※この作品はR-18です。

トガちゃん結婚してください!   作:九龍城砦

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開闢行動隊

 平和の象徴。そのキーワードが何を意味するかは子供だって知っている。

 そして今夜、僕たち──ヴィラン連合──はその平和の象徴にケンカを売る。まぁ、実際にはケンカなんて生易しいものじゃないのだけども。

 

「トガちゃん、ホントに良かったの?」

「何がですか?」

 

 指定された集合場所に向かう道すがら、僕は彼女に疑問をぶつけていた。

 周囲に鬱蒼と茂る木々が、夜の闇を更に助長しているような気がしていた。

 

「いや、ほら……そのお腹」

「ああ」

 

 彼女の少しだけ膨らんだお腹を指差し、僕はちょっとだけ不安な表情を浮かべる。

 なんと今回の作戦、彼女も参加することになっているのだ。僕と彼女も含めて、総勢十人の少数精鋭で奇襲をかけるらしい。

 奇襲をかける先は、あの天下の雄英高校──の生徒たちが合宿をしている場所らしい。夏だもんね。いいなぁ、合宿。

 

「大丈夫ですよ。見つからずに殺せば、戦闘になりませんから」

「そりゃあそうだけどさ」

 

 暗殺大得意だもんね、彼女。コワイなぁ。

 

「なんか特定の人以外は個人で別行動とってもらうとか行ってたし、一人で大丈夫?」

「むしろ一人がいいです。アライブが一緒に居たらすぐ見つかりそうだし」

 

 一理あるか。僕ってば隠密行動苦手だもんなぁ。もっとそっち方面の技術も鍛えておけばよかったと、遅まきながら後悔してしまう。

 

「心配しないでください、私は大丈夫ですから」

 

 そう言って、彼女は微笑む。いつものニンマリした笑顔とは違う、どこか儚げな笑顔だった。

 わぁ、惚れ直しそう。彼女、そんな顔もできたんだ。それとも、母親になった影響かな。母性が強くなってるのかもしれない。

 

「……死なないでね、トガちゃん」

「はい」

 

 その会話を最後に、僕たちは集合場所まで無言で歩みを進めるのだった。

 

 

 ──────────────────

 

 

 僕にとって彼女──トガヒミコは世界の全てだ。

 出会ってから一年くらいだが、もう既に僕は彼女なしでは生きていけない体になっている。

 彼女の為ならば全てを捧げるし、彼女が欲しいと願えばその全てを奪って見せる。

 あのとき言った『僕の全ては彼女のもの』は比喩でもなんでもなく、ただの純然たる事実ということだ。

 

「えーと……」

 

 そんな僕だからこそ、一人になったときどう動こうか非常に迷ってしまうのだった。

 真っ暗な森の中、当てもなく歩いている僕の姿がその事実を告げていた。というかこれ、迷子じゃない? この歳になって迷子とか、恥ずかしくて死にそうだ。死なないけども。

 

「何処に行けば生徒が居るんだ……?」

 

 あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。何処まで進んでも全く変わらない森の景色を見つめながら、僕は深くため息をついた。

 こんな体たらくだったら、無理言ってでも彼女に付いていくべきだったかなぁ。

 

「ん……?」

 

 そんな感じでそこそこの時間放浪していたら、大きな破砕音と僅かに地面が揺れるような衝撃を感じ取った。

 音と衝撃からして、それほど遠くない。寧ろ近いな、これは。

 どうするかを一瞬だけ迷った僕は、本能と好奇心のままにその場から走り出していた。

 破砕音はまだ続いている。今から行けば血沸き肉踊る本気戦闘(マジバトル)が見れるだろう。そんな浮わついた物見遊山からの行動だったのだが。

 

 結果として、その行動は正解だった。

 

 目の前に現れた崖を駆け上がり、その上から聞こえてくる音に気持ちを昂らせる。

 ほぼ垂直の崖を駆け上がるなんて芸当をかましたせいで、足が物凄い速度で破壊されているが。まぁ、そんなの些細事だ。すぐ戻る。

 

「血ィ、見せろやぁぁぁ!!!」

 

 駆け上がっている最中に、そんな声が聞こえてきた。続くように、けっこう大規模な破砕音。この声は、さっき会ったマスキュラーとか言う大男か。どうやら誰かと戦っているらしい。

 丁度いい。生徒が居そうな場所教えてもらおう。ついでにヤバそうだったら加勢ぐらいはしてあげるか。

 

「やっ、やめろォォォ!!!」

 

 何かに水が掛かる音と共に、そんな叫び声も聞こえてきた。泣いているのか、若干上ずった声。

 生徒にしては幼すぎる声。恐らく子供だろう。だが、何故子供がこんなところに居るんだろう? 雄英はいつから小学校になったのだろうか。

 まぁ、着けば解るか。頂上とおぼしき場所に向かって、僕は最後の一歩を踏み締める。

 

「よっと、到着──」

 

 スタッ、と。ちゃんと着地できたのは良かった。カッコ悪い所を見せなくて済んだし。その点は良かったのだが、その瞬間に僕はけっこう衝撃的な光景を目撃してしまう。

 

「ころっ……させて……たまるかぁぁぁ!!!!!」

 

 マスキュラーの筋肉に押し潰されていたのであろう少年が、体の力だけでそれを押し上げていたのだ。

 ボロボロ、と呼ぶのすら烏滸がましいような、もはや腕と呼べない肉塊となったソレで、少年はマスキュラーに最後の一撃を叩き込む。

 その結果、マスキュラーは吹き飛ばされていた。あの体のどこにあんなパワーがあるのかと疑問に思うレベルで、少年がマスキュラーを殴り飛ばしたのだ。

 

「すごっ」

 

 岩肌に激突し、ピクリとも動かなくなったマスキュラーを前に、少年は勝利の雄叫びを上げている。

 よくよく見てみればあの少年、リストにあった顔だ。ボロボロ過ぎてパッと見じゃ分かんなかったよ。

 名前は、確か。

 

「緑谷出久(みどりやいずく)」

 

 僕がその言葉をこぼした瞬間、少年──緑谷くんは勢いよくボロボロの顔をこちらに向けた。

 その顔に宿るのは、果てしない驚きと絶望。そしてほんのちょっぴりだけ安堵の残りカスが混じった、奇妙な表情だった。

 セックスしてる時、子宮口をガン責めされて逝きかけてる彼女の顔に似てるかも。いや、やっぱ似てないな。

 

「な……なんっ……ヴィラン、そんな、二人目……!?」

 

 めっちゃ怯えてるんですけど緑谷くん。そこまで怯える必要なくない? 傷ついちゃうよ僕。

 っていうか、ここは流れ的に悪役ムーブしといた方が良いのかな? 

 少しだけ考えた後、僕は面白そうなのでこの流れに乗ることにした。乗るっきゃないよね! このビッグウェーブに! 

 

「流石は天下の雄英生。あの大男を倒すなんてびっくりしたよ。でもまぁ、流石に満身創痍みたいだね」

「くっ……!」

 

 緑谷くんは悔しそうに歯噛みする。その顔は絶望に染まっているが、瞳の奥ではまだ微かに希望の灯がゆらめいていた。

 諦めないのは立派だけど、その目はなんなのだろう。もしかして、逃げられるかもなんて甘いことを考えているんじゃないだろうか。

 そして奇しくも、緑谷くんはそんなことを考えていたらしい。

 

「洸太く──」

「逃がさないよ」

 

 子供の方へと振り向いた緑谷くん。しかし一蹴りで距離を詰めた僕は、そのボロボロの腕を手刀で軽く弾いてやる。

 それだけで、緑谷くんは絶叫と共にその場へと蹲ってしまった。

 

「~~~~~~~~!!!?!??!」

 

 声にならないうめき声を上げ、歯が折れるんじゃないかと思うほど歯を食い縛り、緑谷くんは僕を必死に睨み付けていた。

 おぉう、殺意すらこもった恨みの視線をビンビンに感じる。久し振りにイイモノ見させてもらったよ。

 

「おっと、動いたらどうなるか……分かるよね」

「あ……ぐぅ……!」

 

 子供の方を指差し、言わんとすることを伝える。つまり、動けばあの子供が死ぬ、ということを伝えたわけだ。

 まぁ、本当に殺すつもりは無いけども。

 僕は殺しはあんまりしない主義なのだ。だって、死んだら楽しくなくなっちゃうし。やるなら拷問だよね、拷問。あの絶望の悲鳴は好きだよ。

 セックスしてる時の彼女の喘ぎ声の方が、もっと好きだけどね。

 

「な、何が……目的だ……お前たちは……!!」

「へぇ、この状況で質問とか勇気あるね。教えると思う?」

「…………」

「でも君の健闘を讃えて教えてあげるよ。僕たちの狙いは──このヒーロー社会にヒビを入れること」

 

 僕の言葉に、緑谷くんは表情を更に険しくする。どうやら中々に聡明な子のようだ。将来が楽しみである。

 ま、それはそれとして。

 

「で、だ。君に一つ提案がある」

「てい……あん……?」

 

 少しだけ体を起こし、緑谷くんは相変わらず僕を睨む。わぉ、僕ってば嫌われてるぅ。まぁ、ヴィランなんて嫌われて当然か。

 

「ヴィラン連合のリーダーがね、生徒を一人拐ってこいって言ってたんだ」

「…………」

「その生徒の名前は、爆豪勝己(ばくごうかつき)」

「やっ……ぱり……! かっちゃんを……!!」

 

 ターゲットの名前を出した途端、緑谷くんは苦々しい表情を浮かべる。

 どうやら少なからず縁があるみたいだ。これなら脅しやすいかも。

 

「今回のメンバーは粒揃いだからね。このままだとまず間違いなく彼は拐われる」

「くっ……!」

「そこで、君だ」

 

 僕は懐からナイフを取り出し、自身の右手首を切り裂く。

 そこから溢れ出す血を掬って、緑谷くんの口に流し込んだ。

 

「なっ、何を……んぐっ、げほっ、げほっ!」

 

 少しだけ噎せたっぽいが、それでも問題なく血は緑谷くんの喉を通り抜けた。

 その結果は、すぐに目に見えて表れてくる。

 

「あ……え、傷が……!」

 

 ついさっきまでボロボロだった緑谷くんの体が、たちまち再生していく。

 破壊されていた両腕は元の形を取り戻し、満身創痍だった全身はごく普通の健康的な色ツヤを取り戻していた。

 もうどこにも、緑谷くんが怪我をしていたという痕跡は残っていない。その事実に、緑谷くんは困惑の表情を浮かべていた。

 

「……何が、目的なんだ」

「お礼ぐらい言ってくれても良いのに……傷つくなぁ」

「…………」

「まぁいいや。さっきも言った通り、僕の目的は君だよ」

 

 座り込んだままの緑谷くんに、僕は右手を差し出す。

 

「僕に拐われてみない?」

 

 そのまま、僕は他人に聞かれたら絶対に誤解されそうな誘い文句を告げた。

 

 

 ──────────────────

 

 

 トガヒミコという少女にとって、アライブという存在は────であった。

 自分がいくら好きだという感情を注いでも死なない、それどころかその好きに全力以上で以て答えてくれる素敵な人(キチガイ)。

 だからこそ、トガはアライブを手放したくないと思っていた。手放されるのも嫌だと感じていた。

 だから、このお腹の中に居るモノで彼を繋ぎ止められるならば、いくらでも孕んでやるという決心があるのだ。

 

「んー……浅いです」

 

 だけれど、そのせいでこうして戦闘に支障をきたすのはどうかとも思うので、やはりトガは『妊娠するんじゃなかったかな』とちょっぴり後悔するのであった。

 只でさえおっぱいが大きすぎて邪魔なのに、お腹まで重くなっては戦闘どころではない。それどころか暗殺にまで失敗するというこの体たらく。

 率直にいって、トガはいつも通りの力を欠片も発揮できていなかった。

 

「お茶子ちゃん、腕、大丈夫?」

「うん、平気……かすっただけ」

 

 目の前に立つ、二人の女の子。

 目が大きく、舌も長く、見た目が蛙のような女の子。そして茶髪の、どこかふっくらとした女の子。

 ナイフに付いた少量の血を眺めながら、トガはどちらに話しかけるともなく口を開いた。

 

「血が少ないとダメです。やっぱり、ドロドロで真っ赤な姿がステキだよねぇ」

「っ……!」

「ケロ……クレイジーね」

 

 口元を覆っていた刺々しいマスクを外し、ナイフについた血を舌で舐めとりながらトガは笑う。

 ナイフの先端に負けず劣らずの鋭い八重歯が、彼女の唾液に濡れてテラリと光っていた。

 

「んー! 美味しいです! あなたの血、美味しい!」

 

 舐め取った血をじっくりと味わうように、トガは口をもごもごと動かす。その顔にはある種羨ましく感じるほどの、とろけるような恍惚の表情が浮かんでいた。

 その表情を見て、ふっくらした女の子──麗日お茶子(うららかおちゃこ)は顔をひきつらせて後退りをする。

 

「つ、梅雨ちゃん。なんかヤバイよ、このヴィラン……!」

「関わらない方がいいタイプね」

 

 身を引く麗日を守るように前に立ち、蛙のような女の子──蛙吹梅雨(あすいつゆ)は警戒心を一層高めた。

 しかし、そんな二人の態度も意に介さず、トガは花が咲くような──爛れた──笑みを浮かべている。

 

「梅雨ちゃん……梅雨ちゃん、梅雨ちゃん! かぁイイ呼び方……私もそう呼ぶね」

「やめて。そう呼んで欲しいのはお友達になりたい人だけなの」

 

 相対したまま会話を続ける二人。しかして、その均衡は唐突に終演を迎える。

 手に持ったナイフを数本投擲しながら、二人に向けて走り出すトガ。当然、まだまだヒーローの卵である二人が、不意打ち気味に放たれたナイフへ完璧に反応できる筈もなく。

 

「じゃあ私も友達だね、やったぁ!」

「ケロっ!?」

 

 麗日を狙って投擲されたナイフを、その舌で弾き飛ばす蛙吹。しかし、やはりというか完全には防げなかったようで。

 弾き損ねたナイフが麗日の肩に突き刺さった。

 

「いっ……!?」

 

 刺さった場所から伝わる激しい痛みに耐えかねて、麗日は堪らず後ずさる。

 すると。

 

「ふふっ、次は貴女ともお友達になりたいなー」

「えっ……?」

 

 後ずさった麗日の背中に、何か柔らかくて温かいものが当たった。それと同時に首筋に腕を回され、ナイフを押し当てられる。

 回り込まれた──そう理解した時にはもう遅い。首に当たる冷たい金属の感触が、麗日に命の危険を知らせていた。

 

「一瞬だけ目を離した隙に……!?」

 

 真正面からトガを見ていた蛙吹は、まるで彼女が消えたかのように錯覚したことだろう。

 麗日の声に気を取られて見失った次の瞬間には、既に麗日の背後に居たのだ。まるでマジックのようだと、蛙吹は場違いな感想を頭の片隅で思い浮かべる。

 

「お茶子ちゃんを離して!」

「おっと、動かないで下さいね。ナイフが滑っちゃうといけないので」

「くぅっ……!」

 

 ナイフを少しだけ食い込ませれば、麗日の首筋にうっすらと赤い線がつく。

 その光景を見て、蛙吹はその場から動けなくなってしまった。

 

「友達想いですね」

 

 そして、そんな蛙吹を嘲笑うかのように、トガは麗日を人質にゆっくりと後退していく。

 行き先は、闇が佇む夜の森。あそこに逃げ込まれたら、捜索は絶望的になるだろう。そうなる前に麗日を助け出さなくては。

 

「お茶子ちゃん、友達になろ? 絶対に仲良くできるよ私たち。だって、恋する乙女の顔してるもん」

「は……? なに、言ってんの……!?」

「好きな人のこと、もっと教えて? 私は血まみれな人が好き。いくら切り刻んでも死なない彼(・)がだーいすき」

 

 そんな蛙吹の切羽詰まった思考を余所に、トガは麗日に話しかけている。

 内容は恋バナと、この場にまったくといって言って良いほどマッチしていない。

 

「ほら、ほら、ほら。好きな人を教えて? 素(・)直(・)な(・)心(・)で(・)」

「え……あ……すき……なひと……わたしの……すきな……?」

 

 様子がおかしい──端から見ている蛙吹にはそう見えた。耳元でそんなことを言葉を囁かれた麗日の瞳が、段々と虚ろになっていく。

 

「わたしが……すきな……ひとは……デク、くん……」

 

 答えた瞬間、麗日の目から徐々に光が消えていく。最終的に、その瞳はただ森の奥にある闇を映し出すだけになってしまった。

 

「そっかー! デクくんっていうんだね、お茶子ちゃんの好きな人! 応援するよー、うんうん!」

「…………」

 

 耳元で声を上げるトガにもまったく反応しなくなってしまった。いったいどうしたのかと蛙吹が怪訝に思っていると、トガはおもむろに麗日の拘束を解放した。

 その突然の行動に蛙吹は疑問を抱くが、理由はどうあれチャンスには変わりない。

 

「お茶子ちゃん、早くこっちへ!」

 

 しかし。

 

「…………」

 

 麗日は答えない、ただボーッと、どこか遠いところを見つめているだけだ。

 

「ありゃ、ざんねーん。じゃあ行こっか、お茶子ちゃん」

「…………うん」

 

 そう言って、トガから差し出された手を掴む麗日。その意味不明な行動に、蛙吹は面食らったように動きを止めた。

 そうして、少しだけ開いた麗日の口から、衝撃的な言葉が発せられる。

 

「──行こっか、デ(・)ク(・)く(・)ん(・)」

「ケロ……!?」

 

 今、麗日は何を見ているのか。呟かれたその言葉はどういう意味か。

 すべて分からないが、一つだけ分かることがある。このままあのヴィランを逃がしてはダメだということだ。

 

「お茶子ちゃんを……返して!」

 

 蛙特有のジャンプ力でその場から跳躍し、勢いよくベロを振りかぶる蛙吹。

 それをトガ目掛けて振り下ろそうとした瞬間、その間に麗日が割り込んだ。

 トガを守るように両手を広げて立ちはだかるその姿には、確固とした決意が見てとれる。相変わらず目だけは虚ろなのが、相反する不気味さを感じさせるが。

 

「ケロっ……! どいて、お茶子ちゃん!」

 

 友達に攻撃をするわけにはいかない。そんな感情から、蛙吹は咄嗟に舌を引っ込めた。

 麗日に守られた奥で、トガが不気味に笑う。まるでイタズラが成功した子供のように。

 

「ふふん、やっぱり『好き』の力は偉大ですねぇ。お茶子ちゃんは友情より愛情を選んだのです」

 

 依然飛び上がったままの蛙吹に向かって、ナイフが一本投擲される。

 それは正確に結われた髪の間を射抜き、蛙吹を近くにあった木の幹に縫い付けた。

 

「そこで大人しくしててください。お茶子ちゃんは、私たちが貰っていくから」

 

 麗日の手を引いて、トガは夜の闇に消えていく。その光景を、蛙吹はただ眺めている事しか出来なかった。

 

「ふん、ふん、ふーん♪」

 

 恋とは──甘く儚く、それでいて強いもの。よく恋は盲目と言われるように、恋には人を狂わせる強大な力があるのだ。

 

 クリムゾン・ヒールお手製、幻惑媚薬。

 

 摂取した人間は、目の前の相手を愛する人だと思い込む──言わば本当に、恋は盲目状態にするというわけだ。

 ちなみに塗り薬タイプ。ナ(・)イ(・)フ(・)に(・)で(・)も(・)塗(・)っ(・)て(・)お(・)け(・)ば(・)誰にも気づかれる事なく、意中の相手を射止められることだろう。

 

「別に、他の子を拐ってくるなとは言ってなかったもんね。アライブ褒めてくれるかなぁ」

 

 隣で歩く麗日を眺めながら、トガは満足そうな笑みを浮かべる。

 この日──二人のヒーローが、ヴィランの手に墜ちたのだった。




 エロなし回でした。
 エロを期待してた人には申し訳なかったです。
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