【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
この王国を走るどの街道からも離れた小さな山村──。
王都からは一日程度しか離れていない場所にあり、麓にあった村の者しか知らないような名もない村だ。
住民は五十人ほどだという。
ノルズは、月明かりの下をその山村に向かって駆けている。
夜ではあるものの、かなり朝に近い夜だ。
もうしばらくすれば、一気に闇が晴れて、朝の
山村に入るのは、完全な夜が望ましかったが、時間を優先したために、この時間になったのだ。
先日、捕えたひとりの獣人族の持っていた布の端切れに、その山村のことと思われる記号と印があった。
訊問ができればもっと有益であやふやではない情報が手に入れられたのだと思うが、残念ながらその獣人族は、捕えて拘束した時点で歯の中に隠していたらしい毒で死んでしまったのだ。一緒に捕えたのは三人だったが、その全員がその場で自殺してしまった。
死なせてしまったのは、ノルズの落ち度だ。
口の中に毒を隠すなど、自白を強要されることを嫌う間者の常套手段である。もっとも、その獣人の身体には、隷属された奴隷であることを示す紋様が肌に刻まれていた。
もしかしたら、あらかじめ、捕らわれて逃げられないと判断した時点で、自殺をするように命令を与えられていたのかもしれない。捕えた瞬間に、手足の骨を全部砕いて、自殺の気力など削いだつもりだったのだが、死なれてしまったのだ。
連中が隷属の命令によって自殺を指示されているのだとすると、自殺をしないように気力を削ぐだけじゃだめなのだろう。
物理的に自殺を防ぐすべての手段をとりあげなければ、あいつらは全部自殺をしてしまうのに違いない。
もっとも、運がよかったのは、そのときに死んだ三人のうち、ひとりが髪の毛の中に、小さな布片を隠していたことだ。
そこに書かれていたのは、数箇所の場所のことと思われる記号と日付だ──。
しかし、場所については、暗号のような記号で書かれていて、場所が特定できたのは、いま向かっている山村だけである。ほかは、場所を表しているのだと思うが、どうしても判明できなかった。
そして、布片に書かれていたのは、ある日付──。
日付は、あと九日後に迫ったイザベラ女王の戴冠式と、ロウたちの婚姻式が行われる日を示していた。
なにかある。
ノルズは、とにかく手がかりを求めて、いま、その山村を向かっているということだ。
すぐに行動を起こして、この山村に向かってきた。
その結果、朝に近い夜に、ここまで辿り着いたということだ。
いずれにしても、このところ、得体の知れない獣人族が王都近くに入り込んできて、諜報活動のようなことをするということが続いている。
調べているのは、王都周辺のことであり、特にロウに関することみたいだ。
いまのところ、情報活動だけで実害はないが、どういう目的で、誰の指図で行動をしているのかと探ろうとすると、次々に死んでしまう。
そういうことが頻発している。
だから、今回のことは、初めての手がかりらしい手がかりなのだ。
「姐さん──」
駆けていると、後ろを走っていた少年から声を掛けられた。名はスニフ──。
直接の部下というわけではないが、クラウディオ伯という貴族が扱っている奴隷だ。
奴隷といっても、その奴隷と主人であるクラウディオ伯との関係は、ロウとその女たちの関係に似ていた。
性的関係をするときだけ、奴隷とか主人とか言い合って、嗜虐調教のようなことを愉しみ合い、普段は気さくに会話をする関係だ。
奴隷関係でなくても、伯爵ほどの貴族と、それに仕える家人が敬語も使わずに会話をするというのはご法度だと思うが、クラウディオの奴隷たちは、主人であるクラウディオ伯を“ディオ”などと愛称で呼ぶ。
扱いもぞんざいだ。
実に興味深い。
それでいて、本物の奴隷なのだ。彼らの身体には、クラウディオ伯を主人とする隷属の紋様がちゃんと刻まれていた。
「なんだい──?」
今回、ノルズと同行しているのは、声をかけてきた奴隷の少年のスニフのほかに五人だけだ。スニフのほかは、全て少女である。
瞬時に集まれるのは、それくらいであり、十分な人数を集める時間が惜しかった。
時間との戦いだと思ったのだ。
また、ノルズがこうやってクラウディオの奴隷と行動を共にしているのは、ノルズとクラウディオ伯を中心に、独裁官たるロウのために動く諜報組織を作っているからである。
ただ、実際に指示を送るのは、ロウの愛人であり、エルフ族王家の裏社会を握ると存在だとされているケイラ=ハイエルというエルフ族の王族の女だ。
そのケイラから、王都周辺に潜入してきている怪しい集団があるという情報をもらい、それを探るために動いていたところ、連続でおかしな獣人族の諜報員らしき者と接触したということだ。
「草の中から血の匂いがするっす」
立ちどまったノルズに、スニフが近づいてささやいた。
すでに、山村から離れた場所ではない。
月明かりで見えにくいが、かなり距離はあるものの、遠目には薄っすらと山村の家屋群が夜闇に溶けている。
「はあ? どこだい?」
ノルズは振り返った。
また、ノルズとスニフ以外は、すでに周辺の草の中に展開している。
指示しなくても、自然とこういう行動がとれるほどに、クラウディオ伯の奴隷たちは優秀だ。
「こっちですね」
少女の声がした。
イヴという少女だ。
草から彼女が顔を出す。
少女たちについては、全員が黒装束をしている。顔にも炭を塗っているので、眼と歯だけが闇に浮かんでいるようだ。
そのイヴの方に向かう。
すると、草の中に大量の血糊があった。そして、あちこちに散らばっている。
なんとなくだが、複数人数のものだと思う。また、明らかに人のものだ。獣の血ではない。
ただし、死骸のようなものはどこにもない。血糊以外の痕跡もなかった。
「新しいですね」
ほかの少女たちも集まってくる。
「そうだね」
血糊から類推できるとは、一日以上は経っていないだろうということだ。
山の獣に死骸を喰われて持っていかれた可能性もあるが、それらしい獣の足跡もないし、痕跡がなさすぎる。
「ノルズ姐さん、こっちです」
別の少女が声をあげた。
少し離れた場所の数本の大きな樹が茂っている土だ。月明かりだけど、確かに土の色がわずかに周囲に比べて変わっている場所がある。
「よく見つけたねえ」
ノルズは感心した。
そして、その土の向かって手をかざす。
魔道で土を表面部分から始まって徐々にどけていく。それほど深くまで掘り返さないうちに、三人の子供の死体がでてきた。
五歳から七歳くらいだろうか。男の子がふたりと、女の子がひとりだ。
衣類のようなものはすべて剥ぎ取られて裸で土の中に放り込まれていた。穴に入って、死体の身体を探る。三人の子供のうち、ひとりは背中を深く切られていて、残りの子供は頭を殴られていた。
「致命傷になる傷じゃなかったかもしれないね。少なくとも、頭を殴られただけの子供は、埋められた時点では死んではなかったかもしれない」
ノルズが死体の状況を見て説明すると、集まっている少年少女たちは嫌な顔をした。
「この先の山村の子でしょうか?」
少女のひとりがぼそりと言った。
ノルズは肩を竦めた。
「なんともいえないね。身元のわかるようなものは、なにもなくなっている。ただ、可能性としてはそうなんだろう。そもそも、どういう経緯で殺されたのか」
この死体でわかることはほかになさそうだった。
魔道を遣って土を戻す。
すると、少女がふたり、近くから握り拳ほどの石を持ってきて置き、たまたま近くにあった野花を埋めていた。
相手の状況がわからない現状では、子供たちの死骸に誰かが触れたことをできれば知られたくないのだが、まあ、いいだろう。
ノルズは、彼女たちのしたいように任せることにした。
もう少し移動して、遠目からもわかる三本木のある場所を見つけた。
再び、六人全員で集まる。
「よし、ここから先は二人ずつに分かれるよ。とりあえず、山村に潜入する。お前たち四人は、まずは姿を見られないように隠れな。あたしとスニフは旅人を装って明るくなってから山村に入ってみる。潜入組は夜までそのままだ。それまでに何かがあれば、ここが拠点だ。ここに戻るんだ。なにもなくても、夜になったら、この場所に集合。ただし、非常事態になったら、渡しているのろしで合図だ。質問?」
五人が頷く。
クラウディオの奴隷たちのうち、少女四人が草の中に消えるようにいなくなる。
残ったのは、ノルズと少年のスニフだ。
少女たちが黒装束だったのに対して、ノルズとスニフは、冒険者風の小汚い旅人の格好であった。
この山村には、旅人を装って入ってみるつもりだった。
だから、最初からこんな格好をしていたのだ。
「あたしたちは、明るくなるまで待機だ。冒険者を装って入るからね。いくらなんでも、夜明け前に入るわけにはいかない」
ノルズは三本木の近くにあった大きな石を椅子代わりにして腰をおろす。
スニフがにこにこしながら、向かい合うように別の石に座った。明るくなったら、隠れることなく山村に向かうので、堂々としたものだ。
まだまだ山村までかなりの距離があるので村の者の眼にとまる可能性は低いが、見つかったら見つかったらで、会話をして村への立ち寄りを求めるという方法もある。
この山村に近い場所に、最近魔獣が発生して、ギルドからクエストが発生しているのは確かなのだ。
ノルズたちに限らず、このところ、目当ての山村に立ち寄る冒険者は皆無ではないはずである。
「火をおこしていいすっか? まだまだ、ここ村から離れているし、火は見えないっすよねえ? まあ、見えても問題ないっすし。なんかあったら、おれ、説明しますっし。もしかしたら、頼んで、村に入れてもらえるかもしれないっすしね」
スニフが人懐っこそうな笑みを浮かべて言った。
どうやら、ノルズと同じようなことを考えていたみたいだ。
ノルズが頷くと、すぐに立ちあがって、近くから小枝を集めてくる。そして、背負っていた荷から火付けの道具を出して、あっという間に焚火ができあがった。
「へえ、慣れてるねえ」
「もともと、野暮らしでしたから。屋根のあるところに棲んだのは、奴隷狩りでとっ捕まってからのことっす。なんでもできますよ。ちょっと朝飯を調達してきますね」
「朝飯?」
ノルズは首を捻ったが、スニフはすぐに立ちあがって、あっという間に立ち去った。
唖然とするほどの行動力だ。
やがて、夜の闇が開けて、白々とした明るさが空に混じってきた。
すると、手に大きな
「運がよかったっす。眠っている大土鳥の巣を見つけったっす。しかも、
スニフがにこにこしながら、革袋を投げてきた。
小川?
事前の情報収集で、それなりの地形情報を頭に叩き込んできた。水を汲めるような小川まではかなりの距離があるはずだ。
だから、この先の山村では溜池を作って飲料や生活のための水を確保しているという情報だった。
どこまで行ったんだ?
そういえば、スニフのズボンがかなり汚れている。
だが、まあいいか……。
ノルズは革袋の水をもらって喉を潤わせて革袋を返す。
そのあいだ、スニフは器用に少しだけ鳥の羽根をむしってから、小刀で内臓を取り出すと、まだ羽根が残っている状態で、そのまま焚火に放り込んだ。
「豪快だねえ」
ノルズは苦笑した。
「火で羽根は焼けてしまうから大丈夫っすよ。そして、焼けた羽根が炭になって、脂が外の出るのを防いでくれるっす。だから、美味いっすよ。一羽は村への土産にするっす。手ぶらで行くよりも、喜ばれるっすから」
スニフが焚火に小枝を足しながら笑った。
小さくなりかけていた炎が大きく燃えあがる。
「火加減が一番難しいっすよ。外側は一気に焼いて固めて、内側はじっくりと火を通すっす。まあ、任せてください。塩も持ってきてるっすから、それだけで、滅茶苦茶美味いっすから」
スニフが枝で炎の中の大土鳥を木の枝で回していく。
確かに手際はいい。
しばらく感心して見守っていた。
その間も、スニフは鳥の焼き方と炎についての解説をずっと続ける。まあ、よく喋るものだと、ノルズは黙って聞いていた。
「ねえ、姐さん、話しかけてもいいっすか?」
すると、やがて、大土鳥と焚火を操りながらスニフが声をそうかけてきた。
「さっきから、話かけているじゃないかい」
ノルズは半ば呆れて言った。二人きりになったのも、こうやって面と向かったのも初めてだが、このスニフという少年がかなり社交的でお喋りなたちであるというのは、すでにわかった。
ずっと喋っているのだ。
「いや、でも姐さんって、なんか、話しかけるなっていう雰囲気を出すっすから。もしかして、うるさいなら、いくらかは黙っていられるっすよ。ちょっと苦しいっすけど」
「黙っていると苦しくなるのかい。呆れたお喋りだねえ。まあ、好きなようにしな。いちいち返事をしなくてすむならね」
「ありがたいっす。ところで、姐さんのスカートって短いっすよねえ。うちの女どもが身に着けているものに比べて、ずっと短いっすよ。王都ではそういうの流行っているすんよね」
「ああ?」
むっとして、思わず不機嫌な声を出してしまった。
スカートの丈が短かろうが、長かろうが知ったことかと思った。
余計なことだ。
それはともかく、スカート丈が短いのは、先日、ロウに会ったとき、「命令」として、太腿を半分以上露出しないスカートは身に着けるなと言われたからだ。
そこまで短いのははいたことはないし、そもそも、男物ばかり身に着けていたので恥ずかしい感じもするが、ロウの言葉は絶対だ。
幸いにも、ロウの女になったイザベラ女王、アネルザ王太后、神殿の筆頭巫女辺りがこぞってスカート丈が短いので、このところ、庶民の服でも貴族の礼装でも、スカート丈が短いデザインが大流行していて、手に入れるのも容易だし、極端に目立つということもない。
それだけは、ほっとしている。
いずれにしても、ロウの命令なので、ノルズとしては忠実に実行するほかの選択肢はない。
「似合うっすよ。脚が綺麗ですしねえ。鍛えてあるっすよねえ。色っぽいっす」
「お喋りしてもいいって言ったけど、前言撤回するよ。黙ってな」
ノルズは舌打ちした。
「まあまあ、姐さん。言いたいのは、そうじゃなくってすっね。でも、姐さん、そういう短いスカート丈の服って慣れてないんじゃないっすか? さっきから見えてるっすよ。真っ白い下着が」
スニフが笑った。
「は、はああ──?」
ノルズはかっとなって、足元に遭った小石を拾うと
死ぬような速度じゃないが、のたうち回る程度には激痛な程度の勢いだ。
だが、スニフは首をかすかに動かすだけで、飛礫を避けてしまった。
「怒んないでくださいよ。おれはちょっと気になっちゃって。だけど、うちの周りにも女がたくさんいるっすけど、膝は揃えて斜めにするといいらしいっすよ。膝を揃えても、真っ直ぐだと見えるっす。しかも、姐さんって、膝が開いているし」
「喋んじゃないって言ってんだろう──」
立ちあがって、魔道で衝撃波を飛ばす。
だが、ほぼ同時に、スニフが枝で空中にできた魔道紋の出口を切って、魔道を無効化する。
ノルズは眼を疑った。
ただのお喋り小僧だと思っていたのに、ノルズの魔道を木の枝一本で制御してしまう程の力量があると思わなかったのだ。
「うわっ、気を悪くしたなら謝るっすよ。でも、見えてるから、教えた方がいいと思って。あっ、もしかして、わざと下着、見せてるっすか?」
「そんなわけがないだろう──」
すっかりと調子が狂ってしまい、ノルズは再び石の上にしゃがみ込む。
だが、思い出して、膝を揃えて斜めに傾ける。
スニフがくすりと笑った。
「やっぱり、姐さんって可愛いっす。怖そうに見えるようにしてるっすけど、本当は可愛いっすよね。独裁官様もそれが気に入ってるに違いないっすよ」
「黙ってろと言っているだろう──」
ノルズは怒鳴った。
ただ、ノルズがロウの愛人のひとりであることは、すでに知られているので否定はしない。
ノルズが教えたわけでないが、なぜかこいつらは知っていた。
隠す理由もないので、そのままにしてたら、新しい諜報組織内においては、すっかりと自明のことと知れ渡ってしまった。
「それで、さっきの白い下着って、“紐パン”ってやつっすよね。うちの主人のディオさんも、娘たちにそれを身につけろって、全員に命令したっすよ。横の紐を解けば簡単に脱がせられるし、ディオさんもお気に入りっす。王都のなんとかって、商会で売り出したんすよね。あれ、凄いっすよね。姐さんもお気に入りっすか?」
「しゃ、喋んなって、言っているだろう……」
ノルズは頭を抱えた。
そして、最初に、好きなように喋っていいと言ってしまったを後悔した。
「でも、なんで、紐パンなんすっかね? パンじゃないっすよね。下着っすよね」
ノルズは返事をしなかった。
“紐パン”と名付けたのはロウだ。ノルズも、なんで“紐パン”なのかは知らない。紐はわかるが、“パン”というのはなんだろうとは思う。
だが、ロウが言うのだから、誰も名前を変えようとはしなかった。
あれを大々的に商品として売り出しているマア商会は、そのまま“紐パン”という名前で売っている。
白だけでなく、様々な色に染めた商品を売り出すことで、王都を中心に爆発的な流行にもなっている。
ロウは、あの紐パンの素材にもこだわっていて、柔らかくて、透けて見えるくらいに薄く、さらに着心地のいいものでなければ許さないと主張して、マアに商品開発を厳しく要求したそうだ。デザインにもこだわりがあるみたいだった。
そのため、ほかの商家も追随をしようとするが、材質でも値段でも、同等のものを作ることはまだできないでいて、“紐パン”シリーズはいまだに、マア商会の独占状態らしい。
「ところで、ノルズ姐さんのお気に入りの色は白っすか? 時々、眼にするっすけど、いつも白っすよね」
「時々見る──? お、お前……」
ノルズはかっとなった。
「だって、見えてしまうっすよ……。おれって、耳も眼も特別にいいんっすよ。とにかく、あの商会で売っているやつって、白以外にもいろいろな下着があるっすよね。なんで、白っすか?」
白色は、ロウの命令だから身に着けているだけだ。
下着の色は白と命令された瞬間に、ノルズは白以外の下着を捨てた。
ノルズにとって、ロウは神様にも等しい。その神様に下着の色を限定されたときには、有頂天になるくらいに嬉しかった。
「おれのお気に入りは黒っす。黒を選んでるっす。ディオさんも色までは命令しないっすし。あっ、もしかして、白っていうのは、ノルズ姐さんの趣味じゃなくて、独裁官様の趣味っすか? だったら、しょうがないっすね。白以外身につけちゃあ……。でも、白って、濡れたりしたらすぐにわかんじゃないっすか。女の人って、男と違って、前戯のときから汁を股間から出すっすから、紐パンはいてて、下着だけになったら、感じているのが丸わかりになるじゃないっすか。だから、おれは黒にしてんすよね。姐さんたちは、そういうのは大丈夫なんっすか?」
「大丈夫じゃない──。……っていうか、もう喋んじゃないって言ってんだろ──」
さらに怒鳴りあげる。
だが、スニフは悪びれる様子もない。にこやかな表情を崩さずに口を開き続ける。
「だけど、あの商会って、女物の紐パンしか売り出してないんすよね。今度、男物も出して欲しいっす」
「男物? 男があの紐パンを身に着けるのかい?」
相手にしないつもりだったけど、思わず聞き返してしまった。
ノルズは内心でしまったと思った。
だが、思い出してみると、さっきこいつは、自分は黒を選ぶと言っていた。あれは、もしかして、自分が女に身につけさせるときの好みではなくて、自分が身に着けるときの色か?
そもそも、こいつも、クラウディオ伯の少年性奴隷だ。
奴隷同士で性交をすることも多いようだが、こいつが相手の娘の下着の色を指定するということもないだろう。
「ディオさんの命令っす。ディオさんの性奴隷のおれたちは、男も女も性奴隷の全員が紐パンっすよ。命令だから、仕方ないんっすけど」
「なら、いまもお前は、女物の下着かい」
ノルズは笑った。
「そうっすよ。見せるっすか? だけど、小さいっすよ。女は出ているものもないから、問題ないっすけど、男は勃起すれば、どうしたってはみ出るんすよ。おれもネロも、ディオさんの閨に入るときに、いつもそれで苛められるっす。最近のディオさんの流行は、“頭出したら駄目よ”遊びなんっすよ」
「頭出したらだめよ? なんだい、その呆れた名前の遊びは?」
会話をしないつもりだったが、またもや、ついつい問い返してしまった。言葉を返した後ではっとしてしまった。
「おれとか、ネロとか男っすよね。寝台に四肢を拡げて拘束されるっす。紐パン一枚で。それで身体をディオさんに愛撫されて、みっともなく、下着から性器の頭を出したら、罰を与えられるっす。この前は、頭がはみ出た先っぽに、薬を塗られたっす。掻痒剤っす……。あっ、そろそろ、いいっすね。姐さんどうぞ」
スニフがいい匂いがしてきた焼けた鳥肉を焚火から出して、塩を振ってから、小刀で二つに分けて、片側をノルズに渡してくる。
確かに脂がのっている感じである。焼き加減も絶妙のようだ。
それはともかく、ノルズとともに、ハロンドール王室の諜報組織を担うことになった“ディオ”ことクラウディオ=マイル伯であるが、実は、ロウと同じ性癖を持つ。
つまりは、嗜虐癖だ。
その相手たちの奴隷が嗜虐を与える「主人」を慕っているというのも似ているが、異なるのは、クラウディオは女相手だけでなく、男色家でもあるということだ。
目の前のスニフも男にしては可愛らしい顔をしているが、少女たち同様に、クラウディオの性癖の相手をするのである。
ロウも、自分の性癖を共有する男の友人など持ってなかったので、時折、嗜虐談義をクラウディオ伯としているということは耳にする。
それにしても、なんというお喋り男だ。
とりあえず、もらった鳥肉を口に入れる。
「なるほど、美味しいよ」
ノルズは渡された肉にかぶりつき続けながら言った。
それにしても、なんという赤裸々な猥談をするのだろうと思った。少年奴隷として与えられる自分への責めのことを語りだすとは……。
「あっ、そういえば、その掻痒剤って、独裁官様からもらった物って、言ってましたよ。もしかして、ノルズ姐さんとかも、掻痒剤で責められるっすか? あれ、きついっすよねえ……。泣いても叫んでも、なかなか許してもらえないっすし。あれは、尊厳という尊厳を砕けさせる責めっす。しかも、掻痒剤を塗った、先っぽを筆でくすぐるんすよ。男って、横を触ってもらえなくて、亀頭の部分だけを刺激されると、出すことできないのに、快感だけ膨らみ続けるだけで苦しいんすよ。でも、掻痒剤とくすぐり責めの組み合わせって、それも、独裁官様に教わった責めって、ディオさんが言ってたっすけど、ノルズ姐さんたちも、筆でくすぐられるっすか?」
「いい加減にしなって、言ってんだろう、このお喋り小僧──」
とにかく、ノルズは怒鳴りあげた。