※この作品はR-18です。

トガちゃん結婚してください!   作:九龍城砦

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 ちょっとオーバーホール戦あっさりしすぎたかな?って思ったのと、その他にも個人的に気になった箇所があったので、色々と修正しました。
 ベースは同じなのですが。

 そのため、この回だけ再投稿です。続きじゃなくて申し訳ないです。


初恋の人

 僕たちがヒーロー達と交戦して、天井に穴を開けてからしばらく。

 当然のごとくヒーロー側も気づいたのか、空いた穴に集まってきたヒーロー達が続々と中へ入っていく。

 

「……よし、これなら緑谷くんたち大丈夫だよね。結構強めにボコっちゃったから、どうしようかって心配してたんだけど……よかったよかった」

「私も、あの色黒ラッパーみたいな人、毒で殺しちゃうところでした。えへ」

「俺も、増やしたトガちゃんがあのメガネ刺し殺しちまうんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ! ケツにもう一個穴増やしてやれば良かったのによ!」

 

 うん、君たちは少し反省しようね。人殺したら犯罪になっちゃうんだから。

 あれ、でも僕らヴィランだから、犯罪おかしても関係ないよね。というか今の時点で重罪人だから、今さら一人二人殺そうと対して変わらないんじゃ? 

 

「まぁいいや」

「そうですね」

「そうだな! いや何がだよ!?」

 

 今日もトゥワイスのツッコミが冴え渡る。一回ノッてからツッコむという、セルフ高速ノリツッコミは最早伝統芸の域だ。

 そんな二人を嗜めながら、僕はトガちゃんが考えたいい作戦を実行に移す。

 

「トゥワイス、作れる?」

「勿論だぜ! あんま期待するなよ!」

 

 そう言いながら、トゥワイスは自信満々でその"いい作戦"に必要な人材を作り上げる。やっぱり、トゥワイスの個性って便利だなぁと常々思う。

 それが終われば、後はやることは単純。さぁ、エリちゃんを奪いに行こうか。ヴィランらしく、ね。

 

 

 ──────────────────

 

 

 あれから少し準備をして、所定の位置に着いた僕たち。確認の意味も込めて後ろの人物へと声をかけた。位置的には大丈夫だと思っているけれど、それでも万が一ということもある。

 

「準備オッケー?」

「モチロンよ」

 

 僕の背中に手を当てて、準備は万端らしい。そう言うことなら作戦開始といきますか。

 

「じゃあ……いくよっ!」

 

 その言葉と共に、僕は思いっきり右腕に力を込める。そして現在僕が立っている地面、アスファルトで出来たそこに向かって、その力を一気に解放した。

 簡単に言えば、全力で地面を殴ったってことだ。

 

「おらあああぁぁぁっ!!」

「きゃっ! 意外と男らしいのね、アライブったら!」

 

 そりゃまぁ、僕も男だしね。トガちゃんのセフレだしね。たまには男らしいところも見せないと。

 え、いっつもベッドの上で見せてるって? そういう男らしさじゃなくて、カッコいい方の男らしさね。

 

「よしっ、ぶち抜いた!」

「戦闘の真っ最中って感じね!」

 

 僕が殴った地面は、そりゃもう派手な音を立ててぶっ壊れていく。そして、完全にぶっ壊れた先には、地下の大部屋が広がっていた。

 ビンゴ。丁度最終決戦って感じの場面らしい。なんか手が四本になったオーバーホールに、ペストマスクを着けた大男、そして沢山のヒーロー達も居る。まるでお祭りみたいだぁ。

 

「エリちゃんは……居た!」

 

 黄色いコスチュームを纏ったヒーローの腕に抱かれてる。いつものように再生していく右手を横目に、僕は左手で後ろの人物へと指示を出した。

 

「マ(・)グ(・)姉(・)! エリちゃんと僕を対象に、個性最大出力!!」

「分かってるわよっ! まったく人使いが荒いんだからっ!!」

 

 落下していくなかで、その場に居る全員の視線がこちらに向く。そりゃそうだ。天井をぶち抜いて乱入なんてしたら、誰だって呆気にとられてそっちを見るに決まってる。

 そして、その瞬間に大きな隙が出来る。

 案の定、黄色いヒーローは引っ張られるエリちゃんを引き留めることが出来なかったようで。

 

「久しぶり、エリちゃん!」

「アライブさんっ!!!」

 

 結果として、エリちゃんは僕の腕の中に収まった。

 

「会いたかった! わたし、アライブさんにずっと会いたかった!」

「僕も会いたかったよ、エリちゃん!」

 

 あれからどのくらいオナニーしたのか聞きたかったからね。せめて十回はやってくれてると、僕も教えた甲斐があるんだけどなぁ。

 

「マグ姉!」

「ハイハイ! 二人とも喋らないようにね、舌噛むわよっ!!」

 

 瞬間、ぐんっと僕ら三人の体が上に引っ張りあげられる。未だ呆気に取られているオーバーホールやヒーロー達を眼下に置き去りにし、僕たちは一気に入ってきた穴から地上へと飛び出した。

 

「合体必殺技『エリちゃん一本釣り』!!」

「ダッサいわね!?」

 

 うるさいなぁ。別にいいでしょ、上手くいったんだから。

 外へ飛び出した僕たちを穴の縁で待っていたのは、トガちゃんとトゥワイスだった。もちろん、トガちゃんの背中にはシズクも居る。

 

「よっと、無事着地。100点満点だね」

「わ、わわ……!」

「ふぅ、疲れたわぁ」

「お疲れさん、アライブ、マグ姉。一番疲れたの俺だけどな!」

「さっさと帰りましょう、疲れました」

 

 二人と合流した僕たちは、休む暇もなくその場から走り出そうと息を整える。

 じゃないと誰が追ってくるか分からないからね。怒り狂ったオーバーホールが追ってきたらもう最悪。

 

「貴様ら……」

「わーお、お早いお付きで」

 

 最悪って考えただけでもダメなんです? 口に出さなきゃフラグにはならないんじゃなかったの? 

 穴から素早く這い出てきたオーバーホールはさっきチラッと見たときよりも更に巨大になっていて、なんか腕も六本生えてる。昆虫かな? 

 

「裏切ったのか、お前達」

「そーいうことだね。ごめんね、若頭」

 

 溢れんばかりの殺気がビリビリと伝わってくる。こりゃ大変だ。

 僕はエリちゃん抱えてるし、マグ姉はコピーだから戦闘に関しては一発もらえばアウト。トガちゃんとトゥワイスは元々戦闘向きじゃないし……あれ、これヤバくない? 

 

「そんなわけで、総員撤退!」

 

 分が悪いときには逃げるに限る。逃げるんだよー、ってやつだね。

 

「逃がさん」

 

 吼えながら、オーバーホールは六本ある腕を全て地面に叩きつける。

 その瞬間、地面から無数の棘が噴き出してきた。それは圧倒的物量で、僕たちをあっという間に刺し貫いた。

 

「────」

 

 それは例外なく。

 僕も、マグ姉も、トゥワイスも、エリちゃんも、シズクも、そして──トガちゃんも。

 

「──────」

 

 正面から、大きな棘がトガちゃんを刺し貫いていた。背中に背負ったシズクもろとも貫通して、口からは真っ赤な鮮血を溢れさせていた。

 そんな光景を目の当たりにして、僕は。

 

「────────」

 

 最後に、プツンと何かが切れた音を聞いた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 終わった。呆気ない、他愛ないものだった。静かに激昂したオーバーホールが放った一撃は、ヴィラン連合の四人を纏めて刺し貫き、殺害した。

 その内一名はコピーだったようで溶けて消えたが、残った三人はその全身をアスファルトの棘で貫かれている。

 

「呆気ないな」

 

 腕に抱いていたエリもろとも貫いてしまったが、そこは自分の能力でもとに戻せば良いだけだと、オーバーホールは内心で高笑いを上げる。

 どうあれ、これでエリは取り返せた。後はこの場から逃げるだけ──と、そう思考した所で。

 

 オーバーホールの巨体は宙を舞った。

 

「…………は?」

 

 オーバーホールの口から、間抜けな声が漏れる。頭がぐわんぐわんと揺れて視界がミキサーのようにシェイクされているが、その声だけは何故か明瞭に聞こえていた。

 

「な──バッ!? どっ、ごぅえっ!?!??! ぐぼっ、がっ、ごばっ!???!?!?」

 

 続けて、体中に感じる激しい痛み。まるで洗濯機にでも放り込まれたような、平衡感覚が完全に消えた状態のまま、全身をタコ殴りにされる感触。

 まるで無限を思わせる時間、全身に痛みが走り続け──理解できぬまま視界の端にそ(・)れ(・)を見た。

 

「なっ──!!」

 

 感情の消えた顔で、真っ赤に血を滴らせた体で、自身を休む暇なく殴り続けるアライブの姿があった。

 腕を一振りするだけで、増やした腕が吹き飛ぶ。脚で一蹴りするだけで、紙屑のように体の一部が弾け飛ぶ。

 単純な、ただ単純な連撃(ラッシュ)だった。だが、それは放たれるすべてが暴風のごとき威力と密度を以て、オーバーホールを壊し尽くしていく。一本、また一本と、増やした腕が空の彼方へ吹き飛んでいく。

 既に残っているのはボロボロに抉れた胴体と、指が欠損した不出来な腕が二本だけ。混濁した視界が赤く滲み、この理不尽な現状に対してやり場のない怒りだけが溜まっていく。

 

「ふざっ……けるなぁっ……!」

 

 朦朧とする意識を何とか繋ぎ止め、欠損した腕を横薙ぎに振るう。しかし、それは当然のごとく何にも掠りすらしなかった。

 あろうことか、逆に今しがた振り抜いた腕も根本から吹き飛んだ。これで、オーバーホールの体に残っている攻撃手段は──回復手段も──腕一本のみ。

 

 そんな絶望的な状況の中でも、オーバーホールは諦めない。指の一本でも触れれば勝てるのだ。ただ分解しただけでは直ぐ様再生されるかもしれないが、再生が終わる前に別の物体に再構成し直してしまえばいい。そうすれば、アライブはもはや再起不能となる筈だ。

 オーバーホールはそんな一縷の望みにかけて、限界まで脳の機能を酷使した。時間がスローに感じられるほど、思考が研ぎ澄まされてクリアになっていく。

 

 研ぎ澄まされた思考は、やがて視覚にも影響を及ぼす。今までただの線にしか見えなかった光景が、一瞬だけ、その場面を切り取ったかのように明確にオーバーホールの目に映った。

 そこには、自身の顔面に向けてトドメの一撃を繰り出そうとしているアライブの姿が映っていた。

 

「────」

 

 ほぼ反射的に、オーバーホールは残った腕をアライブに向けて伸ばしていた。そして、数瞬の後に指先がアライブの腹部に──触れた。

 

 勝った。

 

 勝利を確信して、オーバーホールが個性を使用する。すると呆気なく、アライブの体が腹部から弾け飛んだ。

 こちらへ伸ばしていた拳も、感情の消えた顔も、全部纏めて赤い血飛沫となって周囲に飛び散る。そんな光景を見て、オーバーホールはすぐさまもう一度個性を発動した。

 これであいつも終わりだ。四角い肉の箱にでもなって、文字通り手も足も出ない存在になるだろうと、そんなことを考えながら内心で安堵していると。

 

「がっ──!!」

 

 オーバーホールの顔面に、ひときわ鋭い拳がめり込んだ。何故だ、あいつは確かに再構築してやったはず──そんな困惑と共に殴られた方向を見てみれば。

 

「俺(・)の再生の方が速いな」

 

 五体満足で、こちらに向かって拳を振り抜くアライブの姿があったのだった。

 まさか、そんな、あり得ない。オーバーホールの胸中には否定の感情が渦巻いていた。自分が再構築し直す前に、既に再生を完了していたというのか。

 どんな再生スピードだと、オーバーホールは内心で戦慄する。分解から再構築まで一秒もかからない。だというのに、目の前のこの男はそのスピードを上回るレベルで全身を再生させて見せた。

 

 化け物。

 

 自然と、オーバーホールの頭の中にそんな単語が浮かび上がった。

 アメーバですらも、ここまで超速の復活はしない。では、目の前の男を殺すには一体何をすればいいのか。

 

「死ね」

 

 そんなことを考える暇もなく、オーバーホールは渾身の力で地上へと殴り飛ばされる。地面に空いた大きな穴へと吸い込まれるようにして落ちていき──そうして、オーバーホールが最後に見たのは、空中へと千切れ飛んでいく残った自分の腕だった。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 気がついたら、オーバーホールが穴に叩き込まれて戦闘不能になっていたでござる。

 え、いや、何これどういう状況? 全く分からないんだけど。

 

「あっ!」

 

 っていうかそんなどうでもいいことよりトガちゃんだよ! さっき思いっきり棘が刺さってなかった!? 早く治してあげなきゃ! 

 そう意気込んで、さっきみんなで逃げようと通っていた道の方を見てみれば。

 

「いやー、スゴかったですねぇ。巨人と戦うスーパーマンみたいでした」

「ホントだよな! アライブって怒らせるとマジヤベェってのが改めて分かったぜ! 」

 

 そこにはどこにも怪我なく、ピンピンしている三人の姿が。いや、え、どゆこと? なんで怪我回復してるの? 僕まだ血あげてないよね? 

 みんな服がボロボロだから、棘が刺さったのは夢じゃないと思うんだけど……っていうかトガちゃん、おっぱいが丸出しになってるよ。隠して隠して。そのボリュームは殺人的だから。主に僕が死ぬから。

 

「不思議そうな顔してるとこ悪いが、とっとと逃げるぜアライブ! じっくり一時間かけて説明してやるよ!」

「ほらほら、その子抱いて早く逃げましょう?」

 

 うーむ、確かに。なんでみんなが無事なのかは気になるけど、今は逃げるの優先すべきか。幸い、ヒーローも穴に突っ込んだオーバーホールに気を取られてるっぽいし。

 

「よっし、じゃあ……」

「待て!」

 

 スタコラさっさと逃げようとした瞬間、背後から声が掛けられた。反射的に振り向いて見れば、そこにいたのは緑のコスチュームに身を包んだ見知った顔。つまり緑谷くんが戦闘モードのままそこに立っていたのだった。

 

「エリちゃんを返せ、ヴィラン連合!」

「え、やだ」

 

 短く簡潔にそう告げれば、緑谷くんは凄まじく渋い顔になって僕を見てくる。

 さっきの戦闘で僕には勝てないって身に染みて分かってる筈なのに、どうして挑んでくるのかなぁ。あ、そっか時間稼ぎか。

 今の状況はさっきと違って、いくらでも他のプロヒーローが助太刀できる状況だ。時間をかければ──極論、戦闘に入った時点で僕たちは詰みってことだよね。

 

「残念だけど、君たちにエリちゃんを渡すつもりはないよ。面倒な柵(しがらみ)に囚われた君たちに、エリちゃんを幸せにできるとは思えない」

「お前達に拐われる方がよっぽど不幸じゃないか!」

 

 僕の言葉に、緑谷くんは語気を荒げて反論する。分かってないなぁ。何が幸せか不幸か、なんてのは周りが決めることじゃない。本人が決めることだ。

 と言うわけで、エリちゃんにどっちがいいか決めてもらおう。

 

「エリちゃんは、僕と彼のどっちについていきたい?」

 

 抱っこする前だったので、エリちゃんは地に足つけて立ったままだ。今なら何の障害もなく緑谷君のところへ行ける。

 たった数歩前に進むだけで、エリちゃんはヒーローに保護してもらえる。けれど。

 

「…………!」

 

 けれど、エリちゃんは僕の方に歩いてきて、ボロボロになっていたズボンの裾をギュッと握った。フラれちゃったねぇ、緑谷くん。

 

「え、エリちゃん……」

「残念。お呼びじゃないってさ、ヒーロー」

 

 本人にとっては予想外の結果だったのか、呆然としている緑谷くん。隙だらけだねぇ。

 

「隙ありです」

「え──ぐぅっ!?」

 

 そして、トガちゃんがそんな隙を見逃すわけもなく。背後からナイフを突き立てられた緑谷くんは、ドサリと地面に倒れ伏した。

 彼女が使ってるナイフには毒が塗ってある。クリムゾンヒールから貰った、幻惑作用のある神経毒だ。対内に入れば、数十秒で行動不能になるヤバい代物らしい。

 ちなみに、血流にのって全身に回るらしいから、血を吸ったら毒も飲んじゃうことになるけどね。まぁ、トガちゃんなら別に平気な気もするけど。

 

「ぐ……くそ……エリ、ちゃん……!」

「バイバイ、ヒーロー」

 

 地面にうずくまる緑谷くんを尻目に、僕はエリちゃんを素早く抱き上げた。

 そうしてそのまま、僕たちはその場を後にする。その腕の中に、最大の戦利品を抱きかかえながら。

 

 

 ──────────────────

 

 

「と、そんな感じでヤクザ生活は中々に波乱万丈だったよ」 

「そうか、そりゃ良かったな」

「全然良くないと思うんですけど」

 

 あの後、エリちゃんを連れて逃走した僕たちは、ヒーローの追っ手もなく、無事にヴィラン連合共用の隠れ家へと到着できていた。

 山奥にあるボロボロの一軒家で、今にも崩れそうなザ・廃屋といった場所だ。実に埃っぽい。

 

 服は全部予備のがあったからそれ着てるけど、そろそろなくなりそうだし、補充しに行かなきゃだね。ちなみに、エリちゃんは将来雫たちのために買ってあった子供服を着ています。これがまた似合ってるのよね。

 

「まぁまぁトガちゃん。僕は楽しかったよ?」

「私は楽しくなかったです」

 

 ソファーに座りながら、僕は横に座ったトガちゃんの頭を撫でる。対面に座るトムラくんはやれやれといった呆れ顔でこちらを見ている。

 なんだい、その顔は。トガちゃんとイチャつく僕が羨ましいのかい? だったら早く相手を見つけるのだね、トムラくん。

 

「ウザいニヤケ面だな」

「ウザくないよ。僕はいつだってイケメンでしょ」

「アライブはカッコいいときとカッコ悪いときの落差が激しいので、ずっとカッコいいままで居てください」

「今でもカッコいいじゃない」

「はぁ……」

「ため息つかれてんぞ」

「えー、二人揃って酷くない?」

 

 トムラくんとトガちゃんの二人から容赦ない口撃を貰った僕は、あまりの悲しみから横に倒れ込む。

 すると、丁度僕の頭がトガちゃんの膝に来たので、僕はそのまま膝枕の体勢に移動したのだった。ふともも柔らかいですなぁ。

 

「えいっ」

「ぎゃあああぁぁっ!? ちょっ、耳っ、耳っ! 刺さってるってばぁ!!」

 

 膝枕してる僕の耳に、トガちゃんは容赦なくナイフを突き立てる。いやちょっと、鼓膜突き破ってヤバイところまで入ってるんですけど。

 ちょっ、笑ってないで助けてトムラくん。カロリーメイトあげるから。

 

「はは、相変わらずのバカップルで安心したぜ。向こうではさぞあの生意気な若頭をイラつかせてたんだろ?」

「そんなー、バカップルだなんてそんなー」

「褒めてないと思いますよ、アライブ」

 

 え、そうなの? バカップルって褒め言葉だとばっかり。僕たちセフレだし、カップルになったなら一歩前進って事でしょ? 

 っていうか、そろそろナイフをグリグリするのやめてトガちゃん。ソファーが既に血でベットリだからさ。

 

「で、お前たちが連れてきたあのガキ。あいつらの計画の核だったんだって?」

「そうそう。エリちゃんの血を加工して、個性破壊弾作ってたんだってー。なんか親近感あるよねー」

「じゃあお前の血を加工すれば、個性復活弾でも作れんのかね」

 

 ははは、どうだろう。やったことないから分かんないや。そもそも、僕の個性は怪我を治すだけだから、そんな大層なものは作れない気がするな。

 

「で、その肝心のガキは」

「表でトゥワイスと一緒に遊んでる。雫も一緒にね」

 

 嬉しそうだったよ、エリちゃん。赤ちゃんに触るの初めてらしくて、シズクを抱くときなんかちょっと泣いてたもんね。

 あそこでの生活がどれだけロクでもなかったかが手に取るように分かるよね。やっぱオーバーホールってクソだわ。

 

「あ、そうそう雫といえば」

 

 逃げるときに不思議なことが起こったんだよね。オーバーホールから致命傷を受けてたのに、三人揃って無傷だったし。

 思うに、あれシズクの個性なんじゃないかな。だって、そうでもなきゃ説明がつかないし。

 

「僕たちの赤ちゃん、雫って名付けたんだけどさ」

「そうか」

「可愛いよねー」

「で?」

「たぶん個性発現した」

「は?」

 

 トムラくんの目が点になる。

 

「これは僕の予想で、勘だけど──僕よりもかなり強い再生系の個性だと思う」

 

 名付けるなら、そう『究極再生』とでも呼ぼうかな。結構中二チックだ。今さらだけど。

 

「じゃないと、重傷だった三人が助かった理由が分からないし」

「棘はアライブが飛び出した余波で全部壊れてましたけどね。その時にアライブの血が私たちに跳ねたんじゃないですか?」

「流石に、ちょっぴり肌に触れただけで全快とかはできないよ。最低でも飲み込まなきゃ」

 

 後は、全身に浴びるとかでも全快できるけどね。でも流石に、全身に浴びるほどの量はなかったと思う。

 ここから結論付けるに、三人が助かったのは僕の個性によるものじゃない。それは断言できる。

 

「個性は大体五歳前後で発言する筈だが?」

「普通はね。でも、赤ちゃんの時に個性を発現する人もいる。雫はそういう体質だったって事でしょ」

 

 後は、トガちゃんの母乳を経由して、僕の血に含まれた成分を飲んでて成長が早かったとかも考えられるけど……まぁ、どっちでもいいよね。

 重要なのは、シズクが個性を発現したということ。そして、その個性が僕を遥かに上回るレベルの再生能力だったということ。

 

「いやー、困っちゃうなぁ。僕のポジション取られちゃうかも」

「心配するな。そんな不安定な力を使うつもりはない」

 

 言うようになったよね、トムラくん。なんか出会ったばっかりの頃とは違う雰囲気になった。大人になった、って言うのかな。

 

「ま、今は休もうよ。エリちゃん連れて走りっぱなしだったから、疲れちゃった」

「私も、今日は寝たいです……ふぁ」

 

 トガちゃんの膝枕から体を起こし、ソファーから立ち上がる。それに続くように、トガちゃんも立ち上がる。スカート、僕の血でベットベトだけど、大丈夫? 

 

「お前も疲れることがあるんだな」

「失礼な。人を人外みたいに言わないでよ」

「実際、人外だと思うけどな」

 

 それを言うなら、この世界に暮らす人間八割は人外だと思うけどなぁ。

 なんて、トムラくんと去り際に雑談していたら、トガちゃんがギュッと腕に抱きついてきた。

 

「早く行きましょう、アライブ」

「そうだね、トガちゃん」

 

 そうして、僕たちは隠れ家を後にする。少し休んだら、またメンバー集めしていかなきゃね。

 あ、そういえば。

 

「トガちゃんまた妊娠してたから、そこんところよろしくね」

「は?」

 

 またしても、トムラくんの目が点になる。

 今日は驚いてばっかりのトムラくんを尻目に、僕はトガちゃんと一緒に、トゥワイスとシズクを抱っこしたエリちゃんの元へ歩いていくのだった。

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