【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
1008 朝の中庭団欒
剣を持っているルカリナが凄まじい勢いで突っ込んだ。
相手をしているのは、イットという獣人の娘だ。
ガロイン族という種族らしく、紹介を受けたところでは、戦闘のときには十本の手の指に刃物のような爪を伸ばして、それを武器にして戦うと聞いていたのだが、いまはまったく爪は出ていない。
それどころか、構えてもいない。
ロクサーヌには、ただ立っているだけに見える。
ルカリナの握る訓練用の剣が横なぎに一閃した。
「うわっ」
しかし、悲鳴はルカリナの口から迸った。
一瞬にして、ルカリナの巨体が持ちあがって投げられたのだ。
ルカリナの身体が地面に叩きつけられたときには、ルカリナが持っていたはずの剣がくるくると回転して上にあがっていることに気がついた。
それをイットが宙で受けとめて、唖然とした顔で倒れたままのルカリナに差し出した。
「はい、どうぞ」
「えっ、えっ、なん、で?」
ルカリナはあまりもの見事な自分の負けが信じられないみたいだ。
ロクサーヌもまたびっくりした。
ここまであっさりとルカリナが負けたのは初めて見たのだ。しかも、同じ獣人族とはいえ、大柄なルカリナと小柄なイットとでは、大人と子供ほどの体格差がある。それなのに、イットがルカリナを一瞬にして投げ飛ばしたのである。
「へえ、あんたって、いつの間にか体術みたいなのもできるようになったのね? あの長い爪で斬り刻むだけじゃなかったのね」
いずれにしても、ここの屋敷には、大勢の女性が住んでいるようだが、これまでに会った女性は誰も彼も綺麗で可愛い顔をしていた。
その全員がロウという人の婚約者、または、愛人だというのだからびっくりだ。
ハロンドール王国の独裁官になったロウ=ボルグのひととなりについては、旅の前も、旅が始まってからも情報を集めていたが、いまこうやって、会ってみると想像以上の女たらしみたいである。
「マーズと鍛錬しました。マーズが先生になって、色々な格闘技について、教えてもらってるんです。あたしだけでなく、一応、ミウやユイナさんも一緒に学んでるんです」
イットがコゼに応じた。
「ふうん。あんたたちの新参者会とやらは、フェラチオの練習とか、ご主人様を悦ばせる色っぽい仕草とか、服装とか、そんなことばっかりやってると思ってたわ」
コゼがけらけらと笑った。
だけど、フェラチオの練習? 色っぽい仕草?
なにそれ?
そもそも、イットもルカリナを投げ飛ばすような凄い獣人戦士の少女だ。
そんな彼女が男に尽くすための勉強会?
「あっ、実際には、フェラチオとか、そっちの方が主体です。ほかにも体位とか、身体の開発とかです。体術は美容のためのようなものです」
すると、ミウという人間族の童女が口を挟む。
でも、この子、随分と幼いけど、すでに普通に性行為をしている──?
ロクサーヌは目を丸くしてしまった。
「こら、ミウ」
ミウの横の筋肉質の少女がたしなめる。
彼女はマーズだ。元々は負け知らずで有名だった闘奴だそうだ。
「やめなさい、コゼ──。下品よ。ミウも──。お客様の前なのよ」
すると、エリカというエルフ族の大美人が叱るような声を出した。
それはともかく、このエリカにも驚いた。
もう十日ばかり後に迫っているハロンドール女王とエルフ族女王とロウ=ボルグの合同結婚式なのだが、それにおいて、正妻としてロウと婚姻をするのは、ふたりの女王のいずれでもなく、なんの身分も持っていない彼女なのだそうだ。
よくも両国が納得したものだと思ったが、すべて了承済みのことらしい。
そして、このエリカは大所帯に見えるロウの女性集団の最初の愛人でもあり、「一番奴隷」だそうだ。
奴隷といっても、いわゆる奴隷のことじゃない。
彼女たちの言葉遊びで、ロウの愛人である自分たちを「性奴隷」と称しているみたいだ。
まあ、とにかく、圧倒された。
「なにがお客様よ。どうせ、すぐに仲間になるんでしょう? 違うんですか、元大公様? ご主人様とセックスしますよねえ?」
コゼがロクサーヌに声をかけてきた。
「セ、セックス?」
あまりにも直接的な問い掛けで、ロクサーヌは戸惑ってしまった。
もっとも、覚悟はしていないことない。
旅の途中で、ゼノビアやシズから、もしも、ロウという人物の庇護を受けたいなら、すぐに身体を差し出した方がいいとは、繰り返し言われてきたのだ。
ふたりが口を揃ってロクサーヌに告げたのは、ロウという人物は非常に義理難く、一度庇護に入った女を絶対に守るということだった。
ただし、抱き方が非常に特殊だとも教えられた。
覚悟しろとも……。
つまりは、嗜虐趣味。女を縛ったり苛めたり、ときには、鞭打ちなどもあるそうだ。
だが、具体的に、ゼノビアたちがどんなことをされたのかと訊ねると、ふたりとも口をつぐんでしまった。雰囲気から、あまり思い出したくない感じのようではあった。
ロクサーヌがハロンドール王都に到着して二日目である。
カロリック公国がタリオ軍の侵攻を受け、ルカリナとともに大公宮を脱出して逃避行を開始しようとしたロクサーヌたちだったが、それからが大変だった。
大公宮そのものは、エルヴェラが与えてくれた「カモフラージュ・リング」の効果により、比較的楽に脱出できたが、城門が閉まっているために公都からは出られず、しかも、夜が明ける前にタリオ軍が公都攻撃のために城壁に殺到して、出るに出られらなくなったのである。
次いで、獣人族たちの暴動が全公都に拡大し、さらに城門を突破したタリオ軍の略奪もあり、ロクサーヌたちは瓦礫や焼け焦げの影に必死に隠れて、自分たちの命を守るしかなかった。
そして、公都の中に隠れているうちに、ロクサーヌの手配書が完全に出回り、高額の賞金がかけられるとともに、カロリック政府によって捜査網を敷かれてしまい、ほとんど出歩くのは不可能な状態になってしまったのだ。しばらくのあいだ、ロクサーヌたちは公都に焼け落ちた建物の中に棲み処を見つけて、同じように焼け出された住民たちとともに隠れていた。
そのとき、エルヴェラが持たせてくれた変装具の中に、火傷痕を装うものがあったので、それで顔の半分に火傷を作って、ロクサーヌの身柄がばれるのを防ぎもした。
また、そのあいだに、カロリック政府が解体されて、カロリックの統治がタリオ占領軍に移るということもあった。
そして、ガット=スペンサーをはじめとする枢密院の議員を中心に、カロリックの政府高官が次々に、公都の広場で処刑されていくということも目の当たりにした。
やがて、十日も過ぎたところで、公都は新しく統治者となったタリオ軍の占領下で次第に秩序をとり戻すという動きを見せるようにもなった。
だが、そのとき公都だけでなく、公都を中心とした一帯を闊歩したのは、獣人族たちで作られた治安隊だ。
タリオ軍の司令官のランスロット将軍が獣人族で構成される賊徒や叛徒たちを治安維持隊として任命して、人間族の取り締まりをさせたのである。
これまでの鬱憤を晴らすかのような獣人族の人間族への暴行は、しばらく常軌を逸したものでもあり、暴力が日常となる地獄のような状況となった。
その混乱に乗じて、やっと公都を出たのだが、やはり、そこから遠方に出るのは不可能と判断した。
それで、ルカリナと考えたのは、ほとぼりの覚めるまでどこかに隠れることだ。
だが、生半可な場所では、すぐにロクサーヌの捜索の網にかかってしまう。
そして、選んだのは地下組織に近い闇娼館だ。
変装をしてわざと奴隷狩りに捕まり、その闇娼館に連行されるように仕組んだのである。
生き残るためにはなんでもする──。
逃がしてくれたエルヴェラのためにも、その覚悟だった。
そのとき、ロクサーヌは自分も娼婦をするつもりだったが、それはルカリナが阻止した。
それで、変装用の魔道具で顔に酷い火傷の痕を作っていたロクサーヌは、ルカリナの世話をする下女として、ルカリナとともに闇組織に捕えてもらったということだ。
それからも色々あった。
ただ、娼館というのは存外に情報が集まる場所でもあり、そこにくる男たちは結構、外の情報を漏らしてくれる。
娼婦仲間、下女仲間の団結も深く、情報のやりとりもできた。
そうやって、状況を探りながら、カロリック脱出の機会を待つという生活を続けた。
また、闇娼館で暮らす日々の中で、ロクサーヌたちが大公宮から脱走した日のうちに、エルヴェラか大公宮の中で死んでいたということを知った。
信じたくなくて否定したが、さらに複数の証言が得られることで、どうやらそれが真実であることを確信した。
エルヴェラの死が間違いないと認識したとき、ロクサーヌとルカリナはふたりで抱き合ってひと晩を泣き明かした。
その後、その娼館で暴動が起こり、ロクサーヌたちは、ターナ=ショーという女性に助けられ、そのときの縁でハロンドールの女冒険者であるゼノビアとシズを案内者とすることができ、ついにカロリック公国を脱出したということである。
ハロンドール王国内に入ると、一気に旅も楽になった。
また、国境を越えてしばらくしたところで、カロリック公国を征服したタリオ公国が、新ローム帝国設立の宣言をしたということも知った。いよいよ、戻る場所はなくなったと、改めて、ロクサーヌは思った。
やがて、やっと王都ハロルドの手前の城郭のマイムに着いた。
そこでやっとゼノビアたちが冒険者ギルドを通じて、ハロンドール政府に連絡をしてくれ、つい二日前、ハロンドール王室に保護をしてもらったということだ。
そして、昨日一日については、王宮内に留め置かれて、王太后アネルザやイザベラ女王に面談し、ロクサーヌは改めて身分を明かして保護を求めた。
ふたりとも、カロリック公国から逃亡した大公であるロクサーヌの存在に唖然としていたが、とりあえず身柄の保護は約束してくれた。
ロクサーヌはほっとした。
ただ、王宮からの出迎えだったので、そのまま応じて、ゼノビアとシズに声を掛けられなかったのは、申し訳なかったと思っている。あんなに世話になったのだ。
ただ、彼女たちもまた、ここの女性たちの仲間だということなので、すぐに会えるだろう。そのときに謝ろうと思っている。
それはともかく、王宮に着いたその夜のうちに、所用で王都を出ていたらしい独裁官のロウ=ボルグと対面し、ロクサーヌたちは彼の保有する住居屋敷に滞在することが決まった。
やはり、ロクサーヌの存在はしばらく秘匿することになり、その場合、王宮にロクサーヌがいるのは、都合が悪いからだ。
それが昨日の夜遅くであり、いまは翌日の午前中だ。
朝食の時間をすぎ、昨夜のうちに会った女性たちに続き、三々五々に起きてくる屋敷の女性たちと自己紹介と挨拶を交わしているうちに、なんとなく、ルカリナと彼女たちの中で腕に覚えがある者たちとのあいだで、腕比べをしようということになって、いま中庭にテーブルを準備してもらい、出てきたところである。
ロクサーヌは、樹木の下に準備してもらった細長いテーブルの真ん中に中庭を眺めるように腰掛けており、お茶と菓子をもらっている。
準備してくれたのは、シルキーという少女であり、驚いたことに屋敷妖精だという。
そして、周りには、コゼという陽気な女性、エルフ族のエリカ、王軍騎士であり冒険者でもあるらしいシャングリア、人間族の童女のミウ、獣人少女イット、元闘奴だというマーズなどが集まっている。
この屋敷には、ほかにも大勢暮らしているし、昨日のうちに、王宮とも、冒険者ギルドとも、移動術の跳躍ポッドで結ばれていることを教えてもらった。
まだ会ってない女性たちもいるみたいだけど、全体的にみんな仲がいい雰囲気である。
事前の印象では、ひとりの男性を中心とした後宮のような人間関係を想像していたので、それは予想外だった。ひとりしかいない男の寵を競い合うような、そんな殺伐さはまったくない。
そもそも、この屋敷を含めて、ロウの周りに集まっている女性が千差万別だ。
昨日から今日にかけて会った女性たちだけでも、目の前にいる女性たちのほかに、ロウの愛人だと名乗ったのは、女王、王太后、女王の護衛長のシャーラと女官長ヴァージニア、さらに女王の侍女たち。
冒険者ギルド長のミランダも婚姻のメンバーだと言っていたし、王室と連絡を繋げてもらったイライジャという褐色エルフの女性は、セックスパートナーと口にしていた。
ほかに、まだ会ってはいないが、新しく王軍総司令官となったラスカリーナもそうだという話だったし、新たにできたナタル森林王国の公使館の常駐大使のケイラ=ハイエルもロウの恋人ということである。
その公使館の向かい側にある新教団の女教祖フラントワーズ、新設の王軍魔道研究所の所長にして第二神殿筆頭巫女のベルズもロウの恋人だそうだ。
さらに、あちこちに大勢いるとのことだ。
正直、なんという男なのだと思った。
しかも、耳にする限り、普通の女性がいない。
全員がなんらかの女傑である。
旅の途中でロウの愛人になるべきだと諭されたロクサーヌとしては、ルカリナとともに保護をしてもらうためには、それもありだと思っていたのだが、いまは逆に圧倒されている。
こんな女性軍団の中に、ロクサーヌを加入してもらうのは、無理なのではと思っている。
「そんなに、セックスで驚くことですか? 多分、ご主人様はその気だと思いますよ。さもないと、この屋敷には入れませんから」
コゼが笑った。
すると、その横にいたシャングリアが口を開く。
「まあ、無理には進めないが、ロウに愛してもらうのは気持ちいいぞ。やみつきになる。ロウはとことん、女を追い詰めるからな。そして、苦しめる。もう耐えられないと思ったとき、そこから先に連れていかれる。そうやって限界を越えたところで、最高の快感をくれる。一度、味わえば、もうほかのセックスは無理だな」
「は、はあ……」
凛とした美貌のシャングリアから、ここまで赤裸々なことを語られて、なにを言っていいかわからない。
「やめなさいって。ロクサーヌさんはお客さんとして連れてこられたのよ。ロウ様もそう言っていたわ……。申し訳ありません、ロクサーヌ様。みんな節操がなくて」
エリカだ。
「あっ、いえ、そんな……」
ロクサーヌはとりあえず首を横に振る。
「じゃあ、次はあたしとやる、ルカリナ? 武器で勝負すると、あたしの相手にはならないだろうから、武器無しでやろうか」
すると、コゼが立ちあがって、ルカリナの方に向かっていく。
さすがに、ルカリナはちょっとむっとした表情になった。
「人間族と獣人。身体が違う。力も……」
「いいからいいから。おいで」
コゼが挑発するように、ルカリナに手招きをするような仕草をした。
顔を険しくしたルカリナが、唸りをあげるような拳をコゼに向かって振り抜こうとした。
だが、コゼが紙一重でルカリナの腕をかわすと、その片腕をとってルカリナの背中に持っていく。
さらに、反対の腕も抱え込んでしまった。
「わっ、ま、待って──」
コゼに身体を固められたルカリナが前屈みのような恰好で動けなくなった。
「ふふふ、待たないわよ。言っておくけど、暴れると骨が折れるわよ。まあ、折れても、そこにいるミウがすぐに直してくれると思うから、試す?」
コゼが笑う。
ロクサーヌとしては、あんなに強いルカリナが、この屋敷の女性たちにかかれば、子供のように扱われるのを見て唖然とする思いだ。
「う、動けない」
一方で、コゼに身体を固められ、ルカリナは目を白黒させている。
そのときだった。
屋敷側から、また人がやってくる気配がしたのだ。
顔を向けると、ロウだった。
両側にふたりいて、ひとりは冒険者ギルドのミランダで、もうひとりはエルフ族の美女だ──。
また、案内を童女のメイドがしている。
その童女メイドは、初めて見る顔だ。ただ、とても険しい表情をしている。また、すごくスカートが短い。
また、なぜか時折なんでもないところで、つまずくような仕草もする。
ロクサーヌは、かつて振動する革帯の下着を装着させられて生活させられたときのことを連想していまい、かっと身体が熱くなりそうになり、慌てて淫らな思考を自重する。
「くあっ、また……。ミ、ミランダ、いい加減に……」
すると、なぜか童女メイドががくりと膝を折り、次いでミランダを振り替えって睨んだのがわかった。まだ遠いが会話も聞こえた。
「やられるのはごめんだけど、仕返しとしてやるのはいいわね。このところ、あたしもわりと苛められるから、あんたで腹いせよ。ロウの許可であんたを自由にしていいって言われてんのよ。あんたも逆らうのは禁止なんでしょう。ほらっ」
「ぐっ」
すると、また童女メイドが身体を折った。
なんだろう、あれ?
そうこうしているうちに、ロウたちがそばに到着する。
「おっ、もしかして腕比べか? だが、ルカリナさんが圧倒されているみたいだな。どうだ、ルカリナさん、うちの女たちは強いだろう」
そして、テーブルの前でロウが陽気な口調で言った。
「あっ、ロウ様──」
「ご主人様、おはようございます──」
あちこちからロウに声がかけられる。
その状況ひとつを見ただけでも、ロウがここにいる女性の全員に慕われているのがわかる。
「ああ、みんな、おはよう──。ロクサーヌ殿もよく眠れましたか?」
ロウがロクサーヌの近くの空いている椅子に座りながら言った。
「あっ、はい。おはようございます」
ロクサーヌも慌てて挨拶をする。
実のところ、ロクサーヌは目の前のロウと倒錯した性行為をする光景を幾度も予知夢で見ている。
だから、ロウと最初に会ってから、その予知夢の相手がやはり、ロウであることを確信して、どうしても意識してしまうのだ。
とても落ち着かない気持ちになる。
いまもそうである。
「ロウ様、おはようございます──」
すると、ミウが椅子ごと持ってきて、ロウの横に強引に割り込ませた。
「あっ、出遅れた。小娘、そこどいて」
すると、いつの間にかルカリナを解放したコゼがこっちに走ってきていた。いま目の前に立っている。
「いやです。ここはあたしの席です。早い者勝ちですよ」
ミウはロウの腕にしがみついている。
「ええ──? じゃあ……」
コゼがミウの反対側に視線を向ける。そこにいるのは、ロウと一緒に来たエルフ族の美女だ。
だが、この女性もしかして……。
ロクサーヌは訝しんだ。
「と、とんでもありません。ここは死守ですわ。わたしの席ですわ」
その女性も反対側からロウの腕をがっしりと掴む。
それはともかく、やっぱりこのエルフ族の女性って……?
「ガド、あんたも挨拶したら? そこにおられるのが、カロリック公国からロウ様に保護を求めてやってきた元大公陛下のロクサーヌ様よ」
すると、エリカが言った。
“ガド”?
「あら、そうですの? わたしは、エルフ女王国の女王のガドニエルですわ。ご主人様の雌犬です。よろしくお願いしますね」
すると、その絶世の美女がロウの腕にしがみついたまま、満面の笑みを浮かべながら言った。
やっぱり、エルフ族の女王のガドニエル陛下──? どうしてここに? 誰もなにも言ってなかった。
そして、雌犬?
ロクサーヌは仰天した。
とにかく、挨拶をと思って、慌てて立ちあがる。
「申しわけありません。ご挨拶が遅れました。ロクサーヌ=ギストン・ビンス・カロリックでございます。人族発祥の森の守護者にして、女神アルティス様の末裔たる最古の国家ナタル大森林王国の女王ガドニエル陛下にご挨拶申し上げます」
ガドニエルに向かって最上級の儀礼をする。
「あら……。ならば、わたしも挨拶を……。ガドニエル=ナタルである。ロクサーヌ=ギストン・ビンス・カロリック、よろしく」
ガドニエル女王の態度が一転する。
ロウから手を離し、座ったままではあったが、満面の笑みから柔和な笑みに表情を変えてロクサーヌに言葉を返してきた。
さっきまでと同じ人物なのかと唖然とするほどの、ガドニエル女王の毅然とした態度である。
とにかく、神々しいほどの美しく、また威厳がある。
やはり、本物のナタルの森の女王なのだと思った。
すると、シャングリアの笑い声が響いた。
「いまのはエリカが悪い。王侯貴族という生き物は、挨拶をするのも順番がある。ナタルの森のガドニエル女王ともなれば、ローム法王を上回る権威者だ。先に挨拶を促すのは、ロクサーヌ殿側だな」
そのシャングリアが言った。
「あら、そういうもの?」
エリカは、きょとんとしている。
「まあまあ、そんなことはいいだろう……。それより、ルカリナさん、見ている限り、随分とコゼにやられていたようだけど、戦士としてひと晩で強くなれる簡単な方法があるとしたら、興味はあるか?」
すると、ロウがまだ中庭で呆然していたルカリナに声をかけた。