※この作品はR-18です。

ムラムラ文芸部   作:old777

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いっけなーい!エラーエラー!

私、モニカ!17歳!文芸部部長!

皆との楽しい文芸活動とこの物語を守るために日夜、好感度管理とかイベント管理を頑張ってたんだけど……!!

皆の好感度を見てて気になる項目を見つけちゃって適当にMAXの100の値を入れちゃってもう大変!!

一体この物語、これからどうなっちゃうの〜!?!?!?


愛の印鑑―YuriPhese―

「ここはどこなんだ……?」

一見教室のような場所に俺は座っていた

椅子から立ち上がることはできず、動かせるのは頭くらいだ……

 

外は薄暗く、星々が煌めいている

そして、テーブルを一つ挟んでもう一つの椅子

そこには俺の良く知っている人物が座っている

「ハロー、タチバナ君、夢の中にお邪魔してごめんね?」

 

俺が所属している文芸部部長のモニカだ

星の光に照らされて彼女の髪がキラキラと輝いている

 

「夢……まぁ、そうだよな、こんな空間実際にあるわけ無いし」

夢の中なら、この奇妙な空間も納得できる

確かに寝ている間は体を動かそうとしても動かせないもんな

 

「私がここに来たというか、この空間を作ったのよ……あなたに伝えなきゃいけないことがあってね」

「今更なに伝えられてもびっくりしないぞ、ああ、モニカだしなって納得しちまうからな」

サヨリから聞いた程度にしか知らないが、どうやらサヨリとモニカはこの世界がどうなっているのか知っているそうだ

それ以上のことは聞かなかったが、早い話自分たちに不都合が出ないように取り繕ってくれてるらしい

実質的に神様みたいなもんかって無理やり納得したんだけどな。

 

「えっとね……単刀直入に言うと、ほかの文芸部員三人の発情スイッチ入れちゃった」

 

 

「…………はい?」

夢の中のせいで聞き間違えたのだろうか?

まずモニカが発声しないような単語が口から飛び出してきたような気がするが……

 

「どこから説明しようかしらね……」

モニカは頬に汗をかいて困っている様子だ

「まぁ、とりあえず最初から説明してくれ。まだ何一つとして理解できてない……」

モニカは一つ息をつくと俺に向かって説明を始める

 

「そうね……まず私昨日彼女たちの好感度をいつものように閲覧してたのよ」

うん、とりあえずここに関しては突っ込まないぞ。

この世界を円満に回すために好感度の維持が大切だってモニカからは聞いていたからな

実際、最近ナツキと接してなくないか?とかユリの好感度がって話を彼女からはよく聞いていた。

 

「そしたらね、偶然好感度をいじるバーの近くに、発情ステータスって言うのが見えてね」

「プライベートな話だからあまり言及しないけど、皆の発情度の値がそれぞれ入ってたのよ」

「で、お前がそのスイッチをオンにしたと?」

 

嫌でも顔をしかめてしまう。

何かのバグのせいで起こってしまったのならともかく

モニカが勝手にいじって

勝手に起こしたことなのだ。

そして、その結果俺が苦労することになるのは目に見えていた。

 

「うん……上限を知りたくってとりあえずMAXまで値を入れたのよ」

「そしたら、急に彼がゲームを終了しちゃってね……」

「そこまではよかったんだけど……」

「だけど……?」

 

モニカは頬に冷や汗をかいている

そこまで話しにくい内容なのか……?

嫌でもその緊張がこちらに伝播してしまい

机の下で握っている手が汗ばんでくる

 

「もう一回、いじろうとしたらいじれなくなちゃってて……」

「今でもMAXの値が代入されたままなの……」

「マジかよ……で、俺の身に何が起こるって言うんだ?」

「恐らく皆があなたを誘惑しに来るわ……」

「中にはあなたを無理矢理襲いに来る人もいるかも知れないわ……」

 

なんとなく予感はしていたが本当にそうなるとは……

これはもう文芸部に顔を出さない方がいいのではないのか……?

 

「あっ!ちゃんと部活には出てね?体調が悪いって皆が心配しちゃうから……」

「そしたら皆、あなたの家を訪ねる大義名分を振りかざしてお家に押し掛けられるわよ……」

「逃げ場は……ないのか?」

「ないわね」

 

無慈悲な言葉が心に刺さる

文芸部に顔を出さなければ家に押し掛けられ……

出したら出したで誘惑しに来ると?

何か手はないものか……

 

「ともかく、こんなことになっちゃってごめんなさい……」

「私もできるだけ何とかしてみるわ……」

「だからあなたは出来るだけいつも通り過ごしてほしいの」

「はあ……マジかよ……」

 

少なくとも今の俺にできることはなさそうだ……

それに、あいつらの性格を考えるとそんなにぶっ飛んだことはしないだろう

サヨリはいつも通りに接してくれるだろうし

ユリはそういうことに関しては奥手だろうし

ナツキも人前でベタベタするようなことはしないだろうからな。

 

「わかったよ、なんとか頑張ってみるよ……」

「本当にごめんなさいね、私も一生懸命頑張るからね?」

「起こっちまったことはしかたねぇよ」

「ただ、出来るだけ早急に解決してくれると助かる」

 

モニカは大きく頷くとにこりとこちらに向けて笑いかける

 

「分かったわ、私も善処してみるわ」

「そろそろ、お別れの時間ね……それじゃぁまた文芸部で」

「やけにあっさりしてるんだな」

「一刻も早く直したいからね……またね!」

 

モニカの体がだんだんと透けていく

それと同時に教室の壁が崩壊し

俺は宇宙の中へと放り出される

宇宙の中では何かが連続的に音を立てていた……

 

 

 

プルルル……プルルル……

眠い目を擦りながら、なんとか目覚める

同時に宇宙の中でなっていた音がスマートフォンの着信であると気がついた

こんな朝早くに誰だ?と思いながら

ろくに着信画面も確認せずにスマートフォンを手にして着信をとる

 

「あっ!タチバナやっとでてくれた!おはよー」

「なんだサヨリかよ……お前こんないつも朝早かったっけ?」

「いつもタチバナからかけてくれるから、今日はこっちからかけてみようかなーって」

 

確かに俺は毎日サヨリにモーニングコールをかけている

あいつが毎朝寝坊するからそれの予防だ

つい最近まではモーニングコールをかけても出なかったが

首吊り未遂の一件があってからは、毎回出てくれるようになっていた。

 

「でもお前からかけてきてくれるなんてどういう風の吹き回しなんだ?」

「えへへ……なんかタチバナの声がどうしても聞きたくって……」

「そんなの後30分もしたらお前の家の前通るだろうに……」

「なんかね、待ちきれなくって……それじゃ待ってるからね!」

 

電話は不意に消えビジートーンが部屋に響く

そのままスマホの画面を眺めて奇妙な事に気がつく

不在着信が入っていたのだ

それも数十件も……

 

不在着信をスワイプして眺めていく

ユリ、ナツキ、サヨリがひっきりなしにかけてきているのが履歴からうかがえた。

さすがに、冷や汗をかかずにはいられなかった

サヨリはともかく、ナツキやユリまで電話を掛けてきているのだ

 

ユリは用事がなければ電話をならすことはないし

そもそもメールで済むことばかりなので、滅多に電話しない。

ナツキにいたっては電話はおろかメールすらしたことなかったはずだ……。

 

これが、モニカが言ってた発情スイッチって奴のせいなのはなんとなくわかった

そしてその恐ろしさも同時に認識することができた。

 

「まぁ……とりあえず支度するか、最悪サヨリの方からこっちに来るかもしれないからな……」

階段を降りて朝の支度を済ませる

いつもより手早く支度を済ませて

サヨリの元に向かおうと玄関に手をかける。

そこには意外な人物が玄関の前で待ち構えていた。

 

「タチバナさん……お待ちしておりました……」

「ユリ!?どうしてここに!?」

「一緒に登校しようかと思いまして……そのため、何度も電話をいれました」

「何度入れても不在着信だったので……起こしに向かった方がいいかと思いまして……」

 

ユリの目は左右にキョロキョロと動いている

いつもなら比較的前を向いてしゃべってくれるのだが

今日は自分と目を合わさないようにしている。

 

「……ユリ?」

「……はい……ごめんなさい、押しかけてしまって……」

「いや、大丈夫だ、ちょっと驚いただけで……」

「そうでしたか、やはりアポイントは取るべきでしたね……明日からはメールしますね?」

 

……今明日からと言ったのか?

でも明日は土曜日だから学校はないんだけどな……

それに明日はナツキとお菓子を作る約束をしていたはずだ

 

「まぁ、そうだな……そうしてくれると助かる」

「ではそろそろ向かいましょうか、遅刻してしまうとまずいですし」

「まぁ……そうだな、遅刻するとまずいしな……」

 

俺とユリは隣り合って歩みを進める

いつもよりニコニコとしながらユリは俺の顔を見て時々笑いかけてくれる。

ただ、学校に近づくたびに俺の顔には冷や汗が流れてくる

彼女が……近づいてくるのだ

 

「……サヨリちゃん?」

「ヤ、ヤッホーユリちゃん……」

「あ~あ、出会っちまったか」

 

まぁ、通学路にサヨリの家があるんだから

そりゃあ、出くわすわな。待ってるって言ってたし。

この二人、モニカが言うには今スイッチ入ってるんだよな……

喧嘩とかしたりしないだろうな……もしそうなら全力で止めてやらないといけない

 

俺の中で緊張が走る

冷や汗が頬を伝う

二人の動向に目を凝らす

どちらが先に動くか息をひそめる

 

「なんで、ユリちゃんがタチバナと一緒に歩いてるの?」

「今日は一緒に登校するって約束していたので……」

「そうなの!?タチバナ!?」

「いや……朝起きたら家にユリがいてさ……」

「えっ!?」

 

サヨリがユリをじっと見つめる

いや……睨んでいるのか?

それを見てなぜかユリは勝ち誇ったように微笑んでいる

 

「サヨリちゃんも一緒に登校されますか?」

「……うん!皆で行った方が楽しいもんね!」

「……まぁ、確かにそうですね……」

 

意外なやり取りだった

いや、サヨリらしいと言えばらしいのだが

てっきり、二人して喧嘩でも始めんじゃないかと内心びくびくしていた

とにかく平和に学校へは迎えるかもしれない

 

「うーん、それにしても少し冷えるよね……」

もう冬も近づいてきている

葉は完全に色づいて、落葉が地面を埋め尽くしているところもあるそうだ

今日も手袋をつけていこうか迷ったくらいの気温だ

 

「たしかに……もうそんな季節でしたか」

「だからねタチバナ、マフラー持ってきたんだよ!」

彼女の手には昔俺がプレゼントした青いチェックのマフラーが握られていた

その両端を持って俺の頭の上を通すように掛けてくる。

 

「おい、サヨリ!何してるんだ!?」

「えへへ~、寒いからねー」

「サヨリちゃん!? そ、そんな……」

 

ユリは両手を胸の前で組んでサヨリがすることを怯えるような目で見ていた

サヨリは器用に俺の首にマフラーを巻いて

残りのマフラーを自分の首に巻き付ける

マフラーが巻かれるたびに二人の距離は近くなる

 

「えへへ~、これで温かいね」

「お前……ユリが見てるだろこんなところで……」

「ああ……そんな……」

 

ユリは先ほどの格好のままカタカタと震えている

震える彼女を見ていられなくて

組まれていた彼女の手をほどき

自分の手を絡める

 

「ええっ!タチバナ!」

「あの……タチバナさん……?」

「お前も寒そうだったからな、こうしてれば少しは温かいだろう?」

 

ユリの手の震えはもう止まっていた

代わりに俺の横でサヨリがカタカタと震えている

恐らく寒さによるものではないだろう

 

「むぅ~!いいもん!もう片方の腕は私が貰うからね!」

サヨリにグイッとユリをつかんでいる方の手とは逆の手を引っ張られる

そしてそのまま三人で手をつないで二人に連行されるような格好で学校まで運送された

ここまで二人が積極的に来るとは思っていなかったが

一応の修羅場は回避できたのかもしれない

サヨリとマフラーでつながりながら

ユリとは固く手をつなぐという奇妙な光景ではあるが。

 

学校に着くとさすがに二人とも手を離してくれる

二人ともきつく俺の手を握っていたせいか

離した瞬間に指先に血の流れるじわっとした感覚が広がる。

 

「それでは、サヨリさん、タチバナさん、また文芸部で」

さっきまで口をへの字にしてまったくしゃべらなかったユリが口を開く

しかし、俺たちの返事を聞かず、上靴を履いてそそくさと自分の教室に歩いて行ってしまった

 

「えへへ、流石にやりすぎちゃったかな……」

「そりゃ、そうだろ……お前への呼び方もよそよそしかったしな」

「うん、今度文芸部で謝らなきゃいけないよね……でも」

「でも、なんだよ」

「タチバナを取られちゃうかと思うと心配で……」

「安心しろよ、俺はお前の隣にいるんだから。」

 

シュンと頭を下げているサヨリの頭をなでる

元々ぼさぼさになっている髪がさらにぼさぼさになる

それでもサヨリは俺の掌の下で笑っていた

 

「うん!そうだよね!ありがとうタチバナ!」

「ただ、しっかり謝っておけよ、お前のせいで文芸部崩壊とか笑えないからな」

「えへへ~、その時はモニカちゃんが何とかしてくれるよね」

「あんまり、あいつを頼りすぎるのはやめろよ……忙しいんだからさ」

 

手を振りながらサヨリと別れて自分の教室に向かう

ようやく一息つける時間が見つかった

朝からどっと気疲れしてしまった

窓辺に差し込む朝の陽気が温かくて

つい瞼が重くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「タチバナ~!おーきーてー!」

耳元でうるさいモーニングコールが聞こえてくる

聞き慣れた声のその主はサヨリだった

 

「んあ……寝てたのか……」

「そうだよ!もう4限目終わっちゃってるよ!」

「途中までは起きてたんだがな……」

「タチバナも私のこと言えないよねー」

「かもしれないな……で何の用なんだ?」

 

隣のクラスにいるサヨリが昼休みに訪ねてくるのは珍しいことではなかった

5限目の教科書が無くて借りに来ることがほとんどだが

その時は大抵授業の開始前くらいに借りに来る

昼休み始まってすぐに来るなんて何かあったのだろうか?

 

「えへへ~、一緒にお昼食べようと思って~」

「ああ、なるほど……久々だな」

「うん!でね今日は食堂じゃなくて部室で食べようよ!ちゃんとお弁当も作ってきたんだ!」

 

そのサヨリの手には赤いハンカチで包まれたお弁当と

青いハンカチで包まれたお弁当が握られていた

いつもは食堂で友達と食べていた気がするが

本当に今日は作ってきたようだ

多分、俺と一緒に食べるために。

 

「大丈夫なのか?いつも一緒に食べてる友人とかは」

「うん!皆にもとっとと行って来いって言われちゃって」

「そうなのか……まぁ、ありがたくいただこうかな」

 

俺たちは二人して三年生の教室のほうまで向かう

お昼休みのせいか、ここもやはりがらんとしてしまっている

部室の前に着くとサヨリと俺は妙なことに気が付いた

 

「あれ……部室のカギ開いてる」

「本当だな……昨日お前閉め忘れたか?」

「ううん、ちゃんと閉めて帰ったよ、タチバナも見たでしょ?」

「まぁ、鍵を閉める音は聞こえてたな」

 

しかし、今その扉は鍵が開いており

扉が少し開いてしまっている

教室と廊下を隔てる扉の隙間からは

エアコンの生暖かい空気が流れ込んできている

 

「もしかして、誰かいるのか……?」

「こんな時間に?確かに皆鍵持ってるからいつでも入れるけど……」

「とにかく開けるか……」

 

いたとしても部員の誰かだろうということは大方予想できる

それなら何も遠慮する必要はないだろう

俺は意を決して部室の扉を開けた

 

「えっ……?お、お二人ともなぜここに……?」

「ユリちゃん!!なんでここにいるの!?」

「ユリ……お前ここで一人飯食ってたのか……」

 

そこには机に座りポットとティーセットを広げて

サンドイッチを一人でもそもそと食べているユリの姿があった

 

「なんでこんなところで食べてるのー!どうせなら一緒に食べようよ!」

「いえ……お二人の邪魔をするのは……」

「俺は構わないけどな……サヨリも構わないって言ってるし、いいんじゃないか?」

 

そう言いながら近くにあった机を二つ、ユリの座っている机にくっつける

くっつけた机にサヨリが一つずつお弁当を置く

ユリは立ち上がってポットから俺たちの分のお茶を注いでくれる

注がれたティーセットからはウーロン茶の香りが立ち上ってくる

 

「文芸部に入ってからいつもここで食べてたんです……騒がしいのは苦手だったので……」

「それじゃぁ、俺たちが来たのはお邪魔だったか?」

「いえ!そんなこと……むしろ貴方が来てくれてうれしいです」

「ちょっと~私もいるんだよ~!」

 

サヨリは机の上に顔を乗っけて膨れている

ユリがサヨリに手を伸ばしてその頭をぽんぽんと叩く

頭を左右に動かしてサヨリがご機嫌そうに笑っている

 

「まぁ、食べようぜ、昼休みが終わっちまう」

「そうだねー、私の自信作なんだよ~」

「ほーーー、サヨリちゃんの手作りお弁当ですか」

 

ユリの鋭い視線に刺されながら

お弁当を包んでいる青い布をほどく

その中には黄色い卵型のお弁当箱がゴムバンドで止められて入っていた

ゴムバンドを取り外し、お弁当箱の蓋を開ける

 

その中には黄色い卵に包まれたオムライスがぎっしりと詰まっていた

上にケチャップで何かを書いた痕跡があるが

お弁当箱の蓋に付着して、何を書いていたかわからなくなっている

 

「おおお!おいしそうだな」

「えへへ~、でも書いてた文字消えちゃった……」

「気にしねぇよ、また今度書いてくれればいいから」

「どんな文字だったのか、私気になります」

 

サヨリもお弁当を開けて三人でお昼ご飯を食べる

サヨリの作ってくれたオムライスは絶品でおいしいおいしいと唸りながら口に運んだ

いつも食堂で食べていたからこういうのは久々だった

 

「こうやって、皆でお昼を囲むのは初めてです……」

「そうなの?いつも一人で食べてたの?」

「はい……階段や、自分の机で食べていましたが」

「文芸部の部室ができてからはずっとここで……好きなお茶もありますし……」

「初めてですが、こうやってみんなで囲むお昼ご飯もおいしいものですね」

 

ユリはそう言いながら俺たち二人に微笑みかけてきてくれる

心から俺たちとの食事を楽しんでくれているようだ

そう思うと思わず顔がほころんでしまう。

 

「それなら、これからは皆で食べようよ!」

「えっ!そんな……いいんですか?」

「おお、それいいな、ただ部室でお昼ご飯か……弁当作るのが面倒だな」

「えへへ~、じゃぁタチバナの分は私が作るよ~」

 

ガタッとユリがサンドイッチ片手に立ち上がる

俺たち二人はいきなりの出来事に驚きつつもユリの方を見る

ユリはそのままサヨリを見下ろすように言い放った

 

「そんな、サヨリちゃんばかりに負担を押し付けるわけにはいきません!」

「私もタチバナさんのためにお弁当を作ってきます!」

「ええっ!?だ、大丈夫だよ……」

「ほぉ、ユリのお弁当か……ちょっと気になるな」

 

サヨリの手料理はよく食べているが、ユリの手料理は食べたことがない。

ナツキはよくお菓子を作ってくれるから料理ができるのは明白だが

ユリについては未知数だ……実際どうなんだろうか

結構自信満々に作るとは言っているが……

 

「ほら!タチバナさんもそう言ってくださってます!」

「そ、そうだけど……」

「待て、待て。それなら交互に作るって言うのはどうだ?」

「私とサヨリちゃんで、ですか……?」

「いや、俺も作るよ、お前ら二人だけじゃ不公平だろ」

 

二人に作ってもらえるのはうれしいけど

俺に返せるものなんて何もないからな。

それにお弁当作るのなら3人分でも二人分でもあんまり変わらないだろう

 

「違うの!私がタチバナに作りたいの!」

「そうです、タチバナさんに食べてもらうからこそ意味があるんです!」

「そうは言ってもなぁ……まぁ、一度食ってみろよ、料理はそこそこできるはずだからさ」

「うう、確かに料理の腕だけならタチバナの方が上かも……」

「それに、サヨリに任せてたら、昼飯は毎日卵料理食う羽目になるかもしれないからな」

 

実際、サヨリの作る料理は卵料理がすごく多い

卵と野菜の炒め物、オムライス、親子丼にかに玉

むしろ卵料理を見ない日がないくらいだ

 

「そういうことだから俺も作るぞ。皆でやった方が楽しいのは詩もお弁当も一緒だ」

「そういう物なのでしょうか……」

「ダメだよユリちゃん、こうなったらタチバナは止まらないから……」

「よくわかってるじゃないか、まぁ、次の月曜日はユリに作ってもらうけどな」

「はい!あなたがおいしいと言ってくれるお弁当作って見せます!!」

 

ユリはそういうと、最後のサンドイッチを口の中に放り込んだ。

ふと、顔を上げるともう5限目の10分前というところになっていた

皆昼食を終えて、ユリのお茶を楽しんでいたがそろそろ時間のようだ

三人でティーセットを片付けて、それぞれの教室に戻っていく

 

 

 

 

 

 

 

午後の授業は最後の1限を残すのみとなっていた

だが、チャイムが鳴っても先生は来なかった

しばらくの間教室がざわざわしていたが

しばらくすると担当とは違う先生が教室のドアを開けて中に入ってきた

 

「えー、皆静かに……」

「7限目の国語の時間だが担当の高橋先生が風邪でお休みになっている……」

「そのため、今日は自習とさせてもらう。私が隣で授業をしているので何かあったら連絡するように」

 

そう言い残すと先生は扉を開けて教室を後にする

先生が着扉を閉めるや否や数人の学生からイエーイと声があがった

高橋先生が心配になりながらも、俺も内心喜んでいた

しかし、文芸部まで時間をどうやって潰そうか……

 

 

 

 

悩んだ挙句俺は部室の前に立っていた。

どうせ、教室にいてもすることないし

部室で本でも読んでいたほうが有意義だろう

授業で使われていなくてよかったと思いながら、部室の扉に手をかける

 

ガラガラと扉を開けると中から生暖かい空気が流れ込んでくる

誰か先に先客がいるのかと教室を見渡す

中を見渡すとクローゼットの前の席にユリが座っていた

両手を机の下に隠して頭を下げ小さく痙攣している

 

……嫌な予感がした。

また彼女は自分の感情を制御しきれなくて自分を傷つけているのではないか?

急いでユリの元まで駆けつける

足音に気が付いてユリが顔を上げる

ユリの席まで向かいユリの右手をひっつかみ無理やり上げさせる

 

もう二度とリストカットなんてさせるか

そう思ってつかみ上げた右手には

ナイフではなく、俺の黒いペンが握られていた

 

「あっ……んっ……タ、タチバナさん……?」

ユリの顔は真っ赤で、息もなぜか上がっている

体は未だに小さく痙攣しており、固く強張っている

 

「ご、ごめん!てっきり俺、ユリがまた自分を傷つけてるのかと……」

パッとユリの右腕を離す

ユリが握られていた手を胸の前で握りしめる

俺の黒いペンが全体的にテラテラと輝いている

 

「いえ……大丈夫です……ご心配おかけしました……」

「いやこっちこそ……ごめんな、痛かっただろ?」

「いえ、ちょっと驚いただけです……まだ誰も来ないと思っていたので」

「ああ、七限目が自習になったからな……最後の時間だし皆帰るみたいでな」

 

ふと、ユリの机の上を見る。

見慣れた詩がユリの机の上に置いてあった

昔、モニカが提案して部員一人一人にあてた詩を書こうって言う課題で

俺がユリのために書いた詩がしわくちゃになっておいてあった。

ずいぶん前の課題のはずなのに、なぜここにあるのだろう?

 

「この詩……まだ大事に持ってくれてたんだな」

「えっ……はい、私の大事な物の一つです」

「そう言ってくれて、ありがたいよ」

「何度も何度も読み返して……くたびれてしまいましたけどね……」

 

もう一度詩をよく見る

所々変な折り目が付いたり

雨に打たれたのか一部の時が滲んでしまったり

紙にシミが付いてしまっている

それでも、大事に持ち歩いてくれているのは本当にこの詩を大切に思ってくれているからだろう。

 

「こんなになるまで大切にしてくれてありがとうな」

「いえっ、そんな……」

「また今度、ユリのために詩を書くよ。楽しみにしててくれよ」

「なら……私もタチバナさんのために詩を書きます!!」

「それなら、俺も大事に持っておこうかな」

 

ユリが俺に微笑みかけてくれる

それにつられて俺も笑ってしまう

二人の間に奇妙な時間が流れ

ユリが気まずそうにもじもじしている

 

「あっ、お茶でも入れますね!」

ユリが椅子から立つと同時にユリの膝が折れ曲がる

ユリの膝はガクガクと震えていて立つことすらままならない状態だった

上体がぐらりと地面に向かって落ちていく

 

「危ない!!」

膝をついてユリの倒れてくる体を抱きとめる

何とか地面に着く前に抱きとめることができた

ユリは手を突こうと両手を前にしていたので

互いに抱き合う形になってしまった。

 

「えっ……あっ……」

ユリの顔が真っ赤に燃え上がっている

「大丈夫か?怪我無いか?」

ユリの体を引きはがし、ユリの両腕を持ちながら体を見渡す

 

見たところどこにも怪我はないみたいだ。

とりあえず一安心といったところだろうか

しかし、なぜあそこまで膝が震えていたのだろう

ずっと座っていたわけでもないだろうに

 

「…………」

ユリは下を向いたままただじっと黙りこくっている

「ユリ?大丈夫か?怪我はないみたいだけど……」

ユリの唇がわずかに震えている

何かをつぶやいているようだが、声が小さくて聞こえない

 

「タチバナさんが悪いんですよ……」

わずかにその声が聞き取れたかと思うと

急にユリに腕を引っ張られクローゼットの中に引きずり込まれた

クローゼットの扉が閉まり暗闇の中に二人きりになる

 

「ユリ!?いったいどうした!?」

扉から漏れるわずかな明かりで現状を認識する

右手を強く握りしめられ離れることができない

ユリはクローゼットの壁に背をつけて俺と体を密着させている

 

「タチバナさんが私に優しくするから……もう我慢できないんです……」

ユリは壁にもたれかかりながら俺の背中に両手を回す

右の太ももがユリの足に挟まれる

俺の足にユリが腰かけるように座る

じっとりと湿った感触が右の太ももに広がっていく

 

「ユリ、おい……やめろって……」

これが、モニカが言っていた発情スイッチとかのせいなのか?

普段ならこんなに大胆なアプローチなんてしてこないだろう

思っている間にもユリと俺の距離は近づいていく

 

「ごめんなさい……でも……もう……」

彼女の右手がポケットに伸びる

カチャリと金属と金属が噛み合う音がする

僅かな光の中、銀色に光るそれを何とか認識することができた

 

ユリが手にしていたそれは銀色のバタフライナイフだった

そのまま両手を俺の肩の上に通して抱き着く

恐らくこのまま自分の腕を切りつけてしまおうと思っているのだろう

 

「待て!ユリ!!」

左手でユリの右腕を壁に押し付ける

カラーンと床にバタフライナイフが落ちる

拾い上げないようにユリが乗っていない方の足でナイフを探って蹴り飛ばす

 

「何考えてるんだよ!!」

「ごめんなさい……このドキドキを抑えられなくて……」

「でも……どうにかなってしまいそうなんです!!」

「自分の体を傷つけないと……気が狂ってしまいそうなんです!!」

 

ユリの瞳孔が小さくなり、瞼はいつもより大きく見開かれている

さっきまで首元に届いていた甘い吐息は激しさを増し

ヒューヒューと喉の奥から苦しそうに息が漏れ出る音がしている

 

「タチバナさん!何でもいいです!何でもいいので私の体を傷つけて……」

「いや、でもユリを傷つけるなんて俺にはできない!」

「お願いします!!」

 

ユリの鬼気迫る表情に気おされされてしまう

何とかして、ユリを落ち着かせたいがいい考えが思いつかない

傷つけるにしてもこの左手を離してしまえば彼女は自分の爪で自分を傷つけてしまうだろう

彼女の目がだんだんと充血していくのを見ていたたまれなくなっていく

 

一つの案が頭の中に浮かぶ

ためらっている暇はもうなかった

自分にこれしか方法がないと言い聞かせ

決意を固めて、ユリをじっと見つめる

 

「ユリ!ごめん!」

彼女のシャツの首元めがけて顔を近づける

そのまま鎖骨の下あたりに顔をうずめてキスをする

そして、そのままキスした場所に歯を立てて甘噛みする。

 

「んっ……くっ……」

声を必死に抑えてユリが艶めかしく呻いている

「ぷはっ……ごめんユリ、これしか思いつかなくて……」

 

ユリの首元から顔を離す

今はシャツで隠れて見えないが内出血にはなっているかもしれない

もう少し自分に考える頭があればよかったが

ユリの繰りそうな姿を見て一刻も早く何とかしなければと

気持ちが焦ってしまった

 

「タチバナさん……」

ユリはとろけた表情をしながら俺の方を見る

先ほどの鬼気迫った感じはなく

呼吸も、瞳孔も今は落ち着いている。

 

「ごめん、痛かっただろう?」

「はい……確かに痛かったですが、こんな甘美な痛みがあるとは知りませんでした」

「ごめんなユリ……跡になるかもしれない」

「ふふふ……あなたのものになったみたいで少し嬉しいです」

 

ユリがねっとりと俺の目を見つめてくる

吸い込まれそうな紅桔梗色の瞳に俺が映っているのだろう

その表情と視線に背筋がぞくりとする

 

「私も……あなたを私の物にしたいです……」

ユリがいきなり俺の首元にキスをする

そしてそのまま強く吸い付いて歯を立てる

注射のようなちくりとした痛みがあったと思うと

ユリは顔を上げてまた俺の顔を見つめる

 

「これでおあいこですね……」

心臓が高鳴る

ドクドクといつも以上に音を立てて血が全身を駆け巡っている

いつもの倍以上のスピードで心臓は動き続けていた

 

「心臓すごい音してるんですよ……タチバナさん聞いてください……」

持ち方を変えて右手を上からひっつかまれたかと思うと

彼女の左胸に右手が押し当てられる

彼女の立派な胸が形を変えて手の中からはみ出している

 

「ユリ!おい!やめろって!!」

手からユリの鼓動がしっかりと感じ取れる

俺以上のスピードで心臓がドクドクと音を立てている

しかし、それ以上に彼女の胸の柔らかさに心を奪われかけていた

 

「服の上からじゃよくわからないですよね……」

自分の右手がユリのスカートの端に移動させられる

そしてそのままシャツをめくりあげるように彼女の脇腹を俺の手が這う

冷たくすべすべなユリの腹を手が滑っていく

 

押し上げられるようにしてユリのシャツがめくれ上がっていく

扉の隙間から漏れる薄明りが彼女の綺麗な臍を映し出す

手はそのまま上の方へと持っていかれる

上へ上へと進むにつれてすべすべとしていたユリの肌は

熱を持ったしっとりとしたものへと変化していく

 

ユリの下乳あたりで手が止まる

服はその下までめくれあがっており

ユリの下乳がわずかに見えている

乳と腹の間に手が挟まりそこから彼女の鼓動をしっかりと感じる

 

「もっと、触りたい……ですよね?」

彼女が蠱惑的に微笑んでくる

乳と腹の間にたまっていたであろう汗が手にしみついてくる

理性の線が切れるあと一歩だった

 

「だけど博士は間違えて余計なものを入れちゃった!」

クローゼットのドアが全開になる

今まで暗かった部屋に光が戻る

部屋に光を取り戻したのはナツキだった

 

「それ…………は……?」

クローゼットの扉を手にして硬直したままのナツキと目が合う

さっきまでのぼーっとした頭が急に冴えてくる

自分の周りを見渡して状況を確認する

 

左手は未だにユリの右腕を壁に押し付けたままだ

彼女が自分を傷つけてしまわないように

しっかりと壁に固定してしまっている

端から見ればユリを押さえつけているようにしか見えないだろう

 

右手はユリの手で上から押さえつけられるように握られている

手は乳と腹の間に挟まっており

その様子はめくれ上がったシャツから確認できる

上から押さえつけるように握っているため

ユリが必死に抵抗しているようにも見えなくもない

 

右足はユリの両足の間に挟まれていて

その上にユリが乗る形になっている

まるで身動きを取らせないように壁に押さえつけているかのようだ

 

左足は……

「タチバナ!!!ユリを離しなさいよ!!」

 

ナツキの右手が顎に命中する

平手ではなくグーパンチで

しかも、身長差のせいで下から突き上げるように入ったそれは

ひるませるのに十分な威力を持っていた

 

「あがっ……!!」

とっさにユリの手を離して膝を着く

慌ててナツキがユリと俺の間に入り込んで両手で二人を引きはがす

ユリは心配そうに俺のことを見下ろしていた

 

「あんた、本当に最低な男ね!!この変態!!」

ナツキがこちらに軽蔑の目を向けながら見下してくる

顎にもらった一発がまだ痛く

うっすらとしか目を開けていられない

 

「ユリ大丈夫だったの!?変なことされてない!?」

ナツキはハッとしてユリの方に振り返って

しがみつくようにしてユリの体を揺さぶる

 

「はい、大丈夫です……それよりもタチバナさんが……」

「あんな、性欲の塊なんて放っておきなさいよ!」

「いえ、タチバナさんは悪くなくって……」

「いいから、クローゼットから早く出ましょ、こいつと同じ空気なんて吸いたくないわ」

 

ナツキはユリを引っ張るようにしてクローゼットを後にする

俺も壁に手を着きながらなんとか立ち上がる

そして、そのままクローゼットの外に出る

外ではサヨリもモニカもユリを囲むようにして、こちらに非難の目を向けている

 

それから先の部活動は散々だった

俺は部活が終わるまで正座させられ、ナツキの説教を永遠と食らっていた

サヨリはナツキを何度も宥めるようとしていたが効果は全くなかった

ユリは自分に着けられた跡を眺めて、大切そうに撫でていた

唯一事情を知っているモニカは申し訳なさそうな目でこちらを見ているだけだった

 

部活が終わり俺は説教と正座からようやく解放された

しびれた足では立ち上がることもままならず、しばらく椅子に座っていた

そこにゆっくりとユリが近づいてきて

しゃがむように目線を合わせてくる

その手には小さな絆創膏が握られていた

 

「タチバナさんに付けた跡……皆にばれちゃいますよね……」

「ばれたら説教延長戦だな……」

力なく笑ってみる

ユリは俺の首元に絆創膏を貼るとそそくさと離れていく

 

入れ替わるようにサヨリが鞄を持って近づいてくる

「タチバナ……ユリちゃんと何してたの?」

「……あれは……事故だったんだよ……」

「私は……タチバナの事信じてるからね?」

 

……そんな濁った眼で俺を見ないでくれ

確かに胸はときめいたけど

ユリに悪いことしたとは思っている

 

「本当か……?」

「うん、今はまだ……ね?」

「なんだよそれ、怖いな……」

「怖くさせてるのは誰のせいだと思う?」

 

サヨリの顔が近づいてくる

申し訳なさと、恐怖からサヨリの目を見られなかった

 

「ま、いいや~、早く帰ろうよタチバナ。おなかすいちゃった~」

いつものサヨリの戻ったように見える

その濁った眼以外は。

 

「まぁ、そうだな……とっとと帰ろうか……」

「うん!私のご飯が待ってるよ~」

「え?」

「食べていかないの?」

「まぁ、たまにはいいか……」

 

あんなことの後にサヨリの家に行くのは気がひけたが

こんな濁った眼をしているサヨリを一人にもしておけなかった

そうして俺とサヨリは二人で並んで部室を後にした……。

 




御読了ありがとうございます。

ユリのこういう展開は前々から書きたかったのでちょっと温めてありました

次回はサヨリの展開で書いていきたいと思います。

I wanna make a rainbow with you的には"タチバナ"LOVEな彼女の事です

恐らく一番激しいアプローチをかましてくることでしょう

というかこのSSがR18なのは8割方サヨリのせいです……。
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