※この作品はR-18です。

トガちゃん結婚してください!   作:九龍城砦

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ヒーロー襲撃

 遂にこの日が来た。妙に空気がピリピリしていて、オーバーホールは不機嫌そうに眉をしかめている。

 ついさっき、死穢八斎會の邸宅前に多数の警官とヒーローが集まっているという報告が入ってきたせいだろう。

 

「事前に言った通りだ。行け」

 

 地下の一室で簡素なミーティング──という名の玉砕命令──を行ったオーバーホールは、それだけ言うとさっさとどこかへと向かって行ってしまった。

 ヤクザの皆はやる気満々だなぁ。流石は鉄砲玉って命名されただけの事はある。

 

「僕たちは……えーと、そこら辺ぶらぶらしてればいいんだっけ」

「ちげぇよ! 俺たち三人でヒーローの足止めだぜ! 逃げていいか?」

「ダメですよ仁くん。今はヤクザなんですから、一応お仕事しないと」

 

 地下通路を所定の位置に向かいながら、僕たち三人はこれからの予定を確認していた。

 トゥワイスはいつもの全身スーツ。トガちゃんもいつもの制服姿。ただ、その背中にはスヤスヤと眠るシズクが背負われているのだが。

 

「トガちゃん、雫のこと背負ったままで大丈夫? 戦いづらくない?」

「大丈夫です。お腹に入ってたときよりは動きやすいですから」

 

 そりゃあそうかもしれないけどさぁ。あの時は成長途中とはいえ二人もお腹に赤ちゃんが居たんだから、確かに動きやすくはなったのかもしれないけどさぁ。

 

「アライブが持ってるよりは100倍安全ですし」

「それは確かに」

 

 僕が持ってたら確実に大怪我必至だろう。ただ、そのあとすぐに直すからプラマイゼロに……ならない? ならないかぁ。

 そんな感じで話し込んでいたら、その内バゴン、と薄い壁が壊れるような破砕音が鳴り響いた。

 つづけて、通路全体が小刻みに震え始めた。これは、戦闘が始まった合図かな? 

 

「もうちょい上かな」

「ですね」

「行くか」

 

 気持ち空気を引き締めた僕たちは、通路を早歩きで駆けていく。気を抜いたら迷いそうだが、そこは大丈夫だ。人の気配が多そうな場所目掛けて、一直線に走れば良いだけなのだから。

 

「あの気にくわない本部長さんと協力しろってのがイヤですけど」

「文句言わないの。全部終わったら、すぐに僕の血飲ませてあげるからさ」

「ささっと終わらせましょう、ささっと」

「僕の血好きだねぇ」

 

 これはまた搾り取られそうだ。まぁ、すぐ補充されるんだけどね。

 

「タイミングは、向こうがヒーローを分断させてからだよな?」

「うん。僕たちをヒーローと一緒に三ヶ所に別れさせて、それを各個撃破するだけだよ」

 

 と、そんなことを話していたら着いたみたいだ。地下通路の途中から、道がぐねぐねと曲がりくねって脈動している。率直に言って気持ち悪い。

 こんな中を通ってきたヒーローには頭が下がる思いだ。僕だったら絶対に最初の一撃で吹き飛ばして、快適に通れるようにしてるもん。

 

「じゃあ、私からいきます」

「次は俺が行くぜ。誰が当たっても恨みっこなしだかんな!」

 

 そう告げて、二人はぐねぐねと蠢く道の先に消えていった。

 それに続いて、僕もその中へと入っていく。足下がぐにゅぐにゅってしてやっぱり気持ち悪いけど、我慢我慢。

 そうして、数秒の間その中を進んでいくと、唐突に視線が開けた。まるで広場のようになったその場所に居たのは。

 

「なっ!? お前はっ!」

「こりゃまた厄介な……」

 

 緑色のヒーロースーツに身を包んだ少年と、黒いヒーロースーツに身を包んだ男性だった。

 というか、どちらも知ってる顔だった。世の中狭いなぁ。

 

「やぁやぁ、奇遇だねぇ緑谷くん。それとイレイザーヘッド」

「ヴィラン、連合……!」

 

 警戒心剥き出しの二人に、僕は気さくな笑顔で相対するのだった。

 

 

 ────────────────────-

 

 

 警官隊とナイトアイが他ヒーローと分断されてから数秒後。

 妙なポーズと共に目の前に現れたのは、ヴィラン連合のトゥワイスとアライブ。

 唐突に姿を表した二人を見て、一同はどよめきを隠せていないらしかった。

 

「こんにちは!」

「いい天気ですね!」

 

 おまけに挨拶までされてしまった。これはどういう状況なのか。

 

「ヴィラン連合……まさか、死穢八斎會と手を組んでいたとはな……」

「あっれー、スベったけど。荒ぶる鷹のポーズめっちゃスベったけど。どうすんのトゥワイス」

「だからよ、やっぱりそこは踊る白鳥のポーズにしとけって言っただろ! ナイスな決めポーズだったぜ☆」

 

 困惑する周囲をよそに、二人はマイペースなまま会話を続けている。

 いったい何が目的だとナイトアイが訝しむ中で、尚も二人はふざけた空気を崩さない。

 

「お前たちの目的は何だ。何故奴らと手を組んでいる」

「だからさ、僕は漫才の方が良いって言ったんだよ。一発芸よりは絶対に笑い取れたって」

「なにぃ!? アライブも賛成してくれたじゃねぇか!」

 

 暖簾に腕押し、糠に釘。ナイトアイが放った質問は全く二人の耳に届いていない。

 もう無視して先に進もうかと一歩を踏み出した瞬間。

 

「こんにちは、いい天気ですね」

 

 背後から、そんな少女の声が聞こえた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 他のヒーロー達と違い、たった一人で壁の中にある小さな空間へと分断されたロックロック。

 急にこんな状況になってしまえば、警戒するのは敵の襲撃。周囲に気を張り巡らせ、ロックロックは警戒レベルを最大限まで上げた。

 

(来るなら来い、返り討ちにしてやるぜ)

 

 自身の個性『施錠』ならば、一撃を貰ってもカウンターで確実に反撃ができる。

 狙うのは一撃必殺。カウンターの一撃で確実に襲撃者の意識を刈り取る。

 

「恐い顔してますねー」

 

 と、そんな風に気を張っていたロックロックに、のんびりとした声を掛ける少女が一人。慌ててそちらを振り向けば、そこには誰も居なかった。

 

「そんな顔してたら雫が泣いちゃいますよ」

 

 また、背後から声が聞こえた。しかしそちらへ振り向いても、やっぱりそこには誰も居なかった。

 

「誰だ! どこに居やがる! 姿を見せやがれ!」

「ここに居ますけど」

 

 またも、背後から声。それと同時に背中を襲う鋭い痛み。感覚から察するに、ナイフか何かの刃物で背中を突き刺されたようだ。

 

「捉えた!」

 

 しかし、それはロックロックも想定内。一撃もらった傷口を施錠し、その空間に固定する。

 そうして、振り向きざまに勢いよく拳を振り抜いた。

 だがしかし、その拳は空を切っていた。今まで確実に誰かが居たであろう場所には、人の形など影も形もなくて。

 

「遅いですね」

「がっ!?」

 

 また、背後から声。そして今度は右肩に激痛。しかしそんな痛みも無視して、ロックロックは傷口を施錠する。

 そしてまた、同じようにカウンターを仕掛け、同じように空振りした。

 

(くそっ、どうなってやがる……!)

 

 個性を解除し、刺さったナイフを抜きながら、内心で毒づく。今までこの戦法で多くのヴィランを倒して来たロックロックとしては、それが通じないことに一抹の焦りを覚えていた。

 

「次は首です」

「いいえ、脇腹です」

「目玉くりぬくのもいいねぇ」

 

 警戒を緩めないロックロックの耳に、少女の声が木霊する。いや、木霊しているのは空間にか? どんどん頭がボンヤリして、思考力が低下してくる。

 毒でも塗られてたかと勘ぐるが、時既に遅し。激しすぎる眩暈と共に平衡感覚を失ったロックロックは、そのままバタリと地面に倒れ込んだ。

 

「あっけないですね」

 

 薄れ行く意識の中で、ロックロックはそんな少女の声を聞いたのだった。

 

 

 ──────────────────────

 

 

「そぉーれっ!」

「ぐっ!?」

 

 思いっきり振りかぶった右腕を、かなりの速度で緑谷くんへと撃ち込む。

 両腕を交差させてそれを防いだ緑谷くんは、かなりの距離を吹き飛ばされて、そのまま壁に激突した。

 

「チィッ!」

「よっ、ほいっ」

 

 その間にもイレイザーヘッドが僕に向けて捕縛布を伸ばしてくるが、それも難なくかわして逆に距離を詰める。

 行きなり目の前に現れた僕にビックリしたのか、イレイザーヘッドの動きが一瞬止まった。

 もちろん、それを見逃す僕じゃない訳で。

 

「ぐあっ!?」

「ははっ、遅い遅い!」

 

 腹パン、からの回し蹴りで緑谷くんと同じ方角に蹴り飛ばしてやる。

 すると案の上、緑谷くんはイレイザーヘッドを受け止めた。まぁ、ヒーローならそうするよねぇ。

 

「大丈夫ですか、イレイザー!」

「バカ野郎……! 俺に、構うな……!」

「甘いねぇ」

「え──がはっ!?」

 

 受け止めたイレイザーヘッドの上から、緑谷くんごと殴り抜ける。

 バキッバキッと骨が何本か折れた音を響かせながら、再び思いっきり壁に激突する緑谷くん。まぁ今度はイレイザーヘッドも一緒だけど。

 

「弱い。とても弱いねぇ」

 

 うん、これはアレだね。戦ってみて分かったけど、緑谷くんじゃオーバーホールには絶対に敵わない。

 イレイザーヘッドが個性を消せば勝てるだろうが、それでも勝率は低いだろう。きっとオーバーホールはあの手この手でイレイザーヘッドを妨害してくる。そうなれば勝つのはオーバーホールだ。

 せめて戦うなら、地力で上回ってないとどうしようもない。小狡いからなぁ、あの若頭。

 

「ぐっ……がはっ……!」

「チッ、流石に強いか……」

 

 血反吐を吐き出しながらも、何とか二人は立ち上がる。もう満身創痍って感じだけど、大丈夫? そんなんでこの先向かって、ちゃんとオーバーホール倒せる? 

 

「もう帰った方がいいと思うけどなぁ。今ので分かったでしょ? 君たち二人じゃ、僕には勝てないって」

「そんな、こと……ない!」

 

 ふらふらになりながらも、緑谷くんは僕に向かってパンチを繰り出す。

 ただまぁ、そんな攻撃を避けるのは容易い訳で。

 

「強情だなぁ」

「がっ、ぐっ、ごぇっ!?」

 

 カウンターで顎に膝蹴りを入れ、そのまま肘で頭に一発入れてから、倒れ込む瞬間に腹を蹴ってそこいらに蹴り転がす。

 ちょっとエグい悲鳴も聞こえたけど、これくらいじゃ死なないでしょ。

 

「デク!」

「おっと」

 

 こちらに伸ばされた捕縛布を逆に掴み、そのまま引っ張りあげる。そういう、その場しのぎの攻撃はよくないなぁ。実によくない。

 引っ張られてこっちに飛んできたイレイザーヘッドの顔に後ろ回し蹴りを叩き込み、緑谷くんと同じくそこいらに蹴り転がす。

 

「げほっ、ごほごほっ……!!」

「ぐ……ぁっ……!」

 

 二人とも満身創痍って感じだ。だけど、僕を睨むその目には諦めの感情なんて微塵も宿っていない。

 一体何が彼らをそこまで突き動かすのだろうか。誰だって、痛いのは嫌だろうに。

 あ、僕はトガちゃんに刺されるのは好きだけどね。それ以外だと、あまり歓迎したくないけど。

 

「何でかなぁ、分かんないなぁ。どうしてそこまで頑張るのかな?」

 

 至極当然の疑問が、つい口をついて出てしまった。それが聞こえたのか、地面に這いつくばりながらも緑谷くんが口を開く。

 

「……女の子が、泣いてたんだ……!」

 

 そのまま全身に力を込め、なんとか肘をついて上体を起こしていく。

 

「……目の前の、泣いてる子、一人、救えなくて……!」

 

 そのまま体を上げ、両足を使ってしっかりと立ち上がった。

 

「……最高のヒーローになんかなれるかよ……!!」

 

 その緑色の瞳が、その奥に宿る闘志が、僕をしっかりと見据えていた。

 

「ふーん」

 

 成る程、ね。エリちゃんを助けたいから、そんなに頑張っていると。

 実にヒーローっぽい、優しい動機だ。甘々で胸焼けしそうだよ。

 

「そっか、じゃあ助けに行けば?」

「は……?」

 

 僕の言葉に、緑谷くんはポカンとした間抜け面を晒している。なにその顔、ウケるんだけども。

 

「一応、仕事はしたしね。これでもう僕の仕事はおしまい。そして──」

 

 僕は全力で拳を握り、右腕にありったけの力を込める。そしてそのまま、天井に向かってそれを思いっきり振り抜いた。

 凄まじい威力の拳圧が、すべてを破壊する暴風となって天井を破壊していく。

 

「ぐぎゃあああぁぁぁぁぁ!!?!??!!」

 

 暴風が吹き荒れる中で、汚いおっさんの悲鳴が木霊する。多分本部長だろう。狙って撃ったからね、そりゃそうなる。トガちゃんを不快にさせておいて、僕が許すとでも思ってたのかねぇ。

 

「ヤクザでいるのも、これでおしまい」

 

 天井を根こそぎぶち抜いて、そこから綺麗な青空が見える。ちょっとやり過ぎたかな。

 右腕がずるりと再生するのを横目に見ながら、そんなことを考える。

 数秒置いて、大柄な男が気絶したまま地面に降ってきた。地面に頭から突っ込んでいて、まるで犬神家みたいになっている。

 

「なん……で……?」

「ん、別に。深い意味はないよ」

 

 僕はただ、ヤクザが気に入らなかっただけ。裏切ったのはその程度の軽い理由だ。あと、トガちゃんがあの本部長を嫌ってたから、ちょっと制裁してやっただけだし。

 

「じゃあね、ヒーロー。今度会うときはヤクザとしてじゃなくて、ヴィラン連合として会おう」

 

 それだけ告げて、僕は天井の穴から外へと飛び出す。トゥワイスとトガちゃんもさっきの音で気づいたのか、捻れた通路伝いにこちらへ向かっているのが見えた。

 

「派手にやったな、アライブ!」

「びっくりしました」

「お疲れ様、二人とも。じゃあさっさと離れよっか」

 

 さっきの一撃、結構目立っちゃったからね。他のヒーローがくる前に退散しなきゃ。

 

「あ、私いいこと思い付いたんですけど」

「うん、じゃあそれでいこう。それが終わったら離れようね」

「変わり身はぇぇな、アライブ!」

 

 そりゃもちろん。僕が彼女の意見を最優先にするのは、地球が自転してるくらい当たり前のことじゃないか。

 

「で、どんないいこと思い付いたのトガちゃん」

「んふふー、それはですねー」

 

 

 ────────────────────

 

 

 アライブたちが飛び出していった穴を、茫然と眺める出久。ボロボロの体から、急速に力が抜けていくのが分かる。

 

「ま、て……!」

「おっと、大丈夫かデク」

 

 倒れそうになった所をイレイザーヘッドに支えられ、どうにか両の足では立ったままだ。

 だがしかし、怪我の影響が大きいのかその足はガクガクと震えている。

 

「無理はするな。お前はここで休んでろ」

「そんな……まだ、まだやれます!」

「ダメだ。そんな怪我で行っても足手まといにしかならん」

 

 吼えるように叫ぶ出久の言葉に、イレイザーヘッドは無慈悲に告げる。それが普通の対応だろう。

 ましてや、出久はインターンに来ているだけの学生にすぎない。イレイザーヘッドの発言も妥当と言えるだろう。

 

「理解できませんね」

 

 と、そんな出久に声を掛ける人物が一人。いつの間に現れたのか、その人物は瓦礫の上に腰掛けたまま、余裕綽々と此方を見下ろしていた。

 ピッチリとした黒のボディスーツに、目元を覆うような無機質なゴーグルを付けている。一言で言えば、その姿はとても肉感的であった。

 身長からしてまだ子供の部類に入るであろうが、その明るい茶髪を指先でくるくると回すその仕草には、言い知れない熟女感が漂っていた。

 

「お、お前……は?」

「ヴィラン連合、か……? いや、お前みたいなヴィランの情報は無かった筈……」

「どうしてそこまで拘るのです。あなたたちが助けようとしているのは、たかが幼いメス一匹ではないですか」

 

 困惑する出久とイレイザーヘッドを見下し、謎の少女は冷淡に告げる。

 その姿にどこか既視感を覚えた出久は、つい口をついてとある少女の名前を呼んでしまう。

 

「……お茶子、さん……?」

 

 その名前に、少女は一瞬だけピクリと体を硬直させると、すぐさま何でもないように首を振った。

 

「誰ですか、それは? 私の名はパンドラ──れっきとした、ヴィラン連合の一員です」

「パンドラ……」

「いつの間にか戦力を増強していたと言うわけか……ヴィラン連合、案外手が早いじゃないか」

 

 呆けたように少女──パンドラの名前を繰り返す出久と、ヴィラン連合の新たな戦力を確認して舌打ちをするイレイザーヘッド。

 だが内心は、二人揃って言い知れぬ既視感に心を燻らせているのだが。

 

「まぁいいです。喚ばれたから来てみたものの、アライブ相手にそこまでボロボロになっているあなた達では、どうせこの先で死ぬのがオチでしょう」

 

 その場で立ち上がると、パンドラはふわりと空中に浮かぶ。それはまるで魔法のような。重力を無視した、まるでパンドラだけが無重力の空間にでも居るかのような──そんな光景だった。

 

「まぁ、だとしても精々足掻いてください。我々を楽しませる為に……ね」

 

 それだけ言い残すと、パンドラはアライブが開けた穴から外へと飛び出していってしまった。

 去り際に見えたお尻の形が安産型だったという情報は、この際どうでもいいと言えるだろう。

 その光景を、二人は呆然と見つめている。まぁ、それが普通の反応だ。

 

「何だったんだ、一体……」

「まぁいい。今はまず怪我人の確認だ、行くぞデク」

「あっ……は、はい!」

 

 一緒に居たヒーローの無事を確認する為に、元来た道へと走り出すイレイザーヘッド。それを見送った出久は、少し遅れて続こうとした──ところで。

 

「ん? あれは……?」

 

 視界の端に、キラリと赤く輝く物体を見つけた。丁度、さっきまでパンドラが座っていた瓦礫の上だ。

 何故かそれが気になってしまった出久は、痛む体にムチ打ってその場所へと向かう。しかして、そこに置いてあった物体は。

 

「こ、これは……」

 

 とても小さな小瓶に入った、赤い液体だった。色と粘度から判別するに、これは血液だろう。

 何故こんなところに血液入りの小瓶が置いてあるのかは分からないのだが、それとは別に出久は直感的に確信した事がある。この血液は、アライブのものだと。

 

「…………」

 

 一度──いや、射精禁止の拷問をされていたときに何度も飲んだから分かる。これを飲めば、たちどころに怪我や体の不調が回復するだろう。

 それを知っていたからこそ、出久は躊躇なく蓋を開けて中身を飲み干す。するとどうだろうか。

 

「や、やっぱり……傷が治った……!」

 

 先程までボロボロだった顔も、折れていた筈のアバラも、綺麗さっぱりと元通りに治っていた。

 相変わらずのデタラメ治癒能力だが、今はそれがありがたかった。

 

「これで、エリちゃんを助けに行ける!」

 

 グッと拳を握った出久は、すぐさまイレイザーヘッドの元へと向かう。

 そんな出久の様子を、去った筈のパンドラは穴の縁から見下ろしていた。

 

「…………」

 

 自分でも理解できない感情が沸き上がってくる。どうして、自分はあそこに血液の入った小瓶をおいた? どうして、去っていく彼を見ていると胸が痛む? 

 どうして、どうして、どうして。

 分からない。彼を見ていると思考にノイズが走る。どうしようもなく心がざわついて、胸が苦しくなる。

 

「……チッ」

 

 露骨な舌打ちを一つして、パンドラはその場から去る。時間が経てば、この不快な感覚も消えるだろう。

 そう信じてパンドラは──麗日お茶子は、人気のない路地裏へと消えていくのだった。

 




 エロ無し回でした。エロを期待していた方には申し訳ない事をしてしまった。
 ところで、本当は明るい子が闇落ちしてクール系になるのは非常にいい文明だと思うのですが、どう思います?
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