【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
暗い屋敷だとボニーは思った。
壮麗ではあるが、入ると暗いという印象だ。
暗いのは灯りではない。
この屋敷の持つ雰囲気そのものだ。
ハロンドール王国の王都ハロルドにあるキシダイン邸である。
ボニーは、任務を果たすためにハロルドに入ったならば、まずは、キシダインを訪ねるように「命令」されていた。
キシダインは、ハロルド公とも称されるハロンドール王国の次期国王候補のひとりであり、アスカと昵懇の間柄だと説明を受けている。
だから、王都ハロルドで任務を果たすのであれば、必ず顔を出して挨拶をするように指示されていた。
それで来たのだ。
実際のところ、キシダインとアスカがどんな関係なのかは知らない。
そもそも、キシダイン邸を訪ねるように指示したのは、アスカ本人ではなく、従者のパリスだ。
ボニーとしては、そんな見知らぬ大貴族など接触したくないし、屋敷など訪問もしたくないのだが、ボニーたちがキシダインを訪問することは、パリスから受けた「命令」に含まれているので、訪問をしないという行動をボニーがとるのは不可能なのだ。
「奴隷の首輪」の影響により「命令」には逆らえないボニーは、国都に入るや否や、最初にキシダイン邸を訪ねるしかなかった。
それにしても……。
あのクライドには腹がたつ。
この刺客組のリーダーのはずだったボニーを強姦したうえに、血だらけの死骸のある山中にボニーを放置し、ついでに路銀や食料の一切一切合財を持って行ったのだ。
しかも、ボニーを半裸で樹木に縛りつけてだ。
血の匂いに誘われてやって来た野獣に食われることだけは免れたが、その代わりに山賊に襲われた。
だが、襲ったのが山賊でよかったとは思う。
山賊相手であれば、ボニーの持つ「魅了の術」は効果がある。
だが、知性の低い野獣では、さすがに術で操ることが不可能だったはずだ。
とにかく、おかげで、山賊の頭領を「魅了」で操ることに成功し、連中の隠れ家で路銀と食料を手に入れることができた。
そして、時間はかかったが、やっとここまでやって来たのだ。
一方で、家族を皆殺しにした童女を連れていったクライドがどうなったのかはわからない。
ボニーも王都に進みながら、クライドの行方を追ったが、結局わからなかった。
その手段は不明だが、クライドには「奴隷の首輪」という支配魔道具は、実は最初から通用していなかったようだ。
だから、ボニーとは異なり、クライドは自由意思を持って行動できるので、必ずしも「命令」に従って、イチとエルスラを処分しにやってくる必要はない。
おそらく、クライドは、そのまま逃亡したのだと思う。
もしも、自分が、アスカの「奴隷の首輪」から解放されたなら、ボニーならそうする。
誰が、好きこのんで人殺しを強制させられるような人生を送りたいだろうか。
ただ、あの男の考えることは、まったくわからない。
ボニーとは異なり、人殺しを愉しんでいるようなところがあるし、だから、いままで首輪によって命令に逆らえないふりをして、暗殺業をやっていたようだ。もしかしたら、こっちに向かっているのかもしれない。
いずれにしても、このキシダイン邸にはやって来てはいないようだ。
さっき、家人に訊ねたが、それらしい人物の訪問はなかったようだ。
「ここでお待ちください」
キシダインの屋敷の執事が言った。
客人を接待するための屋敷の応接室だ。
椅子はあったが、ボニーは座らずに待っていた。
この屋敷に入るのも、客人として案内されるのも、難しい仕事ではなかった。
ボニーの「魅了の術」は、視線の合った目の前の人物を一時的に支配してしまう「操心術」だ。
首の首輪こそ、布を巻いて隠しているが、汚れた布のマントを身体に覆ってやって来たボニーをこの屋敷の衛兵は、すぐに追い返そうとした。
だが、すぐに衛兵を魅了の術で操り、屋敷内に案内させた。
屋敷に到着したら、召使いを操り、次に執事を操った。
そうやってやって来たのだ。
やがて、キシダインがボニーを案内した執事とともに、部屋に入ってきた。
顔を見るのは初めてだが、すぐにキシダインだとわかった。
ハロルド公ことキシダイン公爵──。
この国の王太子候補のひとりのはずだ。
年齢は、そろそろ三十の半ばの壮年。
ほりの深いなかなかの色男だ。
だが、なんとなく小狡さが顔に滲み出ている印象があった。
好きにはなれない男だなとボニーは思った。
「客人とは、こいつか?」
キシダインは呆気にとられた表情になった。
当然だろう。
屋敷の「離れ」にいるという主人のキシダインを、執事は「緊急」の知らせで、こっちに呼んだはずだ。
もちろん、それはボニーの魅了術のなせることなのだが、急いでやって来た様子のキシダインは、みすぼらしい恰好の女がひとりで待っているだけの現状に、驚いたはずだ。
しかも、ボニーは、まだ身体に巻いたマントも脱いでいない。
「さようです、閣下。それでは」
ボニーの術にかかっている執事が、キシダインをたったひとり残して出ていく。
キシダインは呆気に取られている。
ふたりきりになったところで、ボニーはマントを脱いで拝礼をした。
「待て、その首の布を取ってみよ」
頭をさげているあいだに、訝しむような口調のキシダインの声が降ってきた。
ボニーは、首輪を隠していた布を外して顔をあげた。
キシダインは手に魔道の杖を構えている。
ただ、得たいの知れない女とふたりきりになっても、臆する感じはない。
魔道にはそれなりに自信を持っているのだろう。
「奴隷?」
キシダインの顔に怒りのようなものが浮かび、眉間に皺が寄ったのがわかった。
だが、すぐにぴくりと眉を動かした。
「もしかして、西からやって来たか?」
キシダインが言った。
“西”と呼んだのは、ローム帝国領と呼ばれる地域のことだろう。このハロンドール王国からは西側にある。
アスカ城は、そのローム帝国領のさらに先だ。
もっとも、ローム帝国というのは衰退し、いまでは、タリオ、デセオ、カロリックという三公国に事実上分裂している。
アスカ城は、その三公国には属さずに、アスカの治める独立領の地位を保持している城塞だ。
どうやら、キシダインには、ボニーとクライドのことが耳に入っていたようだ。
アスカとキシダインが、なんらかの方法で結びついているのは本当だと思った。
「ボニーと申します。密命を帯びてまいりました」
ボニーは言った。
「密命?」
「裏切り者の処断です。これまで人の海に隠れて行方がわかりませんでしたが、最近になり、この王都ハロルドに潜伏しているのが知れたので、あたしが送られたのです」
「ふん、刺客か」
キシダインは鼻を鳴らした。
「……ふん、まあ、本来であれば、奴隷の相手などはせんのだがな、多くの傑人を奴隷の首輪で支配しているというアスカ城のことは耳にしている。それに、お前たちに協力してくれというのは、パリス殿からも連絡を受けている。裏切り者の処断とはいったが、事前に知らされていたところでは、それに先だって、そのふたりをこの王都で誰かを探すということだったな……。だが、人探しなど、私に頼まれても困るぞ」
キシダインは椅子に腰をおろして脚を組んだ。
ボニーのことを胡散臭そうに視線を向けている。
だが、同時に立ったままのボニーの脚にじろじろとぶしつけに見ているのもわかった。
その好色そうな視線が気色悪かった。
それにしても……。
いま、キシダインは“パリス殿から聞いている”という物言いをした。
あのアスカの従者が、このキシダインとやり取りをするような大きな役割を持っていたとは意外だ。
しかも、“パリス殿”?
あのパリスは、ハロンドール王国の次期国王になるかもしれない男から、“殿”をつけて呼ばれるような立場の存在なのか?
ただの少年従者だと思っていたが……。
「……この王都ハロルドは移民の城郭でもある。人探しという仕事で、私が協力できるとは思えんな」
「探すのはこの城郭の冒険者ギルドに属する者です。ひとりはイチといい黒髪をした人間族。もうひとりはエルスラ、黄金色の髪をした美貌のエルフ女です。名は変えているかもしれません」
「冒険者だと? ならば、冒険者ギルドに行って訊ねるがいい。冒険者ならギルドに出入りをするだろう」
「あたしは奴隷です。奴隷の身分では、ひとりでは冒険者にはなれないし、入れないんです。また、実は、あたし自身は、そのイチとエルスラの顔を知らなくて……。それと、とにかく、キシダイン様に会えというのが、事前に刻まれた命令で……」
ボニーは言った。
色々と喋りはしたが、まあ、キシダインに話すことじゃないし、キシダインもそう思ってるだろう。
そもそも、なんでキシダインなのだろう?
ここには、「命令」で仕方なくやって来たのだが、キシダインの言い草じゃないが、ボニーだって、なんでここに寄るように言われたのか不明だ。
アスカの手の者がこのハロルドで仕事をするにあたっての挨拶のような意味合いなのだろうか?
どうやら、裏で結びついていたようだし……。
だから、多分、これで目的は果たしたのだろう。
「……いずれにしても、イチとエルスラの行方については、こちらで探します。それでは、こちらで仕事をするということだけをお伝えしました」
ボニーは一礼をして立ち去ろうとした。
「……まあ、待て、ボニーとやら……。そんなに急くことはあるまい。座るがいい」
キシダインがにやりと笑った、
なんとなく、その笑みに卑猥なものがあるような気がしたが、断るわけにもいかず、ボニーは向かい合う長椅子に腰かけた。
キシダインが横の香炉にぱらぱらと粉を巻いた。
つんとする刺激臭が漂ってくる。
「……それにしても、お前たちはふたりだと知らされていたがな。もうひとりはどうしたのだ?」
キシダインが言った。
「はぐれました」
クライドのことは考えるだけで腹が立つ。
説明する気にもなれない。
「そうか。まあいい。むしろ都合がいいか……。ところで、実は、お前たちがここにやってくると知らされて、こちらからパリス殿に頼んで送らせたものがある。魔道の伝声球だ。まずは、これを聞くがいい」
そのとき、キシダインがなにか魔道具の皮袋のようなものを出し、さらにそこから、魔道で手のひらに載るほどの半球体の白い物体を出現させた。
伝声球だ。
魔道の力で声を封じて送るものであり、元の世界におけるボイスレコーダーのようなものだ。
それはいいが、キシダインの顔に、なんとなく淫靡な色があるようで気味が悪い。
さっきまで、まだ控えめだったボニーの脚を見る視線がかなり露骨になった。
ボニーは動きやすい短いスカートをはいていた。
なんとなく、それを悔いた。
伝声球が割れた。
『ボニー、クライド、キシダイン殿の命令には絶対服従。逃げるな。殺すな。傷つけるな……。命令だ』
球体が弾けて、パリスの声が部屋に響いた。
「あっ……」
ボニーは小さな声をあげてしまった。
別にどうということはないが、パリスが“命令”という言葉を使ったために、さっきの言葉が、首輪に刻まれてしまったのだ。
ボニーの奴隷としての主人は、アスカだが、今回の任務にあたり、パリスに従えと命令を受けている。
だから、パリスの言葉が、命令としても有効になるのだ。
しかし、いまの言葉でボニーは、キシダインの奴隷になったということだ。
アスカにより、パリスの奴隷になるように命令され、今度はキシダインか……。
だが、ふと思った。
もしかしたら、これで、うまく立ち回れば、逃げることも可能なんじゃないだろうか……。
こいつに気に入られて、アスカ城に帰るなと命令されれば、刻まれているパリスの命令は無効だ。いまの命令は、ある意味、キシダインへのボニーの身柄の譲渡指示に等しい。
でも、どうやったら、このキシダインを取り込めるだろう?
うまく命令してもらって、パリスやアスカからの暗示を消してもらえたら……。
「さて、では、わが屋敷にやって来たのだ。ちょっとくらい遊んでいくがいい。そろそろ、香炉の媚薬も効いてきたのではないか? この煙は男には効果はないが、女には強い媚薬として作用してしまうのだ。さあ、それそろ熟れてきただろう? ここで素っ裸になるがいい、ボニー……。命令だ」
キシダインがくすくすと笑いながら言った。
「えっ?」
ボニーはびっくりして声をあげた。
だか、「命令」に従い、ボニーの両手が勝手に動き出した。
しかも、キシダインの言うとおり、この刺激臭は、強い微香のようだ。
股間がただれるように熱くなっているのを自覚した。
そして、ボニーは思わず、笑ってしまった。
*
ボニーが身に着けているものを脱ぎながら、けらけらと笑いだした。
キシダインは少し呆気にとられた。
「なぜ、笑う?」
キシダインは言った。
そのあいだも少しずつ露わになるボニーの肢体に目を奪われていた。パリスからハロルドに送り込む刺客について知らされたとき、男はろくでなしだが、女は刺客にしておくには惜しいような女だと教えられていた。
だから、最初から少しだけだが興味があった。
上着とスカートを脱いで下着姿になったボニーは、素晴らしい官能的な魅力を放っていた。パリスによれば、色っぽい女ながら、何十人もの男女を殺している凄腕の刺客だということだ。
そんな女を一度抱いてみたいというのは、キシダインの男としての本能的な欲望だ。
だが、服を脱げと言ったのは、破廉恥な欲求ばかりだけではない。
脱衣を命じたのは、ボニーに刻んだ「キシダインに服従」という命令が効いているかどうかを確認するためだ。
魔道通信でパリスと話した限りにおいては、このボニーの首輪に刻まれている「主人」は、アスカという召喚術を駆使する女であり、ここに送り込むにあたって、「パリスに服従せよ」という命令を刻んでから、必要な指示を与えたという。
そういう「奴隷」に、さらに魔道で送らせたパリスの言葉を追加できるのかどうかを確認する必要があった。
それを調べるのは、女であれば絶対に服従できないような「命令」を与えるのが手っ取り早い。
女刺客を抱いてみようというのは、そのついでのようなものだ。
それに、予想以上にいい女だった。
だから、ちょっと摘まんでみようかと思ったのだ。
「それは笑うでしょう。公爵様ともあろうものが、こんな罠のようなものを準備してまで、このあたしのような女をお抱きになりたいのですか? ただの奴隷女ですよ。もちろん、お望みなのであれば、お相手くらいさせていただきますけどね」
ボニーが笑いながら、最後に残っていた下着を腰を浮かせて足首から抜き去った。
黒々とした股間の茂みが露わになる。
あっさりと服を脱いだところを見れば、どうやらキシダインの命令に服従するという言葉は、うまく首輪に刻まれたようだ。
キシダインは安心した。
「まあ、使う女はまずは犯してから、言いなりにするというのが俺の信条でな」
キシダインはうそぶいた。
「女は犯したくらいでは、言いなりにはなりませんよ。そんなのは男の幻想でしょう」
ボニーは大胆にも片脚だけを椅子に乗せて、大きく股を拡げる姿勢になった。
キシダインは、その魅惑的な肢体にどきりとした。
ボニーの股間は、キシダインが部屋に充満させた微香の影響で、すっかりと濡れていた。全身も赤くなり、薄っすらと汗をかいている。
ボニーが微香に追い詰められているのは間違いない。だが、そんな女が挑戦的に強がる態度をとり、キシダインに逆に迫るというのは、キシダインには意外なことだった。
そして、興奮した。
悪くない。アンのような弱々しい女は興醒めだが、この女のような強い女はいい。そういう女を屈服させるのが欲情するのだ。
これは、思った以上にいい女だな。
キシダインは改めて思った。
「それにしても、なかなかに刺客としての腕はいいのだろうな。この屋敷にあっさりと入り込んだということひとつで、忍びの腕が確かだということはわかる。操心術を遣うということだったな。その技も改めて確認したい……。ところで、手枷で自分の腕を背中で拘束しろ……。命令だ」
キシダインは一度立ちあがって、棚に置いてある箱から一組の手錠を放った。金属の輪っかの部分が開いていて閉じると自動的に施錠されるようになっているものだ。ただし、一度施錠がかかると、今度はいまキシダインが持っている鍵がなければ外れない。
「さっきも言いましたけど、そんなことをしなくても、公爵様に抱いてもらえるのは光栄だと思っています……。できれば、このまま、あたしを飼ってもらえませんか? キシダイン様に尽くしますので……。いまの魔道球で、あたしはキシダイン様に譲られたも同じですよね?」
ボニーは苦笑しながら、自分に投げられた手錠を受け取ると、片手にかけてから、両手を背中に回して、反対側の手首にかけた。そのあいだも大きく開いた股はそのままだ。
それはともかく、ボニーの言うことは確かだ。
パリスからは、便宜をはかれと言われたので、だったら奴隷への支配権を寄越せと話して、さっきの魔道球の「声」を送らせたが、確かに、キシダインの命令に完全に従うようになったのは、いま確認した。だったら返す必要もないか……。
まあ、役に立つのならのことだが……。
「女を拘束して抱くのは俺の趣味だ。まずは、男と女として交わろうではないか……。それから、仕事の話をしたい。別の仕事だ。もちろん、お前たちが命じられている裏切り者の始末とやらを終わらせてからでもいい。しかし、そのあと、もうひとつ仕事を受けてもらう……。だが、その仕事が終われば、ここで暮らさせてもいいぞ。破格の扱いもしてやる。正式に俺の部下にしてやろう」
「本当ですか?」
ボニーは眉をひそめた。
「まあ、本当に凄腕なのかどうかを確認してからになると思うがな。お前の刺客の能力を見る機会を別に作る。そのときに、一度力を披露してくれ……。とにかく、仕事の話は、一汗かいてからにするか。この部屋に焚き詰めた香は、女にとってはかなりの強力なものだ。もう堪らんはずだ」
キシダインは、手錠の鍵を卓に置き、ボニーの前に移動して、上着を脱いだ。さらに内衣のボタンを外していく。
「……確かに、身体が疼いて堪らないですね……。意地の悪い公爵様です……。ところで、力を示せばよろしいんですか?」
ボニーが微笑んだ。
そして、キシダインの顔を覗き込むような仕草をした。
キシダインは思わず、その目に魅入られた……。
すると、急に目の前が真っ白になった。
「……いかがですか、公爵閣下?」
ボニーの愉しそうな声がした。
はっとした。
よくわからないが、不意に気を失っていたような気持ちだ。
ところで、ボニーは目の前の椅子に座っている。
だが、片脚だけを椅子にあげて大股を開いている大胆なポーズはやめ、いまは椅子の上で胡坐にしている。
いつの間に?
キシダインは、ボニーが姿勢を変化させたことに気がつかなかった。
じっと視線を合わせていたはずだが……。
さらにキシダインは、さっきボニーが自ら脱いだ服の上に、キシダインが身に着けていたはずの衣類が重ねられていることに気がついた。
それを不思議に思った。
そして、愕然とした。
自分は全裸だ。
履いていた室内用に靴を含めて、一糸まとわぬ姿になっている。
「こ、これは?」
さらに驚愕したのは、両手が背中に回っていて、固いものが手首に嵌まっていることだ。
手錠だ──。
気がつくと、ボニーの両手にはなにもかかっていない。
「ど、どういうことだ? なんで、お前は手錠を外している? しかも、俺にかけられているのは、どういうことだ?」
キシダインは驚愕して怒鳴った。
ボニーが笑いだした。
「どうということはありませんよ。力を見せて欲しいということだったので、示させていただきました。あたしの手錠は、キシダイン閣下が外せとご命令になり、自ら鍵を外していただきましたよ。閣下はそれを自分で嵌めたんですよ。裸になってから」
ボニーがけらけらと笑った。
キシダインは感嘆してしまった。
「まったくわからない。この俺がここまで完璧に魔道にかけられるとは……」
キシダインは息を吐いた。
衣類を重ねている場所に視線を向けると、キシダインの操る魔道の杖もきちんと置いている。
キシダインは用心深い方であり、寝るときでも、身体を洗わせるときでも、絶対に杖は手放さない。
これは特別な杖であり、これがある限り、キシダインは上級魔道遣いに匹敵する力を行使できる。
だが、いまは横に置いている。
これひとつにしても驚いたことだ。
しかも、キシダイン自身、なにも覚えていない。
それにしても、完璧なまでの操心術だ──。
これなら、安心して刺客としての仕事を言い渡せるだろう。
「……素晴らしい。では、俺はお前にある刺客の依頼をしようと思う。報酬は準備している。パリス殿に渡すものとは別にボニー個人にも支払う。望むなら、パリス殿に掛け合って、ここで引き取る。それだけじゃない。将来的には奴隷の首輪を外して自由市民の地位が与えることも考えてやる」
「ほ、本当ですか? あたしの本来の飼い主は本当はアスカ様です。でも、あたしはここで雇ってもらうことを希望します」
ボニーが初めて興奮したような声をあげた。
やはり、奴隷身分の解放というのは、最高の望みらしい。まあ、実際のところ空手形だが、刺客の任務さえ果たしてもらえれば、あとはどうなろうと知ったことではない。
役に立つなら、一生飼い殺してやる。
「問題ない。話もつけてやる……。その代わり、任務は必ず果たせ」
「……それで誰を始末すればいいのですか?」
「……このことは絶対に口外するな……。命令だ」
キシダインは言った。
ボニーは頷いた。
「……殺して欲しいのは、第三王女イザベラだ。刺客の仕業とわからないように処置しろ。その操心術なら、誰かを操って殺させることもできるはずだ。そうすれば、足はつかん」
「王女……? あっ、いえ、わかりました。必ず……。その代わり……」
「わかってる。うまくやれば、自由市民だ……。さて、では仕事の話はここまでだ。ところで、そろそろ、これを外してもらおう」
キシダインは背中にかかっている手錠をがちゃがちゃと鳴らした。
「ふふふ、閣下は、あたしの首輪に命令を刻んでいるんですから、いつでも外せと命令してください……。でも、たまには、こんなのもいいんじゃないですか。実のところ、あたしもそんなに経験の多い方じゃないですけど、昔を思い出して、精一杯ご奉仕しますよ……。嘘でも、奴隷を解放してくれるかもしれないと言ってくれたのは嬉しかったです。ありがとうございます、閣下」
ボニーは長椅子を降りて、立っているキシダインの前に立った。そして、キシダインの股間にすっと手を伸ばす。
「あっ」
ボニーに持ち物をぎゅっと握りしめられる。
そして、優雅な仕草で幹を刺激される。
ボニーの手に擦られる一物は、すぐに勃起した。
「……ご立派。どうぞ、来てください」
ボニーが悪戯っぽく笑って、大きくなった怒張を握ったまま、引っ張っていく。
「お気をつけて歩いてくださいね。お馬さん、こっちこっち……」
ボニーがキシダインの一物を持って、反対の長椅子に導いていく。股間を引っ張られては、後手に拘束されているキシダインはついていくしかない。
「お、おいおい……」
キシダインは苦笑してしまった。
「……さあ、来てください。もう、キシダイン閣下の媚香のせいで限界です……」
長椅子の前にやってくるとボニーは裸身を横たわらせた。そして、その上にキシダインの身体を股間を持ったまま引き寄せる。
ボニーが股を開いた。
そして、両手の使えないキシダインの代わりに、手で亀裂に導く。
「確かに、なかなか愉快な気持ちになるな。自分が拘束されるというのは初めてだが、ちょっと興奮するかもしれん」
「次はあたしが拘束されます。よろしければですが……。その代わりに、奴隷解放についてはお願いします……」
「任せろ」
キシダインの亀頭がボニーの花壺に当てられた。
ボニーの股間はすっかりと濡れている。
前戯は不要だろう。
キシダインは一気に滑り込ませた。
「ううっ」
一瞬、ボニーが顔をしかめた。
淫女のようなふるまいだが、そんなに使い込んでいない股だ。少しきつい。
逆にキシダインは快感を覚えた。
ボニーの熱い粘膜は十分な奥行きと適度な収縮感で気持ちよかった。
律動を開始する。
すぐに、ボニーの口からか細い声が洩れ始めた。
そして、あっという間に、我を忘れたような乱れを示し始めた。
このボニーが素晴らしい操心術の持つ主であり、凄腕の刺客であることはもうわかった。
そのボニーがキシダインに追い詰められて悶えるのを見ると、キシダインの男としての征服欲は満足される。
やがて、ねちゃねちゃという花壺の水音が派手に鳴り始めた。
「ああ……い、いいいっ……」
ボニーが引きつったような声をあげて、腰をくねり始める。
そして、早くも絶頂が迫ってきたのか、にわかに顔を左右に動かし始めた。
「か、閣下、もう、我慢できません。も、もう、いきそうです。あ、ああっ」
ボニーが悲鳴のような高い声をあげる。
キシダインは一度腰を引き、改めて深い角度から思い切りボニーの子宮近くまで怒張を突いた。
「うううっ」
のけぞったボニーは、がくがくと身体を振ってひと際大きな声をあげた。
軽く達したようだ。
キシダインは構わずに、激しくボニーの膣の奥深くまで突き続ける。
絶頂の喜悦に、新しい喜悦が重なったボニーは、こんどは苦悶のような表情を浮かべた。
キシダインは律動の速度を速めた。
ボニーもそれに合わせるように腰を振ってくる。
お互いの動きが頂点に達しようとしているがわかる。
「あふううっ」
ボニーが顎をあげて一度咆哮した。
キシダインはさらに猛然と突きあげた。
引いて突き、さらに突き、もう一度突く。そして、腰を動かして揺さぶる。
また、突く……。
「ああっ、あううう……ああ……ああっ……」
ボニーの声が途切れのない甘い嗚咽に変化する。
一度動かすごとに、ボニーは大きく反応した。
キシダインは猛然と幹を打ち込んだ。
そして、しばらく、ふたりで荒々しくまぐわう。
「んふうううっ」
やがて、ボニーが一段と背を反らせて、大きな声をあげながら白目を剥いた。
キシダインもまた、身体を震わせてどろどろの劣情をボニーの身体の中に注ぎ込む。
束の間、そうやって、ふたりで激しく興奮のまま腰を振っていたが、キシダインは最後の一射を注ぐことで落ち着いてきた。
萎えてきた股間をボニーの腰から抜く。
「あ、ありがとうございます。気持ちよかったですわ。その代わり、奴隷解放の件……」
ボニーが怠そうな身体を起こして、卓の上にある鍵に手を伸ばした。
「わかっておる。その代わりに任務を果たせ」
キシダインはボニーに手錠を外させながら言った。
そのとき、部屋にぽんと通信球が浮かびあがった。
さっき奥の院に執事が送り込んだものと同じだが、これは軍からのものだ。
キシダインはハロルド公として、城郭としての王都の城郭軍の司政官でもある。
そのハロルド公に対する緊急の通信だ。
実際のところ、軍からの緊急通信など初めてだ。
キシダインは怪訝に思った。
ボニーに視線をやる。
この場で通信球を開くことを一瞬躊躇ったのだ。しかし、すぐに開くことにした。
通信球が弾けて、キシダインに対する伝言が部屋に流れる。
『……冒険者ギルドの前でひとりの不審者が暴れております。軍の一部と冒険者を巻き込んでおり、こちらに多くの犠牲者を出しながら、いまだに処置できません。おかしな術を遣う男で、武器も魔道も歯がたたないのです』
「……ひとりの不審者に軍と冒険者がだと?」
キシダインはその内容に首を傾げた。
どういう意味だろう?
「……もしかして、クライド?」
そのとき、ボニーが小さな声をあげた。