この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
新年あけまして、おめでとうなのである。
「━━━━では以上を持ちまして、アルカンレティアの温泉の問題に対する本件について和解成立とします。代表者はお手元の契約書を確認して頂き、契約書に誤りや内容に異論がなければ同意を示すサインをお願い致します」
息が詰まりそうな室内で静かにカズマが書類を確認する。隣から見てると、紙を手にし余裕たっぷりに眺めるカズマの姿は中々様になって気がした。素直に格好いい。好き。まぁそれも、彼女としての欲目かも知れないが・・・彼女、彼女かぁ。ふふ。彼女・・・ふふっ。ムラムラしちゃうなぁ。もぅ。
重く静かな雰囲気とは対象的に、カズマの事を考えてると思わず頬が緩んでしまう。
するとそんな俺を見て、カズマが真剣な表情を浮かべながら顔を寄せてきた。
「カナデ、この書類、書き方回りくどくて全然分からん。大丈夫?」
・・・・お前、何を真剣に見てたんだ。おい。
百年の恋も冷める気がしたが・・・まぁ、それがカズマだしな。そんなカズマが好きな訳だし。ていうか、そこまで完璧になられると、それはそれでちょっと違う気がするしな。うんうん━━━━めぐみん、水色、ダクネス、そんな目で見ないの。顔を立てろ。今は。止めなさい。
色々言いたい事を飲み込んで、俺は書類を確認した。
特別おかしな所もなく問題ないように思えたので、問題がない事を伝えればキリッとした顔でサインする。
テーブルを挟んだ対面に座るアルカンレティア温泉管理組合の面々の中には若干渋い顔の奴等がいるものの、俺がにっこりと笑顔を見せつければ額に汗を流しながらサインしてくれた。物わかりが良くて宜しい
お互いがサインした書類を仲介者であるギルド職員に渡す。ギルド職員は書類を確認したのち、魔法で印をつけて立派な筒の中へとそれをしまい込んだ。
これで今回の水色のやらかしは帳消しだ。
水色を回収した翌日。
帰る前にお土産を買っていた俺達は、この街のギルド職員に足を止められた。理由を聞けば水色がやった事に対して、この街の温泉を管理してる団体から猛抗議がきたそうだ。そして抗議だけならまだしも、水色が温泉の件で発生した損失を補填しなければ、警察に被害届を出すとも。帰りの旅は急遽中止。その日から告発者である温泉組合の連中と話し合いをする事になった。
温泉組合の要求額は法外とは言えずともかなりの大金。今後の宿の経営を考えたら寧ろ安いくらいのものではある。良心的といえば良心的。
ただ、それでも個人が払うには高過ぎる額。こっちとしても簡単に頷く訳にはいかない。
なので話し合いは数日に渡った。当然お泊まり延長。流石にこれまでの宿は高かったので、冒険者ギルドが紹介してくれた安宿に変えたが・・・・え?その間?そりゃ、やることやったよ。当たり前だろ。そこに温泉があって男女がいたら、そりゃやるよ。隙を見つけて盛りのついた猫が如くやったわ。良かったよ、凄く良かった。
そんな夕べはお楽しみでしたね状態な俺達と温泉組合の話し合いは難航した。何せどちらも譲れる余裕がない。温泉組合も引かない。こちらも引かない。
お互いの妥協点を探り、探り、探━━━━━らせて手に入れた情報を元に温泉組合と楽しいOHANASIAIをし、今回の魔王軍幹部の懸賞金全額を補填にする事で黙らせた。ついでに水色が起こした問題の一切を不問とし、今後この件について追及しない事を約束させたりした。
あっ、宿代は冒険者ギルドに払わせた。彼らの都合で止めた訳だからね。勿論だよね。いやー、やっぱり話し合いが出来るって素晴らしいなぁ。
水色は最後までゴチャゴチャ言ってたが、頑張ったご褒美に高いお酒を買ってあげる事、屋敷に帰ったら好きな酒の肴を作る事を約束したら満面の笑みでOKサインを返してきた。水色の人生は本当に楽しそう。
話し合いも終わり、この後どうしようかなぁーとか、隙があれば最後にデートとかしたいなぁーとか考えながらウキウキしつつギルド館を出た所で「あーーー!!」と女の子の声が聞こえてきた。また面倒事かと視線をそこへと向ければ見たことある女の子がそこにいた。
胸元が大きく開いた服を着た、赤い瞳を煌めかせる巨乳の魔法使い。めぐみんの友人である『ゆんゆん』である。
「もうっ、めぐみんったら!何にも言わないんだから!旅行に行くなら行くって、一言くらい教えてくれても良いじゃない!!」
プリプリと怒るゆんゆん。
俺の隣にいるめぐみんは冷たい眼差しを送る。
相も変わらず素直じゃないな、どっちも。
「それで追い掛けてきたのですか?暇ですね」
「おっ、追い掛けてなんてないわよ!これには━━」
「どうせ私達が出掛けてる間、何度も屋敷にやってきたのでしょう。冬も終わりとはいえ、まだまだ仕事は少ない筈ですからね。ぼっちで出来る依頼なんてたかが知れてますし」
めぐみんの指摘が図星だったのか、ゆんゆんが思い切りたじろぐ。その様子にめぐみんが頬をつり上げる。いじめっ子の顔だ。
「まったく、ぼっちは困ったものですね。拗らせるとこんな事をするようになるとは・・・はぁ、一応友人である身として悲しい限りですよ。待つくらい出来ないものですかね。今更来ても、私達も帰る所ですよ。いつになった━━━」
楽しげにゆんゆんを虐めるめぐみんを見てると、カズマが呆れたように溜息をついた。ダクネスは困ったように笑い、水色はお帰りムードなのかもう露店へスキップしてった。あいつは駄目だな。
「何だってこいつらは会う度に喧嘩するんだ。まったく。喧嘩するほどナントカっていうが、もう少し静かに再会出来ないのか?」
「まぁ、人には人の付き合い方があるからなぁ。それに喧嘩といってもただのじゃれ合いだし、大目に見てやれよ。可愛いもんだ。・・・・女同士のガチ喧嘩とかこんなじゃ済まないぞ。俺が働いてたギルドも━━━」
「止めて、怖い。裏のお話しないで。ギルド行けなくなるから」
そんなに怖い話でもないのに止められてしまった。
カズマが嫌なら聞かせないけど・・・・そんなに怖い話でも無いんだけどな。ただ、男を取り合って散々陰湿な嫌がらせの応酬を交わした後、裏口で血みどろの殴り合いしてただけで。端から見てると普通に面白かったんだけどなぁ。結局その二人も仲直りして、この間バイトいったら一緒に仕事してたし。何故か男は捨てられてたけども。
「だっ、だって!予定が過ぎても全然帰って来なかったじゃない!」
「━━━ひゅっ!?」
不意にあがった大声に思わず肩が跳ねる。
それはゆんゆんの側にいためぐみんも同じで、こっちにいる二人も同様だ。水色?水色は既に露店で試食の饅頭食べてるよ。なんて幸せそうな顔するんだ、あいつ。こんな何か面倒な事が起きそうな時に、あいつ(怒)。
そうこうしてる内にゆんゆんが涙目で反撃を始めた。
何日か屋敷に顔を出しにきたらしいが俺達が一向に帰ってくる気配がなく、仕事先で何かあったのかと心配してギルドに確認しにいったらしい。すると温泉旅行にいってる事が分かり一先ず安心したものの、今度は帰ってくる予定日になっても一向に帰ってこない。
不安になってギルドに確認しにいけば、魔王軍幹部を討伐した件で揉めてるらしいと聞き、デストロイヤーの時のような事になってるかも知れないと━━━━━心配で様子を見にきたそうだ。
涙目で必死に訴えてくるゆんゆんの姿に今度はめぐみんが狼狽えてた。基本、ド直球に弱いめぐみん。ストレートに「心配して」と言われてから、すっかり赤く染まった顔であわあわする姿は年相応で可愛いの一言である。
「なんか話長くなりそうだし、露店で何か買ってくるか?」
「露店か・・・・さっきアクアが食べてた饅頭気になってたんだよなぁ」
「じゃぁそれ買ってくるか。ダクネスは?」
二人を眺めていたダクネスへと視線を向ければ、ダクネスは顎に手をやって考え始めた。
「確かに美味しそうに食べてたな。しかし、食べ歩きというのは少々頂けないのだが・・・・いや、まぁ、郷にいっては郷に従えと古の勇者の言葉もあるしな。うん。私の分も頼めるか、カナデ」
「はいはい、じゃその間二人のこと宜しくな」
財布を手に歩き出すとカズマも着いて来た。
どうしたのかと聞いたら、元から一緒にいくつもりだったらしい。別に断る理由もないので二人の事をダクネスに任せ、俺達は一緒に露店へと向かった。
「手繋いだりする?」
「・・・・後でな」
「ふふふっ、おう。後でなぁ」
露店で買った肉饅頭を堪能して少し。
皆でお土産の話をしながら紅魔族ズを生暖かい目で見守ってると、お昼少し過ぎた頃にめぐみんがトボトボ戻ってきた。顔の赤みは薄くなってたが、なんかちょっとげっそりしてる。敗者の顔だな。
さっと肉饅頭を出してやれば迷う素振りもなく両手で掴みあげ、そのままハムハムと食べ始めた。
「━━━━ゆんゆんも食べるか?」
「えっ・・・い、良いんですか?その、あの、あっ、後で、対価に、大金を要求してきたり、悪魔と契約させたりとかは」
「しないしない、何処の悪徳業者だ。仮に私が悪徳業者でも友人はカモにはしないから安心しろ」
「ゆっ、ゆぅ、友人・・・・!」
「友人以外はカモにするのか」
「カズマ、しゃらっぷ」
袋からもう一個取り出して渡してやれば、ゆんゆんは目の端に涙を滲ませながら肉饅頭を━━━━━ポシェットにしまおうとしてたので止めた。食べなさい。とっておかなくて良いから。記念ってなんの記念だ。止めなさい、止めろ。出来るだけ保存しなくていい、食べろって言ってんだ。
無理矢理ゆんゆんの口の中へ肉饅頭を押し込んだ後、捨てられた子犬みたいな顔をされたので「一緒に露店見て回るか?」と聞けば首をコクコク頷かせた・・・・が、直ぐに何かを思い出して首を横に振る。忙しい子だ。
「そうなの、めぐみん!私ここに来たのはめぐみんの事もあったんだけど、もう一つ事情があって・・・・ちょっと待ってて!えっと、あっ、あった!」
そう慌ただしく差し出されたのは一枚の手紙だった。
不思議そうな顔をしためぐみんがそれを受け取り読み始めると、何とも言えない顔をする。
「・・・・色々と言いたい事はありますが、何処まで信じていますか?まず、間違いなく何も起きてませんよ」
「わっ、分からないじゃない!こんな手紙一度も貰ったこと無かったのよ!予言の事もあるし、もしかしたら魔王軍に・・・」
「あり得ませんね。魔王軍に簡単に負ける事もあり得ませんし、何より魔王軍に蹂躙されるくらいなら手紙なんて悠長な物は用意せず、皆とっくに里をトンズラしてますよ。私の所は兎も角、居場所の分かっているゆんゆんの元に誰も訪れてないのが良い証拠です。緊急事態ではないのですよ・・・・それとちらっと予言がどうとか言ってましたが、それは何の事ですか?まさか大金を払ったり、変なツボ買わされたり、おかしな契約とか結んでませんよね?」
呆れたようにめぐみんが言うとゆんゆんは涙目になり「もう良いわよ!めぐみんの馬鹿!」とこっちに駆け寄ってきた。めぐみんみたいに飛び込んでくるかな?と身構えていたが、ゆんゆんはカズマの前で足を止めた。
むっ?と思ってると、ゆんゆんが決意に満ちた顔で口を開いた。
「すっ、すみません!あの、私っ、カズマさんにお願いがあるんです!も、もしかしたら、必要じゃなくなるかも知れないんですけど、でも、もしそうだったら、カズマさんにして欲しい事があって・・・!」
ゆんゆんの大声に目を白黒させながら「えっ、なに?」と少し怯えながらカズマが返した。
すると、ゆんゆんは顔を赤らめながら続けた。
「私、カズマさんの子供が欲しい!!」
「・・・・・カズマ?」
「待て待て待て待て待て待て待て待て!なんだその疑いの眼差しは!!違うから!!違うよ!?違うんだよ!!本当に身に覚えがないから!!無いんだよ!?」
「わっ、私!カズマさんの、子供が━━━━」
「やっ、やめろぉぉぉぉぉ!!なんで繰り返そうとしてんの!?馬鹿なの!?一旦止めろ!本当に止めろ!ちょっと、カナデと話をつけてくるから、待ってろ!いいな、待っててこの野郎!!」