【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「それは見合いじゃないかい──」
マアが呆れた口調で声をあげた。
エルザは肩を竦めてみせる。
「どうかしら。少なくとも、わたしにその気はないわ。だいたい、タリオ大公妃だったわたしは、そう簡単に再婚なんて無理だもの。そもそも、あのアーサーは正式には離縁に応じてはないんでしょう。婚姻を前提にと言われても、そう簡単にはいかない事情を向こうも承知のことなのよ」
そして、ちょっとお道化て答えた。
「そんな問題じゃないと思うけど……。ともかく、相手はどこの誰なんだい?」
エルザは手に持っていた釣書を台紙ごとマアに手渡した。
釣書には、顔の絵姿が同封されている。
それを一瞥して、マアが顔をしかめた。
「随分と美男子だねえ……。女にもてそうな顔さ」
「実際にもてるらしいわ。年齢は二十七。愛人の数は五人。身体の関係だけの相手だと両手両足じゃあ足りないという噂ね。領主の跡取りということもあって、一夜の相手でもいいから抱いてくれという女は絶えないそうよ。女相手には相当の自信家であることは間違いないわね」
エルザは笑った。
マアが姿絵から釣書の中身に視線を移す。
「……ふうん……。アズコーン侯爵家のレス=アズコーン……。長子かい……。アズコーン……? ああ、そういうことかい。しかしねえ……」
マアが釣書に目を通しながら眉をひそめた。
だが、アズコーン侯爵家と知って、エルザの狙いはわかってくれたようだ。
「おマア、これは政治の話よ。南方政策を確かなものにするためには、使える武器は使わないとならないわ。それが単なる見せ剣だとわかっていても、あの侯爵家を今回のことでやっと交渉のテーブルに乗せることができたのよ。実際、レスという令息との茶会だけど、父親のアズコーン侯爵も同席するそうよ。面談ということになるんでしょうね。あの狸親父もやっと交渉の窓口を開いたということよ。対面さえできれば、いくらでも説得には自信があるの。だけど、その対面をアズコーンだけはずっと拒んでいたんだから。今回のことは大きいわ」
エルザは静かにまくし立てた。
南方総督としてエルザが管轄する王国の南方地区には、五十を超える分裂した貴族領がある。
ただし、その多くは男爵以下の小貴族領であって、子爵領以上となれば、十三となる。そのうち、南方総督府を置いたクロイツ侯爵領については、王家の直轄領としたので実際には、いまは十二だ。
いずれにしても、十三個の独立的な貴族領からこの南域が成り立つことから、「南部十三州」という別称もあるくらいだ。
その中でもっとも影響力が強かったのは、このクロイツ侯爵領であったが、そのクロイツ侯爵領がなくなったことで、新たな南域貴族の盟主にならんとしているのが、アズコーン侯爵なのだ。
クロイツ家とともに北側に港湾を所有し、交易も盛んであり、南域の貴族への影響力も低くない。
そのアズコーン家が、実はエルザが押し通そうとしている南方総督の統制による税制の統一施策に抵抗をしているのである。
もちろん、王家の後ろ盾を持っているエルザに面と向かっては反論はしてこないが、この一か月、のらりくらりとエルザからの使者との面談を拒否し続けている。
アズコーン家がエルザの税制改革を受け入れないので、アズコーン領に接する領主も税制の統制には応じていない。
従って、十二州のうち、エルザの税制改革の受け入れに意思表示をしていない領主が四家ということだ。残りの八家はマアとともに締めつけた流通施策によって、すでに受け入れを明言していた。
だからこそ、今回のアズコーン家からのエルザと令息との見合いの打診は、寝耳に水ではあったが、逆に渡りに船というところでもある。
だから、エルザはアズコーン家の令息のレスとを茶会に招待したのである。父親の公爵の同席を条件にだ。
アズコーン侯爵側はそれを受け入れた。
その茶会が今日の午後ということだ。
「見合いの見返りが父親との対面ねえ。でも、そんな面倒なことをしなくても、連中は落ちるよ。この南域において、このおマアの手に届かない流通はないんだ。南方総督の統制に応じなければ、その地区には外から物が入らなくなり、社会を支えるための魔石の供給もとまってしまう。実際に、アズコーンを中心とした四家については、そうなっている。そんな状態で、あの連中がどのくらいまで我が儘を言っていられると思うんだい?」
マアが釣書をエルザに戻しながら言った。
「いくらでもよ。ああいう昔
「三人の王女の中で、もっとも庶民派とされているあんたが、貴族の誇りを語るとわね」
「茶化さないでよ。アズコーン侯も、統一税制を受け入れないと、流通で追い詰められるのはわかっているのよ。だけど、彼が応じないのは面子の問題だということよ。だから、彼が要求してきた令息との見合いを受け入れるの。それを口実に、アズコーン侯は妥協してくれる。まあ、そういうことよ」
「つまり、茶会をするだけで、そいつは南部総督府を受け入れると? もしかして、見返りに婚約を条件に出されれば、応じるつもりかい?」
マアが言った。
「はっきりとした拒絶はしないわ。のらりくらりとかわすことになるんでしょうね。できれば、もしかしたら、令息に堕ちるんじゃないかと思わせたいわね。その裏で侯爵と南方総督府の統制の受け入れについて話し合いを続けるわ。少なくとも交渉が終わるまでは、あたしが気がある素振りを続けないとねえ……。まあ、任せておいて。そういうことは、タリオでアーサーを相手にしっかりと身に着けてきたわ。あの自尊心の尊大な大公閣下……、いえ、いまは皇帝になったんだったわね……。とにかく、多分、いまでも、わたしがあの坊やにぞっこんだと思い込んでるじゃないかしら」
エルザは微笑んだ。
「あたしは反対です。ロウ様に対して不誠実です。そんなことをしたら怒られると思います」
すると、横に立っているランが口を挟んだ。
エルザは声をあげて笑ってしまった。
「不誠実? あの独裁官様に何十人の女がいるのよ。彼こそ、およそ、誠実には程遠いと思うけど? あっ、もちろん、わたしは誠実なつもりよ。でも、今回のことは純粋に南方総督としての仕事なの。独裁官様から託された治政の一環よ」
「じゃあ、レスという青年と茶会をしても、恋愛を仄めかすことなく、純粋に仕事の話だけをするということでいいんじゃないのかい」
マアだ。
「婚姻を仄めかしながらはぐらかすのも交渉術の一環よ。顔を見て頬を赤らめたり、つまらない話に嬉しそうに頷くくらいのことはするかもね。もしかしたら、手も握らせるかも。思ったよりも御しやすそうな女だと、その令息や侯爵が思ってくれたら、それに勝る成果はないわね」
「呆れたわねえ。やっぱりやめておいた方がいいんじゃないかい。そんな接待婦のような真似をしなくても、十分に統制できるわ。南方総督に逆らえば、アズコーン領の繁栄は完全にとまる。ほかのどこでもよ。だけど、積極的に掌握下に入れば、繁栄が保障される。税収など問題にならない程に、どの領主家にも富が落ちる。そんなものを目の当たりにして、あのアズコーン領主がいつまでも我慢できるわけがないんだよ。考え直しなさい」
「これがほかのことなら、犠牲になったりはしないわ。でも、今回のことは、ただ、レスという男とちょっとばかり男と女の話をするだけで、問題が解決する可能性があるのよ。安い代償よ」
「施策を通すために、交渉相手を前にして股も開くのかい? およそ、健全な思考とも思えないけど」
「セックスはしないわ。口づけもね。それでロウ殿に捨てられたくはないわ。でも、もしかしたら、必要なら股も開くかもしれないわねえ。税制の統制は南域で暮らすすべての王民の幸福に繋がることなんだから──。とにかく、マアやランは身内だと思って打ち明けたのよ。ロウ殿や周りの女には余計なことは言わないでよね。あっ、モートレットもよ。頼むわね」
エルザは釘を刺した。
*
南方総督であるエルザの執務室を出ると、マアはその足で南方総督府の地籍の一画に設置されている「ゲート」に向かった。
ゲートとは、ほんの短い期間のあいだにあっという間に設置された王国国土内を瞬間跳躍する移動設備であり、あのスクルドとガドニエル、そして、ユイナという新しいロウの女を中心にして、王国の主街道に沿って急速な勢いで建設が進んでいるものだ。
その中で最優先で進められているのが、まずはハロンドール王都と国境を越えてナタル森林王国内の同様の「女王の道」と称される移動術設備との連接であり、そして、この南方総督府と、もうひとつ辺境侯域と称されている王国の北西地区との連接だ。
ここから王都までに移動についても、数名程度の移動であれば、すでに王都までの魔道移動が可能な状態になっている。
マアたちの出立の準備はできていたので、エルザへの挨拶が終わったらすぐに、その足でマアは護衛役もモートレットとともに、ゲートの前の待機室に向かった。
魔道による瞬間移動とはいっても、この南方総督府にあるゲートから王都内のゲートまでは、十数個のゲートを経由しなければならないので、一緒にマアとともにゲートで移動をするのは、モートレットのほかに五人の護衛を予定している。
従って、マアは総勢七人で許可を受けた時間になるまで、そこで待つことになる。
ゲートの利用は王国により厳しく管理されており、事前申請なしに移動できず、利用するにしても、申請通りにしか作動させない。
マアたちが許可された出立までまだ半ノスほどあるので、ここでしばらくは待つことになるはずだ。
ゲートで移動する女豪商のマアが本人であることを知っているのはモートレットのみだ。
ほかの護衛にしても、ゲート管理の役人にしても、マアのことはその代理人の女商人という認識である。それもあり、決められた定刻でなければ、ゲート管理の役人もゲートを作動させることはない。
野外に展開されている布テントの待機室に入ると、マアは、すでに待っていた五人の挨拶を受けながら、奥側にある布で遮られた個室にモートレットとともに入った。
「王都に戻れば、いよいよロウ殿に再会できるわ。ところで、まだ覚悟は決まらないのかしら? ロウ殿に犯してしてもらう決心はできた? 以前から言っているけど、あなたがあたしの護衛として侍る条件は、ロウ殿の女にしてもらうことよ。子宮にたっぷりと彼の精を受けなさい。それができなければ、残念だけど、離れてもらうしかないわね」
布テントの中にある簡易的な個室なので、向かい合う小さな椅子がふたつとテーブルひとつがあるだけの簡素な場所だ。
マアは椅子に座り、モートレットは布の仕切りのところで立っている。
仕切りの向こうには、護衛たちがいるので、マアの声は向こうには聞こえないように配慮されたものである。
さらに、マアはいま、簡易的な防音効果を発揮する箱をテーブルの上に置いた。タリオ産の製品であるが、これを作動させれば、布の向こう側からマアたちの会話に聞き耳を立てることは不可能だ。
それをしっかりと作動させた。
このモートレットについては、ロウの愛人のひとりとしてもらう気でタリオから連れてきた。
だが、紆余曲折あって、実はまだこのモートレットは、まだロウの女ではない。
まずは、ロウ自身が独裁官として多忙を極めて、ゆっくりと屋敷で過ごす時間が少なかったのとがその理由のひとつだ。そして、マアもまたそのロウの施策を助けるために、あちこちを動いていていて、接触の機会が限られていたということがある。
しかし、なによりの理由は、このモートレットがロウの女になるのを、ちょっと待って欲しいと口にしたことだ。
ロウは無理矢理にモートレットを抱いたりはせず、その意思に従おうと応じ、その後、マアがエルザを助けるために南方に赴いたので、そのまま保留になっていた。
マアとしては、モートレットがどうするのか早急に返事が欲しいところだ。
最初にロウに会ったときには、このモートレットは自分の貞操に少しの興味もなさそうな感じだったのに、いざ抱かれるとなったとき、なぜか急に拒む態度を示しだした。理由は不明だ。
まあ、モートレットも、なんだかんだでまだ十五歳でしかないので、やっぱり怖気づいてしまったのかもしれないが、マアとしてはモートレットのこの躊躇が不思議で仕方がない。
別段、無理矢理に、ロウの女になってもらうつもりはないが、そのときには、モートレットをマアに託したルビアには悪いが、モートレットは手放すことになるだろう。
ルビアとは、いまは新ローム帝国となったタリオ公国の首都に位置するローム大神殿の法王の妻である老婆だ。
マアは、そのルビアから、このモートレットを委ねられたのだ。
実のところ、このモートレットは、その善良な性質のルビアと仲が良かったモルダという貴族女の娘であり、父親はあのアーサーである。
若い時代のアーサーに捨てられたモルダがひそかに生んだのがモートレットであるが、アーサーはその事実は知らないはずだ。
もしも、モートレットの存在を知れば、あのアーサーはモートレットを始末しようとするのではないだろうか。
皇帝を名乗り始めたアーサーという男は、そういう男だとマアは思っている。
ルートレットがロウを拒むことを決めたとき、モートレットがタリオにあるローム神殿の神殿兵として戻るのか、あるいは、冒険者などになって、ひとりで生きている道をとるのかは、このモートレット自身の選択になるだろう。
もっとも、このモートレットは、かなり深いところまでロウたちと一緒に行動をしてしまった。
もしも、モートレットがロウを受け入れることを拒否したら、残念ながらマアとしては悲しい決断をしなければならないと思っている。
これについては、ロウを煩わせるつもりはない。
「戻ったら返事をします。ですから、待ってください」
モートレットは、マアがこの問い掛けをするたびにしてきたのと同じ言葉を返してきた。
マアは嘆息した。
「……返事を待つのはいいけど、さっきも言ったけど、あなたがロウ殿の女になるのを拒むなら、あたしはあなたを受け入れない。待つのは王都に戻るまでと思ってちょうだい。そうね……。じゃあ、あと一日だけ待ちましょう。そのときまでに決心できないなら、あなたを解雇するわ。決心なさい」
「わかりました」
モートレットが頷いた。
マアはモートレットに強い視線を向ける。
「お前が躊躇っているのは、もしかして、父親のことがあるから? ロウ殿とローム帝国は、遅かれ早かれ、いずれ本格的に敵対することになると思うわ。父親の敵の女になるのは嫌かい?」
「まさか。彼を父親だと思ってことはありません……。わたしについては」
モートレットははっきりと言った。
少なくとも、その言葉に偽りの気配はない。
人の心を読むこということについては、マアも百戦錬磨のつもりだ。そのマアを出し抜いて、嘘で誤魔化すということがモートレットに可能とも思えない。
「まあいいわ。とにかく、猶予は残り一日。それまでは待ちましょう。それまでに、あたしの前から去るのか、ロウ殿の精を受け入れるのか決めなさい」
「わかりました」
モートレットが無表情で頷いた。
そのときだった。
布の向こうから声がかけられた。
驚いたことに、さっきエルザの執務室で同席したランだった。
マアは、布の仕切りの前に立っているモートレットに、ランを招き入れるように指示する。
入ってきたランは、どうやらひとりのようだ。
ちょっと困ったような表情である。
どうしたのだろう?
「どうかしたかい? もしかして、さっきの話の続きでも?」
この南方総督府でエルザの仕事の手伝いをしているランが出立直前のマアに接触しに来た理由はわからない。
だが、もしかしたら、エルザが受けようとしている見合い話のことではないだろうか。
そんな予感がした。
目的があるとはいえ、南方の有力貴族の令息と見合いとしようなどとは、あのエルザにも困ったものだが、エルザもあの気性だ。
さすがに、ランでは止められないだろう。
その相談かもしれない……。
「ああ……。ちょっと関係あるかもしれません……。とにかく、モートレットさんは、外で待ってもらえますか?」
モートレットの横に立ったランがそのモートレットに顔を向けた。
さすがに、モートレットは驚いた表情になる。
「わ、わたしはマア様の護衛で……」
「でも身内ではないわ。まだね……。外で待っていて。ちょっと身内でしかできない話なの」
ランはきっぱりと言った。
平民出身で大人しい印象もあったランだが、いまの物言いには、それを感じさせない毅然さがある。
マアは感心した。
それはともかく、ランがわざわざモートレットの人払いを要求するのであれば、それなりの理由があるに違いない。
マアはモートレットを見た。
「外に出ていなさい。まだ身内ではないお前には、聞かせられない話だそうだよ」
マアは言った。
疎外されたことが、多少はロウに抱かれる決断の後押しになればいいのだが……。
「わ、わかりました……。布の仕切りの向こう側にいます」
モートレットが出ていく。
ふたりきりになってところで、マアはランにマアの向かい側の椅子に座るように腰掛けた。
「あっ、大丈夫です。このままで……。ああ、それは防音箱ですね。作動中ですか?」
ランは椅子に座ることには応じず、布仕切りのところに立ったまま、テーブルに置きっぱなしだった防音装置の箱に視線を向けた。
「ああ、そうだね。作動させたままでいいのかい? もっとも、声だけが雑音になる簡易的なものだよ。物音までは消えないけどね」
マアは言った。
モートレットと会話をするために出したままだったが、マアに説明したとおり、気配までを完全に消してくれるまでの高性能性はない。
ただ会話を聞き耳にさせないくらいの効果なのだ。
「さあ、どうでしょう……。それよりも、おマア様には申し訳ありません。あたしには逆らうことなどできませんし、逆らう気もありませんので、とりあえず謝罪させてください」
すると、ランが深々とその場で頭をさげた。
「謝罪?」
マアは訝しんだ。
その直後、背中側に人の気配を感じた。
はっとした。
しかし、ランが立っている布の仕切り以外に、このテント内の個室に入る出入口はない。
もしかして、移動術──?
マアは振り返ろうとした。
「ぐあっ」
だが、その後頭部を押えられて、強い力で上半身をテーブルに押さえつけられてしまった。顔をテーブルから離れられなくされたので、誰が後ろに来たのかわからない。
しかも、さらに複数の人間に挟まれ、両手も左右から掴まれてテーブル側に伸ばさせられる。
三人──?
少なくとも複数の者に背後から押さえつけられてしまった。
また、その勢いでマアの腰は椅子から浮き上がった。
すると、椅子とマアの腰のあいだに誰かが身体を滑り込ませ、マアが腰を浮かせたばかりの椅子に、強引に座り込んできたのがわかった。
「さあ、おまんこの時間だ。お前らの悪だくみは教えてもらったぞ、美人の女商人さん」
そして、マアの背後に座り込んできた「男」がマアが身に着けていたスカートに手を入れながら愉快そうに笑った。
「ひんっ」
その男の指がマアの下着の一点を捉えて、薄い布の上からくるくると指を回す。
マアは女としての官能を刺激され、下肢をぶるりと震わせてしまった。