この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
「カナデぇ!!そのまま後方に跳べっ!!」
触手の波状攻撃を死ぬ気で払ってると、うちの参謀にしてリーダーの怒鳴り声が響いてきた。声に従って後方に向け全力で飛び退けば、背の前に迫っていた触手が数発の矢で撃ち落とされる。体力がギリだったので援護は素直に嬉しい。とはいっても撃ち落とされたのはスライムという不定形生物の一部。所詮はどうなっても痛くない体積の欠片。私が触手を切り払い続けても大した効果が無かったように、攻撃の手は弛む事はないと━━━━そう思っていたのだが、矢を受けた触手は何故か動きが鈍い。
「今の内に安全圏まで退け!!」
続けて掛けられた言葉に俺はスライムの様子を窺いながら警戒をしつつ下がった。追撃はなかった。それにやはりスライムの動きが鈍い気がする。
そうして様子を見ながら下がっていくと、視界の中スライムの足元に落ちた矢が見えた。よくよくそれを見てみれば矢の先端に何か刺さってる。
スライムは大きな体をモゾモゾ動かして近づき、そのまま矢に触れて体内へと取り込む。そして矢じりだけを美味しくないと言わんばかりにペッと吐き出した。
あれって・・・・まさか、饅頭?
「よし、お疲れ!代わるぜ!!」
俺と入れ代わるように軽装に身を包んだ冒険者が攻撃範囲に足を踏み込んでいった。盾を使い触手を逸らし、身を翻し触手をかわし敵の視線を集めていく。饅頭矢の援護もあって攻撃をかわす余裕が見てとれる。
そのまま安全圏までたどり着くと、同じような軽装に身を包んだ冒険者達が待ち構えていた。
「おしっ、よく耐えた!すげぇよ、姐さん!」
「回復役後ろにいるから癒して貰ってきな。作戦についてその人が知ってるから聞いてくるのも忘れずに」
「あっ、おい、あの野郎もうへばってやがる!交代してくるわ!!」
慌ただしい冒険者達に押されるように下がっていくと、女性ヒーラーが杖を構えて待っていた。
「怪我はありませんか?気分が悪いとかは?」
「特には・・・・少し疲れたくらいかな」
「では体力回復を優先させて貰います」
ヒーラーが呪文を口にすると体が光り、怠さが少しだけ消えていった。全快とはいかなくても、もう少しは頑張れそう。
「それでは作戦についてなのですが、指定ポイントまで敵の誘導です。ポイントには弓士を立たせていますのでそれを目印にお願いします。先程のメンバーと交代で当たって貰いますので、いま暫くはお休み下さい。敵の捕捉距離については貴女自身が理解しているでしょうからその説明は省きますが・・・何か質問はありますか?」
「特にはなし。回復ありがと」
「いえ、この程度。先程は━━━━」
「━━━━よぉし、無事釣れた!!アクシズ教徒の皆ァ、配置ついたか!!始めるぞ、ごらぁ!!」
ヒーラーの声を遮るように、若干自棄っぱちなカズマの声が耳に響いた。振り向くと少し遠くの位置に弓を手にしたカズマが見える。狂信者達からは歓声のような返事が返っている。伝わってくるのは危機感よりお祭り感。割りとギリギリのやり取りしてたこっちとしては少し腹立つが、文句を言うのは後にしよう。休むのが先決だ。
「第一投射、撃て!!」
その合図と共に白い塊が空を飛ぶ。
そうしてボトボトとスライムの側に落ちたのはやはり饅頭であった。温泉マークの入った饅頭であった。
しかし間抜けな感じのそれの効果は絶大で、スライムはズリズリ饅頭の方へと進んでいく。
「第二投射用意━━━━━」
スライムが饅頭を全部飲み込む。
何も無くなると再び獲物を求め一番近い冒険者の方へ向くが、すかさず饅頭付きの矢が飛んできてスライムは釣られるようにその方向へ触手を伸ばす。
「━━━━撃て!」
再びの声に明らかに不自然な岩影から饅頭が投射される。スライムは饅頭に釣られてまたズリズリとその方向へ進み、時にはその巨体で踏み潰すように、時には触手で救い上げて体の中へと沈めていく。
「もう一度投射したら移動!!先のポイントで待機!!アクシズ教の神官達はあれが第一ポイントを通過した時点でアクアの援護に回ってくれ!!頼む!!」
カズマの声にアクシズ教の神官達が声をあげる。
「盾持ち護衛班はダクネスの指示で饅頭班を守れ!!攻撃範囲から外れていても油断するな!!飛沫一つで人が死ぬぞ!!耐性あげて盾になれ!!誘導班の冒険者はギリギリまで引き付けながら移動!!距離の見極め間違えるな!!」
カズマの声に冒険者達の太い声が返る。
「弓班は引き続き俺に続け!!触手一本好きにさせるな!!こっちの饅頭に釘付けにさせろ!!補充班は饅頭矢と魔力管理怠るな!!」
カズマの声に離れた位置で弓を構える連中からパシパシと光の合図が飛ぶ。
それを確認したカズマは饅頭付きの矢をつがえる。
「第三投射ァ!!用意ッッッッ━━━━━━」
カズマの声が上がる度、人の群れが動いてく。
自らの手足を動かしてるが如く自在に。
その一挙一動で。
「━━━━━投射ァ!!」
カズマの声で再び白い塊が宙を飛ぶ。
一斉に空を駆けるそれは流星群の如く。
そこへ白い軌跡を描いていく。
遠くから見ると、知らないやつから見ると、これはきっと間抜けな絵面だ。何せ魔王軍幹部を倒そうというのに、温泉饅頭投げている訳なのだから。笑われても仕方ない。
必死の形相で饅頭を投げる人達も。怒号あげながら盾を掲げる戦士達も。真剣な顔で水色に駆けつける神官達も。無心で弓に奇妙なおまけ付きの矢をつがえる弓士達も━━━きっと、それを指揮してるカズマも。
どれだけ真剣にやっててもお間抜けに映ると思う。
けれど、俺の胸の中に沸き上がったのは違った。
そんな連中を揶揄するものでは無かった。
思ったのはたった一つ、それだけだった。
うちの彼氏、めちゃカッコいいんですけど。
である。
◇◇◇
カナデの奮戦の結果、俺が考え付いた作戦の内容は至ってシンプルだった。餌を目の前にちらつかせて誘導し、安全な場所でめぐみんの爆裂魔法を使いぶっ潰す。
それだけ。
だがこれには問題があった。
誘導しようにも温泉を優先するうちのアホ女神が、敵からの最優先タゲを取り続けている事である。
カナデがその身を持って証明した通り、敵の攻撃は常に最も近くの生物もしくは消化しやすい食べ物に集中する。その上、狙った獲物の大きさによって、ある程度優先度を変える性質があるみたいなのだ。饅頭は積極的に触手で取り込み、カナデには体を進ませたのが良い証拠だ。
今はカナデがギリギリの距離で戦っている為アクアに矛先が向いてないが、もしカナデがアクアより離れた位置に下がった場合はその瞬間標的はアクアに戻ってしまうだろう。饅頭で多少気はまぎらわせても、やはり一番の狙いはアクアのままだ。
カナデにギリギリの距離を保ちつつ誘導出来る余裕があれば良いが、現状の様子を見てる限りそれも難しい。アクアから完全に引き剥がす頃にはスライムにやられる可能性が高い。
ぶっちゃけ、アクアさえ逃げる気になってくれれば、何とかなるのだ。あのデカイ図体の方はともかく、触手は獲物を取り込むと消化の為か動き鈍くなる。その特性を上手く利用すれば逃走については余裕で援護出来るし、アクアさえいなければ饅頭だけで誘導も出来る。饅頭様々である。
まぁ、尤も、あの馬鹿がその気にならないから問題なのだが。・・・仮にも女神であるアクアが本気で居座ると決めた以上、やることをやりきるまで自主的に動く可能性はない。俺が誘導しようとしても嫌だの一点張り。筋肉の塊であるダクネスですら物理的に動かすのは無理だった。
それで思いついたのが、これだった。
「━━━━━投射ァ!!」
饅頭と人による誘導作戦。
軽装の冒険者と少量の饅頭を餌に注意を向けさせ、アクシズ教徒達と大量の饅頭で一気に標的を切り換えさせる。
アクシズ教徒達に触手を防ぐ術はない。その為アクシズ教徒達はかなり距離を取る必要があり、その距離はスライムの標的に選ばれない距離。
だが、だがだ、意味がない訳ではない。確かにスライムはある一定距離まで近づかなければ攻撃目標を変えることはないが━━━それでも大量の獲物を知覚してないわけではないのだ。あれはどうやってか、獲物をかなり広範囲で感知している。
先にいったようにアレはあくまで近くの獲物を優先するが、それがなくなれば知覚範囲内で最も近く、より多くの獲物がいる場所へ向かう。そしてそれは同じ距離であれば、狙うのはたった一人でいるアクアではない。狙うのは大量の食料を手にしたアクシズ教徒達だ━━━━━。
「っしやぁぁぁぁぁぁ!!やってやったぞ、この野郎!!」
目標位置に投げ込まれた饅頭と誘導を任せていた冒険者達を追って、スライムがやっとアクアから予定位置まで移動してきた。アクアが安全圏に入った事を確認した神官達が一斉に駆けていく。
その様子を見てた饅頭投射班であるアクシズ教徒達が、魔法で用意した岩の影から歓声をあげた。喜んでる場合か!直ぐその場から逃げろ!という言葉が喉から飛び出しそうになったが、俺はそれを何とか飲み込む。もっと面倒になる事が目に見えてる。無心で計画を進めるが吉。よし。あそこにはエリス教徒の隊長もいるし、大丈夫だろ。多分。
「━━━誘導班は安全圏まで退避!!誘導は饅頭に切り換える!!敵がルートを外れるまで体力温存!!距離は維持したまま回復に専念してくれ!!ルートに変化があった場合は直ぐルート修正出来るよう準備だけは頼む」
指示を飛ばせば誘導班のカナデ達が手を振り上げ応える。体力にまだ余裕はありそうだ。
「饅頭班は避難場所まで進め!!!最後まで護衛頼むぞ護衛班!弓班!!ここからが本番だぞ!!等間隔に撃ち込んでけ!!球数は限られてるからな!!無駄撃ちするなよ!!」
矢に饅頭を突き刺し、フリーズで固定。
狙いを定めて引き絞った弦から指を放す。
甲高い音と共に飛び去っていく矢は饅頭の空気抵抗で若干逸れてしまうが、それでも狙った場所付近へ落ちる。それに続いてその矢の周囲へ数本な饅頭矢が落ち、少し離れた所にも饅頭矢が降り注ぐ。
大量に投射した饅頭を飲み込んだスライムは、アクアの方には目もくれず饅頭矢を追って尚も前進。触手で饅頭矢を飲み込みながら、巨体は徐々に狙った方向へと近づいていく。動きに乱れが出る時もあるが、饅頭矢の掃射だけで方向の修正が出来ている。誘導班の損耗も未だにない。順調といっていい。
「カズマさん!!こっちはもう大丈夫だ!!あんた他の仕事あるだろ!!そっち行ってくれ!!」
敵の進行方向を確認してると弓班の一人が駆け込んできた。俺の隣に立つと矢を構える。構えたんだが、その矢の先端部分が目に入った。
「なにそれ」
「オレの非常食。ハンター様謹製の手作り干し肉だ」
「饅頭切れたのかよ」
「元からギリギリだったからな。こっからは全員の手持ちかき集めた食べ掛けもんばっかりだ。お口に合うと良いんだけど━━━━っな!!」
ギュンと飛んだ干し肉付きの矢は風にあおられルートから少しずれた所に落ちる。触手は追い掛けていくが、進行ルートにズレは然程ないようだ。
「もう少し近づかんと駄目かもな。まっ、こっちは引き継いでおく。弓班の指示だし程度なら任せてくれ。必ずポイントまで移動させる。あんたは止め頼むぜ。あの紅魔族はあんたじゃないと手綱とれん」
「あぁーーーー分かった、頼む」
その場に残りの矢を置いて、最後のポイントで準備しているであろうめぐみんの元に向かう。走り出して数分。辿り着いた最終ポイントにて、膨大な魔力の渦の中で目を爛々と輝かせているめぐみんを発見した。
そしてその直ぐ側にはウィズと護衛として送り込んだ連中がぐったりしてる。果てしなく嫌な予感がする。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!これはキテます!!さいっこうにキテます!!これ程までに魔力が上手く練り上がったのは久しぶりです!!これは、これは、間違いなく最高の爆裂魔法になりますよ!!ふへへへへへへへへ!!!!」
「気持ち悪い笑い声をあげるな!!魔女か!!あっ、魔女だった。つーか、ウィズどうした!!」
「ん!その声はカズマ!!魔力と風が凄くて全然見えませんが・・・・我の強大さを嗅ぎ付けて見に来たのは分かります!見てください!!この洗練された魔力を!!凄いのが撃てます!!これ、ヤヴァイです!絶対ヤヴァイのが撃てますよ!!」
1日爆裂魔法をお預けにされた影響かどうかは分からないが完全にテンションが振り切れてる。恐ろしいくらいにぶっぱなす事しか考えてない。普段のなんやかんやキレるめぐみんは何処に。
そして目の前にあるめぐみんの魔力は異常の一言に尽きた。伊達に爆裂散歩してた訳じゃない。成功するなら、恐らく過去最高の威力になるだろうことは容易に想像がつく。勿論、成功すれば、だが。
「おい、大丈夫なのか!?これ、大丈夫なの!?」
「分かりません!!こんなの撃った事ありませんからぁ!!ウィズに協力して貰って、控えてた冒険者達から魔力をちびっとずつ借りたら、なんか、凄い事に!!あっ、いえ、これも全部我の才能あってのことですが!!独力です!!」
「なんの見栄なんだよ!?てか、それが原因か!!」
不意に魔力の渦が歪に歪む。
その様子に冷や汗が吹き上がる。
嫌な予感しかしねぇ!!
「あぁぁぁっん、駄目です!も、もう限界です!!撃ちたい!!何でも良いから撃ちたい!!この圧倒的魔力で、眼前にある一切を灰塵と化したい!!」
「まてまてまてまて!!!誘導班が避難してからだ!!安全確認と、敵の誘導が完了してから!!我慢しろ馬鹿!!やれば出来る子だろ、めぐみん!頑張れ頑張れ!」
「あぁん♡!らめぇ♡!出ちゃいますぅ♡!」
「変な声出さないで貰えますぅ!?」
魔力の渦がまた不穏に触れたその時。
遠くから光の合図がきた。
視線を目標地点に向ければ、崖に覆われたそこで巨大なスライムが餌を求めて蠢いている。
「よし、めぐみん!!合図がきた!!やっちまえ!!」
「了解しましたぁ!!!やっちまいますよぉ!!」
めぐみんは元気に応えると杖を高く翳した。
『哀れな獣よ』
渦を描いていた魔力がうねりながら空に飛んでいく。
『紅き黒炎と同調し』
空に打ち上げられた魔力が鮮烈な赤を放つ。
『血潮となりて償いたまえ!』
幾十もの魔法陣が重なるように浮かび上がり。
『穿て!エクスプロージョン!』
その叫びと共に光りが墜ちてきた。
太陽の如く激しく燃える、灼熱と呼ぶにはあまりに生易しい━━━━最強と呼ぶに相応しい一撃が。
「・・・・・・おい、おい、おいおいおいおい!!威力強すぎだろ!!アホなの!?ねぇ、お前、限度とかあるだろ!!こっちまで余波来るぞ!?おぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「━━━━はふっ、わたしは、もう、やりきりました。かりにこれがらすと爆裂でも、くいはありません。まんぞくです。かずま・・・ないす、爆裂」
「ナイス、爆裂━━━━━じゃねぇからぁ!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ━━━━━━━ふべぇっ」
戦いに疲れたので、多分つぎはエロ回( ´∀`)
多分エロ回( ´∀`)
ていうか、エロ回書かせてよ(切実)。