※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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【5章 第三王女の恋人】
122 ロウに関する報告


 『ロウに関する報告』――。

 

 

 シャーラが手渡した木切れの破片に強い魔力を加えると、木切れが消滅して、最初にその文字が空中に浮かびあがった。

 イザベラは、シャーラから報告を受けるときには、必ず、こういう方法で受けることにしていた。

 これならば、なんらかの事情で木切れが奪われても、木切れは木切れだ。

 第三者には、なんの価値もないゴミにしか思えないだろうし、もしも、魔道の強い者がいて、木切れが情報書の役割をしていることを見抜いたとしても、イザベラの波動の魔力がなければ、解除は不可能だ。

 なにしろ、イザベラには敵が多い。

 いや、敵だらけといっていい。

 だから、宮廷内に敵の多いイザベラとしては、なんでもないやり取りでも、それが敵の手に渡って、思わぬ攻撃材料に使われたりしないように用心する必要があったのだ。

 

 

 

『ロウ、年齢不詳、おそらく、三十過ぎ。出身不詳。外観は人間族。家族不詳……。髪の毛は黒。中肉中背……。ドロボークにおける入国手続きは××月××日、王都ハロルドにおける冒険者登録は××月××日……、冒険者ランク(アルファ)……』

 

 

 

「なんじゃ、これ。わからないことだらけではないか、シャーラ」

 

 イザベラは笑ってしまった。

 

「申し訳ありません、姫様。手を尽くして調べましたが、ハロンドールの西に面するドロボークの城郭で入国手続きをした以外のことはわかりませんでした」

 

 シャーラが申しわけなさそうに言った。

 

「まあ、シャーラの調べでわからないのであれば、誰がやっても同じなのだろう。わからんことは、本人にでも訊ねるしかないのう……。まあ、わたしとしては、ロウという冒険者が、キシダインなどとの繋がりがないということが確信できればいいのだがな」

 

「それについては、あらゆる面から、その可能性はないと申せると思います。キシダイン卿との繋がりの形跡は皆無です。そもそも、ロウという冒険者が注目を浴びた最初の事件がドルニカ伯爵事件ですし……」

 

「ああ、そういえば、そんなこともあったのう」

 

 イザベラは言った。

 ドルニカというのは、いまは領地に戻って隠棲しているという話がある、しばらく前まで王都で活躍していた伯爵夫人だ。

 多くの若い芸術家を育てるパトロンであったが、一方で面倒を看ている若い芸術家たちを奴隷のように扱っているという噂もあり、イザベラは常々不快に感じていた。

 ただ、イザベラの姉の第一王女のアンの婿であるキシダイン卿と昵懇であり、多少の不法をしても、ドルニカが咎められることはなかった。

 

 そのドルニカを王都から追い出したのがロウだ。

 どのような方法を使ったのかまではわからない。

 ただ、ロウが受けたクエストは、ドルニカが監禁したニーナという歌姫を救うことであり、その過程の中でロウはドルニカと諍いがあったようだ。

 その結果、ニーナはドルニカから解放されて故郷に戻って結婚し、ドルニカは数日のうちに王都を出ていき、いまだに領地に引きこもっている。

 不確かな情報だが、ドルニカが出ていく前の夜、そのドルニカが夜の王都で素裸で徘徊し、多くの市民の前で糞便までしたという噂もある。

 いずれにしても、ロウとドルニカのことは不明だ。

 ドルニカがロウに危害を加えられたとすれば、貴族に対する冒涜として訴え出てもいいはずなのだが、その気配もない。

 

 そして、いま、イザベラは、シャーラから、そのロウという冒険者に関する報告を受けていたところだ。

 シャーラは、表向きはイザベラにあてがわれている侍女のひとりということになっており、いまもほかの侍女たちと同じ格好をしているが、実は、イザベラ付きの護衛であり、魔道戦士の肩書を持つエルフ族の女戦士だ。

 

 シャーラをイザベラに紹介したのは、いまはタリオ公国に嫁いでいるひとつ上の姉のエルザであり、当時、エルザは、代々のギルド長を王族から出すという慣習に伴い冒険者ギルド長をしていたが、二年半前にタリオ公国に公妃として嫁ぐことになり、それにあたり、ギルド長をイザベラに申し送るとともに、シャーラという女を紹介したのだ。

 

 当時のシャーラは、一介の冒険者だったが、絶対に信用できる女として、王位継承権を持つ王女でありながら、王国内にほとんど後ろ盾のないイザベラの役に立つ女として、エルザが侍女としてイザベラにつけたのだ。

 エルザは、女にしておくのが惜しいほどに優秀な女であり、ほかのどんな人物よりも、イザベラはエルザのことなら信用できた。

 だから、シャーラを迎え入れた。

 

 そして、やはり、シャーラは有能であり、現在では護衛だけではなく、イザベラの命により、さまざまな諜報や工作活動なども行うようになっていた。

 王女としての肩書がなければ、十六歳の小娘にすぎないイザベラの数少ない絶対に信用のできる者のひとりだ。

 

 それにしても、イザベラの困った状況を作っているのは、他ならぬ父親であり、国王だ。これについては、イザベラも些か、国王に恨み節も言いたくなる。

 現在のハロンドール王はルードルフといい、イザベラの父親であるが、イザベラからみても、有能な王とはいえず、政事にはほとんど興味を示さず、しかも、好色であり、男といわず女といわず、非常に多くの色を好み、それが高じて、家臣に政務のことはほぼ丸投げをして、日のかなりの時間を後宮ですごすという、些か残念な男である。

 

 どのくらい政務に興味がないかというと、王位について十年以上になるが、いまだに第一王位継承者を決めていないくらいである。

 まあ、決めなければならないことは、可能な限り後回しにするという癖があり、また、軋轢を好まず、隣国であろうと、家臣であろうと、誰にでもいい顔をするという王だ。

 それが、即位以来十年間も王太子を指名していないという状況を生んでいるのだが、イザベラにいわせれば、そのことがハロンドール王宮に、いまや大きな混乱を招いているといっていい。

 そして、その混乱の当事者であり、犠牲者なのが、ほかならぬイザベラだというわけだ。

 

 ハロンドール王ルードルフには、実子が三人いて、すべて王女である。

 十六歳のイザベラは第三王女であり、第一王女のアンと第二王女のエルザは、ともに二十三歳だ。

 だが、すべて母親が違い、正妃のアネルザの実子は第一王女のアンのみであり、第二王女のエルザは王宮の洗濯女であって、イザベラの母は当時王宮にいた下級貴族の娘だ。また、エルザにしても、イザベラにしても、母親は早世している。庶子腹のエルザはもちろん、イザベラにも王国内に後ろ盾となる貴族はいない。

 

 本来であれば、第一王位継承者は、第一王女にして、マルエダ辺境候の長女にして現王妃アネルザの実子のアンであり、それであれば、誰ひとりとして文句は言わなかったと思われるが、このアンに、まったくの魔道力が存在しなかったことが、いまの混乱を招くことになった。

 

 つまりは、国王に高い魔道力は必要としないが、まったくないというのは、国王にしか継承することができないさまざまな魔道具を使用できず、国王としての国事行為がまったくできないということなのだ。

 そのため、アンが年齢がいまのイザベラの頃に、早々に王位継承を放棄して、後日、キシダインという王族の公爵家の嫡男に嫁ぎ、その妻になった。

 

 また、第二王女のエルザも、政務にしろ、流通にしろ、民事にしろ、実に優秀な女性だったのだが、エルザもまた魔道力がなかったために王位継承者にはなりえず、アン同様に継承権を放棄させられ、二年半前にタリオ公国大公アーサーのところに公妃として政略結婚で送られた。

 

 姉ふたりに比べれば、イザベラは幼少から魔道力を保持していることが明らかであり、姉ふたりの王位継承権がなくなったいま、ルードルフの後継者の第一候補である。

 

 だから、順当であれば、イザベラが王太女で問題はなく、ルードルフがそれを明言すれば、それで終わりの話であるはずなのだ。

 なにしろ、ハロンドール王国の歴史において、王位は実子が優先して継ぐということが常識であり、過去の歴史において、実子が存在しながら、実子以外が王になったことはない。また、数は多くはないが、女王の例もあり、イザベラが王太女になることは、王国の慣例のとおりなのだ。

 

 ところが、それに待ったをかけているのが、アンを娶ることで王位継承の資格を得るとともに、公爵を継いでハロルド公となったアンの婿のキシダインと、王妃のアネルザなのだ。

 キシダインは野心の大きい男であり、自分こそが次期国王に相応しい能力を持っていると公言してはばからないし、王妃アネルザも、実の娘のアンを将来の王妃にしたいと熱望していて、キシダインを王太子に推している。

 また、キシダインもアネルザの実家のマルエダ辺境候も大貴族であり、王国内の有力貴族はこぞってキシダイン派といってよく、それに比べれば、イザベラなどに味方するのは、力のない中小貴族くらいであり、味方らしい味方は皆無だ。

 

 そんな状況で、ルードルフが日和見を決め込んでいるために、イザベラは些か困った立場になっているということだ。

 なにしろ、キシダイン派からすれば、イザベラという存在が邪魔で仕方がなく、ある意味、イザベラさえ「不慮の事故」で死ねば、もはや、王位継承は、間違いなくキシダインに転がってくるのである。

 実際のところ、ここ最近のイザベラを取り巻く環境は悪化の限りであり、毎日のように暗殺の危機に瀕している。

 イザベラの身を守り続けてくれているのは、二年半前にエルザがつけてくれたシャーラだけであり、イザベラとしては、誰でもいいから、自分を助けてくれる頼りになる味方や、信頼できる有能な部下を心の底から欲している。

 

 それで、目をつけたのが、一介の冒険者にすぎないが、王都三神殿の筆頭巫女が陥った危難を鮮やかに解決した手腕を示したロウだ。

 ロウは、登録間もない新人の冒険者だが、抜きんでた実力があることは短い期間で成し遂げたクエスト成功の記録が証明している。

 ならず者集団だと揶揄する者が多い冒険者たちであるが、一騎当千の強者も多く、人となりさえ見極めれば、信頼できる者もいることは、他ならぬシャーラが冒険者出身であることで十分だ。

 イザベラは、ロウという冒険者に、実に大きな興味を抱いた。

 

 もっとも、このロウに関する記録について、ギルド長でもあるイザベラが知ったのは最近のことだ。

 ロウには特殊な事情があるらしく、自分の功績を公にしないでくれと、副ギルド長のミランダに頼んでいたようであり、それを受けたミランダがずっとロウの名とクエスト記録を改竄していたのだ。

 イザベラは、ミランダの犯した記録改竄について、ロウの成功クエストの内容以上に興味を抱いた。

 ミランダの生真面目さと有能さは、誰よりもイザベラが一番知っているつもりだ。

 そのミランダが、一介の冒険者の頼みを受けて、ギルド記録の改竄という掟破りをしたというのが信じられない。

 しかも、ミランダは、そのロウと男女の関係まである気配がある。

 ミランダという女にそこまで肩入れさせてしまう男であるロウに、イザベラは大いに関心を持った。

 ミランダは一流の女だ。

 一流の女が惚れるのであれば、やはり、相手の男も一流だといえないだろうか……。

 

 信頼のできる部下の少ないイザベラとしては、もしも、そのロウが本当に実力を持つ男なのであれば、なんとしても、自分の家人のひとりに加えたいとまで思っている。

 

 それで、シャーラにロウについて調べさせた。

 その魔道報告が目の前にある。

 いまの時間は、そろそろ陽が落ちて、夜の帳がおりようとしている時刻だ。

 窓の外から差し込む陽の光はほとんどなくなり、すでに室内には煌々とした燭台が灯っている。

 

「……とにかく、ロウ個人については、ミランダが隠していたクエスト記録以上のものはないようだな。どのような能力を持っているかも不明か?」

 

「武芸には堪能ではないというのがわたしの調べの評価でした。そのため武器は短銃を遣っています。武芸の心得がなくても銃は遣いこなせますし……。まあ、銃の腕前は、そこそこのようです……。ただし……」

 

「ただし?」

 

「その評判を覆すことがありました。王軍騎士パーシバルの件はお聞き及びですか、姫様?」

 

「パーシバル……?」

 

 イザベラは記憶を辿った。

 

「ダウス侯爵家の一門の男です。先日、禁止されていた魔道具を武具として長く遣っていたことが判明して、騎士団を追放され、さらに、行方不明になりました」

 

「おお、あの事件か──。思い出した。確か、ただの魔道具でなく、禁忌の魔道十二戒を犯す魔道まで武具に遣っておったらしいな。パーシバルの遣っていた剣や防具は、王軍魔道隊が没収して、詳しく調べておるはずだ」

 

「そのきっかけになったのもロウです。話によれば、パーシバルは、ロウの目の前で、あのシャングリア嬢に言い寄ったようです。それでふたりが揉め、決闘騒動になったらしく……」

 

「決闘? パーシバルとシャングリアがか?」

 

 シャングリアはモーリア男爵家の一門の女騎士だが、男勝りの武勇で名を馳せていて、しかも男嫌いで有名だった。

 また、モーリア家は男爵家にすぎないが、いまの男爵が爵位を継いでから領地経営に大成功しており、並の侯爵家以上の経済力を持っている。そのモーリア家に連なる美人騎士なので、イザベラとしても、シャングリアの名は十分に知っている。

 しかも、そのシャングリアが、一介の冒険者のロウに惚れて冒険者になったというのは、王都ではちょっと知らぬ者のないくらいの艶話だ。

 

「違います。決闘をしたのは、パーシバルとロウなのです。しかも、得物はパーシバルが剣でロウが短剣です。そのときには、パーシバルは魔道剣を遣っているのは知られていなくて、パーシバルの禁忌の魔道剣と、ロウは短剣で戦ったのです」

 

「ロウが? それで?」

 

「ロウはパーシバルに剣を抜かせることもなく、パーシバルの喉に剣先を突き付けたそうです。見ていた者によれば、電光石火の早業ということでした。まあ、不確かな情報なのですか……」

 

「魔道剣を持った相手に短剣で? まさか──。ならば、ロウも魔道剣を遣ったのではないか?」

 

「ロウはそもそも自分の武器は遣っておりません。先ほど説明いたしました通り、ロウが普段持ち歩いてるのは短銃です。そのときの短剣はミランダのものを借りたそうです。手の者が調べましたが、なんの変哲もない普通の短剣でした。大勢の見物人がいて、疑いようもありません」

 

「ますます、興味深いな。いずれにしても、わたしは、ミランダから、ロウが病だとずっと説明されておった。それも嘘だったのじゃな」

 

 イザベラは苦笑した。

 少し前から、イザベラはミランダに、イザベラの身分を隠して、そのロウと一緒にクエストをやりたいから、適当なものを斡旋しろと命じていた。ところが、ミランダは、ロウは遠くに出張クエストだとか、数日前に改めて訊ねると、病だとか言って、なかなか実現させようとしなかった。

 予想はしていたが、やはり嘘だったようだ。

 

「病どころか……。パーシバルだけでなく、長く王軍と神殿の両方で手配されていた闇魔道士のザーラの捕縛にも協力したようですよ」

 

「あの事件もロウが関与しているのか──?」

 

 イザベラは驚いて言った。

 もちろん、闇魔道士のザーラが捕らえられたという知らせは耳にしている。

 捕らえたのは神殿魔道士隊であり、潜伏していたのは王都城外の貧民街だそうだ。

 禁忌の魔道で、何十人も金をもらって魔道で暗殺しており、いずれ処刑となるのは間違いない。

 ただ、操り術に長けていて、捕らえようとしても、その捕縛者を操って逃げてしまう。

 それで長く手配から逃げおおせてきたと聞く。

 

「そのザーラを直接捕らえたのはロウたちです。ザーラを王軍に引き渡した第二神殿からは、そう報告してきました」

 

「ほう」

 

 イザベラは感嘆するしかなかった。

 本当にロウというのは、何者だろう?

 信用のできる男とわかれば、是非ともイザベラの家人にしたい。

 

 なにしろ、王位継承問題のために、イザベラはキシダインの手の者と思われる者から、常に命を脅かされるている。

 もちろん、イザベラとしても、ただ手をこまねいているわけではなく、必要な対抗処置をしているが、キシダインには多くの有力貴族が後ろについており、なかなか、尻尾を掴むことができない。

 王女といっても、十六歳でしかないイザベラには、本当に信頼のできる部下は少なく、このシャーラくらいなのだ。

 このままでは、イザベラなど、ついにはキシダインの手の者にかかるか、罠に嵌まって死ぬしかない。イザベラとしても、まさか死にたくもない。

 

 もしも、ロウがイザベラの部下になってくれれば……。

 イザベラは、報告に視線を戻した。

 報告の項目は、ロウの女たちの記録だ。

 

 エリカ……。

 コゼ……。

 シャングリア……。

 いずれも、絶世の美女たちのようだが、はっきりと素性がわかっているのは、シャングリアくらいのものだ。

 

 エリカはロウと一緒にやってきたエルフ族であり、ロウとともに入国手続きをした後からしかわからない。

 

 コゼについては、もっと不明だ。

 王都で冒険者登録をする前のことは一切不明となっている。

 シャーラの報告には、あるいは逃亡奴隷の可能性もあると記されていた。

 

 シャングリアのことはもちろん知っている。

 ただ、度々にわたって、そのシャングリアがロウという男に、王都の一画で破廉恥な行為を強制されている光景の目撃も報告書にはある。

 ただ、それでもシャングリアはロウにぞっこんのようだ。

 

「……ところで、あれの噂は本当か……? スクルズとベルズのことだ」

 

 イザベラは言った。

 

「スクルズ様とベルズ様のことというと、そのふたりがロウという男と男女の仲ではないかということですか……?」

 

「そうだ」

 

 イザベラは頷いた。

 スクルズとベルズといえば、神殿の敬虔な筆頭巫女というだけではなく、この王都では一、二の実力を争う魔道遣いでもある。

 そのふたりが、先日の事件を契機にロウの女になっているという、ちょっと信じられないような噂もある。

 

「肯定する証拠はありませんが、否定する証拠もありません。ふたりがロウやその女たちと親密なのは確かです。ただ、スクルズ様もベルズ様も、移動術をお遣いになられるので、夜な夜な神殿を抜けて、どこかに行ったとしても、それを見つけることは難しいでしょう」

 

「まあいい。しかし、だとしたら、ロウがとてつもない、女好きの好色男というのは確かだな。ただ、共通するのは、いずれも一騎当千の女傑であるということか……。しかも、皆、美女のようだ。ただ、外見はいろいろだな。ロウの女になるには、特に肉体上の要求はいらんらしい」

 

 イザベラは報告書を読みながら微笑んだ。

 

「肉体上の要求?」

 

 シャーラが怪訝な表情になった。

 

「たとえば、胸が大きくなければいかんとか、痩せてなければならんとか、人間族でないとだめだとか、そういうもののことだ……。エリカは完璧な曲線美で胸は大きめ、髪は黄金──。コゼは小柄な少女体形、胸は小さい。髪は黒……。そして、シャングリアはしっかりと武芸で鍛えたすらりとした身体。髪は白銀。背はやや大きめ……。ミランダもロウの女とすれば、ロウはドワフ族も受けつける男ということになるな……。ならば、わたしもロウの眼鏡にかなうかもしれんということだ。スクルズもベルズも、またタイプの違う美女だし、わたしも立候補できそうだ」

 

 イザベラは笑った。

 

「立候補?」

 

「まあ、わたしもシャングリアほどではないが、そこそこ見れる美人とは思うがのう。スクルズは優しい感じの栗毛女。ベルズは気の強さを絵に描いたような赤毛。だが、誰もわたしの黒毛ほどの長い髪はいないようじゃ。そのロウとやらも、興味をそそるのではないかのう」

 

 イザベラは腰まである長い真っ直ぐな自慢の髪を払うような仕草をした。

 

「あ、あのう……。おっしゃっている意味がわかりませんが……」

 

 シャーラが不審な顔をした。

 

「報告を聞いて、ますます、ロウという男を部下に欲しくなった。ついては、わたしも、そのロウの女になろうと思う。ロウは女好きの一方で、クロノスの傾向があるようだ。しかも、自分の女は大切にするようであるしな──。ならば、ロウをものにするのは、ロウの女になった方が手っ取り早い」

 

 イザベラはあっさりと言った。

 シャーラが血相を変えた様子で、なにかを叫ぼうとした。

 しかし、そのとき、扉が叩かれ、外からミランダの訪問を告げる侍女の声があり、シャーラの言葉はうまく遮られた。

 

「呼び出しておったが、やっとミランダが来たようだ……。ここに連れよ──」

 

 イザベラは、部屋の外の侍女に大きな声で告げた。

 そして、ミランダがやってきた。

 緊張している様子だ。

 なんで呼び出しを受けたのか、察しがついているようだ。

 

「ひ、姫さ……、いえ、ギルド長、ミランダです」

 

 案内の侍女が部屋を立ち去ると、ミランダがおずおずと言った。

 本当に面白い。

 あの百戦錬磨で伝承の冒険者といわれ、いまや、大陸中に拡がる冒険者ギルドの総本山のハロンドールの王都ギルドを事実上、牛耳っている勝気のミランダが、ロウの絡むこととなると、途端に守勢に回ったようになる。

 実に愉快だ。

 

「これはミランダ様」

 

 シャーラが立ちあがって、ミランダを長椅子に促すような仕草をした。

 だが、イザベラはそれを制した。

 

「いや、座ることは許さん。そこだ。そこに来て、立て。いや、そこだ。そこ」

 

 イザベラは、入り口とは反対側の部屋の奥側の開けた場所にミランダを誘導した。

 ミランダが着席を許されないので、シャーラも当惑した様子で立ちあがったままだったが、シャーラについては座らせた。

 ミランダは、向かい合って腰かけるイザベラとシャーラの横側に立ったようなかたちになる。

 

「ミランダ、これは訊問だと思え。ロウのことだ」

 

 イザベラは言った。

 途端にミランダがばつの悪そうな表情になった。

 

「お前は、ロウについては、長患いでしばらくクエストはできそうもないと言っておったのう。その長患いのロウが、先日は大活躍だったそうではないか。禁忌の魔道具を隠し持っていた王軍騎士パーシバルの不法をあばき、長く手配されていた闇魔道士のザーラの捕縛にも寄与したという。どういうことじゃ? わたしを馬鹿にしているのか?」

 

 イザベラはわざときつい口調で言った。

 

「そ、それは……」

 

 ミランダはなにかを喋ろうと口を開いたが、やがて、大きく嘆息した。

 

「馬鹿にするつもりはありませんでした。申し訳ありません……。ただ、そのふたつは、ロウたちパーティの功績です。冒険者としての成績に付け加えるようにも処置したいと思います。特にザーラ事件については、王軍や神殿でも追えなかった手配人を冒険者が捕らえたということでありますので、ギルドとしても大きな得点になると……」

 

「話を逸らすな、ミランダ。それは任せる。クエスト扱いするのであれば、それでいい。ザーラには賞金もかかっておったからな。それを報奨金と一緒に渡してやれ」

 

「ありがとうごさいます」

 

 ミランダが頭をさげた。

 

「ただし、ロウには、強制クエストを発動する。ギルド長権限だ。拒否は許さん」

 

「強制クエスト……ですか?」

 

 ミランダが不審な表情で、シャーラに視線を向けた。

 しかし、シャーラも当惑した表情でミランダに向かって首を横に振っている。

 イザベラは、あらかじめ準備しておいた魔道具の装置を手元の操作具で作動させた。

 ミランダの立っている場所の周りに、一瞬にして光の格子が発生する。

 魔道で作った檻だ。

 それでミランダが閉じ込められる。

 

「あっ、こ、これは──?」

 

「姫様、なにをなさるんです」

 

 ミランダの声に続いて、びっくりしているシャーラが立ちあがった。

 

「ふたりとも、黙れ──。シャーラは座れ。ミランダもだ。床に座るがいい。わたしに嘘をついて、ロウに接触させまいとした罰だ。ロウがクエストを受ける餌になれ」

 

「餌?」

 

 ミランダは首を傾げている。

 それでも、もう観念したのか、黙って床に胡坐になった。以前は品のない身体にぴったりの革のスーツを着ていたが、最近では清楚な感じのスカートをはいている。いまもそうだが、こっちの方がミランダの見た目のかわいらしさを引きたてている感じだ。

 

「指輪を出せ、ミランダ。この宮廷内では、王軍魔道師の処置で、王族をはじめとする特定の者以外の魔道は遣えんようになっているが、念のためだ」

 

 イザベラは立ちあがった。

 ミランダは素直に指から魔道リングを外して、光の格子越しにイザベラにそれを手渡した。

 イザベラは準備していた宝石箱にそれを格納する。

 

「それから、いま着ているものを全部脱げ。上から下まで、下着もすべてな。心配ない。ここにいるのは女だけだ。恥ずかしくはない」

 

「な、なんですって?」

 

 さすがに、ミランダは目を丸くした。

 

「ひ、姫様、なんてことを言うんです──。とにかく、ミランダ様を解放してください」

 

 シャーラが横から怒鳴った。

 

「やかましい。これは餌だと言ったであろう。ミランダは早く言われたとおりにせい。そして、シャーラは、それを持ってロウのところに行け。監禁されているミランダを助けたければ、クエストを受けよというのだ。ロウという冒険者も、ミランダがひどい目に遭っていると思えば、危険であっても受けざるを得まい。それで、ミランダを見捨てるということであれば、それならそれでいい。わたしは試したいのだ。ロウがどんな男で、信用するに足りる男なのか、そして、その実力はどんなものなのか」

 

 イザベラは言った。

 シャーラとミランダがそれぞれに眉間に眉を寄せて、不審顔をしている。

 

「シャーラ、よいか──。ロウに与える強制クエストは、わたしの夜這いじゃ。ここまでやって来て、わたしの処女を奪えと伝えて来い。それがミランダ解放の条件だ。ただし、ここは王軍衛兵が警護としている王宮の敷地内。王軍魔道師隊の魔道の警備もある。それを突破して、ここまで来て、わたしを犯してみよ。そう伝えるのだ」

 

「ひ、姫様」

「姫様──」

 

 シャーラとミランダが同時に叫んだ。

 ミランダは、「ギルド長」と呼べといういつもの命令に反して、「姫様」と呼んだが、それは指摘しなかった。

 とにかく、イザベラは、ロウという男を試したかった。

 ミランダを救うために、どういう行動をとるのか?

 さすがに、王宮侵入などという大それたことは躊躇するか──?

 それとも、無謀と知って挑戦してくるか……?

 いずれにしても、ロウが衛兵か魔道士隊に捕らわれたとしても、イザベラが手を回して、すぐに解放してやるつもりだ。

 無論、そのための条件は、ロウがイザベラの家来となって仕えることになるだろう。

 

 まあそれは、ロウの行動が、イザベラの信頼を獲得するための十分なものであった場合の話になるであろうが……。

 やはり、家人にするには足らないと判断した場合や、ロウがそもそもミランダを見捨てて行動を起こさないなら、それはそれでいい。

 ギルドとして有望な人材であるようなので、これからも一介の冒険者として働いてもらいたいと思っている。

 

 そして、もしも、ロウがイザベラの期待以上であり、王宮の敷地内にいるイザベラの夜這いに成功するようなことがあれば……。

 その場合は、イザベラの方から願ってでも、ロウをものにする。

 それがイザベラの処女を渡すことなのであれば、こんなに安い買い物はないということだ。

 

「……とにかく、早く服を脱がんか、ミランダ。それとも、魔道で無理矢理に脱がされたいか?」

 

 イザベラは懐から魔道の杖を取り出して、ミランダにそれを向けた。

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