死後には何があるのか。
何もなく暗闇が続くのか、光があり不可視な幸せがあるのか。
神はいるか、悪魔はいるか、地獄はあるか、天国はあるか。
死んだ後の人間が、動物が、生物がどうなるのかなんて誰にも分からない。
ただ、夢を持つ。死んだ後の未来が良いものであると信じる。
死後に希望あれ。
それでも、当人がどういった想いを抱いていようが、彼らに残された者は深い悲しみを負うだろう。
✴︎
薄らと、目が開く。
僅かに見える視界は靄がかかったように朧げで、上手くものを見ることができない。
けれど、数秒、数分と経っていくうちに視界は徐々にクリアになっていき、清潔感のある白い天井が見えた。
少なくとも我が家の天井ではない、知らない天井だ……。
眼球をキョロキョロさせてみれば、見えるもの的にここが病院であろうことが分かった。時計を見ればフレンダとデートした日の夜11時だった。
そして、自分の手に縋り付くように金髪の少女、フレンダがいることも把握できる。
「……ん、んぅ……」
ベットの側の椅子に座った状態で、僕の手に縋り付くように眠っていた。
軽く手を動かしてみれば右手の包帯に金髪がサラサラと流れる。
というか、僕は一体どうして病院にいるのだろうか。
はっきりしていた記憶だとフレンダとデート紛いのことをして、車が突っ込んできて、フレンダを押して自分だけが……。
あぁ、なるほど。僕は轢かれたのか。
かなり速度を出している車に吹き飛ばされたはずなのによく生きているものだ。
そんな自分に拍手をしてやりたいが、悲しいことに自身の腕は包帯で肌の1つも見えない。拍手なんてすれば激痛で悶え苦しむだろう。
車に轢かれたのだから最近流行りの異世界転生なんてするかも、と思ったのだが。
まぁ、まだ自分の生には未練がありすぎるのでしたくはないが。
……無駄な考えはやめてフレンダを起こそう。
心配をかけさせてしまっただろうし謝りたい。
おーーーいフレンダやーーーい起きろーーーーい。
柔らかな頬を包帯が巻かれた指でペチペチモニモニする。
「……ん…んぃ……■■?」
そうだよ、■■だよ。
まるで夢を見ているかのようにボーッとしているフレンダ前で手を振ってみる。
そして、数秒後。
「……よ…た……よ゛か゛っ゛た゛ぁ゛ぁ゛あああああ!!」
途端、大粒の涙を流し叫びながら抱きついてくるフレンダ。
僕の腰に手を回し、まるで万力のように圧迫される自身の体。あ、あぁ……痛い。痛すぎる。残り少ないHPが削られていくのが目に見える……。
「も゛う゛!もう目を覚まさないんじゃなかいかって!わたしの!私のせいで……っ!」
気絶しそうな痛みの中、この少女は一体何を言っているのかと呆れてしまう。
大体、僕がかっこつけてフレンダだけを強く押したから轢かれたのだ。一緒にルパンダイブをすればどちらも擦り傷で済んだのだ。つまり全体的に可愛い子を前にかっこつけようとした僕が悪い。
そう慰めながら絹のような金髪を撫でてやる。
ところで腰に回された力強い腕を解いて欲しいのだが。
「もし!もし死んじゃったら……絹旗や麦野、滝壺になんて言えば良いんだろうって……!」
そうだよね。怖いよね。泣かせてしまって本当に申し訳ない。
ところで腰に回された腕の力が強くなっている気がする。ゴリバキメキメキと嫌な音を立てている気がする。主に僕に体から。
いいや、これはきっと幻聴だ。冷や汗を滝の様に流しながら自分に言い聞かせる。
抱きついたまま、自身の頭を僕の胸に猫の様にグリグリと押しつけるフレンダ。
可愛い、嬉しい。猫の様だ。けれど僕のあばらのHPも少ないのだ。気のせいか口の中に鉄の味を感じた。
そんな状態で数分が経過。
フレンダはようやく落ち着いたのか、ゆっくりと僕から離れ、涙を裾でぐしぐしと荒っぽく拭き取っている。
そして真っ赤に腫らした瞳でこちらを見る。
「……もう、もう誰かの為にこんな無茶はして欲しくないって訳よ。次こんなことして死んだら追っかけるからね」
その謎のヤンデレはやめて欲しい。大体、友達にしては愛が重すぎる。
それにこんな無茶なことを複数回やるつもりは毛頭ない。
僕は誰かを救うヒーローではない。ただの凡人で普通で無能力者の僕はヒーローになりえない。
「……じゃあ、友達じゃなかったら重くないの?」
ベットに寝そべる僕の真横に手を置き、ずいっと顔を近づけるフレンダ。
いやぁ、友達以外でも重い気がする。最愛や沈利が言ったとしても重いと重いと感じる。
というか、近い気がするんですが。
「なら、ここではっきり言ってやるって訳よ。結局、■■のことだから私から言わないと何も始まらなさそうだしね」
フレンダらしくない神妙な顔つきでこちらを見る。
この顔は見たことある。
これは、覚悟を決めた人の目だ。
今まで何度か見たことのあるこの顔は、最愛や沈利がしていた顔にそっくりで。
何を言うのかは、僕の自意識過剰でなければ分かる。
……けれど、その言葉はもう少しだけ待って欲しい。
「いいや待たない。私は■■のことがすーーーーーー」
「お取り込み中にすまない。ナースコールがあって来たのだけれど、大丈夫かい?」
ドアを開け、心配そうな顔をしてやってきていたカエル顔の医者。
突然の声にビクゥッ!と体を震わせた後、顔と耳を真っ赤に染め上げるフレンダ。
僕は大丈夫ではないし、フレンダも大丈夫ではないようだ。思考を放棄しているのか全然動かない。
そんな状況をカエル顔の医者は冷静に把握し、
「……青春だね。出直した方がいいかな?」
いや、結構です。出ていかれ後どうすればいいか分からない。
フリーズしたフレンダの頭をポンポンとしながら僕はそう答えた。
✴︎
車に轢かれて1日が経った。
幸い怪我をしていたのは利き手の右腕と肋骨だけ。
どれも骨折程ではないが少しだけヒビが入っており、カエル顔の医者からは絶対安静を言い渡された。車に轢かれてこの程度の傷なら万々歳だ。
それにあの医者はかなり腕が良いらしく、その程度の怪我なら明日にでも退院出来るだろうとのことだった。
それをきいてかなり安心した。こんな状態ではあるが最愛の誕生日には間に合うのだから。
「超派手に事故起こしましたね。痛くないですかぁ?」
腕の包帯を細い指先で突きながら最愛が訪ねてくる。
今は揶揄う様にしているが、実際僕が車に轢かれたと聞いた時はかなり取り乱していたそうだ。
焦りながら病室に駆け込んできた時、フレンダがリンゴの皮を剥いて僕に食べさせていたところを見て腰が抜けた様に座り込んでいた。
心配をかけさせて本当に申し訳ない。
「で、フレンダと昨日は超何してたんですか」
んん、友達同士ただ買い物をしていただけだよ。ホントダヨ。
「……そうですか。まぁ、いいです。何していたかは明日退院したあとでも超聞きます」
指をポキポキしながら語りかけてくる最愛。
僕は明日拷問でもされるのだろうか?
「あっそうだ。ちなみに明日から私達の家で暫く暮らしてもらいますから。そのつもりで」
…………えっ、なにそれ聞いてない。
別に利き手くらい使えなくても問題は……。
「■■が良くても私達が超良くないんですよ。何かあってからだと遅いですし、誰かがいた方が不便はないでしょう?」
そうだけども…。
みんなの迷惑になったりはしないのだろうか?
「全然。その程度で私達が嫌だと思う訳ないでしょう?長い付き合いなんですから超気にしないでください」
そっか。そう言ってくれると助かる。
「それにフレンダも何か言いたいことがあるようですし?明日にでもゆっくり話し合えばいいんじゃないですか?」
ニヤニヤとしている最愛。
きっとフレンダが僕をどう思っているかなどはもう知っているのだろう。
それに気づかず友達だと思っていた僕はきっと鈍感なんだろう。くそっ、世に溢れた鈍感系主人公の一員になってしなった。
「それは置いといて。何か必要な荷物があれば■■の家から持って行っときますけど。何か要ります?」
じゃあ冷蔵庫に入ってる草を持って行ってくれるかな?
「超捨てときますねぇ〜」
あぁん無慈悲っ!
……そんなこんなで期間は不明だが、最愛達の家に居候することになりました。
病院では、静かに……。