【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
大勢の人間が後ろからついてくるのがわかった。
その中には、エリカも、コゼも、シャングリアもいるのだろう。無論、パーシバルという貴族男もいるはずだ。
しかし、人の群れに飲み込まれて、よくわからなくなっている。
だが、ギルド本部の表に出たところで袖を引かれた。
ミランダだ。
「ロウ、わかっているの? あのパーシバルは、シャングリアに一撃で勝ったほどの実力の持ち主よ。あんたに、万が一の勝ち目なんかないわ」
そのミランダが小さな声で言った。
シャングリアがパーシバルと一騎打ちで負けたという話は、一郎はたったいま聞いたばかりだが、ミランダは事前に知っていたのだろう。パーシバルが冒険者に登録希望をしてきたときに、調べたのかもしれない。
だが、パーシバルは登録したばかりのはずだから、大した早耳だ。
「ひどい言われようだな。万が一かどうか見てなよ。それより、その腰の短剣を貸してくれ。エリカに借りようと思ったが、剣よりは短剣の方がまだいい。剣は使い慣れてなくてな」
「だったら、あたしを代理人にしなさい、ロウ。あたしがパーシバルと決闘する」
ミランダは言った。
「ミランダを?」
驚いて一郎はミランダを見た。
その表情は真剣だった。
一郎は、新しく身に着けた感情を読む能力でミランダの心を覗いた。
ミランダの心は、一郎に対する純粋な「心配」の感情で包まれていた。
一郎は、ミランダの心にあった不安の感情を沈め、一郎に対する信頼心を増幅するように「調整」した。
ミランダが少し落ち着いたような表情になる。
「短剣をくれ。そして、立会人をしてくれ。決闘という限りは、そういうものも必要なんだろう?」
一郎は言った。
今度はミランダは、素直に一郎に短剣を差し出した。
「ロウ様」
「ご主人様」
「ロウ」
そのとき、人の囲みからエリカとコゼとシャングリアが割り出てきた。
「心配するな。こんなの遊びだ。ちょっとからかうだけだ」
一郎はうそぶいた。
「ロウ、パーシバルは本当に強い。わたしのために、危険なことはやめてくれ」
シャングリアが泣きそうな顔で言った。
「問題ないよ」
一郎は人の群れが作った囲みの中心に進み出ていった。
手にはすでに鞘を抜いている短剣が握られている。
「ロウとやら、謝れば許してやる。なにも命を捨てることはあるまい。正式の決闘で行われた戦いであれば、たとえ、どちらかが死んでも罪に問われることはないのだぞ。俺が要求するのは、俺に謝罪し、シャングリア嬢に謝罪し、分不相応な付き合いなどやめることだ」
パーシバルが進み出てきた。
一郎と少し離れた位置でとまる。
周囲の見物人の熱が帯びてきたのがわかった。
考えてみれば、一郎は自分が武術には素人で、まったく強くないことを知っているが、多くの冒険者から見れば、一郎は難しいクエストを次々にこなしている勢いのある冒険者パーティのリーダーだ。
一郎のことを弱いなどを考えている者は少ないだろう。
一方で、パーシバルは王軍騎士団であり、王都では新参者だというが、ミランダが口にしたくらいだから、強いということも知れ渡っているのかもしれない。
そのふたりの決闘であるのだから、冒険者たちにすれば、突然にやってきた興味深い見世物のようなものだろう。
「分不相応な付き合いというのはシャングリアのことか? シャングリアは俺の女だ。お前さんは相手にもされていないのが、まだわかんないのか、色男」
一郎がからかいの言葉を向けると、パーシバルの顔が怒りで真っ赤になった。
しかし、まだ剣は腰から抜かない。
なるほど、そういうもののようだ……。
そういえば、以前、一郎が持っていた剣も、そういう剣だった……。
「……では、立会人をミランダが務める。この戦いは、法によって定められた正式の決闘であると宣言する。いずれかが死に至ることがあっても、何人であれ、それをとがめることはできない」
ミランダが進み出てきた。
パーシバルが手に剣を掴もうとしているのがわかった。
「早く、始めてくれ」
一郎はすかさず言った。
「はじめ」
ミランダが慌てたように声をあげる。
「な、なんだ?」
次の瞬間、パーシバルが焦ったような叫び声をあげた。
剣が抜けないようだ。
当然だ。
パーシバルの剣の柄の下の鞘の入り口の部分に、一郎の手から出た粘着液がたっぷりと挿入してある。
最初に、パーシバルと一郎がもめた際に、一郎の手がパーシバルの剣に触れたときだ。
あのときは、パーシバルが剣を抜くのを防ぐためにそうしたのだが、そのあと、パーシバルは一郎にそんな仕掛けをされたことにまったく気づくことなく、一郎に決闘を申し込んできた。
一郎はずっと笑いを我慢するのに必死だった。
「わっ、わっ」
パーシバルが慌てている。
一郎は短剣の先をパーシバルの顔の前に突き付けた。
同時に左手でパーシバルが抜こうとしてまごついている剣の柄を押さえる。
さらに粘着力が増すように、指から柄の下に粘着液を流し込む。
「う、うわっ──。ちょ、ちょっと待て──」
「参ったと言え──。さもないと、俺はお前の顔に短剣を突き刺さなければならん」
「ま、待て──。ちょっとなしだ。これはなしだ。剣が抜けん」
「なら、死ね」
一郎は諦めた。
殺すつもりで短剣に力を込める。
「ま、参った──。負けだ。許してくれ──」
パーシバルが悲鳴をあげて尻もちをついた。
一郎は短剣をパーシバルの顔からどけて、パーシバルが剣をさげている紐を切断した。
剣を取りあげる。
そのときには、再び淫魔力を遣って、粘着剤を取り去ってしまう。
証拠隠滅だ。
「ミランダ、短剣を返すよ」
一郎は持っていた短剣をミランダに差し出した。
「ロウの勝利と認める」
ミランダが剣を受け取りながら、嬉しそうに宣言した。
周囲がわっと歓声をあげた。
一郎に寄って来る。
その中にエリカたち三人もいた。
「ロウ様」
「ご主人様」
「ロウ、よかった」
三人とも駆け寄ってきたが、抱きついてきたのはシャングリアだった。感情の起伏の激しい女だから感極まったのだろう。
「……屋敷に戻ったら、改めてお仕置きだ、シャングリア。覚悟していろ」
一郎はシャングリアの耳元でささやいた。
「う、うん……」
一郎から手を離したシャングリアが、真っ赤になってうなづいた。
「ま、待て──。いまの戦いは無効だ。こいつは魔道を遣った。特別に両者が合意しない限り、決闘で魔道を遣うのは重大な犯罪行為だ」
そのとき、パーシバルが寄って来た。
「知らんな。証拠でもあるのか?」
一郎はせせら笑った。
決闘に魔道を遣うのが禁止なのは知らなかったが、いずれにしても、すでに剣の柄に塗っていた粘着剤は跡形もなく消滅している。
証拠などない。
「ふ、ふざけるな。告発する。これは王軍の衛士隊に正式に告発させてもらうからな」
パーシバルが一郎に指を突き付けた。
「決闘に負けたくせにうるさい奴だなあ。そもそも、魔道が禁止なら、お前の剣はどうなんだ。これは魔道の剣だろう。どんな者が遣っても、一流の遣い手になれる魔道のこもった剣のようだが、それを遣うのは犯罪じゃないのか?」
「ど、どうして、それを……」
一郎の指摘に、パーシバルがぎょっとした表情になった。
だが、すぐに思わず口走った言葉に気がついて、口をつぐむ。
「魔剣?」
横にいたミランダがびっくりしている。
しかし、一郎には最初から魔眼の力でわかっていた。
このパーシバルは上から下まで、剣も武具も魔道のかかったものばかりだ。それがパーシバルを一流の遣い手に引きあげていたのだ。
だが、武具の力を取り去った生身のパーシバルは、まったく強くない。
一郎のステータスで垣間見れる戦士レベルなど“1”だし、剣を奪っているいまの直接攻撃力は恐ろしく低い。
おそらく、魔道の武器に頼るばかりで、一度も鍛錬などしたことがないのだろう。
まあ、だから、剣の柄に粘着剤を流し込まれるという間抜けなことに気がつかないのだろうが……。
「ああ、魔剣だ。これがあれば、誰でも勝てる。俺でもシャングリアに一騎打ちで勝てると思うぞ」
一郎は笑って、ミランダに剣を渡した。
「……だ、だけど、あたしには魔道が帯びているのはわからないわ……。本当にそうなら、もちろん、パーシバルは決闘法を犯したに違いないけど……」
ミランダが剣を持って首を傾げている。
なるほど……。
一郎はさらにからくりがわかった。
これは相当に超一級の魔道のかかった剣なのだろう。魔道剣でありながら、魔道がかかっていることが、他者にはわからないというのは、それだけでとてつもない魔道がかかっているのだということくらいは、一郎も理解できる。
おそらく、パーシバルは自分が魔道剣を持っているということを隠して、一流の遣い手を気取っていたのだと思う。
ミランダが半信半疑の体でその剣を抜いた。
「わっ──。た、確かに魔道剣だわ。抜いた瞬間に、あたしに力がみなぎってきた」
ミランダが声をあげた。
そして、パーシバルを睨んだ。
「パーシバル、あんたは決闘に魔道剣を遣ったのね。あんたのやったことこそ、決闘法に禁止された犯罪よ」
ミランダがパーシバルを睨んだ。
「ま、待て……。い、いや……。ち、違う……」
パーシバルがたじたじになっている。
どうやら、パーシバルは自分が魔道剣を遣っているということが、絶対にばれない自信があったようだ。
それがあっさりと一郎に見抜かれたことで、動転しているに違いない。
そのとき、一郎を押し退けるようにして、ひとりがパーシバルの前に進み出た。
シャングリアだ。
見ると、すごい形相としている。
かなり激昂しているような感じだ。
「パーシバル、お前はずっと魔道剣を遣っていたのか──? さては王軍騎士団の錬成でもそうだったのだな。騎士団では、魔道剣や魔道具を遣うことは、ご法度だということを知っているだろう」
シャングリアが怒鳴った。
「えっ、そうなの?」
コゼが横から疑問の声をあげた。
「そうだ。魔道具というものは能力をあげるのに便利だが、敵に力のある魔道士がいれば簡単に、それを逆に操ることもできるのだ。だから、集団戦では周りの味方に危険をもたらすものとして禁止されている。それにも関わらず、お前はずっとそれを遣っていたのだな」
シャングリアがさらに大きな声をあげた。
「そ、そんなことは……」
パーシバルは狼狽えている。
「違うというなら、わたしともう一度立ち合え。わたしの剣を貸してやる。わたしに、一撃で勝ったというのが魔道剣でない実力だというのであれば、わたしの剣でも勝てるはずだ」
シャングリアが剣を抜いて、パーシバルに放り投げた。
「お、俺は……」
パーシバルはシャングリアが足元に投げた剣を手に取ろうとはしなかった。
その代わりに逃げ場を探すように後ろを見た。
しかし、周囲の冒険者たちがそれを塞いでしまう。
「エリカ、剣」
シャングリアがエリカに手を差し出した。
「殺しちゃだめよ……。あとが面倒よ」
エリカが剣を渡す。エリカの剣はシャングリアがいつも遣っているものに比べれば細身のものだ。
シャングリアがそれを手に取る。
「シャングリア、パーシバルの武具も魔道具だ。おそらく、斬りつけても無駄だ」
一郎はすかさず言った。
「そうか……。武具そのものを斬りつけなければいいのだな」
シャングリアが酷薄な笑みを浮かべたと思った。
エリカから受け取った細剣を素早く二回パーシバルに斬りつけた。
「うわああっ」
パーシバルは悲鳴をあげて後ろに倒れた。
しかし、シャングリアが斬ったのは武具をとめている紐のようだ。
胴巻きが外れて、パーシバルから離れる。
「もういっちょだ」
シャングリアが尻もちをついている腰垂れの紐を切った。
それも外れて、パーシバルは平服だけになる。
「ひ、ひいっ」
もう恥も外聞もないようだ。
今度こそ、パーシバルは立ちあがって逃げ出した。
「待たんか、卑怯者──」
シャングリアが追いかけて、パーシバルの腕を掴んだ。
剣を上から下に突き刺すように振る。
「きゃああ」
パーシバルが女のような悲鳴をあげた。
シャングリアの剣はパーシバルのズボンを下着ごと完全に引き裂いていた。
布切れになったズボンを必死に押さえて、パーシバルが生尻をこっちに向けて逃げていく。
周囲がどっという笑いに包まれた。
「二度と、わたしにもロウにも、王軍騎士団にも近づくな──」
走っていくパーシバルの背中に、シャングリアが罵りの声を浴びせた。
*
昼間でも物騒な界隈の王都城外の通りをパーシバルは歩いていた。
身体には黒いマントを羽織り、頭にもフードをつけている。
この一帯は、王都の城壁の外であり、なんらかの事情で城郭の中では暮らすことができない者たちが集まっている場所だ。
城郭外なだけに、王軍衛兵の取り締まりも行き届かず、また、街並みが管理されていないので、道は狭く、建物が入り組んでごみごみとしている。
道端には、日雇い仕事にあぶれた男たちが手持ちぶさたに座っていたり、あるいは、身体が弱いのか、昼間から酔っているのかわからないが、ぐったりと横になったりしている者で溢れている。
多くの者が見慣れない侵入者であるパーシバルのことをじろじろと眺めてはいるが、屈強な護衛ふたりを連れているパーシバルに関わろうとする者はいない。
パーシバルは、看板のない一軒の建物の前で立ち止まった。
小さな商家のようなたたずまいだが、外からでは中の様子はわからない。通りに面する側には窓はなく、ただ木の扉があるだけだ。
「お前たちは、ここで待て」
パーシバルは護衛たちに声をかけてから、ひとりで建物の中に入った。
中は薄暗く、怪しい煙と香りが漂っていた。
入ったところに向かい合う長椅子とそれに挟まれる卓があり、その奥のカウンターには椅子に腰かけている老婆がいる。
「俺だ。ザーラ、久しいな」
パーシバルはフードを取ってから長椅子に腰を落とした。
「おお、これはパーシバル坊ちゃま。王都に戻って来られたのですね」
ザーラが相好を崩した。
この皺だらけの老婆が、いったい何歳であるのか、パーシバルは知らない。
王都の城外で怪しげな魔道屋を営んでいるザーラと知り合ったのは、パーシバルが十五歳のときで、ほかの貴族の若者とともに、派手に悪さをしていた時代のことだ。
そのときからザーラはすでに老婆だったし、それは十年以上経ったいまでも変わらない。
「戻ってきたのは十日ほど前だ。ところで、仕事を頼みたい」
パーシバルは、懐から布袋を出した。
袋のものを目の前の卓に出す。
ハロンドール金貨三十枚ほどがそこに拡がった。
「おう、これは」
ザーラが声をあげた。
そして、慌てたように椅子から立ちあがって、カウンターからこちらにやってきた。
反対側の長椅子に座る。
「最近は不景気でしてなあ。こんな大仕事なんて、滅多にあるわけじゃありません。なにをお求めなさるので? それとも、誰かを呪いますか?」
ザーラは笑った。
こんなところで、魔道屋をやっているような老婆だが、実はとてつもない魔力を帯びた女だということをパーシバルは知っていた。
魔道の術や魔道具を作ることにかけては、王都にいる王軍魔道師たちでも敵わないだろう。
パーシバルも、一度ならず、宮廷府に推挙してやろうかと声をかけたことはあったが、その都度、宮仕えは性に合わんと断られた。なにか理由があるようなのだが、パーシバルもそれ以上の詮索をしようとはしなかった。
そんなザーラだが、代価さえ出せば、どんな魔道の品でも準備してくれるし、魔道もかけてくれる。
得意は他人の心や身体を操ることであり、本人にわからぬように病に陥らせたり、料金次第では果てには殺したりもできるという。
それをこのザーラは、「呪い」というのだ。
無論、違法だ。
発覚すれば、死罪は間違いないが、このザーラは捕らえられないだけの自信があるようだ。
もっとも、パーシバルは、殺しまでは頼んだことはない。
せいぜい、身体を操る人形を買って、若い女の何人かを玩具にしたくらいだ。
若い時代の話であり、まあ、ただの遊びだ。
しかし、今日は、久しぶりにそれを頼みにやって来た。
「むかし、頼んだ人形を買いたい。身体を自在に操れるあれだ」
「ほう、呪いの人形を?」
ザーラが意味ありげに微笑んだ。
「そうだ。ある女をそれに刻んで欲しいのだ」
「呪いの人形」というのは、このザーラがもっとも得意とする操り術の結集のような魔道具であり、片手で掴むくらいの真っ白い人形なのだが、それに対象となる相手の身体の一部を刻んでもらうと、その人形に施した刺激を遠くから本人に与えることができるというものだ。
それだけでなく、その相手が見える場所くらいまで近づけば、人形と同じ姿勢を当人に強引に強要することができる。
つまり、それを遣えば、人形の首を無理に捻るだけで、そいつの首の骨を折って殺すことまでできるということだ。
「お安い御用ですぞ。また、若い女ですか?」
「そうだ」
「なら、いくつか在庫があったと思いますな。なにせ、若い女用の人形は注文が多いもんでのう」
ザーラは立ちあがった。
そして、一度カウンターの裏に戻り、すぐに帰ってきた。
そのときには、女を思わせる身体のかたちをした「呪い人形」を持っている。
パーシバルは、その人形をじっと見た。
小さいが乳首を思わせる突起もあるし、股間には女陰まである。顔の部分には眼はないが口の穴はある。
それをいじれば、人形に与える刺激がどこからでも与えられるし、無理矢理に物を食わせるということもできる。
痛みでも、快感でも思いのままだ。
「刻むための相手の身体の一部はありますか、坊ちゃま?」
「髪の毛だ」
パーシバルは、服の下から畳んだ紙に包んだ数本の髪の毛をザーラに差し出した。
本当は、あのロウといかいう生意気な男を直接刻んで、手足だけでなく、首の骨までばらばらに砕いてやりたかった。
しかし、ロウの髪の毛など簡単には手に入らない。
今度、パーシバルが近づけば、本当に殺されるかもしれない。
それに比べれば、シャングリアは、騎士団に置いている彼女専用の兜に髪の毛が数本残っていた。
ほかの騎士であれば、従者が手入れして、髪どころか埃ひとつ残さずに手入れをしてしまうが、シャングリアは従者を持っていない。それに、先日の錬成のときには、付き合いを迫るパーシバルから逃れるように、武具の手入れもそこそこに騎士団の詰め所を立ち去っていた。
だから、絶対に残っていると思った。
そして、案の定、パーシバルは、シャングリアの髪の毛をそこに見つけることができた。
昨日の夜、こっそりと騎士団に戻って、これを手に入れてきたのだ。
それにしても、思い起こしても腹が煮え返る。
あの生意気なロウという若者もそうだが、シャングリアもだ。
万座の中でパーシバルのズボンを切り割くというような行為で恥をかかせたシャングリアを許すわけにはいかない。
それで考えたのは、あのロウからシャングリアを寝取り、そのシャングリアを散々に弄んだ挙句に、輪姦でもして、捨てるということだ。
それなら、手に入れたシャングリアの髪の毛を使って、ロウにもシャングリアにも復讐ができる。
なにせ、あのロウたちは、パーシバルに恥をかかせただけじゃない。
パーシバルが秘密にしていた魔道の武器のことまで明らかにして、パーシバルが騎士団からいられなくなるまでしたのだ。
冒険者ギルドの前で決闘騒ぎをしたのは一昨日のことだが、昨日には騎士団の団長に呼び出されて騎士団からの離任を勧告された。
また、王都にいるダウス家の一門の者からは、当面、領地に戻って謹慎するようにも言われた。
こんなことになったのも、全部、あのロウとシャングリアのせいなのだ。
シャングリアがパーシバルの誘いを拒否せず、ロウが大人しく、シャングリアをパーシバルに差し出せば、パーシバルがこんな仕打ちを受けるはずもなかった。
絶対に復讐してやる。
だから、パーシバルは、昨夜の夜に、荷を出すと称して、こっそりとシャングリアの兜から髪の毛を盗んだのだ。
「どれ」
ザーラは無造作に白銀色のシャングリアの髪を掴むと、白い人形の背中に押し込むような仕草をした。
髪の毛が人形の中に吸い込まれたように消えた。
「終わりましたぞ」
ザーラが人形をパーシバルに差し出した。
「もう、終わりか? こんなに呆気なかったかな?」
パーシバルは人形を手に取った。
試しに、股間と胸を揉むようにしてみる。
「おっと、お気を付けください。もう人形には、髪の毛の持ち主の女の身体を刻んでありますからな。人形に与えた刺激は、いまも伝わっているのですよ。その女は少なくとも王都内かその周辺におるのでしょう? そのくらいの距離であれば、その人形で操作できるのです」
「それはいい。どこにいるか知らんが、恥をかかしてやる」
パーシバルはカウンターの端にあった羽根つきのペンを手に取ると、羽根の部分で人形の表面をくすぐるように動かした。
「……いまは、刺激を伝えるだけだな、ザーラ?」
「そうですな。眼に見える位置に人形を近づければ、人形を使って相手の身体を動かせるようになります。念じさえすれば、当人の身体はまるで人形のように自分では動かせなくすることもできます」
「わかった。とりあえず最初の洗礼だ。徹底的にやってやる」
パーシバルは本格的に羽根によるくすぐりを加えた。
胸も股間も背中も……。
尻の亀裂まであますところなく、刺激を与える。
「以前には気づかなかったが、尻の穴まであるのだな?」
パーシバルは人形の尻を拡げるようにして、羽根で尻穴を掃きながら言った。
「そこから液剤を注入すれば、本人も尻穴に浣腸剤を入れられたのと同じようになります。準備しますか?」
ザーラがくすくすと笑った。
「それも面白いな。だが、実はやって欲しいことがもうひとつある」
パーシバルは人形を弄ぶのをやめて、卓の上に置いた。
「もうひとつ?」
ザーラは小さく首を横に傾けた。
パーシバルは、再び懐から小さな布袋を出した。
中身を拡げて、ザーラに示す。
今度は百個ほどの小さな宝石の玉だ。
最初に渡した金貨の十倍ほどの価値がある。
「これは……」
さすがにザーラが顔色を変えた。
「この人形に刻んだ女を俺に惚れさせたい。確か、人形は、身体で身体を操るだけでなく、そういうこともできると言っていたと思う」
パーシバルは言った。
「惚れ薬というわけで? できますぞ。少し時間がかかりますがのう」
「どれくらいだ?」
「半日はかかりません。二ノス」
「やってくれ」
パーシバルは言った。
ザーラは卓の上に置いたままだった金貨の袋と、たったいま出した宝石の袋を持つと、再びカウンターの向こうに消える。
出てきたときには、石の香呂を抱えていた。香呂の中には桃色の灰がある。
ザーラがそれを卓に置いて、その上で指を擦り合わせるような仕草をした。
すると煙が立ちのぼり、天井に向かって流れ始める。
「坊ちゃまの髪の毛を……」
ザーラが言った。
パーシバルが髪を抜いて渡すと、ザーラは香呂にそれを入れた。
髪が灰の中に消える。
「その人形の頭の部分を煙にかざしてください」
パーシバルは言われたとおりにした。
「その状態で二ノスです。それで人形に髪を刻んだ女は、坊ちゃまの言いなりです」
ザーラは言った。
「二ノスか……。そのあいだ、人形に触ってもいいか?」
「存分に」
ザーラが笑った。
パーシバルは、人形の頭を煙にかざしながら、再び人形の身体を羽根で掃き始めた。