※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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1054 戴冠式と論功行賞

 ざわめいていた宮廷の大広間がだんだんと静かになってきている。

 一郎はイザベラとともに、会場である大広間の状況が覗ける奥側で入場の合図を待っているところだ。

 すでに、主要貴族や主立つ高級軍人たちも入っており、さらに異国からの招待客たちのほとんども席についている。いまは入場の最後の組になる国内外の上級貴族が会場入りしたところだ。

 これですべての出席者が入り、イザベラと一郎の入場を待つだけの態勢になったはずだ。

 例外は、まだ到着していないエルフ族女王のガドニエルたちである。

 ここからでも会場の様子は垣間見れるので、ちょっと覗いてみると、ナタル国森林王国からの列席者の席は、この戴冠式の左側の最前列に三十ほど準備されていて、およそ三千人ほどの人間がひしめき合っているこの式典会場において、その一角だけぽつんと空いていた。

 

「そろそろです、姫様、そして、ロウ様」

 

 女官長のヴァージニアが会場側と魔道通信でやりとりをしながら、一郎たちに声を掛けた。

 

「わかった」

 

 イザベラが頷く。

 一郎はイザベラの手を取りエスコートの体勢をとる。これから行われるのは、イザベラの戴冠式であるが、一郎がイザベラのエスコートをして入場するのは、王配となる一郎の存在を内外に喧伝するためでもある。

 エルフ女王ガドニエルが寵愛していることですっかりと有名になった一郎の存在は、ハロンドール王国が一郎を通じて、孤高の古国だったナタル森林王国と深い同盟関係になる象徴だ

 まだまだ大きな功績に乏しいイザベラだが、一郎が伴侶であることを示すことで、イザベラに箔がつくそうだ。

 一郎びいきのアネルザの言葉であり、そこまで一郎の存在を高評価されると恐縮してしまうが、まあ少しでも役に立つなら、なんでもするつもりだ。

 だが、握ったイザベラの手は驚くほどに冷たかった。

 一郎は微笑んだ。

 

「緊張しているのか、女王陛下殿?」

 

 ちょっとお道化けて言った。

 

「か、からかうな。緊張などしておらん。問題ない」

 

 強気な口調だが、やはり、心なしが声が震えている気がする。

 無理もないかもしれない。

 よく考えれば、このハロンドールの女王になったといえども、イザベラもまだ十七歳になったばかりの少女に過ぎない。王太女になって表に出るようになったのは、キシダイン失脚後のことでしかなく、それまでは王女とはいえ、キシダイン派の主要貴族に蔑まれる立場であり、あまり大勢の中に出ていくことはなかったはずだ。

 まだまだ場慣れが足りないのかもしれない。

 一郎は、さっきの謁見のときからイザベラの下着の中に薄い膜にして忍ばせている粘性体を不意に振動させた。

 

「うわっ、またっ」

 

 しばらく、まるで存在していないかのようになっていた粘性体による悪戯を突然にされたイザベラが面白いように反応して、その場で崩れ落ちそうになる。

 一郎は腕をとって支えてやった。

 

「お、お前、また──」

 

「ちゃんと立つんだ。さもないと、粘性体に痒み成分を足してしまうぞ」

 

 一郎は微弱な振動をやめることなく、イザベラを強引に真っ直ぐに立たせる。

 

「む、無理だ──。と、とめよ──」

 

「無理じゃないさ。歯を喰い縛ってでも、毅然としてみせみせるんだ」

 

「で、できん。うっ、くっ」

 

 イザベラもすっかりと一郎によって性感を開発されている。しかも、このイザベラがどこをどうすれば感じるかなど完全に認識している。

 そもそも、この気が強くて真面目な少女は、実はかなり羞恥責めに弱い。まあ、そんな風に調教したというのもあるが……。

 だいだい、心の底から嫌がるようであれば、そこまで羞恥責めも強要しないのだが、心の底でこういう扱いに欲情するイザベラがいるので、ついつい構ってしまう。

 一郎は、振動を強くして、一気に快感を飛翔させてやった。

 

「あっ、ああっ……。や、やめろというのに──」

 

 イザベラは一郎から手を離して、ついに股間を押さえてその場でしゃがみ込んでしまった。

 一郎は、そばにいるヴァージニアに視線を向ける。

 

「そろそろじゃないのか?」

 

「そうですね。ロウ様と姫様の入場をさせてくれと、向こうから促されていますわ……。そういうわけですので、姫様、しっかりとお立ちくださいな」

 

 ヴァージニアがイザベラに言った。

 この女官長も、すっかりと一郎の嗜虐に心服してしまって、まず、この手のことに口を出さない。

 それどころか、こと「責め」においては、むしろ一郎に喜んで協力する傾向がある。ほかの侍女たちにしても、イザベラにしても、どこでどんなことをされても、一郎に逆らってはならないと自分で決めている感じだ。

 そのほかのことでは、真面目で有能な女官長なのだが……。

 

「お、お前……」

 

 イザベラがヴァージニアを睨む。

 

「ほら、約束だろう?」

 

 一郎はイザベラの腕をとって、真っ直ぐに立たせた。

 粘性体の膜による振動は緩めはしたが、微弱な振動は続けた。

 すると、膝の少し上まである女王の装束のスカートの裾からつっと、愛液が膝まで伸びたのが見えた。

 感じやすい身体だ。

 一郎はほくそ笑んだ。

 

「や、約束だと?」

 

 イザベラは眉間に皺を寄せた。

 

「最初に会ったときの約束だ。俺はイザベラの絶対の味方になると誓い、イザベラはその代償として、俺の調教を受けることを約束したはずだ」

 

「ううう……、つ、つまり、これは調教……?」

 

「まあ、そういうことだな」

 

「くっ、わ、わかった……」

 

 健気なイザベラは、なんだかんだで、あのときの一郎との約束をなにかの大切な掟でもあるかのように心に刻み込んでいるみたいだ。

 「調教」という単語は、イザベラにどんな破廉恥なことでも受け入れさせてしまう、魔道の言葉のようなものだ。

 

「行こう」

 

「あ、ああ……」

 

 一郎とイザベラは戴冠式の会場に進み入る。

 集まっている三千人が一斉に拍手で迎える。

 イザベラが片手をあげて、それに応えた。だが、平静を装っているが、脚は少しよろけ気味だ。

 これなら、もう少し大丈夫か?

 クリトリスをちょっとだけ激しく揉み動かしてやる。

 

「くっ」

 

 イザベラは一瞬立ち止まったが、すぐに何事もなかったかのように進みだす。大した自制心だ。

 割れるような歓声と拍手である。

 その中をイザベラはおぼつかない脚で必死に股間の刺激に耐えて歩き進む。だが、少なくとも緊張だけは消滅しただろう。

 

 一郎とイザベラは、玉座となっている席の横に作られた仮座に並んで腰掛けた。

 座っても、振動はそのままだ。

 また、この光景は魔道通信により大陸全土に映像を流している。

 荘厳な趣で始まった戴冠式で、この少女女王が股間をいやらしく苛まれていると誰が思うだろう。

 そう考えると、嬉しくなる。

 

 会場となる大広間の中央は、意図的に誰もいない空間となっている。

 そこが光り輝きだした。

 演出ではあるが、その光の輝きが小さくなると、光の中心だった場所にナタル女王ガドニエル以下の女王団が移動術で出現する。

 女王の正装をしたガドニエルを先頭に、そのやや後方の両横に副女王のラザニエル、ケイラ=ハイエルこと、亨ちゃんだ。二列目以下にはブルイネン以下の親衛隊は十人だけが同行している。ほかに、いつの間にか、ハロンドール正面のエルフ軍の総帥のような立場になった将軍アーネストたちエルフ軍の上級軍人が加わり、総勢三十人のエルフ族たちだ。

 以前も凱旋パレードのときに、エルフ隊も加わったが、こうやってまとまったエルフ族の女王団を初めて見る者も多い。

 その美男、美女ぶりに会場がどよめきに包まれる。

 イザベラが立ちあがった。一郎も合わせて立ちあがる。

 すると、ガドニエルが厳かな雰囲気を打ち破って、満面の笑みを浮かべたのがわかった。

 

「ご主人様──。戻りましたわ──。意地悪なお姉様がわたしを監禁していたのですよ。お会いしとうございましたわ──」

 

 ガドニエルがいきなりこっちに向かって駆け出してきた。

 

「わっ、馬鹿が──」

 

「ちっ、このぽんこつ女王……」

 

 ラザニエルと亨ちゃんが同時に舌打ちしたのが聞こえた。

 

「ああ、ご主人様の匂い……。懐かしすぎて酔ってしまいそうです……」

 

 ガドニエルが一郎の首にしがみついてくる。

 会場でどよめきとざわめきが沸き起こる。

 

「懐かしいって……。まだ数日だろう」

 

 一方で、一郎はガドニエルにしがみつかれながら苦笑した。

 予定では、まだまだ神秘的なイメージの強いガドニエル女王を演出するはずだったのだが、まあ、これはこれでいいだろう。

 一郎の存在を通じたナタル女王とハロンドール王国の親密さは、これでも演出できる。

 追いかけてきたラザニエルが無理矢理にガドニエルを引き離し、エルフ族団の席に移動させる。

 

 そんなちょっとした混乱もあったが、いよいよ戴冠式の式次第が開始された。

 王国の伝統に乗っ取って、まずは近衛隊の忠誠の誓い、さらに王軍の総司令官となったラスカリーナによる王軍の最高総帥となるイザベラへの宣誓の儀、新女王となるイザベラの紹介、代々の国王に渡される宝具の伝授と続く。

 そのあいだ、一郎はイザベラの股間の振動を弱くしたり、強くしたりと繰り返す。

 ずっと強いままよりも、強弱をつける方がかなり効果的なのだ。

 刺激の度合いが変化するたびに、横のイザベラがびくんびくんと身体をかすかに弾かせるのが愉しい。

 

 やがて、イザベラ自身による宣誓式となった。

 イザベラが立ちあがる。

 そして、中央に準備されている玉座の前に立つ。

 本来であれば、大神殿の神殿長で選ばれた者か、あるいは場合によっては、ロームの大神殿から法王を呼んで王冠を戴冠してもらうらしいが、今回は神殿関係者は誰も参加していない。

 事前に玉座の横に置いてある王冠をイザベラ自ら手にとって、自分で頭に戴冠する。

 

「イザベラ=ハロンドール、ここにハロンドール王国の王位につき、信念と真理を捧げて、この国と土地と民を守ることを宣言する──」

 

 イザベラが大きな声で王位を宣言すると、万雷の喝采が再び起きて、「女王万歳」の叫びが怒濤のごとく連呼される。

 一郎は股間の振動を強めてやった。

 それだけでなく、イザベラの股間の性感を数倍にあげてやる。

 

「うくっ」

 

 イザベラが王笏を握る片手をあげて喝采に応じながら、腰をぶるぶると震わせた。

 こちらからでも、イザベラの眼が大きく見開いているのがわかる。

 さらにイザベラが、もう一方の手で目の前の台座を握って自分の身体を支えた。そして、彼女の身体がぐんと突っ張る。

 どうやら、達したようだ。

 一郎は振動を緩めた。

 だが、やはりとめたわけではない。

 脱力しかけているイザベラは、かすかに肩を揺らしている。

 おそらく、ハロンドール王国の歴史がいかに長くても、王位宣言で達してしまったのは、イザベラが最初だろう。

 

 そのとき、イザベラが仮座にいる横の一郎を強く睨んでいることに気がついた。

 イザベラの顔は真っ赤だ。

 一郎はにんまりと笑いかけた。

 すると、怒ったような顔になっていたイザベラの表情が崩れ、諦めたように嘆息をした。

 イザベラが玉座に座る。

 一郎は立ちあがって、イザベラの前に跪いた。

 

「ロウ=ボルグ・サヴァエルヴ・サタルス、臣を代表して宣誓いたします。偉大なる女王陛下に忠誠を尽くし、王国のため、民のため、この世界に生きる者の全てが愛と幸福感に包まれるという理想のために重責を遂行いたします」

 

 これも式次第のとおりだ。

 そして、顔をあげると、イザベラにだけわかるように片目を一度つぶると、またもや股間を粘性体の膜で刺激してやった。

 

「くっ」

 

 イザベラが両手で玉座の手摺りをぐっと掴んで身体をびくりと緊張させる。

 可愛いものだ。

 だが、懸命に無表情を装っている。

 あまり、追い詰めても可哀想だろう。

 一郎は悪戯をやめた。

 イザベラがほっとしたように軽く吐息をつく。

 

「ロウ=ボルグ・サタルス……。卿のこれまでの王国への愛に感謝する……。独裁官の任を解き、王配とともに、新たにハロルド公の地位を与える。新たなハロルド公の地位は、政務、外交、軍権などすべての王権の職権において、女王に次ぎ、女王を除くすべての地位の上位となる……。これからも頼む」

 

「クロノスと七人の女神に誓って……」

 

 一郎は頭を垂れた。

 ハロルド公というのは、キシダインが就いた役職であり、決まった責務があるわけではない。

 ただ、王都ハロルドの名をとった一代限りの職名であり、王位に次ぐ地位というイメージは定着しているらしい。一郎は新たに、そのハロルド公の称号を得ることになった。

 その権限は、勝手に僭称した独裁官と同様であり、名は変わるが、引き続き、軍政のすべてに口を出す権限を一郎が保持したということだ。

 また、“クロノスと女神に誓って”というのは、この大陸における誓いの言葉の定型文のようなものであるようだが、本来は、“クロノスと五人の女神”が正しい用法だ。一郎は、それに追放された獣人の守神のモズと、魔族の女神であるインドラを加えて、“七女神”と口にした。

 一郎のこだわりであるが、どれだけの者が言い回しの違いに気がついただろうか……。

 

 イザベラが立ちあがり、横の台からイザベラの女王冠よりも、やや小さな冠を両手で捧げ持つ。

 そして、首を垂れている一郎の頭に被せた。

 王配冠だ。

 視線を床に向けている一郎には、イザベラの腰が少しふらついていることと、内腿を伝った愛液がくるぶし近くまで垂れていることが見えた。

 思わずにんまりとしてしまう。

 

 一郎は玉座の隣に設けられている王配としての椅子に座る。

 次いで行われるのは、王国の騒乱と新たな体制のための論功行賞だ。

 三代前のイザベラの曾祖父となるエルゲン王の時代に大きな粛清があったため、もともと上級貴族の数が少ないのだが、王都騒乱の中でランジール家とグリム―ン家の公爵家が滅び、さらに一郎たちと敵対した元宰相のフォックス家をはじめとする五家ほどを一郎が潰した。

 これに代わるのが、一郎たちに味方した者たちであり、これから開始する陞爵は、権威が改まることに対する象徴のようなものだ。

 

 まずは、エルザ──。

 ガドニエルたちが設置してくれたイムドリスの門を使って、南方からこの式典に参加するために王都に来ていた。

 彼女が玉座の前に進み出て跪く。

 

「エルザ=ハロンドールにアウステル公爵の地位を与える。引き続き、南方総督として責務を遂行せよ」

 

 イザベラが玉座についたまま告げる。

 アウステルというのは、「南方」を意味する古語であり、エルザはこれにより、王族を抜け、アウステル公爵家の当主ということになる。また、曖昧になっているタリオ大公妃についても、ハロンドールが彼女に公爵位を付与して、南方総督の地位にあることを正式に宣言することで、王国としてはアーサー帝との婚姻関係を完全に絶たせたという意思を示したということにもなる。

 

「微力を尽くします」

 

 エルザが頭をさげる。

 続いて前に出たのは、リィナ=ワイズだ。

 一郎がイムドリスの設置とともに辺境域に向かって、リィナをさんざんにいたぶったのは、一昨日のことだ。

 玉座の前に進み出たとき、リィナがちらりと一郎に眼をやって、顔を赤らめた。もしかしてそのときのことを思い出したのかもしれない。

 また、リィナ=ワイズの名が呼ばれるに次いで前に進み出た彼女の姿に、あちこちの王国内の貴族席がどよめいている。

 耳聡い貴族たちは、辺境域の盟主がマルエダ家からワイズ家に移ったことは知っていると思うが、女伯爵のリィナ=ワイズは、本来は五十歳の中年の女性だ。だが現れたのは、どう見ても三十歳くらいにしか見えない女性であり、しかも、一郎の性支配によって顔も身体も美しくなっている。

 もともとのリィナを知っている貴族たちは、いまのリィナの姿に驚愕しているようだ。

 

「ワイズ家を伯爵から侯爵に陞爵させる。列州同盟の統領として王国の国境を守り、その地域をまとめよ。王国への忠誠を誓う限り、王家は列州同盟を庇護する」

 

 イザベラが告げる。

 列州同盟の存在を公に認めるという王家としての言葉だ。

 

「忠誠を誓います……」

 

 リィナが応じる。

 さらに、陞爵式は進む。

 続いて、ユンゲル=モーリア──。

 シャングリアの実家であるが、領地も大きく、また幾つもの傭兵団を支配下においており、大きな軍事力を保持していたが、地位だけは男爵家と下級貴族扱いだった。

 これを一気に「伯爵位」とし、モーリア家に近い王領を与えることにした。

 もともと、貴族家には一郎の味方は少ない。

 だから、信頼のできる貴族家には地位を与え、これからのイザベラの統治に協力して欲しいのだ。

 国境沿いでは、一郎たちがナタル森林から王国内に入るときに、ジャスランに操られて一郎たちを邪魔したという経緯はあったが、それには目をつぶり、ルードルフ王の糾弾を宣言した王太女イザベラに対して、どの貴族家よりも最初にはせ参じたことと、王都外郭における戦いで功績をあげたことが陞爵の理由である。

 

「心からの忠誠を……」

 

 モーリアが告げる。

 次は、クラウディオ=マイル──。

 人を喰ったような男だが、ノルズに任せている新たな王国の諜報組織を任せることになった男である。

 性癖が一郎と同じで「SM趣味」であることは個人的にも好感を持っている。性談義ができる一郎の大事な友人だ。

 実際の諜報組織の束ねはノルズだが、表面的なリーダーは、このクラウディオになる。

 伯爵位ではやや立場が弱いので、王都外郭の戦いにおける功績を理由に侯爵とすることにした。

 

「ありがたき幸せ。これからも王家と王国のために……」

 

 次にアン──。

 エルザと同様に王女であるが、かたちだけのことであれば、キシダインの寡婦ということになり、なんの地位もなかった。

 今回の論功行賞に合わせて、アンを王族から抜けさせ、一代限りの伯爵とした。

 

「一代限りの伯爵の地位を与え、アン=ハロンドール・アモールとなれ。また、アモール家には王位継承位はないものとする」

 

「ありがとうございます」

 

 妊婦であるアンは跪かずに、頭をさげるだけでよいと配慮をした。アンの横にはいつものように、ノヴァがしっかりと横についている。

 エルザにしても、アンにしても、王族から抜けることを正式にして、貴族としての地位を付与したのは、王国の王位継承権を複雑にしないためである。

 もともと魔力を一切持たなかったアンやエルザたちには事実上、王位継承権はないのだが、その子が魔力を持っている場合は、王位継承もあり得ることになる。

 だから、前もって彼女たちを王族から抜けさせることで、彼女たちの子の代で王位継承の争いが発生しないようにするそうだ。

 これについては、一郎ではなく、アネルザが主張したものであり、そういうことになった。

 

 これをもって、戴冠式に続く、論功行賞としての陞爵式が終わった。

 いよいよ、婚姻式である。

 もっとも、そのあいだに、一郎については、ローム帝国からの皇帝名代の立場で式典に参加しているランスロットとの会談がある。

 ふと視線を向けると、外国からの招待者席の最前列に座っているランスロットがなにかを見定めるように、じっと一郎に静かな視線を向けていた。

 

 


 

 

 スクルドは、魔力を飛ばして懸命に、あの魔道遣いの気配を追っていた。

 いわゆる「気配探知」であり、薄く魔道の波を伸ばして、それに触れる魔力の異物を探るという術だ。

 少なくとも、彼が魔道遣いであることは明白だろう。

 この結界が張ってある王宮内で堂々と魔道を使って移動術で消えていったのだ。

 

 だから、必ず探知できるはずだった。

 しかし、いまのところ、それらしい気配を感じることはできない。

 すでに、王宮の敷地内から外に出ていっている可能性もあるが、彼は自らどこかの諜報員であると仄めかしていた。

 つまりは、まだ王宮内に潜伏している可能性がある。

 

 それにしても、さっきのはなんだったのか?

 スクルドともあろうものが、突然に魔道を無力化され、抵抗することもできずに、唇を奪われてしまったのだ。

 その得体の知れない能力は不気味ではあるが、このスクルドの身体は毛先一本までロウのものであり、ロウ以外の男がスクルドに触れるなど、とても許せることではない。

 思い出すと煮えたぎるような怒りが込みあがり、スクルドはなんとしても、あのナンという男を捕えて、それに応じる酬いを与えなければ気が済まない気持ちになっている。

 

 そのときだった。

 スクルドの探知のための魔道波がやっと異物を感じたのだ。

 場所は、王宮内でも王軍の軍営に近い場所であり、樹木の茂る王宮内の林の中だ。

 スクルドは、一緒に彼の捜索に当たっている者たちに通信のための魔道球を飛ばすとともに、瞬時にその場所に移動術で跳躍した。

 

「見つけましたわ」

 

 いた──。

 さっきと同じように、全く警戒をする様子もなく、樹木を背にして立っている。

 移動術で出現すると同時に、彼の周りを小さな結界で包んで閉じ込めた。

 

「さっきの美人さんだな。なんか、色んな連中が俺のことを追いかけて探しているようだけど、俺に構うなと忠告したはずだけどねえ」

 

 すでに、ナンは魔道で作った見えない檻の中に監禁状態だ。

 だが、慌てる様子もなく、平然としている。

 

「捕えましたわ。観念してください。もうすぐ王兵が来ます。それまで大人しくしてもらいますね」

 

 スクルドはさらに魔道結界を重ねて、三重に彼を閉じ込めた。

 いくらなんでも、ここから逃亡することは不可能なはずだ。

 

「ははは、美人に追いかけられるのは嬉しいけど、王兵は面倒だな。場所を変えるか。美人さん、これを解いてくれよ」

 

 魔道檻の中でナンが笑った。

 次の瞬間、信じられないことが起きた。

 スクルドの中から勝手に魔道が流れて、稼働檻が解除されてしまったのである。

 

「えっ?」

 

 スクルドは呆気にとられた。

 

「せっかく、わざわざ捕えられに来てくれたんだ。色々と教えてくれよ。大人の遊びながらね」

 

 ナンがスクルドの腕をとる。

 

「わっ、きゃああ──」

 

 すると、一気に身体が脱力して、手足が動かなくなってしまった。

 スクルドはナンに抱きかかえられる体勢になってしまった。

 

「さっきから、変だなあと思ってたんだが、あんたの顔がちっとも記憶に残らないのは、その得体の知れない首環のせいだな。外してくれよ」

 

 スクルドを抱き締めているナンがスクルドが首に嵌めている「認識阻害の首輪」に触れる。

 すると、またしても、スクルドの中から魔道が放出されて、勝手に首輪を外してしまった。

 もしかして、スクルドの魔道を勝手に操っている?

 そんなことが可能なのか?

 とにかく、逃げようと必死に抵抗しようとするが、まったく身体は動かない。

 

「へえ、そんな顔か。事前調査で得た情報にあったな。もしかして、第三神殿の神殿長だったスクルズか? あの兇王に殺されたという話だったが、もしかして生きてた? こりゃあ、いい土産話ができた。それにしても、この王国の、いや、魔道遣いというのはそんなこともできるのか。びっくりだよ」

 

 ナンが首環を地面に放り投げて笑った。

 

「あ、あなたは……魔道遣い?」

 

 おかしな物言いだと思った。

 “この国の魔道遣い”と言うのだから、この王国の者ではないことは確かだが、まるで自分は魔道遣いではないという言い方だ。

 いや、そもそも、スクルドはここまで自分が歯が立たない魔道遣いが存在するというのが信じられない。

 

「魔道遣い……じゃあないな。俺の国じゃあ、道士と呼ぶな。それよりも、さっきから一生懸命に抵抗しようとしているけど無駄だぞ。すでにあんたの身体中の気功は支配した。だから、こんなこともできる」

 

 道士?

 それは、北に位置するエルニア独特の呼び方だ。あの国では、こっちで魔道と呼ばれている力について、“道術”という言い回しを使うと耳にしたことがある。

 もっとも、それが本当に魔道と同義であるかどうかは、エルニア国が鎖国状態であるため、よくわかっていない。

 だが、思念はそこまでだ。

 ナンが腕を腹を抱いていた手をスクルドの乳房と股に持ってきたのだ。

 

「あっ、いやっ、な、なに──? な、なんです、これ──」

 

 その途端に、むず痒い感覚が胸と股間に襲いかかってきて、スクルドは悲鳴をあげてしまった。

 

「ははは、こんな感じだ。あんたの身体はすでに支配している。全ての感覚を思うがままだ。あんたをあっという間に色情狂に変えてやれるぞ。さあて、場所を変えるか。あんたがさっき言っていた王兵とやらが来る前にな」

 

 次の瞬間、スクルドはナンに抱えられたまま、どこかわからない場所に転移されてしまっていた。






【“終身独裁官”ロウ=サタルスについて】

 一般に伝承されているものの多くには、後に副王となるイザベラ女王によって、ロウ=サタルスが「終身独裁官」に任じられたとされたという内容が多いが、歴史的記録の観点ではそれは誤りである。
 諸王国時代の末期において、ロウは行政の全権限とともに軍の絶対指揮権を保有する臨時的な役職の「独裁官」には任じているが、イザベラの女王戴冠とともに任じられたのは「ハロルド公」であり、終身独裁官ではない。
 それにも関わらず、ハロルド公の名称が一般的でないのは、与えられたハロルド公の役職が独裁官と同じであったことと、ハロルド公就任の二年後にロウが皇帝位を得たことで、ハロルド公時代が極めて短期間であったことによる。
 また、ハロルド公時代においても、公的文書、私的文書のいずれにおいても、ロウを「独裁官」と称している記録が多く存在しており、これにおいて、ロウが引き続き「独裁官」という職名で一般的に呼ばれていたことも明らかにされている。

 いずれにしても、ロウが独裁官に任じた当時のハロンドール王国は、北方のエルニア国(恵月国)や西方の新ローム帝国、さらに旧皇帝家との軍事的対立が次々に発生し、その存亡をかけた挙国一致が必至となった時期であった。
 その軍事衝突がロウの独裁官としての辣腕の発揮の必要を生み、その推移の中で、建前上は独裁官とならなかったロウが結果的に、さらに権力を集中させた「皇帝」の地位に君臨する結果に繋がることになるのである。

 つまりは、当時の歴史的な背景がロウに「独裁官」としての立場をとることを求め、その役割を果たしていく過程で、ロウをもって、「ハロルド公」の正式名称よりも、「独裁官」あるいは、皇帝の同義語である「終身独裁官」の名称が一般的になっていったということである。
 
 
ボルティモア著『万世大辞典』より(ここに再録した引用文はすべてスクルズ記念国際図書館から許可を受けて初版本から抜粋して採録したものである。
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