていない、体に良く無さそうな少し濁った紫色のドロドロした何かに変わった。
ただそのドロドロの何かはどうやって人間サイズに収めていたのかと不思議に思うほど大きく、目算で高さは十メートル以上・幅もその倍程あり巨体の一言に尽きる存在だった。その威圧感たるや「スライムだけど、俺の知ってるスライムじゃない!!絶対ヤバいやつだろこれ!!」とカズマが嘆くほどだ。
アクシズ教徒は突然の事にプチパニック。貧乏店主は見事に騒ぎに巻き込まれて揉みくちゃ。
水色は一応信者達を守ろうとしてるのか、皆の前で膝を生まれたての小鹿のように震わせながらファイティングポーズ。
ダクネスはダッシュして水色の加勢に向かった。
若干顔を赤らめてなく、鼻息が静かだったら格好良かっただろうな。本当、あいつは何処までいっても残念騎士だな。役割的にはいつも重要な所にいるのに。
「━━━━かぁぁぁぁ!!ウィズは違うと思ってたのにぃぃぃぃ!くそっ、めぐみん!さっき言った事覚えてるな!!爆裂魔法をぶち込んでも問題ない場所探せ!あとはいつでも撃てる準備!!何とか誘導する!!」
「分かりました!!来る途中で色々見てましたからね。よさげな場所に心当たりはあります!合図は何ですれば良いですか?」
「これ使え。発煙筒っていってな、使うと直ぐ煙が昇る。使い方は横に書いてあるから━━━━待てこら!行く前にスライムについて教えろ!どうも俺が知ってるやつと違い過ぎる」
「スライムですか?良いですが・・・そんなに詳しくないですよ?それにあれは普通の物では、いえ、兎に角スライムはですね━━━━」
めぐみんにより一通りスライムの説明が終わると、カズマは頭を捻りうめき声をあげる。思ってたのと大分違うらしい。まぁ、物理ほぼ無効で魔法耐性まであり、一度取り付かれたら消化されるか、口を塞がれて即死ときたら、うめき声の一つもあげたくなるだろうけどな。
めぐみんはと言えば説明が終わると同時にカズマから手渡された発煙筒を手に、歓喜の声をあげ杖を振り回しながら駆け出していった。本当に目星をつけていた場所があったのか進む方向に迷いはない。移動中妙にキョロキョロしてると思ったら・・・あいつ。
「それで、カナデ。お前には悪いけど、一番危ない所頼むぞ。お前がこの中で・・・一番速く動けるからな」
「あいよ。寧ろ、簡単な役押し付けてきたら、ぐぅでひっぱたいてやった所だ。任せとけ」
「せめて内容聞いてから返事しろよ・・・ったく。でもお前あれだからな!俺が退けって言ったら絶対退けよ!良いな!バーサーカー!」
「誰がバーサーカーだ。誰が」
マントから手を離し、俺も武器を手に握る。
カズマに手入れして貰っていたグリップは新調したての時のようにしっかり手に馴染む。これなら振り回しててすっぽ抜ける事はまず無いだろう。
「兎に角、アクシズ教徒の避難が先だ!あいつらいると何も出来ない!俺が避難させてる間━━━━なんとか時間稼いでくれ!物理攻撃の効果が薄い以上倒すことは考えなくていい!兎に角回避に集中してくれ!その間に、俺はあの化け物倒す方法を考える!!危なくなったら、合図がなくてもトンズラしろよ!!いいな!!」
カズマの声を背中で受けながら、俺もまた駆け出した。
自分の役割を果たす為に。