少し残酷な描写があるため、苦手な方はブラウザバック推奨。
1つ、暗黙の了解がある。自身が暗部であり、少しの良心があるならば親密な人とは壁を1つ作れというもの。
それは愛する人を守るための壁であり、表と裏の境界線だからだ。
もどかしく思う。
この壁が無ければと思う。
心で触れ合いたいと思う。
それでも、一歩踏み込めば2度と出られないのがここの闇だから。
だから、巻き込見たくないと思っていたのに。
✴︎
僕は■■。ありきたりの無能力者である。
レベル1の控えめな能力すら貰えず、かと言ってスキルアウトのように不良になる度胸もなく。
どこまでも一般人で、凡庸で、ありきたりな人こそが僕だった。
そんな人生に飽きていたと言えば、まぁ、そうだ。
辛さが無いから山のような幸せがなく。
山がないから転がり落ちるような谷もない。
どこまでも平坦な人生がそこにはあった。
けれど、バイト帰りになんとなく通った路地裏で。
凄惨な血と共に出会った彼女達に一目惚れした。
✴︎
「■■!映画!映画に超行きましょう!見てくださいこれ!超面白そうじゃないですか!?」
そう言ってはしゃぎながら最愛が渡してきた映画のパンフレットを見やる。
どれどれ……『ファイブヘッドトルネードギガシャーク vs トリプルヘッドゴジラ』
なんだろう。そこはかとなく地雷な気がする。もっと分かりやすく言えば面白くなさそう。
「ねぇねぇ麦野。まーた絹旗が変な映画に誘ってるって訳よ」
「まあ、いいんじゃない?別にこっちに影響があるわけでも用事があるわけでもないし」
「え?勿論皆で一緒に行くに超決まってるじゃないですか!」
「絶ッッッッッッ体に嫌って訳よ!何が悲しくて約2時間をドブに捨てないといけないって訳!?」
「この映画4時間ありますね」
「どうしてそれを言って私たちがいくと思ったのよ」
「大丈夫、そんなフレンダを私は応援してる」
「他人事すぎるって訳よ!?」
映画に誘う最愛。それにツッコミながら拒否するフレンダ。冷静な沈利。電波を受信している滝壺さん。
日常がそこにはあった。
素直に楽しいと思える日常があり、少し前までの僕では考えられない輝きがあった。
……………輝くって普段使わないけどめちゃ恥ずかしくない?
「?超何言ってるか分かんないです」
それはともかく、映画行こうか。今からでいい?
「フットワークの軽さがおかしい!もっと時間を有効に使った方が良いって訳よ!」
「よし来ました!じゃあ早速今からーーーー
沈利の携帯から着信音が流れる。
ーーは超無理そうですね。はぁ……」
「…チッ……映画はまた今度ね。ほら、行くよ」
「あーあ、映画に行けなくなって嬉しいような、嬉しくないような気持ちって訳よ」
「ご飯は冷蔵庫にあるから、それを食べてね」
「■■、超素早く帰ってくるので映画行きましょうね。約束です」
まるで弟のように扱われているが恋人である。
週に2、3回くらいだろうか。時折、こういった状況になる。
沈利の携帯に着信があれば皆が何処かに行く。帰ってくるのは早い時は数時間、遅ければ2日くらい。
何処に行っているのか。何をしに行っているのか。
それを聞いても頑なに教えてくれなかった。『私たちが1週間帰って来なければ私たちのことは忘れて欲しい』なんてことを言われた時は2時間説教してやった。
疎外感がある。隠すのに何かしらの理由があることも分かる。
それが自分を巻き込まないためのことだと言うことも、頭では理解出来ている。
けれど、それに納得出来るかは話は別ではある。
まぁ、だからと言って僕に出来ることは何もないが……。
待つことしかできない自分が、不甲斐ない。
自分に弱くても能力があれば、と思う。
だからこの家で待つ。
それが僕の役目だと思うから。
それから2時間が経った。
未だに彼女達は帰ってこない。
5時間経った。
帰ってこない。
12時間経った。
帰ってこない。
1日が経った。
なんとなく帰ってきそうな気配がしたのでケーキを買ってみた。今夜帰ってきたら小さなパーティでもしようか。
丁重に冷蔵庫に入れておく。
帰ってこない。
2日が経った。
家のチャイムが鳴った。
慌てながら急いで出るがただの配達だった。小さな小包。僕宛だったが注文した記憶はない。とりあえず机に置いておく。
帰ってこない。
4日が経った。
学校から帰ってきても誰もいない。不安が心を満たす。彼女達を探しに行こうと決意する。
念のため書き置きを残して家を飛び出た。
ひとまず風紀委員や警備員に聞きに行こう。何かヒントがあるかもしれない。
家には誰もいなくなった。
6日が経った。
家のドアが開く。
「………あ゛ぁ゛ー今回のめっちゃ面倒だったって訳よ…」
「ですね。まさか人探しから始まるとは超思いませんでした。■■、超怒ってないと良いですが…」
「ご機嫌取りのケーキもあるし、大丈夫なんじゃない?」
「………■■の靴がなーーーー」
滝壺さんのその言葉が聞こえた瞬間、部屋の中で何かが起爆した。
「ぐっ…ぅ…!」
その爆発は精々1つの部屋で収まるものであまり強いものではない。
窓ガラスが割れ、軽い椅子や小物が吹き飛んでいく。
私たちに怪我はなく、それがただの脅しの爆発ということは理解出来た。
けれど、私達が警戒するには十分であった。
「今のは何って訳よ!?」
「……一瞬見えただけですが、何かしらの小包が爆発したように思います。私達がここに住んでるって事が超バレてるみたいですね」
「えぇ。それに、■■の靴がないのが不味い」
「1週間も空けたわけですし、私達を探しに行った可能性が超高いです。高いですが……」
たまたま、今この時間に外出しているだけで何ともない顔で帰ってきそうな気はしますが……。
けれど、なんでしょう。この心臓に纏わりつく嫌な予感は。
「■■、2日は帰ってきてない」
「……え?」
冷蔵庫を見た滝壺さんの言葉。
たしかに、見てみれば1週間分ほどの作り置きがあったはずなのに2日分残っている。
私達がこの家に住んでいるのがバレていること、そしてこの場にいない■■。
早く、探さなければ。
何か決定的にまずいことが起きている気がする。
爆発によって倒れてひび割れた思い出の写真を横目に、決意した。
✴︎
ぴちょん。
血の池に血が落ちた音で目が覚める。
「っ……」
全身が痛い。疲労の軽いものではなく、全身を切り裂かれたような痛み。
今まで何をしていたのか、頭に靄がかかったような状態だが、霞む目で自分の状態を見る。
腕も足も首も全てが椅子に固定されていた。1ミリも動かせない。
指や足に違和感を感じた。その指先にあるはずの爪が全て剥がされていた。
そのことを把握した瞬間、忘れるよう徹していた記憶が津波のように襲ってきた。
彼女達を探しに行こうとした瞬間に車に拉致され、注射を刺され、この実験室のような場所に縛られ、彼女達の弱点を執拗に聞かれ、黙っていれば爪が剥がされて、殴られて、蹴られてーーーーーその先は思い出さないようにした。
頭を強く振り、気を紛らわせようと周りを見る。そこは真っ白な部屋だった。
壁も天井も床も白く、扉は1つだけあった。そしてすぐ目の前には僕を観察するように見る白衣の男がいた。
まるで、実験室だった。
「やぁ、やっと起きたね。まさかショック死したかと思ったけど、生きていてよかった」
胡散臭そうな顔で胡散臭そうな笑顔を浮かべる男。名前は知らない。ただ白衣を着ていることから科学者か何かなのだろうと思う。
心配そうな言葉を吐いているが、それはきっと文字通り受け取って良い心配ではない。
その証拠に、その手にはノコギリが握られていた。
それが何に使われるかなんて、考えたくもない。
「可哀想だよ、本当に。同情するよ、心から。彼女達に関わったからこうなる」
「…な゛…に゛…」
声が掠れる。
こいつは何をいっている?
「いいよ、うん。何も言わなくて。君はどうも本当に何も知らないらしい。あわよくば、と思ったが奴らは君には何もいっていないらしい」
この男は彼女達の弱みを握ろうとした。だから爪を剥ぐような拷問じみたことをした。
その痛みは確かに痛かったが、それ以上に心が痛かった。
自分が情けなかった。彼女達の弱みなんて知りたくはないが、けれど、彼女達のことを何も知らないことを知った。
彼女達の能力の詳細も、生まれや育ちも、初めて出会った路地裏で何をしていたのかも。
何もかもを僕は知らない。
何も知らないまま、僕たちは恋人になったのだから。
「折角だし教えてあげよう。よく見る冥土の土産、というやつだね。もう暫くは生きていて貰うけど」
………。
「そも、学園都市には表と裏がある。表が華々しい科学なら裏は掃き溜めのようなものだ。毎日誰かが実験体になり、誰かが苦しみ、そして死ぬ。それこそが学園都市の闇であり、学園都市の真実。そんな小悪党どもを監視し、抑制するのが暗部だ。奴らは『グループ』。暗部組織の1つであり、人を殺した数は両手両足じゃ収まらないよ」
自分に酔いしれたような口調。言葉は丁寧なのにまるで聞かせる気のないような早口。
友人がこの場にいれば「オタク特有の早口だにゃー」だなんて言うだろうか。そんな場面を想像して少し笑みが漏れる。
「さて、これを聞いて君はどう思っただろう。失望しただろうか、恐怖しただろうか。奴らと恋人関係だった君はーーー」
「…どうでも、いい」
「は?」
「どうでも、いい。至極、どうでもいい。彼女達は僕の最愛な人達で、何人殺しただとか、何をしているのか。気にはなる。何で教えてくれないんだと寂しくもある」
彼女達が僕に見せてくれた笑顔は本物だったはずだ。最愛は映画に誘ってくれた、フレンダと一緒に笑った、沈利とご飯を食べた、滝壺さんと一緒に昼寝した。彼女達が暗部で何人殺しただとか、誰に恨まれているだとか、どうでもいい。
彼女達が裏の存在だろうが、表の存在だろうが。
「楽しかったから」
「……」
「彼女達は彼女達で、僕の愛しい人で。僕が知らない部分が多いだけの恋人だ」
「………そうか、そうかそうかそうかそうかそうか。君が何も口を割らなかったのに納得がいったよ。君は素晴らしい。無能力者の雑魚かと思っていたが……まぁ、いいさ。君の四肢を丁寧に包んで奴らに届けよう。その時の表情を動画にして痛い目をした裏の人達で楽しもう」
面食らった顔は一瞬で消え失せ、ノコギリが肩にそっと置かれる。
痛いだろうな、と思う。
いつかあの家に帰れるだろうか、と思う。
死にたくないな、と思う。
けれど、僕がいなくても彼女達なら幸せになれるだろう。そこに自分がいないのが寂しいが……。
もっと彼女達と話をすれば良かった。知る努力をすれば良かった。
「じゃあ、まず、右腕を1つーーーあ?」
極光が迸った。
そのすぐ後にびちゃり、とノコギリを持った腕が落ちる。
「本当にギリギリセーフかにゃーん?」
ドアを開け室内に入ってきたのは沈利だった。
その姿を男も視界に入ったのか酷く驚き、狼狽していた。
「が、ぐ、な、何故だ?何故、ここが分かった?」
「超詰めが甘いですよ。■■に引っ付けているGPSって奴ですよ。どこかに捨てられているかと思いきやまさかそのままだとは思いませんでした。愛の勝利って奴ですね」
そのまま最愛、フレンダ、滝壺さんとぞろぞろ入ってくる。
……よかった、みんな無事だ。
「愛がちょっと重いけど、結局、愛の勝利って訳よ。■■の私物全部にGPS付けた甲斐があったってもんよ」
えっ。
「付けたの、私」
「そこでマウントを取る必要は超ないですよ滝壺さん」
「ま、なんだ。無事ではないが無事でよかった、帰るわよ、家に」
「あの家住めるような状態じゃなくなってる訳よ」
「あっ」
えっ。
何があったの。
「ま、まぁいいです。とりあえず超帰りましょう■■」
「ま、待て!」
そう言い、白衣のポケットから取り出したのはボタンがついた小さな何かだった。
何か見覚えがあると思い凝視すれば、最愛の映画でよく見る爆破ボタンだった。
「こ、これを押せばここら一帯は消しーーーがっ!?」
光線が男の手を消し飛ばし、最愛の腕が男の腹に沈み込む。
「……はあ、もう終わってるんだから手間をかけさせないで」
「何をするのかと思えば最近のC級映画でもしないようなことしますね。一周回って超新鮮です」
瞬間、高速で男に近づいた最愛の右腕が男の腹にめり込み、壁に叩きつける。
「…かっ…は…」
「私、超怒ってるんですよ。彼をこんなにして、超痛めつけて。昔の嫌な口調が出そうになるのもグッと堪えてるんです」
淡々と語る最愛には妙な落ち着きがあって、それが怖くもあるが、なんというか、嬉しくもあった。
出会ったことは一触即発の雰囲気があった最愛もこうまで変わるんだなぁ、と。後方腕組み父親面をしてみる。
「今ここで殺してやりたいですが、我慢します。こうまで私が変われたのは■■のお陰なんです。お人好しの変態のせいなんです。そんな彼には汚いところは、超見せたくないですから」
「という訳で、このぬいぐるみをプレゼントって訳よ」
唐突に、壁にもたれかかった男にポスポスとぬいぐるみを与えていくフレンダ。
子供が好きそうな、人を模したぬいぐるみ。その数10体。どこにそんな数持っていたんだろう。
後それは何だろう。
「ちょっとフレンダ。今は超私のターンなんですけど」
「えー、もう長いって訳よ。家に帰ってから話せばいいじゃないの」
「いっ、いや、それはそれで超恥ずかしいじゃないですか。今この場で言うのが最善と言いますか…」
「かわいいとこあんじゃないの、うりうり」
「大丈夫、そんな絹旗も応援「応援なんか超させませんよ!?」……どうして…」
恐らく、僕もあの科学者も似たような心境をしていることだろう。
絶望が希望に変わった瞬間と、その逆。
「………認めたくないが、私は負けた。だが、覚悟しろ。お前らが闇にいる限りその男は一生狙われる」
「でしょうね。今まで牽制していた輩も今回を機に動き始めるでしょう。けど、まぁ、二度と傷つけさせませんが」
最愛はよいしょ、と言って軽々とお姫様抱っこをする。
「なにせ私達は天下無敵の『アイテム』ですから」
超恥ずかしいが体がピクリとも動かない。
暖かな笑顔を浮かべる彼女達を僕は忘れることはないだろう。
「じゃ、超帰りましょうか。私たちの家に」
後日談
ニュースを見ていると爆発事故が起きたようだ。昨日まで僕が囚われていた区画で。
それもとびっきりの爆発だったらしく、あたり一面が瓦礫まみれになったそうな。
そのニュースを見ていた沈利はフレンダの頭をぐりぐりしていた。
何をしたんだ、フレンダ。
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