【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「ご婚姻おめでとうございます。また、陛下並びに、英雄公のご尊顔を拝謁できましたことは、卿が生涯の至福といたすところになりましょう。まことに恐悦至極に存じまする」
目の前で跪いた男が頭をさげて、定型文の口上を口にする。
戴冠式を目前に控えたイザベラの待合の部屋だ。
あの一ノスもあれば、国内の要人、次いで、外国の要人たちが式典となる王宮の大広間に入っていくことになる。
アネルザ、シャーラ、ヴァージニア、さらに、エルフ族のナタルから来ている親衛隊長のブルイネンあたりが中心となって進めてきた式典の準備はおそらく完璧に整っているはずであり、そのことに一郎は不安ない。
この婚姻式が内外に、ハロンドール王国の威信の回復をアピール絶好の機会ではあるはずであり、アネルザあたりがそれを最大限に活用するはずだ。
いずれにしても、まもなく開始されるイザベラの戴冠式からはじまる婚姻式に関わる公式行事は三日続く。
すでに、王都ハロルドでは全ての通常業務が停止状態だ。
耳にしているところでは、王都のほとんどの都市部と、さらにナタル森林でも祝祭が行われているらしく、少女王イザベラの戴冠と婚姻、さらに数百年ぶりらしいエルフ女王の婚姻の熱狂的な祝賀を参加しない者はいないほどだという。
マアが集めに集めた巨額な資金を躊躇なく、祝賀のためにあちこちにばら撒いているのも、民衆の熱狂的な興奮に拍車を立てているようだ。
それはともかく、いま一郎がやっているのは、イザベラとともに拝謁とともに祝賀の品の献上を望む者に対する相手だ。
真面目なイザベラは、時間のある限り、少しでもいいので直接対面したいという希望を出しており、おかげで戴冠式直前だというのに、いまの時間も対面の拝謁がねじ込まれている。
王配となる一郎も、一緒に拝謁を受けているが、面倒などと言ったら叱られそうだが面倒だ。
だが、戴冠式までのわずか一ノスという隙間時間にまで、拝謁を希望する者との謁見を受け入れるというのは、イザベラも真面目過ぎるように思う。
「そんな顔をしてくれるな。これも王の務めだ」
さっきの拝謁者が退出をしていくと、イザベラが一郎の耳元に顔を寄せてささやく。
横を見ると、イザベラは苦笑している。
「顔に出てたか?」
「出てたな」
「イザベラが身体を張って退屈しのぎをさせてくれれば、愉しそうな顔ができるかもな」
一郎は笑った。
イザベラがぎょっとした顔になる。
すかさず、淫魔術で粘性体の小片をイザベラの下着の中に飛ばして、薄い膜を張ってクリトリスを包み動かす。
外はともかく、この部屋にはいつもの侍女たちとシャーラたちしかいない。だから、このくらいの悪戯は許されるだろう。
「あっ、いやっ。なにをする……」
イザベラが顔を真っ赤にして身体をくねらせた。まるで、おしっこでも我慢するように、切なく腰を揉み動かしている。
「ほら、しっかりしろ。面会の者にばれるぞ」
一郎はほくそ笑んだ。
「ロウ殿……。そのう……。ほどほどに……」
シャーラだ。後ろから困ったようにささやいてくる。
「わかった。ほどほどだね」
ほどほどというのは我慢できるぎりぎりまではいいということだろう。一郎は敏感なクリトリスの振動を微弱にして、今度はアナル側を少し強めに粘性体の膜で揉んでやる。
「ひんっ」
イザベラが椅子の上で一瞬、全身を突っ張らせた。
「次がいまの時間の最後となります。その後、半ノスで戴冠式です」
すると、後ろに控えているヴァージニアが躊躇いがちに声をかけてきた。
「わかった。通してくれ」
悶え戸惑っているイザベラの代わりに、一郎が頷いた。
「ま、待て」
「待たないよ。通してくれ」
一郎はイザベラの言葉を遮る。
ヴァージニアが入口側にいる侍女のひとりのモロッコに声をかけ、さらに彼女が扉の外の王兵に面会者の入室を促す。
次の謁見希望は、確か、沿岸諸国のうちのフロア国からの代表団のはずだ。
沿海諸国というのは、この大陸の西側の海であるルードの海に接する地域になり、ハロンドール王国の北西部に位置する。
都市程度の小さな諸国がひしめき合うように成立していて、代表的な都市国家がニース、ラフレシア、アレシア、レイニアの四箇国だ。だが、その四箇国のほかにも多数の都市国家があり、フロア国は沿岸四箇国に比べれば、国力も十分の一にもならない小国だ。
国というよりは里であろう。
外国の要人との会談は、この三日間のあいだのどこかに、ある程度の時間を設定して組まれているようだが、フロアほどの小国となるとイザベラとの直接面談の予定はもともとの計画にはなかった。
それをイザベラが組み込ませたのだ。
「ロ、ロウ、変な真似は……」
イザベラが小声で訴える。
「変な真似って、これか?」
一郎はすかさず粘性体の振動の場所をお尻から再びクリトリスに移す。
しかも、強振動だ。
「うあっ」
イザベラが腰を伸ばして顎を天井に向かってあげる。
「入室されます──」
モロッコが入口側で怒鳴った。
一郎は振動をすべて停止した。
イザベラががくりと脱力したようになる。
「いやらしい妊婦様だ。可愛いぞ」
「あ、あほ」
イザベラが薄っすらと涙を浮かべた眼で一郎を睨みつけた。
「フロア国大使、シンドル公──」
左右に扉が開き、頭を伏せた五人ほどの男の一行が入ってきた。先頭に立つ男がシンドルとやらなのだろう。
全員が肌が黒く、頭に布を巻き、チョッキにふっくらとしたズボンと、まるで一郎の前世界のアラビアンナイト風の装束という感じだった。
また、五人の後ろに人足がふたりいて、白い布を被せたなにかを台に乗せて運んできている。
魔道具?
祝い品であり、事前にチェックは終わっているとは思うが、一郎は念のために魔眼を使った。背後にいる人足たちが運んでいる荷に、魔道の流れのようなものを感じたのだ。
男の場合は、あまり詳細な鑑定はできないが、それでも隠し持っている武器や魔道具の存在程度は読める。
“マホル
フラウ国工人
人間族、男
……
魔石彫像を保持
……”
“……(アサム・ナン)
エルニア(恵月)国の諜者
人間族、男
……
魔石彫像を保持
……”
瞬時にふたりのステータスを読む。
持っているものは、魔石を使った彫像のようだ。通常の魔石は球体であるが、魔石彫像というのは、特殊な技術を使ってそれを加工して石像のようにしたものであるはずだ。
被っている布の大きさから考えて、かなりの大きな魔石を元にしたものだと思う。魔石なので、一郎の魔眼が無意識にそこから流れる魔道の流れを感じてしまったのだろう。
なるほど、危険なものではない。
ただ、それには安堵したが、エルニア国の諜者だという情報に戸惑った。
「恵月国」ともいうエルニアはこの百年鎖国状態であり、もちろん、今回の行事にも人を派遣していない。
そのエルニア人というのだから驚きだ。
会見そのものは、他愛のないものだった。
一応全員のステータスを魔眼で呼んだが、おかしな表記があるのは、その人足だけだった。
「ほほう、これはすごいな……」
挨拶が終わり、使者団が運んできた贈答品を前に押しやって布を外す。
人の顔ほどの大きさのドラゴンの彫像だった。この世界にもドラゴンは生息しているらしい。
一郎はまだ目にしたことはないが、この王国のさらに南域にキマイラという場所があり、そこは多数のドラゴンが生息するような人の住めない土地だそうだ。
人の生息地域には現れないので、実際的には幻獣に近いが、そのドラゴンを魔石で形どった彫刻である。
かなり精巧なものであり、素人の一郎でも感嘆する出来栄えだと思う。
「大儀である」
イザベラが言って、短時間のうちに謁見が終わる。
ほんの少しイザベラと視線が合ったが、ほっと安堵の表情を浮かべていた。
一郎ははっとした。
そういえば、あの人足に気を取られ、イザベラで遊ぶのを忘れていた。
だが、いつ刺激を受けるのかと、ずっとそわそわしていたのだろう。イザベラは落ち着かないように、腰をかすかに揺らしていた。
まあいいか。一郎は微笑んだ。
「シャーラ──」
使者団が出ていくと、すぐに一郎はシャーラを呼んだ。
「さっきの一団のうちの人足の後をつけてくれ。どうも怪しい」
一郎はふたりの人足のうち、エルニアの諜者だとステータスに出た男についての特徴を伝えた。
「怪しいとは?」
シャーラが怪訝な顔になる。
「どうかしたか、ロウ?」
イザベラも口を挟んだ。
「間者かもしれない。勘だけどね」
魔眼とは伝えなかった。
淫魔術についてはある程度伝えているが、魔眼についてはほぼ隠している。どんな相手でも、自分の情報が筒抜けであるというのは気味が悪いと感じるだろうと思うからだ。
しかし、すぐに納得したようだ。
「姫様、少し離れます」
シャーラがすっと姿を消した。
「お待ちを──」
廊下を抜けて、戴冠式の会場に進むフレア国の一団に声を掛けた。
外国からの招待者については、ほとんどの者が戴冠式から始まる一連の行事に出席することになっている。
時間から考えて、イザベラとの謁見後はそのまま向かうだろうと思ったが、その通りだった。
ロウの指示で、彼らが連れてきた人足のひとりについて調査をしようと思ったが、とりあえず、普通に声を掛けてみることにした。
ただ、さっきの部屋にいた一団のうち、人足の格好をした者はひとりしかいなかった。ロウが怪しいと睨んだ人足はもうすでにいない。
それもあり、声を掛けることにしたのである。
「これは……先程の……」
「陛下に仕えておりますシャーラという者です」
「おう、側近の……」
フレアの大使はシャーラについて認識があったようだ。
とりあえず、事務的な確認事項にやつして、他愛のないやりとりをする。その後、ついでのように、もうひとりの人足について訊ねた。
「人足というのは、これなる工人のことを申しておられるのですか? さて、魔石像を運んでいたのはひとりですよ。もうひとりというのは何のことですか?」
大使が首を傾げた。
シャーラは驚いてしまった。
「いや、確かにふたりおりました。確かです──」
シャーラは詰め寄った。
しかし、大使だけでなく、ほかの者も人足はひとりであり、ほかにはいないの一点張りだ。
後ろで黙って頭をさげているもうひとりの人足にも直接訊ねた。
さっきの魔石彫刻は、ひとりで運んでおり、ほかにはいないと明言をした。
嘘を言っているような雰囲気ではない。
シャーラは唖然となってしまった。
そのときだった。
廊下の窓から見える外の庭に、さっきの人足風の男が樹木を背にして。遠くに眼をやっていることに気がついたのだ。
「失礼する」
シャーラは挨拶もそこそこに、フレア国の一団から別れると、物陰に隠れてから一気に、さっきの男がいた庭の樹木の位置に瞬間移動した。
事前に隠れたのは、この王宮全体に魔道封じの結界魔道がかかっていて、誰であろうと魔道が遣えないようになっているからだ。
例外は、シャーラのようなロウの愛人たちであるが、他国に魔道を封じておいて、自分たちだけ自由に目の前で魔道を使うのは外交上の非礼にあたる。
それで気を使って、移動術を目の前で遣うのを避けたのである。
樹木を背にしている男がいた場所に出た。
果たして、さっきと同じ姿勢で樹木を背にして、男が腕組みをして立っている。ただ、シャーラが現れるのを予期していたかのように、現れるシャーラに身体を向け直していた。
「こんなにすぐに反応があるとは思わなかったな。女王の護衛のシャーラだな。森エルフの神官家の長女でありながら、人間族の王家に仕えて生きることを選んだ変わり種だ」
男が笑った。
シャーラの経歴など、この王宮内でもほとんど知られてないことだ。
さすがに驚いてしまった。
だが、これでこの男がただの人足でないことは決まりだ。
さすがは、ロウだ。
「何者なの?」
シャーラは剣を抜いて、喉元に剣先を突きつける。
だが、男は眉ひとつ動かさない。
平然と微笑みを浮かべたまま、シャーラを見ている。
かっとしたシャーラは、剣を一閃して、男の首の皮一枚を斬った。
男の首に赤い線が走る。
「痛いな……」
男が手で自分の首に触れて、手についた自分の血を見て驚いたような顔になる。
「今度は脅しじゃ終わらないわよ。答えなさい。お前の名は? 何者なの?」
もう一度剣を首に突きつける。
「ナン。ただの人足だ。仕事が終わって、お役御免になったのでちょっと散歩をしていただけだ。そう熱くならないでくれないか。美人が台無しだ」
「指定された場所以外に行くのは禁止になっているのよ。ちょっと散歩をするのもね。あなたを拘束するわ。大人しくしなさい──」
シャーラは電撃を飛ばして、男を無力化しようとした。
だが、その瞬間、いきなり自分の身体が硬直したのを感じた。
腕から力が抜け、だらりと腕が身体の横に落ちる。
持っていられなくて、手にしていた細剣を手放してしまった。剣が音を立てて地面に落ちる。
「……」
叫ぼうとしたが声が出なかった。
声も封じられた?
シャーラは焦った。
「殺しはしない……。でも、傷をつけられた仕返しくらいはするよ……。どこがいい。顔……? 首? それとも、ここにする?」
ナンと名乗った男がシャーラが手にしていた剣を拾って、すっと剣先でスカートの裾の下にやった。
ロウの好みに合わせて、シャーラたちのスカートは短い。
膝上の位置にあったスカートが剣でまくりあげられていく。
「……」
もう一度暴れようとしたが、やはり、まるで金縛りになったように動かない。
スカートが下着が露出するまで完全にあげられた。
「ほう、王国の女の下着はいやらしなね。これも報告にあげなくっちゃ」
ナンがくすくすと笑った。
シャーラはかっとなった。
次の瞬間、その剣がなにかに弾かれるように横に飛んだ。
黒いローブに身をまとったスクルドが現れた。
「すぐに王兵が来ますわ。それにしても、王宮で堂々と破廉恥行為に及ぶというのは、呆れた闖入者ですわね。お仕置きいたしませんと」
スクルドがシャーラを庇うように身体を入れる。
そのスクルドの身体の前には、防護結界があることに気がついた。王宮の警備はラスカリーナ以下の王兵が受け持っているが、スクルドはスクルドでひそかに魔道で全体を見守っていたのだろう。
「お仕置きなあ」
だがナンは怯んだ様子はない。
そして、突然にスクルドの前から防護結界が消滅した。
シャーラは驚いた。
また、相変わらずシャーラの身体は動かないし、声も出ない。
「あの独裁官たちの愛人たちか。だが、警告しておく。俺は別段、なにもするつもりはない。ただ、頼まれて、この王宮や王国を眺めにきただけだ。しかし、それにもかかわらず、不合理にも俺を攻撃してくれば、俺も相応の態度をとらせてもらうぞ」
ナンが手を伸ばして、スクルドが頭に被っていたフードを取り去る。
そして、スクルドの頭に手をやり、唇を奪った。
シャーラの目の前で、スクルドが口づけを奪われ、やがて、そのスクルドが身体をぶるぶると震わせだす。
彼女が激しく欲情している状態にあるのは明らかだ。
「じゃあな」
そして、スクルドから身体を離すと、ナンは一瞬にして身体を消滅させた。
移動術だ──。
結界により、他の魔道遣いが魔道を使用できないようにしているにも関わらず……。
そして、身体の硬直が解けた。
シャーラはスクルドとともに、その場に崩れ落ちてしまった。
「ス、スクルド殿……、大丈夫……?」
声も出る。
スクルドもなにが起きたのかわからないかのように、呆然としている。
「だ、大丈夫というか……。まるで覚えてません。急に頭がぼんやりとして……」