この素晴らしい世界に居座るTSド変態野郎にも祝福を 作:らいじゅう
いきなりな話だが、俺は自分がスケベだと理解している。
スケベ、そうスケベだ。もしくは助兵衛、助平、すけべぇともいうソレ。それはイヤらしいこと、異性に強く興味を示す者、好き者、好色漢━━━━もしくはソレ自体の行為を指し示す言葉でもある。
そうだ、スケベとはエロスやエッチに同等する、いやらしさの象徴となり得る卑猥な言葉なのである。
そして俺は紛うことなき、そのスケベだ。
四六時中とは言わないが、それでも家事をしてる時、仕事をしてる時、雑事をこなしている時、仲間達とお喋りしてる時、何かをしている時に不意に訪れる暇な瞬間……そういう瞬間に、何となしにエッチな事、イヤらしい事で頭が埋め尽くされているくらいにはスケベだ。
そんなスケベな俺だが、分別というものくらいはある。
そりゃ仕事の合間を縫ってオナった事はあるし、皆で打ち上げパーティーしてる時に隙を伺ってこっそりオナった事もある。仲間達がいる屋敷の中で、こっそりイチャイチャしたり、バレないようにセックスしたり、そういう事もしたことはある。
でも、あれだ、あれもそれもこれも、他人にそこまで迷惑は掛けたりしてないと思うのだ。いや、結果的にめぐみん達に見られたり聞かれてたり、気を使われてたりした訳だけど、それでも迷惑は掛けまいといつだってこっそりを心掛けていたしてきた。
だから、言わせて欲しい。
「んぁぁぁぁぁぁ♡!!ふぅふぅ……なんだ、その程度で終わりか!!魔王軍の責めとやらは!!もっとこい!!腰を入れて来い!!来てみろぉ!!」
俺をあんな変態と一緒にしないで欲しい。
頼むからめぐみんは同類を見るような目で俺を見ないで欲しい。
幾ら俺が人一倍にスケベだって、こんな公衆の面前でオープンに性癖を披露はしてないからな。
紅魔の里に侵入していた魔王軍の元へ走り出してから暫く。
紅魔の里の人達に状況の説明と増援を要請した俺達は、敵の発見位置がめぐみん宅の近くという事もあり、最悪の状況を想定して一足先に現場へと向かった。魔王軍の殲滅とはいかないまでも、増援が来るまでの時間稼ぎが出来れば良いという考えからだ。
そうして息を切らせて辿り着いた先に広がっていたものは、予想とはあまりにも違うものだった。
そこはめぐみんの家のすぐ近く、林の間にある碌に舗装もされてない田舎道。小石が転がっていて雑草の目立つ、踏み固められただけの土の道だった。
農村であれば何処にでもありそうな、そんな何の変哲もないありふれた場所に━━━━それはあった。
そこにいたのは我らがパーティーのタンク役。
ダスティネス家のご令嬢ダスティネス・フォード・ララティーナこと、変態クルセイダーのダクネス。
そして向かい合うは魔王軍の兵隊達。
魔王軍の紋章が入った貧相な装備を身に纏うモンスターと、ただ者とは思えない雰囲気を漂わせる露出度の高い赤いドレスを着た指揮官らしき女。
偶然か、はたまた何かを察知して駆けつけたのか……駆けつけてきたばかりの俺達に判断はつかなかったが、俺達が辿り着いた時にはダクネスは一人魔王軍の兵隊と対峙していた。
そこまでは良い。
騎士として貴族として、ダクネスには王国の敵として人類の敵として魔王軍と戦うだけの理由があるのだ。一人で多数を相手取る無謀さに思う事が無いわけではないが、ダクネスにはダクネスとして譲れない立場というものがあるは良く分かっているつもりだ。無謀な戦いに挑むのも仕方ない。
故に、己の矜持や義務の為に、魔王軍に立ち向かうまでは良いだろう。良いのだ。そこは。
「ぐぅぅ♡!そ、そんにゃものかぁ!貴様らの攻撃は!ひゃん♡!」
何処か嬉しそうに、敵の攻撃を受けてなければ。
悲しいかな、俺達が駆けつけた時には既にこの有様だった。
語尾にハートマークついてそうな声をあげながら、ダクネスがひたすらに敵に攻撃されていた。ボコボコである。フルボッコである。それはもうタコ殴りだった。
一応、隙を見て剣を振る事もあるが、その剣が敵に当たることはなく、攻撃を外す度に「くっ、やるな!」とかカッコつけた言葉を吐きながらも、何処か嬉しそうな顔で敵の反撃を受け止めていた。
「くっ、わたひは♡!くっひゃない♡!きしゃまらの攻撃なんぞに、100万回受けようと、決してくっしゃないぞぉ!!もっとこいッッッ!!」
またバチーン!と凄い勢いで敵のムチが顔面にヒットする。
が、しかし、駄目。無傷。まったくの無傷。
そしてダクネスの顔に浮かぶ隠しきれない高揚感。
お世辞にも敵に攻撃されている奴の顔じゃない。もはやただのSMプレイになっている。これには割と色々と寛容な水色もドン引き。こめっこ?こめっこは俺によって目隠し中である。こら、手をどかそうとしない。目が腐っちゃうぞ。
はぁ、こんな事なら様子見なんてことはせず、駆けつけた勢いのままさっさとハルバード叩きつけてやるんだった。
なんかタイミングを逃した気がする。
目の前の光景に頭を悩ませていると、隣から惨状を覗いていたカズマが耳に口を近づけてきた。
なんだと思い耳を貸せば「なぁ、カナデ。同じ変態として頼む、何とかしてくれ」とクソ失礼な事を言ってきた。
なのでデコピンを返しておく。
「俺は変態じゃない。エッチな事が好きなだけの、純然たるスケベだ。一緒にするな。そして嫌だ。てか、お前がどうにかしろリーダー」
「無茶言うなよ。見た感じダクネスだから何とかなってるみたいだけど、敵の攻撃力は冗談じゃ済まないレベルだぞ。俺みたいな低レベル紙装甲冒険者が割って入って何とかなるようなもんじゃないだろ。別の意味でもあそこに交ざりたくないしな」
呆れたような視線をダクネス達に向けるカズマに、今度はめぐみんが声を掛けた。
「それならどうするのですか?私が一発かましますか?ダクネスなら巻き込んでもどうせ平気でしょうし。でもですね、出来ることなら里の中での爆裂魔法は避けたいのですが。実家とか、畑とかも近くにありますし」
「あーー、取り敢えず爆裂魔法はまだ止めとけ。それできっちり倒せるなら良いんだが、あのドレスの女辺りなんか耐えそうな雰囲気があるんだよな。やるにしても後詰めの紅魔族達がきてからだな」
「背中を向けた所にドカン、ですね。任せて下さい」
「いや、撃たなくて済むなら撃たなくて良いからな?そのまま里の人達に任せて良いからな?止めろよ、ホントに。変に目を付けられたら後が大変なんだからな?」
なんか、こっちも物騒な話を始めたな。
家や畑よりダクネスの心配がされてない辺り、内情を知らない奴らがみたら酷い話に見えるだろうな。
実際、アダマントよりも高いらしいダクネスの防御力のことは置いといて、人類が扱える中で最強クラスの魔法の一撃を敵諸共撃ち込む話してるのだから、酷い話ではあるんだけど。
でも耐えるからな、あいつ。マジで。原型が残らない一撃を、軽症で済ませるからな。しかもそれを喜んでるし。
「面倒臭いわね、もうドカンとやっちゃいなさいよ。魔王軍を放っておくなんて麗しき女神たる私の名が廃るわ」
「お前の名前は既に限界近くまで廃ってるから気にするな」
「なっ、何ですってヒキニート!」
カズマと水色をワチャワチャし始めた頃、今度は魔王軍の連中が何やら話し始めた。
「なんて頑丈な女だ!シルヴィア様!いい加減こいつは放っておきましょう!キリがありません!それよりも目的を果たしましょう!幸い、あれは攻撃に関してはアレのようですし、時間稼ぎは我々で行います!」
「ふん!そうしたいのは山々だけれどね、それは難しいだろうね。一見すると攻撃に関してポンコツに見えるけど、アタシにはどうしてもアレがあの女の本当の実力とは思えないからね。ここまで私達の攻撃に耐えられてる所を見るに、あの女が高レベルのクルセイダーであることに違いないわ。ならば、戦闘能力もそれ相応にある筈」
「まさか、あれが演技だと!?」
「ふっ、とんだ策士もいたもんだわ。背中を見せようものなら、その時は一瞬でバッサリでしょうね………そうでしょう、クルセイダーのお嬢さん!」
なんか魔王軍の連中面白いこと言い出してる。
そこまで能力あって考えて行動出来るなら、今頃ダクネスは色んなパーティーに引っ張りだこな存在だっただろうな。
でも、そうではないんだよ。そうはならなかったし、そうはならないの。だってそこにいる人は変態だから。馬鹿みたいに防御力が高い、真正のドMの変態だから。
そのドMの変態はと言えば、魔王軍の連中の言葉に「ふっ、勘のいい者もいるようだな」と震え声で返していた。一体あそこの何処に勘の良い奴がいるのか問いたい。敵味方漏れなくアホしかいないだろうに。
結局、乗り込むタイミングを完全に見失った俺達は、援軍が来るまで待つことになった。その間もダクネスと魔王軍のプレイは続き、周囲には妙に艶っぽいダクネスの苦悶の声と、魔王軍の連中の悲痛な嘆きや怒号が響いていった。
あと、こめっこの耳も塞いだ。
水色に手伝って貰った。
世の中には知らなくて良いこともあるのだ。
「やぁやぁ!外なる世界より訪れし、めぐみんの盟友達!待たせたね!」
そうして待つこと少し、紅魔族の面々がやってきた。
予定よりずっと早く駆けつけてきてくれたのは素直に嬉しく思う……思うのだが、何故に誰一人としてまともな装備をしていないのか聞きたい。全員、見事に普段着である。諸に農家と分かる人もいた。割といた。
装備する暇もなく慌てて駆けつけたと言われれば、そういう事もあるだろうと納得出来るけど、どうにもこの人達は違う気がしてならない。陽気に挨拶してくるし。
「なぁ、カズマ。俺の感覚からするとさ、敵が防衛ライン越えて侵入してくるのって割と深刻な状況だと思ってたんだけど?」
「いや、俺もそう思うけど…この雰囲気を見るに、割とあることなのかもな。撃退まで含めて」
これが日常というならやっぱりここは魔境だ。
紅魔族の風習といい、この危険極まりない環境といい、間違ってもここには引っ越さないと俺は改めて心に決める。
そんな俺の心の内をよそにカズマは来てくれた紅魔族達に状況を説明していた。
カズマの話を聞いた紅魔族は足早にダクネス達の状況をその目で確認。戻ってきた時には、その目に闘志を宿らせていた。
なんでも、たった一人で魔王軍のモンスター達に立ち向かうダクネスの姿は紅魔族的にはとてもクールに見えるらしく、ダクネスに負けてはいられないとやる気に火がついたそうだ。
そのやる気たるや━━━━これからの作戦をカズマからの聞きながら、ほぼ全員が闘志を滾らせながら格好いいポーズと台詞を考え始める程だった。
いや、やる気の方向性よ。
思わずツッコミが口から溢れそうになったけど、それは何とか止めておいた。多分ここでツッコミを入れても、状況は良くはならないからな。寧ろマイナスになりかねない。
実績はあるんだ。大丈夫。寧ろ放っておいても平気な連中。紅魔族はこういう連中。カズマの話聞いてなさそうだけど、うん。大丈夫。よし。
そうこうしてる内に準備も済み、俺達も行動を開始する。
と言っても俺達はあくまで囮であり、本命は紅魔族の連中だ。
敵を完全に殲滅するべく所定の位置に向かい散開していく紅魔族の背中を見ながら、俺達もダクネスの元へと向かった。
「よく堪えてくれたな、ダクネス!」
カズマの大きな声にそこにいた全員の視線がこちらを向く。
驚愕、戸惑い、恐れ━━━━羞恥。
なんか一人見当違いな感情を抱いてそうだけど、それは取り敢えず無視して俺達はそれぞれ武器を構えた。
そしてそれを視界に捉えながらカズマも続けた。
「魔王軍、大人しく観念するんだな。デュラハンのベルディア、デッドリーポイズンスライムのハンス、果ては大物賞金首、機動要塞デストロイヤーに至るまで……!数々の猛者を屠ってきた俺達パーティーに出会ったのが運のつきだ!」
「な、何ですって!?ベルディア達の話は聞いていたけれど、いつの間にハンスまで……でも、そう、成る程。それ程のパーティーメンバーであれば、この防御力の高さも頷けるわね。ねぇ強い人、貴方は何処の、誰なのかしら?」
敵のドレス女に、カズマは腰の刀を抜き放ち告げる。
「━━━━名乗る程の者じゃないが、敢えて教えてやろう。ミツルギキョウヤ、それが俺の名前だ。覚えておけ」
それはそれは堂々と、カズマは偽名を名乗った。
一周回って格好良くみえた。