【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「うわっ」
「ひあああ」
「うわああ」
空を突き破って黒色の衝撃波が地面に突き刺さって、大きな穴を開けたのを一郎は確認した。
その一郎を女たちが寄ってたかって重なって、身を挺して一郎を守ろうとしてきた。重さで押しつぶされそうだ。
また、ミウはすぐそばで全員の頭の上に、屋根のように薄い防護膜をとっさに敷いてくれたみたいだ。ただ、衝撃波はこちらには直撃せずに、誰もいない中庭側にずれたのだ。
とりあえず、一郎はほっとした。
周りを見回す。
みんな無事のようだ。
じっくりと味わうつもりで緊縛してやったルカリナは、とっさに緊縛だけは収納術で解いたものの、膝までおろしたズボンまでは間に合わず、身につけていた男物の下着を露出してズボンを膝までおろした格好で、一郎の身体の下にひっくり返っている。
咄嗟に一郎が身体の下に守ったのだ。
また、煽って一緒に味わう予定にしていたロクサーヌも無事だ。
ほかの女たちは、全員が一騎当千だ。
一郎の身体の上に跳び込んできたが、大丈夫そうだ。
「シルキー、なにがあった──? 屋敷側は無事か──?」
女たちの身体の下から叫んだ。
あっちには、まだアン、ノヴァ、ユイナなど、戦うすべも、守るすべも持たない者がいる。
「防護結界と遮蔽結界が破られたのは、ここだけです。すぐに修復します──」
シルキーが必死の感情を露わにして叫ぶ。
いつも無表情の屋敷妖精のシルキーだが、衝撃波を貫通されたときとともに、あれほどに焦った様子は珍しい。
それだけの非常事態ということだろう。
ところで、その女たちの身体の隙間から、一郎はガドニエルが一郎たちと中庭のあいだにガドニエルが立っているのが視界に入った。
空に向かって、手をかざしている。
すると、ガドニエルが手を向けている側の空がきらきらと光った気がした。
「さあ、問題ありませんわ。いま、防護結界をかけ直しました。なんでもありません。なんでもありませんたら、なんでもありません」
ガドニエルがにっこりと微笑んでこっちを見る。
だが、なんとなく様子がおかしい気がした。
とりあえず、みんなに一郎の上からおりてもらう。
すると、目の前の空間が揺れて、そこにスクルドが現れた。腰の紐パンにローブだけをひっかけた姿だ。ローブの前を留めてないので、小さな下着しか身に着けておらず、豊かな胸まで露出しているのが見えるのである。
「いまのはなんですか? ご主人様はご無事ですか? みなさんは──?」
スクルドも驚いている。
「それよりも、なによ、その恰好は?」
エリカだ。ちょっと呆れている。
「申し訳ありませんわ。突然のことでしたので。夕べはご主人様に可愛がってもらいまして」
スクルドはあっけらかんとして、前の合わせ目を留める。
「なんでもないのです──。これはなんでもないことです」
一方で、ガドニエルがまたもや、焦ったように叫んだ。
やはり、なんとなく様子がおかしい。
「さっきから、なんで何度も“なんでもない”って、繰り返してんのよ、ガド?」
コゼだ。
そのコゼは、ぴったりと一郎の前に密着している。ほかに一郎の周りには、マーズ、エリカが隙間がないくらいに一郎に張り付いていて、ほかの女たちはさらにその周りに集まっている感じだ。
「だから、なんでもないからですわ。すぐに諦めますわ。跳ばしましたから」
「跳ばす? なに言ってんの、ガド? なにか知っているなら吐きなさい──」
今度はエリカが怒鳴る。
「いえ、だから、問題ないのです」
ガドニエルが必死の様子で手を横に振る。
「なに、スクルドみたいなことを言ってんのよ、ガド──。あんたらが、なんでもないって、言ったときに限って、なにかあるのはわかってんのよ。さっさと知っていることを言うのよ──」
エリカがぶち切れた感じで怒鳴りあげた。
いつもは常識人だが、短気で激情しやすいのもエリカの性分だ。だから、コゼにいつもそれを狙って揶揄われるのだが……。
それはともかく、エルフの都を出立する頃には、ガドニエルが女王ということでそれなりの態度だったが、いまやエリカもガドニエルにはすっかりと身内意識である。
まあ、いいことなのだろうが……。
そのときだった。
また、大きく屋敷全体がこの中庭を含めて大きく揺れて、空に衝撃音が轟いた。
「なにか空におるぞ──」
リリスが指を差した。
そこには、青空しかないが、実際には屋敷全体をシルキーの結界が覆っていて、遮蔽する防護膜のようなもので半球状に屋敷の敷地全体を覆っているそうだ。
つまりは、その上に何者かがいて、こっちを攻撃しようとしているということか?
シルキーの遮蔽があるので、こちらからも見えないのかもしれない。
「ちっ、早いですわねえ。蹴散らしますわ。シルキーさん、一度、結界の一部をこちらから打ち破ります。ご容赦ください」
ガドニエルが舌打ちした後に声をあげると、こちらに背を向けて空を向く。
内側から結界を破る?
一郎は唖然とした。
「ガド──」
「ガドさん?」
エリカが叫び、また、スクルドも困惑した様子だ。
とにかく、ガドニエルがやっていることがわからないので、加勢のしようがないで困っているのだろう。
「うわあ……」
「ローヌ様、あたしのそばに」
ロクサーヌとルカリナだ。
やっと思考停止状態から解放されたみたいになっていたが、やっと我に返った感じだ。
一郎はふたりに向かって口を開く。
「とんだことになりましたけど、続きは後で」
「あっ、いえ?」
ロクサーヌが顔を真っ赤にして首を横に振る。
ルカリナも複雑そうだ。
一郎としても、何者か知らないけど、もう少しで主従丼で愉しめたと思ったのに、とんだ邪魔をされた気分だ、
ロクサーヌがマゾでかつ受け身なのは、会ってすぐにわかった。しかも、従者のルカリナにかなり依存気味のところもだ。
だから、ロクサーヌをその気にさせるには、ルカリナを最初に誘って、その状況でロクサーヌの心を揺さぶれば簡単に堕ちると予想していた。
実際にその通りだった。
いい感じだったのに……。
まあ、後で仕切り直せばいいのだろうけど……。
とりあえず、一郎はミウを見た。
「ミウ、一度、屋敷内に戻ってくれ。イットとマーズもだ。向こう側の安全を確保してくれ。こっちはこれだけいるからいい。それと、ロクサーヌ殿とルカリナも屋敷側に避難」
一郎は叫んだ。
「了解です。イット、マーズ、こっちへ──。ロクサーヌ様たちも」
「あっ、はい」
「わかった」
ロクサーヌとルカリナが慌ててミウに駆け寄る。
マーズとイットも合流して五人が消える。
移動術による跳躍だ。
屋敷側に向かってくれたのだろう。
すると、大きな白い光線がガドニエルから空に向かって、風を貫く轟音とともに発射された。
反動でこちらまで地響きが伝わってくる。
そして、空が破けたように空間が揺れ、次いでガドニエルの打った白い衝撃波が空全体に弾けて拡がったみたいになる。
その直後、今度は最初に打ち込まれた黒い波動のようなものがガドニエルに向かって間髪入れずに戻ってくる。
それが視界一杯に拡がる。
「うわあああ──」
「ひあああっ」
「スクルド、防護おおお──」
悲鳴は誰と誰か──?
エリカがスクルドに向かっての叫びが聞こえた。
巨大な波動のようなものが一郎たちを中心とした一帯を包み込むと思った──。
目の前が闇で真っ暗になる──。
「ふんっ──」
ガドニエルが腹に気合を入れたような声を出す。
包みかけていた衝撃波の闇が四散した。
空とガドニエルの中間でそれが弾け飛んだのだ。
だが、暴風が襲い掛かる。
前のコゼが一郎にぶつかり、一郎もまた風で押される。
しかし、身体が飛ばされそうになるのを、後ろにいたシャングリアとミランダが身体を掴んで支えてくれた。
一郎は手を伸ばして、やはり飛ばされかけていたエリカの腕を掴む。
「しつこいですねえ──」
今度はガドニエルが再び白光の衝撃波を発射する。すぐさま、空から衝撃波の打ち返しが来た。
それが宙で弾けて、ガドニエルが間髪入れずにまた撃つ──。
とにかく、凄まじいとしか言いようがない。
ガドニエルがいるから、一発もまともにはこっちには来ないが、ガドニエルの魔道防護を突破されれば、今度こそ、周囲一帯が吹き飛びそうだ。
一郎はガドニエルをここに残して、全員を離脱させるべきか、あるいは、ここで支援の体勢を続けるべきか迷った。
「お兄ちゃん──」
すると、屋敷側から誰かの声がした。
こちらに駆けてくる。
亨ちゃんだ。
「ケイラ様──?」
エリカが怪訝な表情で声を出す。
スクルドが作った移動用のポッドで公使館とここも移動術で繋げているので、それでやってきたのだとは思うが、なにか焦っている感じだ。
「亨ちゃん、こっちはちょっとこういう状況だ。何者かに攻撃を受けている」
辿り着いた亨ちゃんに、手短に状況を説明する。
もっとも、わけがわからないので、大して説明できることはないのだが……。
「しゃらくさいですわ──」
ガドニエルが叫んだ。
白い光線が一発ではなく、五連斉射した。
凄まじい轟音が空で響いた。
「な、なにあれ?」
「まるで戦争ね」
コゼとミランダだ。
「確かに、怪獣大戦争だな」
一郎はうそぶいた。
「怪獣? なんだ、それ?」
シャングリアだ。
怪獣はこっちにはない概念だ。
大きな力を持つ巨大生物だと説明する。
「ああ、ドラゴンのようなものか。ロウの故郷ではそう言うのだな」
シャングリアが納得したように言った。
まだ、遭遇したことはないが、どうやらこの世界には、ドラゴンはいるようだ。
そのあいだも、ガドニエルと外にいる攻撃者とのあいだの魔道の打ち合いは続いている。
それにしても、何者なのだろう?
さすがの一郎の魔眼でも、衝撃波の飛び交う結界越しでは、相手を読むことは不可能だった。
「遅かったわね。知らせを聞いて、すぐに来たんだけど。だけど、頭に血が昇っていたみたいだから……」
亨ちゃんが呟いた。
「なにかを知っているのですか、ケイラ様?」
エリカが怒鳴る。
「まあ、一応ね……。ガドニエル──。お前からの攻撃をやめなさい──。防護結界を解いて、入れればいいでしょう」
すると、亨ちゃんがガドニエルに向かって大声を放った。
「大丈夫です。すぐに追い返しますわ。一度気絶させてから、移動術で身柄を送り返しますわ。それええ──」
だが、ガドニエルが振り返ることなく、そう返事をすると、衝撃波を空に飛ばす。
また撃ち返しがあり、周囲が揺れる。
「やめろって、言ってんのよ──。あんたが打ち返さなきゃ、ラザニエルも多少はのぼった血もさがるわよ」
「大丈夫です。追い返します。絶対にここに入れませんわ」
亨ちゃんがまたガドニエルに叫ぶが、相変わらず、ガドニエルはこっちを向くことなく、衝撃波の打ち合いをしている。
「えっ、いまのどういうこと?」
コゼが亨ちゃんに向かって叫んだ。
「もしかして、外から衝撃波を打ち込んでいるのは、アス……いえ、じゃなくて、ラザニエル様なのですか?」
エリカもびっくりしている。
「そうなのか、亨ちゃん?」
一郎は亨ちゃんを見た。
すると、亨ちゃんはばつが悪そうな顔をする。
「いくら連絡をしても、戻ってこないガドニエルに対して、ついにラザニエルが切れてね……。このところ、あいつはラザニエルからの連絡すらも受け取りを拒否していたし……。それで、ついにラザニエルがこっちに乗り込むために出ていったって、水晶宮から緊急連絡があったから、こっちに素っ飛んできたんだけど、どうやら、ラザニエルの方が早かったみたいだね」
亨ちゃんは苦虫を噛んだような顔をしている。
「つまりは、あれは姉妹喧嘩ってことか?」
シャングリアだ。
「それで、なんでいきなりこの屋敷が攻撃されることになるのさ?」
ミランダだ。
「まあ、ラザニエル様はそういうお方です。言葉が通じないときには、すぐに手を出します」
「そうだな」
エリカの言葉に、一郎も同意した。
「いずれにいたしましても、これ以上はこの屋敷がもちません。これがさらに続けば、皆様の安全の確保も難しくなります。一度、旦那様をはじめ、皆さまはブラニーの屋敷側にご避難をお願いします。リリスも一緒に行ってください」
シルキーだ。
かなり疲労困憊している感じである。
シルキーはシルキーで、ずっとこの途轍もない衝撃波の打ち合いで破れ続ける結界を繕い続けているに違いない。
「うむ、わかった」
リリスも頷いた。
「ちっ、あいつらがやめればいいだけじゃないのよ……。こらああ、ガド──。屋敷ごと防護結界が破れるから、打ち合いをやめんのよ──」
コゼが大声で叫んだ。
「大丈夫ですわ。もう少しです。必ず、悪者は追い返しますから、ご安心を」
ガドニエルが衝撃波を撃ち合いながら叫ぶ。
「なにが悪者よ──。やめろって言ってんのよ──。姉妹喧嘩なら、外でしなさいよ──」
「も、もう少しお待ちを──。必ず、必ず追い返します──。必ずです──」
ガドニエルもこっちを見ずに衝撃波を撃ち合い続けるばかりだ。
「あいつめ……」
亨ちゃんがぎりりと歯を噛んだ音が聞こえた。
「とにかく、ご避難を──」
シルキーが叫んだ。
「いや、不用だ。そういうことなら、俺に任せろ」
一郎は衝撃波を撃ち合っているガドニエルを、まずは亜空間に収容した。
ガドニエルが消える。
「スクルド、前面を防護──」
ガドニエルがいなくなったので、魔道の壁が本来のシルキーのものだけになり、たったいまガドニエルがいた場所に、数発の衝撃波が続けざまに到達する。
凄まじい轟音とともに爆風が飛んできたが、スクルドが新たに構成した防護膜で全員が包まれて護られる。
そして、空間が揺れる。
地面のすぐ上の場所の宙に、目を血走らせたラザニエルが出現した。
「あの馬鹿女王はどこだい──?」
黒髪を振り乱して、憤怒の表情だ。
一郎は、そのラザニエルもまた、淫魔術で捕まえて亜空間に放り込んだ。
「じゃあ、ちょっと行ってくる。ちゃんと話し合いをさせてくるよ」
一郎はみんなににっこりと微笑んで見せた。
「あっ、いってらっしゃい」
「お兄ちゃん、ごめんね」
「ご主人様お願いします」
一郎は女たちの声に見送られながら、さっきガドニエルとラザニエルを収容した亜空間に自分の身体も収納した。
*
次回、ロクサーヌとルカリナの「主従調教(隷属化)」を期待されていた方がおられれば申し訳ありません。それに先立ち、次はガドニエルとラザニエルの「姉妹調教(お仕置き)」篇となります。