【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
エリカたちが暮らしている屋敷と、王都の冒険者ギルドとは、「ポッド」と呼ぶ移動術の設備で繋がっている。
こっちのギルド側の出入口となるのは、頭から足もとまですっぽりとうつる大きな姿見である。
もともとは、ギルドに寝泊まりとしていたミランダの寝室に置いてあったが、夜這いをかけられるのを嫌ったミランダが、その姿見をギルド職員が寝泊まりするための部屋のひとつに動かしたのだ。
だから、そこが「ポッド」設置の専用部屋になっている。
もはや、エリカもほぼ身内のようなものなので、勝手に廊下を進む。
エリカが到着したのは、冒険者たちが集まるロビーや事務所のある側ではなく、その奥の職員が寝泊まりをする、いわゆる「私的空間側」になる。王都の混乱に伴う一時的に閉鎖されていた冒険者ギルドが復活したことで、多くの職員も戻り、職員用の空き部屋もかなり埋まっていた。
ただ、すでに夜も更けており、ギルドも閉鎖しているので、寝ている者も多いのか廊下はひっそりとしていた。
エリカが向かっているのは、ロウの推薦により、ここで副ギルド長をすることになったイライジャの私室である。
そもそも、イライジャが副ギルド長をすることになったのは、ロウが独裁官についたことによる一連の王国改革の一環でもある。
もともとは、いまは女王となった王太女時代のイザベラが名目だけのギルド長で、ミランダが副ギルド長だった。このハロンドール王国と冒険者ギルドの慣習的な関係であり、法的規制をギルドが免れるために、歴代の冒険者ギルドは王家のひとりをギルド長として迎えるのか習わしだったそうだ。
しかし、ロウが独裁官となって、イザベラが女王に就任する機会に、その慣例を見直し、王家からのギルド長派遣はなくなることになったのである。
そして、ミランダが正式にギルド長となり、副ギルド長の人選をミランダが考えていたとき、ロウがミランダに推薦したのがイライジャなのだ。
ギルド職員の経験など皆無だったイライジャだが、ロウは十分に即戦力の能力があるとミランダに保証していたのを覚えている。
実際、イライジャが十分に戦力になったということは、このところ、ミランダが冒険者ギルドの職務をイライジャに任せて、ロウの屋敷に入り浸り気味であることでもわかる。イライジャがひとりでギルドを回していける能力があるからこそ、ミランダも手が抜けるということに違いない。
今夜、エリカがギルドを訪れたのも、今夜もミランダはこっちには戻らないという伝言をイライジャに伝えるためだ。
イライジャの部屋の前に着く。
副ギルド長になったイライジャの部屋は、もともと、イザベラ用としてあてがわれていたギルド本部の最奥の場所になる。
名目だけとはいえ、王族のギルド長の部屋はかなり広くて豪華な造りだ。
本来であれば、ギルド長になったミランダがここに移り、ミランダが使っていた部屋をイライジャが使うべきなのだろうが、面倒を嫌ったミランダが、もともとのギルド長の部屋をイライジャにあてがった。
イライジャは、豪華すぎる部屋に戸惑ったみたいだが、そのまま使っているうちに、こっちが本来のギルド長の部屋だと知ったそうだ。
ミランダ同様に無頓着なところがあるイライジャは、苦笑しつつ、そのまま使うことにしたみたいだ。
それはともかくとして、エリカはノックをしようとして戸惑った。
部屋の中からイライジャが静かにすすり泣く声が聞こえたのだ。
「イライジャ?」
驚いたエリカは、ノックをすると、返事を待つことなく部屋に入った。
広すぎる部屋の真ん中のソファではなく、イライジャは窓に近いテーブルの前に座っていた。
テーブルの上には、三分の一ほど空になった茶色の液体の入った瓶があり、それを挟んで二個の盃があった。
盃にはその茶色の飲み物が注がれてて、イライジャの前にあるものは半分くらいなくなっていて、イライジャの反対側の椅子の前にあるもうひとつの盃には、茶色の液体が満々と注がれていた。
ただ、そこには誰もいない。
そして、イライジャの顔には明らかな涙の痕があった。
イライジャが泣くなど、見たこともなかったので、エリカはびっくりしてしまった。
「イライジャ──。どうしたの? なにかあったの──?」
とにかく、エリカはイライジャのそばに寄る。
イライジャは眼の下を押さえて涙を拭く素振りをすると、立ちあがって近くにあった椅子を寄せ、そこにエリカを促す。
「別になにもないわよ。それよりも、あんたこそ勝手に入ってきて、なにかあったの? まあ、要件は想像がつくけど」
イライジャが苦笑する。
そして、エリカを持ってきた椅子に座らせ、イライジャについては部屋の奥にある簡易調理場のような場所に消えた。
そして、すぐに戻ってきて、幾つかの果物を小さく切って皿に盛ったものと、空きの盃、さらに、氷と小瓶を持ってきてテーブルに置いていく。
氷は貴重品だが、この部屋には魔石を使った魔道の冷却庫があるのだ。そこで氷が作れるから、そこから持ってきたのだろう。
「あんたは、ロウからお酒を禁止されているらしいから果実水よ。それとも、エリカも飲む?」
椅子に座り直したイライジャがエリカに空の盃を持たせて言った。
「エリカ“も”っとことは、それお酒? あっ、わたしは果実水で……」
よく覚えてはいないが、以前にお酒を飲んで……というよりは、お酒をお尻の穴に注がれて泥酔して、暴れたことがあるそうだ。
それ以降、ロウからエリカとスクルドについては未来永劫に飲酒禁止を申し渡されている。
まあ、好きなものでもないから、それはいいのだが……。
「葡萄の蒸留酒よ。ナタル産のね。あの人の好きだったお酒……」
イライジャが悪戯っぽく笑って、エリカの盃に氷と果実水を注ぐ。そして、自分ともうひとつの盃に、持ってきた氷を一個ずつ入れた。
茶色の飲み物は、どうやらお酒だったみたいだ。
そういえば、そんな香りもする。
「あの人って?」
エリカは渡された果実水を口にしながら首を傾げた。
「トードよ」
「トードって、誰?」
一瞬、誰のことかわからなかったが、すぐにエリカははっとした。
そして、名前を言われて瞬時に思い出せなかった自分を恥じた。
「あっ、ご、ごめんなさい、イライジャ」
エリカは慌てて頭をさげた。
誰だなんて、失礼だ。
トードとは、死んだイライジャの旦那さんだ。
イライジャとエリカ、そして、ここにはいないシズの三人は、「自由エルフの里」という森エルフ族の里で育った孤児だ。
その三人組の中でもっとも年長だったイライジャは、年頃になった頃に、偶然にその里に立ち寄ったトードという青年エルフと恋仲になって、トードの里である褐色エルフの里に行って結婚したのだ。
その後、エリカも故郷の里を旅立ち、アスカと名乗っていたラザニエルの愛人になり、そして、ロウに拾われて旅をして、このハロンドールに辿り着いた。
イライジャと再会したのは、その旅の最初の頃であり、イライジャの夫だったトードは、当時、里長になっていたダルカンに殺されていて、その復讐のための組織を作って戦っていたのがイライジャだったのだ。
そのトードだ。
「ごめんなさいって、なにが?」
イライジャは蒸留酒を手に取りながらくすりと笑った。
「いえ、だって、忘れていたみたいな反応してしまって……」
エリカは申しわけなく思いながら言った。
また、イライジャが泣いていたわけもわかった。亡夫のことを思い出して涙と流していたに違いない。そんなにイライジャの大切だった人を幼なじみで友人のエリカが忘れるなどあり得ない。
もっとも、実際忘れていたのだが……。
すると、イライジャがけらけらと笑った。
「心配しなくても、最近じゃあ、あたしも滅多に思い出さないわよ。そもそも、あんたも、一度しか会ったことがないじゃないのよ。忘れていて、当たり前よ」
「だけど……。うんうん……。それで、もしかして、このお酒は、トードさんへ」
エリカは誰も座っていない椅子の前に置かれている蒸留酒に視線を向けながら言った。
「今日は、彼の年命日なのよ」
「年命日?」
「死んだ日。彼が事故に見せかけて殺された日よ。ロウがこの国の暦をわかりやすいものに変えてくれたからね。年命日も計算がしやすくなったわ。だから、せめて、今夜一日くらいは、お酒を一緒に飲もうと思ったのよ」
イライジャは自分の盃を口にしながら微笑んだ。
また、暦を変えたというのは、ロウが独裁官になったときの施策として開始した「新暦」のことだ。
従来の暦は「教会暦」でもあり、夜空に浮かぶ五個の月に合わせたものであり、毎月の日数が毎月変化するという非常に難解なものだった。
ロウは、それを、一か月を三十日とする新暦に改めたのである。
暦法を独占していたローム教会は不満のようだが、いまのところ、一般の王民には好評だと耳にする。
なにしろ、わかりやすいのだ。
だが、「年命日」か。
「それで、涙の理由は、トードさんを思い出して……?」
「うーん、まあ、そういうことなんだけど、最近は、一生懸命に哀しかったことを思い出さないと涙も出ないわ。さっきのは、涙くらい出さないと彼に悪いと思って、一生懸命に振り絞った涙よ。愛していたはずだけど、もう忘れかけている。あたしは、つくづく薄情なたちなのよ」
イライジャが自嘲気味に笑った。
エリカは、手を伸ばして、イライジャの手に触れた。
イライジャがエリカに顔を向ける。
「そんなことないわよ。イライジャは情に篤いわ。そもそも、死んだトードさんも、イライジャがいつまでも哀しんだままでいることは嫌だと思うわ。イライジャが過去にとらわれることなく、前向きに生きることを望んでいるはずだわ」
「あんたは、本当に真面目ねえ──」
だが、イライジャはまたもや声をあげて笑った。
そして、ちょっと落ち着いた感じになって微笑んだ。
「もしかして、泣いていたのを心配してくれているのかもしれないけど、そんなんじゃないのよ。さっきも言ったけど、一番哀しいことを思い出さないと、感傷的な気持ちにもなれないの。あたしは多分、他人よりも情が薄いのよ。篤くはない。夫がいたのに、ロウと愛し合うわ。なにもかも忘れて愉しむ。年命日というのは、そんなことに自己嫌悪に陥る日でもあるわね」
「仕方ないじゃないの。死んだトードさんには申し訳ないけど、イライジャは愉しく生きていいのよ」
「愉しくしているわ。その代わり、年命日だけは、あの人のことを思い出してあげないといけないと思ってね」
イライジャは心配ないというように、エリカがイライジャの手を握った上から反対の手を重ねる。
そして、手を離して、また盃を口につける。
エリカも、果実水とともに果物を口にする。
果物もとても冷えていて美味しかった。
「ねえ、トードさんというのは、どんな人だったの?」
ちょっとの間の後に、エリカは訊ねた。
イライジャがトードと婚約して里を出て行ったのは、あっという間だった。だから、ほとんどトードのことは知らないのだ。
「まあ、誠実な人よ。ロウとは逆ね」
だが、その言い方に、エリカはちょっとむっとしてしまった。
「ロウ様は誠実よ──」
「そして、誰かさんと違って、あたしだけを愛したわ。情熱的にね」
さらにイライジャがにやりと笑う。
「ロウ様は、愛が深いわ。そりゃあ、たくさんの女性を愛して、そして、愛されている。それはロウ様の欠点じゃないもの──。逆に素晴らしいところよ」
「欠点だなんて言ってないわよ。あのトードがどんな人だったか言っているだけよ」
イライジャがまた笑う。
その表情で、エリカは、半分
しばらくすると、イライジャが表情を戻す。
「……まあ、とにかく、馬鹿正直で狡さの欠片もなかったわね。あたしとは正反対。そんな彼が眩しくて婚姻を決めたのかもね」
「そうなの……。いい人だったということね」
「それはどうかしらねえ……。馬鹿正直だから、ダルカンが不正をしてるって、堂々と騒いで、あっという間に罠に嵌められて死んでしまったわ。女を残して死ぬなんて、あたしからすれば、最低の男よ。くそったれだわ……」
「イライジャ……」
「……あたしのことが好きなら、なにがなんでも生き延びて欲しかったわね……。だから、こんな風に忘れられちゃうのよ……」
イライジャのその言葉は、ほんの聞こえるか聞こえないかと小さな声だった。おそらく、エリカに向かっての言葉ではなかったのだろう。イライジャの視線は真っ直ぐに、向かい側の誰もいない椅子に向いている。
それからしばらく、エリカもイライジャもなにも語らなかったが、やがて、イライジャが思い出したように、エリカに顔を向けた。
「ああ、そういえば、あんたって、なにか用事があって来たんじゃないの?」
「あっ、そうだった。ミランダから伝言よ。今夜も、そして、多分、明日の午前中……もしかしたら、明日の終日も戻れないかもしれない。よろしく頼むということよ」
エリカの言葉にイライジャが吹きだした。
「ははは、わかったわ。だけど、あの仕事の虫のミランダがねえ……。まあ、あと七日で婚姻式だし、あんたらも忙しいんでしょうしね。まあ、こっちは大丈夫と伝えてくれる。困ったら、すぐに呼び戻すともね」
「わかった」
エリカは頷いた。
とはいっても、婚姻前で忙しいというよりは、散々にロウがミランダを
今夜も、適当な理由をつけて、ロウはミランダの股間を媚薬を塗ったディルドを挿入して貞操帯で封印してしまった。
しかも、そんなミランダを今夜は寝室に呼んで、ほかの数名と一緒に、乳首調教をすると言っていた。
あの状態で、乳首だけを責められるのはつらいだろう。
そもそも、ロウの責めの激しさは、少々、常軌を逸するところがある。
とにかく、少なくとも、しばらくはミランダも使いものにならないと思い、エリカは明日の午前中までは任せると伝えにきたのだ。
下手したら、明日一日無理だろう。
イライジャがギルドのことで切羽詰まっていたら、さすがにロウにミランダを解放させなければならないとも思ったが、この感じならいいだろう。
ミランダには悪いが、まだ、ロウのご機嫌の相手をしてもらおう。
「じゃあ、そういうことで……。飲み過ぎないようにね」
エリカは立ちあがろうとした。
だが、それをイライジャが制した。
「なに?」
エリカはとりあえず座り直す。
「ねえ、エリカも折角来たんだから、あたしの退屈しの……じゃなくて、あの人への供養をしてってよ。年命日ってことでね」
すると、イライジャがちょっと意味ありげな表情で微笑んだ。
なにか企んでいる?
長い付き合いだから、イライジャが悪戯をするときの顔はなんとなくわかる。
いまが、そうだ。
ちょっと嫌な予感がした。
「……悪いけど、イライジャ……」
「あれ? あんたって、トードのことを忘れていたのに、供養のお祈りさえ、してくれないの?」
イライジャが不満そうに言った。
エリカは困惑した。
「そんなことは……」
「だったら、ちょっと彼のためにお祈りしてくれるくらいいいじゃないのよ。供養のお参りよ……。褐色エルフの里の習慣を教えるわ。身体の前で左右の手を握って、両方の親指を重ねるようにして立てて」
手を握って、親指を重ねて立てる?
聞いたこともないお祈りの仕方だけど、とりあえず、言われた通りにした。
「こう?」
「次に眼を閉じて……。供養の言葉を心に思うの…」
「うん……」
イライジャの元夫のトード……。
安からに……。
「まだ、眼を開けてはだめよ。次にあたしの言葉に次いで、眼を閉じたまま喋って……。わたし、イライジャの大切な友人のエリカは……」
「わたし、イライジャの大切な友人エリカは」
「年命日で心が沈んでいたイライジャの心を和ませるために……」
「年命日で心が沈んでいたイライジャの心を和ませるために」
「イライジャの玩具になります」
「イライジャの玩具になります……。ええ?」
びっくりして眼を開けた。
しかし、その瞬間、親指の根元に強い圧迫感を感じた。
はっとして親指を見ると、細い紐で根元をまとめ縛られた。
いわゆる「指縛り」だ。
一瞬のことだ。
「ちょ、ちょっと──」
抗議しようとしたが、その指縛りの紐の端末を引っ張られて、両手を頭の後ろまで一気に持っていかれる。
しかも、その端末を喉に強く巻かれてしまう。
「くっ、な、なんで──」
とにかく、慌てて手を振りほどこうとする。
すると、喉を紐が強く圧迫する。
「んぐっ」
エリカは呻き声をあげた。
慌てて手の力を抜く。
「ふふふ、下手に逃げようとすると、首が絞まって死ぬわよ。だから、大人しくしなさい」
そして、首に後ろの手首にがちゃんと手錠をかけられた。
はっとした。
ただの手錠じゃない。
魔道封じの枷だ──。
「じゃあ、宣言通りに、あたしの退屈しのぎの玩具になってね、エリカ。それにしても、相変わらず、あんたは馬鹿正直で愉しいわ」
イライジャがエリカの服の下に手を差し込んだ。
しかも、胸巻きの中にまで両手を入れて、乳首に嵌まっているエリカの「乳首ピアス」を指で弾いて刺激する。
「ひゃん、やっ──。あぐうっ」
ロウに施されている両乳首と股間のピアスは、ロウの能力によって平素は、エリカの身体を刺激しすぎないように制御されているらしいが、ひとたび誰かに触れられると、その制御されている分までまとまった大きな刺激が迸るようになっている。
イライジャに両乳首のピアスを悪戯されたことで、脳天を直撃するような強い疼きが乳首に走り、思わず身体とともに両手を動かしてしまって、紐が喉に強く喰い込んだ。
「抵抗すると、喉が締まるって言ったでしょう。そんな風に縛っているのよ。諦めて、今夜はあたしの玩具になりなさい、エリカ」
イライジャがエリカと対面するようにエリカの膝の上に跨がり、舌をエリカの首筋に這わせてきた。
「あっ、いやっ」
エリカはぞくぞくとした疼きが身体に走り、思わず身体を前に折り曲げた。