【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「スカラー、命拾いしたな……。もしも、シャングリアに手を出してたら、手足をばらばらにして、生きたまま鳥の餌だったぞ。監禁していた彼らを始め、人間族から奪ったものはあるか?」
一郎は言った。
廃神殿は解放され、屋敷妖精のブラニーが刻んでいたすべての結界は消失している。
一郎たちが外に置いてきた衣類や装具もブラニーが取って来てくれて、一郎たちの前に運ばれてきた。
いま、とりあえず服を着終わったところだ。
また、捕らわれていた冒険者や里の者についても、衣類が返されて、いまだに当惑した様子ながらも、のろのろと服を着ている。
しかし、いまだ十分に頭が働いていないのだろう。かなりぼうっとしている感じだ。
無理もない。
ブラニーによると、寝ているとき以外は、全員で延々と乱交状態だったそうだ。そんなに急に頭が働くようになるわけがない。
一郎としては、彼らが我に返らないうちに、けりをつけたい気持ちだ。
もっとも、ブラニーに確認したが、魔妖精に操られて淫気発生の「家畜」にされ、ずっと性行為を強要されていたものの、体調管理についてはブラニーが気をつけていて、男たちはもちろん、乱交の相手をさせられていた女についても、健康に害はないようだ。
いずれにしても、これからすぐに冒険者たちは、このまま返すつもりだ。ブラニーの妨害がなければ、スクルズの移動術が遣えるので、帰路は一瞬で済む。
それはともかく、身体を乗っ取っていたシャングリアの激怒により、五、六発蹴り飛ばされた魔妖精は、治療することも許されずに鼻血で全身を血に染めてふらふらだ。
それでも、いまだに突っ立ったままでいられるのは、一郎の「命令」が効いているからだ。そうでなければ、すでに気を失っていたかもしれない。
「ぼ、ぼう、おゆるじを……。うばったもろは、れんぶ、ブラニーに……、ごしゅりんらま」
魔妖精が朦朧としている様子で言った。
それはいいが、なんと言っているのかわからない。
とにかく、奪ったものは、全部、ブラニーが管理していると言ってるみたいだ。
とりあえず、一郎は自分の治療だけはしていいと許可した。ただし、動くなという命令は解除しない。
すぐに魔妖精の身体の擦り傷や打ち身のための痣のようなものが消える。もちろん、鼻血もとまった。服は血だらけのままだが、それは一郎の許可が「治療行為」だけだったからだろう。一郎は命じたこと以外の魔道を一切禁止している。
「あ、ありがとうございます。あ、あのう……。も、もう悪いことしませんから……。というよりは、そ、そんなに悪いことでしたか……。人族にとっては、性交は気持ちがいい事ことでしょう……」
ほっとした様子で、スカラーという名前に強制改名させられた魔妖精が一郎に媚びるように言った。
まあ、魔妖精としては、それほどの悪気はないのかもしれない。
人族の淫気をむさぼるのは、淫魔族の本能だ。
魔妖精の本来の習性は、夜な夜な、人族の寝室に忍び込み、こっそりと淫気を盗むものだとクグルスに教えてもらったことがあるが、人族を監禁して洗脳し、淫気を生産する「牧場」にしようという発想には驚いた。
まあ、魔妖精としては頭がいいのだろう。
それでも、この程度だが……。
「なにが、悪いことはしてないだ。わたしは許さんぞ。わたしの身体を好きなように弄びやがって」
シャングリアは怒り心頭だ。
最初に単独で飛び込む羽目になったシャングリアは、瞬時に魔妖精に身体を乗っ取られて、ずっと自慰をさせられていたのだそうだ。
魔妖精に乗っ取られて、何度も何度も恥辱的な絶頂をさせられたシャングリアは、まだ、激怒が収まらない様子だ。
まあ、挙げ句の果てに、一郎や仲間たちを襲わさせられたのだから、無理もないが……。
「まあまあ、シャングリア、あとで埋め合わせしてやるから……。だけど、お前も悪いんだぞ。罠だって言っているのに、手を出すから」
一郎はシャングリアのスカートに後ろから手を差し入れて、すっと下着越しにお尻を撫でた。もっとも、こんな軽い接触でも、一郎は手を抜いていない。魔眼で垣間見れるもっとも感じる場所を指で触れている。
「んふっ、うわっ」
シャングリアががくりと腰を沈めるくらいの反応をする。
すると、スカラーが目を見開く。
「うわっ、なに、なに? 自慰で絶頂させたときよりも、触っただけで、淫気が大量に噴き出したぞ?」
驚いた様子で目を丸くしている。
一郎は笑った。
「愛があるからだ。お前のは、人族を強制発情させて、物理的に局部を擦り合わさせただけだろうが。そんなことで濃い淫気は得られん。濃い淫気が欲しければ、惚れ合う恋人同士の恋の架け橋でもしろ。そして、こっそりと淫気を最後に回収するんだ。人間牧場なんかよりも、ずっといい。効率は悪いだろうけどな」
一郎は言った。
しかし、魔妖精は大きく頷いている。
「愛のある性交か……。確かに、いままでの経験でいっても、そっちの方が濃かったか……。なるほど、そういう仕組みになっていたのか……。人族の恋の架け橋か……。なるほど、なるほど……。まあ、面白そうではあるな……」
なんかぶつぶつ言っている。
どうにもちょっと不安だが、このまま逃がしたら、今度は余計なことをして騒動を起こすんじゃないだろうか……。
だけど、まあいいか……。
別に、廃神殿の巣食っていた悪意を退治することはクエストではない。あくまでも、クエストの内容は「調査」だ。
魔妖精が巣食っていたことを報告すれば、逃亡を許しても、それでクエストは達成となる。
「ところで、最初に追い出した盗賊に財を渡したのは、お前か? あの金貨はどうした?」
「ああ、あの役立たずの連中ですか? ブラニーと契約した直後に入ってきたから、とりあえず、確保して家畜にしようとしたんですけど、男しかいないから自慰くらいでしか淫気は出ないし、それでも搾るだけ搾ったら、出せなくなっちゃって……。仕方ないから、記憶を抜いて捨てたんです。えっ、ああ、金貨ですか? あれは余の……俺のもんす。あちこちで集めたやつで。でも、いらないから、土産にやったんです。人族って、あんなのも喜ぶんでしょう。残りはよければ、ご主人様にあげますよ。まだいっぱい残ってます。この建物の地下にありますから」
魔妖精がえびす顔で言った。
一郎は、その悪びれない笑顔を見ていると、なんだか苦笑してしまった。
淫魔師の一郎だからだろうか。
どうしても、目の前の魔妖精が悪意の存在に思えないのだ。
そりゃあ、やって来た冒険者や里の者を不当に監禁したのはいただけないが、洗脳して乱交を強要した以外は、危害を加えていない。そもそも、さらったというわけじゃなく、考えてみれば、冒険者たちは、勝手に入ってきたのだ。
しかも、追い出すときには、盗賊たちにでさえ、ひと財産の金貨をひとりずつ渡したくらいだ。完全に無法をしたわけじゃない。
まあ、人族とは価値観が違うということだろう。
一郎たちは、最後に斬りつけられたが、結果的に傷ひとつ負ってないし……。
まあ、許してやるか……。
このまま捕まえておいても、人間族に手渡されたあとは、残酷に処刑されるだけだ。
そこまでの悪事をしたわけじゃない。
「ああ、だったら、遠慮なく貰っとくよ。俺たちを殺しかけた代償だ。じゃあ、許してやる。二度と俺たちにも、この神殿にも近づくな。悪いことをするな。それだけだ。なるべくいいことしろ」
「えっ、これで解放するのか?」
シャングリアが口を挟む。
「まあ、もう許しなさいよ」
「そうよ。捕まえたのは、ご主人様なんだから」
エリカとコゼがシャングリアを宥めるように横から口を出す。
また、ロウは、ふとスクルズを見た。
考えてみれば、魔妖精は妖魔だ。魔族である。教会からすれば、滅ぼさねばならない絶対悪か……?
だが、すでに巫女の装束を身に着け終わっているスクルズは、にこにこと一郎を見守っているだけだ。
これは、一郎がなにをしても、文句を言いそうにない。
まあ、これで結構、さばさばしたところもあるし、クグルスに対面させたときも、おっとりと微笑んでただけだった。
逃がすことに、不満はなさそうだ。
「えっ、許してもらえるんすか──?」
魔妖精が喜びながらもびっくりしている。
こんなに簡単に放免されるとは思っていたかった気配だ。
「ああ、許す……。ところで、その前に……」
一郎は魔妖精の前に屈んで、耳元に口を寄せた。
「なんすか、ご主人様?」
「……クグルスって知っているか?」
訊ねた。
本当はこの神殿の騒動の正体が魔妖精だとわかって、すぐに呼び出すことも考えたが、監禁されていた者たちの手前、出さなかったのだ。
クグルスを出せば、もっと簡単に話し合いができたかもしれないが……。
「クグルス? ああ、あの若い雌……。だけど、すごい主人を見つけたって……。なんたって、本物の淫魔師さんを見つけたって本人が言ってますね……。だけど、淫魔師なんて、伝説の存在で……。まさか……。だけど、あいつが最近、とんでもなく、実力を飛翔させたのは事実だし……。あれっ? でも、ご主人様、なんで、クグルスを知ってんすか?」
魔妖精がきょとんとした。
一郎はさらに魔妖精の耳元に口を近づけた。
「……俺がそのクグルスのご主人様だからだ……。クグルスにも逆らうな。命令だ……。あいつに不利なことをすれば、死ね。命令しとく……。さて、じゃあ、お前を縛っていた魔道や行動の制限のすべてを解く。もう自由にしろ。じゃあ、消えろ。命令だ──」
一郎は言った。
魔妖精の顔が驚愕に染まる。
しかし、その一瞬後、一郎の与えた命令により、魔妖精スカラーは姿を消した。
すると、すっとブラニーが一郎の前に出現した。
深々と頭をさげる。
「ご苦労様でした。新しい旦那様……。そして、ありがとうございました。一度契約をした屋敷妖精は、旦那様に従わなければならないのです。でも、これで契約は消失しました」
さて、次はこの屋敷妖精の始末か……。
だが、その前に、あの冒険者と里の者だな……。
「ブラニー、最初に言っておく。俺はこの神殿には残れない。王都に家がある」
「わかっております。わたくしめが魔妖精を主人として受け入れたのが間違っていたのです。あの人間族のお方々には、ご迷惑をおかけしたと思っております。ブラニーは、やはり、ここでこのまま眠ります……。そして、建物とともに朽ち果てることにいたします。とにかく、今回はありがとうございました。そして、ご迷惑を……。あのう、お許しがあれば、あのお方々にも、直接に謝罪したいのですが……」
ブラニーはちらりと離れてこっちを見守っているかたちの冒険者たちの集団に目をやる。
一郎は頷いた。
「魔妖精が残した財は管理しているか?」
「しております、旦那様」
ブラニーが頷く。
「前回、盗賊たちに渡したものと同じくらいのものを彼らにひとりひとりに手渡して、まだ余るか? それとも足りないか」
「半分以上残ります」
即答だった。
さすがに屋敷妖精だ。
屋敷の管理のこととなれば、驚くくらいに優秀だ。
さらに、そのときには、ひとりあたり、どのくらい配ったのかと訊ねたら、かなりの金額だった。
ひと財産だ。
「謝るときに、ひとりひとりに同じ程度のものを手渡せ。残りについては、後で指示する」
「ありがとうございます、旦那様」
無表情に近かったブラニーが破顔する。
やはり、善良なのだと思った。
主人に選んだ魔妖精の命令とはいえ、人族を監禁するのは不本意だったのだろう。ほっとした顔になっている。
最後にブラニーに一番大切なことをこっそりと指示する。
しっかりと頷いたブラニーが一度消えた。
さて、あれをどうするかな……。
屋敷妖精とは、屋敷に縛られるものか……。
だが、一郎はそういえば、シルキーについては、一郎たちがいま暮らしている屋敷に、あのゴースト妻が生前に連れてきたと言っていたのを思い出した。
つまりは、条件さえ整えば、屋敷妖精といえども、新しい屋敷に移動できるということだ。
だったら、あの善良そうな屋敷妖精をなんとかしてやりたいなあと思った。
「みんな……」
一郎は女たちを呼んだ。
女たちが集まる。
「……一応は、これでクエストは終わったようなものだけど、クエスト完了の報告の前に屋敷妖精のことは考えたい。だが、細かい話をする前に、まずは、連中を帰したい……。というよりは追い払いたい。スクルズ、悪いが、移動術で全員を里まで送れるか? とりあえず、置いてきたら戻って来てくれ。ちょっと込み入った話になるかもしれないし、助言が欲しい」
「かしこまりました、ロウ様……。それと、やっぱり、ロウ様は頼もしいですね」
スクルズがくすくすと笑った。
一郎は面食らってしまった。
「でも、ほんと、シャングリアに斬りかかられたときは、肝が冷えたわ。久しぶりに命の危機を感じたもの」
コゼが苦笑している。
すると、シャングリアの顔が真っ赤になった。
「そ、それは、わ、悪かったと……」
「いいのよ。でも、正直、この十日、ずっとあんたの剣筋を見ていたおかげで、なんとか、ひと太刀目を避けれたわ。短剣を弾かれたけど、斬られないで済んだのは、あたしとしては上出来よ。まあ、エリカのいうことをきいて、鍛錬をしてよかったかも」
「そうでしょう、コゼ──。だから、ロウ様も……」
エリカがコゼの言葉に喰いついた。
一郎は悪い流れになりそうになったので、慌てて口を挟む。
「それよりも、シャングリア、あの連中をスクルズが送ることになったら、付いて行ってくれ。そして、エリカとコゼは、そのあいだに、一応、俺とこの神殿を探索しておこう。ブラニーの話によれば、もう変わったことはないということだが、まあ、念のためだ」
「わかりました、ロウ様」
「わかりました」
エリカとコゼが返事をする。
冒険者たちの移送を指示されたスクルズとシャングリアも、もう一度頷いた。
一方で、ブラニーが冒険者たちのところに出現して、金貨の入った袋を配りながら謝罪を開始したのがわかった。
冒険者たちは、まだ半分正気に返っていないような感じで、ぼうっとした者がほとんどだったが、渡された財を見て、歓声をあげている。
よかった。
あまり文句を言われずに帰ってくれそうだ。
しばらくすると、冒険者たちがこっちに寄ってきた。
わっと集まってくる。
スクルズのところに……。
「えっ?」
スクルズが当惑顔になった。
もちろん、スクルズのところに来たのは、さっきブラニーに救援隊の指揮はスクルズだと言えと指示したからだ。
それに、冒険者と王都大神殿の筆頭巫女では、筆頭巫女が長だと思うのが自然だ。
さっと、一郎はさがる。
「スクルズ様、ありがとうございます」
「助かりました。本当に……」
「ありがとうございます」
捕らわれていた者たちがわっとスクルズを取り囲む。
スクルズは困った様子で一郎を見たが、すかさず一郎は口を開いた。
「じゃあ、スクルズ様、俺たちはご指示により、神殿内の確認をしていきます。その間に、その人たちを送ってあげてください。里長には、最終確認してから、夕方にでも改めて報告すると伝えてくれたら嬉しいです」
一郎はスクルズに頭をさげた。
エリカたちは横で苦笑している。
だが、これで世間的にはスクルズの功績ということになるだろう。
スクルズは面食らっていたが、すぐに小さく嘆息した。
口裏を合わせてくれそうだ。
そのときだった。
ただひとりだけ、冒険者が一郎のところにやって来た。
顔を向けると、あの突っ込みどころ満載のステータスをした女冒険者だ。
いや、本当に冒険者か?
とにかく、その彼女が一郎の前に立つ。
それにしても、目の前に立つと、かなり迫力のある巨乳だ。
しかも、色っぽい。
「エレインよ。感謝するわ」
彼女が言った。
エレイン?
ビビアンだと思ったが……。
すると、ステータスにある名の表示が変わる。
“エレイン(レイク=ダーム)
人間族、女
タリオ公国諜報員
冒険者
年齢35歳
ジョブ
諜報(レベル30)
戦士(レベル15)
アサシン(レベル10)
毒遣い(レベル3)
生命力:50
魔道力:10
攻撃力:300(剣)
経験人数
男120、女31
淫乱レベル:A
快感度:30↑(回復中)”
ビビアンも、エレインも仮の名か……。
つまりは、本名はダーム。レイクというのは家名のはずだ。
レイク家のダーム……。
タリオ公国?
確か、旧ローム帝国の版図にある三公国のひとつだ。三公国の中では、一番力のある国で、ハロンドール王国の第二王女のエルザ王女が嫁いでいる国だ。
残念ながら、一郎の知識はこの程度しかない。
「いや、俺は……」
いずれにしても、関わるつもりはない。
スクルズに視線を向けて促す。
そのスクルズは、まだほかの冒険者たちに囲まれて、お礼責めの真っ最中だ。
「いや、あなたよ。全部、見てたわ。ほかの者たちは回復したばかりで、ぼんやりとしてたから、なにも認識していないと思うけどね……」
ビビアン改め、エレインが言った。
一郎は嘆息した。
さて、どうするかな……。
面倒だな……。
「なに、あんた?」
「ロウになにか用か」
「すぐに、スクルズ様が送るわ。向こうに行って」
すると、コゼ、シャングリア、エリカがさっと一郎を守るように、エレインの前に割り込んでくる。
エレインは苦笑した。
「おっかないわねえ……。別に取って喰おうっていうんじゃないわよ。いや、取って喰いたいけどね……。まあ、いまは、そんな話じゃなくて、話し合いをしたいのよ」
「話し合い?」
一郎はエリカたちを制して、エレインの話とやらに耳を傾けることにした。
なんだろう……?
「屋敷妖精のことよ……」
「屋敷妖精?」
意外な申し出に面食らった。
屋敷妖精がどうしたのだ?
そのとき、スクルズが近づいてきた。
「ロウ様、では、一度里まで行ってきます。さあ、あなたもどうぞ」
スクルズがエレインに声をかけた。
しかし、エレインは首を横に振る。
「あたしはいいわ。一緒に来たパーティとは、ただの雇われメンバーで別に知り合いでもないのよ。ミラノのギルドで知り合っただけでね。どうせ、クエストは失敗だし、ここで別れることは話がついたから、一緒に戻らなくていいのよ。あたしは、自分で帰るわ」
「しかし……」
スクルズがちらりと一郎を見た。
「うわっ、あんた、やっぱり何者? 横の女たちもすごいけど、筆頭巫女様まであんたの言いなりなの? 素敵なことやってたしね。とても気持ちよさそうだった……。それはとにかく、最初、やってきた者の中では、あんたが一番弱いと思ってて、まさか、パーティリーダーとは思わなかったわ。というよりも、なんでいるんだろうと思ったけど……。でも、全部、あんたが仕切ってた……。しかも、不思議な技を使うわね。まあ、とにかく、話をさせてくれない。さもないと、あることないこと、お話するかもね。あちこちで……」
エレインがくすくすと意味ありげに笑った。
どうやら、一郎が性交をしながら、屋敷妖精を支配したり、スクルズの魔道を回復させたりしたのを見ていたのか……。
淫魔師である秘密にまでは届かないと思うが、変だとは思っている?
このままだと、いずれかなりのところまで近づくかな?
そういえば、タリオの諜報員のようなことがステータスにあるな……。
本当に面倒だ……。
どうするか……?
「ロウ様……」
エリカが声をかけた。
一郎はエリカが殺気を込めていることに気がついた。
エレインが一郎の秘密を仄めかしたようなことに気がついたのだろう。
もしかして、いや、もしかしなくても、一郎がひと言発すれば、この場で殺すつもりか?
怖いねえ……。
一郎も苦笑してしまった。
「おお、怖っ──。そんなに睨まないでよ、あんた。別に、あたしは敵じゃないのよ。この人に危害を加えたりしないわ」
「どうだか……」
今度はコゼがわずかに位置を変えて、エレインが逃げられないように背後を塞ぐかたちになる。
そして、シャングリアがすでに剣に手をかけている。
エレインの顔から笑みが消えた。
「……もう一度、言うけど、あたしはこの人に危害を加えない……。それどころか、助けてくれて感謝している」
エレインが早口で言った。
その手が動きかけるのを、コゼがなにかをエレインの背中に突きつけることで制する。
エレインの顔がさっと蒼ざめた。
「不用意に動かないのよ。緊張するじゃないのよ」
コゼがエレインの耳元でささやいた。
エレインの表情から、完全に余裕のようなものが消滅する。
「どうかしましたか、ロウ様。そろそろ、里に向かいたいと思うのですが……」
スクルズが声をかけてきた。
一郎は視線を向けた。
にこにこと微笑んでいるが、スクルズもまた、なにかの魔道の発動準備をしている。
こっちも、一郎がひと言指示すれば、致命傷を負わせる魔道を放ちそうだ。
本当に怖い女たちだ。
我ながら味方でよかったと思う。
「話とはなんだ?」
一郎は女たちを眼で制して、とりあえず訊ねた。
なにか、言いたいことがあるようだった。
この諜報員殿の始末を決めるのは、話の後でもいい。
「だから、や、屋敷妖精よ」
エレインが言った。
屋敷妖精?
そういえば、そう言っていたな。
「ブラニーがどうかしたのか?」
「ブラニーっていうの? とにかく、正直に言うわ。実は、一緒に来たパーティの調査クエストに参加したのは、ある別のクエストを受けていたからで……」
「別のクエスト?」
「まあ、そうよ。ある分限者に屋敷妖精を連れてきて欲しいと依頼を受けていてね。あたしの本命は屋敷妖精なの。あんたらが、あの屋敷妖精をどうしようとしているかしらないけど、どうか、こっちに任せてくれない。もちろん、それなりの報酬を支払うわ」
「屋敷妖精を連れていく? タリオまでか……?」
口にして、しまったと思った。
タリオなどという言葉は絶対に発してはならない言葉だった。
今度は明らかに、エレインの表情が変わる。
エレインの身体にも殺気がこもる。
「あ、あんた、やっぱり、何者?」
エレインが静かに言った。
一郎を囲む女たちも、さっと緊張を走らせた。