決して今日が節分だからとか関係ないお話───
今回は勇儀さんのお話だよ!
あいつと出会ったのはいつだっただろうか。殴り合って、酒を飲んで、殴り合って、そしてまた一緒に酒を飲んで。
そんな事を繰り返し、いつも側に居るのが当たり前になって。だから、いずれこうなる事は分かっていた。
「なあ、お前さん───」
あいつは上から降ってきた。いや、降ってきたというか落ちてきた。
地上から地底へ、地獄から楽園へ、パルスィのいる橋へと真っ直ぐに落ちてきた。
その時、橋の近くで呑んでいたのはきっと運命だったんだろう。
「井戸に落ちたら別世界とか何てRPGだ?」
男はすぐに立ち上がり、ぶつぶつと訳の分からない事を呟いていた。
不信感より好奇心の方が勝ったので話しかける事にした。
「それにしてもどこまで落ちたんだ?」
「ここは楽園の入り口さ、地上の奴らは地獄って呼んでるがね」
「親切に教えて頂き……その角、あんた鬼か?」
人間にしては珍しく、妖怪を相手にしても怯える事なく人間同士の様に話した。
「地獄なら鬼がいたって不思議じゃないだろう?それよりもここには決まりごとがあってね」
この時の事は口から出まかせで、単純に暇なだけだった。
「なぁお前さん、喧嘩しないか?」
「それがここの流儀ならば、持てる全てを持ってお相手させて頂こう!」
正直、1分持てばいい方だと闘り合う前までは思っていた。
しかし予想は良い意味で裏切られた。
「あんた・・・本当にただの人間かい?」
決して強いわけじゃない。だけど幾ら打てども殴れどもあいつは倒れなかった。
「生憎と身体の丈夫さだけは自信があってな!」
「ならこいつは、どうだい!」
全力の拳を振るう。しかしその拳は空を切り
「その攻撃を待っていたんだよ!そぉい!」
身体は浮かび上がり、空を仰ぎ見ていた。
「どうだ?これは背負い投げって言ってな───」
何か長々と話していたが、あまり聞いていなかった。
それ程衝撃だった。喧嘩して負ける事は何度かあったけれど、何の能力も持たない、ただ頑丈なだけの人間に負けるのは初めてだった。
「ははは……あっはっはっは!」
「いっ!?全然効いてねぇ……」
「いやあ負けた負けた!あんたやるじゃないか!」
「え、何?俺の勝ちで良いの?良いんだよな?」
「気に入った!詫びといっちゃあなんだけど、一杯どうだい?」
「あれ、これ話通じてる?通じてないよね?会話のキャッチボールが全部打ち返されてるよね?」
「いやー、さっきは悪かった!最近どうも骨のある奴が居なくってねぇ!」
「はっはっは駄目だこいつ話聞かねぇ!」
「まぁ飲みな!今日は私の奢りさ!」
「酒は好きだから嬉しいが……自分のペースでゆっくり飲ませてもらう」
「あんた酒は飲めるクチなのかい?そいつはいい!」
「一気に飲まなければずっと飲んでられる程には。それにしてもここは活気があって良いな」
「なら飲み比べをしないかい?なぁに安心しな、潰れても私が介抱してやるからさ!」
「活気かな!?活気で騒がしいから話が伝わらないのかな!?」
3時間後……
「いや〜、やっぱり喧嘩の後の酒は美味いねぇ!」
「らからぁ……はらひをひへっへいっへんらろぉ!?」
かなり時間が経ち、他の客も一様に飲み比べを見ている。
最初は人もまばらだったが、今は地底中の酔っ払い達が集まっている。
「おう兄ちゃん勝てよ!俺はあんたに今日の酒代賭けてんだ!」
「勇儀さんが負ける筈無いだろう、今日はお前の奢りで決まりだな!」
「しかし酒が足りないな……こりゃあ引き分けか?」
「じゃあ、これれひめよう」
そう言って机の上に置かれたその酒は、黒色の蓋、緑の知らない文字が書かれた酒だった。
「こんなもんで足りるとは思えないけどねぇ……」
「それではご両人、まず1杯目!」
いつのまにか来ていた萃香が審判役をやっていた。お互いに注がれた酒を飲み干す。
「これは、なかなか効くね……」
純米酒の様に芳醇な味わいでも香りでも無く、ただ酔わせる為だけに作られた酒、と言った感想だ。
一方で、そんな酒を持ってきた本人は
「おおお、おろれば、酔いも、さめる……!」
何故か立ち上がり、踊っていた。
「それでは、2杯目!」
少し意識が朦朧としてきた。一杯目と違い、味を楽しむ余裕が無くなってきた。一方であっちは動きが鈍りながらも踊っていた。
「お互いに危なそうだけど3杯目!」
周りを見渡すと、匂いだけで力尽きた観客も少なくないようだ。こちらもかなり厳しくなってきた、飲めても1、2杯といったところだろう。
「かーもんべいべー、かーもんべいべー……」
あちらも限界が近いようで、目の焦点が合っておらず、同じ言葉を繰り返している。それでもまだ踊っているのには感心する。
「さぁ!ここで運命の4杯目!」
飲み干した瞬間、机に突っ伏す。もう飲めない。限界だ。
「おっとこれは勇儀限界か?5秒以内に起き上がらないと負けだ!」
「5、4、3、2、1……」
勝負は意外な形で終わりを告げた。
「かーもん……ぐえ」
何やら観客が騒々しい。あちら側で何かあったようだ。
「おい!この兄ちゃん踊りを止めて倒れたぞ!」
踊り続けていたので判りづらかったが、あちらも限界だったようだ。
「おっとここでまさかの気絶!勝者は勇儀だぁ!」
「は、はは、ぐう」
どうやら私は勝てたらしい。そこから先は覚えていない。
それからは毎日のように殴り合って飲み殴り合って飲み、愚痴を聞いたり聞かれたりを繰り返していた。
喧嘩も強い、酒も私に負けず劣らず強い、私みたいな酔っ払いの愚痴も親身になって聞いてくれる───あいつは私の理想の旦那って奴で、好きになっていった。この想いを伝えずにずっとこのままでも良いと思っていた。あの言葉を聞くまでは
「地上に、帰るだって?」
その日はいつもと違い、旧都の入り口───あいつと私が初めて喧嘩した場所で飲んでいた。
「ここの生活は楽しいが、いつまでも地底に居るわけにもいかないしな」
「楽しいならずっとここにいればいい」
「だからそういう訳には」
「毎日喧嘩して、毎日飲み潰れて、酔っ払い達とバカ騒ぎして楽しく過ごす事の何がいけないんだい?」
「……それは」
ただのわがままだと言う事は自分でも分かっていた。
そんな気持ちを抑える事が出来ずに感情のままに吐き出してしまった。
「なあ、お前さん。ずっと一緒に楽しく過ごす事は出来ないのかい?」
伝えずに秘めていた想いも、吐き出してしまった。
最後の方は声になっていなかったかもしれない。
「ごめん、帰らなくちゃいけないんだ」
嫌だ。
「明日の朝帰ろうと思ってる。」
嫌だ嫌だ嫌だ。
「だから今日は別れの意味も込めて会いにきたんだ。」
帰らなくちゃいけないのは大切な人がいるから?
地上に行ったら私の事なんか忘れちゃう?
「じゃあ、元気で」
誰かに渡したくない。渡さない。
私だけの、モノにしたい。
「そうかい、じゃあ話し合いはこれで終わりだね」
「何を、言って───」
両足の骨を折る。ボキリという音の後に絶叫が響き渡る。
「勇儀、何を」
叫び疲れたのか、息も絶え絶えでこちらに問いかける。
「やっとお前とかあんたじゃなくて名前で呼んでくれたね?」
「どうやら私はあんたに酔っちまったみたいでね・・・どうしても私のモノにしたい気持ちが抑えられないんだ。」
「幾らあんたが頑丈とはいえ、骨が折れちゃしばらくは動けないだろう?」
「だから、その間にあんたを説得する事にした。ずっと地底に居るって言うまで何度も何度でも」
「これはあんたの為でもあるんだ。私達が分かり合えたら、もう一度酒を飲み交わそうじゃないか。」
「どうしても分かり合えないなら・・・一緒に居ようなんて言わない。手足を使いものにならなくしてでも一生私の側に居させようかね?」
あれから幾日が過ぎた。私は今日も説得をする。
強い子がヤンデレになると怖い、以上閉廷!
因みにこの勇儀さんも感染してる状態なので!普段からこんなヤンデレじゃないので!