眼前に集まったメンバーを前に、僕は隣に立った二人を紹介する。
気分はまるで転校生を紹介する先生の気分だ。
僕が先生とか、学級崩壊まっしぐらだと思うんだけどなぁ……主に風紀の乱れによってだけど。
「はい。という訳で新しくヴィラン連合の仲間になった緑谷くんとお茶子ちゃんです。拍手ー」
「ぱちぱちー」
「……………………」
「……」
「…………」
「……………………」
「…………」
「……」
いつものバーみたいな部屋のなかに、一人分の拍手だけが木霊する。
って、ちょっと。拍手してるのトガちゃんだけじゃん。なんでみんなそんなにテンション低いのさ。
いや、中には気まずくて目を合わせられなかったり、恥ずかしくてそっぽ向いてる人もいるみたいだけど。
まぁ、その中でも、特に。
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
トムラくんの眼力がめちゃくちゃヤバイ。
それはもう、緑谷くんの顔を穴が空きそうな程に睨み付けている。
何か因縁でもあるのかな。それとも、ただ単に気に入らないだけなのか。
「……おい」
「えー、何? みんな二人が裏切らないか心配だって?」
「…………おい」
「心配ゴム用──あ、間違えた。心配ご無用! 二人の首についたこの首輪が、僕らに攻撃を加えようとした瞬間にドカンと大爆発! なので安心安全──ならぬ安心危険だよ!」
「………………お前が爆発しろ」
「おや、弔くん。リア充爆発しろとは、また俗なネットスラングを知っていらっしゃる」
トムラくん、ネットとか見なさそうだったから意外だ。
というか、みんな揃って何をそんなに不服そうな顔してるのかな?
「……あー、その、なんだ……」
「服ぐらい着せてあげても良いんじゃない?」
ばつが悪そうに、スピナーとマグネが口を開いた。全体の総意とでも言うかのごときマグネの言葉に、ほぼ全員が首を縦に振った。
あ、なんだ。皆それについて微妙な顔してたのね。
「こ、これ恥ずかしすぎなんやけど……!!」
「が、我慢しよう、麗日さん……!!」
二人の格好は、先程愛情たっぷりのラブラブセックスをした後のままとなっている。
つまり、首輪に全裸という犯罪係数マシマシな格好をしているというわけだ。
おまけに身体も洗っていないので、二人の性器はドロドロのまま。ついさっき、お茶子ちゃんのおまんこから一筋の精液が床に垂れ落ちた所だ。
「うーん……しょうがないなぁ。僕としては全然オッケーなんだけど……」
「どの世界に全裸でヴィランやるバカが居るんだ」
荼毘くんからのツッコミを華麗に全スルーし、僕は一旦部屋から退出する。
そうして別の部屋から、二人の為に用意した新しい服を持って戻ってくるのだった。
「あ、意外と普通や……」
「ほ、本当だ。想像してたのより、ずっと……」
「二人とも、僕のセンス疑ってたの? 酷いなぁ、僕ってばこう見えてもセンス◯なんだから」
二人の服装はカジュアルなものに纏めさせて貰った。
全体的に黒寄りの配色で、その中に二人のイメージカラーである緑とピンクが散りばめられている。
「うん、中々に似合ってるんじゃない?」
しかしそんな僕の感想とは裏腹に、二人は下半身を押さえてもじもじさせている。
「あ、あの……」
「その……下着は……」
「え、無いけど」
あるわけないじゃん。隠すのが目的なんだから、中は必要ないでしょ?
「……底意地が悪いですね、アライブは」
やれやれといった風に首を振り、黒霧さんがワープゲートを展開する。
次の瞬間、二人の目の前に新品の下着が落下してきた。
わぉ、黒霧さんってばやっさしーい。
「用意していたなら素直に渡せばいいものを」
「えーなんのことかなー」
うーむ、黒霧さんには見抜かれているらしい。僕が二人に意地悪するために、わざと下着を持ってこなかったってことが。
いや、普通に服着てるのに下着は無いっていうのはさ、なんかこう興奮するじゃない?
「アライブは変態ですからねー」
「失礼な。意地悪だと言ってもらいたいね」
「どっちも変わら……いや、変わるか」
突如飛んできたトガちゃんの罵倒を華麗に受け流し、僕は胸を張る。っていうか、荼毘くん真面目か。
「よろしくな! 出てけこの野郎!」
「ええ!? どっち!?」
「変わった人やんな……」
服を着終わった二人に、早速トゥワイスが絡んでいる。彼の独特な雰囲気に流され、緑谷くんとお茶子ちゃんは困惑を隠せていない。
まぁ、暫くすれば慣れるでしょ。
「よろしくねぇ。デクくん、お茶子ちゃん」
「ヒウッ……!!」
「デクくん、どしたの?」
今度はトガちゃんが二人の元へと近づいていった。緑谷くんは顔を青くして股間を押さえ、お茶子ちゃんはそれを不思議そうに見やる。
どうやら、射精禁止拷問が相当なトラウマになってるらしい。
「で? この二人を仲間に入れて何をしようってんだ?」
空気を切り替えるためか、荼毘くんが至極真面目な声音で僕に話を振る。
「うーん、特に何かするつもりは無いけど……ほら、二人が仲間になった時点で弔くんの目的は完遂されてるじゃない?」
「そうですね。死柄木弔が目指す、ヒーロー社会の崩壊……予定とは少し違いましたが、その目的は概ね果たされたかと」
僕の言葉に対して、黒霧さんが補足をしてくれる。きっと今ごろ、世論はヒーローへの不信感でいっぱいだろう。
何しろ世界でも有数のヒーロー排出校、雄英高校から二人もヴィランを出してしまったのだから。
「だから、僕がこれからする事は──」
そう、僕が言おうとした瞬間。
「どうもー、ピザーラ神野店ですー」
そんな間の抜けた声が、扉の外から聞こえてきたのだった。
────────────────────
「先制必縛・ウルシ鎖牢!!」
いきなり部屋の壁が破壊され、そこから数本の枝が急に伸びてくる。
それらは的確にヴィラン連合のメンバーに巻き付くと、瞬く間にその動きを封じてしまった。
「もう逃げられんぞ、ヴィラン連合。何故って? 我々が──来た!」
壊れた壁の向こうから、巨漢の男が姿を現す。
アメリカンなコスチュームに包まれた、その筋骨粒々の体。
味方を安堵させ、敵に威圧感を与えるその笑顔。
彫りが深すぎて、アメリカンな雰囲気を醸し出すその画風。
その姿は間違いなく、No.1ヒーローオールマイトだった。
「おや、お早いお着きで」
そんな彼の姿を見て、アライブは薄い笑みを浮かべる。
その横に並ぶ、二人の人物を含めて。
(いずれ嗅ぎ付けられるだろうと思ってはいたけど、ここまで早いとは思わなかった)
他のメンバーが捕縛されて、それぞれに抵抗をしているがあまり芳しくない。
それどころか、この状況に唯一対応できそうな荼毘も気絶させられてしまった。
ならば何故、アライブはこんなにも余裕の表情をしているのか。
「オールマイト!!」
「オールマイト先生!」
「遅くなってしまったな。緑谷少年、麗日少女。もう大丈夫だ」
オールマイトの元へと駆け寄る二人を、彼は力強く抱き締める。
そんな光景を、縛られたままのアライブは静かに見つめていた。
「感動の再開……か。良かったね二人とも。まぁ、それはそれとして」
興味無さげにアライブは呟く。
そうして視線を動かして、とある人物を視界に収めた。
未だに枝で体を縛られたままのトガヒミコに、彼は視線を向けたのだ。
「テメェら──誰に断ってトガちゃんの体に触れてんだ」
その瞬間、その場に居たものは不可解なものを目撃した。
一瞬の出来事。
瞬きをした直後には、既にアライブはトガを抱きかかえて拘束から抜け出していたのだった。
「なっ……!?」
「み、見え、なかったぞ……」
「バカな、どうやってシンリンカムイの必殺技から……!」
突入していた警官隊の面々が、驚きの声を上げる。そんな光景を見て、オールマイトの隣に居た老人──グラントリノは苛立たしげに眉をひそめた。
「お前……不死身のアライブか。今まで幾つもの巨大なヴィラン組織を壊滅させてきたっていう、あの」
「ん、よく知ってるね。別に僕みたいに平凡な奴の事なんて覚えてなくても良いのにさ」
グラントリノの言葉にも、飄々と返すアライブ。しかし、その目には隠しきれない怒りが滲んでいた。
そんな怒りを抑え込み、彼は腕の中のトガに声をかける。
「大丈夫? トガちゃん」
「はい。心配しすぎなんですよ、アライブは」
口では気丈にそう言うが、その顔色は若干悪そうに見える。
お姫様を抱えるようにトガを抱いたまま、彼はオールマイト──ではなく、シンリンカムイを睨み付ける。
「ところで、そこのお前」
「……なんだ」
「よくも彼女を縛ったな」
繊細な割れ物でも扱うかのようにトガを下ろし、アライブは一息に跳躍する。
「彼女を縛っていいのは、SMプレイしてる時の僕だけだっ!!」
そうして、そんな叫びと共にシンリンカムイへと神速の拳を叩き込んだ。
「ぐっ!? ごっはぁっ!!」
顔面に拳が炸裂したシンリンカムイは、壁に空いた穴から外へと落下していく。
それと同時に、メンバーを縛っていた拘束も合わせて解除されていった。
「なんだその……なんだ、バカみてぇな掛け声だな!!」
「もっと気の聞いた言葉は出なかったのか……」
「やぁん! あの二人ったら、やっぱりそういう関係だったのね!!」
そのあまりにもあまりな掛け声に、トゥワイスが一瞬キャラを見失い、スピナーが呆れ、マグネは体をくねらせる。
結構緊迫している状況の筈なのに、ヴィラン連合のメンバーは惜しげもなくため息をついていた。
「SMってなんやろ……デクくんは知ってる?」
「えっ。えっと……ぼ、僕もわかんないかなぁ!」
こてん、と首を傾げる麗日。その質問に対して、緑谷は冷や汗を流しながら分からないと回答する。
「まぁ、SMプレイはまだやったことないんだけどね!!」
落ちていったシンリンカムイを見下ろしながら、アライブはそう叫ぶ。
改めて、彼は色々とヤバい存在なのだと、ヴィラン連合のメンバーは再確認した。
「……まぁ、不本意だが拘束も解けた。黒霧、脳無を呼べ。こっから反撃──」
「させると思っているのか?」
そんな声と共に、黒霧の胴体を一本の紐が刺し貫く。
すると、途端に黒霧はガクンと力無く項垂れてしまうのだった。
その光景を側で見ていたマグネが、野太い中にも女らしさを感じさせる悲鳴を上げた。
「きゃああ! 殺したの!?」
「否。この男は最も厄介──故に、眠ってもらった」
黒霧を貫いた紐の正体は、忍者のような格好をした男──エッジショットだった。
彼の個性"紙肢"は、自分の体を紙のように細く、薄くできるというもの。その特性を用い、黒霧の体を内部から破壊したのだろう。
「チッ……しょうがねぇ。全員、戦闘準備──」
と、その瞬間。
「んっ──ごぼっ!」
ナイフを構えたトガの口から、真っ黒な液体が吐き出された。
「トガちゃんっ──ごぼっ!」
それに気づいたアライブが声を上げるも、その当人の口からも真っ黒な液体が吐き出される。
更に、次々とヴィラン連合のメンバーも液体を吐き出していく。自分の意思とは無関係に、口から液体が溢れ出していた。
ヴィラン連合のメンバー。
その中には、勿論例外はなく。
「なんだっ、これ──ごぼっ!」
「デクく──ごぼっ!」
「緑谷少年!! 麗日少女!!」
その液体は吐き出した人間の全身を覆い隠していき、その場から次々と消えていく。
空間転移の個性か、と誰かが言う。対象のみを転移させる系だろう、と誰かがそう言って当たりをつける。
一瞬の内に困惑に包まれる現場で、オールマイトは黒幕である男の仕業だろうと当たりをつける。
「おのれ! 私も連れてけ!!」
既に、緑谷と麗日の姿は無い。真っ黒な液体に飲み込まれて消えてしまったのだ。
ならばと、オールマイトはまだ残っている死柄木の元へと手を伸ばす。
「ごぼっ──これは、先」
しかし、その手は呆気なく空を切る。
その場に取り残されたNo.1ヒーローの悲痛な慟哭が、真夜中の空に響き渡るのだった。
──────────────────────
「ごほっ、げほっ……」
一瞬だけ暗くなっていた視界が、再び明るくなった。
とは言っても、夜だからそこまで明るいという訳でもない。
室内ではなく、外。
周囲に散らばる街灯や月のあかりが、そこが屋外であるということを知らせてくれていた。
「ここは……?」
未だに状況が呑み込めていないが、取り敢えず周りを確認する。
周囲の地面は更地。そして、遠くに積み上がった瓦礫には数人のヒーローが倒れている。
周囲にはヴィラン連合のメンバーも立っており、みんな周囲の凄惨な様相に困惑していた。その中でも、特に緑谷くんとお茶子ちゃんは相当だったが。
「おめでとう、弔」
そんな光景に僕たちが唖然としていると、不意にそんな声が聞こえてくる。
それと同時に、拍手の音も。
「やっぱり、あの個性はあんたか、先生」
「余計なお世話だったかな?」
「いや、正直助かった」
工業用のゴツいマスクを顔に付け、黒い高価そうなスーツを着た男が、こちらに向けて歩いてくる。
あれが、トムラくんが言ってた『先生』か。
「脳無なしであの数のヒーローとやり合うのは無謀だったからな」
「弔くん、戦力計算できたんだ……意外」
「後で塵にしてやるからな、お前」
ヒーラーだからって油断するなよ、と。彼の目が言外に告げていた。怖い。
あっ、アイアンクローはやめて──いだだだだ! 崩壊してる、崩壊してるってば! 頭が灰になってくからやめてぇ!
「少し、君が考えていた想定とは違ったかもしれない。でも君はやり遂げた。最後の詰めは甘かったけれどね」
「……そこは多目に見てくれよ、先生」
「責めている訳ではないよ。あれは良いものが見れたお礼だからね」
ん、何でこっち見るんですかね。
今はトムラくんと話してるんじゃなかったんですかね。
「さて、今は逃げるといい。そこの二人を連れて」
もっと遠くへ。そう言いながら、男は右手を黒霧さんに翳す。
するとその右手の指から赤黒い触手のようなものが伸び、黒霧さんの体に突き刺さった。
「ちょっ、あなた! 彼やられて気絶してるのよ!? ワープ使えるんならあなたが逃がしてちょうだいよ!」
「僕のはまだ出来立てでね、マグネ。転送距離が酷く短い上に送り先の融通も効かない。だから彼に送ってもらう必要があるのさ」
個性強制発動──気絶してるはずの黒霧さんの体から、見慣れたワープゲートが立ち昇る。
おそらく、あれで逃げろということだろう。
フラフラと足取りが不安定なトガちゃんを、お姫様だっこで抱え上げる。
「それに」
不意に、男が空を見上げる。
「招かれざる客の対応もしなくてはね」
瞬間、男を中心に凄まじい程の衝撃波が発生した。
当然のごとく、僕たちはふきとばされる。そんな中でもしっかりとトガちゃんを抱え、そのまま男の方を見やる。
すると、そこでは。
「すべてを返してもらうぞ、オール・フォー・ワン!!」
「また僕を殺すか、オールマイト!」
全てを破壊する、頂上決戦が始まろうとしていた。