血は綺麗で好き。真っ赤なあの色を見ていると、無性に心が踊りだす。
『好きです』
でも本当に好きなものは、いつだって他人だった。憧れて、好きになって、愛しくなって。どうしようもなく同じになりたいと思ってしまったから。
だから、私は血を飲むようになった。
『あなたのことが、好きになりました』
私の個性を使えば、私が憧れになれる。
好きな人になれる。
ああ、それはなんて──なんて、素敵な事なのだろう。
『だから、ちうちうさせてください』
いっぱいいっぱい
『ちう……ちう……』
この気持ちを満たすため、いっぱいいっぱい血を飲んだ。
『ちうちう、ちうちう』
まだだ、まだ足りない。
もっと満たして。もっと私を
『ちう──ぷはっ……足りない』
全然満足できない。圧倒的に足りない。どんな相手の血を飲んでも、私という器が満たされることはない。
『さぁ、次はどんな人の血を吸いましょうか』
そんな時だった。
『結婚してください!』
私の目の前で、恥ずかしげもなくそんな事を言った
初対面の筈なのに、彼はとても真面目な顔でそんな言葉を口にする。
その必死すぎる表情がなんとも笑えたので、私は最近覚えた、とある言葉を口からこぼした。
『セフレなら良いですよ』
セフレって言葉の意味は正直分からなかった。けれど、そう言ってホテルへ連れ込めば、簡単にお金が貰えるとネットで知ったのだ。
なので、私は彼相手にその方法を実行してみたのだが──結果として、私は
『ひぐぅっ!? あんっ、あああっ、うああああぁぁあんっ!? も、もうやめてぇぇぇ!!?』
正に、快楽
私の股に太く固いチンポをぶちこまれ、徹底的にお腹の奥まで蹂躙される。
処女だったということが全く問題にならないほど、私は彼との初セックスに溺れた。
『あんっ、あっ! な、なにこれぇぇ!! お腹の奥がっ、気持ち──んへぇぇぇぇ!??!?!』
普段している自慰が子供のお遊びだと思えるほどの、凄まじいセックス。
髪を振り乱し、涙と涎まみれになりながら、私は初めて感じる快楽を貪った。
『おぐっ……もっと! はぎゅっ……もっと、ください!! おっほっ……ありったけ、注いでくださいぃぃぃ!!!』
最後の方は私から求めていたような気がする。それほどまでに、彼との初夜は最高だった。
お腹の奥に注がれた精液の熱さは今でも覚えている。いや、忘れられる訳がない。
『はぁー……はぁー……!!』
これが、私と彼との初体験。
どうしようもなく淫らで──そして、私が生きていると実感できた初めての夜。
私が
──────────────────
あの後、僕がクリムゾンヒールにトガちゃんを預けて、ギランの元へと向かってから早二時間。
無事にギランのアジトに着いた僕は、さっそく件の人物と会わせてもらえることになっていた。
「気ぃつけろよ。だいぶヤベェからな」
「どんな風に?」
「それは会ってから確かめな」
暗がりに続く通路を歩きながら、ギランは意地悪そうにそう告げる。
ギランがヤベェって言うことは、だいぶヤバいんじゃないのその子。
「健闘を祈るぜ」
「まぁ、そこそこ頑張ってみるよ」
ギランは通路の途中にあった部屋の前で止まると、そこに入るよう促してくる。
その誘いに乗るように、僕はドアノブに手をかけてドアを開いた。
「おじゃましまーす……」
入ると同時、扉が閉まる。そのまま僕は目線を上げて部屋の中を見回した。
すると当然目につく、中央のソファーに座った緑色の髪をツインテールで結んだ美少女。深く目を閉じていて、一見するとまるで眠っているようだ。
そして、その脇で恭しく佇む秘書っぽい赤髪の女性。はて、こっちの人はどっかで見たことあるような。うーん、どこだったっけ。
「あれ、二人も居るんだ。ギランからは一人だけって聞いてたけど」
僕は迷わず、テーブルを挟んで対面に置いてあるソファーに腰掛けた。すると、今まで目を閉じていた美少女がゆっくりと目を見開く。
わぁお、レイプ目じゃん。ハイライトが全くないよ。こりゃギランがヤベェって言うのも分かるかも。
「お初にお目にかかります、不死身のアライブ様。私は人類再生教の教祖をしています、彼岸華と申します」
「これはご丁寧にどーも」
ペコリと、華と名乗った少女はたおやかにお辞儀をする。やだ、トガちゃんより百倍仕草が女性っぽい。こりゃトガちゃんも花嫁修行とかした方がいいんじゃないかな。
「そしてこちらは、私の秘書の──」
「
ん、今どっかで聞いたことあるような名前が出たような……あっ。
「あー! 君、どっかで見たことあると思ったら、トガちゃんが血を吸ったあの!」
「ハイ、その節はどうも」
ヒーローのサイドキック辞めて、宗教に入信したんだ。しかしなんでまた。
「うふふ、茜ちゃんはアライブ様とヒミコ様の動画を見て変態に目覚めちゃったんだもんね?」
「なっ、えっ、ちょっ! いきなりトップシークレット暴露するのは酷くないですか、華様!」
「いずれバレる事よ」
茜ちゃんにまるで悪戯っ子のような笑みを浮かべて話しかける華ちゃん。このやり取りだけでも、二人が相当に近しい仲だと言うのが窺えるだろう。
外見だけ見れば小学生のような背格好をしている華ちゃんが、大人のお姉さんである茜ちゃんを手込めにしているように見える。不思議なものだ。
「さて、早速ですが本題に入りましょう」
「お、いいね。まだるっこしいのは好きじゃないから助かるよ」
さて、どうくるか。
「本日は、私とこの茜を──アライブ様の肉便器にしていただきたく、こうして馳せ参じました」
「……へ?」
え、えーと? 聞き間違いかなぁ。今たしか肉便器って単語が聞こえたんだけど。
僕の耳がおかしくなったか? それとも、おかしいのはあっちの頭?
「えっと……もう一回お願い」
「やん。もう、アライブ様は鬼畜ですね。うら若き乙女に二回も肉便器宣言をさせるなんて……」
「さ、流石ですアライブ様! はぁはぁ……!」
うん、おかしいのはあっちの頭だったみたいだ。
「いやいやいや……ヴィラン連合に入りに来たんじゃないの?」
「それは只の口実です。こうして、生のアライブ様に会うための」
「あ、でも連合に入りたいというのも本当ですので、ご安心ください!」
華ちゃんの言葉を、茜ちゃんが補足する。つまり君たちは、ヴィラン連合のメンバー兼、僕の肉便器になりにきたと。そういうことでいいのかな。
「っていうか、なんで肉便器?」
「それはもちろん、アライブ様のアライブ様で私の蜜壺をぐっちょぐっちょと掻き回して妊娠させて欲しいと思っているからです」
「ち、ちなみに、私はアライブ様と露出プレイしたいなーなんて思ったり……」
うん、ヤベェね。ギランが言ってた意味がよく分かるよ。普通の犯罪者とは別ベクトルでヤベェ奴らだね、この子たち。
「うーん……肉便器かぁ」
正直、そういうものを認める気はないんだけども。僕はトガちゃん以外で興奮できないし、トガちゃん自身も決して認めないだろう。
僕たちの性事情は、二人で充分なのだ。それ以外にはいらない。だって、僕たちはもう二人で完結しているのだから。
「なんなら、メス犬でも、使い捨てオナホールでも、ヤり捨てティッシュでも構いません。どうか、私たちを
「お、お願い致します!」
なるほど。言外に華ちゃんは『モノを使ってするオナニーならノーカンですよね?』と言っている訳だ。
トガちゃんのようなセフレでもない。本当のただただ性欲処理をするための肉穴になりたいと言っているという事で。
「…………」
「…………!」
言いたいことは言い終えたのか、二人は真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。
茜ちゃんはともかく、華ちゃんは目が伽藍堂に見えるから怖いんですけども。
「うーん……」
ここまで真剣にお願いされちゃうと無下にするのも気が引けるしなぁ……何より、ヴィラン連合の戦力拡大という機会を逃したくない。
だから、ここは大人しくその申し出を受けるのが正解なのだろうが。まぁ、僕には決められないよなぁ。
「まずはトガちゃんにオッケー貰ってからね」
「ということは、アライブ様は了承してくださるのでしょうか?」
「トガちゃんがオッケー出したら僕もオッケー。それまでは……まだダメかな」
この言葉だけ切り取ると、僕が決断できない優柔不断なダメ男に見えてくるね。実際、その通りだから何も言えないんだけどさ。
「なるほど……分かりました。元より正妻であるヒミコ様の了承は得るつもりでしたので、手間が省けたと考えましょう」
「ん? いやいや正妻って……僕とトガちゃんはまだ結婚してないよ」
なんだか勘違いしてるようだから、そこは正しておこうか。まだ婚約もしてないし、結婚式も上げてないし、指輪だって買ってない。
キスは何億回としているが、誓いのキスはしていないしね。そんな事実に、茜ちゃんが心底驚いたように口を開いた。
「えぇー!? あ、あんなにラブラブセックスしてたのに、まだ結婚してなかったんですかぁ!?」
「まぁね。まだ僕たちはセフレのままなんだ」
本気で種付けセックスをしたあの日以降、トガちゃんは僕が結婚しようと言ってもプイッとそっぽを向いてしまうようになったのだ。
なので自然とその話題は有耶無耶になり、僕たちの関係はセフレから一向に進展していないのである。恋愛漫画だったらはよ結婚しろって言われそうだ。
「は、華様。これはチャンスなのでは? アライブ様の大本命であるヒミコ様がセフレならば、私たちにもチャンスが──」
「いいえ、ありませんよ」
茜ちゃんが耳打ちした言葉を、バッサリと切り捨てる華ちゃん。
っていうか、内緒の話ならもっとヒソヒソ声で話そうか。対面に座ってる僕にも丸聞こえだったよ。
「生の象徴であるアライブ様と、死の象徴であるヒミコ様。これほどお似合いのカップルもそう居ないでしょう」
「……なんか照れるね」
真っ正面からそんなの言われたことなかったから、ちょっと恥ずかしいな。みんな茶化すか、無反応かの二択ばっかりだったし。
「なので、私の目的はただアライブ様との子供を作ること。それだけなのです──たとえ認知されなくとも」
あなたはどうですか? と問いかけるように、華ちゃんは茜ちゃんの方を向いた。
「わ、私は……」
戸惑い気味に茜ちゃんが口を開いた──その瞬間、僕のスマホがいきなり振動し始めた。
どうやら電話が掛かってきたらしい。懐から取り出したそれを確認してみれば、クリムゾンヒールからの電話だった。何事だろう。
「はい、もしもし」
『よかった……繋がった。アライブ、すぐに……戻ってきて』
電話に出てみれば、どこか焦った様子のクリムゾンヒールの声。どうしたのだろうか。まさか、トガちゃんの身になにか?
そんな風に感じた僕の予感は、図らずも的中してしまっていたらしく。
『ヒミコの、陣痛が……始まった。あなたの、赤ちゃんが……もうすぐ、産まれる』
「……え?」
一瞬、頭が真っ白になる。今なんて言った? 陣痛? 産まれる? 何が──赤ちゃんが?
「っ、すぐ戻る! トガちゃんは!?」
『もう、分娩室に入った……私も、すぐに行かなきゃ』
立ち上がり、ドアの方へと足を向ける。いきなり立ち上がった僕に二人は驚いた様子だが、今の僕にそんなことを気にしてる余裕はない。
二人には悪いが、交渉はまた今度にしてもらおう。
「あ、アライブ様?」
「いきなりどうしたんですか!?」
二人の質問に答える暇もなく、僕は部屋のドアに手を掛ける。そうしてドアを開け、振り返りながら簡潔に言葉を紡いだ。
「トガちゃんの赤ちゃんが産まれるんだ。だから、勧誘の話はまた今度ね」
そんな言葉を最後に、僕はその部屋を後にするのだった。
──────────────────
一蹴りで、ビルからビルへと跳び移る。屋上の地面を陥没させながら、僕は目的の場所まで最短距離で向かっていた。
僕の場合、体力とか人目を気にしなければこうして身一つで移動する方が断然速い。人目に関しても、ビルの屋上を跳び移るというひと手間を加えることでなるべく見つからないようにしている。
今や僕も日本中で有名なヴィラン連合の一員。なるべく目立たないように工夫しているのだ。
「最短距離なら……一時間か」
クリムゾンヒールのアジトからは、電車を乗り継いで二時間でギランのアジトに到着した。
それをおよそ半分の時間で戻れるとは、僕ってばいつもこの移動方法にした方が良いんじゃなかろうか。いや、やっぱり却下だね、疲れるし。
「よっ、ほっ、あいた!」
着地に失敗して足首を思いっきり捻ってしまった。まぁすぐ戻るから良いんだけども。
そうして移動していくと、街の郊外に打ち捨てられた廃病院が見えてきた。あそこが、クリムゾンヒールの隠れ家だ。
「到着っと。尾行は……無さそうかな」
周囲に人や生き物の気配は感じられない。そりゃそうか、僕のあの移動方法に、目立たないよう付いてこられる人って多くなさそうだもんね。
それでも警戒は怠らぬまま、廃病院の中へと入っていく。
「トガちゃん!」
廊下を走って目的地に到着する。これまで何度も見た、診察中と掛札がかけられた扉を開け放った。
すると、その中にあった光景は──
「あ。ようやく来ましたね、アライブ」
「随分と、遅い……到着ね」
ベッドに横になるトガちゃんと、その横に寝かせられた赤ん坊。そしてベッドの側に立つクリムゾンヒールと、その腕の中に抱えられた赤ん坊の姿だった。
「……はぇ?」
クリムゾンヒールが抱えている赤ん坊は突然入ってきた僕にビックリしたのか、真ん丸な目を見開いてこちらを見つめていた。
瞳の奥に煌めく虹色の光彩が、僕の慌てようを嘲笑っているように感じる。不思議と、赤ん坊は泣き声の一つも上げていなかったが。
「えっ、あれっ、あの……出産は? 陣痛は?」
「もうとっくに終わりましたよ、バカアライブ」
ベッドからゆっくりと体を起こしたトガちゃんは、若干不機嫌そうな顔で僕を睨んでいた。
いや、これでも全速力で帰ってきたんですけど……だいぶ無茶して帰ってきたんですけど……しょんぼりだなぁ。
「時間に、して……およそ十分。初産とは、思えないほど……スムーズな、出産だった」
腕に抱いた赤ん坊をあやしながら、クリムゾンヒールが口を開く。
十分て、スピード出産にも程があるでしょ。普通そんな速く産まれる? 産まれないよね? 何か理由があるんだろうと思わずにはいられない。
トガちゃんってば、いったいどんな裏技を使ったんだろうか。
「ふっふーん、秘密はこれです」
ドヤ顔を披露しながら彼女が懐から取り出したのは、赤い液体がちゃぷちゃぷと波打つ小さなビンだった。
「アライブの、血だ……これの、おかげで……随分と、助かった」
「えっ?」
まるで意味がわからない。どうしてそこで僕の血が出てくるのだろうか。僕の血は怪我を治すだけで、それ以外には別に特別な効能は無い筈だけど。
そう思った僕の思考を汲み取ったのか、クリムゾンヒールは何故僕の血が役に立ったのかを説明し始めてくれた。
ただ──
「そうだ。アライブの血は単純に傷を直すだけだと思っているのだろうが実はそれだけじゃなくてだな成分を調べてみたところ栄養価がとても高いということもわかっているしそもそも個性というのは遺伝子情報と密接に関係していてそれがダイレクトに転写される血液という媒介は学術的にもとても興味深くてだからこそアライブの血には怪我の回復以外にも様々な副次的効果があるんだがその一つが鎮痛作用で痛みを極限まで押さえるというものだその効果たるやそこらで売っている市販の痛み止めの数十倍の効果があっておそらくだがこの効能は脳内のドーパミンその他諸々を強制的に分泌させているのだろういつだったか君は痛みに慣れていく体質だと言ったがその点が関係しているのかもしれないな血だけで他人にあれだけの量の鎮痛成分を分泌させるのなら本人であるアライブの脳内麻薬はどれだけの量になっているのかああ解剖して調べてみた──」
「ストップ! ストーップ!」
暴走してしまったのだ、見事に。うーん、超早口。八割方何言ってるか聞き取れなかったなぁ。
っていうか、クリムゾンヒールってば人体の事になるとめっちゃ饒舌になるよね。こう言っちゃナンだけど、好きなことについて語る時のオタクみたいだ。
「…………ハッ」
「へーい、紅ちゃん人体オタクですね」
トガちゃんってばどこでそんな言葉覚えてきたの。相変わらずのストレート一直線なんだから。
あと、あんまり真実をまっすぐストレートに告げちゃうと傷つくからね? トガちゃん、ソコんところデリカシーを持ったほうが良いかも。
「……すま、ない」
「いや、僕的にはクリムゾンヒールが愉しそうで何よりなんだけど」
話は全くもってチンプンカンプンだが、クリムゾンヒールが見せる数少ない喜びの表情なので別に良いと思っているし。
それに、こうしてやらかしてしまった後の、赤面して俯くクリムゾンヒールも結構可愛げがあって乙なものだ。普段は無表情で何考えてるか分かんないから尚更に。
「コホン……まぁ、なんだ……結果と、して……出産は、無事に終わった」
「はい! 二人とも無事に五体満足です!」
隣でスヤスヤと寝息を立てる赤ん坊を、トガちゃんは優しそうにそっと抱き上げた。
そうしてベッドから立ち上がると、僕の目の前まで移動してその腕の中のものを差し出してくる。
「はい、どーぞ」
はい、どうも。なんて軽く返事をして受け取れるほど、今の僕は目の前の光景に適応できている訳ではなく。
「えっ……えっと……?」
「抱いてあげてください、パパ」
ニッコリと眩い笑みを浮かべ、彼女が告げる。その言葉に従うように、僕は恐る恐る両手を差し出し──僕の腕の中に、温かく小さな命が手渡された。
いつも抱いているトガちゃんとはまた、全く違った感触が僕の腕に浸透する。厚いタオル越しだが、小さな生命の熱と鼓動をしっかりと感じ取ることが出来ていた。
「おっ……おぉ……!」
「ぷっ、あはは。なんですかそのへっぴり腰」
「百戦錬磨の、アライブが……随分と、引け腰だな」
だってしょうがないじゃん、赤ちゃんなんて抱いたの初めてなんだからさ……柔らかくて、温かくて、小さな肉の塊。今まで幾多の命を見てきたが、こんな神秘的な命は初めて見た。
産まれたばかりの赤ちゃんって、本当に肌が赤いんだなぁ。なんて、一周回って間抜けにもほどがある感想が出てきてしまうほど、僕は心の底から感動していたのかもしれない。
「色々とありがとうございました、紅ちゃん」
「だから……クリムゾン、ヒールと……はぁ……もう、いい……」
クリムゾンヒールからもう一人の赤ん坊を受け取り、トガちゃんはペコリと頭を下げる。
なんか、とても珍しいものを見た気がする。あの傍若無人な性格のトガちゃんが、人にお礼を言うだなんて。これも、母親になった影響なのだろうか。
「私の、仕事は……これで、終わりだ……後は、責任を……持って、育ててくれ」
「はい!」
顔をあげて、またしてもにぱっと笑顔を浮かべる彼女。その顔を見ただけで、彼女が精神的に大きく成長したのだということが伺える。
もう、僕と出会った頃の彼女じゃない。子供を産むという行為は、それほど大きなことなのだと再確認した。
「ふふっ。行きましょ、アライブ!」
「──うん」
片腕で赤ん坊を抱いたまま、同じく片腕で赤ん坊を抱いたトガちゃんに腕を引かれて病室を出る。何処へ向かうのかなど、分かりきっていることだろう。
僕たちの戻る場所など決まっている。
廃病院を出て、すぐ目の前に現れた