【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
銃音が一斉に鳴った。
しかし、そのときには、ノルズはスニフの襟を掴んで移動術で跳躍していた。
移動先は、眼と鼻の先──。
平屋の屋敷側から号令をかけた老人の背中側だ。
銃は一度撃てば、再装填に時間がかかる。
ぎりぎりで跳躍することで、囲まれた銃を無力化できたのは成功だ。
「うわっ」
いきなり目の前の景色が変化したせいか、スニフが素っ頓狂な声をあげた。
だが、構わない。
ノルズは老人の首に暗器でもある針を突き刺した。
針先には一瞬で昏倒するような猛毒が塗ってある。号令をかけていた以上、首謀者であるか、あるいはそれなりの立場の者に違いない。
死にはしないが、少なくとも半日以上は目が覚めることはないはずだ。
最悪、こいつだけ確保できればいい。
「くっ」
老人が崩れ落ちる。
ノルズは腰の剣を抜いた。片手剣だ。さらにスカートの太腿に隠していた小刀も左手に取る。
「うへっ、色っぽいすっよ、姐さん」
「口を開く暇があったら、手を動かしな──」
「動かしてるっす──」
銃を撃ち込んだ者たちは、すでにその銃を捨てて、短くて細い剣を手にしていた。
一斉にかかってくる。
スニフもまた、腰に吊るしていた二本の短剣を抜いた。
「いくっすよ──」
その襲撃してきた村人たちの全員を阻むように、彼らに向かって跳躍した。
一方で、ノルズは足元の老人に向かって屈み込む。
とりあえず、拘束だけでも──。
スニフと襲撃してきた村人たちで乱戦が始まった一瞬の間隙を利用し、倒れた老人の左足首と右手首を強引に捻じ曲げて、収納術で取り出した手錠で手錠で繋げる。
これで、間違って昏倒から回復しても簡単には動けない。
轟音──。
考えることなしに、ノルズは身体を横に倒していた。
さっきまでノルズがいた場所に銃弾が炸裂し、倒れていた老人の身体を撃ち抜いた。
「あっ」
横に転がりながら叫んだ。
老人の心臓のある部分から血が流れている。おそらく絶命してしまったのは間違いない。
「あら、避けたのかい?」
女の声──。
家人だと名乗った女だとわかった。
庭では、スニフと村人たちの集団が斬り結んでいるが、その女だけは、ノルズに身体を向けている。
たったいま射撃した短銃を放り投げて、腰の袋から新しい短銃を出した。
収納袋──。魔道具か──。
火縄のついたままの短銃を数丁置いているのだろう。
その短銃がノルズに向かって射撃される。
移動術で消える。
その女の真後ろに跳躍した──。
背後から首を引き裂く。
「ぐあっ」
女が喉から血を噴き出して倒れた。
「人間族の女は魔道を使うぞ──。全員でかかれ。斬り続けろ──。魔道を遣う隙を与えるな──」
誰の声がわからない。
そのときには、目の前に剣を持った五、六人の男がいた。
待ち受けることなく、逆に飛び込んで、一気に三人倒す。
残りふたりの剣を受け流し、さらに前に出た。
新たな集団──。
またもや、五人──。
ふたり斬る──。
横から突き出された剣を受ける。
さらに、十人くらいが新たに集まる。
さすがに数が多い──。
もう、スニフがどうなっているかわからない。
乱闘の気配はここだけじゃないので、まだ戦っているのだろう。
しかし、それを確認する余裕がない──。
「ちっ」
ノルズは跳躍して、目の前の男の肩を蹴って、大きく跳ぶ、
囲まれている集団から、一度抜けようと思ったのだ。
だが、宙に浮いているノルズの頭上に殺気──。
剣を振りあげて、向かってきていたものを斬った。
上にいたのは、ノルズ以上に高く跳躍していた大きな男だ。
その男は絶命したが、身体がノルズに落ちてきた。
地上に落下する前に、空中に左右に人の影──。
咄嗟に目の前の身体を掴んで身体を捻る。
大きな男の死骸に、左側の男の剣が刺さり、ノルズの突き出した剣が右側の男の腹に刺さる。
地面に男の死体を上に叩きつけられる。
地上に着くと同時に、十本近い剣が上から殺到した。
「鬱陶しいねえ──」
至近距離から火炎弾をぶっ放して目の前で爆発させる。
爆風で周りが吹き飛んだが、数本の剣はノルズの身体まで辿り着いた。
大男の身体に覆われてなかった左肩、右脚に剣が刺さった。
「くあっ」
大男の身体の下から脱出しながら、持っていた剣でまだ執拗に剣を刺そうとする周囲の男たちのすねを斬る。
転がって距離をとる。
脚に刺さった剣は抜けていた。
右肩は刺さったままだったので、左手で抜いた。
傷口から、だくだくと血が流れる。
痛みで魔道が刻めない。移動術で脱するのは無理だ──。
いきなり、矢が射かけられてきた。
十数本が同時だ。
短剣を振り回して払い続ける。
太腿に一本だけ刺さる。
屋敷の垣根の外に新手がいる。
村の女や老人のような者たちが、小弓で射かけていた。
「死にな──」
火炎弾を連射して、小弓を持っていた者たちが集まっていた一角を吹っ飛ばす。
まだ乱戦が続いているまとまりに飛び込む。味方に対しては矢は射れないだろう。
七、八人が集まっている真ん中にスニフがいた。
すでに上半身は血だらけだ。
脚にも数本の矢が刺さっている。
しかし、まだ戦っている。
後ろから二人ほどの首を跳ねる。
「スニフ──」
「姐さん──」
お互いに気がついた。
スニフの周りの者たちが一瞬、ノルズに意識を向けたのがわかった。
その隙を突いて、スニフが三人の男を倒した。
まだ、残っていたふたりをノルズが倒す。
やっと、庭で立っている者がノルズとスニフだけになる。
咄嗟に周囲を見る。
垣根の外から矢を射かけていた者も姿を消している。
「なんだい、斬られたのかい」
「しくじったっす。でも、姐さんもやられましたね」
「こいつら、相当に腕が立つようさ。できれば、訊問のために数名は生かしておきたいけど、難しいかもね」
「そんな余裕ないっす。滅茶苦茶強いっす」
「確かに」
ノルズも思った。こいつらがただの村人などというのは、とんでもないことだ。そんなものじゃない。
ふたりで背中を寄せ合って立つ。
ノルズは収納術でポーションを数本出して、半分をスニフに渡す。
刺さっている矢などを抜いて、ほかの大きな傷とともにポーションをかける。少しだけ楽になる。
「姐さん──」
スニフが声をあげた。
「ああ」
スニフが気がついたものに、ノルズも気がついた。
倒した村人たちの姿がいつの間にか、人間族の姿から獣人族の姿になっている。尾が生え、頭に耳が生まれ、毛深くて比較的身体が大きな獣人族たちだ。
ただし、死んでいる。
「もしかして、なんらかの方法で、この村の人間族に変身していたっすか?」
「そういうことだね。死んだから、その術が解けたんだろう。だとしたら、村人全員が入れ替わってるのかもね」
「やたらに強いのも納得っす」
すると、垣根の外にまた新手が現れた。
さっきと同じような小弓を持っている。
その弓がこっちを向く。
さらに、十人ほどの集団が庭に雪崩れ込む。
「いくよ──」
ノルズは移動術で跳躍して、庭の外に出た。
「うわっ」
「ひっ」
「あっ」
背後に出現されたかたちの相手たちがびっくりしている。
ノルズは、矢がつがえていた十人ほどに、衝撃弾を撃ち込むとともに、周りの者たちに斬り込む。
三人ほどを同時に斬り、さらにひとりを斬る。
次いで、剣をかわす。
交わすのが精一杯だった。
身体を入れ替わって、腕を掴んで回し、背中を蹴り飛ばす。
ぶつかった男と女をまとめて剣で貫く。
「がああっ」
「ぎゃああ」
悲鳴をあげて倒れる。
刺さった剣はだめだ。
身体を屈めて、そいつらが落とした剣を手に取る。
そして、上に向かって斬りあげる。
今度は、斬りさげる──。
再び周りに人がいなくなる。
「屋敷を燃やせ──」
遠くで声がする。
はっとした。
もしかして、燃やしたいものが屋敷にあるということか?
だったら、ノルズは屋敷に駆け込もうと思った。
だが、次の瞬間、大音響とともに、屋敷が爆発するように火を噴いた。
思わず、身を屈める。
多分、爆薬かなにかを仕掛けていたのだろう。
振り返ると、屋敷全体が木っ端みじんになって、さらに火を噴いている。
「ちっ」
ノルズは舌打ちした。
あっという間に瓦礫になったが、その瓦礫自体が巨大な火炎とともに燃えている。
もしかして、油でも仕掛けていたか?
「スニフ──」
大声で呼んだ。
屋敷側はほとんど壊滅状態だ。
垣根でさえ、ほとんど残っていない。
そして、煙と土埃がひどく、庭側がどうなったかわからない。
「大丈夫っす──」
頭や上半身から血を流しているスニフが転がるように出てきた。
ノルズはほっとした。
だが、そこに矢が飛翔する音が聞こえた。
少なくとも十数本が同時にだ──。
ノルズは音の方向に備えるとともに、射かけられた矢を弾くために武器を構える。
しかし、放物線を描いて飛んできた矢は、ノルズたちの頭を越えていく。
矢先になにかが装着してあることに気がついた。
次いで、庭が爆発し始める。
さっきの矢に爆破薬が仕掛けられていて、それが庭に当たって爆破を次々に起こしているのだと悟った。
庭に残っていた獣人たちの死骸が爆破薬で肉片となって飛び散るのがわかった。
「は、離れるっす──」
スニフが焦ったように叫んだ。
ノルズも頷き、炎上と爆発が続く、屋敷跡から離脱する。
すると、遠目に、十数人の集団が一斉に山村の外に駆けていくのが見えた。
残ったものを捨てて、逃亡していくように見える。
すでに、かなり距離がある。
見える範囲なら、ひとりであれば、移動術で追いつけないことはない。
ノルズは迷った。
「姐さん──」
スニフが彼らの背中とは別の方向を指差して駆けだした。
背中側の屋敷とは別に、炎をあげている一軒の家があった。
逃げていく連中が、ほかの家は燃やしてないのに、あの家だけを選んで火を放ったということは、そこになにかがあるということだ。
ノルズは、その燃えている家に向かって移動術で一気に跳躍した。
跳躍すると、炎をあげて燃えている一軒の家──。
火の中に飛び込む──。
ギロチン台のようなものに首と手首を固定されている娘がふたり──。イヴとサンディ──。
天井から逆さ吊りで股を拡げてぶら下げられている娘がひとり──。エル──。
両腕と両脚を切断されて、傷口を焼かれている娘がひとり──。名前はシャル──。
四肢のない娘を含めて、全員が惨い傷だらけだ。だが、生きてはいる。もっとも、四肢のない娘はわからない。また、全員が全裸だ。
四人とも、ノルズが早朝に潜入を指示したクラウディオの少女奴隷である。
潜入したはいいが、あっという間に捕らわれたということか……。
ノルズは舌打ちした。
とりあえず、逆さ吊りの鎖を剣で切断して、娘を床に落とす。
「姐さん──。あっ、お前ら──」
スニフもやって来た。
ギロチン台の二人も、拘束を解く。
スニフとも協力して、急いで火の外に彼女たちを出していく。
最後に四肢を切断された少女を抱きかかえて、移動術で外に跳躍した瞬間に、家の屋根が崩れ落ちた。
「はあ、はあ、はあ……。大丈夫かい、お前ら──」
「イヴ──、サンディ──、シャル──、エル──」
スニフが少女たちの名を呼ぶ。
ノルズは、収納術でポーションを取り出した。準備していたものは、残り十本程──。
とりあえず、少女たちの大きな傷にかけていく。
また、四肢を切断されていた娘も息はしていた。ただし、性器は滅茶苦茶に毀されていた。
そこにもポーションの液をかける。
いくらかましになる。
全員の呼吸が力の入ったものに変わっていく。
四肢が残ってないシャルの身体をよく見れば、切断したというよりは、ハンマーのようなもので肘と膝の先を潰され、引き千切られた感じだ。
傷は、スクルドにでも見せれば治療ができるだろうか……?
「ス、スニフ……。お、おまん……。おまんこを……」
そのときだった。
か細い声で、そのシャルがなにかを言った。
だが、おまんこ……?
「はあ、なに言ってるっすか? こんなときに発情してるっすか? やめといた方がいいっすよ。まずは、治療が必要っす」
「……あ、あほ……。あ、あたしの……お、おまんこに……。ま、丸めた……紙……。破片……。調べられる前に……いきなり、焼けた鉄の棒を……突っ込んでてくれて……よ、よかった……。お、おかげで……残ったかも……」
シャルがにやりと笑った。
ノルズはびっくりした。
「ああ、シャル……。大丈夫?」
「シャル……」
「ああ、シャル……」
ほかの少女たちも、虚ろな状態から順々にはっきりと意識を戻していく。
シャルの名を呼ぶのは、四人の中で一番、このシャルが惨い拷問を受けたからだろう。
いずれにしても、すぐに捕らわれたにしても、まだ数ノスだ。
それでこんなに毀されるのだとすれば、救出がもっと遅ければ、全員が殺されていたかもしれない。
それだけはよかった。
「手を入れるっすよ。耐えてくれっす」
スニフがシャルの股間に指を挿入した。
「くっ、うっ」
シャルが歯を喰いしばった。
やがて、スニフによって小さく丸められた紙の破片が取り出された。
ひとつ……。ふたつ……。三つ……。
全部で五個あった。
ノルズは、その一つを手に取って拡げた。
記号と文字がある。
ほかの破片もだ。
「た、多分、あ、暗号書だと……思います……。これを……村長の屋敷にあった……これを……盗もうと思ったら……捕まって……」
シャルが言った。
ノルズは彼女を抱き締めた。
「よくやったよ──。これで、少しは連中の企みに近づける──。よくやった──」
ノルズには、この破片の重要性がすぐにわかった。
すでにわかっているこの山村の場所と、事前に入手していた記号──。さらに、ここにあるほかの記号と言葉の結びつき──。
詳しく解読すれば、おそらくわからなかったほかの記号が示している場所が特定できる。
少なくとも、現時点でノルズは記憶にある記号の中から、すでに二箇所の地名が頭の中で解読できてしまった。
この山村と同じように、人が少ないものの、王都に比較的近い距離にある場所だ。
これは類推だが、この山村にやって来る切っ掛けとなった獣人族の間者らしき男が残した記号に書かれていたのは、イザベラの戴冠式やロウたちの婚姻式を襲撃するために作ろうとした拠点の地名ではないか──。
そのやり口は、ここと同じだろう。
獣人族の集団がやってきて、村人全員を殺し、その後、なんらかの変身具を用いて入れ替わる。
そうやって、ひとつの過疎の里全体を拠点にしているのではないだろうか……。
「ノ、ノルズ姐さん……」
そのとき、またひとりが口を開いた。
「どうした?」
ノルズは彼女に視線を向けた。
エルという少女だ。
「こ、ここの連中は全員獣人族……です……。村人を殺して入れ替わっていて……」
「ああ、そのようだね。死ぬと変身が解けて、ことごとく獣人族に戻っていた。なにか特殊な変身具を使っている可能性があるねえ……。とにかく、すぐに助けを寄越す。スニフは残って、それまで四人を守ってな。あたしは、一度戻る」
この四人を連れては、すぐには戻れない。
それに、新たに判明した連中の拠点──。
すでに入れ替わりが終わっているのか、これから始まるのかはわからない。
ただ、いずれにしても、時間との戦だ……。
今度は、ノルズたち諜報組織ではなく、軍を動かした方がいい──。
そっちが早い……。
王軍の総司令官についたのは、確か、ラスカリーナ……。
彼女もまた、ロウの愛人か……。
いずれにしても、すぐに戻って動かないと……。
こいつらを残しておけば、逃亡した連中が反転し、確認をしに来る可能性もあるものの、置いていかざるを得ない。
「わかってるっす。こいつらは、おれが守ってるっす。姐さんは少しでも早く戻ってくっす」
スニフもわかっているようだ。
珍しく顔の笑みを決して、真剣な顔で頷いた。
「じゃあ、頼む──。なんとか生き残っておくれよ」
ノルズは立ちあがった。
そして、まずは山村の入口に向かって、移動術で一瞬にして跳躍をした。