この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
紅魔の里を目指して街道を進むこと丸一日。
夜の帳が降りた頃、俺達は初日の行進を終え、街道から少し離れた草原の片隅で野営の準備を始めていた。
と言っても焚き火もしなければ、シェルターも作らないので寝床となる場所から邪魔な岩やら何やらをどかし、レジャーシートのような敷物をしいて、貧乏店主の所で買ったアンデッド避けのお香を焚くだけだが。
本来なら獣避けに焚き火をするのだが今回それはない。
事前にギルドから聞いた話でここら辺りに棲息しているモンスターの多くが火をあまり恐れず、寧ろ火に興味を示す種が多い事を聞いていたからだ。
加えて近隣には魔王軍が駐留していると思われる為、より一層夜間での焚き火などという目立つ事をする訳にはいかない。モンスターの獰猛さも魔王軍の精強さも、基本的にアクセルの街でのんびり冒険者生活してる俺達には手に余るものだ。会わないならそれが一番。
モンスターの徘徊する場所での野営となれば当然見張りを立てる必要がある。話し合いの結果、六人もいるので二人一組に分かれ、三組で二時間ずつの見張り交代となった。組分け内容はカズマとゆんゆん、めぐみんと水色、俺とダクネスといった具合だ。
組み合わせ自体には特別な意味はない。
夜間でも索敵能力のある敵感知スキル持ちのカズマと、そのカズマから敵感知スキルを教わった俺、暗闇の中でも昼間のように見通せる水色が被らないようにしたくらいだ。後はなるたけ戦力が均等になるように組んだだけで・・・・俺とダクネスが同じ組になった事に何の他意もない。
野営地を整えた後は携帯食で腹拵えしながら明日の打ち合わせ。紅魔の里までのルート、棲息するモンスターと接敵した時の対処について、魔王軍と接触した場合の対応方針、現在の体調など他にも細々と確認した。
そうした話し合いも終わり、星空も見えない闇夜の中で俺達は休息を開始した。
俺とダクネスの組は一番最後の交代なのでゆっくり休ませて貰う━━━━つもりだったのだが、現実はそう上手くいかなかった。危険地帯と呼ばれる場所での休息は予想以上に神経を使う所業だったようで、全然寝付けなかったのである。風に揺れる小さな草音一つで抱えてる武器を握る手に力が籠ってしまう。
眠れない理由は昼間に遭遇したモンスターの強さが頭に残ってるせいだろう。初心者殺し程ではなかったが、遭遇したそれは中々に強かった。ゆんゆんがいなければもっと苦戦していたのは間違いない。少なくとも魔王軍に見つかる覚悟で、めぐみんに爆裂魔法を使わせる事になっただろう。その代償は軽くはない。
しかし、この眠れない感じ懐かしいな。
借金取りに追われつつ、河川敷で眠った中学生の時を思い出す。・・・・まさか、あれがマシだったと思う日が来るとは。人生って分からない。
うちのパーティーメンバーが図太くイビキをかき始めた頃。取り敢えず目を瞑ってじっとしていれば、カズマとゆんゆんの話し声が聞こえてきた。俺達を起こさない為なのか、こそこそと二人で話してる。耳を澄ませてみれば最近のクエストがどうとか、紅魔の里の事とか、魔法の事とか、そんな世間話程度の会話が聞こえてくる。
最初はカズマに話掛けられておずおず返事を返してたゆんゆんだったけど、段々とその声に落ち着きを感じるようになっていった。ついにはカズマからだけではなく、ゆんゆんからも話題が振られ始める。
何となく、本当に何となく、二人の様子が気になってうっすら目を開けて見てみれば、地べたに座って周囲を見渡す二人の姿があった。何となく距離が近いがする。気のせいだろう。気のせいだと思う。
「・・・・・あの、カズマさん、今回はご迷惑を掛けてすみませんでした。いきなりあんな事を・・・・」
ゆんゆんの謝罪の言葉に顔を真っ赤にした姿が頭を過っていく。あんな事・・・もしかしなくても、アルカンレティアでの事だろう。人前であの発言はない。追い詰められていたとしてもない。俺ですらベッドの上でしか言ったことないのだ・・・・ないよな?あれ、あるのか?ない、ないと思う。少なくとも人前ではない。
これまでの自分の行いをあらためて振り返ってると、カズマの乾いた笑い声が聞こえてきた。そんなカズマにゆんゆんが申し訳なさげに言葉を続けていく。
「あの手紙を見た時から、私本当に焦ってしまって、手紙の内容と合致する人なんて、考えても知り合いの中ではカズマさんぐらいしか思いつかなくて・・・でも、私もやりたくなかったんです。本当なんです、でも予言だって言うから、魔王軍を倒す為に必要みたいだったから、だから仕方なく━━━━━」
「あのさ、ゆんゆん。普通に傷つくんだけど」
会話の内容を聞いて、俺は静かに寝返りを打った。
ちょっと疑ってごめんな、カズマ。
後で一杯慰めてやるから許せ。
「それでカズマ、結局アクセルの街で昨日は何をしていたのですか?」
休息が始まってから二時間後。
水色が起きなかったせいで引き続き見張りをする事になったカズマに、ゆんゆんと交代で見張りについためぐみんが威圧感たっぷりに言った。言外に逃がさないと聞こえてくる言い方だ。
そんな言葉を受けてカズマはと言えば、そっと目を草原の彼方に向け「夜の草原って、俺素敵だと思うんだ」と言い訳ですらない言葉で誤魔化そうとする。
当然めぐみんに効く訳もなく、カズマはじりじりと物理的にも詰め寄られていった。
「この際です、はっきりと吐いて下さい。カナデとはどういう関係なのでしょうか」
「━━━めぐみん、それを説明するにはゴッドウォーズ戦国時代、つまり俺が祖国にて『インしたらいるカズマさん』と呼ばれるまでの軌跡を一から説明しなくちゃならない。長く・・・・なるぞ?」
「ゴッドウォーズ戦国時代・・・なんなんですか、それは。初耳です、聞いた事ありませんよ。ですが、何だか妙に心を擽る響きですね。格好いいです。カズマはそこで━━━━━ではありませんよ!騙されませんよ!」
それから暫くめぐみんの追及は続いた。
ひやひやしながら聞いていたが、思ってた以上にカズマは口が良く回るようで、あの手この手で追及をかわし続けた。詐欺師もかくもやといった口達者ぶりに、毎回の事ながら本当になんでこいつニートやってたのかと疑問が浮かぶ。最終的にはめぐみんから「もう良いです」という言葉も引き出してみせた。
舌戦?に敗北し、すっかり不貞腐れた様子のめぐみんは、カズマの隣へようやく腰を降ろした。
「カズマといい、カナデといい、良く口が回るものです。カズマとカナデは同郷なのですよね?遠くの国だと聞いてますが・・・・皆カズマ達みたいな感じなのですか?」
「馬鹿言え、俺達なんか可愛いもんだぞ。前にも教えたように、オレオレと名乗るだけで大金をせしめる輩が━━━━いや、カナデはどうだろ。あれはちょっとアレかも知れない」
「アレかも知れないって、どれなんですか。意味が分から・・・ない事もありませんが」
どういう意味だ、お前ら。おい。
思わず出掛けたツッコミを飲み込んでいると、めぐみんな少しだけ寂しげな声を出した。
「カズマ達はその国に帰る予定とか、ありますか?」
「何だよ、藪から棒に」
「い、いえ、同郷であるなら一緒に帰郷する事もあるのかと思いまして・・・・あの事もありますし」
「どの事だよ」
モジモジするめぐみんの他所に、カズマがこっちへ顔を向けた。自惚れでなければ見られてる気がする。
それから少しこっちを眺めた後、カズマはまた周囲へと視線を向けた。
「遠い所なんだよ、本当に。それこそ帰りたくても帰れない程にさ。でもまぁ、仮に帰れたとしても今更帰るつもりはないけどな。俺は。何の未練もないっと言ったら嘘になるけど、こっちの生活にも慣れてきたし、目標も出来たしさ。・・・・あとは、ほら、商売が軌道に乗れば大金持ちだしな。今帰るのは勿体ないだろ。毎日霜降り赤カニ食べ放題だって夢じゃないぞ」
「毎日は流石にやり過ぎです。第一カナデがそんな贅沢許す訳がありません。カナデはあれで貧乏性ですからね。あれは雑草を食べてきた者の目です。私には分かります」
「どんな目だよ」
めぐみんは良い目をしてる。雑草は食べてないけど、山菜で生活した事は実際ある。
夏休み借金取りに家を追われて、一月山で暮らして時があったけど、あの時は食べられるのも大体食べたっけ。良い思い出だ。
「きっとセミの味だって知ってるはずです」
「いや、セミは食べ物じゃないだろ」
「人は飢えると、セミも食べられるんですよ。仮にも冒険者を名乗っているのですから、それくらいの覚悟してください。情けない」
「あー、急に国に帰りたくなってきたなぁ・・・・」
うへぇとカズマが溜息をつけば、クスクスとめぐみんの笑い声が聞こえてくる。視線をそこへと向ければ、めぐみんがカズマの横顔を見ながら楽しそうに肩を揺らしていた。
その姿を見てカズマが「人をからかって楽しいか?ええ?」と嫌みたっぷり言えば「楽しいですよ?」とめぐみんは返す。浮かべた笑みは本当に楽しそうだった。
「こんな時間だって楽しいです。皆とこうして冒険して、時にはピンチになったりもして、でも皆でそれを乗り越えて・・・・私は今の生活が気に入ってますから。だから、カズマ達には悪いのですが、帰れないというのは私には少し嬉しい誤算です。ずっとこのまま、皆で一緒にいられたら良いなって、思ってましたので」
少し切なさげに語られた言葉に、カズマが深く息を吐いて空を見上げた。めぐみんもそれだけ言うと口を閉じ、静寂がその場を支配する。
基本的に後ろ姿しか見えないけど、それでもカズマが動揺してる事と、これから余計な事言いそうなのは察した。今頃遠くの方を警戒するふりしながら、必死になって状況を確認してると思う。『モテ期!?』とか思ってそう。後ろめたさに負けて、チラチラこっちを見てくる辺り間違いないと思う・・・なんかバレそうだから目を閉じとこ。
不意に、肩に何かぶつかった。
小さくて固い感触。
目を閉じたせいで何かは分からない。一応敵感知スキルを発動してみたが、周囲にそういう物の気配はなかった。
じっとしてると、また何がぶつかった。
今度は腰辺りに。
ぶつかった物はさっきと同じような物だろうか。
流石に気になって瞼を薄く開くと、カズマがこっちをチラチラ見ながら小石を投げていた。・・・・・こいつ、この状況をこっちに投げるつもりか。
格好悪い事この上ないが、惚れた弱みというやつだ。
思わず漏れそうになった溜息を押し殺し、俺は欠伸をかきながら身を起こした。捨てられた子犬みたいな目で見られてしまえば、嫌とはいえない。これも惚れた弱みというやつだ。なんやかんやと体の休まらない休息だったなぁ。状況的に仕方ないけど。
「━━━━という訳でな、全然寝てないんだ。俺は」
「それは私に言われても・・・・」
カズマ達の間に割り込んでから少し。
めぐみんに膝枕しながら、俺はダクネスと見張りを始めていた。良い機会だったので、ついでにあの件の事も少し話そうと思ったのだが、膝の上にめぐみんがいる状態では流石に出来ないので真面目に見張りの役に徹しようと思う。ダクネスも空気を読んで何か言うつもりはなさそうだし。
「・・・しかし、賑やかな休息だったな」
「・・・それは私も思っていた」
「・・・起きてたのか、お前も」
「・・・寝られるような状況ではなかったからな」
そこまで話して、俺とダクネスの視線は最初から最後までイビキをかいて寝てる水色へと向いた。
俺達の目の前で水色が涎を垂らしながら『もう飲めない~』とか、定番過ぎる寝言を呟いてる。
「・・・あれが冒険者の姿か。何処でも休息をとり、体調を整えられるのも才能なんだな」
「・・・いや、カナデ。あそこまでぐっすり寝たら意味がないからな。少なくともあれは冒険者失格だ」
そっか、やっぱりか。
それから朝陽が草原の彼方に見えるまで、俺達は見張りの仕事に徹した。特に何もなかった。
ただ皆を起こす前にダクネスとは少しだけ話して、紅魔の里のゴタゴタが落ち着くまで例の件は保留という約束だけは取り付けたが。やっぱり、人間はお話し合いが一番だな。うん。