由比ヶ浜結衣が変態ジジイの肉嫁に堕ちるのは間違っていない 作:村本座
雪ノ下陽乃は、妹が通う総武高等学校の近くの喫茶店で暇を潰していた。
高校の最終下校時刻が過ぎたら、妹を迎えに行くためだ。
湯気が立ち上るコーヒーカップを掻き混ぜながら、陽乃は妹の雪乃の未来を案じていた。
(あの子は、やっぱり比企谷くんがいないと駄目だろうね……。)
大人びていて、能力も外見も優れている雪乃だが、彼女には確固たる自分というものがない。
だから雪乃は、何か問題にぶつかる度、昔は姉の真似をして物事を解決してきた。
最近はようやく姉の真似事を止めたようだが、それは雪乃が誰かの模倣を止めたという事とイコールではない。
あくまで、模倣の対象が変わっただけだ。
姉から、比企谷八幡という少年へと。
(雪乃ちゃんは、腹を括って比企谷くんに告白すればいいのにねぇ。でも、それが出来たら苦労しないか。)
雪乃は、高校で奉仕部という部活動に取り組んでいる。
比企谷八幡はその奉仕部に在籍しており、彼は雪乃が密かに好意を寄せている相手でもあった。
しかし残念ながら、八幡が雪乃の好意に気付いている気配はない。
(姉として、妹の幸せを叶えてあげたいとは思うけど、そう簡単にはいかないでしょうね。雪乃ちゃんは奥手だから。このままだと、雪乃ちゃんが動く前に、あの子に比企谷くんを取られちゃうかな。)
奉仕部には、全部で3人の部員が在籍している。
雪ノ下雪乃、比企谷八幡、そして由比ヶ浜結衣。
この由比ヶ浜結衣という少女も、比企谷八幡に対して明確な好意を抱いている。
ただ、結衣は八幡の複雑な心情や雪乃の想いを察しているらしく、今はあまり積極的なアプローチはしていないようだ。
もっとも、その状態がいつまで続くかは分からない。
このまま何事もなく進めば、おそらくは結衣が雪乃を出し抜くだろうと陽乃は予測していた。
(悪い子じゃないのは知っているから、あんまりやりたくはないけどね。でも、もうすぐバレンタインだし。先日見た限り、あたしの勘ではそろそろ動きそうに思えたんだよね。だから、手を打たせてもらおうかな。)
考え事をしている間に、掻き混ぜられ続けている陽乃のコーヒーから立ち上る湯気は消えていた。
陽乃がカップの縁に口をつけると、既に少し冷めた温度が唇に伝わってくる。
だが、それを気にする事なく、陽乃はコーヒーを一息に飲み干した。
「ふぅ……。ごめんね、由比ヶ浜結衣さん。さようなら。」
陽乃の小さな独り言は、店内のBGMに掻き消され、誰の耳にも届かない。
暖かったコーヒーが冷め、一瞬で飲まれてなくなった事を知るのは、雪ノ下陽乃ただ1人だけだった。